フリーターと写本の仲間たちのリリックな日々   作:スピーク

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縛り首になる定めの者が、溺れ死ぬ事はない。



05

 

…………。

 

 

 

 

─────あの……。

 

 

 

 

…………。

 

 

 

 

─────うぅ~、な、なにか言ってくださいっ。

 

 

 

 

いや、何か言ってって言われても。

昨晩に続いて今日もまた夢の中、いつもの如く扉を開ければそこにはいつものガキはおらず、変わりに良く似た大人の女性が一人。

歳は20手前といったところか。

 

……お前、あのガキ?

 

 

 

─────はい!昨日、隼が綺麗なネエチャンなんて言っていたので試してみたんです!名づけてGEモード!大人な私ですよ~♪

 

 

 

 

くるりとその場で回るガキ。いや、ガキじゃないけれど。

服装はそのままに、綺麗な金髪をポニーテールにしてまとめ、その顔はあどけなさや幼さが多少残っているもののそれ以上に可愛らしく綺麗になっている。

 

 

 

 

─────もし……もし私が生き続けて成長したら。それを演算してこの姿を作り出してみました。

 

 

 

 

俺が望んだ綺麗なネエちゃん。

確かに。確かにだ。文句は無い。パーフェクトだ。可愛い。美しいと言ってもいい。

 

………ある一点を除いて。

 

 

 

 

────えへ……私に未来なんてないと分かっていても。こんな事あり得ないと分かっていても。こうやって先を想像するのは、悲しいけれど楽しいですね。隼の言うとおり、今を楽しむのは、怖いけれど楽しいですね。

 

 

 

 

楽しいという言葉とは裏腹に、その顔は寂しさや儚さで一杯のガキ。

そんな彼女に俺は近づき、向き合って肩に手を置いて言う。

 

大丈夫、大丈夫だから。未来は、希望は誰にだってあるんだ。諦めちゃいけない。その姿はただの予想なんだろ?だったら、そんな予想を覆す現実を目指せばいいんだ。

 

 

 

 

─────……無理です。私に未来はいらないんです。私は消えちゃった方がいいんです。

 

 

 

 

こいつと初めて会ったときに言われた気がする言葉。

最初は意味が分からなかった。何故そんな、自分を卑下するような事を言うのか分からなかった。

しかし、ここに来てようやく分かった。こいつの、この姿を見てようやく判明した。

 

ああ、だからあんな事言ったのか。この自分の姿を知っていたからこそ、あんな事をいったのか。

だが、しかし。

俺は敢えて言わせて貰う。

 

希望は、あるんだ!

 

 

 

 

─────はや、ぶさ……わ、私は……

 

 

 

 

貧乳がなんだってんだ!!

 

 

 

 

─────……ひん、にゅう??

 

 

 

 

いや、もうそれは貧どころか無だ!マジで無!9歳児のフェイトや、ともすればアリシアより絶無!ああ、確かにそんな未来は女的には絶望だろうさ!だからって希望は捨てちゃなんねー!演算、想像、予想、そんなもん覆してやれ!成長はするんだと証明してやれ!

 

 

 

 

─────…………。

 

 

 

 

もし仮にそのまま無乳だったとしてもだ、それにだってきちんと需要があるはずだ!マジサイコーとか言ってくれる男が現れるはずだ!顔と性格が良ければそれでいいと言ってくれる奴が現れるはずだ!

 

だから、無乳に絶望するな!

 

もう一度言う───希望はあるんだ!!

 

 

 

 

─────………隼のぉ~

 

 

 

 

まっ、俺は顔、性格、体つき、財力、その全て持ってなくちゃ嫌だけどな。てか、その姿って20歳前後くらい?それでその乳の無さって、軽く奇跡だろ。トップとアンダーの差が全然ねーじゃん。ゼロじゃん。綺麗にすとーん。ああ、それだったらやっぱ需要あるな。ロリババアならぬロリバスト。

 

よっ、奇跡の無乳!

 

 

 

 

─────バカぁぁぁああああ!!!

 

 

 

 

ぐべあ!?!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

05

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パチリ、と目を開いた。視界一杯に映ったのは、ビルが両端から夜空を支えているような光景。首を横に傾けてみれば、地面からビルが横方向に伸びている。

つまり、そう、俺は今大の字になって道路に寝転んでいるという事だ。

何で俺は道路の真ん中で寝てんだ?また飲みすぎたか?

そんな事を思いながら、もう一度頭を夜空の見える位置に戻した。

視界に映ったのは予想に反して夜空ではなく────────理が俺の顔面に向かってデバイスを突き刺そうとしている光景だった。

 

(ぬぅおおおおおおおおおおおい!?!?)

 

訳が分からず、と言ってもそのまま受ける訳もなく、俺は横に身体ごとゴロゴロと転がって、その凶悪無慈悲な一撃を回避。

 

「ちっ、まだ気を絶ってなかったのですね。嬲り殺し甲斐があるとは言え、いくら何でも頑丈が過ぎるのでは?」

 

今の一撃で道路に20cmくらい埋まったルシフェリオンをずぼっと引き抜きながら、溜息を漏らす悪逆幼女・理。

 

(あ、あっぶねえええ。マジで後数秒起きるのが遅かったらザクロっちまうところだった!)

 

いつの間にか俺は気絶してたみてぇだ。

この俺が気絶するたぁプレシアとの初喧嘩以来だが、それも今自分の状態を見れば情けないが納得するしかない。

もう俺ボロボロよ。

辛うじて顔を隠しているフードは死守しているが、そこ以外の箇所はひでぇのなんのって。レイプされたかのように服が何箇所も裂かれてる。形はジャージだけど、これ一応は騎士甲冑よ?それをたった10分足らずでここまでするかよ。それに頭から流血、鼻血はダクダク。

 

(まあ、それでもこいつ一人だけを相手する事になった事だけは幸運だったけどな)

 

あの絶望の3強がお目見えした時は、俺もマジで死を覚悟した。ただそのすぐ後、プレシアと夜天はフランや騎士の方へ矛先を変えてくれたのだ。

 

『私の可愛い娘に現在進行形で攻撃してる馬鹿がいるようね。理、そのフードは取り合えずあなたに任せるわ。半分死滅させた後、家に招待しなさい』

 

そう言い残し、夜天を連れ立って他を殲滅しに行ってくれた時は奇跡というものを初めて実感した。多分、向こう5年分くらいの運を使っただろうけど構わない。

 

(それでもコイツ一人でも十分凶悪だけどな)

 

相変わらず理は出鱈目に強ェなあ。喧嘩なら兎も角、純粋な魔導師戦なら手も足も出ない。

 

(けど、俺の方が強ェし!)

 

意地と根性と男気を持って、ボロボロの体で立ち上がる。

こんなクソガキにいつまでも見下されてたまるかってんだ。

 

(一回ぶっ殺して教育し直してやる!)

 

確かに俺よりこいつの方が強ぇだろうさ。魔力も高ェだろうさ。戦闘も比べるまでもなく巧い。

けど、それでも強いのは俺だ!だから勝つのは俺だ!

 

「ほう、立ちますか。心胆と耐久力だけは人並み以上にあるようですね。そして無様で、滑稽で、見苦しく………しかし雄雄しく強き心をお持ちのようで。まるで誰かのようですね」

 

くるくるとる頭上でルシフェリオンを回し、4~5回転の後に腰だめに構え、先端をこちらに向けた。その先端に見る見る内に紅蓮の輝きを発する魔力が収束していく。

 

「しかし、それが気に入りません。そういう生き方をして魅力となるのは我が主のみ。そこいらの雑兵には過ぎた生き方です。よって、これで清く消し飛びなさい」

 

相変わらずの無表情で、見事なまでに物騒な事をほざく理。

このままでは、きっと数秒後にはその言葉通り俺の体は消し飛ぶだろう。常日頃から『非殺傷設定』という言葉を鼻で笑うような奴だから、当然今回もガチで殺傷する気満々だろうしよ。

対して、俺は砲撃魔法なんてほぼ出来ない。夜天から習った『ラグナロク』も、理のブラストファイアーにさえ撃ち勝てる自信がねぇ。

 

だから、俺の取る行動は一つ。

 

「………なんですか、その『やれやれ』とでも言いたげな反応は。それもアメリカ人並みのオーバーリアクション」

 

追加して、俺は両の拳を何度かゴツンゴツンとぶつけ、片手を理に向けてチョイチョイと挑発。

 

「なるほど、つまり魔法では敵わないと悟り、だから『肉弾戦で来いよ』と?」

 

そゆこと。

ホントは最初からこうやって挑発したかったんだが、理の奴、問答無用で魔法ぶっ放し始めやがったからな。接近戦に持ち込む隙なんてまるでなかったし。

 

「魔導師のクセして拳での接近戦を希望するとは、馬鹿なのか自信があるのか。そもそも、私のようなか弱い少女を殴ろうとするなんて、いい大人のする事ではないですね」

 

ぷっ、か弱いだって。ぷぷぷっ、か弱いだって!理がか弱いだって!か~よ~わ~い~!!

超ウケる!

 

「あ、今なんかカチ~ンと来ました。いいでしょう、受けて立ちましょう」

 

気持ち怒り顔になった理はルシフェリオンを待機状態にし、コキコキと首を鳴らした。

 

「肉弾戦なら御せるとでも考えたのでしょうが、それは無思慮であった事を思い知らせてあげましょう。生まれる前ならいざ知らず、ここ半年で週の喧嘩アベレージが5を超えるこの私。勝てるのはキレた夜天のみです」

 

上等上等。その勇ましさや良し!

ンじゃ、こっからは戦闘じゃなく喧嘩だ!つまり俺タ~イム!…………と、言いたいところだが。

 

そう簡単にゃあいかねーもんだった。

 

「しッ!」

(げべっ!?ぎ、ッッのヤロウ!死ねぇぇぇぇえええ!)

「ぐッ!?ッッまだです!」

 

喧嘩ってか、泥仕合?

殴ったら殴り返され、殴られたら殴り返す。蹴りもまた同様。

技術もなにもあったもんじゃない、まるで獣同士の気合と根性の喧嘩だった。

 

「「フーッ、フーッ、フーッ………」」

 

お互いの右ストレートがお互いの左頬に突き刺さり、踏鞴を踏んで後退、そこで肩で息をしながら理の様子を窺う。

 

(ちっ、流石にもう喧嘩慣れしてやがってんな)

 

理も肩で生きをして見るからに疲れているが、実際のところ俺のほうが被害が大きい。なにせ向こうは本職が騎士だかんな、技術とかでどうしてもその差が出ちまう。最初の魔法での被害差も大きい。

それでも勝つのはどう考えても俺だけど。

 

「ふぅ、主以外にこうも出鱈目な魔導師がいるとは思いもしませんでしたよ。まさか頭突き、噛み付き、目潰しを平気で子供に見舞うとは」

 

そりゃお互い様だ。騎士甲冑を食い破るとか、どんな顎してんだよ。

 

しかし、このまんまじゃちょっと不味ぃな。決着がつかん。

俺は理だけを相手してるが、フランたちはフェイトにライトにアルフ、そしてボス2人が相手だからな。まだ向こうの方からドンパチやってる音が聞こえるってぇことは、最低でも生きてはいるだろうが、それは時間の問題以外の何物でもない。

 

(どうすっかな~。やっぱ俺だってバラして、こいつらのヤンチャを止めさすか?いや、もうそりゃ手遅れだな。どうせ殺されるなら、抗えるだけ抗いたいし)

 

しかし、どうにかしてこの場を乗り切らにゃあ、俺らは鈴木家とテスタロッサ家の合同軍に全殺しにされちまう。そりゃいけねぇ。俺ははやてを助けてやって満足感に浸るという願いがあるんだ!

 

(勝つ!勝って、生きて、脱童貞!!)

「ピリピリとした空気が身に当たる…………ここに来てさらに気概が増しますか。いいでしょう、私も滾ってきました」

 

拳を握り込み、眼前のロリを睨み付ける。フードの向こう側では、理もまた同じように俺を睨み付けていた。

 

「逝きなさい!」

(死ね!)

 

一歩、踏み出した。─────────のと同時に、桜色の光がまるで昇竜のように夜空へ高々と翔け昇り、プレシアご自慢の結界を薄氷を割るが如く砕いたのが見えた。そりゃもう見事な轟音を響かせながら、これでもかってくらいのトンデモ光景だ。

 

(……………なんスか、ありゃ)

 

いや、いやいやいや………は?ここに来てさらに展開すんの?

もう訳分かんねーよ。あー、アレですか?もう終わりですよってか?幕ですよってやつ?じゃあ取り合えず拍手しとこ。ぱちぱちぱち。

 

(ンな訳あっか!マジかよ、結界壊れたって事ァ管理局の奴らに気づかれんじゃん!?ふざけんなよ、まだ喧嘩の途中なのに!)

 

確かによ、さっさと喧嘩終わらせてフランたちと一時トンズラこきたかったさ。けど、こりゃねーぜ。こんな中途半端な喧嘩の終わりってねーだろ。消化不良もいいとこだ。

 

クソ、誰だよ、あんな化け物みたいな魔法撃った奴は!

 

「あれは、私のブレイカーとほぼ同出力の砲撃、そしてあの魔力光………オリジナルですね」

 

オリジナルって、嘘、アレってなのはが撃ったのかよ?あいつの砲撃魔法、何回か見た事あるけどそん時ぁあそこまでじゃなかったぜ?

つまりあれが全力全開ってことか。怖ぇー。

 

「やってくれますね。これで局が来るのも時間の問題……………少々物足りませんが、今回はお開きですね」

 

………ちっ、まあこればっかりはしゃあねーか。鈴木家もテスタロッサ家も叩けばゴミ屑しか出て来ない家族だからな。局に捕まったら何されるか分かったもんじゃねーし。

けど、ちょっと意外だ。理の事だから、管理局とか関係なく、むしろ全殺しするくらいの勢いで喧嘩を続けると思ったんだけど。

まあ、かく言う俺も以前の俺だったら気にせず続けただろうけどよ。けど、今は無理。なにせ色々と背負っちまってるからな。特にアリシアとフェイトとリニスちゃんとアルフが御用される姿なんて見たくもねぇ。

 

(まあ、なんにせよ、これで一時休戦。流石のプレシアや夜天も局が出張ってくれば冷静になるだろ。あいつらは家族を大切に思ってっしな。いくらキレてても、退き所は弁えてるはずだ)

 

つうわけで、俺も華麗にトンズラさせて貰おう。ところでアイツら全員生きてっかなぁ。ヴィータは半分くらいは死んだだろうな。オリジナルのヴィータは、ちょっとだけガキらしいから嫌いじゃねーんだよなぁ。帰ったら慰労してやるか。

 

(ンじゃ、さっさと帰────────あれ?)

 

今まさに飛び立とうと踵を返そうとし、なぜかそれが出来ないことに気づいた。

てか、四肢が動かない事に気づいた。そして、その四肢にいつの間にか赤色の輪が付いてる事に気づいた。

 

(おっかしいな、俺こんなアクセしてたっけ?)

 

って、これバインドじゃん!?

 

「なに平然と帰ろうとしているのですか?確かに喧嘩をお開きにはしましたが、誰もあなたの事を逃がすとは言っていませんよ」

(やってくれるぜ、このクソロリ!!)

 

体を揺すってみるが、当然の如く抜け出せない。バインドがその空間そのものを固定して展開しているので、そのバインドに手足固定されちゃあどうやっても無理。そして勿論バインドの破壊も俺にゃあ無理。

 

「さて、では縛り上げて連れて帰りますか。あ、と、その前にしぶとく隠し続けているお顔を拝見させて頂きましょう」

 

理が近づき、ゆっくりとフードに手を伸ばしてくる。それに何とか対抗しようと頭を揺すったが、次の瞬間、理から容赦ないボディブローをもらうハメになる。

 

(ごほっ……このガキャあ!)

「大人しくなさい」

 

敵には本当に容赦のないガキだ。いつか絶対ェ泣かす!

 

(………ちっ)

 

俺は半ば諦め、体の力を抜いた。もうどうにでもなれってやつだ。この後の展開も知った事か。考えんのも面倒臭ェ。

まっ、今は俺だと知った時のコイツの驚きの顔、そして主を容赦なくボコッてしまった罪悪感に塗れた顔を見られる事だけを楽しもう。…………罪悪感はねーだろうけど。

 

「では、改めて」

 

理がフードに手を掛ける……が、それはすぐさま離される事となった。

 

「っ!」

 

僅かだが息を呑む音が聞こえたと思ったら、次の瞬間には視界から理の姿が消えた。そして、その代わりとばかりに目の前には仮面をつけた一人の男が佇んでいた。さらにその男は俺を拘束しているバインドまで解除してくれたのだった。

 

「………仲間ですか?」

 

突然消えたと思っていた理の声が、前方約10mの離れた所から聞こえる。腕を胸の前で交差させ、さらに肩ひざを地面についている理の姿は、どう見ても『攻撃は防御したけど吹っ飛ばされました』みたいな感じだ。

 

(………いや、だから何よこの展開)

 

いきなり現れた仮面の男。勿論、俺はこんな変態仮面男なんて知り合いにはいない。いてほしくない。

が、そんな変態仮面は何故か俺を助けた…………で、いいんだよな?俺、助けられたんだよな?てか、誰よ?そもそも何で仮面?

 

そんな絶賛混乱中の俺を余所に、理がルシフェリオンを出して男に向けて構える。まあ、どう考えてもその射線上には俺も入るので、むしろ『二人に向けて』が正確なんだろうけど。

 

「いきなり乱入してきたということは、つまり殺されたいという解釈でよろしいのですね?しかも仮面なんてつけて、俺カッコイイとでも思ってる痛々しい中二の男子ですか?」

 

理の挑発的な毒舌もどこ吹く風で、仮面の男はただ一言。

 

「─────去れ」

「ええ、去りますよ。そっちの男を連れて」

「………………」

 

男は無言で俺の前に立った。それはまるで理から俺を守るように。

 

理と男がジッと睨み合い、それが十秒くらい続いたかと思うと、唐突に理がデバイスを消して溜息を一つ。

先に折れたのは、意外にも理だった。

 

「限界ですね。これ以上ここに留まれば局に捕まってしまう。私一人ならいざ知らず、そっちの男を抱えて連れ去るのは無理でしょうから。いっそ見境なく殺し尽くしたい所ではありますが、さすがに多勢に無勢。こんな事になるなら、他の騎士も連れて来るべきでしたか。魔法世界の方に捜索に行かせたのは間違いでしたね」

 

そう言って理は浮かび上がり、俺たちに背を向けて飛び立とうとして、最後に思い出したかのように一言。

 

「次は総戦力で最初から全力で殺しに行きますので、覚悟しておいて下さい」

 

負け犬の遠吠えなんて可愛らしいもんじゃない、悪魔の死刑宣告を言い放ち、理はビルの合間を縫う様に身を隠しながら飛び去って行った。

そして、この場に残るは変態仮面と俺。

 

(なんなんだよ、コイツは)

 

訳が分からなかった。この男も、この展開の移り変わりの早さも。まるでついていけない。現実はどれだけ忙しいんだ。

まあ、今はついて行ける範囲で、分かった事とやらなければいけない事を実行しよう。もう考えんのメンドーだし。

 

…………つう訳で、まあ取り合えず目の前の男の後頭部を思いっきり蹴っ飛ばしてみました。

 

「っ!?な、何をする!」

「うるっせぇんだよボケ。てめぇ、よくも人の喧嘩邪魔してくれやがったなコラ」

「な、は?」

 

仮面をつけてるとは言え、雰囲気からこの男が呆気に取られてるのが分かる。

 

「あそこで油断させといて頭突き喰らわしてやろうと思ってたのによォ。なのに、得意顔で『助けてやったぜ』とでも言いたいのか?恩着せがましいんだよカス。そもそも、俺を助けるなんて100万年早ェんだよ、この身の程知らずがァ」

「───────」

「しかも、てめぇ、うちのモンを攻撃しくさりやがったな?アイツを傷物にしていいのは俺だけなんだよ。分かったかアホんだら。それとも死ななきゃ分かんねーか?だったら丁度いい、今すぐ殺してやんぜ。消化不良だしよォ。おら、掛かって来いや」

「───────」

「聞いてんのか、ああん?返事しろやオイ。死にてぇのか、ぶっ殺されてぇのか、どっちだっつってんだよ」

 

呆けている男の襟首を片手で掴み上げ、仮面にデコをぶつけ、至近距離でガンつけた。

今が差し迫った状況だってのは分かってる。管理局がすぐ近くにいるだろうし、フランたちの安否も気にはなってる。そもそも俺も体中が痛い。

 

けど、そんなモンよりもまずは自分の今の正直な気持ちをぶつけること優先だ。

 

「は、離せ!こんな事をしてる場合じゃ………」

「おいおい、この場は有耶無耶に誤魔化して凌ごうってか?喧嘩の邪魔する事といい、てめぇそれでも男かよ?金玉付いてんのか?」

 

言いながら、俺は締め上げてる手とは逆の手で男の股間を鷲掴みにした。

 

いや、別に深い意味はないよ?ほら、男同士ならよくやるある種のスキンシップと同じだよ。ノリでよくやるじゃん。俺はホモでもバイでもないしさ。

 

そう、そんな軽いノリでやったんだけど…………。

 

(…………あれ?無くね?)

 

何がって、ナニが。

…………いや、そんなまさか。そんな訳が無いよな。こいつ、仮面はつけてるがどう見ても男だし。声も男のそれだし。

 

(位置がズレてんのか?………ああ、そうか、小さいという可能性も)

 

モミモミ、ぐにぐに………………あ、あれ?どこにやってもそれらしい手ごたえが無い。そんな、まさか女というオチはあるめぇし。

試しに締め上げてたもう片方の手を下にずらし、胸も触ってみた。…………うん、まっ平らだ。

 

(…………取っちゃった人?)

 

男の胸と股間をモミモミしながら、そんな考えが浮かんだ。傍から見ればどう考えてもモーホーな図。

が、しかし。

そんな考えも、次の瞬間には吹っ飛んでしまったのだった。なぜならば、『ポンッ』というファンシーな音がしたかと思うと、目の前にいた仮面の男が突然女になったからだ。しかも、猫耳尻尾付きの結構可愛い顔した女に。

 

「─────────は?」

 

いや、だからさ、急展開し過ぎなんだって。俺の脳の処理速度はもう限界突破してるよ?なんで男がいきなり女になんだよ?性転換の魔法?だったら俺もそれ覚えたいな~。で、女の体になって女性風呂の方に…………………………………ちょっと待とうか。

 

(目の前にいる男が女になって………つまり、今俺がモミモミしてぐにぐにしてサワサワしてるコレは…………!)

 

お、おおおおお胸様と、そして───────

 

「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」

 

俺の最後に見た光景は、太陽並みの真っ赤な顔で、瞳に涙を限界ギリギリまで溜めた猫耳尻尾の女の子の拳が眼前に迫っている光景だった。

 

そして、最後に思ったのは……

 

(は、初めて触った………もう、死んでも、後悔はない…………嘘、やっぱり1回はヤってから死にたい)

 

最近、一日に1回は気絶している今日この頃。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パチリ、と目を開いた。その行為に強い既視感を覚えながら、ゆっくりと周りを見渡す。

どうやらここはどこかの路地裏のようで、薄暗くて僅かに異臭も漂っている。酔いどれか浮浪者でもない限り、好き好んでこのような場所には入りたがらないような場所だ。だというのに、俺の胸中に懐かしさ

に似た感覚が去来しているのは、過去寝床としてこのような場所をよく利用していたせいか。

なんだか可笑しくなり、笑おうとしたら口の中に激痛が奔った。こりゃ口の中が悲惨な事になってんな。まあその他もだけど。

 

「なに変な顔してんだよ」

 

そんな声が聞こえ、ふと隣を見るとヴィータが俺と同じようにビルの壁を背に座り込んでいた。さらにその向こう側にはフラン、シグナム、ザフィーラ、シャマルの姿がある。

皆、例外なくボロボロで、満身創痍という言葉がこれほど当てはまるのも珍しい程の状態だ。

 

「おおっ、起きたか隼。傷は大丈夫か?」

「体中が痛ェよ。けど、今お前がさすってる所は至って健康だ」

 

どこをさすられているのか、それは言わないでおく。さすってる奴がフランだと言えば、もう説明不要だろう。

 

「ンで、ここどこよ?なんでこんなトコにいんの?」

 

俺の問いにシグナムが答える。

 

「ここはあの戦闘場所から5kmほど離れた所だ。気絶したお前を私が見つけて背負って退却した。お前のそんな姿を主はやてに見せるわけにはいかなかったからな、ここで休んでいたんだ。いや、それは私たちもか。安心しろ、局の目は撒いた」

 

シグナムは痛みか、それとも悔しさからか、苦々しい顔をしていた。

 

「はは、確かに皆ボロボロだな。シャマルも、お前いつ来たんだ?」

「シグナムたちが出てすぐです。それで、ついてみたら……地獄を見ました」

「地獄?………あたしはそんな生易しいモンじゃなかった気がするけどな」

 

この中で一番ボロボロのヴィータがぶるっと一度身震い。おおかた夜天のことを思い出したんだろう。気持ちは分かる。あの状態の夜天はデビルメイクライだからな。

 

俺はヴィータに近づき頭を軽く撫でてやる。

 

「わりかったな。うちのモンが調子こいたせいで滅茶苦茶になっちまって。今度キッツいお灸据えとくからよ。俺が生き続けられたらだけどな」

「え、ちょっと待てよ、どういう事だ。その『うちのモン』って」

 

俺の発言を皆が訝しみながらも、話せと訴えかけてくるような視線をよこす。フランも「よいのか?」という視線を向けてくる。

 

まあ、もういいだろ。今さら俺の正体を明かした所でどうなる?事はもうすでに手遅れだ。そもそも隠し事は性に合わねーんだよ。あとあと面倒臭くなるだけだし。

 

(ぶっちゃけるなら早い内がいいだろ。それに、どうなろうともう留まれねーんだし)

 

スロットでメダルを入れた段階なら間に合うが、回してしまったリールはもう止めるしかない。そして、勝つためには回し続けるしかないんだよ。

 

だから俺は破産覚悟で大量のメダルを今投入する。

 

「俺は管理局員じゃねぇ。魔導師だが、ただの一般人だ。で、職業は『夜天の主』。役職は社長ってとこか?部下には夜天、シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ、理、ライトがいる。さらに取引先としてテスタロッサという魔導師家族とも仲良くさせてもらってる。あと絶賛彼女募集中」

「ちなみに、我も隼の妻兼騎士だ。主は小烏ではなく、この鈴木隼だ」

 

俺とフランの衝撃の告白に皆は沈黙。そして一拍、二拍と沈黙が続き、オリジナル騎士たちの奇声が上がったのは六拍目くらいだった。

 

「ど、どういう事だ、鈴木隼!」

「はァ?!お前が主?何の冗談だよ!」

「ええと、隼さんは主で、部下に私もいる?え、あれ?んん?」

「俺が護るのは主はやて一人だけだ。隼、貴様はナニを言っている」

 

へいへい、落ち着けよ。そう慌てんな。面倒だなぁ。

 

「正確に言うなら『夜天の写本の主』だ。夜天のしゃ・ほ・ん、OK?つまりお前らの夜天の……ああ、今は闇か、その闇の書のコピーを俺は持ってるわけ。機能も完コピされてっから、勿論騎士たちも健在。今もお前たちのコピー騎士と俺は生活してる。丁度、今の八神家のようによ?」

「そ、そんなこと………」

「信じられん?あり得ん?でもマジ。その証拠として、ほれ」

 

俺は写本を顕現させた。それを見て、騎士たちが驚きを顕わにする。

 

「そ、それは確かに闇の書………で、でも、隼さん、脚は?はやてちゃんみたいに闇の書の呪いには……」

「ねーよ、そんなモン。もう主になって半年以上経ってっけど、現在進行形で健康そのもの。怪我は絶えないけどな。ああ、だから完コピってわけでもねーか?」

 

ああ、戸惑ってる戸惑ってる。まあ、それも当然か。いきなりこんなカミングアウトされちゃあ、普通はすぐには受け止めれねーもんだろうよ。

 

そう思って、さてこれ以上どう説明しようか悩んでいたら、

 

「だったら!」

「うおっ!?」

 

いきなり横からヴィータに大声と共に迫られた。一体なんだよと思い、顔を見てみると、そこには怒った様な、懇願する様な顔があった。

そしてヴィータから放たれたのは悲痛な願い。騎士としての率直な思い。

 

「だったら、はやての脚を治してくれよ!夜天だかなんだか知らねーけど、お前もはやてと同じ書の主なんだろ!?お前がそうなら、はやての脚が悪くなるなんておかしいだろ!なあ、頼むよ、はやてを今すぐ治してくれよ!お前なら治し方くらい知ってんだろ!?」

 

続いて他の騎士も声を上げて訴えてきた。

 

「………鈴木隼、私からも頼む。お前が主とか、コピーの自分がいるとか、そんな物は後でどうとでも対処する。今はただ、主はやてを助けたいのだ。だから……」

「隼さん、お願いします。はやてちゃんを治してください。あなたの持ってる書の中に、何か良い方法は記されてないんですか?」

「俺からも頼む。どうか我が主を救ってやってほしい」

 

………やれやれ、まったくどいつもこいつも馬鹿ばっか。自分がこれだけ怪我してんのに、気遣うのは他人の体かよ。まあ、俺んちの騎士どもも似たようなモンだったけどよ。あれらも最初のころはまさにこんな感じだったな。それが今じゃあ、結構なレベルで図々しくなってるし。

 

「はいはい、お前らの思いは分かった。でも、無理ッスよ?」

「な、なんで!?」

「いや、治し方なんて知らねーし。書の主だからって、何でも出来るわけねーじゃん。俺が健康だからって理由だけで、同じ書の主のはやても健康になるとか、そんなご都合ねーべ。世の中ってやつァな、助かる奴は助かる、くたばる奴はくたばる、そうクソったれな程上手く出来てんだ」

「なんだよそれ……なんだよそれ!ふざけんな!認められるか!はやては……はやてはもっと生きなきゃなんねーんだ!あんな優しい奴はもっと楽しく生きるべきなんだ!」

「そうですね~。いや~、こっちのヴィータはホントにガキらしく真っ直ぐだなぁ。ガキ過ぎて逆に反吐が出そうだぜ。カーッ、ぺっ………あ、反吐じゃなくてタンが出た」

「お前……!!」

 

自分の体もボロボロで動くだけで痛いだろうに、それでも俺がムカつくのか、精一杯背伸びしながら震える手で俺の襟首を締め上げてきた。見れば他の騎士たちもかなりガンくれやがってる。

 

ンだよ、ヤんのかコラ。…………あ、フラン、お前はちょっと抑えろ?その振り上げたデバイスを仕舞え。

 

「離せよ、クソガキ。それにてめぇら全員、なに熱くなってやがんだ。てか、勝手に勘違いしてんなよ。俺、言ったよな?はやては助けるって」

「!そ、それは………」

「確かに俺ァ今すぐはやてを治せねーよ?けど、魔力集めりゃ治るんだろ?だったらその方法で治しゃあいい。お前らもそう決めたんだろ?あと1ヶ月もない短い時間で必ずはやてを助ける。その為なら、上手く出来たこの世の中も、ご都合も、俺にとってはクソ食らえ。そんな訳分からん理不尽より、俺の気持ちから来る理不尽の方が優先だ」

「なるほど、これが噂に聞く主の『意味の分からない、勢いだけの、けどどこか気持ちいい超暴論』か。中々に爽快だな。我も膣の中から熱くなってくるぞ。まるで主の言葉が棒になって突き刺さったかのようだ」

 

うん、フランはちょっと黙ろうか。金輪際、こいつにはシリアスパートでは喋らせちゃ駄目だな。

 

「まあ、つまり今までとやる事は変わんってことだな。俺が誰であろうと、お前らがどう思おうと、今はただはやてを助けてやる為に魔力を蒐集しまくるだけだ」

「そうか……そうだな、お前に縋るのは間違っていた。我らの主は主はやてのみ。そして、主はやての騎士である私たちが『魔力を蒐集して助ける』と決めた。なら、それを成すだけだ」

 

そういう事。今更ぐだぐだ考えた所でもうどうにもならん。やる事が決まってるなら、それをやり通せばいい。簡単な話だ。

 

「だが、一つ問題がある」

「あん?」

 

シグナムが神妙な顔で呟いた。そして、俺にキツイ視線を向けてきた。

 

「お前の騎士と、それからテスタロッサだったか?その者たちの事だ」

 

ああ、ね。

忘れてたわ。忘れたかったわ。そうだよ、あいつらをどうにかせにゃならんのだった。今回みたいに魔力を蒐集する度にやりあってたんじゃ、はやての命のリミットには絶対に間に合わん。先に俺の命がリミットオーバーだ。

 

「そもそも、お前はどうして主はやての家に来たんだ?あのテスタロッサという魔導師や、やたら凶悪な鞭捌きをしていた女が言っていたが、お前の事を探しているようだったぞ」

「ああ、それはあたしも気になってた。あの超怖ェ銀髪も「隼はいねぇが~」みたいな感じだったし」

「ん~、まあ、いろいろ複雑な理由があるんだが………最終的に今の俺の状況を一言でまとめれば、家族喧嘩による家出?」

「か、家族喧嘩!?殺気が尋常ではなかったぞ!?」

 

驚きだよな~。俺も驚きだ。…………マジでどうにか対策打たにゃ殺されるな。

 

「だからよ、何か対策ないかな?あいつらが邪魔してこないような良い案」

「………お前が帰ればいいんじゃないか?」

「ザフィーラ、ハウス」

「殺されたいのですか、駄犬」

「フランまで何故だ!?」

 

馬鹿が。それが出来れば苦労はねぇっての。オリジナルザフィーラもコピー同様、あんま使えねーなぁ。それだから犬なんだよ。この犬。

 

「はい、次、意見のある人」

「ええっと、それだったら事情を話して手伝って貰えばいいんじゃないですか?」

「そうだな。あの銀髪一人でも手伝ってくれれば、魔力なんてすぐに集まるだろ。……お前の騎士やってるもう一人のあたしに会うのは何か複雑だけど」

 

シャマルとヴィータの意見もまた尤もなものだ。俺も幾度も考えた。けど、それは俺の中ですでにダウトなので却下した。

 

「やっぱそんないい案はないか」

 

けど、だからってこのままじゃ駄目だ。何が駄目って、おもにこれからの物語的に。

毎回カオスは疲れるんだよ。

 

頭を悩ます俺に、シグナムは冷たい現実を突きつけた。

 

「難しいのではないか?お前の騎士は我らのコピーなのだろう?少し複雑な気分だが、だからこそ良く分かる。一度剣を振り上げたなら、目標を斬るまで下ろす事はないぞ。足止めでさえ、容易ではないだろう」

 

だよな~。そしてその目標が俺なんだよね~。ああ、そうか、だからコイツラまだ生きてんだ。目標が俺だから、その他は眼中にないんだな~。マジ絶望。

 

(なにか、なにか良い案はないもんかねぇ)

 

鈴木家とテスタロッサ家を潰す、もしくは喧嘩場に出てこさせないような案。さらにあわよくば、あいつらの多大な魔力を大量に蒐集する事が出来るような案は!

 

「じゃあいっその事、ザフィーラを隼に変装させて足止めさせてみるか?」

「おいヴィータ、隼の話しを聞く限り、そこに行けば俺は確実に殺されてしまうぞ!?」

「ザフィーラ、俺のためにありがとう」

「何故お前のために死なねばならん!」

 

まっ、そんな簡単にはいかねーよ。ザフィーラと俺じゃあ体格が違いすぎるし、何よりたかが変装程度でうちのモンが騙し通せるわけがない。

ハァ、こりゃ毎回戦争するしかねーんかなぁ。命と体と奇跡がいくつあっても足りねーぞ。

 

俺は頭を抱え、髪をがしがしと掻く。フードを被ってはいたが、流石にあれだけ派手に喧嘩すれば関係ないのか、髪の毛の中から砂や乾いた血がぱらぱらと落ちてきた。

霞んだ金髪が、その汚れでさらに霞んでしまっている。…………………………………ん、あれ?今なんかすごいヒント的な事が思い浮かんだような?

 

(霞んだ金髪………変装………大量の魔力………)

 

……………………………あ。

 

「いたあああああああああああああああああああ!!!!!」

「「「「「!?」」」」」

 

いた!いた!いた!いた!

いたよオイ!

ちょ、え、マジでキタ!あいつらを足止め出来て、かつ大量魔力ゲットの案キタコレ!

 

「ど、どうしたんだ隼?急に大声出して」

「フゥーーーハハハハハ!聞いて驚けテメェら!邪魔ものどもも、はやての命も、全ての事を近いうちにこの俺が一切合財解決してやんよォ!!」

「ほ、ホントか!?」

「当然!」

 

俺の計画に抜かりはない!完璧だ!もうどんな邪魔者が乱入してきても大丈夫!………………あの仮面娘とはもう一度会いたいけど。あの子、リニスちゃん程じゃないにしてもなかなか可愛かったな~。もう一度だけ会って、是非とも連絡先を交換したいもんだ。あ、いや、その前に一発殴り返さにゃな。

 

「……………少々計画に変更が必要になりそうだな」

 

ん?なんか隣でフランがぶつぶつ言ってる。

 

「なんか言ったかフラン?」

「計画に変更が必要になりそうなのだ」

 

そこ、とぼけないのかよ。ホントお前は俺に誠実だな。てか、なんの計画だよ。いや、聞きたくないけど。ヤブヘビ勘弁。それにお前の計画より俺のそれだ。

 

「計画?俺の計画に全てを任せておけ!ははははははははは!」

 

邪魔者の足止め、大量の魔力蒐集、戦力増強、さらには俺の命の安全…………上手くいけばこれ全てが一挙解決!いや、絶対に解決させる!

 

(明日以降の朝日が拝めそうだ!)

 

男の高笑いがその日、路地裏に響き渡った。

 

 


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