フリーターと写本の仲間たちのリリックな日々   作:スピーク

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またか。

 

ああ、またかと俺はため息をつく。

 

また夢だ。

 

目の前には鎖やら鍵やらで厳重にロックされた扉。

 

俺の夢の中の、訳分かんねー扉。

 

てか、この扉を見るのは何回目だ?最近じゃ週1~2くらいの割合で同じ夢見てるし。

 

勘弁しろよ、普通に寝かせろよ、と思いつつ顔には獰猛な笑みが浮かぶ。そしていつもと同じように扉をぶち破る。

そこにいたのは相も変わらず金髪幼女が一人。

 

 

 

─────ファイヤーウォールを3重にしたのに、なんで入ってこれるんですか!?

 

 

 

知るか。

んな事より続きだ!初日からボコボコにしてくれやがって!今晩こそその羽毟り取ってぶっ飛ばしてやんぜ!

 

 

 

─────……そんな事しなくても、エグザミアの制御不能で私はもうすぐ自壊ます。ううん、早く壊れちゃいたいんです。破壊する事しか出来ない私なんて……、だからあなたも意味なく傷つかないでくだ───

 

 

 

 

うるせえ死ねえええ!!

 

 

 

 

─────聞いてました!?

 

 

 

 

俺の夢の登場キャラのクセしてナマ言ってんじゃねーぞ!俺の夢なら夢らしく、俺にボコボコにされて敗北の味を噛み締めながら消えろや!自壊?させるかボケー!俺に壊させろ!

 

 

 

 

─────滅茶苦茶です!?

 

 

 

 

今晩でこんなおかしな夢、見納めにしてやる───────げっふぁ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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俺、鈴木隼。

身長約175cm、体重約65kg、体脂肪率20%手前。半年前は体重約60kg、体脂肪10%前後だったが日々の豊かな暮らしが俺を若干丸くした。けれど、それでもまだ平均だと思うし、見た目も半年前とそう変わっていない。少なくともデブではないはずだ。

頭髪は黒からくすんだ金色に変更。ただこれは少しだけやりすぎだと思っている。そもそも俺は茶髪にしようと思っていたのに、ジェイルんとこのキカイダー姉妹の内のある一人のドS女が「私に任せなさい!」とぬかして意気揚々と自分と同じ髪色にしやがったのだ。そして時間が経って今じゃ見事なプリン。まあ、元々学生時代は金髪だったので別段嫌という訳じゃない。ただ年を考えたらいろいろ痛い。

高校はバカ高で、大学もFランというどうしようもない学歴だが、それに見合わず金はある。都心のマンションでプログラム6人(6つ?6個?)と家族ごっこが出来、かつ向こう10年くらいは遊んで暮らせるほどの大金が。

最後にもっとも人間のパーツの中で大事な『顔』だが、これは正直あまり自信が無い。俺の母親と父親(最初の男)は美男美女とまでは言わないが「ああ、こいつはそこそこモテるな」という顔をしている。が、俺はどうやら両親からその顔面を受け継ぐ事は叶わなかった様で、異性を有無なく惹き付ける程の力はこの顔にはない。髪型や服装を駆使して辛うじて「まあ、いいんじゃない?」と言われるくらいだ。

 

と。

 

以上の事を踏まえてちょっと考えてみてはくれんか、この俺という男を。…………考えてくれた?じゃあ問う。

 

鈴木隼が『孤独な男』だというのはおかしくねーか?

 

………いきなり何だ、だって?まあ聞け。だってなぁ、性格は兎も角見た目はそう悪くないと自負してるし(イケメンじゃねーけどよ)、学歴はなくても高収入だ(収入源を公には言えないけど)。

なのに俺は孤独だ。生きてきたこの二十数年間、ずっと孤独だったんだよ。一度もこの孤独から抜け出す事がなかった。まわりは皆孤独から解放され、一度は充実した共存を経験しているのに、俺はただの一度もその機会は巡ってこない。隣には誰もいないんだよ。

マジで泣きたくなるぜ。一人ってのは気楽だが寂しいもんだ。特に今の時期だと、この歳で『孤独な男』は俺だけじゃねーのかって錯覚までしちまう。

 

『孤独な男』……いや、そんなカッコイイ言い方は止めよう。今更取り繕ったってどうにもなんねーからな。

 

『孤独な男』転じて『独り身』………………要するに、だ。

 

 

 

 

 

「何で俺には彼女が出来ねーんだよおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 

 

 

 

聖なる夜まで一月を切ったのに、未だ彼女の居ない男の姿がここにはあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝の喧しい食事が終わり、その後プレシアたちに俺の母親の事に付いて語った時から3時間後の現在。つまり2度寝を決め込もうと寝室に戻ったのが2時間前で、その通りに俺は惰眠を貪っていたんだがついさっき携帯の振動音で目が覚めたのだ。アラームを設定した覚えは無かったので、つまりそれはメールかTELで、「ちっ、どこのボケだ」と思いながら携帯の画面を見るとそこに映っていた名前は──────────

 

《ハヤさん、聞いてる?》

「あー、はいはい、聞いてるっつうの、なのは」

《うん。それでね、フェイトちゃんに私たちの写メを送ったんだけど────》

 

あーーーー、クソうっせえーーーー。今何時だ?12時くらいか?お前学校は?休み?てか、今日何曜日だっけ?最近曜日の感覚が全然ねーんだよなぁ。それにしても………………

 

《フェイトちゃんも魔法世界の景色とか送ってくれてね。それから────》

「なのは、なのは」

《あ、何ハヤさん?》

「うっせえ馬鹿」

《にゃ!?》

 

なのはから電話があって早10分経ったが、延々と続くなのはによるなのはの為のフェイト談はまったく終わる気配を見せない。それどころか日増しに酷くなってきている。

 

「毎日毎日、同じような事ばっかで聞き飽きたっつうの」

 

なのはにフェイトのメールアドレスを教えた日から、こいつは俺にもメールを送ってくるようになっていた。そして、それは毎度フェイトに関する事であり、さらにメールはTELに変わり、2~3日に一度の頻度だったものが毎日に。

…………なんなの?ねえ、なんなの?え、もしかしてイジメ?俺、なのはにイジメられてる?

 

ちっ、なのはのケー番を着拒すりゃあいい話だが、そんな事すればあいつはご自慢の真っ直ぐさを持って俺の家を突き止め、押しかけて来そうだからな。俺とシグナムたちとの関係がバレちゃ適わん。

 

《ならフェイトちゃんと会わせてよー!》

 

もはや毎日一回はこのセリフをなのはから聞いている今日この頃。その返答として俺は毎日一回は以下のようなセリフを言う。

 

「だから駄目だっつってんだろ。ジュエルシード事件の時、フェイトが何やったか覚えてんだろ?居場所が管理局にバレたら即しょっぴかれるぞ?重い罪にはなんねーだろうが無罪放免ってのもありえねーだろうからな」

《だ、大丈夫だよ!フェイトちゃんは悪い子じゃないし………それに私、フェイトちゃんの居場所は誰にも言わない。今だってフェイトちゃんとメールしてる事、ユーノ君にも言ってないもん》

 

友達の為、一つの世界を代表する組織に隠し事し続けているか。まあ、俺が半ば脅す形で黙っとけっつったんだけどな。けど、それでも中々どうして、なのはも俺に負けず劣らずの独善者だな。……………………いや、それは違うか。なのはは。

 

「なのはは相変わらず優しい奴だな。……………けど世の中はな、お前やフェイトみたいに優しい奴ばっかじゃねーんだよ。フェイトに万一の事が起こるのはなのはも嫌だろ?逆にこの件が局にバレて、なのはに何かあんのも嫌だかんな」

《むぅー、やっぱりハヤさんは自分勝手!》

「でも、そんなハヤさんがなのはは大好きなのであったマル」

《うぅ~~~!》

 

電話の向こうで膨れっ面をしているなのはが容易に思い浮かぶ。

 

まあ、そう唸るなよ。俺だって心苦しいとは欠片くらいは思ってんだぜ?ダチ同士、顔合わせて遊ばせてやりたくはあるさ。でも、そのせいでなのはとフェイトが局になんかされたら嫌だし。何より、俺にまで飛び火されちゃ適わん(これ重要)。

 

それからさらに数分なのはの我がままを聞き流し、

 

《私、諦めないからね!それじゃあまた明日!》

 

という言葉を最後に今日のなのはからのラブTELは終わりを告げた。てか、明日もTELする気満々かよ。

 

(ハァ…………どうしたもんかね~)

 

正直、なのはとフェイトを直に会わせてやりたいとは思う。

 

(ダチだもんなぁ)

 

フェイトのダチ公がなのはとヴィータと理だけのこの現状は、ぶっちゃけ俺は気に入らない。あのくらいの歳のガキはいっぱいダチを作って遊ぶべきだ。学校に通えば自然に出来るだろうけど、フェイトは生憎と学校へ入学していない。もちろん俺とプレシアはフェイトのみならずガキ全員の学校への入学も考えたが、現実問題(戸籍とか)を考えればそんな簡単にはいかない。管理局とか、そういう大きな組織だったらいくらでも誤魔化せるだろうけど、俺らはただの個人だ。無理だっつうの。

 

(あー、面倒臭ぇな。いっその事後先考えず、管理局とかガン無視して好きなようにするか?)

 

とは思うものの、結局は現状維持。だってなぁ、俺にメリットねーし。確かにガキにはガキらしくさせてやりてーけど、そのせいで俺に厄介事が舞い降りるのは勘弁。

ガキの充実した生活より、俺の為の平和な現実の方が優先だ。ガキより俺。

 

(やめやめ、何で俺がここまで頭悩ませにゃらんのよ。寝直そ)

 

さて、惰眠の続きでも貪ろ────────

 

「ハヤちゃ~ん、ご飯ですよ~」

 

平和だね~。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼飯を今度はテスタロッサ家で食い、その後ガキたちは午前とは逆に俺んちでゲームをしだした。

フェイトもライトもアリシアもヴィータも理もアレで中々仲が良い。まあ、だから、そんなガキ共を見てると学校なんて別に通わなくてもいいんじゃないかと思ってくる。ダチの数は少ないけど、少なくとも生涯の親友はすでに見つけてるのだから。勉強?いらんよ、そんなモン。勉強は学校のテストにだけ必要で、社会では二の次だ。まあ社会人にすらなっていない俺が言っても説得力ないだろうけど。

さて、そんなガキ共を尻目に大人組みはというと。

プレシアはマンションの一室を改造した研究室へと篭り、シグナムと夜天とアルフは三人で囲碁、ザフィーラは読書。

 

そして、俺はというと。

 

「やっぱり地球の冬は寒いですね」

「まーなぁ。リニス的には炬燵で丸くなってたいだろ?ね~こは炬燵でーってな」

「ふふ、そうですね」

 

マイゴッデス・リニスちゃんとデート中!………だったら良かったんだけどな~。

生憎と俺の隣を歩くのはリニスのみにあらず。

 

「おっかいもの♪おっかいもの♪隼と一緒におっかいもの~♪」

「ああ、もう、はしゃぐなよアリシア」

 

俺と手を繋ぎ、それをぶんぶんと揺らしながらご機嫌に歌を歌っているのはテスタロッサ家長女アリシア。

てか、こいつ皆とゲームしてたはずなのにいつ引っ付いて来たんだよ?そんままゲームしてろよ。こっちに乱入すんなよ。デート(仮)の邪魔すんなよ。

 

「よかったですね、アリシア。隼と一緒にお出かけ出来て」

「うん!えへへ~」

 

まあ、可愛いから許してやろう。それに、これってば見方によっては夫婦とその娘に見えなくも……見えんな。血の繋がりを一切感じさせないな。

 

「それにしても隼にアリシア、別によかったんですよ?わざわざ荷物持ちなんてしてくれなくて、家で皆とゲームしてくれてても」

「いやいや、そうはいかねーよ。うちの怪力騎士共やプレシアなら兎も角、リニスの細腕に重たい物を持たせるなんて俺にゃあ出来ねーな」

「いかねーよ!できねーな!」

「ふふ、ありがとうございます」

 

ありがとうは俺の方だっつうの。何ですか、リニスちゃんのこの笑顔は?可愛いってもんじゃないですよ。理のあの毒々しい笑顔とは比べモンにならんな。

そしてアリシア、俺の言葉尻や仕草を真似すんな。いや、真似してもいいけどプレシアには披露すんなよ?教育に悪いとか言われて、後で怒られるの俺なんだからな。

 

「それに正直助かりましたしね。人数が人数なので量もそれなりで。ここ最近、なんだか筋肉がちょっとついてきちゃいました」

 

可愛らしく「むっ」と力瘤をつくるように腕を掲げるリニス。服の上からとはいえ、その腕に筋肉がついてるとは思えないほどの華奢な細腕だ。俺やザフィーラと比べたらまるで丸太と爪楊枝。なんというか、ザ・女の子の腕!って感じ?

 

「私も!私もねー、この前逆上がり出来るようになったんだ~!」

 

リニスに対抗したいのか、単に自慢したいのか、アリシアも言いながら何故か力瘤をつくる。その顔はドヤ顔っつうか、フンス!とでも表そうか。

 

「今度から空いてる奴全員で買い物はするべきだな」

「そうですね。夜天やザフィーラが一緒だといつも助かってますからね」

「夜天はともかく、ザフィーラはこき使ってOK。あとロリーズは強制連行だ」

「あらあら」

「でアリシア、もう逆上がり出来るようになったのかよ。やるじゃねーか」

「えっへん!」

「だが、逆上がりなんて序の口。蹴上がりからの空中前回りが出来てこそ一人前だぜ?」

「むむっ、よく分からないけどそっちだってすぐ出来るようになるもん!」

 

和気藹々。冬なのに心があったかい。

これですよ、これ!こういう平和な日常がいいんですよ。リリックな日常なんていらんのですよ。

 

(それに何だか周囲の視線が心地いい)

 

リニス、アリシアと並んで歩く俺はすれ違う人から視線を感じていた。

夫婦なんてふうには思われないかもだが、きっとカップル程度には思ってくれているだろう。少なくとも超仲良さ気には見えるはず。

ああ、真実はどうあれいい優越感。どうだ、羨ましいだろう?好きなだけ羨ましがるがいいわ!

 

(………もっとも。俺も同じ視線を周囲の奴らに返してんだけどな)

 

世は年の瀬。クリスマスがある月。つまり右を見ても左を見ても前を見ても後ろを見てもカップルばっか。

死ねばいいのに。爆ぜろリア充。

 

(なんだこれは?世界から俺への充てつけか?所詮お前はそうやって偽りの形をあたかも真実と思い込み自己満足させる事しか出来ないオナニー野郎だと?)

 

……………俺だって、俺だってな!ちゃんとした彼女は欲しいんだよ!クリスマスまで後24日だぞ!?また今年も一人なのか!?「クリスマスは家族と一緒に過ごすんだ」的な言い訳を今年もせにゃならんのか!?

何が……一体なにがいけないって言うんだ。確かに俺ァイケてるメンズじゃねーさ。だけどブサイクなメンズにカテゴライズされる程とも思えん。

あ、ホラ、今すれ違ったカップルの男のほう!あんな男と比べたら絶対俺のほうがカッコイイだろ!なのに何であんな奴には彼女が居て俺には居ねーんだよ!

 

(夜天、シグナム、シャマル、アルフ、リニス………美人はすぐ傍に居んのにな~)

 

だがこの半年、何も進展はなかった。むしろ家族という立場がより確立してしまったように思う。唯一の希望はジェイルんとこの機械ちゃん達だが………あいつらってヤれんのか?

 

(や、やべぇよ、俺マジでこのまま一生童貞じゃねーのか!?おいおい、洒落になんねーよ!!………こうなったら、いっそ風俗に)

「隼、どうしたんですか?」

「隼、どうしたの~?」

 

いよいよ持って俺の荒んだ精神が切羽詰って来た時、隣から癒しの波動を撒き散らすビューティボイスと無垢で無邪気なエンジェルボイスが聞こえた。

 

「あ、いや、ちょっとな」

「何か悩み事ですか?私で良ければ聞きますよ」

「私も!」

「いやさ、もう誰でもいいから一発─────」

 

って、待てい!俺は一体何を打ち明けようとしてんだよ!?あっぶね、リニスちゃんのあまりの聞き上手っぷりに正直にぶっちゃけちまう所だった。

そんな事になってみろ。リニスちゃんからは軽蔑の視線を向けられ、アリシアはこの事をプレシアに報告→俺死亡、という未来になること必須。

 

「一発?」

「い、いや、何でもねーよ?た、ただ、なんか今日もまたカップル多いな~、みたいな?」

 

咄嗟にテキトーな話題に方向転換をする。不自然なそれに当然リニスは訝しい表情となったが、別のやつが食いついてくれた。

 

「カップル?カップルってなに~?」

 

ナイスだアリシア。

 

「カップルっつうのはな、とってもとっても仲の良い男と女の事だ」

「仲の良い……隼とママみたいな?」

「あははは、それは違うぞー」

 

あいつと俺は仲良くないからねー。悪いわけじゃないけど、良いわけでも絶対ないからねー。

 

「アリシア、隼がいう仲の良い二人っていうのはね、いつも一緒にずっといたい、すっごく大好き、て気持ちをお互いが持ってる人の事なんですよ」

「そうそう、それで最終的には結婚するってわけ。ああ、結婚も分かんねーか」

「ケッコン!それは知ってる!ケッコンカッコカリ!」

 

ん~、誰かな~、アリシアにクソな単語教えたのは~。今、ちょっとプレシアの気持ち分かっちゃったぞ~。

 

「ケッコンか~……」

 

可愛らしく腕を組み、う~んと考えるように唸るアリシア。ほどなく、名案が浮かんだとばかりに宣誓するようにバッと手を上げて言った。

 

「じゃあ私、しょーらい、隼とケッコンする!」

「あらあら」

 

あらあら、じゃないからね、リニスちゃん。そんな微笑ましそうにこっちを見ないでくんない?そして通行人諸君、君たちも微笑ましそうに見ないでくんない?

 

「おい、なんでそうなる?」

「えっとね、だって私、隼の事大好きだから!それにずっと一緒にいたいし!そういう人たちってケッコンするんだよね?」

「いや、そりゃそうだが…」

 

そうなんだけど違う。だが、それを説明するにはまず異性へ向ける『好き』の種類を教えなきゃいけないわけで、そうなると大人な男女の関係も多少なりとも説明しなきゃいけないわけで。

 

(ガキ相手にどう説明しろと?)

 

そう考えてる間にもアリシアの勢いは止まらない。

 

「あ、ならフェイトも隼とケッコンしないとだね!ということは、えっと確か………あっ、そうだ、ジュウコンカッコカリ!」

 

ならフェイトも、ってなにあいつまで勝手に巻き込んでんの?てか、さっき好きな人同士って説明したよね?俺の気持ち、無視ですか?いや、確かにアリシアもフェイトも好きだよ?でも違うんだよ。違わないけど違うんだよ。

 

あとザフィーラ。お前、帰ったらぶっ殺す!

 

(……まー、よく考えたら、てか馬鹿真面目によく考えようとしなくても、こんなのガキの戯言じゃねーか)

 

ほら、よく父親が幼い娘に言われるアレ?俺は父親じゃないれども。

さておき、だから。

だったら俺の返答も月並みなモンにしときゃいいんだよと気づく。

 

「そうだな、アリシアとフェイトがリニスくらいおっきくなって、その時もまだ俺の事好きだったら結婚しような~?」

「おっきくなってもずっと好きだもん!絶対隼とケッコンするもんねー!」

 

俺の言い方が気に入らなかったのか、ぷく~と頬を膨らませて抗議するように言うアリシア。それに俺は苦笑しながら頭を撫でてやる。

 

(まっ、これもガキらしいと言えばガキらしい事か)

 

そして、きっと将来は「隼、臭い!」とか「隼と洗濯物、一緒にしないで!」とか「隼のあとのお風呂入りたくない!」とか言い始めるんだろうなぁ。「彼氏来るから部屋から出ないで!」とか「今晩帰らないから」とか言っちゃうようになるんだろうなぁ。いや、そこは無断外泊か。

あまり具体的には想像出来ないし、アリシアやフェイトに限ってそんな事になる気はしないけど……あ、コレもあれだな、よく言う『うちの子に限って』とかいう奴だな。

 

ああ、なんだろう、父親じゃないけれども、ちょっとだけ父親の気持ちが分かった。

 

(世の中の娘を持つお父さんってのは大変だね~)

 

現状、子作りはおろかそのパートナーもいない俺にはまるで実感が湧かない気苦労だ。

俺はポケットからタバコを取り出し、一吸い。

 

さて、いい加減こんな茶番はお終いにして店に向かおうとアリシアの手を引っ張った時────。

 

「おい、援交中か誘拐中のそこのキミ。ここは路上喫煙禁止だぞ」

 

不遜で凛々しくも、どこか嘲笑するような声が背後から聞こえた。

援交?誘拐?はて、誰の事だ?……まさか俺?おいおい、まさか俺に喧嘩売ってくる奴がまだ家族と隣人以外にいるとはなぁ。

 

そう思いながら、俺は目力を遺憾なく発揮させて後ろを振り返る。

 

「誰だ、この紳士に不釣合いな単語を投げつける身の程知らずは────んげっ!?」

 

そいつを視認した瞬間、カエルが潰れた時に発する断末魔のような声が自分の口から発せられたのは自然の摂理だろう。

 

「失敬だな。人の顔を見てそんな声を……………ん?なんだ、誰かと思えば鈴木か」

「な、なんでテメェがこんなとこに……」

 

さ、最悪だ!ホントになんて"コイツ"がここにいんだよ!?

 

そこに居たのは昔何度か世話になった女性。どう世話になったかっつうと、まあ色々な。俺の日頃の言動とこの女の職業聞けば何となく想像はつくだろけど。この俺が、会えないでいいなら一生会いたくないと思わせる数少ない女の一人。

 

「なに、こっちでちょっと仕事があってね。ボクが借り出されたんだ」

「刑事さんはご苦労なこって」

 

そっ、こいつ刑事さん。俺の嫌いな制服組じゃないほうのポリ公。

夜天のような綺麗な銀髪と可愛い顔は最高に良いのに、性格がヒャッハーな世紀末悪魔女。あと体型も残念極まる。

 

「ところでそっちはまさか鈴木の彼女………あり得ないか。まるで釣り合ってないし」

「上等だクソデカ。名誉毀損で訴えるぞ」

「吠えるなよ、童貞(ガキ)」

「今何つったあ!?何て書いてガキっつったあああ!」

 

なんで俺の周りにいる気の強い女はそこ(童貞)を責めんだよ!悪いかよ!つーかテメエも処女(ガキ)だろうが!

 

「ちっ、行こうぜリニス、アリシア。こいつに関わると碌な事がねぇかんよ」

「おいおい、待ちたまえ。過去、あれだけボクに迷惑をかけたキミがそれを言う?忘れたというなら思い出させてあげよう。…………あれは鈴木が大学を卒業してすぐの頃─────」

「へい、リっつぁん!今の時間から開いてる店知ってっからさ、久々に飲みに行こうじゃねーか。もち俺の奢りだから。なんならフィっつぁんも呼んじゃえYO!」

 

仮にもし今俺が一人の状態だったなら、このクソアマが天下の往来でナニを言おうが構やしねーよ?が、生憎と俺の隣りには今女神リニスと天使アリシアがいる。そんな二人の前で俺の黒歴史を語られちゃあ、好感度がマイナスをぶっちぎっちまう。

アリシアはともかく、リニスにそれはダメだ。それだけは阻止しなければ!夜天に次いでシグナムと同率2位で彼女にしたい子なんだ!例えここでリニスちゃんとのデート(買い物+アリシア付き)を打ち切ってでも、俺のブラックな歴史を知られて幻滅されるのだけは阻止しなければ!

 

「なんだ、悪いな。別にそういう心算はなかったんだぞ?まあ、でもキミがそこまで言ってくれるならボクも吝かじゃない。フィリスのやつは確か今日は明けで休みだったな、よし呼び出そう。それとお店の方はボクのオススメの店を、既にキミに声掛ける直前に予約したから問題ない」

 

…………ンだあああああああ!ぬぅわあにが『そういう心算はなかったんだぞ?』『吝かじゃない』『問題ない』だ!元からタカる気MAXだっただろ!コイツ、やっぱ最初から俺だと分かって声かけやがったな!段取り良すぎなんだよ!

てか、なに!?そもそも何でテメェ出て来てんの!?ここ違うから!クロスオーバー先間違ってるから!テメェは入ってないんだよ!せめて『番外編』と銘打った時だけ出て来いよ!なんで本編にシャシャリ出て来るわけ!?あんま俺にメタ発言させんなよ!

 

あーーーーーーー、もう色々意味分かンねエエエエエエエ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局俺はあのクソデカにひっ捕らえられ、やつの妹のフィっつぁんと合流し、やつが薦める店へと行くことになっちまった。もちろんリニスちゃんを俺と悪魔デカの飲みに巻き込むわけにはいかないので、彼女とはそこでお別れ。俺が荷物持ち出来なくなった代わりにロリーズを呼んでおいた。

 

クソ、予定なら買い物のあとアリシアを先に家まで帰らせ、そっからデートする予定だったのに!『買い物のようなデート』から『本物のデート』にしゃれ込むはずだったのに!そして今日は帰らない予定だったのに!

で、あるからして。

そんな悔しさを胸に俺は自棄飲み紛いに飲みまくった。飲まなきゃやってらんねーよ状態だ。

アルコールによるホロ酔いいい気分と、さらに絡み酒スキルでフィっつぁんを苛め倒す事でどうにか俺の荒んだ心は晴れ模様となった。

 

そんな飲み会が1時間2時間と過ぎ去り、2店目3店目と場所が移り変わり…………………気づけば何と夜の11時を周り、場所は巡りに巡っていつの間にか海鳴にまで来ていた。

 

「うぇ………気持ち悪ィ」

 

俺をここまで引っ張りまわした姉妹とは先ほど別れた。デカの方は明日も仕事だからもう帰るといい、妹の方は「眠たい」と目をシパシパさせながら帰っていった。

 

(俺の都合は無視しやがるクセに、テメェの都合はきっちり守りやがって!これだから自己中なポっと出ゲストキャラは嫌いなんだよ……………………う゛ッ)

 

ゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロ~~~~~。

 

「し、死ぬ………」

 

ここから家までどんくらいあんだ?てか、ここどこよ?あ~、ダリぃ。

ぐるぐると回る視界が気持ち悪く、歩くどころか立つのも億劫になった俺は道に脇に座り込んだ。通行人が鬱陶しそうな視線を送ってくるが、ンなもん知ったこっちゃねーし。

 

(もう無理。もう動けん。…………ザフィーラあたりに迎えに来させよう)

 

今の時間ならまだ起きてるだろう。きっとパタリロを読んでるはずだ。

そう当たりを付け俺はポケットから携帯を出し、アドレスから自宅の番号を呼び出す。その動作すら面倒臭かったが、こればかりは已む無し。念話という手もあったが、今のこの状態じゃあマトモに繋がるとは思えん。

 

携帯の呼び出し音を聞く事5秒、電話口に出たのは夜天だった。

 

「こんばんみ~」

《主!?今何処にいらっしゃるのですか!せめて連絡くらいして下さい》

 

あー、そういや忘れてたな。飲んでる時もブーブー鳴ってたけど無視してたし。

 

「ごめ~んちゃい。以後気をつけます、パタリロ陛下!」

《…………はぁ。主、また飲んでおられますね?》

 

あれ?よく分かったね、夜天。これぞ愛の力?

 

《今どこに居られるのですか?すぐに迎えに行きます》

 

「セック────じゃない、サンクス。ええと、今はね~」

 

辺りを見渡して何か住所的なものを探す。が、何も見当たらない。看板もないし、標識もない、目印になる物もない。何もない。人っ子一人いな~~い。

 

………………………………………はえ?

 

(人が消えてる?)

 

さっきまで地べたに座った俺を塵屑が如く見下していやがった通行人が綺麗さっぱり消えてる。それはおろか、目に映る範囲でのお店の中にも人がいない。心なしか周囲の景色もどことなく変だ。

 

「夜天夜天、どうやら俺は影時間に囚われちまったらしい。あ、でもまだ11時過ぎだし………………夜天?」

 

ふと気づけば、夜天からの反応がぷっつん途切れていた。てか、電話自体がお陀仏してしまったみたいに機能してない。どこのボタンを押しても無反応。

 

え、これマジで影時間?俺、ペルソナはティターニアがいいな~。

 

「……………て、何時までも酔いに任せて馬鹿言ってる場合じゃねーな」

 

一体全体なんだっつうの。なんだよ、この摩訶不思議な現象は?半年前ならいざ知らず、今は平和な世の中ですよ?だったら、ちゃんとした一般常識的な現実を見せろよな。それともまた『アレ』ってか?ハハ、まさかな。それだきゃあ勘弁だ。

 

(………てかこの空間、俺知ってる気がするんだよなぁ)

 

なんだっけかな?確かに知ってる気がするんだよ。…………あー、駄目だな。酒入ってるせいか全然思い出せん。

 

でも、どっかで───────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鈴木、隼」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然、本当に突然、俺のすぐ傍で俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。

 

声の感じから女、それも幼い感じの声。だが、どこか威厳も満ちている矛盾した声質。純粋な子供が背伸びして偉く見せようといる声にも聞こえるし、不遜な大人がふざけ半分で子供のような声を出しているようにも聞こえる声だった。

子供なのか大人なのか、俺は確かめるため振り返る…………なんて訳もなく、ただ呼ばれたから振り返るという気持ちで声のした方に目を向けた。

しかし、どちらにしても俺にはその声の主が、結局子供なのか大人なのかは分からなかった。

 

なぜなら、

 

「がッ!?!?」

 

俺が振り向くよりも早く、俺の側頭部にバットでぶん殴られたかのような衝撃が奔り、その衝撃のまま俺は地べたに転がされた。さらに起き上がる間もなく2度目3度目の衝撃が腕や腹に加えられ、さらにその衝撃は続き、6度目の衝撃が足に奔ってようやく終わりを迎えた。

 

(ご丁寧に頭と腹と四肢に一発ずつかよ……………)

 

こりゃやべぇな。

いきなり何でこんなになってんのかはさっぱりだが、この状態がやべぇって事は分かる。もともと酒のせいで満足に動けない体だった所にこれだけシコタマぶん殴られれば、いくら俺でも早々立てねーぞ。つうか、もうこのまま寝れるくらいだ。なんもかんも無視して寝ちまったら、絶対ェ気持ちいいだろうな~。

 

───でも、まあそうも言ってられんよな?

 

今、俺が何で攻撃されたかは分からねぇ。何か俺に恨みがあったんかも知んねぇし、そんなモンはなく、ただ理由もなく殴ってきただけなのかも知んねぇ。けど、ただ一つだけ。

 

「じ、上等じゃねーかぁ~……!!」

 

どこの誰だか知らねーが、こいつは間違いなくこの俺に喧嘩を売った。

 

それが何よりも最優先に考えなきゃならん事で、そして次に何よりも最優先でしなきゃならん事はこのクソッタレをぶっ殺す事。

今この空間はどうなってるかとか、このクソッタレは誰なのかとか、俺の体の状態だとか、そんな事ァどうでもいい。

 

やる事は唯一つ!

 

「ぶっ殺して、やるッ………!」

「………ほう」

 

この状態でまだ立とうとする俺に感嘆の声を上げる見知らぬクソッタレ。そんな態度が癪に障る。

見下してんじゃねーぞ!!!

 

「甲冑もなしに我の魔法弾を浴びて気を絶たんとは。流石、と賞賛しよう。だが、それは賢くないぞ……すまぬな」

 

瞬間、これまでの中でいっとう馬鹿デカイ衝撃が後頭部を襲い、立ち上がろうとしていた俺はまたも地べたに抱擁。さらに今の一撃は俺の中の起き上がる最後の力すら持っていったようだ。

 

(あ~、こりゃガチでやべぇな)

 

根性や気合は人一倍あるつもりだが、今の一撃はそれでどうにか出来る範囲を大きく超えちまった。指一本動かねーし、もう声も出せねぇ。

ぶっ殺してやると宣言した傍からこれは流石に情けねーな。てか、ここまでコケにされたのは半年前のプレシア以来じゃねーか?

 

(……………半年前?)

 

ああ、そうか。この空間って─────

 

「嗚呼、嗚呼、ようやく……ようやく鈴木隼を手に入れた!もう離さない!どこにも逃がさない!誰にもくれてやらん!ふはははははははははっ──────────愛しているぞ、我が主。全身全霊を持って愛している。だから主、主も我だけを愛せ」

 

頬に生暖かい吐息と"ぬちゃ"という粘液を帯びたものが這い回るような感触を感じながら、俺の意識はお休み一直線。

 

「このような手段しか取れず、すまなんだ。我が生涯でただ一度の主への攻撃、どうか許せ。あとでどのような誹りも責めも喜んで受け入れよう」

 

何が何だか分からない。分からないが………ただ、最後に一言いいか?

 

(これって影時間じゃなくて封鎖領域じゃん!!!)

 

さようなら、平和な日常。

 

そしてまた会ったね、こんにちは、リリックな日常。

 

 




感想、評価、誤字報告、ありがとうございます。

次回より本格的にAs編突入。そしてR15警報発令予定。

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