フリーターと写本の仲間たちのリリックな日々   作:スピーク

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なのは後日談 中編②

 

───私、高町なのはが魔導師だという事が親友二人にバレた。

 

公園で遭遇したジュエルシードの暴走体。それを討つために魔導師の姿となり、戦っていたところに親友二人……すずかちゃんとアリサちゃんが迷い込んできた。結界を張っていたにも関わらずに、です。それが何を意味するのか、朧げながら分かるけど取り敢えず今は一時保留。

問題は魔導師だということがバレたということ。

事ここに至って嘘や誤魔化しは出来ませんでした。なにせばっちり見られたんだから。そもそもレイジングハートを持って宙に浮き、魔法を使った姿を誤魔化せるほど私に話術の心得はありません。

だから、もう話すしかなかった。話しました。

あの後、ユーノ君はあのまま管理局の人と合流し、無事暴走体を封印。そしてジュエルシードの全回収を終えた事への事後処理でそのまま管理局へ。私たち4人は私の家へ。

 

そしてそこで全部話しました。4月の頭に魔導師になったこと。魔法や管理局という存在。私が今までやってきた事。

 

話してる途中、私はちょっとだけ怖かった。掛け替えのない二人の親友の反応が。もしかしたら気味悪がられるんじゃないかって。もしかしたら今後拒絶され距離を置かれるんじゃないかって。

 

──だから、全て話し終えたあと二人から安堵の表情やちょっと怒った顔が返って来た時は、二人には申し訳ないけどちょっと嬉しかったです。

 

『水臭いじゃない、私たちに秘密にするなんて』

『最近一緒に遊ぶこと少なくなって、何か悩んでるのかなって心配だったんだよ?』

『何か助けになれたかもしれないのに』

『次からは何でもいいから相談してね』

 

そんな言葉まで返って来たとき、私はこの二人が友達で本当に良かったと心の底から思いました。

 

ああ、こんな事なら最初から全部話しておけばよかった、と我ながら現金だけどそう思った。

 

同時に改めて分かった。私の好きな人たちは、やっぱり良い人なんだって。すずかちゃんやアリサちゃんが私の変化に僅かながらも気づいてたというのなら、私の家族であるお父さんやお母さんだって気づいてるはず。気づいてて、でも私から話してくれるのを待ってるんだって。好きにさせてるのは、きっと私を信頼してくれてるから。自惚れでもなんでもなく、そう思う。

 

うん、やっぱり今夜お父さんとお母さんにも全部話そう。ジュエルシードが全部回収出来たからとかじゃなくて、もうこれ以上秘密にしたくないから。信頼には信頼で応えたいから。

 

ありがとう、すずかちゃん、アリサちゃん。

 

二人のおかげで、きっと私は間違わずにすんだんだ。そして、これから先もし間違っても二人なら正してくれる。逆に、二人が間違ったときは私が正してあげれる。

家族が大事なことは身に染みるくらい分かってたけど、友達も同じくらい大事なんだ。

 

私は二人の手を取り、照れくさかったけど笑顔で真正面言う。

 

「すずかちゃん、アリサちゃん。これからもよろしくね!」

 

こうして私たち3人は新たに友情を育みつつ、笑顔で今日を──────

 

 

 

 

 

「で」

 

 

 

 

 

 

──────終えることなく

 

 

 

 

 

 

「あのお漏らしヤンキーも魔導師なわけね」

「誰がお漏らしヤンキーだゴラァ!!ぶっ飛ばすぞアロマノカリス!」

「それを言うならアノマロカリスよ!…………って、私はアリサだっつってんでしょ!!」

 

 

 

 

 

 

いつもの日常に戻るのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まず最初に。ごめんなさい。

あのね、一回くらいね、イイハナシダーで終わらせてみたかったの。最近3分アニメってあるでしょ?あんな感じで3分くらいだったらイイハナシで終われるんじゃないかなって。現実逃避というかハヤさん逃避というか、それをすればあのまま終われるんじゃないかなーって。

 

うん……儚い希望だったなぁ。

 

「お前があんなとこにいなけりゃクソぶち撒ける事にゃなってなかったんだぞコラ!俺の肛門に謝れや!」

「意味わかんない!てか臭いから近寄んじゃないわよ!臭いが移るじゃない!」

「さっきシャワー浴びただろうが!こびり付いたミもニオイもきちっと洗い流したっつうの!なんならテメーに俺の肛門洗わさせてやろうか!!」

「きゃあ、近寄るなー!」

 

さっきまでの綺麗な現実を破り捨て、怒涛のごとく汚い言葉を連呼するハヤさん。お尻を向けてアリサちゃんに迫り、そしてアリサちゃんは嫌そうな顔で叫びながら逃げてる。

そんな光景を見て私とすずかちゃんは顔を合わせて苦笑いを浮かべました。

 

「ねえ、なのはちゃん、隼さんっていつもこんな感じなの?」

 

私にとってはいつも通りのハヤさんだけど、すずかちゃんはちょっと意外みたいで。……ああ、そういえばすずかちゃんもアリサちゃんもあの旅行の時以来ハヤさんには会ってないんだっけ?

 

「うん、いつもこんなだよ。旅行の時お酒飲んで酔ってたけど、その時と変わらない感じ。むしろこんなじゃない時はないくらい」

「あはは、お姉ちゃんからは少し聞かされてたけど、面白い人だね」

「うんうん」

 

気苦労や溜息も多くなるけどね。

でも、だからこそのハヤさん。

ハヤさんが来るといつもウチの中が賑やかになる。お父さんもお母さんもお兄ちゃんもお姉ちゃんたちも、いつも以上に表情豊かになる。

 

「ハヤさんといると毎日飽きないよ。飽きなさ過ぎて、一周回って新鮮さすら感じかな。それはもう疲れるくらい」

「あはは」

 

ここ数ヶ月ハヤさんと幾度となく、幾時間となく過ごして分かったのは、一日の濃度がすっごく濃くなるということ。本当、めまぐるしいくらいに物事が転々とする。あるいは一つの物事だけで終わる。

 

「よくも悪くもトラブルメーカーというか、ムードメーカーというか」

「恭也さんとは真逆のタイプみたいだね」

「う~ん、似てるところもあるけどね。でも、基本疲れるよ。ハヤさんの相手」

 

そうやってすずかちゃんとハヤさんについて談笑してた時、座っていたソファの後ろからにゅっと腕が出てきて肩に回された。

もちろん、それは絶賛話題の本人です。

 

「よう、なのは。なに本人を他所に愉快な話してんだ?疲れる?そうかそうか、だったらマッサージしてやろう」

「ちょ、ハヤさん!?それマッサージじゃなくてただ首を絞め……に゛ゃあああ!?!?」

「わわわっ!」

 

ハヤさんは絶妙な力加減で私の首に回した腕を絞めてくる。苦しいというほどではなく、けれど圧迫感がある。

ハヤさんからこういう事されるのはもはや慣れっこな私。ただのおふざけであり、ハヤさんもそのつもり。けれど、傍から見たら普通に虐めてるように見えたみたいで──。

 

「は、隼さん!なのはちゃんは、あの別に、その、隼さんの事を悪く言ったわけじゃ……」

 

慌てた様子のすずかちゃんが必死な顔で弁解してくれる。それを見てハヤさんは少しだけバツの悪そうな顔になって私の首から腕を放した。

 

「大丈夫。わーってるから。ただちょっとイジってやっただけだから。あっちより少し軽めによ」

 

あっち、とハヤさんが顎をしゃくった先にいたのは向かいのソファでぐったりしているアリサちゃん。それを見てすずかちゃんがまた少し驚き、私は苦笑をひとつ。

 

「このクソ隼、お、覚えときなさい、よ……!」

 

アリサちゃんが恨みの目をハヤさんに向けるも、そこには力が入っていない。

一体何をしたのかは分からないし、聞いたらヤブヘビになりそうだから絶対に聞かない。

 

「で、なのはにすずか。一体何の話してたんだよ。まさかお前らまで俺のお漏らし話か?だったらこっちもそれ相応の仕置きしちゃうぞ~」

 

ハヤさんはドカッと遠慮なく私とすずかちゃんの間に座り、指をポキポキと鳴らして威嚇。それを見て『あ、まずい。これ本気の顔だ』と判断した私は、すぐに頭を振る。

 

「ち、違う違う。そんな事話してないよ!ね、すずかちゃん」

「は、はい!」

「ふ~ん。まっ、そういう事にしといてやろう。俺ももう蒸し返したくねーしマジで。ガキ3人の前でお漏らしとか、人生で3本……いや5……10……20本の指には入る赤っ恥だからな」

 

え、まだ他に19の赤っ恥エピソードあるの?ハヤさんって今までどれだけ恥じ晒しながら生きて来たの?──と思ったけど口が裂けても言えない。言ったら終わる。冗談抜きで泣かされる。だって経験済みだから。

 

「で、だったら俺の話って何よ?あ、もしかして『隼さんってカッコイイね』『うん、絶世の美男子だよね』とか?いや~照れるぜ」

「ぷっ、それはあり得な……」

 

しまっ!?口が滑っ──!?

 

「なのは、お前はホントにか・わ・い・い・なァァアアアア!?」

「に゛ゃあああああああ!?!?」

「な、なのはちゃーーーん!?!?」

 

すずかちゃんの声を聞きながら、私はアリサちゃんと同じようにソファに沈むことになったのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて。

つい口を滑らせてテキサスクローバーホールドを貰ってから十数分後、ようやく痛みも取れて落ち着いて話ができる様になった時──こちらも同じくアキレス腱固めからの痛みが引いたアリサちゃんが言いました。

 

「ねえ、その魔導師っての、私やすずかもなれるの?」

 

その質問は、まあ当然の事だと思う。正直、予想もしてた。だってもし私が逆の立場なら聞いてたと思うから。

 

「なんだ、アリサ、魔導師になりてーの?」

「なりたいっていうか、単純に興味があるのよ。魔法、使ってみたいじゃない。すずかもでしょ?」

「うん、私もちょっと興味あるかな」

 

だよね。うん、私もそう思う。そんなマンガみたいな力があったら使ってみたいもんねぇ。気持ちは分かる。そして、たぶん二人が喜ぶ回答が私には出来る。

 

(だって結界に入ってこれたってことは、素質?みたいなのがあるってことだよね)

 

前ユーノ君から聞いた事がある。

あの結界に入ってこれたり、見たり感じたり出来るのは同じ魔導師か潜在的にその力を持ってる人だけだって。

だから、二人はたぶん魔導師になれる。なれちゃう。

 

(けど、そう言っていいのかな?)

 

私の時はたぶん特例だったんだろうけど、普通こういう事ってやっぱり管理局を通すべきだよね?ううん、それ以前に二人を魔導師にしていいのかな?

魔導師になるって事は良いことばかりじゃない。今回みたいに戦ったり、お父さんやお母さんに秘密を持ったり、遊びに行けなくなったり……。

もちろん、私は魔導師になって後悔はしてない。良いこと悪いことあるけど、総合したらプラスの方に傾く。

 

けど、それは私の感性、価値観であって、二人はどうか分からない。

 

一時は喜ぶかもしれない。けどすぐ後悔するかもしれない。魔導師なんてならなきゃよかったと泣かれるかもしれない。あまつさえ二人がもし怪我なんてしたらと思うと……どうしても正直に言えない。

 

(嘘をつく?いやだ、友達にもうこれ以上何かを隠すなんて!……でも)

 

悩む私。葛藤する私。

 

そして、そんな私を他所に───。

 

「二人ともなれるんじゃね?確か結界の中入れる奴って魔力持ってる奴だけだし。やったな!」

 

───ブレないね、ハヤさん。私の葛藤返して。

 

「あのね、ハヤさん。ハヤさんがいろいろぶち壊しにするのは慣れてるけど、少しは悩んだり葛藤したり考えたりしよ?思ったことを思ったままに口に出すの止めよ?」

「は?アホか。悩むとか葛藤とか考えるとか、そりゃ馬鹿のする事だ。何事も真っ直ぐ行って右ストレート!」

「うん、馬鹿のすることというか、馬鹿を見るね。右ストレート貰っちゃうね。今の私みたいに」

 

大きな、大きな溜息を吐く私。

世の中ってもっと難しく回ってるもんじゃないの?、とはハヤさんの前で何回も頭に浮かぶ考えだけど、そろそろその考えもどうでもよくなってきた。ハヤさんといる時に限っては、あまり物事を深く考えないほうがいいのかもしれない。

 

「え、本当に?なのは」

「私たち、魔導師になれるの?」

 

改めて確認してくる二人に、私は今までの考えを捨て去り頭を空っぽにした。すると思いのほか楽に、簡単に笑顔で頷くことが出来たのだから、内心では苦笑い。

 

「たぶんなれると思うよ。二人の魔力量がどのくらいかは分からないけど、簡単な魔法だったらデバイスの補助があればすぐにでも出来ると思う」

「「デバイス?」」

 

あ、そっか。デバイスの事説明しなきゃいけないよね。

私は首から提げてる待機状態のレイジングハートをそっともって二人に見せた。

 

「これが私のデバイス。公園で持ってた杖が展開状態で、今が待機状態なの。名前はレイジングハート」

《Hello,Miss Arisa,Miss Suzuka》

「わ、宝石が喋った!?」

「すご~い!」

 

驚く二人にちょっと微笑ましくなる。私も最初こんなだったなぁ……だったっけ?

 

「ねえ、そのデバイスっての、なのははどこかで貰ったの?」

「あ、レイジングハートはユーノ君から貰って……」

「え?ユーノ君って、なのはちゃんが飼ってるフェレットの名前じゃ……」

 

ああ、そうか。ユーノ君の事も教えてなかったんだ。今ここに本人はいないけど、別に喋っちゃってもいいよね?……うん、深く考えるだけ無駄だからいっか。というかもういっその事管理局の事も喋っちゃおう。その方が話がスムーズに進む。

真っ直ぐ行って右ストレート!あ、私の場合は左かな?

 

というわけで、ハヤさん式思考術で私は私の知ってる魔法関係の事について一通り喋った。隠すことなく、悩むことなく、知ってること全て。

もっとも、それほど私も知ってるわけじゃなく。話自体は数分で終わり。

 

「へ~、地球以外にも色んな世界があるのね」

「一度他の世界にも行ってみたいね」

「二人が魔導師になったら行けると思うよ」

「そうそう、それよ。魔導師。というかデバイス!そのデバイスってどこで手に入れるのよ」

 

あ、魔法関連の事で本題を見失ってた。そうだ、デバイスはどうすればいいのか?それを忘れてた。けど、そこでちょっと首を傾げる。

 

「えっと、ごめん、さっきも言ったけど私はユーノ君からデバイス貰ったから」

「そう言えばそうだったわね。ユーノ、余ってるの持ってないかしら?」

「う~ん、どうだろう?」

 

たぶん持ってない。使ってるの見たことないから。とすると、ある所で心当たりがあるのは──。

 

「管理局って所じゃないかな?」

 

私が思いついた場所に、どうやらすずかちゃんも行き着いたみたい。ただし、すずかちゃんはさらに自論を加えてこう続けた。

 

「でも、話を聞く限りじゃ難しいかも。なのはちゃんの時は緊急処置みたいな感じだったみたいだけど、普通は簡単に持たせてくれないんじゃないかな?警察なんかでも試験受ける人って、本人だけじゃなく家族とかの前歴も調べるって聞きたことあるから、少なくても私たちにデバイスを預けても大丈夫って判断されなくちゃ駄目だと思う。例えばなのはちゃんは、最初は管理局は感知してなかったみたいだけど、ジュエルシードっていう危ないものを集める事によって結果『管理局に害はなく、むしろ協力的姿勢を見せた』という事になった。ううん、むしろ感知していないにも関わらず『自分たちと同じ理念で結果を出した』事が大きいのかな?そして『もしかしたら、また次こんな事件があるかもしれない。今回の実績を考慮すると、今後も管理局の為になる』から、今もレイジングハートを持ってても大丈夫なんじゃないかな?組織って明日明後日じゃなく10年20年後、ミクロじゃなくマクロで物を測って先を見るものだから」

 

お、おお~!すごいすずかちゃん!

確かにリンディさんもそれっぽいこと言ってた。管理局は人手不足だから優秀な魔導師は歓迎、今後ともよろしく、みたいな事を。

 

「す、すずか、あんた何かの組織でも入ってんの?それとも会社でも設立するわけ?」

「組織っていうか一族っていうか……う、ううん、何でもない!」

 

何か言いよどむすずかちゃんをおいて、私は関心するしかない。すごいよね、同い年とは思えないくらい何というか、思慮深い?私も(自分で言うのもアレだけど)大人びてる考えをする方だと思うけど、すずかちゃんはもっと大人っぽい。

 

(でも、だから……だから、不味い)

 

関心するしかない、と思ったけどそれは訂正します。

すずかちゃんのその考えは非常に、ひっじょーに不味いよ。駄目なんだよ。危ないんだよ。ここじゃなければ良かったかもしれない。クラスメイト、家族相手だったら良かったかもしれない。でもね、今この時だけは本当に駄目なの。

そういう考えを───子供であるずずかちゃんが、そんな大人びた考えを『あの人』の前でお披露目しちゃいけないんだよ。

 

「す~ず~か~ちゃ~ん?」

「ふぇ?」

 

何故か今まで話には入ってこず沈黙していた『あの人』ことハヤさんは、いつの間にかすずかちゃんの背後に回っており、そしてその大きな手でガシリとすずかちゃんの頭を鷲づかみした。

 

「人が考え事してる間になにマせた物言いぶっこいてんのかなァ!?そういうガキらしくねー言葉、お兄さん大嫌いなんだよねえええ!」

「ぅきゃああああ!?!?」

 

ぐるんぐるんとすずかちゃんの頭をシェイクするハヤさん。

あ~あ、とうとうすずかちゃんもハヤさんの餌食になっちゃった。これで、これから確実にすずかちゃんも私のようにいろいろ強制的にぶち壊されていくんだろうな~。ハヤさん、一度子供らしくない子供を発見すると、子供らしさを取り戻すまで容赦しないからね(実体験で継続中)。

 

ていうかハヤさん、考え事してたって言ってるけど、考え事しないんじゃなかったの?右ストレートは?またその場の気分でテキトーな事言ったのかな?───なんていうツッコミはしない。私の口はそう何度も滑りません。それよりも、とりあえずすずかちゃんへの暴挙を止めるのが優先。

 

「ハヤさん、すずかちゃんはまだハヤさんへの耐性が出来てないんだからもうその辺で……」

「あ?耐性ってなんだよ?てか、なのは、お前ホント最近生意気だぞ。まー、お前の生意気は可愛いからデコピンで許すけど」

「ちょ、ハヤさんのデコピンって尋常に゛ゃ!?!?」

 

言い終わるより早く、ハヤさんのデコピンが炸裂。とても一本の指から繰り出されたとは思えないほどの痛みがおでこを襲いました。

うう~、私のお口の馬鹿!

 

「ったく、なのはは最近こんなだし、アリサはどこぞのロリータ下位互換みたいでちょっとしか可愛くないし、アリシア並みの単純可愛さを持ってると思っていたすずかもまさかだったし。ハァ、最近のガキのガキ離れのなんと嘆かわしいことか」

 

ドンとソファに座るハヤさん。その膝の上には目を回しきってるすずかちゃん。すごいね、私、本当に目を回してる人ってはじめて見た。自分以外で。

 

「うう、痛い」

「ふん、これに懲りたら俺の癇に障らない程度の無邪気で可愛いガキでいろや」

「滅茶苦茶なの!」

 

私が涙目でぷんすかと怒ると、ハヤさん満足したのか笑いながら赤くなった私のおでこを優しく撫でてくれた。……このくらいじゃ許さないもん!

 

「それで、ハヤさんは一体何考えてたの?」

 

これ以上不用意な発言をしない為、会話の主導権をハヤさんに譲る。

 

「あ、あー、まあなんつうか……いや、マジでなんつうかさ」

 

ハヤさんらしくない歯切れの悪さ。その顔もちょっとだけ苦々しい。

どうしたんだろうと思っているとハヤさんは膝上にいるすずかちゃんと向かいのソファに寝そべるアリサちゃんを交互に見比べ、溜息をつくような気だるさで話し出した。

 

「すずか、アリサ、お前らにさ、旅行の時玉やったじゃん?紫と赤の玉。あれ、今も持ってる?」

「は?うん、まあ持ってるわよ」

「ふぇ……あ、はい、持って……あれ!?なんで私隼さんの膝の上?!?」

「ちょい貸してくれ」

 

そう言うハヤさんにアリサちゃんは訝しげに、すずかちゃんはハヤさんの膝の上から退こうとし、けれどガッチりホールドされてる事に気づいて慌てながら、それぞれ首から提げていた玉をハヤさんに手渡した。

 

「一体どうしたのハヤさん?」

「いや、ちょっとな。まさかとは思うが、まあ一応確認っつうか?まさかそんなわけねーべ的な?……さて、しかしどうするか」

 

ハヤさんはよく分からない事を言いながら、渡された玉を電気にかざして見たり手のひらの上でコロコロと転がしてみたりしだす。

本当に一体なんなんだろう?

そう思っていたとき、徐に感じた魔力の気配。それは単にハヤさんが出したみたいで、それ自体極小さいものだったけれど、それによって現れた現象は目を見張るものでした。

 

「「「光った!?!?」」」

 

ハヤさんが手に持っている玉が小さく淡くだけど、暖かさを感じる光を発し始めた。

この現象、私は知ってる。

初めて見たのは、あれはそう……夜、ジュエルシードの暴走体を前にユーノ君からレイジングハートを渡された時。

つまり、これは。その玉は。

 

「それデバイスだったの!?」

「………みたいね~」

 

言葉自体は他人事で、でもその調子は何か痛みを堪えてるかのそれで。事実、ハヤさんは頭痛でもするかのように眉間をグリグリ。

 

「あんの変態野郎、一体何考えてこんなもん寄越しやがったんだ……」

 

何事か呟くハヤさん、驚く私。そしてアリサちゃんは興味と興奮と嬉しさが混じったような様子でハヤさんに詰め寄り、同じくすずかちゃんもハヤさんの膝の上で目をまん丸にしてデバイスコアを観察してる。

 

「ちょ、隼、それホントにデバイスなの!?」

「ああ、どうやらそうらしいな。ホレ、返すわ」

 

恐る恐るコアを受け取ったアリサちゃんとすずかちゃん。その瞬間、二つのコアが数度明滅。

 

《Nice to meet you, Miss. Suzuka》

《Nice to meet you, Miss. Arisa》

「喋った!?」

「ほ、ホントにデバイスだ!」

 

テンションを上げて騒ぎ出す二人を他所に、ハヤさんは大きな溜息を吐くと膝の上からすずかちゃんを降ろし、タバコを出しながら一人縁側へ。私も二人を置いてハヤさんの後を追う。

 

「ねえハヤさん、あのデバイスどうしたの?」

「……貰った」

 

ハヤさんの隣に並んで尋ねると、ハヤさんはタバコ咥えながらそう言った。

私は「誰から?」って聞きたかったけど、どうやら聞かないほうがいいみたい。なぜなら、ハヤさんの表情が「聞くな」と物語ってるから。もっと厳密に言うと、「聞いてもいいけど、その代わり俺の機嫌が良くなるまでお前をイジメる」と物語ってる。だから絶対に聞かないです。はい。

 

「クソ、マジで一体どういうつもりだ?確か俺の手助けをしてくれる奴を見つけるとか何とか言ってやがったけど………え、それって手助けされるような事態が待ってるって事?また厄介事?いやいや、もう本編終わったんだぜ?今後日談だぜ?これ以上厄介事なんてあるかよあらないで下さい」

「え、ええっと、よく分からないけど……ハヤさん、元気出してね?」

「元気?……元気の出し方ってどうやるんだっけ?……ああ、そっかお酒飲もう。それとも喧嘩しようかな。あ、なのは、俺に泣かされてみない?」

「どうしてそうなるの!?嫌だよ!」

 

何だか一人影を背負っているハヤさんに対し、私はちょっとだけ距離を取った。何だかこのままだと本当に憂さ晴らしの捌け口にされそうだから。おそらく経験上、7割強の確立で。

 

「なのは!」

 

と、しかし。

どうやら今回は残りの約2割の方を手繰り寄せることに成功したみたいで、私とハヤさんの空いた距離の間にアリサちゃんとすずかちゃんが入ってきてくれた。

 

「ねぇなのは、これで私たちも魔法って使えるのよね?」

「え?あ、うん、たぶんだけどデバイスの補助があれば……」

「やった!空飛ぶのはちょっと怖いけど、なんかこうドーンって出せるのよね?犬と会話できるようになる魔法とかもあるのかしら?ほら、すずかも喜びなさいよ」

 

興奮冷めやらぬアリサちゃんに対して、何故かすずかちゃんはさっきまでのテンションが嘘のようにどこか遠慮気味。

それに疑問を抱いた私とアリサちゃんがすずかちゃんに問う前に、すずかちゃんがハヤさんに向かっておずおずと口を開いた。

 

「あの、でも隼さん、いいんですか?このデバイス、本当に貰っても……。その様子だと、これがデバイスって知らなかったんですよね?だったらやっぱりお返しした方が……」

 

すずかちゃんらしいその言葉。相手の様子や都合を慮って、自分を抑えて相手を汲み取るその姿はやっぱり私なんかよりずっと大人。

隣で聞いてたアリサちゃんもハッと思い至ったみたいだけど、でもやっぱり魔法という魅力の方が大きいみたいで返したくない様子。

私だったら、どうしただろう、と考えるけど、でも分かることがある。

 

この場合の──ハヤさんに向ける正解は、アリサちゃんだってこと。そして間違えたすずかちゃんには洩れなくハヤさんからのオシオキが待っているということ。

 

「は、はやふひゃひゃん!?」

 

いつの間にかタバコを捨ててたハヤさんはすずかちゃんと視線を合わせるようにしゃがむと、その両手で彼女の両頬をぐにっと摘み上げた。

 

「だからよぉ、すずか~。俺ぁそういうガキらしくねーお利口さんは好きじゃねーんだよ。次、俺の事を覗って自分の気持ち殺すような発言したら物理的にヤっちまうぞコラ。第一、男が一度くれてやったモン返せなんて言えるかよ。それもガキ相手に。だからそれはもうテメエのモンだ。分かったか?分かったら返事!」

「ひゃ、ひゃい!」

「うし」

 

ハヤさんはそこで漸くすずかちゃんの頬から手を離し、今度は笑って頭を撫でながら言った。

 

「いいか、すずか。人の気持ちを思いやるってのは大切だが、そりゃあダチだけにしとけ。少なくとも俺にゃ不要だ。必要なのはガキらしい笑顔。これ必需品」

「笑顔、ですか?」

「そっ。だからあんま難しい顔ばっかしてんなよ。せっかくめっちゃ可愛いのに萎えるっつうの。俺が大好きなのは笑顔のすずか。OK?」

「か、かわっ!?好き!?」

「そうそう、そういうガキらしい照れも!家に帰りゃツンツンロリやサイコロリの相手ばっかだからなぁ……あー癒される。なあ、なのは、すずかお持ち帰りしていいか?」

 

私に聞かないで。それとそろそろすずかちゃんへのナデナデを止めたほうがいいの思うの。すずかちゃん、ちょっと見たことないくらい顔が真っ赤っ赤になってるよ?

それとすずかちゃんもだけどアリサちゃんも、ハヤさんへの耐性ないんだよ?耐性っていうか、性格?ハヤさんがどれくらい子供好きかって知らないんだよ?だから隣にいるアリサちゃん、目を剥いて驚いてるよ?「何あれ?」とか呟いてるよ?「気持ち悪い」とか呟いてるよ?「うすうす感じてたけど、やっぱりロリコンってやつ?」とか呟いてるよ?

 

「さってと。可愛いすずかも堪能したし、それじゃ気を取り直して、というか持ち直してというか、もういっそ開き直って次のステップに進むか!」

 

パンと膝を叩いて立ち上がったハヤさん。その隣には心なしか寄り添うように佇み、顔を真っ赤にしながら『ぽや~』と擬音がつきそうな感じでハヤさんを見上げるすずかちゃん。対するアリサちゃんはハヤさんから心なしか……ううん、明確に距離を離している。擬音をつけるとすると『うげっ!?』。

なんだろう、すずかちゃんとアリサちゃんのハヤさんへの好感度が真逆を行ってるのが見て取れちゃうなー。

 

さておき。

 

「次のステップって?」

「決まってるだろ?───ピピルマピピルマプリリンパ パパレホパパレホドリミンパ、だ!!」

 

は?

 




更新遅くなり大変申し訳ありません。
なのは視点、書き難いのに書きたい事が後から後から出てきてしまって結局今回で終われませんでした汗
As編、もう少々お待ちを。

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