フリーターと写本の仲間たちのリリックな日々   作:スピーク

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※この話にはとらハ要素が含まれています。またそれに伴いリリカルなのは側も改変してあります。ご了承ください。



なのは後日談 前編

え?後日談?……後日談?……にゃ?

 

あの……ごめんなさい……後日談って何?

 

後日談ってあれだよね?本編が終わったあとの、その後のお話みたいな。……ええっと、まずよく分からないんだけど……そもそも本編ってなに?いつあったの?

 

私がユーノ君からレイジング・ハートをもらって魔導師になった話?……あ、それともジュエルシードを集めてた時かな?

 

それなら話は簡単、というよりあんまり話すことないよ?だっていつも通りだもん。魔導師にはなったけど、学校行って勉強して、アリサちゃんやすずかちゃんたちと遊んだりして、お店のお手伝いしたりして……。唯一変わったのは魔法の訓練が加わった事くらいだけど、あとは普段通り、魔導師になる前と全然変わらな───────あ。

 

…………ううん。

………………うん、ごめんなさい、訂正です。

 

変わってました。変わっちゃってました。変えられちゃってました。にゃはは。

 

普段の生活が、とかじゃなくて、何というか……常識?価値観?

 

言葉で表すのは難しいけど、でも確かに私は変わったと思います。最近もよくお父さんやお兄ちゃんから「なのは、なんか最近変わったな。いい意味で子供らしくなったというか、何かを抱え込むような顔しなくなった」って言われて頭撫でられた覚えがあるから。

そうなのかな?とその時は思ったけど、改めて見ると、そうかも、とも思う。

子供らしくなかった、抱え込んでた……今にして思えば、思い当たる節はある。だって、今までいろいろあったから。

 

魔導師になるさらに前……きっとお父さんが一時期入院してた時に、たぶん私から『子供らしい』という姿を奪ったんだと。

 

お母さんが悲しんでた。お兄ちゃんやお姉ちゃんが悲しんでた。それでもお店があるから、皆悲しみを押し隠して働いて……そんな中、小さくて無力な私はお店のお手伝いも今のように出来ない。だから、せめて皆の負担をこれ以上増やさない為に笑顔でいた。なのはは一人で大丈夫だから、と家で大人しく待っていた。ほんとはお母さんやお兄ちゃんたちとずっと一緒にいたかったけど、そんな我が儘なんて言えるわけない。ほんの数ヶ月だけど、でも寂しかったのは覚えてる。一人、大きなリビングでぬいぐるみ相手に遊んでいた事を覚えてる。……そして、それに慣れていく自分がいました。

 

数ヵ月後、お父さんは無事退院してまた元の生活に戻った。家族皆でいられる生活に戻った。もちろん嬉しかったけど……たぶん、私は、そこで子供に戻れなかったんだと思う。

今でもはっきり覚えてる。お父さんが退院して落ち着いてきた時、お兄ちゃんに「なのは、今まであまりかまってやれなくて悪かったな」と言われたその言葉に「ううん、なのははこれからも全然一人で大丈夫だから!」───自然に、ただただ自然にそう返した時のお兄ちゃんの表情……申し訳なさと、悔しさに滲んだ顔。

 

当時は『何でそんな顔するんだろう?』と思ったけど、今なら何となく分かる。……きっと子供が言っちゃいけない言葉なんだと。強がりでもなんでもなく、子供が抱いていい気持ちではなかったと。でも、当時は分からなくて……だから、そのまま成長した。良くも悪くも成長した。

 

お店に出て手伝うようになり───人の機微が分かるようになった。大人の人への対応を覚えた。顔色を窺うようになった。自分の立ち位置を把握出来た。そして、それは学校でも、近所の人にでも、見知らぬ他人にでも応用が効くんだと理解出来た。

 

もちろん、それらはお母さんやお父さんに比べて拙いものだろうけれど、でも、まだ小学生が覚える事じゃないんだということが今なら分かる───分からされちゃった。

ある人が分からせてくれました。

 

『ガキはガキらしくしてろやムカつく。「私、大人への対応慣れてますから~」みたいな気色悪ぃ敬語使って挨拶なぞしやがってよォ。はっ倒すぞボケ。お?』

 

旅行に行ったとき、夜お父さんの部屋でお父さんと一緒にお酒を飲んでいた男の人に私が自己紹介をした後、開口一番に返ってきたのがそんな言葉。私の目を見て、不愉快さを隠そうともせず、怒気すら込めて率直に言われたその言葉。

 

一緒にいたアリサちゃんとすずかちゃんはその男の人の言動に驚いていた。

お父さんはちょっと驚いたあと、とっても嬉しそうな顔をその男の人に向けていた。

私は……たぶん、呆然としてた。だって、そんな事言われたことなかったから。たいていは「よく出来た子だね」って言われてたから。…………それなのに、いきなり『ムカつく。ボケ』だもんね。にゃははっ。

 

──鈴木隼。ハヤさん。

 

この人のおかげで私は変わった。ううん、戻ったのかな?子供らしくなったんだと思う。

 

………………まぁ正確には子供らしくされたんだけどね。

だってハヤさん、私がちょっと畏まったりするとすぐ拳骨したり、ほっぺた引っ張ったり、鼻つまんだりするんだもん!しかも最近じゃあお兄ちゃんと一緒になってイジメてくるからもっと酷い!この前なんて脇くすぐられて笑いすぎで息ができなくなってたのに、それでもやめてくれなくて……あの時は、最後本気で泣きました。その後ハヤさん、お母さんとお姉ちゃんに怒られてた。ふん、ざまーみろ、なの。……でも、さらにその後、いきなりハヤさんが部屋に来て「テメエのせいで桃子さんと美由希ちゃんに怒られちまったじゃねーか!」なんて言いながら、ベッドの中で泣いてた私にフライングボディプレスしてきた時は、流石にバスターで迎撃しようかどうか悩んだ。

 

ハァ。ホント、ハヤさんって滅茶苦茶だよ。ガキはガキらしくしてろってハヤさんよく言うけど、たぶん、というか絶対ハヤさんの方が子供だよね!大人の男の人なのに!

 

お父さん、お兄ちゃん、勇吾さん、真一郎さん……その他にも私の知ってる大人の男の人たちは皆優しかったりかっこいいなって思ったりする。お父さんやお兄ちゃんは時々怖かったり意地悪だったりするし、勇吾さんや真一郎さんとはお兄ちゃんを介した知り合いっていうだけで、本当の所は分かっていないのかもしれないけれど、でもやっぱり皆優しいと思うし、かっこいいとも思う。

 

そんな中で改めてハヤさんを思い浮かべると…………うん、まあ……うん。

かっこいい所はないけれど、ちょっとだけ優しい所があるのは知ってる。でもそれ以上に『面白い』って言う印象かな?『楽しい』や『可笑しい』っていうのも強いなぁ。あっ、あと忘れちゃいけないのが『滅茶苦茶』!

 

その証拠にこの前だって───あ。そっか。うん、丁度いい。

 

それじゃあ私はそのお話をします。

何の後日談になるのかは分からないけど、その時のお話を。面白くて、楽しくて、可笑しくて、でもやっぱり総合的には滅茶苦茶で。

 

私と私の親友二人も巻き込んだ、私にとっては記憶に強く残って、でもきっとハヤさんにとっては平常運転で過ごしたであろう───そんなとある一日のお話です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏休みに入って数日後のとある朝。

いつも通り目を覚まし、着替えて1階に降り洗面所で顔をあらってリビングへ。そこで家族の皆と朝ごはんを食べて、私は欠伸を噛み殺しながら近くの公園にラジオ体操へ。

それが終わって家に帰れば、みんなはもういない。お父さんとお母さんとお姉ちゃんはお店に行き、お兄ちゃんは昨日から彼女さんである忍お姉ちゃんの家に行ってる。残り二人のお姉ちゃん的存在も部活の合宿中。

つまり、お店に手伝いに行くか、友達と遊びに行くかしないと、基本的に夏休みは家で一人な私。それが少し寂しいとは思ってたけど、もはや慣れた日常。──けれど、それは、去年までの日常です。

 

「あ、えっと、おかえりなのは」

 

ラジオ体操から帰って来た私を迎えたのは、一人の男の子。

 

「ただいま、ユーノ君」

 

ユーノ君──ユーノ・スクライア。

数ヶ月前出会った私と同い年の男の子。私に『魔法』というものを与えてくれた子。

いつもは変身したフェレットの姿だけど、お父さんたちがいない時、私と二人きりの時は今のように元の人間の男の子の姿です。

 

「あ、ユーノ君、待ってて。朝ごはんすぐに出すから」

 

お母さんに頼んで作ってもらっておいたサンドウィッチを冷蔵庫から取り出しながら、座っていたユーノ君に差し出す。

本当はユーノ君も朝みんなと一緒にごはん食べらればいいんだけど、まだ家族にユーノ君の事はおろか魔法の事も話してないからなぁ。話そうと思えば話せるし、管理局のリンディさんにも家族になら話しても構わないって言われてるけど……話してどういう反応が返ってくるかちょっと不安で、まだ話せていない。危険だ、やめなさいって言われると困る。少なくとも今は。

 

(だって、まだジュエルシード全部回収出来てないんだもんね……)

 

私が魔導師となった切っ掛けのジュエルシード。その回収を今管理局の人たちと一緒にやってるんだけど、この数ヶ月で回収出来たのが20個……残り1個がまだ見つかっていない。それが回収出来れば、一区切りして話せると思うんだけど。

うん、やっぱり早く見つけないと。

 

(いつまでもお父さんたちに隠し事もしたくないしね!…………ちゃんと隠せてるよね?)

 

ジュエルシードが見つかったと管理局の人から通信が来て、夜中に家を出ることもある。その時はもちろんこっそりと、物音を立てないよう気づかれないよう家を出るんだけど……。

 

(皆、普通じゃないからなぁ。特にお父さんとお兄ちゃんとお姉ちゃんは)

 

気づかれているかもしれない。特に3人には。だって魔導師になった私から見てもお父さんたち、ちょっと普通じゃないもん。剣の鍛錬を山の中で数時間ぶっ通しでやるくらいだし。今まで私が戦ってきたジュエルシードの怪物とかとも、多分お父さんたちだったら相手に出来ると思う。むしろ圧勝しそうで怖い。

 

(…………よし、考えないようにしよう!)

 

脳裏に『みんなに話して協力してもらったらいいのでは?』という考えが浮かんだけど、そうすると滅茶苦茶になりそうなので即却下。

それに自分で始めた事は自分できちんと終わらせたい。……何より、皆忙しいのにこれ以上いらない負担かけたくない。

 

「ユーノ君、今日はこの後すぐジュエルシード探しに行こ!」

 

気持ちを入れ直し、私はぐっと拳を握る。

 

「え、僕はいいけど、でもなのは夏休みに入ってずっとジュエルシード探しだし、たまには休んだら?最近はアリサやすずかの誘いも断ってるみたいだし……」

「そうだけど……でも、あと1個だから。それが終われば皆といっぱい遊ぶから大丈夫!もちろんユーノ君とも!」

「あはは。うん、それは嬉しいけど夏休みの宿題も忘れないでね?」

「うにゃあ~、それを言わないで~!」

 

うな垂れながらも、私は出かける準備をすべく部屋へと向かおうとし──そこでチャイムの音が家に響いた。

 

(にゃ?誰だろう?)

 

時計を見るとまだ朝の8時前。人が来るには早い時間だし、そもそも来客が来るとは聞いていない。もしかしたら管理局の人の誰かかとも思ったけど、そんな連絡も受けていない。見ればユーノ君も首をかしげてるので、やっぱり管理局の人じゃなさそう。

だったら、やっぱり誰?

そう思っていると、早く出ろと急かすように二度目のチャイムが響く。

 

「は、は~い、今出ま~す!」

 

小走りに玄関げ向かう。うちの玄関にはインターフォンも覗き窓もついてないので、扉の前で確認しなきゃならない。以前一度確認せず扉を開けてお兄ちゃんに「無用心だ」と叱られた事がある。

 

「どちら様ですか?」

 

果たして、返って来た声は──。

 

「うぃ~す。俺だ。さっさと開けろ」

 

……………………うん。まあ、うん。分かるよ?知ってる人の声だし、最近じゃあ家族やユーノ君以外で一番よく聞く声だから分かるよ?分かるけどさ。

 

「…………ハァ」

 

私は呆れながら扉を開けると案の定、そこにはよくよく見知った男の人が立っていました。

 

「ハヤさん、せめて名前言ってよ……」

 

いつも通りなハヤさんがそこにはいました。

 

「あ?いちいち名乗らなくても分かんだろうが。てか、もうすでにツーカーの仲だろ。俺がツーと言えばお前はカー。俺が開けろと言えばお前はいらっしゃいませハヤさんようこそお越しくださいました、だろ」

「初耳だよ!?」

「まあ、そんなお行儀いい返答をお前みたいなガキにされたらぶっ飛ばすけど」

「理不尽だね!?」

 

朝の挨拶も抜きにコントのような事を玄関先で繰り広げる私とハヤさん。

いつもこう、と言えるほど頻繁に会ってるわけじゃないけど、会えば十中八九こんな感じでハヤさんのペースに巻き込まれる。それが良いことか悪いことかは分からないけど、楽しいのは事実だったりするからどうしようもない。

 

「で、今日はこんな朝早くからどうしたの?」

「いやっははは。もう待ちきれなくてよぉ」

 

興奮気味に言うハヤさんだけど、一体何が待ちきれなかったんだろう?

首を傾げる私を他所にハヤさんは変わらず、持っていたビニール袋を掲げてみせた。

 

「ほれ、差し入れだ。昨日買っといたビールと、飲めない奴用のジュース。あ、金は心配すんな?俺の奢りだ、お・ご・り!なにせ今俺ぁリッチマンだからなぁ!!」

 

そう言ってご満悦に笑うハヤさんは事実、ここ最近お金持ちになったらしい。この前も買ったっていう車に乗せてもらった。

お仕事始めたのかなと思って尋ねてみたら『いや、ちょっといろいろあってよぉ。何はともあれ、俺ぁ働かずとも大金持ち!貧乏人だけ汗水たらして働いてな!俺は一生働かないでござるってなあ!わははは!!』という事らしい。…………う~ん、こういう大人、なんて言ったっけ?

さておき。

 

(……差し入れ?)

 

ハヤさんが持ってきたビールとジュース、かなりの量がある。まるで今から宴会でも始めるかのような量。でも、今日うちで何かやるなんて聞いていない。

 

「んじゃまぁ、いつまでこんなとこで立ち話もなんだ。早く来ちまった分、俺も手伝ってやんよ。お邪魔~」

「あ、ちょっと……!」

 

我が物顔で家に入っていくハヤさん。それはいつも通りだからもういいんだけど、ただハヤさん、やっぱり何か勘違いしてるっぽい。「手伝う」っていってるから、やっぱり宴会?

 

「あれ?隼?」

「よぉユーノ、おはようさん。いや~、待ちきれなくってもう来ちまったぜ」

 

リビングに入ったハヤさんは、そこにいたユーノくんに私に向けた言葉と同じ事を言った。

あ、もしかしてユーノくんと何か約束してたのかな?

そう思った私だけど、でもユーノくんの顔を見ればそうじゃないと分かった。ユーノ君も私と同様、頭の上に疑問符を浮かべていたから。

 

「差し入れ、テーブルに置いとくぜ。ん?なんだまだ全然準備してないっぽいな。まぁ、昼前開始だし、しょうがねーか」

 

満面の笑みで、意気揚々と、ルンルン気分で袋から飲み物を出して冷蔵庫に入れていくハヤさん。人の家の冷蔵庫を勝手に開けるその姿に今更なんの文句も出ないけど、代わりにここに来て私は言いたかった事を口にした。

 

「ハヤさん、何しに来たの?」

 

今日最大の疑問。

確かにハヤさんはいつも急にうちにやってくる事がある。あるいは翠屋のほうに来る。そして「あっちいなぁ。よしプール行こうぜ」とか「かっけぇー車だろ?自慢しに来た。ついでにドライブ行こうぜ」なんて事を言い出して、お兄ちゃんたちと一緒に遊びに行ったりした事もある。夜、うちに来てお父さんと飲み始めた時もあった。道場でお兄ちゃんとお姉ちゃんと手合わせ(ハヤさん曰く喧嘩)してる姿も見た。

 

ハヤさんがうちに来るには何か理由がある。何かをする為にうちに来る。というか、何かがないとハヤさんは基本的には動かないもん。

 

でも、今日のこれは皆目見当がつかない。……ううん、何かを『勘違い』してるって事だけは分かる。

 

「何しにって……おいおい、高町さんちのなのはちゃんや。な~にすっとぼけた事言ってんだ?」

 

やたらとテンションの高いハヤさんは、笑顔と共にこう言った。

 

「今日、バーベキューやんだろ?」

 

その問いに、私は真顔でこう返した。

 

「やんないよ」

 

その時のハヤさんの顔は、何て言うんだろう、こう……固まった?うん、笑顔で固まった。まるで時間はおろか魂すら固まったかのように、無動の姿勢で私を見てた。

その硬直は僅か数秒だったけど、人があんなに完全に固まる姿を私は漫画かアニメの中でしか知らない。

 

「…………は?」

 

再起動を果たしたハヤさんだけど、でも口から出たのはそんな言葉だけ。顔も笑顔のままでちょっと怖い。ただ、先ほどまでのテンションだけが綺麗に消え去ってた。

 

「えっと……ユーノ君もそんな話聞いてないよね?」

 

私は気まずくなってチラリとユーノ君を見る。ユーノ君も事情を察せたのか気まずそうに頷いた。

 

「う、うん、聞いてないかな。おじさんやおばさんもお店に行ったし、恭也さんや美由希さんたちもいないし。だから僕もこうして人の姿になれてて……ええっと……」

 

ユーノ君の言葉が尻すぼみになるにつれ、ハヤさんの顔が焦りと絶望に染まっていってるのが分かる。ただそれでも現実を見つめたくないのか、全然力と気持ちの入っていない笑いで誤魔化すハヤさん。

 

「あ、あはは、なのはもユーノも嘘が下手だぜ~?この俺を騙そうなんざ100年早いんだよ。だいたいバーベキューやるって聞いたのが昨日だぜ?昨日やるって言ってたのに今日ドタキャンはねーだろ」

 

昨日?そんな事誰も……そもそも誰がハヤさんに言ったんだろう?

 

「ハヤさん、バーベキューやるって誰から聞いたの?」

「ああ、レンと晶だよ。是非来てくださいお願いしますなんつってよぉ。あいつらもようやく俺の事を敬うようになったんだな」

 

レンお姉ちゃんと晶お姉ちゃん?

その二人ならちょっと前から部活道の合宿に行ってていないし、そもそも二人とハヤさんは仲が悪い……というか喧嘩するほど仲がいいというか。もともとレンお姉ちゃんと晶お姉ちゃんが犬猿の仲みたいな感じだったけど、そこにハヤさんが割って入ったというか。

ともかく、そんな二人がハヤさんに「お願いします」なんていう言葉、失礼だけど言うとは思えない。

 

「聞けばフィアッセさんも来るっていうじゃねーか!だから俺ぁもう待ちきれなくてよ!昨日なんて胸がドキドキで一睡も出来なくて、仕方ないから知り合いの三姉妹と一緒に一晩中ジェンガやってたんだよな」

 

フィアッセお姉ちゃんも来る?…………あれ?それって……。

 

「あの、ハヤさん」

「ん?」

「確かにバーベキューやるって話あったよ。フィアッセお姉ちゃんも来るっていう」

「おお、だろ!?なんだよ、俺が勘違いしてるかと思ってたけど、してたのはお前かよ。このおっちょこちょいちゃんめ」

 

そう言ってまたテンションが戻ってくるハヤさんだけど…………違う……違うんだよ、ハヤさん。

 

「話があったっていうか……もうやったよ?」

「なにが?」

「だから、もうやったの。先週、バーベキュー。フィアッセお姉ちゃんも来たよ」

「………………………………」

 

あ、また固まった。

 

「……先、週……?」

「う、うん、先週。フィアッセお姉ちゃんとティオレさんが来て。……あれ?ていうかハヤさんも呼んだよ?」

 

そう、先週バーベキューするって事になって、ハヤさんがフィアッセお姉ちゃんに会いたがってるってお父さんが言ってて、で、フィアッセお姉ちゃんもハヤさんに直接会ってみたいって言ってて、だったら呼ぼうかって話になった。

でも、結局ハヤさんは来なかった。

 

「よ、呼んだ!?し、知らねーぞ!?」

「へ?でもハヤさんに連絡したら『用事があるから行けない』って言ってたって……」

「用事だぁ!?この俺にフィアッセさんに会う機会以上の用事なんてあるかよ!例え親がその日臨終しようともこっちを優先させるわ!」

「そこは親優先しよ!?で、でも確かにレンお姉ちゃんと晶お姉ちゃんがハヤさんは来れないって言ってたって…………」

「レンと晶が…………おいちょっと待て」

 

ハヤさんが『まさか』といった顔つきになった。そして同時に私も気づいた。

今日も、そして前回も、ハヤさんに連絡をつけたのがレンお姉ちゃんと晶お姉ちゃんだという事を。そして、その二人とハヤさんはどちらかというと仲が悪いという事を。

 

そんな私たちの様子をまるでどこからか見ていたかのようなタイミングで、ハヤさんのポケットからLINE独特の着信音が聞こえた。

ポケットから携帯を取り出すハヤさんを見ながら、私はこの後の展開が予想出来た。

 

(レンお姉ちゃん、晶お姉ちゃんやり過ぎだよ……ああ~、絶対ハヤさん怒り狂うよぉ~!)

 

もちろん、結果は予想通り。

 

「あンの腐れ青緑どもがぁぁぁあああああああああああ!!!!!!」

 

青筋を多大に浮かべて携帯を床に叩きつけるハヤさんの姿がそこにはありました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レンお姉ちゃんと晶お姉ちゃんとハヤさんは仲があまりよくない。会えば喧嘩してるし、よくハヤさんが二人に悪戯してるのも見る。

詳しくは知らないけど、聞いた話しじゃレンお姉ちゃんとは昔病院で知り合い、晶お姉ちゃんとはどこかの道場で知り合ったらしく、私なんかよりも全然付き合いは長いみたい。一時は全然交流はなかったみたいだけど、翠屋で二人がウエイトレスしてた時ハヤさんが来て偶然再会。二人が私の家に居候してると聞いて驚き、そこから頻繁にやり取りするようになり、今の犬猿の形になった。

 

で、それを踏まえて今回の件。簡単に言えばこういう事みたい。

 

仕返し。

復讐。

 

それは大なり小なり誰もがやったことがある事だと思います。私だってある。やった事も、そしてやられた事も。でも私の場合、それは全部「もう!」とか「これでお相子だね」程度で済まされるものだと、今回のハヤさんの件を見て思いました。

 

ハヤさんに今まで散々苦渋を飲まされていた二人。どうにか仕返しする術はないかと考えていた所、今回のバーベキュー。二人はハヤさんへの連絡係を請け負ったにも関わらず、というか率先して請け負い、そしてわざと連絡せず。すべて終わった後、別の日(一週間後)に『明日開催』という嘘をついた。そしてハヤさんはルンルン気分で今日私の家に。

結果は……はい、ご覧のとおり。『残念!もう先週やったんだぜー!ざまーみろハヤ兄!』『やられたらやり返す、倍返しや!それがうちの流儀なんよ~』というLINEを晶お姉ちゃんとレンお姉ちゃんが送ってきたのがつい先ほど。

 

そして今、ハヤさんの機嫌は……。

 

「殺すあの関西中華と猪男女ぶっ殺す殺す殺す殺す殺す」

 

はい、誰が見ても分かる通りの極悪です。

 

「あ、あの、隼、落ち着い──」

「なあ、ユーノ、完全犯罪って魔法使えば出来るよな?ガキ二人くびり殺しても大丈夫だよな?そして虚数空間とか別世界にポイしようそうしよう」

「本当に落ち着いて!?」

 

ソファにハヤさんを挟んで私とユーノ君の3人が座り、暗黒面に落ちかけてるハヤさんを必死で説得する。

 

「ハ、ハヤさん、確かにお姉ちゃんたちはちょっとやり過ぎだと思うけど……」

「ちょっと?ちょっとだぁ!?まるでちょっとじゃねーよ!タチ悪すぎだろ!俺が昨日からどれだけワクワクしてたか……それをお前もうやったって………よほど殺されてーらしいなあのド畜生どもがぁあ!」

「ふ、二人もそこまで悪気があったわけじゃないと思うよ!……た、たぶん。えっと、ほら、茶目っ気?」

「ははは、茶目っ気か。よ~し、俺もお茶目な感じで二人をリリカルマジカルに殺してやろうかなあ~!や・ろ・お・か・なああああ!!」

 

あーダメだ。完全にハヤさんキてるよぁ。

確かに私も二人のやった事は酷いなと思ったけど。でもこのままじゃお姉ちゃんたちが悲惨な事になるのは明らか。ハヤさん、やると言ったらやる人だし。流石に一線は超えないと思うけど、その数mm手前までなら平気でやる人だし。

 

何か、何か別の事でハヤさんの溜飲を下げないと。

ユーノ君と二人あわあわする私たちだったけど、不意に頭の上にぽんと何か乗せられた。顔を上げればハヤさんが私とユーノ君の頭の上に手をおいて疲れたような笑みを浮かべていた。

 

「ったく、あの馬鹿二人もお前らみてーにもちっと可愛げがありゃ良かったのによ。それか逆にお前らに可愛げがなけりゃなー。八つ当たりもしやすいんだけどよ?」

 

そう言って置いた手を乱暴に動かして私とユーノ君の髪をワシャワシャし始めるハヤさん。

その行為もすでに慣れた事の一つ。ハヤさんからよくされる事の一つで、実のところ私の好きな行為の一つ。見ればユーノ君も頬を染め嬉しそうな顔してる。

 

「ハァ、取り敢えずもういいわ。今更ブーたれても現実が変わるわけじゃねーし。それに俺の怒りにお前らを巻き込むのもあれだしな」

「ハヤさん」

「隼」

「怒りはなるべくあの二人だけに向けるべきだよな。この俺をハメた落とし前、ぜってぇ付けさせてやんぜ!」

「「あ、あははは……」」

 

言葉は乱暴だけど、でもその調子は軽く、いつものハヤさんです。

 

「よし、んじゃ俺ぁもう帰るわ」

 

そう言って最後に私たちの頭を軽く叩き、立ち上がった。

 

「え、もう帰るの隼?」

「おう、別にこの後予定なんてねーけどここにいてもしゃーねーしな。恭也も美由希ちゃんもいねーし、お前らとゲームするって気分でもねーしな。適当に散歩して軽く気晴らしでもしながら帰るわ」

 

帰ってロリーズ相手に鬱憤晴らすのもありだな。

そう呟きながら玄関に向かうハヤさんに私もユーノ君もちょっと残念な面持ちを向ける。

機嫌が悪くて怒ってるハヤさんは兎も角、普段のハヤさんは意地悪だけど優しくて、何より一緒にいて楽しくて面白いから。

 

だから、私はつい言葉が出た。

 

「ねえハヤさん、気分転換じゃないけど一緒にジュエルシード探し行かない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つい口から出た提案は、実際のところ断られると思ってた。だって前に一度ハヤさんに同じようにお願いした事があるから。そしてその時やんわりと断られてる。

曰く『ジュエルシード探し手伝ってやりたいけど魔法使うと体が壊れる』らしい。…………言われた時は信じたけど、時が経つにつれ半信半疑。けど、それでも何かしら別の理由があると思ったから、それ以来お願いはしなかった。

で、今回。

つい出た言葉に返って来た答えは──。

 

『あん?まあ、いいぜ』

 

でした。…………うん、軽い。

そこで私は『魔法使う事になるかもしれないよ?体は大丈夫?』と尋ねた所──。

 

『体?………………ああ!そういやそんな事も言ったっけ?あんなの嘘に決まってんじゃん。ただメンドかっただけ』

 

でした。…………うん、清々しい。ハヤさんがどういう人か分かるようになった最近、薄々は気づいてたけど。

それでも悪びれもせず嘘と言いのけるハヤさんに呆れるしかないなぁ。同時にハヤさんらしいと思っちゃったけど。

 

そして現在、家を出てユーノ君、ハヤさんと一緒にジュエルシード探しという名の散歩をしています。ハヤさんと手をつないで。

 

「いや、離せよ。手ぇ離せよ。なんでガッチリ繋ぐんだよ。しかも両手」

 

ハヤさんの左手には私の右手、逆の手をユーノ君が握ってハヤさんを挟んでる状態で歩いてます。一見すると仲のいい兄弟みたいで、事実、ユーノ君は照れながらもちょっと嬉しそう。一人っ子だからかな?

 

「いや、なにのほほんとしてんだよ。だから何で手ぇ繋ぐんだよ。仲良しこよしの隼幼稚園ってか?入園費払えや」

「だって、こうやって捕まえてないとハヤさん、また喧嘩しちゃうもん」

 

そう、事件はついさっき。外に出てすぐの事。

何だかんだ言って結局というかやっぱりハヤさんの機嫌は治ってなかったみたい。そんな時、近くにある自動販売機の前で数人の男の人がタバコを加えて座り込んでたんです。周りには吸殻やゴミが散乱してた。見た目はお兄ちゃんと同じくらいの歳で、でもその格好は正反対に何だかだらしない人たちでした。

 

ちょっと嫌な感じだなぁ……。

 

そう思いながら前を通り過ぎようとした時、ハヤさんがやらかしたんです。

 

『おう、悪ぃ。まったく見えなかった。てか靴汚れちまったじゃねーか。おい、謝れ』

 

全く物怖じせず男の人たちの真正面に立つと、全く悪びれもせず一番近くにいた男の人をつま先で小突いてそう言ったんです。

もうね、この人は一体何をしてるんだろうと、私とユーノ君は茫然としましたよ、ええ。

もちろん、男の人達も黙ってなかった。すぐにハヤさんに食ってかかったんだけど──。

 

『よしよし、いいぞ~。そうこなっくっちゃよぉ。じゃ……憂さ晴らしじゃあああああ!!』

 

────謝り逃げていく男の人達の姿が私の目に写ったのは、その数十秒後でした。

 

そして今に至ります。

 

「なんで隼はそんな喧嘩っ早いんだよ……」

「うっせーな。それに結局喧嘩にはなんなかっただろ?ちっと睨んで小突いたら逃げやがって……ちっ、腰抜けどもが。不完全燃焼だ。男なら掛かってこいっての。な、ユーノ?」

「そこで僕に同意を求められても……でも、暴力はいけないと思うよ?」

 

ユーノ君が呆れて笑いながら言う。

それに私も同意かな。暴力ダメ絶対!

 

「まぁお前らが暴力的になったらなったでちょっと俺も複雑だから別にいいけど。……ああ、けどクソ!あの馬鹿二人のせいでストレスがマッハだぜ。気分悪ぃ~」

「気持ちは分かるけど……だからって知らない人に突然向かって行かないでよぉ」

「はん!鬱憤晴らせるなら誰でもいいんだよ。レンの奴が言ってたな。やられたらやり返すとかよ。確かに最終的にはあの二人に倍返すが……しかし甘ーい!」

 

ハヤさんが胸を張り、ドヤ顔で続けてこう言った。

 

「やられてなくてもやり返す!身に覚えのない奴にもやり返す!誰彼構わず、八つ当たりだ!!!」

「「それ、ただの迷惑な人だよね!?」」

「なははは!まずは適当に憂さ晴らす事が優先だー!」

 

なんてふざけた感じでハヤさんは言うけれど、実際の所はちょっと違うと思う。

ハヤさんは『誰彼構わず』じゃなく、きちんと相手を選んでる。他から見て迷惑になってる人や物、それかハヤさんの気持ちをきちんと受け止めてくれる人だけ。

もちろん、だからといって八つ当たりしちゃダメなんだけど……。そもそも暴力はいけないんだけど……。

 

(でも、たぶん、そういう所がハヤさんとさっきの人たちの違いなんだろうなぁ)

 

正直、ハヤさんもさっきの人たちと同じ、その、『不良』っていうのかな?そういう人だと思うし、さっきの人たちみたいな事を今までやった事もあるんだと思う。学生時代荒れてたって、お父さんがハヤさんから聞いたっていってたし。というかさっきも歩きダバコしようとしてたし。

でも、だからってあの人たちとハヤさんがまったく同じ部類の人間とは思えない。……良い人か悪い人かの二択でしか表せないならハヤさんは文句なく悪い人で、滅茶苦茶で、もうどうしようもない人だけど、でもまぁかろうじて───痛!?

 

「ちょ、ハヤさん!?手!強く握りすぎイタタタタタ!?!?」

 

急にハヤさんの握ってる手の力が強まった。見れば反対側のユーノくんも私と同じように声をあげて痛がってる。

 

「おう、なのはぁ~、ユーノ~、てめーら何か俺の悪口言ってんだろ、心の中で」

「「なんでわかるの?!」」

「やっぱりか。てめーら、最近ちょっと生意気だぞ~。最初の可愛げはどこにいったのやら。まあ、それでも十分可愛いけどな」

「う、うん、ありがイタ!?!?ハヤさん、手!」

「隼、本気で痛いよ!?」

「さっ、このまま海鳴公園あたりまで散歩するか~。お望み通り、仲良くお手手をガッツリ万力のように繋いでよ?」

 

私とユーノ君はハヤさんに手を握り締め付けられ、痛さで瞳に涙を浮かべながら海鳴公園まで行くことになったのでした。

道中、すれ違う人が私やハヤさんを知ってる近所の人ばかりで、おかげで奇異の視線にあまり晒されなかったのは幸か不幸か…………って、痛いからやっぱり不幸だよ!

 




まずは更新遅くなり申し訳ありません。そしてAs編開始がまた伸びてもうし訳ありません汗

今話、1話にまとまるかと思ったら無理でした。
後日談、もしかしたら後2話くらい続くかもしれませんorz

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