フリーターと写本の仲間たちのリリックな日々   作:スピーク

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主人公後日談~その1~

いやいや、お疲れさん。ホント、マジで。よく頑張ったよ、俺。俺、サイコー。

……………ホント、疲れた。

 

あのアルハザードに皆で訪れた日から数ヶ月、春から夏へと移り変わり、そろそろ秋に入ろうかという頃、俺の肉体および精神の疲労は限界に達しつつあった。てか、すでに限界突破してるっぽい。むしろ、してなきゃおかしい。最近よく思い浮かぶ言葉が『過労死』だ。

俺さ、あの全てが終わった思った夜に「これはハッピーエンドだろ」的な言葉言ったじゃん?「グッバイフォーエバー厄介事」とかのたまったじゃん?

 

…………違ったよ。

 

確かによ、あの時点で終わっとけばハッピーエンドだったろうさ。これからは俺もテスタロッサ家も幸せな未来が待ってるぜ!《完》、な感じで終われただろうよ。小説だったら、そこから作者のあとがきに入ってもいいところだ。

けれど、俺の物語には終わりもなく、ましてや打ち切りすらない厄介な話であり、仮にあの夜が最終話だったとしても、何故かまだまだ話は続いていっている。…………最終なのに続くとかどんな矛盾だ、ふざけんなと言いたい。まあ、それが人生なんだけどさ。ジンセイサイコー。

ちっ……つまり、何が言いたいのかというと。

あの似非最終話のから今日まで、俺の厄介な人生物語は続いていたのだ。

 

そうだな、言うなればこれは────────────後日談。

 

ああ、なんて忌々しい響きだ。最終話の後の話、後日談。まだまだ続くよ、後日談。

 

やってらんねー。もう過ぎ去っちまった日々だが、やってられなかった後日談だ。まあプレシアの件以上の厄介事じゃあなかったのは確かだが、それでもマジで面倒事が絶えなかった。……………てか、いきなりだけど、今思えば夜天たちと出会ってまだ数ヶ月くらいしか経ってないんだよなぁ。なんかもう軽く1年くらい過ぎてるような感じだ。

夜天、シグナム、シャマル、ザフィーラ、他2名の騎士たちとの偽家族生活もだんだん慣れてきちまったよ。よくあの狭っ苦しい部屋で俺合わせ7人の人間が生活出来るもんだ。ギリギリだけどな。あと1人でも増えれば絶対アウトだ。てか、実際増えそうになったんだけどさ。………………うん?誰がかって?まあ、それは後にすぐ分かるさ。つうか、察しの悪い奴でも分かるだろ。俺と暮らそうなんて物好き、それこそ忠誠心でもなけりゃするはずがねーし………………自分で言ってちょっとヘコんじまった。

まあ、あれだ、それでも分からない奴の為に、そいつを一言で言うなら『アホっ娘』だ。OK?

 

ちっと話が逸れたな。ええっと、後日談だっけ?じゃ、まずは何から話すかねぇ。さっきも言ったように、ホントいろいろあった数ヶ月だったからなぁ。もしこの話がハーレム物だったらいついつまでも続いて欲しくて後日談もバッチコ~イなんだけどよ、生憎とうざったいだけの人生物語だ。

 

ともあれ、そうだな…………じゃ、最初は当たり障り無く軽い話から。

 

えーと、アレあったじゃん?アレだよ、アレ。なんつったけ、あの石だよ。青いやつ。ん~…………あ、そうそう、ジュエルシード!まずはあのジュエルシードの話からしよう。

で、そのジュルシードなんだが、シグナムがぶん盗ってきたやつとフェイトが持ってたやつ合わせて数個が手元にあったわけよ。無論、このまま持ち続けるのはあまりよろしくない。また厄介事の火種にでもなられたら事だかんよ?

 

て訳で、さあ、これはどうしようと皆で頭を捻った結果、まず最初に浮かんだ考えは『管理局に持っていこう』という真っ当な案。

けれど、俺はそれを却下した。何故かって?サツが嫌いだから。

管理局って魔法世界のサツみたなモンなんだろ?やだやだ、そんなトコに顔出したくねーし。もしかしたら報酬とか貰えんのかも知んねーけど、それでも嫌だね。ましてや俺は夜天の写本やテスタロッサ一家の件でいろいろ動き回ったんだ、どんなイチャモンつけられるか分かったもんじゃない。

もうクソ面倒な事になるのはゴメンだ。

 

で、次の案。

『魔法世界で足がつかないように秘密裏に競売にかけようぜ!』というもの。勿論、俺の考えだ。

1秒で却下された。

 

次に出たのは『海に放流しちまおう』というもの。勿論、これも俺の考え。

ただこれは無茶苦茶言ってるように聞こえるかも知んねーけど、ところがどっこい、実際は中々良い案なだぜ?広大な海に指紋をふき取ったジュエルシードをバラバラの位置に撒くんだ、犯人の特定なんてそうそう出来っこねぇよ。

しかし、結果的にこの案も却下された。

唯一、フェイトが反対したのだ。

 

「隼、あの白い魔導師の子の事、忘れてない?」

「白い魔導師の子?……………ああ、なのはか」

「そのなのはって子、多分管理局と繋がってる」

 

らしいんよ。まあ、確かになのはがこの石を集めていた事は知ってたけどさ。あいつ、局とも繋がってるわけ?

 

「私とその子が戦おうとした時、管理局の執務官が割って入ったんだ。私はすぐ逃げちゃったから本当の所は分からないけど、でもきっとその子は局と一緒に行動してる」

 

だとさ。

そして、そう言っていたフェイトの隣でアルフが何故か怒りの顔を見せていたので、どうしたのかと聞けば……。

 

「あの局員、フェイトを攻撃して怪我を負わせたんだよ!隼もフェイトの背中見ただろ?」

 

ああ、あの時か。そんな事もあったな、すっかり忘れてた。そういやあれでフェイトが虐待されてるってのも判明したんだっけ?まあ、そう考えれば怪我の功名だが……………。

 

「はいはい、アルフもそう怒んなって。どうせもう会う事もねーだろうしよ。まあ、でも、もしまた会う事があったら、そん時は───────フェイトをあんな目に負わせたクソには、俺がきっちり確実にオトシマエつけさせてやる」

 

まあ、それは兎も角。

しかし、これはちょっと不味い事になった。なったっつうか、なってたのに気づいた。

 

なのはには俺が魔導師って事がバレている。さらにシグナムの面まで割れていて、そのシグナムが最低でも1個はジュエルシードを持っているってのが知られている。加えてフェイトもいくつかのジュエルシードを持っている事も知っている。

つう事はなのはがその事を管理局に伝えている可能性は大だ。俺が魔導師って事は口止めはしておいたので大丈夫だろうけど、少なくともシグナムの事は局にチクったはず。幸い俺とシグナムの関係性まではバレてないだろうけど………うわ~、ホントにこれはちょっとどうしよう?

 

俺は無い知恵を絞り、皆からの意見も取り入れた結果。

 

「こんちゃ~、鈴木宅配便で~す。なのは居る~?」

 

高町家訪問と相成った。

じゃ、回想ってか後日談、そのままいってみようか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピンポンピンポンとチャイムを連打した後待つこと少し、ガチャリと鍵の開く音がしたあと、結構な勢いで玄関の扉が開いた。同時に愛しきガキであるなのはが驚きの顔で出てきたのだった。

 

「ハ、ハヤさん!?え、何でハヤさんがここに?あ、もしかしてお父さんに会いに来たの?」

「いや、その士朗さんにここの場所聞いてやってきたんだよ。なのはにちょい用事があってさ」

「え、私?」

「そそ。まあ、立ち話もなんだ、中に入ろうぜ。遠慮なくどうぞ、なのは」

「あ、うん、そうだね。お邪魔します…………って、それはハヤさんのセリフじゃなくて私が言うべきセリフ!」

 

ドングリを口の中に入れたリスみたいに小さく頬を膨らませて怒りを表現するなのは。

 

久しぶりに会ったけど、なんつうか、相変わらず可愛いなぁ。

いや、もう、ホントに。ロリーズにもこれくらい可愛げがあれば俺もちったぁ優しくなれんだけどよ。あいつら、マジ性格腐ってっからなぁ。まあ、ロリーズにはもう何も期待してないが。今の俺の中の一番の期待のガキはあの『三姉妹』だし。まあ三女が若干のアホでウザイ時が多々あるのが玉に瑕だが。

 

「ところで、ハヤさん」

「あん?どうしたよ」

「それどうしたの?玄関の覗き穴見たとき、最初誰だか分からなかったよ」

 

なのはの視線の先は俺の頭、もっというなら髪の毛だ。そして、その髪の毛は以前の黒とは違い、今は霞んだ金色になっていた。なのはと最後に会った時は普通の黒だったので、その反応も当然だ。

ちなみになのはと最後に会ったのはあの旅行の時ではなく、一週間くらい前の翠屋だ。シャマルのバイト先でもあるのでちょくちょく顔出してんだよな。で、なのはもちょくちょく店の手伝いをしててそん時に。

 

「ちょっと色々あってな……ホント、いろいろよぉ」

 

俺はこれでも就職を求めている成人男性だ。そんな男が普通髪を染めたりはしない。流石にそこは常識的に考えるさ。だから、これは自分の意思じゃないのを主張したい。

 

(あそこで西さえ通っときゃあこんな事には……あのクソアマめ!)

 

この髪色は、ようは罰ゲームの結果だ。

最近ちょっとした事で知り合ったキカイダー姉妹たちと麻雀をし、その大一番で負けちまった。そしてこのザマだ。この髪だ。俺を狙い打ちして負けにおいやったあのアマと同じ髪色。……「男前があがったじゃない」と愉快そうに笑っていたあのクソアマ。

 

(次は俺が勝って、あいつの能力でデカパイのグラビアアイドルに変身させてギリセーフなポーズの写真撮りまくってやる!!)

 

と、そんな野望に燃えつつ、しかし今は取り敢えず横に置いとく。

閑話休題だ。

 

「まあ、なのはは気にすんな。取り敢えずそろそろあがっていいか?」

「あ、うん、どうぞ」

「おじゃま~」

 

靴を脱ぎ、改めて家の中に入る。

思えばこれが高町家への初訪問だ。そして今は家になのは一人らしい事をここに来る前に士郎さんから聞いていた。

いいのかねぇ、俺があがっても。第3者から見たら結構ヤバめな図?……どうでもいいか。士郎さんから家の場所教えてもらったんだから、つまりはあがってもいいって事だろうし、そもそももうあがってるし。

 

「ええっと、それで今日はどうしたの?私に用事があるって言ってたけど………」

 

リビングに移動し、一息ついたあとなのはが切り出した。

 

「ああ、まあな。その前によ、なのはって管理局って知ってる?」

 

フェイトの言葉通りなら、勿論なのはは局を知ってるどころかツルんでさえいるのだが、俺は何も知らない風を装う。

 

「え、うん、知ってるよ。ほら、温泉の時言ったジュエルシード、あれを今管理局の人と一緒に探してるんの」

 

やっぱりビンゴか。めんどくせぇな~。まあ、何とかならぁな。

 

「今この家にその管理局の奴っている?もしくは監視カメラチックなモンで監視されてたりとか」

「?ううん」

 

それを聞いたあと、俺は手に提げて持ってきたスーパーの袋をテーブルの上においた。

 

「なのは、コレやる」

「え?何が入ってるの?──わぁ~、綺麗な石……………………………………………………………え゛」

なのはらしからぬ濁音付きの呟き声を発すると、袋の中から恐る恐るジョエルシードを取り出し、それをしげしげと見回す。

そして、こう言った。

 

「ジュエルシードーーーーーー!?」

 

叫び声も可愛いとか、なのはは無敵だなぁ。

 

「ちょ、え、嘘!?な、なんでハヤさんがこれを!?それに封印処理もすでにされてる!?」

「ガチャポンで当てた。すぐそこのスーパーで1800円くらい使ったかな」

「微妙にリアリティを持たせた嘘を堂々とつかないで!!」

「バレたか。ホントは3000円使った」

「ガチャポンは嘘じゃない!?」

 

やっべ、なのはって超素直ってかイジリ甲斐があるんですけど。可愛くて素直でイジられ役って、もうこれ最強じゃん。ちょっと士朗さんに頼んで理となのは交換してもらおうかな。

やっぱさ、ガキってなぁこうでないとよ。

 

思った事をそのまま喋って、感情を顔に出して、全ての物事に大げさに一喜一憂する。俺の知ってるガキん中でそれが素直に出せているのは、このなのはを除外して二人。

 

あの三姉妹、その『長女』と『三女』くらいだろう。

 

『長女』はもう文句の付けようも無いほど可愛く、『三女』はちょっとアホだけど、そこがまたガキらしくて可愛い。『次女』も中々いい線いってんだけど、あいつはホンの少しだけ大人びてるとこがあるからなぁ。まっ、それを補ってあり余るほどの可愛さをあいつは有してんだけどよ。

 

ああ、後は残りのガキ、つまりクサレロリーズに関してだが、もうあいつらは死んだほうがいいな。可愛さの欠片どころかその痕跡すらないような奴らだし。

 

「ほらほら、ちょい落ち着けって。嘘だよ嘘、ぜ~んぶ嘘。ホント、なのはは可愛いやつだなぁ」

「…………むぅ~、ハヤさんの馬鹿!」

 

なのはの罵倒は、しかし俺にはまるで意味をなさない。

本来なら俺に『馬鹿』とかぬかす奴は、それが例えガキだろうとある程度のオシオキをするんだが、どうしてかなのはからの罵倒の言葉はただただ微笑ましくなるだけ。もしこれが仮にロリーズだった場合は容赦せずぶっ殺してんのにな。

まっ、世の中可愛いやつは得をするってこった。

 

と、そうやってなのはを可愛がってた時、突然俺たちのいるリビングに一つの影が飛び込んできた。

 

「あ、ユーノ君」

「あん?ユーノクン?」

 

その影は素早い動きでリビングに入ってきて、そのまま脇目も振らず座っているなのはの太ももの上へと乗っかった。

 

「へ~、なのはンちは動物飼ってんだな」

 

そう、その影の正体は動物。種類としては………イタチ?フェレット?まあ、そんな感じの奴。

そんなフェレット(?)だが、なのはの太ももの上にちょこんと座り、俺の方に少しだけ顔を向けた後すぐになのはの顔を見た。それはあたかも『こいつ誰だ?』となのはに問うているような仕草だった。そして、そのなのは本人もそう思ったのだろう、フェレットに俺の事を紹介しだした。

 

「ほら、ちょっと前温泉に行った時、ハヤさんって男の人の魔導師に会ったって言ったよね?それがこの人」

 

ただの動物相手に友達のように喋りかけるなんて、ホント、なのははガキらしい可愛いさを持ってるなぁ。

なんて、ニコニコしながらなのはを見ていたその時、

 

「ああ、この人がそうなんだ。はじめまして、ユーノ・スクライアです」

「あン?」

 

今、確かなのはでも俺でもない第3者の声が聞こえたような?てか、確実に聞こえたんだが?

 

俺がキョロキョロと辺りを見回していると、そこで含み笑いをしているなのはの顔が目に入った。次いで、なのはが指で自分の太ももを指す。しかし、もちろんそこには人語を喋るわけがないフェレットが一匹いるだけで……………

 

「ええと、こんにちわ」

「……………………」

「あはは、やっぱり最初は驚くよね。いきなりフェレットが喋れば───」

「おう、こんちわ」

「「順応が早いっ!?」」

 

はん!伊達にザフィーラやアルフや『彼女』を傍で見てねぇっつうの。流石に今回のはいきなりだったんで少し固まっちまったが、だからって喋るフェレット自体には何の驚きもない。

 

そういやなのはは魔導師だったな。なら、そいつは使い魔?ふ~ん、すごいね。

 

こんな感じで、余裕で流せる。だから、重要なのはもっと別の所だ。

「突然だが、なあ、ユーノ。もしかしてお前、人間の姿にもなれたりする?」

「あ、はい、勿論です。というか、この姿は変身魔法によるもので、もともと僕も魔導師なんです」

 

ンな補足事項なんぞどうでもいいが………そうか、やっぱ人の姿になれるのか。だったら、次の問いが極めて重要だ。その結果如何ではここ高町家での滞在時間が大きく違ってくる。

 

「ちなみにユーノ、お前は女性?それとも男性?」

「?えっと、男ですけど………」

「──────ちっ」

「何故か本気で舌打ちされた!?」

 

淡い期待を抱いた俺が馬鹿だったよ。なんだよ、野郎かよ。しけてやがんなぁ。声聞く限りじゃ女っぽかったんだが。あ~あ、テンションがた落ちだ。

 

「野郎はお呼びじゃねーんだよ。なのはとの逢瀬を邪魔スンナ、どっかいってろよクソが」

「ひ、ひどい」

 

しかも、幼女の太ももの上に平気で乗るとか、どれだけ変態なんだよ。いい歳こいた野郎が、気持ち悪い………………いや、待てよ?

俺はなのはの太ももの上で邪魔虫扱いされて悲しんでいるフェレットを見て、こう訊ねた。

 

「最後にもう1個。お前って何歳?」

 

変身魔法とか、そんな凄そうな魔法使ってるから俺はユーノの事を少なくとも『成人くらいしてんだろ』的に自然と思ってたけど。俺の周りにいるやつも須らく成人体だし。

 

「…………歳ですか?9歳ですけど」

 

次の瞬間俺はなのはの太ももからユーノを抱き上げ、自分の太ももの上に乗せる。そして、撫で回した。

 

「わわわわわわわわっっ!?」

「ンだよ、それを早く言えよな。無碍にして悪かったよ」

「ちょ、ちょっと…………もう!」

 

このままでは不味いとユーノは思ったのか、いきなり体が光ると次の瞬間には俺の太ももの上には一人のガキが。

なるほど、こいつが真・ユーノか。

大方、人間の姿に戻り俺の手から脱しようと考えたのだろうが………甘い!

 

「あ、あの、鈴木さん、いい加減撫でるのはやめて離して下さい!」

「おいおい、『鈴木さん』とかそんな他人行儀やめろや。それにガキが一丁前に敬語なんて使うなよな」

「わ、分かった、分かったから。隼、離してよ!」

「嫌だね」

 

思えば俺の周りにいるガキって皆女の子だかんなぁ。こうやって膝の上で抱いたりって事は中々出来ない。フェイトは恥ずかしがってやらせてくんないし、三女は『そんな体を密着させるなんてハレンチな行為は例え主と言えど嫌だ!』なんていう言葉を俺に肩車されながら言うアホっ子だし。唯一、長女だけがガキらしく無垢に甘えてきてくれる。……………あん?ロリーズ?仮にせがまれてもやんねーよ。

まあ、だから、ユーノみたいな同姓のガキってのは貴重なんだ。

 

「いいな~、ユーノ君。楽しそう」

「なのは、この状態の僕のどこに楽しさを見出したの!?」

 

線が細く、男の子のクセして顔の作りが女の子っぽく、さらに声まで女の子っぽいユーノ。

 

こいつは将来、きっとイケメンになるな。綺麗に髪伸ばしてそれを後ろで縛って、さらに知的メガネかけてそう。そんで、その中性的な顔と声で女性にモテモテ。

 

「あ、あれ、あの隼、ちょっと力が………え?し、絞まってきてる!?ちょ、ハグの力がベア級になってきてるよ!?」

「あ、わりぃ、つい癪に障って」

「突然、何が!?」

 

年端もいかないガキに真剣に嫉妬する大人の姿が、そこにはあった。

というか、俺だった。

 

「まあ、おふざけはここまでとしとこう。取り合えず、それはなのはとユーノにやるよ」

「それ?………って、ジュエルシード!?」

 

ユーノ、気付くの遅ぇよ。

 

「な、なんで隼が」

「いやぁ~、実はUFOキャッチャーで─────」

「「嘘つかないでよ!」」

 

は~い。

じゃ、ホントに真面目に話しますか。真面目な作り話をよ?

 

「お前らさ、俺以外の魔導師見たことある?二人なんだけど………一人は金髪のガキ魔導師で、もう一人はかっけぇ剣持った美女魔導師」

 

その言葉に二人は即答に近い早さで頷いた。まあ、そりゃ簡単には忘れられない容姿してっからなぁ、あの二人は。

勿論、二人とはフェイトとシグナムの事だ。

さて、ここからがでっちあげトークだ。

 

「で、どうやらそいつらもお前らと同じようにその石を探してたみたいでさ。つい先日、外歩いてたらいきなり結界の中に入っちまって、しかも、中でその二人がお互いの石賭けてガチバトルしてるじゃねーか。こりゃ巻き込まれる前に逃げねーとと思った所で二人に見つかっちまってよ。いきなり……いきなりだぜ?二人が斬りかかって来やがんの。魔導師だから敵だと思ったのかどうか知んねーけど、俺、頭キてさ、軽くオシオキにしてやったんだよ。ならさ、泣いて詫び入れてきて、さらにその石も差し出してきたわけ。でもさ、俺別にそんな石欲しくもねーからそのままイジメ続けてやろうかなーなんて思ってた時、『ああ、そう言えばなのはがこんな石欲しがってたな』とか思い出して、じゃあこれで許してやるって事でその二人に貰ったんだよ。あの二人、最後は『もうこんな怖い魔導師がいる管理外世界なんて来たくない!』とかベソ掻いて飛んでったな。で、そんな事があって俺がこの石を持ってるわけ」

 

と、まあ、長々と語ったがつまりはそういう事だ。これが、無い知恵を絞り、皆の意見を取り入れた結果。

 

どうだ、すげぇだろ?俺との関係をボカシつつ、ジュエルシードを手に入れた経緯、その後のフェイトとシグナムの動向までも網羅。無理やりで、シンプルで、テキトーで、力任せな弁論。でも、実は話しを作るときはこういうやり方が意外と効くんだよ。大胆で、破天荒で、でもどこか現実臭い話がよ?

 

「あ、でも管理局には内緒な?石は全部なのはが自力で見つけたって報告してくれや。俺、そういう組織とかって嫌いだかんよ、詮索されたくねーんだわ。秘密のハヤさんで一つよろしく」

 

まあ、なんだかんだ言っても所詮は嘘っぱちの作り話。とてもじゃない、管理局は欠片も信じてくれないだろう。目の前のなのはとユーノだって心の底から今の俺の話を信じているわけがない。実際、何か言いたそうな顔をしている。

けれども、俺はそれ以上何か付け加えようとは思わないし、当然真実も話すつもりはない。よって、なのはとユーノには無理やりにでも納得してもらう。

 

「そんな可愛らしく変な顔すんなよ。俺だってイマイチ分かってねーんだ。けど、お前らはこの石が欲しかったんだろ?ならそれでいいじゃん。さらに、石を狙ってた謎の魔導師二人もあの様子じゃもう諦めたようだしよ。万事解決ってやつだ」

「うん………でも、何かしっくりこないっていうか、あまりにも都合がいいような」

「おいおい、ユーノよぉ。お前、ガキなんだからもうちょっと素直に物事を見ろよ。ここにジュエルシードがあって、残りのジュエルシードは邪魔者もなくゆっくり探す事が出来る。しっくりこなくても都合がよくてもそれが事実だ」

「まあ、そうなんだけど………」

 

頭の固ぇガキだ。思慮深いってのはいいことだが、ガキでそういうのは俺は嫌いだな。

ユーノはまだ釈然としないようで、俺の膝の上でウ~ンと唸っていた。しかし、そんなユーノとは反対になのはどこかスッキリした顔をしていた。

 

「ユーノくん、ハヤさんはきっと、ていうか絶対確実に何か隠してるだろうけど、でも私はそれでいいと思う。だって、こうやって手元に探してたジュエルシードがあって、それに………もうフェイトちゃんと戦わなくていいし」

 

なのはも結構言うな。てか、なのはってフェイトの名前知ってたんだな。しかも、何か思うところがあるのか少しだけ寂しそうだ。

そして、俺がそんなガキの顔を見て放っておけるはずもなく、ついつい詮索言葉をかけた。

 

「なんだよ、なのは。そのフェイトって奴がどうかしたのか?」

「うん、あの子のこと、もっとよく知りたかったなぁって。戦いとかじゃなくて、もっと普通にお話したりして、お互い分かり合って………そう、友達になりたかったんだ」

「………………」

 

どうしてこう、なのはは良い子なんだろうか?ちょっとマジで理と交換してほしいんだけど。今ならヴィータもつけるからさ。

 

まあ、それは兎も角、参ったね、こりゃ。

フェイト本人からなのはとは何度かやり合ったってのは聞いてたが、まさかなのはがそんな感情を抱いてるとは思いもしなかった。フェイトの奴なんて、なのはの事なんて殆ど関心がない様子だってぇのに。まっ、けどそれもしょうがねーわな。今フェイトは自分の事で手一杯だかんよ。なんせ、姉と妹が同時に出来た上に、笑顔の母親と育てのお姉さんが帰ってきたんだからな。そりゃあ、他人なんてどうでもよくなるさ。

 

しっかし、友達になりたいねぇ………そう思ってくれるのは俺としても嬉しい事だ。なのはもフェイトもすっげぇいい子だし、ソリも合うだろうから絶対ぇいい関係が築けんだろうよ。でもな、だからって「はい、そうですか」ってわけにもいかねーのよ。

 

なのはのバックにいる管理局、俺が今までしてきた事、フェイトが今までしてきた事、俺とフェイトの関係………そんな諸々の事情がどうしてもネックになってくる。ガキの為に尽力したい気持ちもあるが、生憎と俺は自身の保身の方が大事だからよ、やっぱなのはとフェイトを合わせるわけにはいかねーや。

 

(…………まあ、でも)

 

ガキの寂しそうな顔を見るのは苦手でね。特になのはのそんな顔は見たくねぇ。

俺はポケットから携帯を取り出した。

 

「なのは、お前携帯持ってる?」

「え?うん、持ってるけど」

「よし、じゃあよ、アド交換しようぜ」

「いいけど、いきなりどうしたの?」

「いいから、いいから」

 

俺は携帯の赤外線機能を受信にし、なのはにアドレスを送ってもらった。その後、俺は赤外線ではなく直接そのアドにメールを送った。

 

「あ、きた……あれ、これは?」

 

なのはが首を傾げながら携帯の画面を見ている。たぶん、そこに写っているのは俺からのメールで、その本文には一つのアドレスが書かれているはずだ。

 

「お前を笑顔にするアドレスだ。暇なときメールでも送ってみろよ。でも、他の奴等には秘密だかんな?もしバレたら即着拒されちまうと思え」

 

?顔のなのはをよそに、俺は携帯をポケットに仕舞い、膝の上からユーノを降ろして立ち上がる。

さて、そろそろ帰るとしますかね。言いたい事も言えたし、石も渡せたしな。それに、長居するとボロが出ちまいそうだし。

 

「あ、ハヤさん、もう帰っちゃうの?」

 

件のアドレスにメールを送ろうか悩んでいたなのはだったが、俺の動作に反応してそう言ってきた。

 

「おう。まだお前らと一緒に居て癒されたい気持ちはあるんだが、それと同等くらいにこの癒しも摂取しときたいんでね」

 

俺は煙草の箱を取り出し、中から1本抜き取って口に咥えた。

流石に人ん家で、そこの家主の許可も無く吸えないからな。そもそも、たぶん高町家の人は誰も煙草を吸っていない。カーテンとか壁とか、全然黄ばんでないし。

俺がいくら自分勝手の自己中野郎でもそれくらいのマナーは守るさ。相手によるけど。加えて路上喫煙も余裕でしちゃうようなクズだけど。

 

「ハヤさんって煙草吸う人だったんだ。あ、じゃあ、ちょっと待ってて!」

「あん?」

 

なのははトコトコと小走りでキッチンの方へ行くと、そこから一つのガラス皿を持ってきた。

てか、あれはどうみても灰皿だ。高町家の人は誰も吸わないだろうと思ってたけど、俺の見当違いか?

 

「灰皿あんだな。士郎さんが吸うの?」

「ううん、うちは誰も吸わないよ。これはお客さん専用」

 

ほ~、何とも用意のいいこって。それだけ、高町家には客が多いって事か?確かに、自分んちで商売やってりゃ交友関係は広そうだ。……てか、実際広いんだよな。その辺は士郎さんから聞いてる。うん、本当デタラメな交友関係持ってんだよな。

ともあれ、これ有難い限りだ。

 

俺はなのはから灰皿を受け取ると、そのまま庭へと出た。

 

「別に部屋の中で吸っていいよ?」

 

とは、なのはの弁だが、生憎とそういうわけにはいかない。一緒に住んでるロリーズとか、親と本人公認のフェイトとかの前なら兎も角、相手はなのはとユーノだ。士朗さんの居ない間にあんま好き勝手するわけにもいかんだろ。

禁煙は無理だけど、せめてなのはに受動喫煙させないようにするくらいはしないとな。

 

俺はなのはとユーノを部屋の中に居させると、一人庭で思いっきりニコチンを肺に入れる。

 

(あ~、美味ぇ~)

 

満足げにぷかぷかと煙を漂わせながら吸っていると、ふと視線を感じた。見れば、なのはがジッとこっちを見ている。

 

「どした?」

「うん、何だか凄く美味しそうだなぁって。それに、ちょっとカッコイイ」

「はァ?」

 

美味しそうってのは兎も角、カッコイイってなぁ何だよ?…………まさか、俺が?もしかして、なのはの奴、いきなり俺の魅力に気付いたのか?こりゃ参ったね。俺ぁガキには欠片も興味ないんだけど~。いやぁ、でも小学3年生の純粋無垢な美少女を虜にするたぁ、俺も中々捨てたもんじゃねーな。悪いね、なのはに片思い中の男子生徒諸君。すっぱり諦めてくれや。ああ、でも、なのはよぉ、告白なら10年後頼むぜ?イヤッハ~、モテる男は辛いねぇ。

 

……………………。

 

(アホらし)

 

ンなわけあるかっての。ガキからとは言え、生まれてこの方異性から『カッコイイ』なんて言葉ほとんど言われた事ねーんで舞い上がっちゃいました。はいはい、調子コいてすみませんね。

 

「で、一体何を指してカッコイイってんだよ?」

「ハヤさんの煙草吸ってる姿が」

 

はぁ?あんですか、それは?

 

「何だか凄く大人っぽくてカッコイイな~って」

 

ああ、な~る。あれか、簡単にいうと大人への羨望とか憧れってやつをなのはは感じたわけか。

確かに、煙草はある種大人のアイテムだしな。それに、ガキってのは背伸びして1日でも早く大人になりたいって思いをどこかに持ってるもんだ。俺だって、そもそも煙草始めた切欠はそんな感じだし。

 

「ホント、お前は素直だねぇ。つうか、大人っぽいじゃなくて、俺はマジ大人だっての。なのはとユーノって今9歳だろ?一周り以上も違ぇじゃんか」

「あはは、そうだね」

 

まあ、一部大人になっていない部分があるが。なあ息子よ。

 

「大人なんてなぁ生きてりゃ誰でもなれるさ。そこに優劣は付くけど、まあ心配すんな。なのはは完全に優になれる素材だからよ。勿論、ユーノもな」

「そうだね。ユーノ君、将来はハヤさん以上にカッコイイ人になると思うよ」

 

なのはやなのはや、お前さん、何気に俺に喧嘩売っちゃってますよ。お気づき?

 

「あ、ありがとう。なのはも将来、絶対き、綺麗になるよ。ああっ、も、勿論、今も凄く可愛いよ?」

「にゃは。ありがと、ユーノくん」

 

おんや~?ユーノや、中々面白い反応してんじゃねーのよ。そんな顔真っ赤にしちゃってさぁ。きみ、もしかしてなのはにアレですか?アレなんですか?おいおい、いいネタ提供してくれるじゃんよ。

ちょっとこりゃ見過ごせないな。いち大人としてよ?

 

「ユーノ、ちょっとカムヒア~。なのははそこでストップな」

「「?」」

 

俺は煙草をもみ消してウンコ座りすると、寄ってきたユーノの首に腕を回してお互いの顔を近づけた。

 

「は、隼、いきなりどうしたの?」

「どうしたもこうしたもねーよ、このマセガキが。稼げる所はきっちりポイント稼ぎか?大人しそうな顔して、この策士が」

「な、何を………」

「で、なのはのどういう所が好きなんよ?」

「!?!?」

 

おいおい、そんな『何で隼がそれを!?』みたいなテンプレな顔はやめろよ。俺ぁ、これでも人の感情には聡い方だぜ(………たぶん、おおよそ)。しかも、それがガキなら手に取るように分かるっての。

 

「べ、べべべ別に僕はなのはの事なんて何とも………!」

「そんな女顔で恥ずかしそうに頬染めるなっての。言動と相まって女々しさMAXだっつうの。まあ、それは措いといて。いいか、ユーノ、自分を騙すのも勝手だし待ちに徹するのも勝手だけどよ、それじゃあいつまで経ってもある一定の線は越えないぞ?」

「だ、だから僕は別に…………」

 

たく、世話の焼けるガキだ。

 

「いいから、俺の独り言だと思って聞け。確かにお前は良い奴みたいだし、中々利発そうな奴でもある。魔導師としての力も多分俺なんかよりずっと上だろうよ。けどな、今まで生きてきた年数と女性絡みのイザコザの経験だけ見れば俺の方が上だ。で、そんな俺から言わせて貰うが、もし本気でなのはとそういう仲になりたいならまずは自分の気持ちを肯定しろ!そして、ウダウダ考えず突っ走れ!さもなきゃ行く末に待っているのは─────────────俺(童貞)だ」

 

俺も、ガキの頃からそれが分かっていれば、今頃は彼女の一人や二人出来てただろう。けれど、それに気付かず俺はいつの間にか恋愛に臆病になっていた。青春時代は殴り合ってた記憶しかない。

 

「最後はちょっとよく分からないけど…………うん、何故か隼にはなりたくないって思う」

「自分で言っておいて何だが、うるせぇよ特大級なお世話だ」

 

俺はフンと鼻で溜息を吐くと、ユーノの頭を軽く撫でて立ち上がりながら言う。

 

「兎に角、四の五の考えずもうちっと素直になれや。じゃなきゃ、見も知らぬ野郎になのは持ってかれちまうぞ?鳶に油揚げってな」

「ハヤさ~ん、お話終わった~?」

 

見計らっていたのだろう。なのははそう言いながら小動物のようにこちらにトコトコと歩いてきた。

だから、お前はどうしてそう一々可愛いんだ?

俺は傍に寄ってきたなのはの頭をついつい撫で回した。

 

「うれうれうれ!」

「にゃ~~~っ!」

 

楽しそうに頭を撫でる俺と、楽しそうに頭を撫でられるなのはだった。

 

「……………『鳶』に油揚げっていうか、『隼』に油揚げ?」

 

そんなユーノの呟きが聞こえたような聞こえなかったような。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、まあこれが後日談のある一幕だ。あくまで一幕、ほんの一部で、取り分けほのぼのとした後日談だな。いろいろ気になる点もあるだろうけど、それはまた次の機会の後日談でな。

 

まあなんだ、いろいろとありはしたが、今現在は結局なるようになったって事だ。

俺は今まで通り、騎士たちとクソ狭いアパートで暮らして。

テスタロッサ家は家族6人、今は地球に移り住み、あのマンションで騒がしい毎日を送っている。

 

ああ、そうそう、ジュエルシードの件のその後なんだが、結局なのはが管理局と協力して残りの全てを回収した。……ちなみにそこでも実はひと騒動あったんだが、まあそれはどうでもいい事なので俺が語ることじゃない。面倒事だったのは確かだが。さておきその後、管理局は特に何事もなくこの世界を去ったとの事。また、なのははそのまま魔導師として、管理局に所属する事にしたらしい。といっても、こっちの生活もあるので、正式に入るのは義務教育を終了してからになるらしい………………というのを、フェイトがメールを見ながら教えてくれた。

ともあれ、なのはは俺たちの事は完全に秘密にしてくれた事はおろか、その為にユーノと一緒になっていろいろと誤魔化してくれたようだ。感謝感謝。

 

それから、後は何かあったかなぁ………ええと─────

 

「あ、コラ、フェイト!それはボクのボクだけのボクにのみ許された鉛筆だぞー!それを勝手に使うなんて許されざるべき事だ!」

「あ、ご、ごめんね?」

「わかった、許す!」

 

ええと─────

 

「えっと、これがこうなってこうなるから…………あれぇ?うぅ、分かんないよ~」

「アリシアは馬鹿だなー。ボクなんてもう最後までやったもんねー!」

「………ライト、分数の答えが四文字熟語には絶対ならないと思うよ?」

 

…………………。

 

「うが~、分っかんないーー!こんな物こうしてやる!絶・烈空─────」

「ド阿呆!!」

「痛っ!?」

 

今にもバルニフィカスで机ごと算数のドリルを両断しようとするアホの頭に俺はチョップを見舞わした。

 

「今、いろいろと今までの経緯とか事後処理の出来事とかを皆さんに説明─────もとい、思い返してんだよ!アリシアとフェイトを見習え、大人しく勉強してろ!」

「酷いぞ、横暴だぞ、かっこ悪い!」

 

言い忘れてたな。パチンコ屋をクビになった俺の新しいバイト先をよ。

 

「後1時間でその範囲が終わらなかったら、お前だけ漢字ドリルも追加だかんな」

「うえーー」

「ほらライト、がんばろ?もうちょっとだからさ。私も少し教えてあげるから」

 

テスタロッサ姉妹の家庭教師やってます。自給1000円。

ついでに説明すると、生き返ったアリシアと新しく生まれた断章のガキとフェイトで目出度く三姉妹となって、テスタロッサ家の一員となっている。

 

「わたし終わった~。隼、遊ぼ!」

「もうちっと待ってな、アリシア。フェイトとアホがまだ終わってねぇからよ」

「むぅ~~!ライト、フェイト、早くー!」

 

肉体年齢の一番低い長女アリシアがぶーぶー言いながら、精神的長女な天然次女フェイト、アホ代表三女ライトニングを急かす。

ここ最近お決まりの光景だ。時と場合によってはそこにヴィータと理も入る日がある。

 

(やれやれ、ホント、騒がしいガキどもだ)

 

けれど、それは全然悪くない。この日常に俺は幸せを感じている。厄介事が終わった後は、こんな何でもない日常が本当に貴重に思えてくる。

 

(まあ、あいつは俺以上に幸せを感じてるだろうけどな)

 

俺は騒いでいる三姉妹の傍から離れ、その光景をキッチンの方から見ている一人の女性に近づいた。

 

「なに一人でニヤニヤしてんだよ、きもい奴だな」

「ふん、うるさいわね」

 

勉強が終わった後出そうと思っているのだろう、ホットケーキを作りながら微笑んでいるプレシア。

その微笑は誰が見ても綺麗に映るほどのもので、つい最近になってよく出すようになった表情の一つ。

 

俺はそんな顔のプレシアを見て少し笑うと、ポケットからタバコを取り出し火をつけた。

 

「タバコ、やめたら?」

「いくら金欠になろうとコレだけは手放せん」

 

言いながら、吐く煙で綺麗なマルを作る。

こういう小技、前はあんまやってなかったが、一度アリシアの前でやってウケが良かったから最近では見られてもないのについやっちまうようになった。

 

「…………体には気をつけなさいよ」

「テメェに心配される筋合いはねーよ」

「あるわよ。もしあなたが病気にでもなったら、悲しむ子が一杯いるでしょ」

 

母親の顔をしながらそう言うプレシアの視線の先には三姉妹。しかし、次の瞬間一転して頬を染めながらこう言った。

 

「………わ、私も、まあ心配するし」

「は?」

「す、少しだけよ!」

 

あれ?その顔も母親の顔?なんかフツーに乙女のような顔に見えるンですけど?

プレシアはぷいっと横を向くと、恥ずかしそうな声の調子で言った。

 

「あなたには、感謝してると言ったでしょ」

 

それはアリシアが蘇った次の日だった。プレシアから庭園に呼び出された俺は、着いてすぐ私室に通され、そこでプレシアの想いを聞いた。

 

『私はアリシアが全てと思い込み、それ以外はどうでもよかった。特にフェイトなんて、アリシアの記憶をやったのにアリシアになれなかった不完全モノと思ってた。…………思ってたはずだった』

 

それは懺悔だった。

 

『昔ね、アリシアが言ってたのよ、「妹が欲しい」って』

 

プレシアは涙を溜めながら吐いた。

 

『寂しかったんでしょうね。当時は私も研究が山場でアリシアにはあまり構ってあげられなくて……』

 

独白は止まらない。俺も止めるつもりはない。

 

『フェイトに関しても、あなたの言う通りだったのよ。アリシアはアリシア、フェイトはフェイト。似てるけど別人で、でも私を母と慕う、私が生んだもう一人の娘。……そんな当たり前の事に私は気付けなかった』

 

────いつもそうなの。私は、いつも、気づくのが遅すぎた。

 

そんな何とも重たい言葉と共に瞳に溜まっていた涙が落ちた。

俺は一度溜息を付き頭をガシガシと掻きながら取り敢えずフォローしといた。

 

『気づくのが遅すぎたって、結局気づいたんだろ?だから、今こうやって望んだ以上の未来が来たんだ』

『………あなたがいたから気づけたのよ。そして今を手にすることが出来た。私だけじゃ、きっと………だから、感謝してるわ』

 

俺に感謝するのは筋違いだっつうの。

 

『俺は俺のやりたいようにやっただけで、その過程でお前が勝手に気づいたんだろ?そしてこうなった。なら、俺に感謝なんて筋違いだ。アリシアを蘇らせたあの男か、もしくはいつでも傍にいたフェイトにしろ。つうか、俺に感謝するなら金をくれ』

 

そういうやり取りもあって、俺は今こうやって家庭教師をやっている。感謝の代わりにバイト先の紹介ってよ。

 

「あなたへの感謝の心は消えないわ。そうね、あなた風に言うなら、あなたがどう思おうと私は勝手にあなたに感謝するわ」

「…………へっ、そうかい」

 

ああ言えばこう言う奴だ。これだから年増には敵わん。

俺は頭をガシガシと掻くと、タバコを咥えたまままた家庭教師の任に着くべく姉妹の下に戻る。

ただその前に二言。

 

「おい、プレシア。今、幸せか?」

 

プレシアは目を丸くしたあと、笑みを濃くした。

 

「─────ええ、とっても」

 

だったら、よし。

それともう一つ。

 

「それとな」

「?」

「ホットケーキ、けっこうファイヤーしてんぞ?」

「え?あーーーー!」

 

慌てた様子で火を止めるプレシア。

泣いたカラスが何とやら、ってのとはちょい違うだろうが、まあ辛気臭いよりはマシだ。

 

「ありがとう──ハヤブサ」

 

ちょっと焦げた生地を皿に移したあと、プレシアはここ数ヶ月で何度目かになる感謝の言葉を真っ直ぐ俺に向けてきた。それに対して、俺が最終的には適当に返している終わるのが常だ。

 

「どういたまして」

 

そういや、コイツに名前を呼び捨てにされ始めたのはいつからだっけ?

そんな事を思いながら、俺はまた三姉妹の家庭教師に戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて。改めて。

 

長々と語ったが、まあ取り敢えずは、これが平和な後日談だ。あとの後日談は……まあちょっとばかし厄介で面倒な事ばっかな物語になるだろうよ。

アホ断章……ライトニングの出現。

アリシア、リニスの復活。

次元犯罪者とその娘たちであるキカイダー姉妹との出会い。

新たな美少女魔導師二人の誕生。

etc、etc。

 

今思い出すだけでも嫌になる。厄介事なんてプレシアの件で終わりと思ったのに、まだまだ目白押しだったんだ。まあ反面でいい事もあったのは事実なんで、必ずしも厄介事オンリーじゃなかったんだが。

 

まあ、なんだ。結局、最後まで要領を得ない内容だったが、つまりどういうことかと言うと───平和で穏やかな日常なんだろうけど、けっして平凡には戻れないって事だ。

 

無気力系主人公とは真逆の俺でも、ついつい「やれやれ」と言いたくなるわ。




後日談開始です。
5~7話挟んだ後、As編を開始する予定です。

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