フリーターと写本の仲間たちのリリックな日々   作:スピーク

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これから先、一部キャラのせいでR-15な過激的表現が増えてくるかと思います。R-18まではいかないとは思いますが、ご注意ください。


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頭上に目を向ける。そこには雲一つない青空とサンサンと光を発する暑苦しい太陽。正に快晴と呼ぶに相応しい空だ。

目を前へと戻す。そこには太陽の光を反射し、煌びやかに波打つ大海。正に母なる海と呼ぶに相応しい光景だ。

頭を傾け目を下に向ける。そこにはきめ細かい砂粒や小さな貝殻が敷き詰められた砂浜。正に…………思いつかねぇからもう砂でいいや。

 

つまりだ、俺が今どこにいるかと言うと察する通り海辺だ。

 

ただ生憎とここは地球ではない。そう、地球ではないのだ。ならば何処なのかと言うと、第……えー……ウン十管理外世界。

て訳で、頭上に輝くあの太陽もこの海も砂浜も、果たして本当に地球のそれと一緒なのかは知らん。ただ見た目がクリソツなので取り合えず地球のと一緒の名称で観察した次第。

 

まあ、それはどうでもいいな。重要なのはそんな事じゃねぇのは分かってっから。『俺が何故こんな所にいるのか?』、これが重要なんだろ?悪ぃが別に面白い訳もなけりゃ小難しい訳もない。ただの一言で言い表せられる。

 

───狩り。

 

んな?簡単だろ?狩りだぜ、狩り!現代っ子の俺が、原人のようにその日の飯を確保するため狩りを行いにこんなとこまで来たんだよ。豊かな日本に住んでる俺がよ?娯楽じゃなく生活のためによ?ウケるだろ?笑えよ、うわははははははははははは!!!

 

「集え、明け星」

 

ははははははははは………

 

「全てを焼き消す焔となれ」

 

…………ははははは。

 

「ルシフェリオン・ブレイカー!!」

 

ハァ~~………。

 

「はいはい、ぶれいか~ぶれいか~。ったく、なんとも嬉しそうに景気よくぶっ放してんな。てか、なんだあの出鱈目な砲撃は?俺のかめはめ波の何十倍威力あんだ?ファイナルかめはめ波か?しかも、あのナリで戦闘狂ってのも厄介だよな。シグナムの奴も結構戦いが好きなようだけどよォ、あいつぁ確実にシグナム以上だわ」

 

一定以上の年齢に達した奴が言えば、即哀れみの視線を向けられるであろうイタい言葉(詠唱?呪文?)を紡ぎながらデッカい光を撃ち出す理。

そんな理に矛先を向けられたのは『蛸』だ。しかしただの蛸じゃない。怪獣といっても差し支えないほどの巨体を有している蛸。

体格差だけ見れば圧倒的不利なのに、理の奴はとても楽しげに一方的に蹂躙している。

 

「魔法世界っつうのは本当ファンタジーだ。なんだあの蛸?あれでたこ焼き作ったら何人前になんだ?つうかあんなモンしとめても食い終わる前に腐るぞ。理の奴はその辺分かってんのか?分かってねぇんだろうなー。あのクールロリは戦闘になるとクレイジーロリになるかんなぁ」

 

思い出すのは数日前、初めて狩りに出た時のこと。あの時の獲物は熊だった。4、5メートルはありそうな化け物熊。四肢は丸太のように太く、額の部分に角があり、グルオアアアアアなんて雄たけびを上げていたな…………熊か?

 

まぁ、兎も角よ。そんな熊(?)と対面したときは流石の俺もビビったね。平凡な都会育ちの俺は熊なんて動物園でしか見たことねぇし、さらにそんな化け物級ともなれば皆無。

俺は飛んだね、ソッコーで空に避難したよ。人間相手なら多少の体格差でもヤリ合えるが、ありゃあ無理ってもんだ。俺、まだ死にたくねーし。

 

けれど、そんな俺を尻目に理はいつものようにどこまでも冷静だったな。「ルベライト」とか呟くと光の輪みたいなので熊をあっちゅう間に拘束だ。熊はもがくもそのルベライトはビクともしない。俺のバインドとは大違いだ。

まぁ、それはいい。問題はそこからだ。

 

『主、今夜は熊パーティーです』

 

そう言うと理はおもむろに熊に近づいて行った。しかし、いくら身動きの取れねぇとは言え相手は凶暴な熊。流石に俺は理を止めようとしたよ。いくらあのガキの事があまり好きじゃないとはいえ、怪我でもされちゃ俺もすごく心苦しい。紳士だかんな。

 

『おいガキ、あんま不用意に近づ───』

 

俺は言葉を最後まで言えなかったね。何故かって?俺が止める前にあいつが先に行動に移ったからだ。

何をしたと思う?こうな、自分のデバイスを右斜め上から左下に振り下ろしたのよ。で、その通過点には熊の頭。

 

そう、つまりあのクレイジーちゃんは自分のデバイスで熊の頭をぶん殴ったんだよ。

 

『ガァ!?』

『小うるさい下等生物ですね。光栄に思う事です、我が主の糧となれる事を。それがあなたの生まれた来た意味であり、最初で最後の幸せです』

 

そこからは何つうか凄惨だったな。殴るわ撃つわの大盤振る舞い。周囲は熊の呻き声と攻撃の音と血の臭いで満たされたね。

熊のやつもさ、最初の頃は反撃しようともがいてたんだよ。勇ましい声上げてたんだよ。でもだんだんと覇気がなくなっていってよ、『クゥーン』とか許しを請うような甘い声出すんだよ。血まみれになりながら。それに構わずクールに打ちのめし続ける理。

いや、流石の俺も同情を禁じ得なかったわ。そりゃあ生きるために他の生き物ぶっ殺すのは人間として当たり前よ?けどやりかたってあんじゃん。

だからさ、らしくないけど俺はこう言ってやったよ。

 

『こ、理ちゃん?あのよ、もうちっと優しさってのを見せてやれね?あまりにも可哀想だぜ?』

 

もはや手遅れに等しい言葉なのは分かってた。熊ももう虫の息だし。だが、それでも俺は言わずにはおれなかった。それほどまでの凄惨さがそこにあったんだよ。

…………ただな、これは間違いだったんだよ。後から思うと、なんて迂闊な言葉だったと分かる。

『優しさを見せろ』なんて遠まわしな言い方はしちゃダメだったんだ。手遅れなら手遅れで、『ひと思いに殺してやれ』くらいに言えば良かったんだ。

 

『優しさ、ですか。……主は存外慈悲深いのですね。分かりました』

 

そう言って理は殴るのをやめた。俺は「おお、分かってくれたか」と言いながら理に近づき───そこでスプラッタを見た。

 

『ほう、湯気が出ていますね。知識としてはありましたが、実際に触ってみると本当に暖かい』

 

……こいつ、何したと思う?

こうね、右手をぐちゅっと熊の腹部にね、突っ込んでね、なんか長~いモノをズルズルと掻き出しやがったんだよ。目の前で。

でね、そこで終わんないのがこのクレイジー娘なわけ。

 

『では、どうぞ』

 

魔力の炎で炙った『ソレ』を程よい大きさに千切ってさ、おもむろに熊の口にぶち込んだんだよ。で、そのあと手で熊の上顎と下顎を持って無理やり咀嚼させんだよ。

ぐちゃくちゃぴちゃって音立てながらさ、自分の『ソレ』を食わせてんのよ。もうね、流石の俺もどう反応していいのか分かんなかったよ。呆然としてたよ。

そんな俺に理のやつ、ぱっと見無表情ながらよく見ると得意顔でさ、こう言うの。

 

『どうですか、優しいでしょう?』

 

その光景のどこが?

 

『分かりませんか?最後の食事に美味しいものを与えてあげたのです。まず野生の下等生物が食さないであろうホルモン焼き。鮮度抜群、焼きたてホヤホヤ。それも自分自身のモノを食べるなど、一生に一度出来るか出来ないかの貴重な体験です。極上の冥途の土産となった事でしょう。焼肉のタレや塩コショウがあれば尚良かったのでしょうが、まあそこは素材の味で勝負ということで』

 

そしてトドメとばかりに右腕を高く上げ、それに炎を纏わせ、『紅蓮赤火』と呟くと同時に勢いよく心臓を抉り出したのだった。

 

『さあ、主。今夜は焼肉とモツ鍋ですね』

 

心臓を握りつぶしながら、服や顔についた返り血を器用に炎で焼き消しながらいう理。そんなキチガイに俺は簡素な答えしか返せなかった。

 

「お前、怖ぇよ……」

「失礼ですね。先日も言いましたが、私のどこが怖いと言うのですか?」

 

回想に耽っていた俺の目の前にいつの間にか理が。その遥か背後の海の上には身を浮かべた哀れな蛸の姿が。

 

「ああ、終わったのか。てかオーバーキルじゃね?」

「何とか努力して原型を残したので、少しもオーバーではありません。むしろ最小の殺戮と評して良いかと。どうぞ、褒めてください」

「評さねーよ褒めねーよ」

 

俺ぁこのガキの将来が心配だよ。

一応俺も大人と呼ばれる歳の人間だ。碌でもないぺラッペラな人生しか歩んじゃいねーが、それでもよ、場数だけは踏んでんだ。クズの道だけどな。

したがってだからこそこんなクレイジーちゃんでも、ガキにはきちんとした道を歩ませたいという心はある………と思うけれどもやっぱりないように見せかけてあるような気がする。

まあ、兎も角。

何が言いたいのかと言うと、ガキはガキらしく在れって事だ。ガキらしくってのは人によって捉え方が違うだろうが、少なくとも俺は返り血を浴びながら淡々と熊を鏖殺するような奴をガキらしいとは思わない。

 

「理よぉ、お前もうちょっとガキらしくなんねぇ?こんな狩りに参加しなくていいから、ゲームしたり外に遊びに行ったりしろよ。なんなら友達とか作ったりしてよぉ」

「非生産的です。時間は有限なので無駄には出来ません」

「有限?お前プログラムなんだから、写本本体さえどうかならなけりゃ不死だろ?少なくとも俺よりは長生き出来んじゃねーか、羨ましい。………なぁ、俺もプログラムになれねぇかな?」

 

長生き出来るって事はそれだけ楽しむ機会が増えるって事だ。しかもプログラムってんなら老いにも負けずいつまでも色々元気!!

 

「相変わらず主はご自分に正直ですね。普通の人間だったら………と、それは今更ですね」

 

そう言って困ったような笑みを浮かべる理。それは小さな表情の変化だが、それでも最近は普通に感情を表に出すようになったのでいい事だ。

 

「まっ、取り合えず今は俺の事はいいか。問題はお前。なんかよ、ガキらしい趣味を持とうとか思わねぇのか?」

「そう言われましても……ああ、一つだけ。映画というのは中々面白いものでしたね」

「お、映画か」

 

そう言えばシャマルと一緒にDVDレンタルしてたな。シャマルの奴は韓流ばっか見てるが、こいつは一体なにを見てんだろうか?アニメ……は絶望的に似合わねぇな。

 

「特に『SAW』や『ムカデ人間』という映画は目を見張るものがありました。発想が実に素晴らしく、とても参考になりました」

「シャマルの奴はガキに何てモン借りさせてんだぁぁぁ!?」

 

つうか参考になるってなんだよ!その映画の中で日常生活の参考になる所なんてねぇよ!!イカれ具合に拍車がかかるだけだよ!

 

「ハァ………もういい、もうわぁーったよ。そうだよな、テメェはテメェだよな。俺が胸張れって言ったしよ。例えお前がクレイジーのイカれポンチのどクサレ鬼畜黒ロリだったとしても、いや事実そうだけれども、お前はお前だ。シグナムとは真逆の涙を誘う程の無い胸を張れ」

「………カチ~ン」

 

チャキッ、とルシフェリオンを構える理。

沸点の低い奴だ。ほんの少しだけの悪口でこれだ。こういうとこだけガキなんだからタチが悪ぃ。

 

「お前って冷静で理知的で合理的なキャラじゃなかったっけ?」

「どこからの情報かは知りませんが安心してください。こんな直情的な姿を見せるのは主の前だけですから」

「時と場合に因ればかなりクる台詞だな。つっても相手がロリのお前じゃ時も場合も関係なく萎えるが」

「ことごとく失礼な主ですね」

「ことごとく残念なガキだ」

 

結局、そこからは魔法訓練と言う名のガチ喧嘩が始まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

波乱万丈の初旅行から帰ってきたのが数日前。振り返れば本当にいろいろあった。

3度目のアルハザード入店、魔導師高町なのはとの出会い、クレイジーロリ理の誕生、シグナム・夜天・シャマルの浴衣姿。良い事もあれば悪い事もあり、比率としては後者の方が多かったが、それでもかねがね良い旅行だったと言える………とは正直言えないが、もう過去の事なのでどうしようもないし、どうでもいい。

 

さて、そんなやるせない旅行だったが、最後に後日談として語っておかなければならない事がある。

高町なのはの事だ。

知っての通り、なのはには俺が魔導師だという事がバレた。それに対し、俺のとった対策は『白を切る』という何とも稚拙なもの。理意外の奴らには「絶対無理がある」と太鼓判を押された案。しかし俺はマジで白を切り通すつもりだったし、その自信もあった。

で、結果はどうなったと思う?まぁ、語るまでもないだろう。なんせ俺はやると言ったらやる男だからな、ハハハハハ!…………。

 

────世の中そんなに甘く無かったよ!!!

 

なのはのデバイス、レイジングハートつったか?そのデバイスがよォ、あの手品の時、魔力を発した俺の事をガッツリ映像に保存してやがったのよ!優秀なデバイスなこって。流石に物証があっちゃあ白を切り通せねぇ。

 

『ハヤさん、やっぱり魔導師だったんだね』

 

映像を突きつけられ、真剣な顔でそんな事言われちゃあもうこれは首を縦に振るしかない。

まっ、ぶっちゃける事になる可能性も考えてたかんな。そこまではいい、問題はその後のなのはの言葉だった。

 

『一緒にジュエルシードを探して!』

 

調子ぶっこくなよ?俺に頼みごとなんて11年早ぇ。成人してナイスバディになってから出直して来いや!………と言いたかったが、相手は可愛いなのはだ。流石の俺もそんな正直に言い返せなかった。

あの時は参ったね。俺はなのはの事は好きだが、魔法関係にもうこれ以上関わるなんてゼッテェ御免だからな。

だから俺は一つの可愛い嘘をつかせて貰った。

 

『すまん、なのは。手伝ってやりたいのは山々なんだけどよぉ………実は俺の体はボロボロなんだ』

『え……』

『魔法を使うとよ、頭痛がして鼻血やら耳血やら……えーと……その他、穴と言う穴から何か変な液体がドゥヴァって出んだよ。そう、拒絶反応ってやつ?』

『そ、そんな……あれ?でもあの時は手品って言って魔法を──』

『あのくらいなら問題ないんだ。それにあれはなのはを楽しませたかったという思いがあったかんな。多少の無茶は出来た。けど、それ以上となると…………すまん』

『う、ううん、ハヤさんは悪くないよ!私の方こそ、いきなり自分勝手な頼みしちゃって……』

 

普通、こんな嘘はある程度人生歩んでる奴か賢い奴なら通じない。けどそこはガキで純情ななのは、あっさりと信じちまってやんの。

さらに俺はついでとばかりに自分の事を誰にも喋らないよう口止めしておいた。

汚ぇ利己的な大人なら兎も角、なのはは良いガキだ。ここまで言っとけば俺を魔導師として頼ることもないだろうし、他言もしないだろう。

 

出来れば俺だってなのはを手伝ってやりたいとは毛ほどくらいなら思っている。ただなぁ、手伝う内容が魔法関係とあっちゃあ、その毛も遥か彼方に飛んで行くってもんだ。

 

それにだ、よく考えれば俺は今回の件は手伝わない方がいいと思うんだよな。

 

その理由はあの金髪のガキ魔導師。あいつも確かジュエルシードってのを探してたよな?そしてシグナムたちの弁を自分なりに解釈するば、どうやら2人はそれを賭けてぶつかっていた様子。そんな2人は多分同い年くらい。

これが何を意味するか分かるだろ?ファンタジーとかよ、アニメとか小説の物語でお約束。

 

そう───ライバルだ!

 

なのはと金髪、あの2人は一つのものを巡って争っている。そんな争いを経てお互い成長し、終には友情が芽生え、最終的には仲間になってラスボスに挑む!これ正に王道!!

さて、そんな王道に俺やシグナム達のような濃いキャラが突然乱入したらどうなる?面白くねぇだろ?空気読めって話だろ?だからな、ひっそりと見守ってやんのがいいんだよ。

 

まっ、一番の理由は厄介事と面倒臭ぇ事が嫌いなだけだけどよ。せいぜい気張れや若者。未来はお前らに託した。俺は今を楽しむ。

 

兎も角、何度も言うように俺はもうこれ以上厄介事には首を突っ込まん。俺自身に直接被害があるか、もしくは喧嘩を売られた場合は考えるが、それ以外の要因で俺が魔法関係のゴタゴタに介入するなどあり得ん事をここに宣言する!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと待て、今何つった?」

 

理との異世界ハンティングを終え、地球にある我が家に戻ってきた俺たち。向こうの世界はまだ昼と呼べるような明るさだったが、地球はすでに真っ暗な夜。

取り合えず俺と理は持てるだけの蛸の足(つうか肉片?)を持ち、今日は蛸料理だ~と揚々と帰宅したのだが、そこで待っていたのは何とも頭の痛くなる言葉だった。

 

「あのね、ハヤちゃんと理ちゃんが帰ってくる少し前に旅行の時の同じいくつかの魔力反応があってね、それでそのぅ………情報収集してくるってシグナムが飛び出して行っちゃった」

「あんのメロンはああああ!!」

 

俺が非介入宣言したと思ったらこれか!旅行の時と同じ魔力って事はジュエルシードとなのはと金髪か?つうか情報収集?あの理に次いで戦闘好きのシグナムがそれだけで終わっかよ!

旅行の時はストッパーの夜天やシャマルも一緒に行ったが、今回はどうやら一人で戦地に向かった様子。やべぇぞ、7割強くらいの確率で参戦しそうだ。

 

「なんで止めねぇ!今更情報収集とか要らねーよ!てか、あいつが一人で情報収集?カチコミの間違いだろ!」

「あ、主、落ち着いてください。将も主の為を思っての行動ですから」

「だからって、だからってなぁ!………ああ、もう!!」

 

せめて夜天かシャマルがついて行ってたらまだ安心してたよ?けど、シグナム一人じゃ果てしなく不安だ!!

 

「主、私が連れ戻して来ましょうか?」

「理、テメェは絶対ここを動くな。ミイラ取りがミイラになる事は目に見えてんだよ。むしろミイラになってピラミッド破壊しそうなんだよ。大人しく墓場で眠ってろ」

 

このロリまで行かせて見ろ、喜び勇んで戦場に躍り出る様が容易く思い浮かぶ。第一、今から行っても間に合うかどうか。既にヤり合ってても不思議じゃない。

取り合えず俺は今出来る事で最速の手段、念話をシグナムに飛ばす。

 

《シグナァァァァァァァァァムッッッ!!!》

《ひゃっ!?あ、主隼!?》

 

いきなりの大音量の俺からの念話に驚いた様子のシグナム。しかしそんな反応が出来るという事はどうやら見つからないよう大人しく観戦していたらしい。最悪の事態になってはいなかったが、それでもまだ現地にいるのは危ない。

 

《テメェは何しくさっとんじゃ!今すぐ、可及的速やかに戻ってこいや!さもねぇと卑猥な地獄に叩き落とすぞ!!》

《あ、主、しかし……》

《しかしも犯しもねぇ!いいか、10秒以内に戻って来なけりゃテメェは今日から烈火の将改め焚き火の将だかんな!》

《た、焚き火!?い、いえ、しかし10秒は流石に無理が……》

《つべこべ言ってる暇があるなら今すぐカムバック!ハリー、ハリー、ハリー、ハリィィィイイイ!!》

《わ、分かりました!今す──────》

 

と、そこでシグマムの言葉が不自然に途絶えた。

俺は最初シグナムが慌てるあまり念話を途中で切ったのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。回線はきちんと繋がっている。

 

……………まさか?

 

《オイ……オイオイオイ、何よその不気味な沈黙は!?止めろよオイ。待て、それはやっぱりもしかしてなのか………もしかしてなのか!?》

《────すみません、10分程帰宅が遅れそうです》

《もしかしちゃったよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!》

 

つまりなのはか金髪に見つかったと、そういう事だろう。

あの2人に顔が割れてんのは俺とヴィータとシャマルくらいだから、例えシグナムが2人と対峙しても俺との関係性は知られる事はない。そこだけは不幸中の幸いだが………でも、やっぱ最悪だ!

 

「なぁ、夜天。シグナムと言いロリーズと言い何で大人しくしてくんねぇんだろうな?お前だけだよ、いつも俺の傍にいてくれんのは」

「将たちも主を思ってこその行いです、どうか多めに見てあげてください。それに………はい、私はいつでも主のお傍におります」

 

何このお母さんのような妻のような慈愛キャラ?もうさ、俺ガチで夜天を彼女にしたいわ。

本当に優しい夜天、その優しさを見習って俺も少しシグナムに優しい言葉を送っとくか。

 

《おい、シグナム》

《────はい》

 

もう既に戦闘をしているのだろう、返事が遅かった。

 

《見つかったモンはしゃあねぇ。だがいいか、絶対無傷で帰って来いや。今お前の前にいる奴がどんな奴かは知らん。なのはかも知れん、金髪かも知れん、管理局かも知れん、その他の誰かかも知れん。だけどよぉ、俺はそんな有象無象よりはお前の方が大切な存在だ》

《主……》

 

これは事実、俺の本心だ。

確かに俺はなのはは好きだし、金髪のガキも嫌いじゃない。けどそれは見ず知らずの他人と比べてだ。シグナムと天秤にかけた時、そんなモンは比べられるレベルじゃない。仮に全くの他人一億人とシグナム、助けるならどっちと言われたら勿論……………ちょっと訂正、一億人の野郎か不細工な女とシグナムだったら勿論シグナムを取る!

 

 

《女だろうがガキだろうが老人だろうが、お前の柔肌メロンを傷つようとする奴がいたら逆に傷つけろ。それでも傷つけられそうなら迷わず逃げろ。騎士のプライドとかあっかもしんねぇけどよ、そんな不確かなモンより俺ぁお前の方が何十倍も何百倍も大切だかんな?もう一度言うぞ────無傷で帰って来い。そして笑顔でただいま言え》

《っ…………はい、はいっ、必ず!》

 

ああ、なんて優しい俺。けれどこれがロリーズやザフィーラだったらこんな言葉も出なかっただろう。ひとえにシグナムのメロンの成せる業だな。

 

《あっ、訂正。やっぱ一番大事なのは俺との繋がりがバレないようにする事だな。その為なら多少傷つくことになっても構わねぇや》

《あ、主………》

 

いや、当たり前だろ?何だかんだ言って人間一番大切なのはテメェなんだ。自分とシグナムを天秤にかけたら……否、そんな前提無く無条件で俺の方が大切だ。自分自身が一番かわいくて、他は二の次。これ常識。

 

《まっ、取り合えず五体満足で帰って来いや。多少怪我しても俺が舐めて治してやっからよ?》

《それはとても魅力的ではありますが、心配御無用です。私は主隼の騎士───烈火の将シグナム。完全勝利意外あり得ません》

《そうかよ。ンじゃ、怪我一つでも負って帰ってきたら問答無用で焚き火の将な。焼き芋作らすからな》

《!?……………逆巻け、陣風!渦巻け、旋刃空牙ァァアア!!》

 

 

とまぁ、そんなカッコイイ台詞を最後にシグナムからの念話が途絶えたのだった。その言葉の意味は知らんが、気合の入りようから見て魔法か何かだろう。相当改名が嫌なようだ。

 

(それにしても結局戦闘か……まぁ、喧嘩売られたならオトシマエは付けるべきだがよぉ……)

 

なんか最近頻繁に魔法関係に関わってねぇか?あれかね、よく言う「一度魔に触れたら惹かれ易くなる」とかそんな感じ?小説とかアニメなら兎も角、まさか現実でそれを体感するとはな。

しかし、もうこれっきり願いたい。願いたいが………ハァ、なんかドツボに嵌りそうな予感が……。

 

(だが……だが!それでも俺は俺の未来を薔薇色にするッ!!)

 

日々を平穏無事に過ごし、就職し、いっぱい金を稼ぎ、彼女を作り、童貞を卒業し、妻を迎え、子を抱き、孫に看取られて逝く。そこに魔法という厄介な存在はいらん!

…………まぁ、例外として夜天たちだけなら俺の未来に加わってもいい。お世辞にも長いとは言えない付き合いだが、それでも一緒に生活していれば米粒くらいの情は湧く。それに総合的に見てもこいつらの事は嫌いじゃねぇしな。てか、むしろ夜天かシグナムかシャマルは伴侶にお迎えしたい!ハーレムも可!

 

と、なんとも優しさ溢れる俺。しかし、そんな俺に降ってきた言葉はなんとも腹の立つものだった。

 

「どうしたのでしょう?主が気持ち悪い顔をなさっています」

「ん?……うげっ、なんだあの慈愛に満ちた顔。また変な妄想でもしてんじゃねーの?鳥肌立ちそう」

「なぁ、夜天。あのロリーズ殺していいか?いいよなぁ!?よし、そうしようグチャグチャにして下水溝に流そう!」

「お、落ち着いてください主。2人も主になんて事を……!」

 

理が1回、ヴィータが1回、2人合わせて1回。計3回。

それがここ最近の俺の1日の平均喧嘩回数だ。

 


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