フリーターと写本の仲間たちのリリックな日々   作:スピーク

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日が変わってすぐの時間。深夜、丑三つ時。現在、そんな真夜中にも関わらず俺こと鈴木隼は部屋でタバコを吹かしている。

何故?と思われるかも知れない。なにせちょっと前にザフィーラを枕に床に就いたばかりなのだから。

寝付けなかったのか?急にタバコが吸いたくなったのか?シグナムたちが帰ってくるのを起きて待っていたのか?ただの気まぐれ?………どれも違う。

 

答え───帰ってきたシグナム達に叩き起こされた。

 

では何故叩き起こされたのか?それを話す前にもう一つ知ってもらおう。今の俺の心境、気分を。

タバコはこの数分で既に何本も吸っている。足は残像が見えるほど貧乏揺すり。眉間には皺が刻まれている。──つまり今の気分は最低最悪。イライラ全開。

 

別にこれは睡眠を妨害されたからイラついている訳ではない。そんな些細なことじゃない。原因は起こされた内容によるもの。

 

さて、では話そう。何故叩き起こされたのか、その理由を、その内容を。と言っても俺も訳が分からん状態なので、取り合えず一言で要約すると……。

 

「もう一度言うぞ?───なに"幼女誘拐"して来てんだよ!?」

 

これまでの人生でピカイチと言っていいほどの驚愕事実がここに起こっていた。

 

「マジびっくりだわ!つか、ねーよ!なんだよ、そりゃ!饅頭とかご当地ストラップとか、そんなお土産感覚で幼女誘拐ですか!?それが魔法世界のトレンドですか!?おお!?」

「だからこれは違うのです!」

「なにがどう違うっつうんだよ!じゃあそこに居る黒いガキはなんなんだよ、あぁん!?」

「そ、それは……」

 

出て行った時の人数4人、戻ってきた時の人数5人、現在総人数7人。

そう。起こされてみれば何故か一人増えてたのだ。これがボインで綺麗なエロいお姉さまならオールOKなんだが、生憎と正反対。絶望的にクソガキ。超クソガキ。

 

そのガキはヒラヒラがいっぱい付いている黒い服を着て、顔は一見してあの高町なのはにそっくりなのだが、それは顔だけ。髪の長さや纏う雰囲気がまるで違う。無表情だし。瞳に光ないし……レイプ目ってやつ?

 

そんな高町なのは似のガキは先ほどから一言も喋らず、俺たちのやり取りを黙って窺っている。

 

「俺は全殺しにしろって言ったがお前らはしないだろう事は分かってた。偵察くらいで済ますだろうと思ってた。なのに蓋を開けてみればまさかの誘拐かよ!?流石の俺もこの斜め上ぶっちぎった結果には驚きだよ!管理局じゃなくて普通にサツにしょっぴかれんじゃねーか!」

「ですからこれは誘拐では……どう説明すればいいのか我々もよく分からないのですが……」

 

どうもガキを連れてきたこいつら自身も混乱している様子。しかしだからと言って「ならしょうがない」で済むはずがない。もし仮に攫ってきたのが俺なら「ならしょうがない」という理由で済ませるが、生憎と俺は自分に優しく甘甘で他人に厳しく激辛な性悪だ。

取り合えず俺は再度説明の要求をしようとし、しかしその前に別の所から声が上がった。

 

「誘拐ではありません」

 

冷たい……いや、無機質なただ文章を読んだかのような口調。感情の乗っていない声。まだ初音ミクの方が上手く感情表現出来てんじゃねーかというくらいのプログラムボイスだ。ただ声色は顔と同じく高町なのはそのもの。

そんな声を発したのが今まで沈黙していた黒いガキと分かるのに少し時間を要した。

 

「誘拐ではありません。私は自分の意思でここにいます」

 

意思の感じない声で、しかしどこか念を押すように改めて言われる。どうやら本当に誘拐されたわけでもレイプされたわけでもないらしい。そうなると、取り合えずシグナム達に詰問するよりこのガキ自身から話しを聞いたほうが早そうだ。

 

「じゃあ聞く。お前は何モンだ?」

 

一応俺も20数年生きてんだ。人を見る目はある程度持っていると思う。だから分かる──こいつぁ絶対カタギじゃねぇ。

 

「申し遅れました。私は夜天の写本、その中の理の章から発生し、派生した魔導生命体です」

 

そう言った黒いガキに次の瞬間待ったの声を掛けたのは夜天だった。

 

「ちょっと待て、それはおかしい。騎士は我ら5人しか存在しないはず」

「私は自分が騎士だとは一言も言っていませんが?」

「むっ。では一体……」

「ですから理の章の魔導生命体です。それ以上でもそれ以下でもありません」

「……つまりお前は騎士としての役割は無いと」

「はい。ですが戦闘は行えます。その辺に転がっている有象無象の魔導師なら数瞬で灰燼に出来ます。そしてあなた達にとって鈴木隼が主のように、私にとっても鈴木隼は主です。そこは変わりません」

 

なんか淡々とした奴だな。見かけはなのはそっくりなのに、実にガキらしくない。可愛げがまるでない奴。こういうガキらしくないガキってあんま好きじゃねーんだよなぁ。嫌いというほどでもねーけど、でも癪に障るんだよ。どこぞの赤毛クサレもそう。

と、そんな事を思いながらこいつらの会話を聞いていたが、ちょーっと聞き逃せない所があったな。出来れば聞き間違いであって欲しいが……。

 

「小難しい話してるとこ悪ぃがちょい待てや。黒ロリ、今お前何つった?」

「鈴木隼を愛している、と」

「願い下げだよバカヤロウ。てか、さっきンな事言ってねーよな!?」

「では、クソ虫のように這いつくばっている惨めな魔導師なら瞬く間もいらず指先一つで消し飛ばせます、という部分ですか?」

「重ねてちっげぇよ!そうじゃなくて誰が誰の主だって?」

「あなたが、わたしの。この生涯、主に捧げ、また添い遂げる所存です」

 

…………まぁよ、実はだいたい最初から予想は付いてたさ。シグナムたちが黒ロリを俺の下へ連れて来た時からさ。シグナムたちが正体不明の奴を主である俺に近づけるとは思えねぇから、きっと本能的(プログラム的?)にこのガキは夜天の写本の同志だって思ってたってことだろう?事実、同じような存在らしいし。て事はシグナムたちの主である俺は、そんな彼女達と同存在である黒ロリの主でもあると?なるほどな………。

 

────ふざけんな!

 

「ダメ、断る、無理、却下、不可、拒否!」

「何故です」

 

俺の否の言葉にいささか眉をしかめる黒ロリ。それはこいつが示した初めての人間らしい感情だが、問題はそこじゃない。

 

何故?何故と聞くか?

 

「金だよ金!金金マネー!世の中な、99%金なんだよ!金あっての人生なんだよ!金がなきゃ生きていけねぇんだ。そしてうちにはお前を養えるほどの貯えはねぇ」

「世知辛いですね。ただそれが事実であれ、その様な『金が全て』といった物言いは止めた方がいいです。人として、主として、何より男としての価値を下げてしまいます」

 

ガキがなにいっちょ前に悟ったような物言いしてんだか。

 

「はっ!そんな目に見えねぇ価値なんていらねーよ」

 

世の中、目に見える価値の方がいっとうデケェんだよ。

 

「なるほど、それが主のお考え、価値観なのですね」

 

現実の厳しさを知った黒ロリ。表情はあまり変化がなくほぼ無表情だが、それでも幾分かその瞳に悲しみの色が宿ったような気がする。

いや、それは気がするではなく、本当に悲しいらしい事が次の発言で分かった。

 

「私としては主の御傍で生を謳歌し、時々気晴らしに戦闘を行う事が望みですが、そのせいで主の迷惑になるのはとても不本意であり、大変心苦しい事です。……はい、分かりました。至極残念ではありますが、望まれぬ者は消えるが定め。追加したページを切り取って下さい。そうすれば私は消えますから」

「…………」

「さあ、どうぞ。この場でびりっとやってください。そしてトイレにでも流してください」

 

さてここで問題です。

見た目10歳前後のガキにこんな事を言われた大人の男性。果たしてここでこのガキを消した場合、俺は善い人?それとも悪い人?

 

「あのよぉ、そういう言い方は卑怯じゃね?つうかさ、やっぱお前ってあのなんちゃらって断章から生まれたわけ?て事は極論すれば俺がお前を生んだって事?」

「そうなります。主が私を勝手に生み、また勝手に殺すのです」

「だからそういう言い方すんなやボケ」

 

確かに俺は店主から碌な説明も聞かず勝手に写本の中に断章を追加したがよ?なんも知らなかったんだって……って、それはそれで罪か。まさに無知は罪。

諸悪の根源はあの店主なんだろうけど、結局それも責任転換といえばそうだしなぁ。まあ、でも、だからって俺に責任問われても困るし~。やっぱ今からあの店にクレームつけに行くか?自分で言うのもあれだけど、俺に悪徳クレーマーやらせたら右に出る奴はいねーぞ?まっ、どうせもうなくなってんだろうけどなー。

 

「あの主、その断章とは一体……?」

「ん?ああ、そういや説明してなかったな」

 

よく考えれば俺はシグナムたちにあの店主にあった事をまだ喋っていなかったので、今更ながら簡単に説明しておいた。

その説明を聞いた皆は俺の軽率な行動に若干の呆れを見せたが、そんな反応も事が起こっては今更だ。

 

「しかしな、現実問題厳しいんだよな。お前の見た目じゃバイトなんて出来ねぇだろうしよ」

 

今でさえ結構ギリギリの生活だかんな。せめて数ヵ月後に出てきてくれりゃあ、ちったぁ生活も安定してギリ養えたかもしれんが。

 

「まあ住むだけなら何とかならん事もない。ガキ一人くらいならまだ何とか置けるだろうし、服とか日用品は使い回せばいい。しかし肝心の食費がもう無理。ホント無理」

 

今も俺が一日に飲む酒、タバコを抑え、さらに娯楽品の購入を止めてやっと6人が食える状態だからな。そんな中でさらに一人増えるとなると……うぅむ、インターネット解約すっかな─────って、待て俺。なに黒ロリを住まわせる方向で考えてんだよ?なーんで俺が人の為に動こうとしてんだよ?そうじゃないだろう!ここは断固として拒否の姿勢を………

 

「食費なら問題ありません」

 

………あん?どういう事よ?

 

「この世界の野生動物、また他次元の野生動物や魔法生物をハントしてそれを食せば食費は抑えられるでしょう。また、魔法生物の素材などは魔法世界の商人にでも売れば多少の金になると思われます」

 

またも見かけに反したアグレッシヴな事言ってんぞコイツ?物騒っつうよりぶっ飛んでんな。だけど、まーそういう考えもアリっちゃアリだな。

しかし、それだって一時の凌ぎだろう。当面はいけるかも知んねぇけど、先の事を考えるとな………。

 

「……主」

 

無表情な、しかしどこか期待している顔をしている黒ロリ。そんなガキを見て俺の頭を過ぎるのは甘々な思考。

 

───先の事を考えて過ぎて、今目の前にいるガキの存在を疎かにすんのかよ俺?本当にそれでいいのか?

 

(それでいい、と簡単に言えれば俺はとうの昔に童貞捨てれてんな)

 

……え?関連性が分からないって?なんとなくだよ、なんとなく。それに、俺ってそもそも後先考えないタイプだし。

先の事なんて考えず、後の事も考えず、ただただ在るがままの『今』だけを考えて……むしろ何も考えずに生きてるんだよな。

 

「ハァ………」

 

俺はため息を一つ零し、沈黙を保っているほかの奴らに視線を向ける。俺と目が合った5人はそれだけで俺の言いたい事を察せたのか、それぞれが一つの意思の下喋り出す。

 

「主の今思われている通りにすれば良いかと」

「こいつも我らと同じ写されし夜天より生まれし存在。出来れば同じ道を歩ませたいです」

「ハヤちゃんならきっと大丈夫ですよ」

「なるようになんだろ」

「主の御心のままに」

 

………OKOK。もういい、もう分かった。俺は誇り高き日本人だ!義理、人情、仁義、友愛の精神を溢れさせてやんよォ!男ならやってやれだ!!

 

「チッ!……わぁったよ。今更ガキが一人二人増えたとこでなんも変わらん……わけねぇが、それでもお前が生まれたのは半分くらいは俺の不始末。テメェのケツくらい拭けなくて何が男だ。ハイハイ、面倒見てやんよ。せいぜい感謝し、敬い、崇めろや」

「………主」

 

俺の言葉に感動と尊敬の目で今にも『ご立派です』と言いかねない雰囲気を醸し出している夜天たち。黒ロリも少し目を見開いた後、小さく微笑みまで浮かべやがった。

俺も流石にそんな反応をされるのは恥ずかしい。

 

「べ、別にあんた達のためじゃないんだからね!」

 

恥ずかしさを紛らわすためツンデレを装ってみたが、シグナム達はそれでも『ええ、ええ、分かってますよ』的な視線を送ってくる。ただ、その中で唯一……いや二つ、正直な反応を示した奴がいた。

 

「おえ、キモッ。死ねばいいのに」

「壊滅的に主に女言葉は似合いませんね。端的に言うと気持ち悪いです。劣悪です。クソにも劣るおぞましさです。流石にそれは愛せません」

「よーし、表ん出ろやロリーズ。真夜中の喧嘩とシャレ込もうじゃねーかよ!月に代わってオシオキしてやんぜ!?」

 

本日、家族兼喧嘩相手が一人増えましたとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、紆余曲折あったがまたも家族が一人増えてしまった。それが良い事なのか悪い事なのかはこの先暮らしていかなければ正確には分からないだろうが、今の俺の気持ち的には最悪だ。

この黒ロリがもしシグナム級のメロンの持ち主のお姉さんだったならキタコレなんだが、生憎と現実はヴィータレベルの残念さ。さらにガキらしくない言動なのもマイナスだ。

それにしてもこれからはあの狭いアパートで総勢7人暮らしか。ハァ……また管理人に報告しなくちゃな。それにご近所さんにも。ああ、また変な噂が立つぞ。つうか、もし万一親が来たらこいつらの事どう説明するよ?フリーターの身で同棲してますって正直に?ハハ……親父は微妙だが、クソババアには確実に殺されるな。

これから先の事を考えると本当に憂鬱になってしまう。俺は本当に平凡な人生を歩んでたんだけどな、もうこりゃ軌道修正は無理だ。せめてもうこの先は厄介事が無いよう祈るばかり。

 

────しかしそんな祈りもすぐに絶たれてしまった。

 

「高町なのはは魔導師だったと。で、なのはの魔力を写本が取り込んで結果生まれたのがコイツと」

 

翌朝の朝飯時、昨晩の詳しい経緯を聞いた俺は頭を抱えた。

曰く、昨晩偵察に行ったところ金髪のガキとなのはが魔法戦をしていた。離れて様子を窺っていたシグナム達だが、なのはの魔法が運悪く流れ弾のように向かってきた。避けるのは間に合わず、魔法を使って防げばこちらの存在がバレるので咄嗟に写本で流れ弾を叩き落そうとした所、写本がその魔法を吸収。結果、黒ガキ爆誕!

 

「マジかよ……そりゃまじぃな。俺、なのはの前で普通に魔法使っちまったぞ?」

 

昨日、俺は酔った勢いで手品と称して隠すことなく盛大に魔法をぶっちゃけちまった。だって、まさかその場に俺ら以外の魔導師がいるとは夢にも思わねーじゃん?だっていうのに、まさかなのはが魔導師だったとは。

そう言えばなのはの奴、どうもアレからちょっと様子がおかしかったけど、もしかしなくてもそれでか?

 

ハァ、いい方向には転ばないクセに、なーんで悪い方向には勢いよく爆進していくかね?

 

「改めて言わせて頂きますが……何をしてらっしゃるのですか、主隼」

「いや、だってよ、やっぱ酒の席には何か芸が必要だろ?手品代わりにモノホンのマジック披露ってすげーじゃん?」

「……断章の件もそうでしたが、次からは軽率な行動は控えてください」

 

むっ、シグナムに怒られてしまった。ンだよ、ホント真面目な奴だなぁ。たかだか魔法の一つや二つ、ぶっちゃけてもいいだろ。それに相手はあのなのはなんだ、そんな大事にゃならねーよ。

俺は適当に「あいよ」と返事をし、呆れているシグナムを尻目に次は黒ロリを見た。彼女はポリポリと沢庵を齧っていた。

 

「よぉ、黒ロリ、ちょっといいか?」

「ポリッ───はい、なんでしょう?」

「お前ってさ、なのはのコピーみたいなモンだろ?……それにしちゃあ随分と感じが違うが」

 

顔の作りや体系はなのはとまんま同じなんだが、それ以外は全然違う。髪短ぇし、声はちょっと低いし、物騒だし、ムカつくし。

 

「主には配慮というものが足りないですね」

「あぁん?配慮だァ?」

「普通、面と向かって人にコピーと言いますか?確かに事実ですし、プログラムですのでその呼称は適当ではありますが、反面できちんと自由意志を持った魔導生命体でもあります。ですから、そのような物言いはいくら私でも傷つき兼ねませんよ」

「傷つく?お前が?………ぶわははははははははははははははははははははははははは!!!!」

 

腹が捩れるというのはこういう事か。

 

「カチ~ン」

 

俺の爆笑にわざわざ声に出してご立腹を表す黒ロリ。こう素直に反応するところはガキっぽくていいな。

 

「はははは、はぁ~腹イテ。お前、中々ユーモアのセンスあんじゃねーか」

「半分ほど殺していいですか?」

「まあ落ち着けや。そもそもコピーと言われて傷つく意味が分からん。自分でも言ってるようにお前は人間じゃなくプログラムなんだから、それくらい別に言われてもいいだろ」

「面と向かって人間も否定しますか。そこは『真実はどうあれお前は人間と同じだ』とでも言うのが人としての優しさでは?事実、私の作りは人間のそれで、意志もあります」

「何言ってんだか。お前プログラム、俺人間、これが事実。お前は決して人間じゃねーし、決してなれもしねぇ。アホかお前は」

 

吐き捨てるような俺の言いに、黒ロリは憮然とした顔になった。異様に冷たい瞳だけが射抜くようこちらをジッと見つめてくる。

そんな目を見て思い出した。シグナムたちとも出会った当初にこういうデリケートな話をし、そして同じような冷たい反応が返ってきたもんだ。懐かしいね~。特にシグナムなんてまぁ頑固でよ?話し合う前は一週間くらい冷たかったし。

まったく、あの時のシグナムたちも、そして今のコイツも、どうしてこう魔導生命体ってのは人間扱いされたいのかね?どうしてそう自分の立場を誤解すんのかね?己の存在を安く見るかね?

 

くだんねー。

 

「ったく………誤解無きように言っとくがな、俺はお前の存在が人間より格下とは思っちゃいねーぞ」

「え?」

 

黒ロリは、まるで鳩が豆鉄砲を食らったような……とまでは言いすぎだけど、それでもさっきまで湛えられていたものとは打って変わった表情になった。

 

「人間じゃない?魔導生命体?プログラム?コピー?それになんか問題でもあんのかよ。どういう存在だとか関係ねぇだろ。そんなモンに重きを置くなよ。そんな面倒臭ぇ生き方しようとしてんじゃねーよボケナス。あのな、俺が思うにいっちゃん重要なのはよぉ、テメェはテメェだと胸を張って生きる事が出来るかどうかだ。それをやれプログラムだコピーだ人間だって大仰に喚きやがって。ケツの穴の小っちぇー事ぬかしてんじゃねーよムカつく」

 

他人の目?知った事か。

社会通念?クソ食らえ。

自分バンザイだよ文句あっかコラ。

 

「………傲慢ですね」

「それが俺だ」

 

胸を張る。さも当然のように。それが常識のように。

黒ロリは俺の言葉に呆然とし、そしてそんな黒ロリを見て夜天が苦笑しながら声をかけた。

 

「お前も分かったろう?主のお心が。主は今まで一度も我らをプログラム風情などという言い回しをしたりして見下したりはしなかった。人ではない私でも、プログラムである私であろうとも、きちんと一人の『私』として見て下さる。確かに主は極端な位置におり極端な物の見方をされる事もあるが、しかしだからこそ、極めて端にいるからこそ、柵に囚われることなく全てを見渡せる事が出来るのではないだろうか?」

 

相変わらず夜天は俺に対して優しいというか過保護というか。

それにだ……きちんと見るに決まってんだろ!寧ろガン見だ!!こんな美人でボインな夜天を人間じゃないからといって見ないなんて選択肢はない!

プログラム?非人間?──いったい、それの何処に重要な要素があるんだ?重要なのは顔が良くて、スタイル良くて、男女の営みが出来る事!これだろ!そんな相手ならどんな存在でもバッチ来いや!!逆に人間でもブスでデブで汚くて臭い女は目障りだ死に晒せ!!

 

とまぁ、そんな俺の溢れる情熱は置いといて。

 

「ンで?お前はなのはのコピーなんだろ?」

 

話を戻した俺に黒ロリは先ほどのように突っかかる事もなく、普通に答えた。

 

「確かに高町なのはの魔力情報からこの身体は作られた謂わばコピー、ひとつのプログラム──ですが、ええ、そうですね。思えば、ただそれだけです。言葉にすれば何の事はありません。人間が一つの種であるように、私もまたプログラムという一つの種。そして、何よりも私は"私"という事……そう、今なら胸を張れそうです」

「へっ!どうやらケツの穴、ちったあ広がったみてぇじゃねーかよ」

「おかげさまで。拡張して頂きありがとうございます」

 

相変わらずの無表情ながら、「どうだ」とでも言わんばかりに小さく胸を張り、さらに自分のヒップをパンと小さく叩く黒ロリ。その返し方は、なかなかどうして、嫌いじゃない。

と、コイツの私は私という言葉ででピンと来たが、そう言えばまだコイツに名前付けてなかったな。まさか見た目そのままに『なのは』って名乗らせるわけにもいかんべ。

 

「お前、確か理の章から生まれたんだよな?」

「はあ、そうですが……?」

 

俺の藪から棒な言葉に怪訝な顔をする黒ロリ。

 

「ンじゃ、今日からお前は理(ことわり)だ。そう名乗れ」

 

夜天の時と同じくそのままストレートにした。いちいち考えんのメンドーだしな。

 

「理、ですか。いちおう、『シュテル・ザ・デストラクター』という固有名を持っていますが?」

「あん?そうなん?それなら……いや、シュテル?」

 

どう考えても外人のような名前だ。しかもデストラクターって何だよ。怪獣デストロイヤーの親戚か?何にしろ響きが物騒で物々しいだろ。そもそもその日本人ヅラで名前が横文字ってなくね?漢字でどう書くよ?屍由輝流・沙・死斗羅紅佗亜?

まあ、言うて『理』っつうのも大概だけどな。全然人名には思えん。夜天もだけど。

 

「そか。まあ、じゃー理じゃなくてシュテルで──」

「理です」

「お?」

 

今までで一番きっぱりとした口調でガキが言葉を発した。

 

「理、です。私の、私だけの特別……私は私だと胸を張れる一つの要素。主から頂戴した名。シュテル?どこのキラキラネームですか。私の名は理。もうこの名以外、名乗る気はありません」

 

そう言って淡く微笑む理。

夜天の奴もそうだったが、どうやら主である俺から名前を貰える事は相当嬉しい事らしい。微笑とは言え、まさかコイツが笑顔になるとは驚きだ。そしてやっぱりなのはコピー、その笑顔は中々可愛らしい。

 

「………ハァ、せめてお前がシャマルくらいあればな」

「身長ですか?それは現状如何ともし難いです」

 

俺は胸の事を言ったんだが、まあ確かに身長もだな。理が同年代ならなとしみじみ思う。それだったらもっとボン・キュ・ボンだったかもしれねーし。

 

「これはこれで一部層には人気の按配なのですが。立派なステータスと言えます。感情表現の下手なS気質のクーデレなロリっ娘───鉄板かと。それとも、もう2~3属性追加しましょうか?」

「人の思考読んだ上にあざとい考えすんな!?てか、お前Sなんかよ」

「わりと」

 

そんな心温まる交流ともコントとも取れる俺たちのやりとりは、しかしとある一人の騎士に遮られた。

 

「あの主、よろしいですか?」

「あん?どうしたよシグナム。そんな真面目くさった顔して?おら、スマイルスマイル」

 

難しい顔をしながら声を掛けてきたシグナム。それじゃあ折角の美顔が台無しだ。

 

俺はシグナムの顔に手をやり、両端の口角を『むにっ』と掴み上げた。

 

「ふぁ、ふぁるふぃ!?」

「いいか、シグナムよぉ?お前の生真面目さは俺ぁ嫌いじゃねーが、もっと表情崩そうぜ?女のしかめっ面ほど見ててうぜぇモンはねーかんな」

 

まっ、シグナムみてぇな美人はどんな顔してもそそるモンがあるけどよ?

 

「ンで?なんか話でもあんのか?長くなるようなら聞かねぇぞ」

 

俺はシグナムの顔から手を離し、ポケットに入れていたタバコに手を伸ばす。

シグナムは今の俺の言葉を受けて少し改まったようで、その顔が若干柔らかい表情になった。ただどこか呆れの色も含まれているが。

 

「あのですね……高町なのはの件はどうなさるのですか?十中八九、主が魔導師だというのはバレているかと」

 

あ、忘れてた。そうだよなぁ、なのはの前で思いっきり魔法使っちまったからな。あいつもあいつで何か聞きたそうだったしなー。ありゃ確実に俺が魔導師だってバレて────ん?いや待てよ……。

 

「どうかなされたのですか?」

 

いきなり俯き、考えに没頭しだした俺を訝しむ5人。理は相も変わらず無表情だが、黙って俺を見ている。

そんな6人を尻目に俺は少しばかり考え込み、程なく一つの結論を出した。

 

「俺は魔導師じゃない」

「「「「「は?」」」」」

「だから俺は魔導師じゃない」

「なるほど、頭は大丈夫ですか?故障しているのなら早めの修理が必要かと」

 

なんとも不敬な理の発言だが、他騎士5名も同じように「いきなり何言っちゃってんだ?」という感じを醸し出している。

まあ、話は最後まで聞けよ。

 

「いいか?俺は確かになのはの前で魔法を使った。だがしかし、俺は自分が魔導師だと言った訳じゃない。なのはは俺を魔導師だと疑っているだろうが、俺はそんな事一言も言ってはいない。つまりなのはは俺を勝手に魔導師だと思い込み、決め付けているだけ。そこに証拠はない。なにせそれは言ってしまえばなのはの推測だからな」

「………それは」

「俺は魔導師だと公言していない。魔法は使えるが、魔導師だとは一言も言っていない。故に俺は魔導師じゃない。魔法が使えるただの善良な一般人。つまり───」

 

そこまでの俺の言葉に驚きと呆れの顔を半々に浮かべている6人。この様子だと俺の続く言葉も予想が付いていることだろう。ならばその予想通りの言葉を送ろう!

 

「一言で要約すると……………シラを切る!!」

「「「「「無理です(無理があります)!!」」」」」

 

無理じゃねーよ。

なのはが俺を魔導師だと思い込んだのは、俺がデバイスを出した時や空中浮遊する時生じた魔力が原因だろ?けれど、それだって何かしらの媒体に記録として残っているわけじゃない。ただ自分が『魔力が発生した』と感じただけ。ンな自己申告、大きな証拠にはならない。

 

「なのははな、きっと勘違いしたんだよ。俺から魔力が発生した、ってな。そりゃ妄想だ。ただ俺は手品をやっただけなんだから。手品、つまりマジックだよ。魔導師?ナニソレ、美味しいの?」

「ほ、本気でそれで通すつもりかよ……」

 

仮になのはが「この人、魔法使いです!」なんて周りに言った所でどれだけの人がそれを信じる?そんなガキ特有の戯言、誰も信じねぇよ。なら後は俺がばっくれればいいだけ。

これ以上、魔法関係でゴタゴタに巻き込まれんのは御免だからな。無理がある?ハンッ!無理を通して道理を蹴っ飛ばす!ってどっかのアニキが言ってた。成せば成る!!

 

そんな俺の滅茶苦茶な考えに、しかし意外にも一人だけ肯定の声を上げた。

 

「良いのではないですか?」

 

そう言ったのは、どこかのほほんとした顔をしている理。

 

「主の考えの全てに是と言うわけではないですが、しかし結局の所最後は主の決定一つです。それにもし高町なのはや管理局が主の前に立ち塞がろうとも、その時は我が力を持って掃討すればいいだけの話」

 

そこまで言って何か閃いたのか、無表情だがポンと手を叩いた後淡々と続けた。

 

「いっその事、今からオリジナルを潰しておきましょうか。そうすれば後顧の憂いはなくなります。先手必滅というやつです。ああ、しかし個人狙いすると足がつきそうですね。ここは海鳴ごと焼却しましょうか。一本だけ木を燃やせば目立ちますが、森ごとならバレないでしょう。……ふむ。そうすると海鳴と言わず、どうせなら日本ごと消し飛ばして──」

「クレイジーロリ、お前もう黙っとけや」

 

お前の考えにゃあ俺含め騎士ども全員ドン引きだよ。俺も結構極端な物の見方するけどよ、流石にコイツほどじゃねーぞ?何で人一人消す為のカモフラージュで国消そうとすんだよ。イカれ具合がとんでもねーガキだ。

 

まあ、言うてそんな物騒な事態にはならねぇだろうけど。なのはにシラを切り通せなかったとしても別に不都合がある訳でもなし、管理局にバレたとしても別に魔法使ってワリーことをしてる訳じゃねぇから堂々としてりゃいい。

 

結局の所何も変わらない。……考えが甘いって?俺、酒飲みのクセに甘党なんだわ。

 




一つの節目の10話でうちのぶっとびキャラ2トップの内の一人が登場。

リメイク前の当時、公式に『シュテル』という名前や詳細な性格設定がされてなかった彼女。今回、修正しようかどうか迷いましたが結局当時のままで行くことにしました。

原作の可愛いシュテルんがお望みだった方、申し訳ありません。どうかご容赦を。

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