氷雪の魔王と愉快な帝具使い達の話   作:椿リンカ

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社員1「あれ、また社長がいなくなってるぜ?」
社員2「おい、前回も出たのにまさか・・・」
社員4「に、二回連続とかありえないアル!」
社員3「社長、出たがりですよね」
社員4「あんのセフィロスもどき!帰ってきたら毛根殲滅して禿にしてやるアル!」
社員1「落ち着けって・・・ったく・・・」


美食家で人間好きの悪魔と、ただの人間の話

ぐっすりと眠っていた露子が目を開ける。もう朝なのだろうか・・・いや、違う。

起きてみるとキングサイズのベッドの上で眠っていたらしい。だが、眠る前とは明らかに場所も空気も違う。

 

「露子さん、お久しぶりですね」

 

聞き覚えのある声に露子はあたりを見渡すと、すぐにその声の主を見つけることができた。ベッドから少し離れた椅子に腰掛けたロッドバルトがアールグレイを飲んでいた。テーブルの上にはスコーンにサンドイッチ、バタークリームなどが置かれている。

 

「・・・ロッドバルト・・・さん」

「貴方が転生してから10年そこらですか。私はいつも観察していましたが、露子さんは私に会うのは久しぶりでしょう?ねぇねぇ、どうですか、転生した気分は?」

「・・・」

「おや?どうしたんですか?あまりに感動して声にも出ないんですね」

 

朗らかに笑うロッドバルトに対して、露子は何かを察したようで苦虫をつぶしたような表情を浮かべた。

 

「・・・私が転生したのは、貴方の仕業でしたか」

「仕業だなんてとんでもない!今度こそあなたが楽しめるように私はセッティングしただけですよ?面白がっているような言い方はやめてください」

「じゃあ面白がってはないんですか?」

「面白いですけど?」

「・・・」

 

相変わらず読めない悪魔だ・・・と、露子は溜息を吐いた。

久しぶりの再会とはいえ、あまり良い気分とは言い難い。

 

「転生したのはいいです。貴方は人間が右往左往するのを面白がるような悪魔ですから。ですがなんで魔王の力を残したんですか?もう必要のないものなんじゃないんですか?」

「二次創作でありがちなチート特典っていいわけで納得しますか?」

「しません」

「ではもしも戦いになった時にあなたが死なないための心遣いとか」

「しません」

「新たな敵が露子さんに迫っているから魔王の力を残したままにしましたとか」

「しません」

「魔王の力を回収し忘れましたとか」

「しません」

 

露子の言葉にロッドバルトは「つまらないですねー」と笑いながら、ティーカップのアールグレイを飲み干した。

露子はベッドの上でロッドバルトをじっと見つめた。

どうやら道化を演じてみたところで露子は納得しないし、なぁなぁにもしたくないようだ。

 

「露子さんも冗談が通じない人ですね!もう、少しぐらい騙されてくれたっていいじゃないですか」

「・・・”私で”何がしたいんですか。いえ、貴方の場合だと、”何が観たいんですか”?」

 

露子の言葉に、ロッドバルトは一瞬真顔に戻る。

だがすぐに口角をあげて露子に話しかけた。

 

「ねぇ、露子さん。今のあなたの状況って結構詰みじゃないですか?」

「・・・」

「オネスト大臣は皇帝陛下の両親暗殺もしましたし、軽度とはいえ汚職役人や賄賂も横行してます。露子さんがオネスト大臣の花嫁になればすべて丸く収まりますが、そうでないならば彼はなんだってしますよ?」

「・・・」

「ループ能力とか、使ったりしないんですかねぇ?」

 

とても面白そうに、愉快そうに、ロッドバルトは露子へと惑わせるような言葉を吐いた。

確かに今の彼女はかなり弱体化したとはいえ、魔王としての基礎的な能力は付属されたままだ。もちろん、ループ能力も使用できることは彼女も自覚していた。

 

「・・・私にループ能力を使わせたいんです?」

「いえいえ別にぃ?ですがほら、エネルギードレインや危険種を従えるような能力は使っているのにループは未だに使ってないでしょう?」

「基本的に魔王の能力は使わないようにはしてますし、ループの能力なんて・・・使えるはず、ないですよ」

 

「誰かが死んだとしても、使わないと言い切れますか?」

 

ロッドバルトの言葉に露子は言葉を詰まらせた。

 

「アニメルートはクロメさんが死にますし、原作だとランさんが死にますよね?そう、IFの世界線なんですから誰かが死ぬことなんて当たり前じゃないですか。もしも助けることができずに死んだときに・・・それでも、貴方はやり直さないと?」

 

「・・・やり直さない、です」

 

「そうですか」

 

露子の弱弱しい言葉にロッドバルトはどうやら満足したらしい。

満足して・・・悪魔らしい笑みを浮かべた。

 

 

「貴方が魔王でなく人間になった今、その能力に溺れてくだされば私は満足できるんです」

 

「っ・・・」

「人間らしく欲望に身を任せて、自分の強大な力に酔いしれて、堕落する様を見せてくださればもっと美味しい魂になると思うんです」

 

真っ赤な舌で唇を舐めつつ、ロッドバルトは露子を見つめる。

・・・とても美味しそうな、料理を見るような目で。

 

「今までのモニターの皆さまも、とても美味しかったですよ」

「・・・やっぱり、食べたんですね」

「もちろん。彼らも自分無双に酔いしれて、私と個人契約を交わしていったんですよ・・・だから食べたまでです。とても、そう、とても美味しかったんです。世の中にはそういう、自分が主人公になりたいと願う人間が多くて助かります。だってそれだけ、料理し甲斐がありますから」

「・・・そう、ですか・・・」

「きっと露子さんも食べたら美味しいでしょうね」

 

恐怖心を覚え始めた露子へロッドバルトは笑いかける。

 

「安心してください。食べたくて仕方ないですが、それ以上にあなたのことはそれなりにお気に入りですから・・・できれば、もっともっと、面白いものを見せてくださいね」

 

「・・・人間は一度きりの人生ですから、今度の人生はループなんてしませんよ。」

 

「ふふっ、本当にそうなればいいですね」

 

ロッドバルトのその言葉を聞くと、少しずつ景色が暗くなり始める。

 

 

 

「あぁ、もう起きる時間ですか・・・それではまたいつか会いましょう」

 




ロッドバルト「ただいまです」
社員1「・・・」
社員2「・・・」
社員4「・・・こ、怖いアル」
社員3「またつまみ食いしてたのですか」
ロッドバルト「えぇ、美味しかったですよ」
社員3「契約終了した後のことですからかまいませんが・・・」
ロッドバルト「いやですねぇ、私はただ選択肢を委ねただけですよ?」

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