氷雪の魔王と愉快な帝具使い達の話   作:椿リンカ

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社員1「で、今回の話は前回の引きからだよな?まさか本当に説明部分を省略しないよな?」
ロッドバルト「しますよ」
社員2「そんなんだから不親切設計なんだよ!話の流れわかんねーじゃん!」
ロッドバルト「正直そんなもの”かくかくしかじか”で終わらせればいいのです。説明部分なんて寝ますよ普通」
社員3「・・・社長、学生だったら授業中に寝てるタイプですね」
社員4「そのうえ授業内容わかってて成績が良いっていうムカつくタイプの人間アル」
ロッドバルト「失礼ですねー。ですがメタ的に言えば読者の皆さんはある程度事情を知ってますからいいじゃないですかー」
社員1「そりゃまぁ、読み切り(1話目)で大体の流れは書かれてるしな・・・」
ロッドバルト「今回はボリューム多めですよ!」


それぞれの夜

【露子の実家にて】

 

露子が事情を一通り説明し終わり、エスデスやシュラの質問に答え終わった。

シュラは事情を把握しきれておらず、未だに露子の話の真偽や意味合いを掴み切れていなかった。それもそうだろう。いきなり<悪魔>やら<異世界>と単語が出てきたところでそれを信じる人間は中々いないものだ。

しかしエスデスは疑問点だけ解決できると「そうか」とだけ答えた。

 

「・・・お前の力のことも、いつのまにか消えた者たちのことも分かった」

 

一息ついて「じゃあ寝るか」とだけ言ってすぐに布団に横になった。

あまりにもあっさりとした態度に露子とシュラは顔を見合わせるが、お互いにそれ以上会話するのも気まずい。

エスデスの言葉にそのまま従ったほうが良いだろうと彼らは判断した。

 

「そ、それじゃあ・・・おやすみなさい」

「・・・おう」

 

 

 

そこから20分程度経過した頃、エスデスが布団から起き上がった。隣にはタツミが露子にぴったりと寄り添って眠っている。

それを見て彼女はいつもの冷酷な戦闘狂の顔とは違う、恋する乙女の顔つきになった。

 

「・・・ふふっ、これからはずっと一緒だぞ、タツミ。露子が少々邪魔だが、何としても帝都に連れ帰って私が独占してやろう」

 

「・・・起きてたのかよ」

 

自分の独り言に反応する言葉にエスデスはすぐさま露子の向こう側にいたシュラのほうへと視線を向けた。

 

「聞いていたのか貴様・・・いや、起きていたのか」

「あんなの聞いて寝れるわけねぇだろ」

「そうか?私はひと眠りしていたぞ」

「・・・本当にあんた、豪胆っつーかなんつーか・・・」

 

エスデスの器の大きさ、図太さ・・・そういったものに感心しつつシュラも起き上がる。

 

「エスデスの姉ちゃんよ、露子の話聞いて・・・よくもまぁ、そんな態度できるな。違う世界だとか、悪魔だとか、いっぺんに信じられるわけねぇだろ?」

「そうか?」

「そうかって・・・」

「お前の持っている帝具シャンバラとて、空間を操る帝具だろう?そういう存在や違う世界とて無いとは言い切れない。実際に露子の説明と質問への返答は今までの疑問を払拭した。だから私は信じる」

 

エスデスの強気の言葉にシュラはめんどくさそうに頭を掻いてため息を吐いた。

彼はエスデスほどの柔軟な発想力と受け入れる技量は持ち得ていない。確かに帝具・次元方陣シャンバラの能力は帝具の中でも素晴らしい技術力が込められている。

だが、違う世界やら悪魔という架空の存在となると話は別だ。

あくまでも帝具は1000年前に存在した一流の技術と素材で作られた人工物。

異世界や悪魔の存在はこの世界では物語にしか登場しないようなものなのだ。

 

「・・・仮に本当だとしても、露子のやったことは明らかに普通じゃねぇだろ」

「そうだな、尋常じゃないぐらいの負けず嫌いだ」

「自己犠牲とやらじゃねぇのか、そこは」

「言っただろう?弱かった自分が悔しかったと、何もできないことが悔しかったと。方向性はどうであれ、結局露子は、他の”モニター”とやらに勝ちたかったんだろう」

「そういう認識でいいのかよ」

「本人もそういう認識なんだろう」

「・・・でもまぁ、俺たちに対して一線引いた態度の理由は分かったよな。俺が思ってた以上に馬鹿だな、露子は」

「馬鹿者というよりは、強欲なのだろう。あれこれ欲しがって、捨てるのを嫌がるあたりはな」

 

苦々しい顔つきのシュラに対して、エスデスはあっけらかんと答える。

人物像なんてものは他人の主観でしかない・・・と言えばいいだろうか。

 

「ふふっ、私は少し露子を見直したぞ。ただの卑屈な女かと思ったが、存外気の強い頑固者のようだ。100万回などと気の狂うような回数をやり直したあたりは根性もある」

「俺にはただの自己犠牲したがるお人好しの馬鹿にしか思えねぇな」

「ただのお人好しや自己犠牲などというくだらないもののためにそこまでは繰り返さないと思うがな。むしろ強欲で傲慢だからできたんだ」

「・・・あんたとは考え方が合わねぇのがよく分かったわ」

「それはそうだろう。私もお前と合うとは思ってないからな」

 

エスデスはシュラに皮肉を返しつつ、いつも通りのサディスティックな笑みを浮かべた。

 

「とはいえ、これで超級危険種を狩る以外にも楽しみが増えた」

「はぁ?あの話のどこで楽しみが増えたんだよ」

「この世界以外にも、他にも世界があるならば行ってみたい。どんな強者がいるか楽しみでたまらないな。その前にまず、その悪魔とやらを捕まえなければいけないが」

「おいおい、あんた何を言ってんだ?ただの女を魔王にしちまうぐらいの反則ができるんだぜ?いくら帝国最強っつっても捕まえられないだろ?」

 

エスデスの言葉に慌てるシュラであったが、当の本人は実に楽しそうに・・・新しいおもちゃを見つけた捕食者の笑みでこう答えた。

 

「絶対に捕まえてみせるぞ」

 

「・・・あんたに狙われた悪魔に同情するぜ」

 

シュラはエスデスの言葉に呆れることしかできなかった・・・が、同時に「こいつならやりかねない」とも思ってしまう。

それほどまでに自信満々にやり遂げるのが帝国最強の座に居座る将軍なのだから、仕方ないと言えば仕方ないだろう。

 

「・・・ま、捕まえたら俺も言いたいことは山ほどあるけどな。俺たちで遊びやがって」

「お前も帝都の民で遊んでいただろう。お前が言うな」

「それを言うなよ。というか、俺よかその悪魔のほうが厄介だろ」

「・・・シュラ、世の中には五十歩百歩という故事がある。知っているか?」

「おいそれどういう意味だ。あんただって拷問してるだろうが」

「拷問は趣味だ」

「そんな趣味捨てちまえ」

 

お互いに皮肉を言い合いつつ、ふと会話が途切れる。

 

「そういやぁ、あんたとこうして話すのは初めてだな」

「そうだな。100万回も繰り返してきたというのに、不思議なものだ」

「・・・さぁてと、さっさと寝るか」

「あぁ、そうだな」

 

 

 

【帝都:宮殿にて】

 

その頃、帝都の大臣の自室のベッドに大臣が寝込んでいた。

露子の態度に不満があったが、まさか皇帝陛下やシュラ、エスデスまで連れて実家に戻るとは思っても無かった。

しかも婚約指輪までご丁寧に置いていったのだ。

 

・・・正直なところ、オネスト大臣は露子が一時は態度が固くなるだろうが最後は自分を選ばざる得ないと高を括っていた。

 

例えば露子は実家のある村や、帝国が引き取った子供たちのことをちらつかせば折れてくれると思っていた。

また、露子は押しに弱いから押していけばその勢いで了承が得られるだろうとも・・・

 

だが、あまりにも甘すぎた

露子がそこまでにも自分を拒絶するだなんて、オネスト大臣は思わなかったのだ。

 

「・・・はぁ。お人好しの善人だから脅せばちょっといけると思ったんですがね」

 

 

「随分と露子さんに甘えてますね~」

 

 

自分の独り言に返事をする誰かにオネスト大臣は飛び起きた。明らかに羅刹四鬼とは違う、自分の知らない声なのだ。

 

「だっ、誰です!?」

「気にしないでください、通りすがりの者です」

 

部屋を見渡すオネスト大臣。彼はすぐに声の持ち主が窓際にいることに気が付いた。

銀色の髪をたなびかせた、真っ黒な片翼を持つ男がそこにいた。頭にはヤギか羊のような大きな角が生えており、顔にはペイントもされている。

 

「なっ、なな、なんですか貴方は!?だ、だれか・・・」

「あぁ、周辺の兵士や上で控えていた方々にはちょーっとだけ眠ってもらっています」

「なんですって!?」

 

わけのわからぬ侵入者に命の危険を覚えるオネスト大臣であったが、侵入者のほうはそんなことも気にせず、部屋のテーブルにワインとグラスを置いて堂々とテーブルに座った。

 

「行儀が悪いですが、多少はいいですよね。このほうが会話しやすいですし」

「か、会話って・・・貴方はいったい何者ですか!?私の命でも狙って」

「狙いませんよ、たかだか人間一人殺すなんて、無駄です。それにもう私も随分長生きした悪魔ですからねー、血気盛んな若者とは違うんですよ?」

 

その言葉にオネスト大臣は口を紡ぐ。

自称悪魔の男には殺意は見当たらないようだし、普通に目の前でワインを飲み始めている。姿形は異質ではあるが、帝具の力の可能性を考えられる。オネストは自身が持つ帝具<絶対制限イレイストーン>によって帝具を破壊できる。

 

「・・・ほぉ、悪魔ですか」

「信じてない言い方ですね。構いませんよ?ですが、私が表舞台に出てきたのですから警戒心ぐらいは解いてほしいものです。露子さんの知り合いなんですよ、私」

「露子さんの!?」

「えぇ、こう見えても彼女とはとても深い付き合いがありまして」

 

目の前の男に対して、珍しくオネスト大臣は狼狽えた。

よくよく見てみるとかなりの美青年で、露子とも深い付き合いがあると言っている。それが本当ならば・・・嫌な想像ばかりが彼の中で展開されていた。

 

「この展開はとても面白いのですが、悪役(あなた)が落ち込んで動かないのはつまらないんですよ」

「・・・露子さんの知り合いとは、いったいどういう」

「そこ気になりました?実は恋人です」

「恋人!?」

「嘘です」

 

慌てふためくオネスト大臣にさらりと真実を告げつつ、彼はワイングラスを傾ける。

オネスト大臣はこの青年に対してイラつきを覚えたものの、相手がどう出てくるか分からない以上、下手な反論は控えることにしたようだ。

 

「ちょっと焚き付けたかったんですよ。貴方、ここで寝込んでる暇あるんですか?」

「・・・なんですかいったい。いいじゃないですか」

「いえ、貴方は欲しいものを欲しいままに奪いとり、好き勝手自由に生きるのがアイデンティティでしょう?露子さんにちょっと冷たい反応されただけで気絶するなんて貴方らしくもない」

「いきなり失礼な人ですね。見知ったようにそんな・・・」

「知っているから言ってるんです。それはともかく、さっさと腹を決めて行動したらどうですか。まだるっこしい」

「・・・」

 

男の言い分にオネスト大臣は黙り込む。

確かに正論かもしれないが、いきなり知らぬ相手にそんなことを言われて納得するはずもない。

 

「露子さんは絡め手よりストレートに押したほうがよっぽど落ちますよ。貴方ならばちょっとギャップ萌えを目指せばすぐに落とせます」

「ぎゃっぷもえ・・・?・・・なぜ私にそんなことを?」

「悪魔ですからね、多少引っ掻き回すのが好きなんですよ。さて、言いたいことは言えましたから私は帰ります」

 

いつのまにかワインを一本開けた青年がさっさと窓へと歩き始める。

 

「ま、待ちなさい!いきなり現れて言い逃げですか!?」

「えぇそうですよ、私は本来表舞台に出るべきじゃないですからね」

「だからなにを・・・」

「私のことは露子さんに聞いてください。ロッドバルト、と言えばすぐに顔色変えて慌てますから」

 

そう言って彼は窓から飛び降りた。

思わずオネスト大臣は駆け寄って真下を覗き込むが、下には何も無かった・・・いや、窓の付近や真下に落ちゆく黒い羽根だけが残された。

 

「・・・」

 

オネスト大臣は踵を変えてクローゼットに向かい、すぐさま着換え始めた。

しばらく準備をしていると、やっと羅刹四鬼であるゴズキが降りてきた。

 

「大臣、何してんですか?さっき寝てたはずなのに、いつのまに・・・」

「露子さんの実家に行きますよ。護衛を頼みます」

「はぁっ!?」

「危険種に乗りますのでナジェンダ将軍を叩き起こしてください。彼女なら扱えるでしょう?」

「いやほんと、いきなりですね。深夜に何を・・・明日でもいいじゃないですか」

「焚き付けられて腹が立ったんです。受けてやろうじゃないですか。ついでに露子さんにあの男のことを聞き出します」

「・・・焚き付けられた?」

「分からなくていいです」

 

状況把握できてないゴズキに適当に返しながら、オネスト大臣はすぐに露子のいる村に行く準備を始めたのであった・・・

 

 




社員1「社長おおおおおおお!!!!」
社員4「この裏切り者おおおおお!!!」
ロッドバルト「何とでも言いなさい。私は元々読み切り時代に出てますからね!」(ドヤァ)
社員2「っつーか、ほんとあんた何しに行ったんですか」
ロッドバルト「面白半分です」
社員3「まったく貴方は・・・自由奔放、いえ、違いますね。面白半分ですからただのたちの悪い酔っ払いみたいなものです」
ロッドバルト「そろそろ最終回に向けて数話ですよ」
社員1「えっ、まじか。そんなに早いのかよ」
ロッドバルト「まぁ、一段落つけたところですね」

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