U月I日
ロミオがブラッドから逃げ出した。
話を聞くと自分だけが血の力に目覚めていないことがコンプレックスとなり逃げ出したようだ。
捜索隊を出すことなりそうだったが、ブラッド内のことはブラッドで片付けるとジュリウスが進言したためロミオの件はブラッドに任せることになった。
さて、私はというと今日はサテライトへの物資の運搬をしていた。
本来なら運搬する職員がいるのだが、サテライト拠点の増加に伴い人手不足が発生している。
感応種への対応は現在ブラッドに任せきりであり、私たちが必要な討伐任務もないため必然的に手が空いてることが多くなったためである。
まぁ、護衛が必要ないと考えればこれほど適した運搬員はそうそういないだろうな。
さて、サテライトに着いたら、さっそく配給物資目当てに人がワラワラ集まってきた。農場のおかげで食料に関してはだいぶ余裕を持てるようになったが、それ以外の物資はまだまだ苦しい状況だ。
一通り配り終えたら、今度は足が不自由な人であったり病気を患っている人に対しての配給を行う。物資にはナンバーが割り振られており、そのナンバーを持つ人や家族への物資は通常の配給に混ざらないようになっている。
一軒一軒訪ねていき、最後の一軒にお邪魔したところ、なぜかロミオがいた。ロミオは盛大に驚いていたが、こっちも驚きだよ。
何でも飛び出したはいいが、どこか行くあてもなく、さりとて戻ることもできずに彷徨っていたところ、この家の老夫婦に拾われたのだと。
とりあえず見つけた以上ジュリウスに報告しようとしたらロミオに止められた。自分よりも後にブラッドに入隊したナナにギル、副隊長さんにシエルが次々と血の力に目覚めていくのに自分だけがまだ血の力に目覚めていない、こんな自分が嫌でしょうがないんだと言っていた。
自分が役に立っているかという不安、なかなか血の力が目覚めないことからの不信感、それらが纏まって自己嫌悪となってロミオを襲っているのだろう。こういうのは他のゴッドイーターでもよく見られる。なにせ常に命掛けの戦いに身を投じるのだ。なにも珍しいことじゃない。
私はロミオのことを別に嫌ってもいないし、むしろ気に入っている。コウタに似た明るさと優しさは彼の強さの証でもある。だからこそ、ブラッドはロミオを信頼し、感応種の対応に忙しいにも関わらず捜索を一手に引き受けたのだろう。
ロミオと別れる際、1つだけアドバイスをかけることにした。
「もし自分が信じられないなら、自分を信じてくれる人たちを信じてみるといいんじゃない?」
これだけ言って、私はアナグラに帰った。
U月J日
昨日の日記を読み返してみて格好つけすぎたなぁと思う。
それはそれとして、ロミオは無事に戻ってきた。あの後、私が訪れたサテライト拠点にアラガミが接近し、それをブラッドが撃退中のところをロミオがやってきて仲直りできたと副隊長さんが言っていた。ロミオからはありがとうと言われたが、それは私じゃなくて他のブラッドとあの老夫婦に言ってこいと言っておいた。
さて、今日はというとま感応種が2体同時に出現したため、片方がブラッドに任せ、もう1体は私と姐さんで相手することになった。
今回の感応種は私と同じサリエル種で名前はニュクス・アルバ、今の私のなんちゃってシスターみたいな見た目と違い、こいつは聖母といった雰囲気を纏っている。なんか悔しい。
事前の情報では他のアラガミと共に行動し、感応能力でアラガミを回復することができるそうだ。しかも、銃撃以外の攻撃はすり抜けてしまうという特性を持っていて、ますます私に似ている。
姐さんも普段の近接戦闘ができないのがイラつくらしく、ニュクス・アルバは私に押し付けてお供のアラガミを相手していた。
ここまで似た存在と出会うと意思疎通できるかなとも思ったが、自分とは違う、おしとやかというか包み込む優しさというか、そんな雰囲気を纏っているのが凄まじくムカついた。以前、コウタがこういう雰囲気の女性にデレデレとした態度を取っていたからだろうか、とにかくムカついてしょうがなかった。
姐さんに呼びかけて貰わねば、今でもあの感応種をマウントポジションで死体殴りしていたのかもしれない。
なんか、最近コウタ関連で怒ったり喜んだりしてるけど、どうしてなんだろうな。今度、アリサか副隊長さんに相談してみるか?
U月K日
サカキから呼び出され、支部長室に行くとサカキと一緒に髪の生え際が若干危ない頼りなさげな研究者風の男性がいた。サカキからの説明ではこの人はクジョウ博士で無人型の神機兵の研究担当者だそうだ。
で、なんでも神機兵の無人化に目処が立ったため、そのテストを近いうちに行うとのこと。そこで私たちは周辺のアラガミを神機兵の元に誘導し、その護衛につくという任務を言い渡された。ついでに打ち洩らしの掃討も頼まれたが、クジョウ博士から万が一でもそんなことはないと自信たっぷりに無人型神機兵の素晴らしさを語っていたが、正直興味がなかった。
一通りの説明を受け、ラウンジに行こうとしたらエレベーター内でラケル・クラウディウスと出会った。今すぐにでもエレベーターから降りたかったが、聞きたいこともあったので逃げ出したい気持ちを抑え、同乗することにした。
幸いエレベーターには私とラケルしかいなかったため、遠慮なくいくつかの質問をした。過去の事故により脳への偏食因子の投与、それによるアラガミの潜在目的の取得、マグノリア=コンパス内での人体実験の噂、私が調べた限りで分かったことを包み隠さずにだ。
いつもの笑みをさらに深くしてクスクスと笑うラケルはどれも正しいと臆面もなく答えた。人体実験はある存在を探すために必要な犠牲と言い切った。
私は怒りよりもこの人間の異常性に恐怖した。いくらアラガミの潜在目的、つまり終末捕食の実行を得ても彼女は人間には変わりないのだ。本来のアラガミには無い理性を持っているのにも関わらず、なぜこうも地球のリセットを望むのかが理解できなかった。
彼女はゾっとするくらい優しい笑みを浮かべ、私のことが理解できないと言ってきた。アラガミである私はなぜ終末捕食を望まないのかと。
その問いに言葉が詰まってしまった。
自分が人間ではなくアラガミだと、決して人間とは相容れない存在なのだと教え込まされた気分だった。
それでもなんとか言葉を紡ごうとしたとき、エレベーターは止まりラケルは降りていった。
このとき言えなかった言葉はここに書いておくことにする。
私がコウタ達と出会い、共に過ごしてきたからこそ、
「私は例え何者であろうとも、私を信じ、想ってくれる存在である人間を愛し、守り、救いたい」
続く