今年の夏はみなさんどうでしたか?
自分は実家でのんびりネトゲしてました
T月L日
ついにウロくんの公表式が行われ、ウロくん農場にたくさんのお偉いさん方が集まってきた。
一度は新聞やニュースで見たことある人ばかりで、変に緊張してしまった。
そんな中とりわけ目を引いたのは、車椅子に乗ったラケル・クラウディウス博士の姿だった。
このとき、私は人間形態となって要人警護に勤めていたので、間近に見る機会が多かった。
人間基準なら美しい女性だろう。長く美しい金髪と華奢な体つき、隣に立っていたレア博士が妖艶な雰囲気ならば、こちらはひどく儚げな雰囲気を漂わせていた。
だが、どことなく私たちに近い感覚がした。
体はれっきとした人間なのだが、なんというか私たちアラガミが持っている強い捕食欲求に似たなにかを感じたのだ。
それはウロくんも感じたようで、式中ちらちらとラケル博士を見ていた。
そして、式が終わり会場の後片付けに取り掛かろうとしたら、ラケル博士に声を掛けられた。
「あなたは、どうして食べないの?」
と、聞かれた。
その瞬間、全身のオラクル細胞が瞬時に戦闘状態に移行し、気が付くとラケル博士の喉下に小剣を突きつけていた。
本人はクスクスと愉快そうに笑っており、とても殺されそうになった者の態度には見えなかった。
最後に、また会いましょうと言って会場から出て行ったが、私はしばらく動けずにいた。
あれは危険だと、日記を書いてる今でも警戒し続けている。
ラケル・クラウディウスは本当に人間なのだろうか。
T月M日
昨日のこともあり、ラケル・クラウディウスについて調べてみることにした。
大まかな経歴を見ていると、一つ気になる点があった。
それは幼少の頃、階段から転落し脳にダメージを受けて手術したことだった。
手術を成功したが、代償として下半身不随となり一生車椅子で生活しなければならなくなった出来事だ。
当時の医療技術を考えると、脳の損傷を治療する技術など確立されていなかったはずだ。
そこで、その手術について詳しく調べてみると、まだ開発されたばかりの偏食因子を医療技術に活かす試みが当時あったそうだ。
おそらく、偏食因子を打ち込むことで高い再生能力を付与させ、脳を回復させたのだろう。
それから、不仲だった姉、レア博士との関係が改善され、社交的になったと記録されていた。
まさかと思うが、ラケル博士の思考はもはや人間のものではないのかもしれない。
当時の偏食因子はほとんどオラクル細胞と変わらない。
それが脳細胞と適合したのならば、人でありながらアラガミの思考を持つ者となるだろう。
それはもはや人なのだろうか、それともアラガミなのだろうか。
また、彼女が設立した児童養護施設「マグノリア=コンパス」についてきな臭い話題が浮かび上がってきた。
保護した児童に人体実験を行い、多数の児童が犠牲になったというものだ。
あくまで噂程度のものだったが、彼女の父、ジェフサ・クラウディウスがその可能性があると示したため、信憑性がある。
調べれば調べるほど、黒いなにかが蠢いているように思えてきた。
とりあえず、ラケル・クラウディウスを警戒しといて損はないだろう。
T月N日
ラウンジでチビチビ酒を飲んでいたら、ハルオミが隣に座ってきた。
そして、聞いてもいないのに女性の魅力について語り始めた。
足がどうだの、腰がどうだの、年がどうだの、心底どうでもいいことを聞かされまくった。
正直、途中で殴り倒そうかとおもったが、近くに清掃のおばちゃんの娘さんのムツミちゃんがいたのでさすがに自重した。
そろそろ聞き流せそうになってきたとき、ハルオミから今度付き合ってくれと言われたので反射的に顔面にパンチを一発入れてしまった。
だが、妙に立ち直りが早く鼻血を出しながらも説明してきた。
どうやら、私はハルオミが思う理想の女性に限りなく近いらしく、任務に行ってそれを確信に変えたいとのこと。
付き合いたくも無いが、それで他の誰かが犠牲になるのはもっと嫌なので仕方なく、本当に仕方なく了承した。
その後、ハルオミは偶然通りかかったシユウ姐さんを口説こうとしてジャーマンスープレックスを食らっていた。
ちょっとスッキリした。
あれで彼女がいたって言うんだから、世の中分からないことだらけだ。
ハルオミの彼女さんも大変だっただろうな。
続く