『魔法少女リリカルなのは』 作者:『転生者』   作:am24

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 4話 『久遠』

 なのは達は一度、翠屋で落ち合った。なのは、アリサ、すずかは勿論、恭也と忍もお互いに顔見知りである事実に驚愕する場面があったものの、一同は改めて八束神社へと向かった。

 ここ海鳴市はその名から分かる通り、海に面した都市であるが、同時に山に囲まれた珍しい立地をしている。今でこそ、その海と山の幸に恵まれた清涼な土地柄が、近年の発展の一因であるとも言えるだろう。しかしその昔は、海と山の二重の脅威に曝される人の寄り付かない土地であった。

 その土地柄から、生活の安全を祈願を目的とした神社が、ここ国守山(くにかみやま)に建てられる事となった。それが八束神社である。

 

 神社の境内へと続く長い階段を上り、一行は神社へと辿り着いた。本殿の壮言な雰囲気に年期を感じさせられるが、境内は手入れが行き届いており清々しささえ感じる事が出来る。

 

「こんにちは。もしかしてなのはちゃんかな?」

 

 奥から1人の女性が声を掛けてきた。巫女服に身を包んだセミロングの茶髪で、おっとりとした印象の女性だった。

 突然声を掛けてきた人物に警戒をした恭也だったが、その女性の余りにも人畜無害な雰囲気に一瞬で興ざめるのだった。

 

「あ、はい。私がなのはです」

 

 名前を呼ばれたなのは自身が返事を返してみた。

 

「あ、やっぱり。リスティさんからここに来るかもって伺っていたの」

 

「でも、大人数で押しかけちゃって迷惑じゃなかったですか?」

 

「そんな事は心配しなくても大丈夫よ。久遠、あ、狐の名前ね。久遠を呼んで来るわね」

 

 そう言って、女性は狐を呼びに奥へ向かって行った。そうして暫くすると、女性が子狐久遠を抱えて戻って来た。

 

「……くぅん」

 

「か、かわいいー」

 

 腕の中の久遠が心細そうに那美に向かって一鳴きした。すると、誰からともなく感嘆の声が漏れ出して行く。

 

「あの、触ってみても良いですか? えーと……」

 

 アリサが女性に質問をしたが、ここに来て自己紹介をしていなかった事に一同は気が付いた。

 改めて、お互いの自己紹介を開始した。巫女服姿の女性の名前は神咲那美。ここ八束神社でアルバイトをしているらしい。先程名前が登場したリスティとは同じ寮で暮らしている仲との事。

 そして、子供達は久遠と戯れ、大人達はそれを見守りつつ話を続ける。

 話を聞く中で、那美も恭也達の通う風芽丘学園の生徒で、1学年下の1年生である事が判明した。姉と入れ替わりになる形で、ここ海鳴に実家鹿児島からやって来たらしい。

 

 一方子供達はと言うと、遠巻きに見守るだけで、なかなか仲良くなれないでいた。那美曰く、人見知りしているだけとの事で、何とかお近づきになれるようなのは達は頑張った。

 久遠は賢い狐であった。久遠も久遠なりになのは達の人となりを観察していた。

 まず、一番気になったのはすずかであった。自分とは違うが、どこか同族の気配を感じたからである。相手も他の2人に合わせているものの、達観した様子が気になった。

 次に気になったのはなのはであった。すずかのそれとは違うが、僅かに異能の気配を感じた。そして、これはどこか那美に似た気配であると直感した。

 そして最後のアリサは、金色の毛並みは自身とお揃いであると感じる点以外はすずかやなのはに感じたような気配も無く、一般人であると分かった。しかし、その身に纏う雰囲気がいつも自分にちょっかいを掛けてくる雪虎(虎縞の猫)やぎんが(灰色の猫)に似ているという事で、若干警戒心が芽生えた。

 

 結局はこの日、満足に久遠と触れ合えなかったなのは達であったが、今日の所は新たな出会いが出来たと満足のいく1日であった。そしていつの日か、きちんと仲良くなろうと決意を新たにしるのだった。

 

 

 

 そうして月日は流れ、なのはは2年生に進級した。今年もアリサとすずかの仲良し3人組が同じクラスになった事を喜んだ。と言っても、多額の助成金を寄付しているバニングス家や月村家の令嬢の意に沿わないクラス分けになる可能性は極めて少ないのだが、当の本人達は今はまだ知る由も無かった。

 あの日からの久遠との進展はと言うと、なのはは何度か神社へと足を運び、食べ物を与えたり、お話をしたり、食べ物を与えたりで、8割方餌付けによって仲良くなる事が出来た。今となってはなのはが神社に会いに行くだけでなく、久遠がなのはの家に遊びに来るような仲となった。

 アリサとすずかも数回程足を運んだが、習い事の多い身であったため、そう何度も訪問できず、結局は久遠がなのはと行動を共にするようになった後に徐々に仲良くなった。

 

 そして夏に入る直前、久遠に大きな変化が訪れた。なんと、片言ながらも言葉を話せるようになったのである。この変化には那美や恭也が関わっているらしいが、なのはにはその詳細は告げられなかった。

 

 実際、久遠の正体は300年も生きる狐の大妖怪であり、現在は力を封じられ子狐の姿をしている。その能力は封印された状態でも強力で、那美の稼業である退魔の仕事の際、雷を放って悪霊を退治する事が出来る程である。そして他にも様々な能力があり、小学生大の人型に変身する事さえ出来る。

 そもそも、封印される切っ掛けとなったのは、久遠に祟りが宿り、神社、仏閣をその雷を以て破壊して回ったからである。当時の流行病が流行った時、薬師であり唯一生き残った久遠の最愛の人が生贄として神主によって殺された悲しみと怒りで怨念に憑りつかれてしまったのである。

 そして封印にも限界があった。それがこの夏前に起こってしまったのである。

 封印から解放された久遠を、恭也、那美、そして那美の姉であり同じく退魔師の神咲薫の手によって対処に当たったのである。

 そして艱難辛苦の激闘の末、久遠に憑りついた祟りのみを退治する事ができたのであった。

 

 そんな現在の久遠は、普段は子狐形態であるが、任意で力を開放し大人形態を取る事が可能となった。大人時のそれは尻尾の数が5本となり、正に大妖怪として貫禄のある姿である。

 それでも長い間封印されていた影響か、精神は幼く、なのは達と遊ぶのが楽しいようである。

 

 この成長した久遠と戯れる事が切っ掛けで、なのはは退魔師の存在を知る事となった。

 なのはは魔法を使う事を夢見ていた。『魔法少女リリカルなのは』では魔法を使うのに『デバイス』という魔法の杖が必要だが、簡単な魔法なら『デバイス』無しで行使できる事も知っている。

 しかし、今のなのはにはその感覚が分からないでいた。そもそも、魔力とはどんなものなのかすら想像できないでいた。

 そこで同じ異能使いでもあるリスティに師事してみたが、以前本人も言ったように魔法とは根本が違うようで魔力の感覚を掴むに至らなかった。

 そしてここに来て、退魔師という異能力者である。なのはは退魔師に光明を見出した。

 

 退魔師とは現世に彷徨う霊を祓い、悪霊を退治する職業である。

 そして退魔師は霊力と呼ばれる力を使って退魔を行うのである。さらに退魔の一族はその子供もまた霊力を持って生まれる事が多い。

 それは正に、魔導師と似ているではないかとなのはは考えた。唯一の懸念事項は霊視であったが、那美曰く、霊力を持った人でも見えない人もいるとの事で、霊視は『魔法少女リリカルなのは』風に言う『レアスキル』の一種だろうと結論付けた。

 

 そして『魔法少女リリカルなのは』では地球には魔法文化は無いとの事だが、この退魔師というのは公式には存在しない集団なのである。考えてみれば当然である。過半数以上の一般大衆には霊が見えず、その見えない霊を退治する集団などと言われても簡単に信じられるものではないだろう。HGSの例もあるが、異能力に関しては現在も秘匿されている。それならば、魔法文化が無いと見られても何ら不思議は無い。

 

 そして退魔師は当然『デバイス』なんて物は使わない。己が力のみで、霊力を操っているのである。

 そんな存在であればこそ、魔力の扱い方も学べるのではないかとなのはは思い至った。仮に霊力と魔力が別物であったとしても問題はないとも考えていた。別種の力でも何かしらの役に立つだろうと。

 そしてなのはには誰にも話した事の無いが秘密が存在した。それは、霊を見る事が出来る(・・・・・・・・・)という事である。そのためなのは自身、霊力は高確率で使えるのではないかと確信していた。

 

 

 

 なのはは那美に霊力の使い方を教えてくれるよう頼んだ。久遠もなのはに協力して一緒に頼んでくれた。

 しかし結果は否であった。霊力とは危険な力であると諭されると、反論が出来なかったのである。『原作改変』の存在を明かせば説得できるかもしれないが、リスティを始め、父士郎や母桃子にも口外しないように言い含められたため、一時断念する事となった。

 そこでリスティに相談してみると、思いの外簡単に解決する事できた。リスティはあっさり那美に『原作改変』の存在をばらしたのである。リスティ曰く、

 

「那美が不公平だから」

 

 との事。今までは何だったのかと聞くと、タイミングの問題らしい。

 しかし恭也に教える事だけは何があっても駄目と厳命されてしまった。これに関しては今現在も、士郎と桃子が同意している事柄であるため、なのはは不思議に思いつつも黙っている事を誓ったのだった。

 那美に『原作改変』の存在を明かした次の日、改めて師事を頼むと夏休み中に教えてもらう事となった。

 なのはが那美に『原作改変』の小説について意見を求めると、

 

「頑張ります」

 

 と真っ赤な顔をして宣言した後、なのはも頑張りますと言うと、いきなり慌て出したのが印象的だった。

 

 

 

 さらに月日が流れ、もうすぐなのはも3年生である。いよいよ『魔法少女リリカルなのは』の始まる季節である。そんな感慨に耽りながら、今日もいつもの3人で過ごす。

 今日は月村家でお茶会に招待されたのである。恭也も一緒に月村家に向かう。

 月村家に着くと、メイドが2人を出迎えるが、バニングス家でもそうだが、この如何にもお金持ち然とした雰囲気になのはは慣れないでいた。唯一の救いは、ここ月村家のメイドは家族ぐるみで行うイベントにも一緒に参加するため、親しみ易いという点であろう。特にドジっ子メイドにはすずかでさえ苦笑ものである。

 そして恭也はなのは達とは別の部屋へと招待されて行った。

 

「なのはちゃん、いらっしゃい」

 

 すずかが声を掛けてくる。なのはは若干この光景に既視感を感じたが、以前のそれと違って今回は完全に勘違いである。『魔法少女リリカルなのは』ではフェレットのユーノと来たが、今は久遠と一緒である。

 那美が『原作改変』を知った日以降、それまでよりも久遠と一緒な時間が多くなったのである。何かあった時の助けにもなると、那美がなのはに久遠を一時、預けたのである。那美の仕事時には久遠もそちらに協力するが、そもそも退魔の依頼はそんなに多くなく、結果なのはと過ごす時間が多くなったのである。

 

「久遠、こっちにおいでー」

 

 アリサが久遠を呼んだ。なのは直伝久遠仲良し方、餌付けである。お茶菓子に釣られて久遠はアリサの手に捕まる。当然久遠は暴れるが、アリサは逃がさなかった。

 

「もう、アリサちゃん。そんな事するからくーちゃんに警戒されるんだよ」

 

「そんな事分かってるけど……久遠を見ると、こうしないといけない気がしてくるのよねぇ」

 

 そんないつもの風景になりつつ光景にすずかは苦笑を漏らして見守る。

 そしてなのはの分のお茶が用意されたのを見計らってアリサは久遠を開放した。久遠はなのはの元に戻ろうとしたが、なのはの膝には月村家の猫が陣取っていたため、代わりにすずかの膝上へと落ち着いた。

 そんな久遠を撫でながらすずかがある話題を提供した。

 

「それにしても、恭也さんってどっちと付き合う事になるのかな? 私としてはお姉ちゃんを応援したいけど、那美さんも頑張ってるのが分かってる分複雑……」

 

 そう、現在の恭也は2人の女性から好意を寄せられているのである。1人はすずかの姉月村忍、もう1人は神咲那美である。

 そうなった経緯はとてもくだらなく、そして重大な理由からであった。

 

 すでに恭也に想いを寄せていた那美はある日、恭也に退魔の仕事を付き添ってもらった。その現場というのが木々の生い茂る山の中にあった。行きは良かったが、帰りで2人して道に迷ってしまった。そして、やっと麓に出る事が出来たと思ったら目の前には大きな屋敷。と、突然この屋敷の警備システムが作動、那美を護るため恭也がそれを撃退。そして屋敷の主人である忍の登場により、そこが月村家である事が判明した。

 しかし最後に登場した忍と共にノエルのも現れ、恭也の剣戟から主人を護って負傷してしまった。そしてそれと同時に、ノエルが『自動人形』である事が判明してしまった。

 この自動人形は『夜の一族』の秘密1つであり、知られたからには一族の掟に従い、一族の秘密を守ると『誓い』を立ててもらうか、『忘れる』かしてもらわなければならなかった。

 

 ――そして2人は『誓い』を立てた。

 

 その『誓い』とは単なる口約束などではない。『夜の一族』には相手の意思に強制的に干渉する能力がある。その力を以て『誓い』を強制するのである。

 その後の展開は早かった。『夜の一族』の秘密を共有した恭也に対して忍は一気に心を開いた。そしてそれが恋心へと発展するのに、そう時間は掛からなかった。

 

 閑話休題

 

「頑張ってるって……傍から見たら、どう見たって負けてる(・・・・)ようにしか見えないのよねぇ」

 

 アリサがそう感想を漏らす。

 

「でも、お兄ちゃんはいつもより笑うようになったよ」

 

「それって、苦笑の間違いじゃないかしら?」

 

「それを言うなら家のお姉ちゃんも那美さんと楽しそうにしてるよ」

 

 アリサに鋭くツッコミされたなのはにすずかがフォローを入れた。

 

「そうね、本人達は楽しそうね。でもそうなると一番の被害者はノエルさんよね」

 

 アリサが指摘をする。

 

「あはは」

 

 すずかは苦笑しか出てこなかった。実際に心当たりがありすぎたのである。

 

「お茶のおかわりをお持ちしましたよ、とっと――」

 

 お盆を持ったファリンが何もない所で躓いてしまったのである。しかし寸での所でノエルが支え、事なきを得たのであった。しかし、

 

「きゃぁぁぁぁ」

 

 別の部屋から叫び声と共に盛大な物音が聞こえたのであった。

 

「……また……ですか」

 

 ノエルがこめかみの辺りを押さえ、普段はしないような溜息を吐き、現場へと駆けて行ったのである。なのは達にはノエルの背中に哀愁が漂って見えた。

 

「あはは、確かに大変そうなの」

 

「そりゃあ、今までドジっ子が1人だったのが2人(・・)になったら流石のノエルさんでも、ねぇ」

 

「でも、あれで那美さん(・・・・)、ドジが無かったらかなり優秀だよ? ドジが無かったら」

 

「そうよ! そこよ! そもそも何で那美さん、すずかの家でメイドさんしてるのよ!」

 

 とうとうアリサが核心をツッコンだ。

 そう、現在那美は月村家でメイドとして働いているのである。那美が『誓い』を立てた日から、忍が手八丁口八丁により、月村家のメイドに仕立て上げたのである。

 そうして、月村家の一室で、客とメイドと主人による奇妙な三角関係が展開される事となったのである。

 

「あれ? でもお兄ちゃん。絶対メイド服より巫女服の方が好きだよ」

 

 なのはの呟きを聞くものは誰も居なかった。

 

 

 




駆け足で『とらハ』原作終了。
『とらハ』でもあった那美さんメイド化は是非やりたいネタでした。恭也が今後どうなるかはam24にも分かりません。
恭也の好みは捏造です。でも和風好きは本当。

タグに『久遠』を追加しました。

そしてやっと原作です。霊力の所在によっては
『魔法巫女リリカルなのは』
がはじまるかも!?

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