臆病な転生ルーク   作:掃き捨て芥

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 こんな小説を書いてはいますが、私は原作のエンディングで登場した人物がアッシュだとは、ルークが死んだのだとは思っていません。なんじゃそりゃ、と思われる方もいらっしゃるでしょうから、活動報告の方に私のエンディング解釈を書いておきました。お暇な方は読んでみて下さい。


第8話 邂逅

 ジェイドの槍がラルゴの体を貫いた。これは原作知識の通りだ。しかし俺の知識ではラルゴはこの傷でも生き延びる事になる。……とどめを刺さなくてはっ!!

 

「はぁっ!!」

 

 俺は体を刺し貫かれているラルゴのうなじの辺りを狙って剣を振るった。斬った所から血が噴き出す。

 

(心臓だ! いや喉でもいいとにかく急所を狙うんだ!)

 

 右手でラルゴの体を掴むとこちらに体を開かせて、心臓の位置を狙って再度剣を突き出した。ぞくん、という嫌な手応えがあって俺の剣はラルゴの体に吸い込まれた。……これで、確実にとどめを刺せたはずだ。やったんだ。黒獅子のラルゴは死んだ。

 ラルゴの体をうち捨てると軽く剣を振るって血糊を飛ばす。そんな俺を興味深そうに見ているジェイドに気がつき、声をかける。

 

「ジェイド、助かったよ。礼を言う。それと艦内に敵が入り込んでいる様だがどうするんだ?」

 

「……いえ、私の方こそ助かりました。あなた方が気をそらしてくれたおかげでやっかいな敵を倒す事ができましたからね。艦内についてですが……その話をする前にこちらに倒れている二人を回復させてやりたいのです。ティア。すみませんが手を貸していただけますか?」

 

 はい、と返事をしてこちらに駆け寄って来るティア。……駄目だな。まだ冷静になれていない。倒れている二人のマルクト兵を認識できていなかった。冷静になれ。冷静に。

 気を落ち着ける為に深呼吸をする。ラルゴから流れた血の臭いがつんと鼻を突く。嫌な臭いだ。俺が流させたんだが。それでも気持ちのいい臭いじゃないな。

 俺がそんな事をしている間にティアは【ファーストエイド】を2人にかけている。ジェイドはすぐそこの船室に入っていった様だ。薬でも取りに行ったのか?

 

「ティアさん、大丈夫か? さっきから術や譜歌を使いっぱなしの様だけど」

 

 先ほどから活躍しているティアを気遣う。ティアの【ファーストエイド】と【ナイトメア】は戦闘の生命線だ。精神力が切れて術が使えなくなってしまうとまずい。

 

「大丈夫よ。問題ないわ。それにオレンジグミもいくつか所持しているしね」

 

 回復用のオレンジグミか、そういや俺も持ってたっけ。失念していた。そうこうしているとジェイドが船室から出てきた。手には二つのボトルを持っている。気絶などから蘇生させる為のライフボトルか。これなら倒れている二人は問題なさそうだな。

 

 俺達はラルゴの攻撃をくらって気絶していた二人の兵士が回復するのを待って話し合いに入った。ジェイド曰く、伝声管を伝って艦橋(ブリッジ)から連絡があったのだが、魔物が侵入したという声を最後に連絡が途絶えてしまったらしい。

 

「という事は、艦橋は落とされたと考えるべきか」

 

「そうなりますね。艦橋以外にも敵兵はいるでしょうし、これはこの場にいるメンバーだけで艦橋を奪還しなければならなくなりましたね」

 

 そういう事だな。しかし先は明るい。原作ではジェイド・ティア・ルークの三人だけで艦橋を奪還しようとしていたが、今この場にはイオンの護衛役ではあるがアニスと四人のマルクト兵士が居る。これだけいれば原作では出来なかった艦橋の奪還も可能だろう。

 

「やるなら急いだ方がいいな。敵がどんな風に部隊を展開させているかは分からないが、後続の部隊がいるかも知れないし」

 

「そうですね。……では最大限に警戒しつつ、艦橋まで急ぎましょうか」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 艦橋までの道のりは案外簡単だった。廊下を進み階段を上がると甲板に出られたので、そこから整備用の梯子を使って登った。人数が居たので地味に苦労したが。

 そこから上がった先の通路を魔物が闊歩していたが、原作と違い封印術(アンチフォンスロット)を食らっていないジェイドが後衛として術をバンバン撃ってくれた。前衛の俺やマルクト兵は術が外れないように敵を引きつけているだけでよく、実に楽な戦闘だった。

 

 封印術というのは国家予算規模の資金によって作られる個人のフォンスロット――譜術などを使う回路の様なものだ――を閉じる為の物だ。これにかかるとLV45の人物があっというまにLV5になってしまい、強力な技や術も全く使えなくなってしまう。

 原作では俺を人質に取られたジェイドがまんまとこれを食らうのだが、今回は俺という足手まといがいなかったせいで食らわずに済んだと言う訳だ。これでジェイドはLV45というラスボスにも通用する強さのままだ。良かった良かった。

 

 トゥエ レィ ズェ クロア リュオ トゥエ ズェ……

 

 艦橋の手前で見張りを行っていた神託の盾(オラクル)騎士団の兵士をティアの【ナイトメア】が眠らせる。ホント便利だなこの譜歌。さすがイベント最強術。

 艦橋の扉を開けると俺達は軽く話し合い、中に入る人員と外に出て敵を見張る人員に別れた。中に入るのは機械類の操作をするジェイドと副官のマルコさん。敵の攻撃を食らうとまずいイオンと護衛役のアニス。そして俺とティアだ。外では三人の兵士が見張りを担当する。

 

 ……このタイミングだな。俺は特にやることがないのでズボンから取り出した帳面(ノート)を見ていた。恐らくこのタイミングで奴がやってくる筈だ。

 そうしてジェイド達が艦橋の指揮権を取り戻そうとしている時に、外から音が聞こえた。堅い物がぶつかり合う様な音で、中に居た俺達は全員扉の方を向いて警戒をあらわにした。

 扉が開いて、真紅の、まるで血の様な紅い色をした髪をオールバックにした男が中に入って来た。その人物を見た艦橋内の皆は一斉に驚いた。……その男が、俺――ルーク・フォン・ファブレと全く同じ顔をしていたからだ。その男は俺に気づくと盛大に顔をしかめた。

 

「てめぇは……」

 

 皆の注目が俺に集まるのを感じつつ、俺は前に踏み出しながら剣を抜いた。

 

「よう。神託の盾騎士団の兵士サマ。艦橋が取り戻されそうになったんで慌ててやって来たんだろうが……残念だったな。お前らじゃあ俺達に勝つ事はできねーよ」

 

 普段より粗暴な言葉遣いでそいつ――神託の盾六神将 鮮血のアッシュ――を挑発する。やっと会えたな。オリジナル・ルーク。だけど俺は容赦なんてしねーぞ。

 アッシュの後ろから、譜銃を持った金髪の女性――多分同じく六神将 魔弾のリグレットだろう――と神託の盾兵が一人中に入ってくる。

 

「てめぇ……っ!!」

 

 案の定キレたアッシュはこちらに向かって来た。それを迎え撃つ様に俺も前へ出る。

 

「ティア、ジェイド! 援護頼む!」

 

 先手必勝! 俺は間合いを見切るとアッシュに向けて剣を振った。ガキンと音を立てて奴の剣に受け止められる。そのままつばぜり合いになりそうだったので力で押し切り、強引に距離を開けた。それから剣の応酬が始まった。俺と奴が学んだ剣術は同じアルバート流。身長や体重もほぼ同じ。違うのは利き手だけだ。……だけどなっ!

 キイン! と音を立てて弾け合った剣、だが戻りはこっちの方が速い! 一瞬速く体勢を立て直した俺は素早く剣を斬り下ろした。わずかだがアッシュの腕を切り裂く。

 

「ぐっ」

 

 アッシュは自分が斬られた事に信じられない様な表情をしつつもすぐに怒りをまとってこちらに攻撃してくる。だが甘い。そんな感情に揺さぶられた剣筋なんて簡単にさばけるんだよっ。俺が何年お前と戦う事を想定して訓練してきたと思っているんだ。実戦経験では負けたとしてもお前との戦いだけはこっちに分がある筈だ。だからと言って油断はしない。その上で勝ってみせる。

 横目で副官のマルコさんが前に出てリグレットを牽制し、後ろからジェイドが譜術で援護しているのを見る。……ティアはどうした? 相手が自分の教官を務めたリグレットだから戸惑ってるのか? 何やってんだよ【ナイトメア】使ってくれよ。

 

「っと」

 

 危ない。すんでのところでアッシュの剣を受け止めた俺はヒヤリとしながら相手の顔をのぞき込んだ。

 

「てめぇ。よそ見するなんざ十年はえーんだよ!」

 

「ああ、そうだなっ」

 

 俺は左手に握った剣でアッシュの剣ごと奴の体を押しのけた。その時だ。

 

「食らえ! 光の鉄槌! ――リミテッド!!」

 

 後方からアニスの声が響いた。アニスには常にイオンの傍に居る様に伝えておいたのだが。イオンが指示したのか? 何にせよチャンスだ。アッシュは光の譜術を食らって体勢を崩している! 遠慮無くアッシュの頭をめがけて唐竹割りに振った剣はとっさに受け止められた。残念。だが体の左側が空いてるぞ!

 

「魔神拳!」

 

 アッシュの右手にある剣をこちらの左手にある剣で押さえ込みつつ、闘気をまとった右拳でアッパーを放った。アッシュの顎を狙ったそれは狙いそのままに直撃した。

 

「ぐうぅっ」

 

 顎を跳ね上げられて体ががら空きになったアッシュ。チャンスだ! 今ならアッシュを殺せる! 俺はすぐさまアッシュに向けて剣を振るった。

 

「斬影烈昂刺!!」

 

 左肩の上から斬り下ろした剣を少し引いて、突きを放った後に右拳で相手をかちあげ、右足の辺りから逆袈裟斬りに斬り上げる。全弾決まればアッシュの体は剣で切り裂かれる筈だ。……しかし、斬り下ろしでアッシュの体を斬った剣はその次の突きに移行した時に ギイン! と音を立てて弾かれた。リグレットの銃弾か!? それにしても連携技の最中にある剣を狙って狙撃するとは、恐るべき技量。

 だがリグレットもマルコ副官とジェイドを相手にしているさなかの狙撃は隙を生んだ様だ。その隙を見逃さなかったジェイドの譜術を食らって吹き飛んだ。

 突きが阻害されたとはいえアッシュはその身に斬撃を受けた、まだチャンスはある!

 

「アッシュ! ここは引くぞ!」

 

 その時リグレットが撤退の意思を見せた。

 

「ぐっ、何だと!?」

 

「今のこの相手に、私達の陣容では勝てない! 退却だ!」

 

 馬鹿野郎。みすみす敵を逃すかよ! 俺はアッシュに向けて更に剣を振るった。

 

「ふざけるな! 俺が、負ける? こんな奴に負けると言うのか!?」

 

 おーおー発奮してるな。俺としてはジェイドがいるこの状況でアッシュとリグレットを討ち取れるなら願ったり叶ったりだ。退却しないならその方がありがたい。

 

「アッシュ!! 我々の計画に取ってお前の存在は無くてはならないものだ! 閣下のご命令を忘れたか!? それとも我を通すつもりか?」

 

 俺の剣を受け止めたままアッシュは屈辱に顔を歪める。そりゃー自分の情報を複写して作られた人間、劣化複写人間だとか屑の出来損ないと思っている相手に負けるのは屈辱だろうさ。

 

「チィッ。くそがっ!」

 

 アッシュは悔しげに吐き捨てると力任せに俺の剣を払いのけた。くそっ。逃がすか! アッシュの背中を追いかけて斬りつけようとするが、リグレットの奴が後ろを向いて譜銃を撃って来た。威嚇射撃だろうが足が止まってしまった。

 

「くそっ」

 

「ルーク! 深追いは危険よ!」

 

 ティアが敵三人を追いかける形になった俺を制してくる。分かってる。この状態なら撃退出来ただけでも良しとしなくてはならない。でもあと少しだったんだ。あと少しでアッシュを殺せる所だったのに! ちくしょう!

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 中に入ってきた敵を撃退した俺達は体勢を立て直した。まずは扉の外で見張りをしていた三人が譜術を食らって倒れていたので介抱し、中に引き入れた。その後に艦橋の指揮権を取り戻す作業を再開し今に至る。

 

「タトリン奏長、さっきは援護ありがとう。おかげで助かったよ」

 

「え、……きゃわ~ん♥ ルーク様に誉められた~♥」

 

 ええい、うっとうしい! そもそも今このタルタロスが襲撃されているのは大詠師モースのスパイであるお前が情報を漏らしたからだろーが!

 

「艦橋の機能、無事回復しました」

 

 ジェイドが静かな声で報告する。そこに居た全員はその声にほっと胸をなで下ろした。これでタルタロスの航行はこちらの意思で行われる様になった。だがまだ油断は出来ない。アッシュとリグレットの2人は退却して行ったが、艦内にはまだ魔物や神託の盾兵が残っているかも知れないからだ。

 

「ここから一番近い町はセントビナーでしょう? そこに停泊するのですか?」

 

 俺はマルクトの地理も把握しているので近場の町に寄るのかどうかジェイドに聞く。

 

「……ええ。確かに神託の盾騎士団に襲われたままではろくに航行出来ませんからね。一度セントビナーに停泊して残敵が居る様なら掃討する事となるでしょうね。しかしルーク様はキムラスカ人の割にマルクトに土地勘がある様ですね」

 

「屋敷の中で軟禁されていて暇だったからな。マルクトも含めて世界の地理は勉強してある。タタル渓谷で迷ったのは自分がどこに居るか尋ねる相手が誰もいなかったせいだな。ようやく会えた馭者の人にはうっかりしていて場所を聞き忘れたからなぁ」

 

「そうでしたか」

 

 うーん、自分でも言ってて苦しい言い訳だ。でもあそこでエンゲーブ方面へ来ないとこいつらと合流できなかったからなぁ。

 そんな会話をしながらも、ジェイドの目は俺を探る様に見ていた。先ほどの鮮血のアッシュが俺と全く同じ顔なので、レプリカについて考えが及んだからだろう。俺が七年前に記憶喪失になった事も話してあるから、俺の方がレプリカであることは確定的だろうし。

 

 それにしても、アッシュか。仕留めきれなかったのが実に残念だ。

 

 何故俺がそれほどアッシュを殺す事に執念を燃やすかというとだ。アッシュの存在は俺にある最大の死亡フラグ、大爆発(ビックバン)を引き起こす原因になるからだ。詳しく説明すると長くなるから省くが、俺とアッシュの二人が生きていると大爆発という現象が起きる可能性があるのだ。そしてその現象が発生すると俺は死ぬ。死ぬのだ。更に言うなら死んだ後に俺の記憶がアッシュに残るという訳の分からない現象も引き起こして。その為アッシュは出来る事ならこの場で殺して起きたかった。自分が生き残る為に。……自分が、みっともなくて、最低な人間だという自覚はある。それでも俺は生きたい。死にたくないんだ。

 まあ殺せなかったのは確かに残念だが、大爆発は必ず起こる訳じゃない。原作で大爆発が発生した大きな要因の一つ、コーラル城を回避すればいい。そしてそれはさほど難しい事じゃない。対策もいくつか練ってある。……大丈夫だ。俺は必ず生き残ってみせる。既に人を殺してしまった俺なのだから。

 

「セントビナーが見えて来ましたね」

 

 アッシュの事を考えていると、そんなジェイドの声が聞こえてきた。セントビナーか。さてどうなる事やら。

 




 原作との相違点:ラルゴ死亡。マルクト兵四名生き残り。ジェイド封印術食らわない。アニスがタルタロスから落下しない。アッシュとの初顔合わせ。タルタロスが拿捕されない。
 ラルゴ退場です。原作を知っている人は驚かれたと思いますが、これはある意味必然とも言える結果です。原作においても同様にジェイドの槍に貫かれるラルゴですが、“何故か“ジェイドがとどめを刺さずに見過ごした為ラルゴは生きながらえる事になります。ここが凄く不自然なんですよね。ジェイドは十年以上軍人をやっている歴戦の猛者です。いくら封印術を食らった直後とはいえとどめを刺さないなんてことはありえないんです。これはぶっちゃけてしまえばただの制作上の都合だと思います。ジェイドがラルゴを刺す展開を描きたい。でもラルゴはこんな序盤で退場させたくない → ジェイドに不自然な行動を取らせる、というね。
 私はこういう、制作上の都合で登場人物に不自然な言動をさせたりするのが大嫌いなんですよ。なので、この作品では作品世界に生きている登場人物の都合を優先させる事にしています。制作者である私が困る様な展開になったとしても、登場人物の意向や行動を優先させます。
 その結果がこの序盤でのラルゴ退場です。転生ルーク君にとって、ラルゴは厄介なだけの敵でしかありません。ゲームであれば後々ナタリアとの間にイベントが起きるという“都合“がありますが、そんな事は転生ルークには何の関係もありません。なのでこの後に何度も戦う事になるのをさける為、ここでとどめを刺しました。
 アッシュと顔合わせしたのも同じ事です。原作ではアッシュとの出会いは引っ張りに引っ張ります。それはゲームとしての演出上の都合です。ですがこの作品ではその様な都合を廃して、転生ルークがこう動く、そうするとこうなる。こうなったからああなる。といった風にシミュレーションした結果、ここでアッシュと顔を合わせる事になりました。
 最初はアッシュをここで殺す展開も考えていました。ですが敵であるヴァン一味にとってアッシュはなくてはならない存在なので、自分が危険にさらされてもアッシュを守るんだろうなぁ、と思ったのでこの様な展開になりました。


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