臆病な転生ルーク   作:掃き捨て芥

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 何故かこの話だけ3人称風味です。


外殻大地編
第1話 始まりの渓谷


「本当に、すみませんでしたっっっ!!!」

 

 夜の渓谷に、青年の声がこだました。

 長い朱金の髪を背中に垂らし、上下ともに赤い色の服を着ている青年は両膝と両手を地面に垂れ、頭を下げた体勢……いわゆる土下座をしていた。見る人の大半がみっともないと思う姿勢で、青年は必死に謝り続けた。

 

「え、えっと……その」

 

 青年の前に立つ少女はそんな青年に困惑している。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 彼らが何故この様な状況になったのか? それは語り部が後に語ってくれるだろう。

今はこの渓谷で話す二人に話を戻そう。

 

「あなたが何故ヴァン師匠(せんせい)を殺そうとしたかはわからないけど……きっと重大な理由があったんですよね? それなのに俺は師匠が目の前で殺されそうになってるのを見て頭がカッとなって……」

 

 ……どうやら、少女はこの青年の師匠を殺そうとしたらしい。本当だとしたらかなり物騒な事である。

 

「だから、えっと、その、とにかく俺を殺さないで下さい(・・・・・・・・・・)!」

 

 言葉を紡ぐ際は上げた頭をまた勢いよく下げる。もう少しで土に額がついてしまう勢いだ。

 

「えっ?」

 

 少女は青年の言葉に困惑する。

 

「俺にはあなたを害する意思は全くないんです。ただ目の前で知っている人を殺されそうになったから止めようとしただけで、だからお願いです。どうか、どうか俺を殺さないで下さい(・・・・・・・・・・)

 

「…………あっ」

 

 そこで少女は初めて気づいたようだ。自分が目の前の青年に恐れられていると。

 

「ち、違うの。私にはあなたをどうこうするつもりは全くなくて、えっと、その」

 

 少女は必死に言葉を紡ごうとするが、中々自分の言いたいことを言葉に表せないようだ。

その間も青年はちらっ、ちらっと頭を上げて少女の様子を確認している。……とにかく目の前の少女を警戒しているようだ。

 

「だから、その、違うの。私違うの。~~~~!!」

 

 少女は自分の認識とかけはなれた現在の状況に身悶えている。……少女と青年が落ち着くまで、少しばかりの時間を要した。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「……少しは落ち着いてくれた?」

 

 自分を恐れている相手との距離を測りかねていながら、そっと言葉をおしだす少女。

 

「は、はい。えーっと、とにかくあなたには俺を害する意思はないんですよね? 本当に?」

 

「ええ、本当よ」

 

 どうやら青年の方もいかばかりか落ち着けたようだ。

 

「ええっと、それじゃとりあえず自己紹介を。俺はあなたが侵入(・・)したファブレ公爵家の長子、ルーク・フォン・ファブレ。17歳です。成人していないので、俺自身は何の爵位もないただの貴族の息子という立場です」

 

 落ち着きを取り戻した青年は自分の名前を名乗った。どうやら格式高い家柄の子息らしい。

 

「私はティア……。16歳よ」

 

 対して、少女……ティアは自分の家名や所属は名乗らず年齢だけを告げた。くすんだ茶色と黒の中間ぐらいの色をした軍服を身にまとっているというのに。

 

「年下……なんですか。落ち着いたご様子なのでとてもそうは思えませんでした。てっきり自分よりも年上かと」

 

 ははっと軽く笑いながらルークが応対する。……どうやらティアの不明な所属などについてはツッコまないならしい。いまだにティアを恐れているのだろうか?

 

「それで……あの、どうしてヴァン師匠を襲ったんですか? 師匠はダアト自治区のローレライ教団で詠師職という立派な役職についていて、同時にローレライ教団内部の軍事組織、神託の盾(オラクル)騎士団の主席総長にあるくらい優れた戦闘力を持った方です。よほどの理由でもないと、わざわざ他人の屋敷に侵入してまで殺そうとなんてしないと思うのですが……」

 

 まだティアを微妙に警戒しながらも、相手の狙いを詳しく聞き出そうと踏み込んだ質問をする。……勇気があると言って良いのだろうか?

 

「それは……その。………………今は話す事は出来ないわ」

 

 そのティアの返答に、えええっ! と驚くルーク。

 

「話す事は出来ないって……ええっと、それは本気で言ってるんですか?」

 

「? ええ……私の故郷にも関する事で、みだりに話す事は出来ないわ」

 

 ルークはティアの言葉を聞いて、更に驚きつつもおそるおそる声を発する。

 

「ええっと……ですね。ティアさん。あまり言いたくはないんですが、今バチカルでは貴方のしたことはかなりの大騒ぎになってると思うんですが……」

 

「えっ!?」

 

「ティアさんは、バチカルの首都にあるファブレ公爵家の屋敷に侵入して、家の警備をしていた白光騎士団を軒並み眠らせて、家の客人であったヴァン謡将(ようしょう)を殺そうとしました。更にそれを止めようとした俺と疑似超振動(ぎじちょうしんどう)を発生させた。超振動が発生したのは完全な事故ですが、俺達がいなくなったバチカルの屋敷では俺は行方不明扱いになってるはずです。……これは俺達の状況がわからないバチカルの皆にしてみれば貴方のせいで俺が行方知れずになっているわけで……誘拐されたと判断されても文句が言えない状況なのでは」

 

 ……どうやら、ティアは物騒という言葉では言い表せないくらいの行動をしたようである。

 ちなみに疑似超振動とは、二人の第七音譜術士(セブンスフォニマー)が互いの音素震動に干渉する事で発生する事象。あらゆる物質を破壊し、再構成する。ルークとティアに起きた現象はこれ。つまり二人はバチカルで音素レベルまで破壊された後に渓谷で再構成されたということ。

 

「………………」

 

 絶句するティア。どうやら自分の取った行動を今まではろくに客観視できていなかったようだ。今ようやく、ルークの言葉で気づいたらしい。その秀麗と言っていい顔を青ざめさせている。

 

「わ、私……そんなつもりじゃ、そんなつもりじゃなかったの! 本当よ!」

 

「うん。ティアさんには俺をどうこうしようとするつもりはなかった。それは本当の事らしいけど……でも俺の家とヴァン師匠にした事は事実でしょう? 今頃首都バチカルからキムラスカ全土にお触れが回ってるんじゃないかな?」

 

 私、私とつぶやきながら慌てふためくティア。完全に気が動転しているようだ。

 

「ティアさん。まずは落ち着いて。……えっと、とりあえず俺に考えがあるんだけど。よければここからバチカルまで帰る道行きに同行してくれないかな?」

 

「えっ?」

 

「俺、今までバチカルから出た事のないお坊ちゃんだから、自分が立っているこの場所がどこかもわからないんだ。でもここが何処にしろ俺はバチカルに帰らなきゃいけない。バチカルの屋敷から出た事がない俺でも、この世界では魔物や盗賊が頻繁に出るって事は知ってる。それらと戦わなきゃいけない事になるかも知れないし、それ以外にも俺は旅なんてした事がないからその方面でも誰かの助けが必要だと思うんだ。」

 

 自分の状況を整理するように一つ一つ確認しながら言葉を紡ぐルーク。

 

「だから、もしよければだけどティアさんに助けて貰いたいんだ。一緒にバチカルまで行って欲しい。もし無事にバチカルまで帰れたら、親父に言って刑を軽くして貰うように、温情をかけて貰えるように取りはからうからさ。親父は俺と違って立派な爵位を持つ貴族、それも最高位に位置する公爵だし、キムラスカ軍の元帥でもあるんだ。親父の口利きがあればかなり刑は軽くなると思う」

 

「………………」

 

 冷静に考えればルークに都合の良い提案だが、茫然自失の状態にあるティアには地獄に垂らされた蜘蛛の糸のように思えた。

 

「えっと……その、いいの? 私、貴方に信用されるような、信用に値するような人間じゃないと思うのだけれど。そんな風に簡単に私と行動を共にする事を提案して」

 

「いいんだ。こう言ってはなんだけれど、今この場には二人しかいないんだから、助け合わないと。……とりあえず、この暗い渓谷を出ていきませんか?」

 

 そう言ってティアに笑いかけるルーク。そんなルークの表情を見て少しだけティアは顔をほころばせた。

 夜の渓谷、その中で咲くセレニアの花が、二人を見守っていた。

 




 とりあえずティアに土下座するルークが書きたかった。1話のインパクトとしては充分なはず。
そしてアビスの二次創作では大抵突っ込まれているティアの問題行動にも触れています。私はアビスが好きですが、主人公のルークを含め、主人公PT達の罪に対する罰が全くないあの状況は好きではありませんでした。なので今後も原作で私がおかしいと感じた所は積極的にツッコんで行くつもりです。

 ルークの台詞が説明口調になりすぎてる気がしますが、ゲームをプレイした事がない人も読むかも知れないと考えるとこれぐらいが最低ラインかなーと。次の話は二人が渓谷を脱出する話……ではなく過去回想となります。しばらくの間現在の話と過去の話を交互にやっていくつもりです。

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