超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION 作:投稿参謀
第81話 レイ、休暇をもらう
とある島の地下に構えられた、ディセプティコンの秘密基地。
メガトロンはその訓練室で新たに手に入れた剣、ハーデスソードの素振りをしていた。
自身の身の丈に近い大剣にも関わらず、メガトロンは片手で軽々と振り回している。
そのまま、傍らに控えたフレンジーから報告を受けていた。
「……てなワケでして、ガキどものレイちゃんへの懐きっぷりは結構なもんでして」
報告の内容は、レイと雛たちについてだ。
レイの面倒見役であるフレンジーだが、同時に監視役も兼ねており、定期的にレイの様子を主君に報告することになっている。
フレンジー本人としては、もはや必要ないのではと思わないでもないが、命令は命令だ。
「レイちゃんもすごく頑張ってますから、それが伝わるんでしょうね。見てるこっちが微笑ましくなるくらいの……」
「いかんな」
「へ?」
メガトロンは難しい顔をする。
「聞いておれば、
「はあ……」
いいことを思いついたと言う顔になったメガトロンに、フレンジーは呆気に取られるのだった。
* * *
育成室では、今日もレイが幼体たちの面倒を見ていた。
「……こうして、配管工とお姫様は、幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし」
今は絵本を読んであげる時間だ。
ガルヴァとサイクロナスは大人しく聞いていた
だが、もうスカージとその分身たちが、もっともっとと絵本をねだる。
彼らは、背中の羽もあって天使のように可愛らしい容姿ながら、結構なやんちゃばかりな上、駄目と言ってもいつの間にか分身しているので、中々厄介な子供たちだった。
「スーちゃんたち、もっと読んでほしいの? じゃあ、ええと……」
次の絵本を取ろうとするレイだが、その手が空を切る。
「……あれ?」
少し視界がぼやけるのをレイは感じた。
だが少し頭を振って視界をハッキリさせ、本を取る。
「じゃあ次は、緑の勇者のお話ね。昔々ある王国の深い森では、子供の姿をした人たちが妖精と暮らしていました……」
絵本を読み始めるレイの周りに、計九体の雛が集まる。
「…………」
「やれやれ、アイツらが大人しいのは、寝てる時と飯食ってる時だけだな」
「それと、ああして本を読んでもらってる時もな」
幼体にスキャンをかけながら、フレンジーはそれを横で見ている。
バリケードとボーンクラッシャーは雛が散らかした玩具を片付けながら、本の内容に耳を傾けていた。
そしてもう一人。
破壊大帝メガトロンは、壁に背中を預けて雛たちとレイを見ていた。
その表情は、やや剣呑なものだった。
「レイよ。雛たちに、そのような夢物語を刷り込むのは、やめたほうがいい。時間の無駄だ」
レイは話を振られたことに気が付くには少しかかった。
「そろそろ、雛たちにももっと大切なこと……戦闘や他者を蹴落としてでも生き残ることについて教えなければならん」
その言葉にレイは顔をしかめ、それから丁寧に、しかし断固として言い返した。
「お言葉ですが、メガトロン様。この子たちは優しい心を持っています。戦いはまだしも、他者を蹴落とすようなことをしなくてもよろしいのでは?」
「優しい心? そんな物が何の役に立つ。戦争に置いて必要なのは情け容赦のない残酷さだ。俺はガキどもに、強い子に育って欲しいのだ」
「ですが、優しさも強さでしょう」
「それはディセプティコンの考え方ではないわ! こいつらには、立派なディセプティコンになってもらうのだからな!」
「それはメガトロン様の考えでしょう! 子供たちに、ディセプティコンの価値観を押し付けないでください!」
「ディセプティコンなのだから、ディセプティコンらしく育ってもらいたいと思うのは自然だろう!」
「そういう了見の狭い考え方はどうかと言っているんです! この子たちの感性や個性を潰しちゃ本末転倒でしょう!!」
「了見が狭いだと!? この俺に、了見が狭いと言ったな!! 俺はただ、こいつらが生き残るために必要なことを学ばせようとしているだけだ!!」
言い合ううちに段々とヒートアップしていくメガトロンとレイ。
フレンジーとボーンクラッシャーは只々両者の間でオロオロとしているばかりで、バリケードは難しい顔で黙り込み、雛たちは不安げに言い合う二人を見上げている。
「だいたい! 何でこの子たちを強くしようとするんです! 学者とか、政治家とか、兵士にならずともメガトロン様をお支えする道はいくらでもあるでしょう!!」
「無論、勉学にも励ませるつもりだ! 軍事、政治、学問、経済、あらゆる分野の英才教育を施す!! 兵士としての強さは最低条件よ!!」
「何ですか、その有り得ないスパルタ!? 子供に大き過ぎる期待を懸けないでください!! そういうので子供がグレたり潰れたりするんですからね!!」
「期待もするわ!! そいつらは俺の……」
遺伝子を継いだ子なのだから……と言いかけた所でメガトロンはグッと飲み込む。
雛たちがメガトロンのCNAとレイの因子を持つ、言わば二人の子供であることは、未だレイに打ち明けていない。
急に言葉を濁したメガトロンを訝しげに見上げつつ、不安げなガルヴァを抱き寄せる。
「この話はまたいずれ! 子供たちをお風呂に入れてあげる時間なので! ほら、みんな行くわよ~。皆さん、手伝ってください」
それだけ言うと、レイは険しかった顔を笑顔にしてフレンジーを伴って雛たちを先導していく。
バリケードとボーンクラッシャーは逃げようとするスカージと分身たちを捕まえて風呂場へと連れていく。
メガトロンは当然という顔でノッソリとそれを追うのだった。
* * *
雛たちのための風呂場は、育成室の横に設置されており、地下から湧き出す温泉を利用した物だ。
岩で造られた、雛たちが入って余りある大きな湯船に、お湯が一杯に張られている。
「じゃあ、バリケードさんとボーンクラッシャーさんは先に子供たちをお風呂に入れてあげてください。私は、準備しますので」
「おう」
「分かった」
レイに指示されて、二人は雛たちを抱えたまま風呂に入っていく。
一方、レイはと言うと浴室の端に置かれたカゴの前まで歩いていき、そこでおもむろに自分の来ている上着のボタンを外し始めた。
上着をカゴに入れ、ネクタイをほどくと、続いて短パンのボタンをはずす。
「……ちょっと待て。なぜ、脱ぐ?」
異様に低い声で問うメガトロンに、レイはキョトンとした顔を向ける。
「え? だって脱がないとお風呂に入れないじゃないですか」
「そうではなく、フレンジーらがおるのに脱いで、羞恥は感じないのかと聞いている」
若干イライラとした様子のメガトロンに戸惑うレイだが、そうしている間にも下着まで脱いでしまい、生まれたままの姿になる。
本人は否定するだろうが、白い肌には染み一つないし、体つきも腰の括れから足にかけてのラインは整っていて、足もスラリと長い。
顔が険しくなっていくメガトロンに、レイはさらに首を傾げた。
「トランスフォーマー相手に、羞恥も何もないでしょう」
彼らは金属生命体。自分を『そういう』目で見ることは有り得ない。人間からだって見られないのに。
事実、フレンジーたちは平気そうな顔をしている。
レイは、かけ湯をしてから風呂に浸かる。
何分、トランスフォーマーサイズなのでプールのような感覚の風呂を雛たちの下へ泳いでいく。
それを見ながら、メガトロンは自問自答していた。
何故、自分はレイが裸になることが気に食わなかったのだ?
簡単だ。有機生命体が服を脱ぐことに羞恥を感じる理解不能な価値観を持っていることをメガトロンは知識として知っていた。
そしてレイはメガトロンの所有物なのだから、服を脱いだレイをメガトロンの許可なく見ることは著しい権利侵害なのだ。
……という理屈をコンマ一秒の間に組み立てたメガトロンは、せっかくなので自身も湯船に浸かるのだった。
「さあ、ガルヴァちゃん、体をゴシゴシしましょうね~♪」
湯船の真ん中には小島があって、レイはそこに腰かけて雛たちの体をブラシで磨いてやる。
フレンジーたちも磨いてやっているが、やはりレイに磨かれるのが一番らしい。
「まったく、レイめ。ガキどもを甘やかしてばかりではないか」
少し離れた所で湯に浸かるメガトロンは、愚痴りつつも、温泉そのものは気持ちがいいので気分が良くなってくる。
「いや~、極楽極楽」
いつの間にか、ジェットファイアがメガトロンの横で湯に浸かっていた。
このご老体、意外と神出鬼没である。
「いい湯だわい。この湯に含まれる成分は、
上機嫌なジェットファイアは、雛を洗うレイに視線を向ける。
「あのガキどもは、随分とあの女に懐いてるようだな」
「ただの刷り込みだ。後は食い物を寄越すからだろう」
「それもあるだろうが、それだけでもあるまい。子供を慈しむ……本来ならディセプティコンが持っていない概念だ」
馴れ馴れしいジェットファイアに、メガトロンはいちいち怒るようなことはしない。どうせ、セレブロシェルの影響でマトモな思考はしていないのだ。
「それにしても、あの女は中々いい女だな」
「ゲイムギョウ界では、あまり魅力がない方らしいがな」
「そりゃ、見る眼のある男がいないだけだろう。……あるいは最近、いい女になったか。俺もあと3000年ばかり若けりゃホッとかないんだがな」
「有機生命体を相手に趣味の悪いことだ。……それに残念だったな。アレは俺の所有物だ」
「そりゃまた」
茶化すような表情のジェットファイアに、メガトロンはやはり、意味のある思考を成していないと、セレブロシェルの効力を確信するのだった。
* * *
風呂から上がったメガトロンは一人、基地の外で星を見上げていた。
ここは、かつて遺跡を作った先住民が星見台として作った場所である。
ゲイムギョウ界は有機生命体の蔓延るディセプティコン的には気に食わない世界だが、星空だけは気に入っている。
秘蔵のオイルを缶から器に注いで煽る。
部下たちはメガトロンの邪魔をしない。用があれば通信が入るだろう。
勝手に来そうなジェットファイアはスタースクリームに連れていかれた。
もし邪魔する者がいるとすれば……。
「メガトロン様。ここにいらっしゃいましたか」
やはり来たか、と顔を向ければレイが立っていた。
「何用だ」
「さっきのお話の続きです。子供たちの、今後について」
真面目な顔と声色のレイに、メガトロンは鼻を鳴らすような音で答える。
「変更はナシだ。アイツらには兵士としての教育を施す」
「それについては……受け入れることにしました。フレンジーさんたちも、仕方ないと言っていましたので」
そう言いつつも、レイの顔は悔しげに歪んでいた。
本人なりに、我が子のように思う雛たちを戦わせるのは葛藤があるのだろう。
口の中で小さく舌打ちして、メガトロンは次の言葉を出した。
「まあ、俺も少し性急だった。本ぐらいなら、読んでやっても構わん」
それは酷くメガトロンらしくない言葉であり、メガトロン自身も何でこんなことを言ったのかよく分からなかった。
「ッ! 本当ですか!?」
「ああ、何度も言わせるな」
笑顔を浮かべるレイに、メガトロンはそれ以上、何も言わずオイルを煽る。
まあ、悪い気分ではなかった。
「ありがとうございます!」
深々と頭を下げてから、レイは踵を返そうとして……体をふらつかせて、倒れそうになった。
スッとメガトロンは手を差し出し、その体を支える。
「……あ! すいません! 最近夢見が悪くて寝不足で……」
「言い訳をするな。体調管理ぐらいしっかりしろ」
「……すいません。ご迷惑をおかけしました」
出会ったころのように気弱な顔のレイに、メガトロンはイラつく。
「ガキどもが心配するから、体を大切にしろと言っておるのだ!」
「は、はい! ……ありがとうございます」
少し頬を染めて柔らかく笑むレイから、メガトロンは視線を外す。
一方のレイは、少しの間だけメガトロンの手の金属的な質感と、胸の内の甘く疼くような痛みを楽しむのだった。
* * *
それからしばらくして、メガトロンは司令部の玉座に坐して、深く瞑目していた。
進めている計画は順調に進んでいるが、それとは別にシェアクリスタルの奪取だけは中々上手くいかない。
――どうしたものか……。
思考を巡らしていると、司令部に入ってくる者がいた。
「メガトロン様、失礼します」
「フレンジーか」
フレンジーはメガトロンの前で一礼すると、顔を見上げて奏上する。
メガトロンはレイについての報告かと思ったが、違った。
「実は、お願いがあるんです」
「…………」
微動だにしないメガトロンに、フレンジーは恐怖を感じつつも言葉を続ける。
「メガトロン様。……レイちゃんに、お休みをあげられないでしょうか?」
「何だと?」
「い、いやだって、ガキどもの面倒に、下っ端だのネズミだのの飯作り、その上に時々出撃までするようになって、このままじゃレイちゃん、潰れちゃいますよ! ちょっとの間、基地の外に出してあげてもいいじゃないですか!」
「…………話はそれだけか?」
冷厳と言い放つメガトロンに、フレンジーは愕然とするが、すぐに負けん気を出して言い返す。
「お願いします! レイちゃんはメガトロン様のお考えの大切な
「随分と必死ではないか。……アレに惚れでもしたか?」
平坦な声で放たれた問いに、フレンジーは二度驚く。
「ち、違いますよ! そういうんじゃないんです! ……ただ、レイちゃんのこと、ほっとけないって言うか……すいません、上手く説明できないです。……とにかく、レイちゃんに休暇をですね……」
「いいだろう」
「……あげてくれないかと……え?」
フレンジーは聴覚回路の故障かと思った。
キョトンとするフレンジーに、メガトロンは表情を変えないまま言う。
「いいだろう、と言ったのだ。休暇でもなんでもくれてやる」
「ほ、本当ですか! でもなんで急に……」
「ただし、必ず帰ってこさせろ。それとお前が見張り役として付いていき、アレの様子を逐次報告しろ。それが条件だ」
フレンジーの疑問に答えず返事も待たず、メガトロンは言い捨てると、これで話は終わりだと言わんばかりにオプティックを閉じる。
「は、はい! 分かりました! さっそくレイちゃんに伝えてきます!!」
とにかく良かったとばかりにフレンジーは部屋から転がり出ていった。
しばらく黙っていたメガトロンは、やがてポツリと呟いた。
「
* * *
かくして、レイは休暇をもらうことになったのだった。
もちろん最初は戸惑ったレイだったが、気を取り直して休暇を楽しむことにした。
そして、アッと言う間に出発の日になり……。
「それじゃあ、行ってきますね」
「おう、いってらっしゃい!」
「フレンジーに迷惑かけるなよ」
「ガキどものことは、アタイたちに任せてください!」
「はい! お願いしますね」
基地の門の前で、レイは見送りにきてくれたバリケード、ボーンクラッシャー、リンダらに頭を下げる。
やはり、メガトロンは来ていないようだ。
「それじゃあ行ってくるから。いい子でお留守番しててね」
整列した雛たちの頭を撫でながら、レイは微笑む。
雛たちはキュイキュイと鳴いて答えた。
と、レイの服のポケットに入っていたスマートフォンが鳴る。
レイがそれを取り出すと、スマホは手の中でギゴガゴと音を立ててフレンジーに変形した。……ただし頭だけの。
こうして、頭だけで活動したほうがレイの負担にならないだろうという、フレンジーなりの配慮である。
「レイちゃん、俺にも挨拶させてくれよ。それじゃあ行ってくるぜ、土産は期待するな! ……ほい、OK。さっさと行こうぜ!」
あまりにも簡潔な挨拶に、レイを始め一同は苦笑いする。
「それで、レイちゃん。どこに行くんだい? やっぱり『上』で遊ぶのかい?」
「あ、いえ……『上』は、私には過激すぎるので……」
フレンジーの問いに、レイは苦笑いを崩さずに答えた。
「久し振りに帰ってみようと思うんです。……プラネテューヌへ」
副題『子供の教育方針でもめる父と母』
今回の解説。
絵本の内容
マ○オとゼ○ダ
温泉
ディセプティコン自慢の溶岩(が固まった岩を使った)風呂。
これでガルヴァが風呂好きに……。
Q:それ大事なの?
A:メガトロン的には、かなり大事。
では。