超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION 作:投稿参謀
かの魔剣の話に、色々同時進行して短くまとめるのが、土台無理やったんや……。
ハイドラの建造した空中戦艦ハイバード。
それは極限まで省力化を進めることで、僅かなブリッジクルーだけで操船できる画期的な兵器である。
そのハイドラヘッドのための部屋にて。
椅子に腰かけたハイドラヘッドは、何者かと通信していた。
『結局、ここまでの資金と人員を投入して、手に入れたのは人造トランスフォーマー一機か』
「あなた方は、量産可能な人造トランスフォーマーを求めていたはず。何かご不満でも?」
『リスクとリターンが釣り合っていない、と言うことだよ。こちらも危ない橋を渡ってるのだから、投資相応の見返りが欲しい』
「と、言われましてもね。命を張ってるのはこちらなんですが」
『君ら兵士の命なぞ、消耗品に過ぎんだろう? 『そう作った』のだから』
通信相手の言葉に、ハイドラヘッドは仮面の下でギリリと歯を噛みしめる。
『前にも言ったはずだが? 君は所詮、切り落としても新たに生える
「……言われずとも、心得ていますよ。これで失礼します。これ以上は、傍受される危険性があるので……」
全く感情のこもっていない声で返し、通信を切る。
「ククク、なかなか、苦労しているようじゃないか」
「マジェコンヌか。何用かね?」
いつの間にか、マジェコンヌが部屋の中に立っていた。
マジェコンヌは、ハイドラヘッドの机の前までゆっくりと歩いてくる。
「なぁに、メガトロンを直に見た感想はどうかと思ってなぁ」
「……凄まじい迫力だった。月並みな表現だが、圧倒されたよ」
その言葉に、マジェコンヌは満足げな表情になる。
「だろう。伊達に破壊大帝などと御大層な名を名乗ってはいない。覇気においても、実際的な戦闘力においても、『英雄』と呼ばれるには十分だろう。ゲイムギョウ界にも、ああいう男はそういない」
「……裏切ったクセに、随分と彼を褒めるじゃあないか。君、誰の味方なんだい?」
「私は、誰の味方でもない。私は、『女神の敵』だ。だから、その時々において最も女神を苦しめる陣営につくのさ。それが今はお前たちと言うだけだ」
それだけ言うと、マジェコンヌは闇の中に消えていった。
「…………」
油断ならない女だ。
言っている情報も、どこまで本当か分からない。
用心しなければ……。
ハイドラヘッドは深く息を吐くと、仮面を外して机の上に置き、懐からピルケースを取り出して、中の薬を飲む。
――心も魂も無いのなら、お前は人間ではない。ただの……兵器だ。
「そうとも、私は所詮、換えの効く兵器……しかし、ならばこそ戦わずに死してなるものか……!」
暗い情念を込めて、ハイドラヘッドは独りごちるのだった。
* * *
同、艦内倉庫
トゥーヘッドが、頑丈で太いワイヤーで拘束された上で粒子変形を阻止する装置に囲まれていた。
一度拘束を抜け出して戦場へ飛び出した都合上、その拘束は過剰とも言えることになっていた。
「しかし……無茶するなお前も」
と、右の頭が、左の頭に声をかけた。
「戦場に飛び出していった時は、ヒヤリとしたぞ」
「すいません、トゥーヘッド。……しかし、いても立ってもいられなくて……」
左の頭がペコリと謝ると、右の頭はヤレヤレと排気した。
「まあ、気持ちは分からんでもないが……ヒトの体で、あまり無茶をしてくれるなよ、……スティンガー」
その言葉に、左の頭……トゥーヘッドの内部に収納された疑似シェアクリスタルの中に存在する、スティンガーの意識は苦笑する。
「ええ。今のスティンガーは、トゥーヘッドの体を一部お借りしている状態ですから、これ以上のワガママは言いません」
元々、トゥーヘッドはドローンを改造した都合上、不測の事態に備えてパーツに余裕を持たせてある。
その部分を使って、スティンガーは喋っているのだ。
「……言っておくが、私が何をするか分かった上で付いてきたのはお前だ。私の邪魔をすれば、即座にお前のコアを捨てるぞ」
「問題ありません。……スティンガーの家族や仲間は、あなたの仲間には負けませんから」
トゥーヘッドが釘を刺すも、スティンガーは自信満々で答える。
「フッ、どうだろうな? 私のマスターは強く賢いからな」
「ネプギアやバンブルビーだって、負けていません!」
今や体を共有する二体の人造トランスフォーマーは、作り手自慢で盛り上がるのだった。
* * *
戦場となった遺跡近くの森。
そこを今、一台の黒いスポーツカーが走っていた。
スポーツカーの運転席には、肩あたりで切りそろえた金髪と青い瞳の少女が座っていた。
「なあ、会っていかなくていいのか?」
黒いスポーツカーの車体その物から、少女……アリスに向けて問う声がした。
アリスは、その声に澄ました顔で答える。
「いいの。ネプギアがピンチっていうから、ちょっと気になって様子を見に来ただけなんだから」
「でもほっとけなくて、助太刀しちゃいましたよっと。ま、お姉ちゃんとお友達のピンチだもんね」
ダッシュボードの上に置かれたノートパソコンが、ギゴガゴと音を立てて小さなトランスフォーマーに変形する。
猫背で左右非対称の目に、頭からはコードが髪のように生えている。
この小トランスフォーマー、ブレインズが無線を傍受してネプギアたちの情報を手に入れたのだ。
ブレインズの言葉に、アリスはムッと顔をしかめる。
しかし、その顔には朱が差していた。
「べ、別に、そういうワケじゃあ……ただ、あのハイドラとかって連中に、好き勝手されるのが気に食わなかっただけよ!」
「へいへい、そういうことにしておきますよ」
皮肉っぽく肩をすくめるブレインズ。
車体……サイドウェイズから、苦笑するような気配がした。
「別にいいじゃないか。姉さんたちを助けたいって思うのは、悪いことじゃないだろう?」
「そういうの、ディセプティコンらしくないわ……」
「それこそ、今の俺たちが気にすることじゃないだろ」
未だディセプティコンへの未練を捨てきれないらしいアリスに、ブレインズは呑気に言葉をかける。
彼ら三人、ディセプティコンからドロップアウトした身なのだから、ブレインズの弁も一理ある。
「ほんじゃ、また気ままな旅に戻るとしますかね。金髪巨乳との出会いが俺を呼んでるぜ!」
「次はラステイション辺りに行こうぜ! あそこらへんのオイルは美味いらしいからさ!」
「アンタたちは……」
マイペースな同行者たちに、アリスは呆れつつも笑みを浮かべる。
「それよりルウィーがいいわ。『温泉』というのに興味があるの」
「金髪美乳の入浴シーンフラグ、キターッ!」
「覗いたら、タダじゃおかないからね」
寄る辺もなく、行くあてもなく、明日をも知れぬハグレ者三人は、珍道中を続けるのであった。
* * *
ディセプティコンの秘密基地。
その集会室の中央に、氷に包まれたトランスフォーマーが置かれていた。
スタースクリームはそれをあまり機嫌良くなさげに眺め、ショックウェーブは何か計器を弄っている。
そこへ、扉を開けてメガトロンとキセイジョウ・レイが入ってきた。
「お帰りなさいませ、メガトロン様」
ショックウェーブは主君の姿に恭しくお辞儀し、スタースクリームもそれに倣う。
「御苦労。お前たち、よくやったぞ」
「光栄の至り。そちらの首尾はいかがでしたか?」
「ニ、三予定外のことがあったが、概ね計画通りだ」
部下たちを労いながら、メガトロンは氷塊の前まで歩いていくと、科学参謀に視線をやる。
「それで、準備はできているのだろうな?」
「はい、セレブロシェルの埋め込みは完了しています。後は解凍するだけです」
「結構。ではさっそく解凍せよ」
一つ頷いたショックウェーブは、手元の機械を操作して氷の解凍を始める。
それをメガトロンの足元で眺めながら、レイは問う。
「それで、メガトロン様。このヒトはいったい誰なんです?」
「これは、遠い昔にこのゲイムギョウ界にやってきたディセプティコンの一員だ。
説明されて、レイは首を傾げる。
「ディセプティコンの一員? では何故、
「簡単なことだ。そいつは裏切ったのさ。オートボットに寝返ったのよ」
疑問に答えたのは、メガトロンではなくスタースクリームだった。
その声には、嫌悪感があった。
自分のことを棚に上げているように見えるが、ディセプティコンの価値観において利敵行為は下克上よりも罪が重い。
メガトロンは大きく頷いた。
「それもあるが、こいつは知り過ぎている。……色々とな。だから、オートボットに渡すワケにはいかなかった。だが、殺してしまうのはもったいない。どうせなら戦力として再利用しようということだ」
言っている間にも、氷は融けていく。
やがて氷の中にいたトランスフォーマーが全貌を表す。
そのディセプティコンは、メガトロンに匹敵する黒い巨体を持ち、背には翼とブースターがあり、下腿は逆関節になっていて、顔周りには金属片が髭のように連なっていた。
反面、あちこち錆が浮きギシギシと軋んでいて、腰も曲がり、自身にパーツの一つを杖代わりにして体を支えている。
しかし、そのオプティックは長い年月とエネルゴン不足の中で老い朽ちかけて、今はセレブロシェルによる洗脳下にあるにもかかわらず、爛々と輝き鋭く細められていた。
良く言えば歴戦の強者の風格があり、悪く言えば死にかけの老兵と言った風情だ。
「ぐ、ぐうう……ここはどこだ? 俺は誰だ?」
「ここは我がディセプティコンの基地だ。お前の作戦内容と指揮官を答えられるか?」
ガラガラとした老いを感じさせる声を絞り出す、老ディセプティコンに、メガトロンは答えと問いを与える。
「むううう……思い出せん! 俺は何をしていたのだ?」
「どうやら、長年の凍結とセレブロシェルの影響で、思考と記憶が混濁しているようです」
頭を抱える老ディセプティコンを見て、ショックウェーブがメガトロンに小さい声で耳打ちする。
それを受けたメガトロンは、老ディセプティコンに説明を始める。
「では、教えてやろう。お前の任務は、我らへの協力。指揮官はこの俺、破壊大帝メガトロンだ」
「メガトロン……? 聞かない名だ……」
「ああ、そこからか。詳しい話は後でする。とりあえず歓迎しよう」
そこでメガトロンは大きく腕を広げ、芝居がかった仕草で宣言する。
「伝説の戦士、ジェットファイアよ! 遠い過去から現代へ、そして我がディセプティコン軍団へようこそ!」
* * *
プラネタワーのテラス。
ネプギアはようやっと帰り着いた我が家で、夜風を浴びていた。
あの後、基地に待っていたホイルジャックから知らされたのは、スティンガーの身体から、コアである疑似シェアクリスタルが、抜き取られていたということだった。
恐らく、オプティマスに化けたネメシス・プライム……ハイドラヘッドが持ち去ったのだろう。
ホイルジャックは己の不注意を悔やんでいたが、ネプギアは特に気にしていなかった。
「きっと、また会える」
確信めいて、ネプギアは呟いた。
予感がするのだ。
いつの日かきっと、必ず再会する日が訪れる。
今は、それだけで満足だった。
そんなワケで、今度こそゲハバーンの話はおしまい。
今回の解説。
人造トランスフォーマー
そんなワケで、二人で一人のトランスフォーマー状態。
前回のは、一種の幻。
さすがにトリプルチェンジとかはやらかさない……はず。
ハグレ組
人間の姿なので怪しまれずに行動できるアリス、情報取集に長けたブレインズ、乗り物役のサイドウェイズで、意外とまとまりのいい集団だったり。
アリスは、公的には『突然失踪して行方不明』という扱い。
ジェットファイア
ディセプティコンに合流。
洗脳されたのは、漫画版へけヘケのネタ。
いやこのヒト、物語の確信に迫る情報を持ってる上に強いんで、地味にバランスブレイカ―なんでこういうことに。
次回は息抜きの日常編をまとめた短編を予定しています。