超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION   作:投稿参謀

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ゲハバーンの話は今回で終了……ならず。


第78話 女神殺しの魔剣 part4

「はあああ!!」

「いやああ!!」

 

 遺跡の上空で、ネプテューヌの太刀とネプギアのゲハバーンが交錯する。

 剣が打ち合うたびに、閃光が走り衝撃波が起こる。

 だが、ネプギアが殺す気で攻撃を放つのに対し、ネプギアを傷つけたくないネプテューヌはだんだんと押されはじめていた。

 

「ネプギア! 正気に戻って!」

「女神を、殺す!」

 

 怒涛の如き連撃がネプテューヌを襲う。

 ネプテューヌはそれを必死に防ぐが、ついに剣閃が喉元に迫る。

 

 その時、さらに上空から光線が、二人の間に割り込むように降り注いだ。

 

 光線を撃った主であるユニがネプテューヌを庇うような位置に飛んでくる。

 

「ネプギア……アンタ、何やってるのよ……!」

 

 ユニは怒りに顔を歪ませながら、長銃を親友に向ける。

 

「アンタはネプテューヌさんの妹でしょう! ネプテューヌさんのことが大好きだって、いつもそう言ってたじゃないの!」

「女神を殺す……!」

 

 しかし、ユニの声はネプギアには届かない。

 ネプギアは新たに現れた獲物に向かっていく。

 

「ネプギア……ちょっと痛いけど、我慢しなさい!」

 

 ユニは意を決し、狙いを定め長銃の引き金を引く。

 銃口から発射された光線がネプギアに迫るが、ネプギアは剣で光線を受け止める。

 

「な!? ……それなら!」

「女神、殺す!」

 

 さらに光線を発射するユニだが、普段のネプギアを遥かに上回るスピードで飛びまわり、全てかわしつつユニに肉薄する。

 

「女神を、殺す……!?」

『アイスコフィン!』

 

 大上段からユニに斬りかかるネプギアだったが、その腕が突如、氷によって拘束される。

 

「ネプギア、悪いことしたら、ダメなんだからね!」

「ネプギアちゃん、もうやめて……!」

 

 ラムとロムの魔法だ。

 

「おおおお!」

 

 ネプギアはすぐに無理やり氷を砕いて、ロム、ラムへと向かって行く。

 

「ロム、ラム! もう一度、ネプギアの動きを止められる?」

「うん、やってみる!」

「まかせて!」

『アイスコフィン!』

 

 ユニの指示を受け、ロムとラムは斬撃をよけながら、氷塊を次々と生み出す。

 氷塊はお互いにぶつかって砕け、細かい飛礫になってネプギアに降りかかる。

 

「……ッ!」

「そこよ! パラライズショット!」

 

 動きが鈍ったところに、すかさずユニは麻痺効果のある弾丸でネプギアを撃つ。

 

「……おおおお!」

 

 雄叫びと共にゲハバーンの刀身から放たれたエネルギーがバリアを形成して銃弾と氷飛礫をまとめて弾く。

 

「ッ! 何て力……、あれがゲハバーンの力だっていうの?」

「それだけじゃない! ゲハバーンはネプギアのシェアエナジーを吸い取って力に代えているんだわ!」

「そんな……!」

 

 ネプテューヌの言葉に、ユニたちは青ざめる。

 

 それが本当なら、一刻も早くネプギアを助けなければ!

 

 女神たちは頷き合い、武器を構える。

 

「女神を、殺す! ……殺す!!」

 

 ゲハバーンはさらに輝きを増し、ネプギアの顔を照らす。

 

 その目から、涙が流れていた。

 

「ネプギア……!」

「……ッ! め、女神を、殺、す!!」

 

 ネプテューヌの声に、ネプギアは動揺するような仕草をするが、頭を振って剣を姉に向ける。

 一瞬の隙を突いて、ネプギアはネプテューヌに刃を突き刺そうとする。

 

「ネプギアちゃん! いけませんわ!」

 

 しかし、横から割り込んだ長槍に阻まれた。

 

「ネプテューヌ! 油断しないでくださいな! 今のネプギアちゃんを止めるためには、攻撃を躊躇ってはいけません! ……妹を失いたくはないでしょう?」

「ベール……ええ、そうね!」

 

 戦いは激しさを増していく。

 

「ネプテューヌ、ネプギア……」

「どこを見ている? 君の相手は私だ!」

 

 戦う二人を見上げるオプティマスに、ネメシス・プライム一号機……ハイドラヘッドが襲い掛かる。

 四つに組み合う両者。

 オプティマスはあらん限りの怒気を込めた視線で、ネメシス・プライムをねめつける。

 

「愛し合う姉妹を戦い合わせて貴様は何とも思わんのか! それでも人間か!!」

「人間だとも!! 人間は他者を傷つけて嗤う生き物だ!」

「貴様に心は、魂はないのか!」

 

 オプティマスの声に、ハイドラヘッドはせせら笑うような声を出す。

 

「無い! 何故なら私は人間だからだ! スパークを持つ君たちトランスフォーマーと違って、我々の体に魂に当たる機関など存在しない! 心の力であるシェアエナジーで構成された女神と違って、この体を形作るのはタンパク質だけだ! 形がなく見えもしない物をどう証明する?」

 

 その言葉に、オプティマスは一瞬怯む。

 両者は一度距離を取って睨み合う。

 薄笑いを交えながら、ハイドラヘッドは語りかける。

 

「人間の魂など、幻に過ぎない……そんな物に意味などない!!」

「…………哀れな奴だな」

 

 嗤うハイドラヘッドに、しかしオプティマスがおぼえたのは憐みだった。

 

「私は見てきた。アイエフやコンパ、各国の教祖や、多くの人間たち。彼らの中には紛れもなく魂があった。善にせよ悪にせよ、心があった。……心も魂も無いのなら、お前は人間ではない。ただの……兵器だ」

 

 静かな声に、ハイドラヘッドはこれまでとは違う笑いを漏らした。暗い情念のこもった笑いだ。

 

「くくく……私は兵器か。そうかもなあ……だが、兵器には兵器の生き方がある! それを邪魔はさせん! ……見よ!」

 

 言うやネメシス・プライム一号機が背中に両手をやり、剣を抜いた。

 テメノスソードよりも大振りな鋭い二等辺三角形を縦に二つ重ねたような形の刀身を持つ大剣だ。

 

「君の剣と同じ、アダマンハルコン合金製の剣だ!! これを受けてみるがいい!!」

「ッ!」

 

 今までののらりくらりとした調子とは違う、苛烈な気迫を放ち、ネメシス・プライムは斬撃を繰り出す。二号機と三号機もオプティマスに飛びかかる。

 オプティマスは咆哮を上げてそれを迎え撃った。

 

 ネプギアは五人の女神を相手に一歩も引かない戦いを見せていた。

 氷塊を砕き、銃弾と光線を切り払い、長槍を跳ね除け、太刀をいなす。

 

「五人がかりで、まだ届かないとは……ネプギア、あなたはやっぱり、凄い娘だわ」

 

 ネプテューヌは、心の底からそう思って呟いた。

 元々潜在能力は高い娘だとは思っていたが、ここまでとは……。

 

「め、女神を、こ、殺す……い、いや……」

 

 ネプギアは必至に剣の洗脳に対抗しているようだが、それでも振るわれる力に陰りは見えない。

 それどころか、その力と剣の放つ光はどんどん強くなっていく。

 

 ――女神ヲコロセ。

 

「あ、あ……あああああ!!」

『きゃあああ!!』

 

 ネプギアが剣を天高く掲げると、刀身から電撃状のエネルギーが放たれ、女神たちを飲み込む。

 耐え切れず、女神たちは次々と地に落ちていった。

 

 ネプギアはそのまま一番近くに倒れていたベールに向かって急降下していく。

 その勢いで、ベールを串刺しにする気なのだ。

 

「ッ!」

 

 起き上がってよけようとするベールだが、間に合わない。

 

 ネプギアはすぐ眼前に迫っている。

 

 だが、どこからか飛来した光の矢が、ネプギアに命中するや、ネプギアの動きが止まった。

 

「この……攻撃は!!」

 

 上体を起こしたベールは慌てて攻撃の出どころを探る。

 

 今しがた飛んで来た光の矢、そしてその効果は『当たった相手の時を遅くする』こと。

 

 それができるのは……。

 

 遥か彼方、高台の上に人影が立っていた。

 

 かなりの距離があるにも関わらず、ベールにはその姿がはっきりと分かった。

 

 肩あたりで切りそろえた金髪と、垂れ気味ながら勝気そうな青い目。

 足を大胆に露出しながらも、清楚な印象を緑と白の衣服。

 ベールによく似た、しかしベールより幼い容貌の少女が弓を構えていた。

 

 一瞬、ベールとその少女の視線が合った。

 

 少女……かつてリーンボックス教会に潜入していたプリテンダー、アリスはフッと微笑むと、崖の向こうへと消えた。

 

 この状況で不謹慎だとは分かっていたが、ベールは顔に笑みの形になるのを止められなかった。

 

「アリスちゃん……生きていて……くれた……!」

 

 一方、ネプギアは時間が止まった中でも、ギリギリと動く。

 剣の光は眩しいばかりに強くなり、それに連れてネプギアの顔がやつれていく。

 

「ネプギア!!」

 

 ネプテューヌは痛む体に鞭うって飛び上がり、ネプギアに抱きついて無理やり地面に降ろす。

 

「ううう……」

「ネプギア! 元に戻って!!」

 

 妹をきつく抱きしめるネプテューヌ。

 

「ネプギア! ゲハバーンなんかに負けないで! あなたは強い娘でしょう!」

「ぐ、ぅううう……め、女神を……」

 

 ネプギアの目に僅かに光が戻る。

 

「お、お姉ちゃん……」

「ネプギア! そうよ、頑張って!」

「だ、だめ、逃げて……私の頭の中で誰かが求めてるの……女神が死ぬ、最悪の結末(バッドエンド)を……! 私には、止められない……!」

 

 涙を流すネプギアにさらに抱きつく者たちがいた。

 

「ネプギア、戻ってきなさい!」

「ぎあちゃん! もう、やめるです!」

 

 アイエフとコンパだ。

 親友を助けるため、武器を捨ててネプギアの体を抱きしめる。

 

 さらに、大きな影が後ろからネプギアの上を覆う。

 

「ギ…ア…君は……やさ…し…い、そん…な…の…似合わ…ない…」

 

 バンブルビーは借り物ではない自分の声で、パートナーに呼びかける。

 

「ネプギア……」

「帰ってきてよ……」

「ネプギアちゃん……」

 

 ユニ、ロム、ラムも立ち上がる。

 

「み、みんな……」

 

 家族の、友達の、仲間たちの声に、ネプギアの瞳が揺れる。

 

 ――逃ガサナイ……女神ヲコロセ、救イノナイ結末ヲ齎スノダ!!

 

 突如、突風が巻き起こり、ネプテューヌたちを吹き飛ばす。

 同時にゲハバーンから光の帯が伸び、ネプギアの腕に絡みつく。

 それはまるで、ネプギアの生命を最後の一滴までも貪ろうとしているかのようだった。

 

「はははは! 何だアレは! 説得コマンドで奇跡でも起こす気か!!」

 

 オプティマスと苛烈な斬り合いを演じるネメシス・プライムは、おかしくてたまらないと言わんばかりに哄笑する。

 

「友を、家族を救おうとする彼女たちの思いが貴様には分からんのか!」

「分かるものか!! 現実の前には奇跡も魔法もありゃしねえ、あっちゃいけないんだよ!! 君も一軍の将ならそれくらい分かるだろうが!!」

「貴様の言葉をそのまま返そう、分かるものか!! 私はこのゲイムギョウ界に来て学んだことが一つある。思いは、時に奇跡を起こすのだ!!」

「思いなんかで奇跡が起こるほど、世の中甘くはねえんだよ!!」

 

 仮面の下から絶大な憎しみを吐き出しながら、ハイドラヘッドは吼える。

 

 ネプギアの体を光の触手が包んでいき、突風は稲妻を孕んで強くなっていく。

 

 このままではいけない。このままでは、皆を巻きこんでしまう。何とかしなければ!

 

 だけど、ゲハバーンの声が、憎しみが、怒りが、ネプギアの心と体を鎖のように縛り付ける。

 

 ネプギアの抵抗に、ゲハバーンはあらん限りの怨念で、ネプギアを染め上げようとしている。

 

「大丈夫です。ネプギア」

 

 そのとき、声がした。

 

 もう聞こえないはずの、懐かしい声。

 

 自分を母と慕ってくれた、あの子の……。

 

「ネプギアは、憎しみなんかより、ずっと強い力を持っている。私が、その証明です」

 

 ――スティンガー……。

 

 これは夢か、幻か。限界を迎えた魂が見せる走馬灯か。

 

 バンブルビーに似た、真っ赤な体と蜂を思わせるバトルマスクの人造トランスフォーマー。

 散ったはずのスティンガーが、ネプギアの正面に立っていた。

 

「あなたを助けるために、こんなにも多くの人々が集まった。あなたはみんなに愛されている。そして、あなたもみんなを愛している……それは、何にも勝る奇跡、創造を為す力です」

 

 スティンガーは静かに語る。その声は、優しさとネプギアへの愛に満ちていた。

 

「創造は、破壊よりも遥かに難しい。だから破壊しかできない、そんな剣なんかにネプギアが負ける道理がない……そうでしょう、兄弟?」

 

 バトルマスクを外し、スティンガーはバンブルビー……自分とよく似た顔をした兄へと問いかける。

 

「ス…ティ…ン…ガー……」

 

 バンブルビーもまた、目の前の光景に、オプティックを疑っていた。

 ショックウェーブに破壊されたはずの兄弟分が、確かにそこにいた。

 

「だから、ネプギア。あなたの中にある力を信じてください。それは恨みや憎しみよりも遥かに偉大な力です」

 

 静かな声に、ネプギアはゆっくりと頷いた。

 

 ――ッ!? 女神ヲコロセ!! 憎シミヲ滾ラセロ! 怒リヲ燃ヤセ! 恨ミデ心ヲ満タスノダ!!

 

「嫌だ! 私は……あなたなんかに負けない! スティンガーが……私の子供が、見てるんだから!!」

 

 子供が期待してくれているのだ。

 答えなくて、何が母か。

 ネプギアの体の内から虹色の光が湧き出し、それに当てられた光の触手はボロボロと崩れていく。

 

 ――ヤメロォォ!

 

「あなたなんか、あなたなんか……こうしてやる!!」

 

 全ての光の触手が千切れ飛ぶと同時に、ネプギアは手に持ったゲハバーンを思い切り地面に叩き付けた。

 

 それだけで、幾多の女神の命を喰らってきた魔剣、様々な悲劇の元凶となった伝説に謳われるゲハバーンは、刀身の中ほどからボッキリと折れた。

 

 ――ギィィヤャァァ嗚呼アああアアアッッ!!」

 

 恐ろしい悲鳴がネプギアの脳内のみならず、現実にも戦いの音をかき消すほどの大きさで轟き、やがて消えていった。

 女神も、オートボットも、ハイドラの兵士たちさえもシンと静まり返る。

 

「ネプギア……」

「大丈夫だよ、お姉ちゃん。……心配かけてごめんなさい」

 

 ネプテューヌの呼びかけに、ネプギアは静かに、しかしハッキリと答えた。

 

「ネプギア!」

「ぎあちゃん!」

「もう、心配したんだからね!」

 

 ネプテューヌ、コンパ、アイエフは泣きじゃくりながらネプギアに抱きつく。

 

「ネプギア……まったくもう! 迷惑かけないでよね!」

「ユニちゃんったら、素直じゃないんだから!」

「よかった、よかったよぉ……」

「…………」

「ギ…ア…」

 

 女神候補生たちもネプギアに駆け寄り、ベールは優しく微笑み、バンブルビーも、オプティックからウォッシャー液を流す。

 

「みんな……ありがとう! スティンガーも……え?」

 

 ネプギアは我が子たるスティンガーを見上げる。

 

 だが、そこにいたのは赤い体の人造トランスフォーマーではなかった。

 

 紫の体に、二つの頭に一つずつの目。

 

 ディセプティコンの人造トランスフォーマー、トゥーヘッドだ。

 

「え? でも確かに……」

 

 戸惑うネプギアに、トゥーヘッドは何も答えない。

 だが二つの顔が微笑んだように見えた。

 

「馬鹿な! こんな簡単に女神殺しが破壊されるとは!!」

 

 あまりのことにハイドラヘッドは唖然とする。

 反対に、オプティマスは落ち着いていた。

 

「貴様には分かるまい、彼女たちの力が。……ここまでだ。ハイドラヘッド」

「いいや、まだだ! まだここから……」

 

 その時。

 

 パチパチと、手を叩く音がした。

 

 静まり返った戦場で、やたらとハッキリ聞こえる。

 

「いやいや、お見事。中々、楽しい見世物だったぞ」

 

 嘲笑を滲ませた、地獄から響いてくるかのような重低音の声。

 

 オプティマスが、女神たちが、その声を聞き間違うはずなどない。

 

「メガトロン……!」

「こんな所で会うとは、奇遇だなぁ、プラァァイム、そして女神どもよ。……それにしても今回は、色々と珍しい顔ぶれだな」

 

 高台に、破壊大帝メガトロンが立っていた。

 その横には、あの仮面の女もいる。

 

「二号機、三号機! 人造トランスフォーマーを回収して退け!」

 

 ハイドラヘッドはメガトロンの目的がトゥーヘッドの回収、ないし破壊であると考え、まだ無事なネメシス・プライムにトゥーヘッドを捕まえさせる。

 トゥーヘッドは、抵抗もせずに連れて行かれた。

 

「……さて、お初にお目にかかる、破壊大帝メガトロン殿。私はハイドラの司令官、ハイドラヘッドだ」

「ああ……お前らが、俺の部下どもを可愛がってくれた」

 

 落ち着きを取り戻したハイドラヘッドは、灰銀の破壊者に自己紹介するが、メガトロンは気に入らなそうに首をゴキリと鳴らし、次いでラチェットと戦っていたロックダウンに視線を向ける。

 

「久しいな、ロックダウン」

「……はん。 相変わらず偉そうだな、メガトロン」

 

 ディセプティコンなら畏縮せずにはいられない破壊大帝の呼びかけにも、ロックダウンはいつもの調子を崩さない。

 オプティマスは突如現れた宿敵を睨みつける。

 

「メガトロン! 何をしに現れた!!」

「な~に、今回は見学よ。魔剣の呪いとやらが、どれほどのものかな。……どうやら、大したことはなかったようだが」

 

 メガトロンは高台から飛び降り、ネプギアたちの前に着地する。

 後ずさる女神たちを放っておいて、メガトロンは折れたゲハバーンの片方を拾い上げる。

 

「……なるほどな。こういう武器か……」

 

 メガトロンは、ゲハバーンの欠片を手で弄びながら、オプティマスとネメシス・プライムの方を向く。

 

「この剣は、極めて高密度、高純度のダークマターで形勢されている。そして我らディセプティコンには、ダークマターを制御する秘術が伝わっている。……ゆえに、こういう使い方ができる!」

 

 言うやメガトロンは巨体からは想像もつかないスピードでネメシス・プライム一号機に接近し、その腹にゲハバーンの欠片を握り締めた拳を突き刺す。

 その傷から、オイルが漏れ出し、そのそばから拳に吸い込まれていく。

 

「ぐ、お……!?」

「ダークマターには、あらゆるエネルギーを吸収する特製があり、無論、生き物の精神エネルギーやシェアエナジーも例外ではない。そうして吸い取った精神エネルギーの残留思念が、制御方を知らない持ち主の精神に干渉し、幻視や幻聴を引き起こす。それが魂を喰らう伝説、魔剣の呪いの正体、というワケだ」

 

 メガトロンが説明する間も、拳に握ったゲハバーンはネメシス・プライムのエネルギーを吸い取り続ける。

 

「く! 動け! ……ダメか!」

 

 胸の操縦席にいるハイドラヘッドが必死に操作するも、エネルギーを吸い取られては、反撃も逃げることさえままならない。

 

「いい剣だな。貰うぞ」

 

 エネルギーを吸い尽くしたメガトロンは拳を引き抜くと同時に、ネメシス・プライムの握っていた大剣を奪い取る。

 仰向けに倒れるネメシス・プライムを後目に、メガトロンはゲハバーンの欠片を大剣の刀身に埋め込んだ。

 すると大剣の刀身に血管のような筋が何本も走り、禍々しい紫の光が刀身全体に伝播していく。

 

「フハハハ! アダマンハルコン合金には、エネルギーを伝える性質がある! これでダークマターの性質を持った剣が生まれた! さて銘を何とするか。……ダークマターカリバーか、ダークスターセイバー辺りが順当だが、お前はどう思う?」

「…………」

 

 いつの間にかメガトロンの傍に来ていた仮面の女は、メガトロンのネーミングセンスに、仮面の下で何とも言えない顔になる。

 なので、控えめに意見を出した。

 

「……あの、恐れながら、メガトロン様。メガトロン様の高尚なセンスには、普通の者たちはついていけませんので、もうちょっとレベルを落としてもよろしいのでは……下の者のために妥協するのも、上に立つ者の度量かと存じ上げます。……そうですね、『ハーデス』というのはいかかがでしょうか? 古い神話における、冥府を総べる神の名であり、冥府その物を指す言葉です」

「むう、悪くないな。ではハーデスソードとでもしておこう」

 

 メガトロンは意外と素直に仮面の女の意見を受け入れ、再びオプティマスと向き合う。

 

「さて、さっそく試し斬り、と言いたいことだが、今回はこれで退かせてもらおう」

「何だと?」

「クックック、俺とて、姉妹の感動の場面に水を差すほど無粋でもないのでな。……それに目的は果たした」

 

 余裕に満ちた宿敵に、オプティマスはハッとなる。

 

 ネプギアがゲハバーンの力で正気を失い、ハイドラに囚われた時点で、女神とオートボットに取ってネプギアの奪還と解放が第一目標となる。

 

 『もう一つ』の方は、どうしても疎かになってしまう!

 

「……ジャズ! こちらオプティマス、応答せよ! 繰り返す、ジャズ! 応答せよ!」

 

 オプティマスはルウィーで氷漬けのトランスフォーマーを回収しているはずの副官に通信を飛ばす。

 応答はすぐにあった。

 

『……オプティマス、こちらジャズ。……ディセプティコンの連中が現れて……全員、なんとか無事だが……すまん、氷漬けを奪われた』

「……いや、全員無事なら、それでいい。今回のことは私の采配ミスだ。……後で詳しく報告してくれ。通信終わり」

 

 通信を切り、メガトロンを見れば、してやったりという顔をしている。

 

「と、いうワケだ。……では、予定が詰まっているので、失礼する。ククク、フハハハ、ハァーッハッハッハ!!」

 

 オプティマスに反論させる間を与えず、メガトロンは仮面の女を回収し、変形して笑い声を残して飛び立つ。

 アッと言う間に、メガトロンの姿は見えなくなった。

 

「…………結局、何をしに来たのでしょう?」

「…………嫌がらせ?」

 

 唐突に現れて、唐突に帰っていったメガトロンに、ベールとネプテューヌは唖然としていた。

 

「クッ……美味しいとこだけ持っていきやがって……!」

 

 ハイドラヘッドもネメシス・プライム二号機に支えられながら悪態を吐く。

 その通信装置に、マルヴァから連絡が入る。

 

『ヘッド! 発進準備、完了しました』

「やっとか……、ハイドラ、撤収だ!」

 

 これ以上ここに止まる意味もない。

 

 女神候補生とゲハバーンを失ったのは痛い……ついでにせっかく作った剣を分捕られたのも悔しいが、人造トランスフォーマーを手に入れることはできた。

 

 それにゲハバーンの別の使いかたも分かった。それで十分だ。

 

 遺跡が崩れ出し、その下から大きな何かが姿を現した。

 

 それは海を行く戦艦を、そのまま空に浮かべたような物体だ。

 艦橋があり、甲板があり、船体にはいくつもの砲台を備えている。

 だが船体の後部には翼とバーニアがあり、艦首部分には、蛇の頭を模した飾りが付けられていた。

 

 正しく、空中戦艦である。

 

 これこそ、ハイドラがマジェコンヌのもたらした情報を基に完成させた空中戦艦『ハイバード』である。

 その船底にあるハッチが開き、トラクタービームを照射する。

 

「我々も退かせてもらおう。……オプティマス、次こそは、私と戦争をしてもらう」

 

 配下がトラクタービームに入って撤収する中、ハイドラヘッドは操縦席のハッチを開けてオプティマスを睨む。

 

「……貴様は、なぜそうまでして戦争を求める? ハッキリと言おう、理解できん」

「理解など、求めてはいない。……だが、あえて言うならば、それが私の存在理由だからだ。……戦うために生まれたのだから、戦いに死にたいのだ」

 

 オプティマスの問いに、それだけ答えるとハイドラヘッドはゲハバーンの残る欠片を回収し、自身もトラクタービームの中に入り撤退していった。

 

「頃合いだな。俺らも帰るぞ」

 

 ロックダウンもラチェットとの戦いを切り上げ、配下もろとも撤収していく。

 その背に、ラチェットが声をかける。

 

「そう言えばロックダウン、君は以前、目に見えない物は信じない主義だと言っていたな。……彼女たちは、現実に信頼と絆で苦難を乗り越えてみせたぞ」

「……はん」

 

 問い掛けるようなラチェットに、ロックダウンは鼻を鳴らすような音を出しただけだった。

 

 全ての兵士を回収した空中戦艦は、後部のブースターを吹かして飛び去っていった。

 

「あの、改めまして……ただいま」

 

 危険が去ったのを確認し、ネプギアは皆に向かって照れくさげに微笑む。

 

「お帰りなさい。ネプギア」

 

 ネプテューヌは笑顔で、もう一度ネプギアを抱きしめた。

 アイエフとコンパ、他の女神やオートボットもネプギアと笑い合う。

 

 それを見て、オプティマスはホッと排気した。

 

 確かにメガトロンには出し抜かれた。

 だが、姉妹が殺し合うという最悪のシナリオは回避できた。

 

 それだけで、今回は良しとしておこう。

 

 無事を喜び合う一同にオプティマスは、そう自分を納得させるのだった。

 




Q:メガトロンは何しにきたの?

A:ことと次第をどっかで高見の見物してたけど、トゥーヘッドが出てくるのは計画外だったんで、トゥーヘッドをハイドラに回収させるために出張りました。

ゲハバーンの説明
あくまで、メガトロンの考え。
本当にゲハバーンに過去の女神や人間の怨念が宿っていたかは、神のみぞ知る。

ハーデスソード
メガトロン、剣入手。しかしトランスフォーマーシリーズには出てこないオリジナル。
名前の由来は、もちろんギリシャ神話の冥府の神ハデス。転じて古代ギリシャ語で冥府そのものを指す単語でもあります。
オプティマスのテメノスソード(聖域の剣)と対を為す、ハーデスソード(冥府の剣)と言うわけです。
形状のモデルは、初代メガトロンの玩具に付属していたエレクトロソード。(アニメ本編では未使用)

空中戦艦ハイバード
一応、星のカービィシリーズの戦艦ハルバードがモデル。

次回は、各陣営+αのエピローグ的な話になります。

では、もうちょっとだけ、続くんじゃよ。

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