超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION 作:投稿参謀
山もオチもない、話となっております。
※2015年12月20日、改稿。
遠い遠い昔、かつて、トランスフォーマーたちの暮らす世界、惑星サイバトロンは豊かな場所だった。
サイバトロニアンを治めるプライム王朝は強大な帝国を築き上げ、平和が保たれていた。
だがある時、プライム王朝の一人、名前も失われた
ディセプティコンの始まりである。
これに対し、プライム王朝を中心に民間人によって組織されたのが、オートボットであった。
ザ・フォールンは彼の兄弟であるプライムたちによって倒され、一応の平和が訪れたかに見えた。
しかし、この頃からサイバトロンはエネルギー不足に悩ませられるようになり、エネルギーを巡って争いが起こるようになった。
そして、メガトロンが現れたのである。
彼は圧倒的な力で、ディセプティコンを傘下に収めると、オートボットに対して戦争を始めた。
永い、永い戦争だった。
戦いの末、サイバトロンは荒廃し、星そのものが死に瀕していた。
さらにトランスフォーマーに命を与え、世界を創り出す大いなる存在、オールスパークが宇宙へと失われた。
しかし、それでも戦いは終わらなかった。
メガトロンは、種の命脈を保つため、他の世界への侵略を目論んだのである。
オートボットはそれを阻止するために戦った。自分たちの世界の問題を他の世界に持ち込む訳にはいかない。
ディセプティコンによって建造された、時間と空間を越えるための装置、『スペースブリッジ』の下で決戦が行われた。
しかしスペースブリッジは不完全だったのだ。
それは、その第一人者が健在だった頃から、不安定で危険な技術だった。
スペースブリッジは暴走を起こし、その場にいた者たちを全て転送してしまった。
戦い合っていた、オートボットとディセプティコン。その両者を。
この、ゲイムギョウ界へと。
* * *
「これが、我々がゲイムギョウ界へと来た理由だ」
オプティマスは語り終えると、オプティックから投射していた立体映像を消した。
プラネテューヌの某所、オプティマスが運び込まれていた地下倉庫。
ここに、四人の女神とその妹たち、教祖イストワール。そして二体のトランスフォーマーが集まっていた。
あの後、ネプテューヌがビークルモードのオプティマスに、それ以外の面々がバンブルビーにそれぞれ乗り、プラネテューヌへと帰りついた。
プラネタワーで取りあえずの治療を受けた一同は、オプティマスから話を聞くため、彼らが修理を受けているここへ、改めてやって来たのである。
そこでオプティマスが語った話は、一同の想像を遥かに絶するものだった。
最初は「帝国って、悪者みたい」と、茶化していたネプテューヌも、途中から絶句していた。
世界を滅ぼすほどの戦争も、それでもなお戦い続けるトランスフォーマーたちも、理解を超えている。
「なんて言うか、すごい話だったわね……」
「うん、星が滅んじゃうような戦いだなんて……」
ユニが、なんとか声を絞りだし、ネプギアも茫然と呟く。
その後ろでは、ロムとラムが肩を寄せ合って震えていた。
話の内容もそうだが、オプティマスが話が分かりやすいようにと投射した立体映像の迫力もこたえたらしい。
「……いろいろと、言いたいことはあるわ。でも、それは後にする。問題は、ディセプティコンは今後どういう行動に出るか、ということよ」
ノワールが静かに言い、ブランが頷く。
「それから、それに対してどういった対策を取るか……」
「そうですわね。敵の戦力が未知数である以上、下手な手は打てませんわ」
ベールもそれに同意する。
「う~ん、どうしたもんかなあ」
ネプテューヌも珍しく腕を組んで考えこんでいる。
と、オプティマスが発言した。
「そのことなんだが、私の仲間を集めようと思う」
「仲間って、ビーみたいな?」
ネプテューヌがたずねると、オプティマスは頷いた。
ちなみにビーとはネプテューヌが付けた、バンブルビーのあだ名だ。
彼女にしてはマトモだと一同が驚き、グータラ女神が怒る場面があったのだが、それは置いておく。
「そうだ。ディセプティコンに対抗するためには、こちらも戦力を増強する必要がある。そのために、おそらくはゲイムギョウ界の各地に転送されたはずの、部下たちに召集をかける。何人集まるかはわからないが……」
オプティマスは力強く言った。
「そうなんだ。部下を……へ? 部下?」
「そう言えば、バンブルビーさんも、『司令官』と呼んでいますね」
ネプテューヌはオプティマスの発言に驚き、イストワールはむしろ納得がいった様子だ。
立ち振る舞いや、理知的な言動からただ者ではないだろうと踏んでいたからだ。
「『そうだよ』『ここにおわすお方を、どなたと心得る』『我らが』『総司令官!』」
バンブルビーがラジオ音声と身振り手振りで、オプティマスを称える。その姿は本当に誇らしげだ。
「総司令官、と言うことは、あなたがその、オートボットの代表……と考えていいのかしら」
ブランが静かにたずねる。オプティマスは大きく頷いた。
「そうなる。ちょうど良い機会だ。改めて自己紹介しておこう。私はオートボット総司令官オプティマス・プライム。そして彼は、我が軍の情報員バンブルビーだ」
「『よろしく!』」
バンブルビーは、ラジオからノリの良い音楽を流しながら、踊るように動いて見せる。それにつられて、ロムとラムも元気を取り戻した。
「へ~、そうなんだ。……でも情報員ってなに?」
ラムがそう聞けば、バンブルビーは嬉しそうにラジオを鳴らし出した。
「『よくぞ聞いてくれました!』『情報員とは!』『味方に』『先行して』『敵陣に切り込み!』『蝶のように舞い、蜂のように刺す!』『すごい奴なんDA☆』」
「つまり、斥候ね」
ノワールが総括した。
「せっこうって……?」
ロムが聞けば、バンブルビーは再び嬉しそうにラジオを鳴らし出した。
「『よくぞ聞いてくれました!』『斥候とは……』」
「それはもういいから! 話を進めてちょうだい!」
ノワールの剣幕に、バンブルビーがラジオ音声を引っ込める。
「え~と、それじゃあ、私に質問があるんですが……」
ネプギアが、控えめに発言する。オプティマスは先を促した。
「ビーについてなんですけど、なんで喋れないのかなって」
「確かに、オプティマスは普通に喋ってるのにね」
ユニも、ネプギアの言葉に同意する。オプティマスは流暢に言葉を紡いでいるのに対し、バンブルビーは、ラジオ音声か、ノイズのようなたどたどしい言葉でしか話せない。疑問に思うのは当然だった。
その疑問に対するオプティマスの言葉は、衝撃的なものだった。
「バンブルビーの発声回路は、かつての戦いで破壊されたのだ。……メガトロンに」
「そんな、酷い……」
ネプギアは後悔した。酷いことを聞いてしまった。
「『気にしない、気にしない』『もう慣れたし』」
しかし、バンブルビーの反応は軽いものだった。
「ごめんなさい、ビー……」
それでは気が治まらず、ユニも謝る。
「『だから』『気にしないでって』『オイラも』『気にしてないから』」
バンブルビーがおどけてみせた。
「ありがとう……ビー」
ネプギアが微笑むと、バンブルビーは照れたように電子音を一つ鳴らした。
* * *
今後のことについては、ディセプティコンが攻めてきた場合、女神、およびオートボットが速やかに救援に向かうということで、ひとまず落ち着き、オプティマスは引き続き、この倉庫で修理を受け、バンブルビーはそれに付き添うそうだ。
女神たちと候補生たちは、プラネテューヌのアーパー女神の「どうせなら、泊まってきなよ!」と言う言葉に日も暮れてきたし、ということで、それぞれの教祖に連絡を入れ、今夜はプラネタワーにお世話になることになった。
そして夜遅く、プラネタワーのバルコニーに、ノワールの姿があった。黒の女神は寝間着のまま、どこか物憂げにプラネテューヌの街並みを眺めている。
そこに近づいていく者がいた。
「なにしてるの~? ノワール~?」
ネプテューヌである。彼女の声に、ノワールは振り向いた。
「ネプテューヌ……」
「眠れないの?」
ネプテューヌの言葉に、ノワールは薄く微笑んで頷いた。
「ちょっとね。……ねえ、ネプテューヌ」
「なに?」
「オプティマスの話、どう思った?」
ネプテューヌは少し考えてから答えた。
「長かったな~、って思ったかな。オプっちって、絶対話長いタイプだよね」
「いや、そうじゃなくて……、はあっ、もういいわ」
帰ってきた答えは、ある意味ネプテューヌらしいものだった。
しかし、ここでネプテューヌのペースに飲まれるわけにはいかない。
「あいつらは……、トランスフォーマーは危険だと、私は思うわ」
ノワールのその言葉に、ネプテューヌは珍しく眉をひそめる。
「どうして? オプっちは、わたしたちを助けてくれたよ」
「そのことについては、私も感謝してる。でもね、オートボットにせよ、ディセプティコンにせよ、あいつらはゲイムギョウ界に戦いを持ち込もうとしてる。私たちには、戦争をやめろって言ってきたクセにね」
「…………」
ネプテューヌは、ノワールの言葉を聞いて、少し考え込む素振りを見せる。
珍しい反応だと思いながらも、ノワールは話を続けた。
「それに、言ったらナンだけど、世界が滅ぶほどの戦いも、その後も戦い続けるのも異常だと思う。正気の沙汰とは思えないわ」
「そうかな?」
ネプテューヌが言葉を挟む。
その声色は、どこか真剣みを帯びていた。
ある意味において彼女らしくない。
「わたしたちだって、ずっと続けてきたじゃん。……戦いを」
「ッ! それは! シェアの奪い合いは、国を発展させるためのものよ! あいつらの戦いとは違うわ!」
「同じだと思うよ。少なくともわたしは」
ネプテューヌは、バルコニーの手すりに寄りかかる。
プラネテューヌの夜景を見る彼女の目は、物憂げだ。
「よく分かんないけどさ、女神同士でシェアの奪い合いをしてた頃って、楽しくなかったんだよ。みんな凄い必死で、他を潰してやるって感じでさ。どうせなら、みんなで話したり、ゲームしたりするほうが楽しいって思ってたから、だから友好条約を結ぶって話が出たとき、ホントに嬉しかったんだ」
「ネプテューヌ……」
ノワールは戸惑っていた。いつも呑気でグータラ、あっけらかんとしたこの女神が、こんなことを考えていたなんて、思いもよらなかった。
「きっと、オプっちも同じなんだよ」
ネプテューヌは続ける。いつのまにかその顔は優しい笑顔になっていた。
「オプっちだって、ずっと戦ってきたからこそ、平和を大切にしたいんだと思う」
そこまで言って、ネプテューヌは少しおどけた表情になる。
「な~んてね! ちょっと真面目すぎたかな? わたしのキャラじゃないよね~!」
「まったく、あなたって娘は」
真面目さが長続きしない。だが、こういうところが、ネプテューヌの魅力の一つだろう。
ノワールも肩の力が抜けた。
正直オートボットたちの事を受け入れられたわけではないが、ディセプティコンに対抗するためには、彼らの力が必要なのも確かだ。
「ねえ、ネプテューヌ」
だからこそ。
「なにかあったら、私を頼りなさいよ」
そこまで言って、ノワールはそっぽを向く。しかし、その顔は暗くてもわかるほど赤く染まっていた。
「な、仲間、なんだから」
ネプテューヌは満面の笑みを浮かべた。
「うん!」
* * *
「まったく、素直ではないわね……」
「まあ、それがノワールの魅力ですわ」
そんな二人を物陰から覗き見る影があった。
ブランとベールである。
二人も眠れずにバルコニーで涼もうとしたところ、話している二人を見つけ、様子を伺っていたのである。
後日、このことをネタに二人してノワールをからかい、彼女を大いに照れさせることになるのだが、それはまた、別の話だ。
プラネテューヌの夜は更けていく。
* * *
真夜中を過ぎた頃、プラネテューヌ某所の地下倉庫、その入り口。
オプティマス・プライムは、ここに立って何かを待っていた。傍らには、バンブルビーもいる。
この場所は都市部から少し離れた森の中にあり、人目にはつかない。
やがて、自動車のエンジン音が聞こえてきた。
それとともに車のライトと思しき光がこちらに近づいて来る。
三台の自動車が走ってくるのを、オプティマスのオプティックが捉えた。
一台は、リアウイングのついた銀色のスポーツカー。
一台は、無骨な黒いピックアップトラック。
最後の一台は、真っ赤なスポーツカーだった。
三台の車は、まるで訓練された兵士のように、オプティマスの前に整列する。
オプティマスは親しげに一台一台に話しかける。
「ジャズ、古き友よ」
「オプティマス! 無事でよかった!」
銀色のスポーツカーは、バンブルビーよりも、なお小柄だが流麗な体と、オプティックを覆うバイザーが特徴的な戦士へと変形する。
若々しい雰囲気だが、同時に油断ならない『何か』を感じさせる戦士だった。
「アイアンハイド」
「いつ呼んでくれるかと思ってたぜ、オプティマス」
黒いピックアップトラックは、大柄で筋肉質な男性を思わせる無骨な体躯と、右目の傷跡、両腕に備え付けられたガトリング・キャノンが特徴的な戦士へ。
彼は正しく歴戦の猛者然とした、戦う男の空気を纏っていた。
「ミラージュ」
「まったく、有機生命体だらけで、おかしくなるところだった」
真っ赤なスポーツカーは細く引き締まった体躯と、両腕の湾曲したブレードが特徴的な戦士へと姿を変える。
曲線で構成されたボディと鋭い視線が、他の二人に比べて『若い』印象を与える。
オプティマスは、柔らかい笑みを浮かべた。
「皆、無事で良かった」
「『おお、仲間たちよ!』『再会を喜ぼうぞ!』」
バンブルビーも、ノリの良い音楽を鳴らして喜びを表現する。
「俺たちも嬉しいよ。オプティマス、バンブルビー」
ジャズが代表して言う。彼はオプティマスの副官であり、気心の知れた友人だ。
「しかし、これで全員か……」
オプティマスは、難しい顔になる。思っていたよりも少ない。
アイアンハイドも、厳しい顔だ。
「サイドスワイプとは連絡が取れたが、自分がどこにいるのか、把握できてないらしい」
「アイツは迷子癖があるからな」
ミラージュが茶化すように言うが、アイアンハイドに睨まれ、やれやれと肩を竦める。
「双子とレッカーズとも連絡がついたが、場所が遠すぎてこれないようだ。……残りの連中とは、連絡がつかない。なんらかの理由で通信ができないのか、あるいは……」
ジャズが報告すると、オプティマスは途中で手を上げてそれを遮る。
「わかった。今は仲間たちの無事を信じよう」
オプティマスは、集まった仲間たちを見回す。数こそ少ないが頼れる戦士たちだ。
と、ジャズが発言する。
「オプティマス。まずは仲間たちを集めるべきだ」
「もちろんだ、ジャズ。しかし、その前に皆に話しておきたいことがある」
オプティマスは、オートボットたちにこれまでの経緯を話しだした。
* * *
「それじゃあ、もうディセプティコンと一戦やらかしたのか!? どうして俺を呼んでくれなかったんだ! その場に俺がいれば、ディセプティコンの奴らを細切れにしてやったってのに!」
「まあ、落ち着けって」
アイアンハイドが怒ったような声を出し、それをジャズが諌める。
「しかし、たしかに無茶をしたな。ボロボロじゃないか」
そう言ってジャズは上官の全身をスキャンした。
「ああ、ここの人々の修理のおかげで、だいぶ良くなったが、それでも本調子とは言い難いな」
イオンブラスターは使えるようになったものの……プラネテューヌの技術者たちが、イストワールに無断で修理していたのだ……エナジーブレードは右腕しか使えないし、運動機能は80%ほどといったところだ。
本調子には程遠い。
「せめて、ラチェットがいればな……」
ジャズが、ここにはいない仲間の名を口に出す。
ラチェットとは、オートボットの軍医であり、オプティマスにとっては古い仲間の一人だ。
彼がいれば、オプティマスの怪我も治せるはずだ。
しかし、オプティマスは首を横に振る。
「今いない者のことを言ってもしかたがない。問題は、今いるメンバーで、どうディセプティコンに対抗するかだ」
「ちょっと待ってくれ。ディセプティコンのクソどもを始末するのは良いとして、有機生命体と協力するってのは、納得がいかない」
ミラージュが口を挟むと、アイアンハイドも頷く。
「俺たちだけで十分じゃないか?」
「しかしな、アイアンハイド、ミラージュ。俺たちにとってこの世界は未知もいいとこだ。この世界の住人の協力を得られるなら、願ってもないことだぜ」
ジャズが冷静に言う。
それに対し、アイアンハイドは不承不承頷いたが、ミラージュは納得がいかないといった様子だ。
オプティマスは一つ排気すると、静かに話だした。
「私はこの世界で、取り返しのつかない過ちを犯してしまうかもしれなかった。この世界にようやく訪れた平和を破壊してしまうところだったのだ。しかし、私は幸運にも許しを得た」
オプティマスは仲間たちを見回し、続ける。
「そして知った。この世界に生きるものたちにも、我々と同じく慈しみの心があり、友情があるのだ。私は、私の信じる正義において、彼女たちを守らなければならない。……皆が反対したとしても、私一人でも」
その言葉に、オートボットたちがざわつく。
やがて、ジャズが一歩前に出た。
「やれやれ、こうなったらプラズマ嵐が来ようと意思を曲げないのがアンタだ。俺は付き合うぜ。どこまでもな」
そう言って、その場で踊るようにクルリと回ってみせる。
「それに、この世界も悪かない。特に音楽が最高だ!」
陽気なジャズに、オプティマスは思わず笑みを浮かべる。
彼には助けられてばかりだ。
続いてアイアンハイドが一歩進み出る。
「今まで俺は、アンタの命令に従ってきた。……これからもだ」
アイアンハイドは、自慢のキャノン砲を回転させる。
「早いとこ命令をくれ。俺のキャノン砲が火を噴きたがってるぜ」
オプティマスは力強く頷く。
アイアンハイドはいつだって頼りになる戦士だ。
そして、ミラージュが先に進み出た二人の横に並んだ。
「……言っとくが俺は、有機生命体と仲良しこよしなんて、できないね」
どこかふてくされたように言う。
「だが、ディセプティコンをスクラップに変えてやるのに必要なら、まあ、歩調を合わせてやるくらいはするさ。……アンタの命令だからな」
ミラージュのぶっきらぼうな言葉にオプティマスは笑みで応える。
「それで十分だとも」
ミラージュはまだ若い。
だからこそ、可能性を強く感じる。
最後にバンブルビーが、オプティマスの前に進み出た。
「『いまさら』『オイラの』『答えが必要かい?』」
オプティマスは首を横に振る。
バンブルビーは年少だが、だれよりもオプティマスを信頼しているのだ。逆もまたしかり。
オプティマスは、静かに頭を下げる。
「皆、ありがとう」
ジャズが慌ててそれを止める。
「おいおい! よしてくれよ、オプティマス! 司令官がそんなふうに頭を下げるもんじゃない!」
アイアンハイドも少し呆れたように排気してから、話題を振る。
「それで? その奥には俺たちの分のスペースは有るんだろうな?」
「あと、もちろんエネルギーもな。腹がペコペコだ」
ミラージュがそれに付け加える。
「そうだな、ではオートボット、中に入ってくれ」
オプティマスが軽く笑い、地下倉庫の中に入るよう促した。
地下倉庫に勤務する警備員や技術者たちは、突如現れた新たなロボットたちを前にして、
「ロボットが増えたぞ!」
「やったねタ○ちゃん!」
「やwめwれw」
という会話を繰り広げつつ、大いに喜び、オートボットたちを困惑させたのだった。
夜はまだ続く。
* * *
ここは、ディセプティコンが臨時基地としている廃村。
その一角にある一軒家。
朽ちた家々が並ぶなか、なんとか原型をとどめているここで、ディセプティコンに捕らえられたキセイジョウ・レイは生活していた。
なにせ、ディセプティコンたちにレイの世話をすると言う発想はない。
自分の面倒は自分で見るしかなかった。
幸か不幸か、レイは一人暮らしの長い身だ。掃除洗濯自炊くらいはできる。
加えて、井戸は枯れていなかったし、食糧はフレンジーが山林から小動物や野草を採って来てくれた。
なぜか、そう言ったものを口にするのに抵抗を感じなかったし、廃村に残された時代遅れの生活用品も使い方が分かった。
着替えも、廃村のあちこちから使えそうなのを見つけてきた。
彼女は快適とは言えないながらも、なんとか生活できているのであった。
「ふわぁ……」
レイは欠伸を一つしつつベッドを抜け出す。眠れないので、軽く散歩をすることにしたのだ。
民家の居間に置かれたソファーに陣取り、どうやって持ち込んだのかテレビを夢中で見ているフレンジーに一言断り、家を出ると、舗装されていない道を歩いていく。
ブラックアウトかグラインダーと思しい影が道の向こうを歩いているのが見えた。
途中、共生主もしくはその同型機と同じく警備任務についているらしいスコルポノックとすれ違った。
軽く手を振ると、鋏を振り返してくれた。
彼らはレイに手出しをしないようにメガトロンから命じられているが、無論、この村を逃げ出そうとすれば話は別だ。
村の中央広場につくと、礼拝堂から光が漏れているのが見えた。
「……?」
レイは、その光に吸い寄せられていく。
中を覗いて見ると、メガトロンが幾何学模様の球体の前に立っていた。
「もうすぐ、もうすぐだ。待っていろ……」
レイの気のせいだろうか。
ありえないと言っていい、どこか不器用な優しさを感じさせる声色だった。
レイはメガトロンに近づき、巨体を見上げると声をかけた。
「……いったい、それは何なんですか?」
そこで初めて、メガトロンは足元に近づいてきたレイに気が付いたようだった。
「貴様か。何の用だ?」
メガトロンの声色は、いつもの地獄から響いてくるような低いものになっていた。
質問に答える気などまったくないことが分かる。
「……ね、眠れなくて」
レイは自問する。
なんで、この恐ろしい怪物に話しかけてしまったのか。
この破壊大帝なる存在が、一片でも優しさを見せるはずがない。
「とっとと眠れ、貴様にも仕事をしてもらうのだからな」
それだけ言うと、メガトロンは球体に視線を戻す。
何やらフレンジーに仕事を言いつけ、それに自分を巻き込もうとしているのは知っていた。
無論、拒否権などないことも。
レイは何も言わず、その場を走り去ろうとしたが、メガトロンが球体から視線をそらさずに声を出した。
「これが、何か? と、聞いたな」
レイは振り返り、メガトロンを見上げた。
破壊大帝は、顔だけをレイの方に向けるとニヤリと笑う。
「これは……、希望だ」
「希望……」
レイは首を傾げる。
メガトロンには、あまりに似つかわしくない言葉だった。
しかし、そんなレイに気付かないのか、無視しているのかメガトロンは再び球体の方を向いて、もうレイの方を見なかった。
「さあ、さっさと眠るがいい。夜明けとともに、仕事に取り掛かるぞ」
レイは足早にその場を去る。
寝床への帰り道、またスコルポノックとすれ違った。
今度は向こうから鋏を振ってくれたが、振り返す余裕はなかった。
民家に帰りつき、まだテレビを見ているフレンジーにただいまを言うと、すばやくベッドにもぐりこむ。
ベッドの中で、レイは悩む。
メガトロンの命じる仕事をするということは、ディセプティコンに協力すると言うことだ。
それは嫌だったが、命は惜しいのだ。他にどうしろというのだ。
考えているうちに睡魔に襲われ、レイは眠りに落ちた。
夜明けが近づいていた。
TF的お約束 その5 言動が物騒なアイアンハイド。
と言うわけで、嵐の前の静けさな回でした。
作者的には、誰特なレイパート(=ディセプティコンパート)が受け入れてもらえているかが心配です。
次回こそ、さあ、戦いだ!(多分……)