超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION   作:投稿参謀

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休日を挟んだので、早く書けました。


第74話 ブロウルの災難 part2

「スタースクリーム、ブロウルを回収してこい」

「へ? ……何で俺が? んなのは、下っ端の仕事でしょうに」

 

 ディセプティコン秘密基地の司令部。

 メガトロンの命に、スタースクリームは疑問で返した。

 

「貴様が一番暇だからだ。サウンドウェーブは『仕込み』で忙しいし、ショックウェーブも研究が大詰めだからな。他の者もそれぞれ動いている。……いいから行ってこい!」

 

  *  *  *

 

 テスラはクマのぬいぐるみを抱いて、笑顔で町を歩いていた。

 今日も、友達といっしょに遊ぶからだ。

 

 一方で、テスラに抱えられたぬいぐるみ……色々あってこんな姿になってしまったブロウルは、どうしたもんかと悩んでいた。

 このままと言うワケにはいかないし、かといって逃げるのも難しそうだし心が痛むし……。

 

 そんなブロウルの内心は露知らず、ステラは鼻歌を歌いながら、スキップしている。

 よほど、友達と遊ぶのが楽しみなのだろう。

 

 と、人通りのない路地を通っていた時のこと。

 

 突然、テスラの眼前を塞ぐように黒いバンが停車した。

 バンの扉が開き、手が伸びてきたかと思うと、テスラの小さな体を車内に引きずりこんだ。

 

「きゃあ!」

 

 女神のような特殊な力を持たない平凡な少女であるテスラは、抵抗する間もなく車内に消え、扉が閉まると同時に車は走り去った。

 

 こうして、一人の少女が連れ浚われた。

 

 ……ぬいぐるみと化したブロウル諸共に。

 

 その少し先の路地から、一部始終を見ていた者がいた。

 

 金髪に青い目と、黄色と黒の子供服。

 テスラより、少し小さい少女だ。

 

 ピーシェである。

 

 先日からルウィー教会に遊びに来ていた彼女は、新しく出来た友達を迎えに来たのである。

 その矢先、先ほどの出来事を目撃した。

 何だかよく分からないが、テスラが悪者(多分)に誘拐されたことは、分かった。

 

「こりゃ、やばいな」

 

 そう漏らしたのは、ピーシェの後ろに置かれたモンスタートラック型のラジコンだ。

 ピーシェのお目付け役である元ディセプティコンのホィーリーだ。

 

「ピーシェ、早いトコ誰かに知らせたほうがいい!」

「うん!」

 

 ピーシェはホィーリーの言葉に頷く。

 彼女なりに、自分一人では友達を助けられないことを分かっていたからだ。

 すぐに人を呼ぶべく駆けだそうとするが、突然彼女の上に影が差した。

 見上げると、巨大な機械が建物の合間からこちらを見下ろしている。

 それが誰であるかを理解し、ピーシェは歓声を上げた。

 

「すたすく!」

「ああん? ブロウルの奴を探してるのに、何でお前らがいるんだ?」

 

 首を傾げつつスタースクリームは路地に降りてきた。

 

「よかった! すたすく、たいへんだよ! ともだちがさらわれたんだ!」

「ああ……ちょっと待て」

 

 要領を得ないピーシェに、スタースクリームは幼子の傍らのホィーリーに通信を飛ばす。

 

『どういう状況だ? 三行で言え』

『幼女誘拐案件。

 幼女はピーシェの友達。

 お願い、助けてあげて!

 ……って感じ』

『OK。把握した』

 

 ピーシェの願いを察し、スタースクリームは首を捻る。

 いつもなら、ピーシェの信用を維持するために助けに行ってもいいが、今はブロウルの回収を命じられた身だ。

 どうしたもんかと考えていると、ホィーリーから通信が飛んで来た。

 

『ついでにもう一つ。その幼女なんだけど、何とディセプティコンのパーソナルコンポーネントを持ってるぜ』

『……何だと!? そりゃ本当か?』

『ああ、スキャンしたから間違いない。どういう経緯か知らねえけどな』

 

 今パーソナルコンポーネントになっているとすれば、ブロウルしかいないだろう。

 パーソナルコンポーネントの反応を追えば、自ずとピーシェの友達の所に行きつくはずだ。

 

 またしても舞い込んだ厄介事に、スタースクリームは息を一つ吐く。

 

 どうやら、期待に満ちた目で見上げてくる幼子と利害が一致したらしい。

 

「はあッ……。しゃあねえ、俺がお友達を助けに行くから、お前は誰か助けを呼びにいきな。……俺のことは内緒な」

「! うん!」

 

  *  *  *

 

 ルウィーの郊外にある、工場跡。

 廃墟にしか見えないそこは、ハイドラによって即席の基地となっていた。

 

 その三階部分にある一室。

 手狭な部屋で打ちっ放しのコンクリートが寒々とした印象を与え、一角が窓になっている部屋だ。

 隅には二名のハイドラ兵が機関銃を手に立っていた。

 そこに置かれたパイプ椅子に、テスラの父、名をマークは座らされていた。

 仕事出た矢先、ハイドラによって拉致されたのだ。

 今のところ大した暴行は受けていない。

 憮然とした態度のマークだが、銃を持った相手に無理に抵抗するほど愚かではない。

 

 机を挟んでマークと反対側には、顔のない仮面の男、ハイドラヘッドが座っていた。

 

「では、我々に協力はできないと?」

「当たり前だ。人を拉致するような奴らの言うことなんか聞けるか」

 

 憮然と返され、ハイドラヘッドは傍らの資料を手に持つ。

 

「……リーンボックス国立大学工学科を主席で卒業。その後、国内屈指の大企業に就職し、主にロボット工学の分野で活躍……立派な経歴だ。給料も良かったし、将来も嘱望されていたはず。しかし、あなたは会社を辞めてルウィーに移住。ジャンク処理屋に身をやつした」

「俺の勝手だ。……あの企業の拝金主義と利益優先には嫌気が刺してたんでね」

「それと、亡くなった奥さんのためでもある。ルウィーは奥さんの故郷だそうですね」

 

 マークはピクリと眉を吊り上げるが、ハイドラヘッドは構わず続ける。

 

「飽きれるほどセンチメンタルな理由だ。……娘さんも、急に見知らぬ土地に移住したら大変でしょうに」

「…………」

 

 引っ越しを決意した理由を遠回しに馬鹿にされ、マークは目に見えて不機嫌になる。

 

「まあ、それはどうでもいい。問題はあなたが娘さんを愛していると言うことだ」

 

 そこでハイドラヘッドが指をパチリと鳴らすと、部屋の扉が開いて一人の兵士が、女の子の手を強引に引いて来た。

 

「お父さん!」

「テスラ!!」

 

 それが自分の愛娘であると分かるや、マークは立ち上がって駆け寄ろうとするが、兵士たちが肩を掴んで無理やり椅子に座らせる。

 

「貴様ら娘を放せ! 娘は関係ないだろう!!」

「ありますよ。あなたの娘じゃあないですか」

 

 ハイドラヘッドは喚くマークに冷たく言って立ち上がり、クマのぬいぐるみを抱えて怯えているテスラの近くまで歩いていく。

 

「愛とは偉大だが厄介な感情だ。愛のために人は戦い、愛する者のためなら平気で他者を傷つける。そして、愛する者のためなら考えを曲げる」

 

 言葉を続けつつ、ハイドラヘッドは懐から拳銃を取り出しテスラに向ける。

 

「もう、お分かりですね? 我々に協力してくれなければ、娘さんが傷つきますよ」

「貴様……!」

「ああ、一発で殺したりしないのでご安心を。まずは足、次に腕です。それでも言うことを聞いてくれないなら、顔にでも傷をつけますか。それとも、子供に言えないようなことをしてもいい。……まず10秒待ちましょう。10、9……」

「ま、待て! 言うことを聞く! だから娘に手を出さないでくれ!!」

「……早いですね。こういう時は、ギリギリまで貯めるのがお約束でしょう」

 

 アッと言う間に音を上げたマークに、ハイドラヘッドは呆れた声を出す。

 しかし、狙いをテスラから外ないまま銃の撃鉄を上げる。

 

「お、おい、やめろ! 協力すると言っただろう!」

「ああ、これは念の為ですよ。『どうせタダの脅しだったんだろう』なんて考えないでもらうためのね」

 

 悲鳴染みた声を上げるマークだが、ハイドラヘッドは躊躇うことなく、引き金を引いた。

 

 その瞬間、テスラの抱えていたクマのぬいぐるみ……ブロウルが腕の中から飛び出し、射線に割り込んだ。

 

 弾丸はブロウルの布の肌と仲の綿を抉り、金属フレームに命中した所で止まった。

 

「は?」

 

 有り得ない事態に一瞬、ハイドラヘッドは硬直した。

 そして、その硬直が決定的な結果を招いた。

 

「うおおお!」

 

 ブロウルは、そのままハイドラヘッドに体当たりを敢行。

 ハイドラヘッドは、ついでに兵士を一人巻き込んで吹き飛んでいき、窓を突き破って下に落ちて行った。

 

 もう一人の兵士が反応するより早く、ブロウルは素早く掴みかかって銃を奪い取り、兵士の腹を蹴り飛ばす。

 最後にテスラを掴んでいる兵士に向けて、銃口を向ける。

 

「その子を離しな。……ガキの前で殺しはしたくねえ」

「ひ、ひぃいい……」

 

 兵士はテスラを置いて逃げだした。

 唖然とするマークにブロウルは素早く声をかける。

 

「おい! 早く逃げるぞ!」

「いったい何がどうなって……」

「詳しい話は後だ! 早く立て!」

 

 テスラにも逃げるように促そうとするブロウルだったが、テスラは目を回していた。

 

「きゅう……」

「まったく世話の焼ける……いや、ちょうどいいか」

 

 泣いたり騒がれたりするよりはマシだ。

 

「俺が先導するから、テメエはテスラを抱いて着いてきな!」

「あ、ああ……」

 

 何が何だか分からないが、とにかく逃げることが先と、マークは愛娘の小さな体を抱き上げる。

 ぬいぐるみと親子は、そのまま部屋の外に出て行った。

 

  *  *  *

 

 警報が鳴り響く中、愛娘を抱えて走る父親。

 機関銃を構えて先導するクマのぬいぐるみ。

 はたから見ればシュールだが、本人たちは大真面目だ。

 

「いい加減教えてくれないか? あんたはいったい……」

「…………アンタが、このクマの体に俺のこと組み込んだんだよ」

「あの立方体か」

 

 すぐに思い当たり、マークは頭を抱えたくなる。

 どうやら、軽い気持ちで組み込んだパーツが思わぬ事態を招いたようだ。

 それが結果的にテスラを助けたのだから、世の中分からないものだ。

 

「……どうして助けてくれたんだ?」

「こっちも体をもらったからな。借りは返す主義なんだ。ここの連中には恨みもあるしな」

「しかし、そんな体でよくあんなパワーが出せたな。作った俺が言うのも何だが、所詮子供の玩具だぞ。それ」

「リミッターを解除したからな。おかげでこの体は長くは持たん」

 

 ぶっきらぼうに言いつつ、ブロウルは曲がり角から敵がいないか探る。

 ブロウルが首を回すとギシギシと音がした。

 さすがにこの体で戦い続けるのには限界がある。

 

「くっそ。本当の体さえありゃあな……」

「それは?」

「ああ、ここの連中に壊された……っていうか俺が壊して逃げたんだがな」

 

 それを聞いて、マークは難しい顔になる。

 だが、腕の中で気を失っているテスラの頭を撫でてから、意を決した。

 

「それなら、この先の格納庫にそれっぽいのがあるのを見た」

「そいつは……」

 

 マークの言葉を、ブロウルは訝しむ。

 

 もし、それが自分の体ならばマークは自分がディセプティコンであることを知っていることになる。

 

 疑問に答えるように、マークは不敵に……本人はそうしようと思って……笑った。

 

「娘を助けてくれたからな。今は信じるよ」

「……好きにしな」

 

  *  *  *

 

 マークに案内され格納庫……と言うか、大きな倉庫を格納庫として使っている場所にやってきた親子と一体。(一匹?)

 

 そこには、背中に副砲、両肩にミサイルポッド、右腕に四連バルカン、左腕にガトリングと接近戦用の爪、そして腰にマウントされた主砲。

 全身武器のディセプティコン、ブロウルが佇んでいた。

 

 正確には、頭脳(ブレイン)(スパーク)のない、正しくブロウルの抜け殻だ。

 

「おお! マイボディ! これさえありゃ、100ディセプティコン力よ!!」

 

 さっそく自身の体に駆け寄ろうとするブロウル(クマ)だったが、その瞬間声が響いた。

 

『ようこそ! 待っていたよ!』

 

 突然、天井が開き、そこから攻撃ヘリが悠然と降りてくる。

 防弾ガラス張りの丸いキャノピーが縦列配置され、コクピットの下に機銃、翼の下にミサイルポッドが配置されているのが特徴的な、重武装重装甲の攻撃ヘリである。

 

『さっきのは、さすがに痛かったよ。……しかし、もう逃げられんぞ』

「その声は、あのノッペラボウか。あの高さから落ちて平気とは、頑丈な奴だぜ」

 

 聞こえてくるのは、ハイドラヘッドの声だ。

 ブロウルは冷静に銃口をヘリに向けるが、どこからか現れた兵士たちが周りを取り囲む。

 今回の兵士たちは、赤い丸型ゴーグルとガスマスクのようなフェイスガードが特徴的な強化服で防御を固め、重機関銃やロケット砲と言った重火器を装備している。

 さらに機械の塊に逆関節の脚と大型機銃になっている腕を生やした無人兵器も数台いる。

 

 その物々しい布陣に、ブロウルは呆れていた。

 

「クマ一匹と民間人二人に大袈裟だな、おい」

『油断できる相手でもないようだからね。……さて、お約束だが大人しく投降してもらおう』

「………チッ」

 

 ここで逆らえば、自分はともかくマークとテスラに確実に害が及ぶ。

 仕方なく、ブロウルは機関銃を投げ捨てた。

 

『よろしい。……捕らえろ』

 

 ハイドラヘッドの命に何人かの兵士が進み出る。

 

 さしもに万事休すか。

 

『傷つけるなよ。娘はともかく父親には仕事がある。そっちのクマ君も、たっぷり調べて……何だ、どうした? ……未確認の飛行物体がこっちに向かってる?』

 

 何処からか通信を受けたらしいハイドラヘッドが訝しげな声を出す。

 

『反応は? ……ディセプティコンだと!? 位置は……直上!?』

 

 瞬間、何かが猛スピードで真上から突っ込んできて、地面に『着地』した。

 

 『墜落』ではない。『着地』だ。

 

 咄嗟にブロウルはマークとテスラを地面に押し倒した。

 その衝撃に煽られ、兵士たちが吹き飛ばされる。

 攻撃ヘリも無人兵器も体制を崩していた。

 

 着地した何者かは、片膝を突いた姿勢からゆっくりと立ち上がった。

 

 それは逆三角形のフォルムと猛禽を思わせる逆関節の脚を持ち、背には翼があるトランスフォーマー。

 

 ディセプティコンの航空参謀、スタースクリームだ!!

 

 スタースクリームは、辺りを見回し倒れているブロウルに視線を止めた。

 

「この反応はブロウルか? 何たって、そんな姿に」

「ぐお……スタースクリームか。話は後にしてくれや。とりあえず、そこらへんの馬鹿どもの相手を頼む」

「ケッ! 何たって俺がお前の頼みを……」

 

 そこまで言った所で、ブロウルの傍らでこちらを見上げている男性と、その男性に抱きかかえられている少女に気が付いた。

 あの少女がピーシェの言っていた友達とやらだろう。

 

「チッ! しゃあねえ! ……で、何だテメエらは?」

『我々はハイドラ。このゲイムギョウ界に革命を起こす者たちだよ。お初にお目にかかる、ディセプティコンの航空参謀殿』

 

 体制を立て直した戦闘ヘリから聞こえてくるハイドラヘッドの慇懃な言葉に、スタースクリームは興味なさげに鼻を鳴らすような音を出す。

 

「ああ、お前らがアレか。馬鹿ヘリ兄弟にちょっかい出したとか言う」

『ふふふ、仲間を傷つけられたことを怒っているのかね? そっちのクマくんを助けに来たようだし、ディセプティコンと言うのは意外と情に厚いんだな』

「はッ! ヘリ兄弟がどうなろうがブロウルが野垂れ死のうが、知ったこっちゃないね!」

 

 吐き捨てるように言うスタースクリーム。

 彼にとって、大切なのは自分自身のみであり、他は全て敵か駒かゴミかだ。

 

 まあ、あの小娘(ピーシェ)に信用し続けてもらうには、こういうことも必要だ。

 

『ちょうどいい。君も捕らえて、サンプルにするとしよう!』

「ほざけ!」

 

 吼えるや、スタースクリームは右腕の機銃をヘリに向けて撃つ。

 ヘリは素早く上昇してそれをよけるが、立て直した兵士や無人兵器が発砲する。

 スタースクリームはブースターを吹かして飛び上がり、両腕をミサイル砲に変形させて発射。

 よける間もなく、無人兵器数台が爆散。

 さらにスタースクリームは機銃を掃射して、兵士たちを薙ぎ払う。

 

「これで終わりか? 大したことねえな」

『まだまだこれからだよ』

 

 ハイドラヘッドの言葉の通り、さらに大量の兵士と無人兵器、そして攻撃ヘリが現れる。

 だがスタースクリームは怯むことなく好戦的に笑む。

 

「ハッ! この程度かよ!」

 

 銃弾が飛び交い、爆音が鳴り響く。

 マークはテスラを抱きしめ物陰で小さくなっていた。

 ブロウルは機関銃を構えたまま、二人に視線をやった。

 

「おい。今の内に俺は体に戻る。今ならスタースクリームが奴らを引きつけてくれてるからな」

 

 ブロウルはタイミングを見計らって物陰から飛び出し、疾風のような速さで自分の体の足元まで走る。

 そのまま体をよじ登って、胸のあたりまで行くと、背中のチャックを開けた。

 ぬいぐるみを脱いで、金属のフレームだけになったブロウルは胴体に組み込まれたパーソナルコンポーネントから信号を送る。

 信号を受けたブロウルの体は胸の装甲を開き、そこからマニピュレーターを伸ばして自分の魂と頭脳からなる立方体を掴む。

 外れた金属フレームが地面に落ち、ブロウルのパーソナルコンポーネントは胸の中に収納された。

 

 パーソナルコンポーネントはすぐさま各パーツに解れて、それぞれの定位置に戻る。

 

 トランスフォームコグ・・・問題なし

 

 ブレインサーキット・・・・問題なし

 

 スパーク・・・・・・・・・問題なし

 

 戦車型ディセプティコンのオプティックに赤い光が灯り、四肢に力を込めて動き出す。

 

 砲撃兵ブロウルの復活だ。

 

 ゴキゴキと首と肩を回し、ブロウルは自分の体にスキャンをかける。

 弾薬は抜かれているし、各種パーツの結合が甘いが、特に問題はない。

 

「さてとだ。俺の体を直してくれて、ありがとうよ。……お礼はタップリさせてもらうぜ!!」

 

 手始めとばかりに、こちらに反応して武器を向けてきた無人兵器を左腕の爪で突き刺す。

 無人兵器の装甲が紙切れのように破れ、ガラクタと化す。

 異変に気付いた兵士たちが重機関銃やロケット砲を撃ってくるが、極めて頑丈なブロウルには大したダメージを与えられない。

 そこらへんのコンテナを持ち上げ、兵士たちに向けて投げつけるブロウル。

 いかに強化服で身を固めているとはいえ、自分より大きなコンテナに潰されては一たまりもない。

 

『クッ……さすがに2体相手はキツイか……、ハイドラ撤収だ!!』

 

 戦況不利と見たハイドラヘッドは、部下たちに撤退を指示する。

 兵士たちすぐさま走り去り、ヘリは次々と離脱していく。

 

 あえて追う意味を感じず、スタースクリームとブロウルは戦闘態勢を解いた。

 

 危険が去ったことが分かって、マークが物陰から出てくる。

 マークはブロウルが脱ぎ捨てたクマのぬいぐるみを拾い上げると、その中身が収まっているディセプティコンを見上げた。

 

「……いっちまうのか?」

「ああ。ディセプティコンには、ディセプティコンの居場所がある。……テスラには、よろしく言っといてくれ」

 

 マークはテスラの頭を撫でた。

 確かに、このディセプティコンはゲイムギョウ界の敵かもしれないが、それでも娘の友達になってくれた上、命を救ってくれたのだ。

 だから、かける言葉は決まっていた。

 

「ありがとう」

「…………達者でな」

 

  *  *  *

 

 自室のベッドの中でテスラは目を覚ました。

 

 上体を起こして首を傾げる。窓の外を見ると、もう夜だった。

 何だか、怖い夢を見ていた気がする。

 

「う~ん、変な夢だった~。そうだ、あの子は?」

 

 起き上がって友達の姿を探す。

 

 彼はテーブルの上に座っていた。魔法で動いて喋る不思議なクマのぬいぐるみ。

 テスラは駆け寄って、彼を抱き上げる。

 

「ねえ、あなた! 怖い夢を見たの! ……どうしたの? お話しないの?」

 

 話しかけるテスラだったが、クマはウンともスンとも言わない。

 テスラは不安になってきた。

 

「ねえ……あれ、これって?」

 

 クマの座っていた場所に、折りたたまれた紙が置かれていた。

 ぬいぐるみを横に置き、テスラはその手紙を持ち開いて、読み始めた。

 

 そこには、ヘタクソな字でこう書かれていた。

 

『てすらへ。

 おれはもう、うごくことができなくなりそうだ。かんぜんにうごけなくなるまえに、てがみをかいておく。

 おれがいなくなって、さみしくなるかもしれないけど、だいじょうぶだ。

 

 もう、てすらにはともだちもいる。

 ゆうきをもって、みんなにはなしかけるようにすれば、もっとたくさん、ともだちができるぞ!

 

 それに、おとうさんもいる。

 おとうさんはきみのことを、とてもたいせつにおもっている。

 だから、てすらもおとうさんをたいせつにするんだ。

 

 それじゃあ、げんきでな!

 

 きみのいちばんのともだちより』

 

 読みながら、テスラは嗚咽を漏らしていた。

 手紙をゆっくりと置き、傍らのクマのぬいぐるみを見る。

 

 テスラは、魔法が解けてしまった友達をギュっと抱きしめるのだった。

 

  *  *  *

 

 ルウィーの雪深い森林の中を、近くに停泊している空中戦艦に向かってスタースクリームとブロウルは進んでいた。

 

 あれだけ暴れたのだ。

 教会の連中も気づくだろう。

 

「あ~、スタースクリームよう、礼を言わせてくれ。今回は助かったぜ……」

 

 ブロウルは、先を行くスタースクリームの背に声をかけた。

 スタースクリームは、少し振り返り、興味なさげに鼻を鳴らすような音を出した。

 

「テメエを回収してこいっつう、メガトロンの命令だったからな」

「それもだが、俺が礼を言いたいのは、テスラへのアフターケアとかの方だ」

 

 あの少女へ手紙を残すことや、その大まかな内容を考えたのは、スタースクリームだ。

 何分、策謀には疎いブロウルには、思いつかない部分だった。

 

「お前のことだから、消しちまえとか言い出すんじゃないかと思ってたぜ」

「……色々あるんだよ、こっちにも」

 

 あの親子を始末すると、ピーシェへの言い訳が面倒だ。

 それ以上の他意はない。

 

「こいつは貸しだぞ。必ず返せよ」

「へいへい。言われずとも、俺は借りはキッチリ返す主義だ」

 

 二体のディセプティコンは、雪の中を歩いて行くのだった。

 

  *  *  *

 

 暗いどこか。

 

 立っているハイドラヘッドの正面の空中に、ディスプレイが浮かんでいる。

 

『またしても失敗したようだが、これで何度目かね? 人造トランスフォーマー計画も上手くいっていないようだが。我が社としても、これ以上の出資はさけたいのだがね』

「あなたの寄越した科学者にも問題があると思うのですが? 彼らは未だにトランスフォーマーが生命体であることを認めないのですよ」

 

 ディスプレイから聞こえてくる言葉に、ハイドラヘッドは皮肉っぽく肩をすくめる。

 

『……とにかく、そろそろ結果を見せてもらおう。できないのなら、分かっているね?』

「無論」

『君の代わりはいくらでもいるのだからな。それを肝に銘じておきたまえ』

 

 ディスプレイが消え、部屋に明かりが点く。

 ハイドラヘッドはヤレヤレと首を振ると、後ろに振り向いた。

 

 影になっている場所に、人影が立っていた。体格から女性だと分かる。

 

「それで、我々に協力して下さると?」

「ああ……いいかげん、連中にこき使われるのも飽き飽きなんでなぁ。もちろん、役には立つぞ」

 

 ハイドラヘッドの問いに、人影は口角を吊り上げた。

 

「ディセプティコンの科学者が作った人造トランスフォーマーの情報。かつてラステイションの主戦派が建艦した空中戦艦ヘブンズゲートについての知識。……それに、オプティマス・プライムの詳細なデータ。私の持っている(カード)は、どれも魅力的だろう?」

 

 女性の声に満足したのか、ハイドラヘッドはくぐもった笑いを漏らす。

 それに応えるように、人影は照明の下に出てくる。

 

 黒衣にトンガリ帽子。

 薄紫の肌に尖った耳。

 そしてキツメの容貌に濃い化粧。

 まるで魔女のような、異様な風体の女性だった。

 

「クックック……。いいでしょう、ハイドラにようこそ。歓迎しますよ…………マジェコンヌ」




そんなワケで、ブロウルの話でした。

解説することもないんで、(無駄にこってる)ハイドラの兵器の話でも。

攻撃ヘリ『ブギーマン』
実在の攻撃ヘリMi-24Aハインドがモデル。
王蟲の目みたいなキャノピーがチャームポイント。
特徴的な見た目ゆえか、アニメやゲームでは敵役として出てくることが多い。
メタルギアソリッドでリキッド・スネークが乗り回してるアレ。

パワードスーツ『ハイドラ・ギア』
かの押井守の作品群ケルベロス・サーガに出てくるプロテクト・ギア……を、モデルにしたと思しい、某大統領ゲーに登場する雑魚キャラがモチーフ。なのでヤラレ役。
何にせよナチスドイツ臭あふれるデザインは必見。

無人兵器『シゲミ』
ロボコップに出てくるポンコツロボット、ED-209がモデル。
分かんない人は、ニンジャスレイヤーのモーターヤブとかを思い浮かべてもらえばだいたい合ってます。(名前もそれが元)

多分、作中でこれらの名称が出てくることはありません。

次回は……物語的には重要だけど、あんまり需要はなさそうな話を予定しています。

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