超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION   作:投稿参謀

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今回の話は、前半はオプティマスと女神たちに、後半はディセプティコンにスポットを当てた話になっています。

※11月13日 重大なミスを発見し、一部改訂いたしました。申し訳ございません。

※2015年12月20日 改稿


第7話 責任からは逃げられない

 時間は少しさかのぼる。

 

 オプティマスは女神たちを両腕に抱えて走っていた。

 仮にビークルモードに変形しても、女神たちが乗り込んでいる時間がない。

 正直かなり揺れるが背に腹は代えられない。

 直上から飛来した紫色の光弾がオプティマスの背後、さっきスタースクリームが開けた大穴に飛び込む。

 すると爆音とともに油田が大きく揺れ、次いであちこちから爆発音が聞こえてくる。

 ディセプティコンたちが大量に奪っていったとはいえ、油田のそこかしこには、まだオイルが残っているはずだ。

 フュージョンカノンの起こした爆発が、油田中でそれに引火して誘爆を引き起こしているのだ。

 オプティマスは、傾き、崩れ、沈み込んでいく足場を、それでも女神たちを放すことなく走って行き、そのまま油田の端から大きくジャンプした。

 

 その後ろで一際大きな爆発が起こり、油田は完全に炎に包まれた。

 

 ジャンプしたオプティマスは、空中で体を捻り海面に対して背を向ける。

 しかし、落ちていく先にあるのは海面ではない。

 

 油田と本土を連絡する海上道路の上だ。

 

 轟音とともに彼の金属の巨体とアスファルトの路面が衝突し、火花が散る。

 だがなんとか着地できた。

 オプティマスが自らの腕の中の女神たちを見ると、いつの間にかネプテューヌの変身も解けている。

 軽くスキャンしてみたが、命に別状はないようだ。

 無論のこと、彼女たちが無事なのは強靭な肉体を持つ女神だからこそで、普通の人間なら、これほどのアクションには耐えられないだろう。

 オプティマスは四人の女神をそっと路面に降ろし、ホッと排気する。

 そして目元を引き締め、周囲を警戒する。

 

 ……ディセプティコンは去ったようだ。

 

 メガトロンにしては詰めの甘いことだ。

 あるいは、ディセプティコンはディセプティコンで勝手の違うこの世界に戸惑っているのかも知れない。

 とにかく助かった。正直、今攻撃されたら打つ手がなかったのだ。

 

「当面の危機は去ったようだ。大丈夫か、みんな?」

 

 オプティマスが改めて女神たちを見ると、彼女たちは全員が目を回していた。

 無理もない。戦闘でのダメージに加え、オプティマスに抱えられての移動は心身に負担をかけるものだったろうから。

 

 ――さて、どうやってプラネテューヌに戻ろうか。

 

 まさか、また彼女たちを抱えて歩いていくわけにもいかない。

 しかし自分では介抱することもできない。

 

「どうしたものか…… ん? あれは……」

 

 悩んでいたオプティマスは、海上道路の上を何かが走ってくるのをセンサーで探知し、そちらを見る。

 それは黄色いスポーツカーだった。

 

  *  *  * 

 

「『うわ~ん!』『司令かぁぁん!!』『会いたかったよ~!!』」

 

 黄色いスポーツカーはオプティマスの正面に止まるやいなや、乗って来たらしい少女を降ろすと、変形して小柄な……オプティマスに比べてだが……ロボットに変形した。

 

 どこか丸っこい造形と、円らなオプティック。そして背中に配置されたドアが羽のようにパタパタと揺れている。

 

 ネプテューヌの妹、ネプギアが中古車ショップで出会ったロボット、バンブルビーである。

 

 オプティマスと旧知の間柄であるこのトランスフォーマーは、オプティックからウォッシャー液を流しながら、赤と青のボディに泣きついた。

 オプティマスはその頭を軽く撫でてやる。

 

「バンブルビー、よく無事でいてくれた」

「『司令官』『こそ』『よくぞご無事で……』」

 

 再会を喜ぶ二名のトランスフォーマー。

 その足元では、さっきバンブルビーから降りてきた少女……ネプギアが、姉を助け起こしていた。

 

「お姉ちゃん! 大丈夫!? お姉ぇぇぇちゃぁぁん!!」

「だ、大丈夫だよ、ネプギア。少し気持ち悪いだけ……」

 

 ネプテューヌは意識を取り戻したようだが、まだ顔が青い。

 だがネプテューヌはだんだん元気を取り戻してきたらしく、立ち上がった。

 

「あちこち痛いけど、とりあえず大丈夫。ところでネプギア、そのロボットはどちらさま? ネプギアの友達? なんか、オプっちと仲良さそうだけど」

「ああ、そうだった。お姉ちゃん、この子はバンブルビーって言うの。友達……でいいのかな? オプティマスさんの仲間なんだって」

 

 ネプギアが、やたらキラキラとした目でバンブルビーを紹介する。

 ネプテューヌ以外の三人も何とか起き上がったが、気分が悪そうだ。

 

「す、すごいアクションでしたわね……」

「正直、二度としたくないわ……」

 

 ベールとブランが、それぞれ呟く。

 ノワールは黙ったままだ。

 

「…………」

 

 そんなノワールの前に、いつの間にかネプテューヌが回り込み、明るくたずねる。

 

「あれ~、ノワール? どうしたの?」

「……まるで歯が立たなかった」

 

 ノワールはギュッと拳を握りしめる。

 

「なんなのよ! あのメガトロンとかいう奴!」

 

 黒の女神は誰にともなく吼える。

 ネプテューヌはそれでも、明るく話しかけた。

 

「まあ、助かったんだし、あんまり気にしないで……」

「気にするわよ! 私たちは女神、国を護るのが私たちの使命なのよ! それなのに……」

 

 ノワールは、ほとんど海に沈み、焼け焦げた鉄くずと化した海底油田を見やる。

 

「護れなかった! 私の国の一部だったのに! なのに、こんな…… これじゃあ私、女神失格よ……」

 

 その目元からポロポロと涙がこぼれ、大きかった声はだんだんとしぼんでいく。

 

「ノワール……」

 

 ネプテューヌは言葉を失った。

 

 こんなノワールは初めてだ。

 

 勝気で自信満々な彼女が、力無くすすり泣いている。

 いつもなら、からかうところだが、そんな気にはなれなかった。

 ベールとブラン、ネプギアもどう言っていいのか分からない。

 だが、それでも言葉をかける者がいた。

 

「敗北してなお、命永らえたものは幸運だ」

 

 それは、知己との思いがけない再会を喜んでいた、赤と青の機械巨人、オプティマス・プライムだった。

 

「なぜなら、敗北は勝利よりも多くのことを学ぶことができる。そしてそれは、次の戦いと、その先にある勝利の糧となるのだ」

 

 ノワールが、キッとオプティマスを睨みつける。

 オプティマスは黙ってそれを受け止めた。

 

「……あなたに、なにが分かるの? 私が…… 女神が、どれだけの責任を背負っているか」

「分からないとも。だが君が立ち直らなければならないのは、分かる。君が背負う、女神としての責任のために」

 

 ノワールは少しの間、オプティマスを睨んでいたが、やがてフッと薄く笑った。

 

「そうね。いつまでも落ち込んでいるなんて、私らしくないわ! 次は、必ずあいつらに目にもの見せてやるわ!」

 

 涙を拭い、努めて元気な声を出す。

 そんなノワールを見て、ネプテューヌも笑みを浮かべた。

 

「いや~、いつものノワールに戻って良かったよ! 正直、シリアス度数が高すぎて息苦しかったんだよね! ほら、そういうのって、わたしのキャラじゃないし!」

 

 彼女もまた、いつもの調子を取り戻してきたようだ。

 

「じゃあ、わたしは、あのアイスクリームだかなんだかって奴な。アイツにはわたしの屈辱を百倍返しにしてやる」

 

 ブランも少し荒い口調で宣言する。

 

「あら、それはわたくしの仕事ですわ」

 

 ベールも悪戯っぽく微笑む。

 

「お姉ちゃん、皆さん、良かった……」

 

 ネプギアはホッとしていた。

バンブルビーを伴ってプラネタワーに帰ってみれば、姉たちはオプティマスとともに戦いに行ったと言うではないか。

 それを聞いた瞬間、飛び出して行こうとするバンブルビーに半ば無理やり乗り込み、ここまで付いて来たのだ。

 そして目的地に着いてみれば、酷い有様の油田と、ボロボロの姉たち。

 しかし、みんな無事であり、ノワールも立ち直ってくれたようだ。

 バンブルビーもオプティマスと再会できて喜んでいるようだし、本当に良かった。

 

「ここでこうしてるのもナンだし、とりあえず、一度プラネテューヌに行かない? みんなの怪我の手当てもしたいし」

 

 ネプテューヌが、珍しくまともな提案をしてきた。

 

「まあ、ここからだと一番近いわね…… それに、正直体中痛くてしかたがないわ」

 

 ブランがやんわりと賛成する。

 

「そうですわね。それに、どうやらオプティマスさんからは、いろいろと聞かなければならないようですし」

 

「そうね、ディセプティコンのこと、あなたたちのこと、洗いざらい全部ね……」

 

 ベールとノワールはオプティマスを見上げた。

 ネプテューヌとブラン、ネプギアも釣られて見上げた。

 バンブルビーは「どうする?」と視線で尋ねる。

 

「そうだな。全て話したほうが良いだろう」

 

 オプティマスは破壊された油田の方を見た。

 

「すでに、君たちも当事者なのだから」

 

  *  *  *

 

 プラネテューヌの某所、人の立ち入らぬ山中に、もう誰も住んでいない廃村があった。

 深い山と森に囲まれ、朽ちかけた家々が並ぶ。

 かつては栄えていたであろうが、今となっては不釣り合いに巨大な聖堂だけが、かつての栄光を忍ばせた。

 そんな幽霊か魔物以外に用のなさそうなこの村に、最近奇妙なものたちが住み着いていた。

 

 それを示すがごとく、村の各所に配置された奇妙な機械。

 

 何故か礼拝堂の横に不自然に停められた、ブルドーザー。

 

 そう、この廃村こそがゲイムギョウ界に置ける、ディセプティコンの臨時基地なのである。

 

  *  *  *

 

 廃村の上空に全部で四つの影が飛来した。

 うち二つは巨大なヘリ、一つはステルス戦闘機、最後の一つはのこの世界で造られたとは思えない異様なジェット機である。

 言う間でもなく、ブラックアウトとグラインダー、スタースクリーム、そしてメガトロンである。

 ブラックアウトとグラインダーは、ヘリの姿のまま村の中央広場に着陸し、メガトロンとスタースクリームはロボットモードに変形して着地した。

 いつの間にかブラックアウトから分離したスコルポノックが、主人の貨物スペースからせっせとオイル入りのタンクを降ろしていく。

 広場は、いまやそこかしこに機械が設置され、電子の要塞と化していた。

 

「帰ったぞ」

 

 メガトロンの言葉があたりに響くと、用途不明の機械の上に置かれたCDラジカセと顕微鏡が動きだす。

 それらはギゴガゴと音を立て、それぞれ人間の子供ほどの、青い四つのオプティックに異様に細長い体躯のトランスフォーマーと、それよりもさらに小さい昆虫のようなトランスフォーマーに変形する。

 

「お帰りなさいませ! メガトロン様!」

「お帰りなさいませ! お怪我はございませんか?」

 

 二体の小型ディセプティコン。フレンジーとドクター・スカルペルは口々に言う。

 メガトロンは無言で、自分の後ろにいるスタースクリームを顎で指した。

 するとドクターがそちらにカサカサと走って行き、航空参謀の体によじ登りだした。

 

「ほうほう、こいつは重傷だ。特に頭! ブレインサーキットが使い物になりませんな! ちゃっちゃと交換しましょう!」

「馬鹿言ってないで、俺の腕を直せ! 叩き潰されてえのか!」

 

 スタースクリームががなり立てるが、ドクターは意に介さず、黙ってスタースクリームの腕に移動する。

 

「おいおい、こんなに無理やりくっつけやがって! これじゃあ、なにもしなかった方がマシってもんだぜ!」

 

 腕の接合部分に纏わりつき、なにやら作業をするドクター。

 スタースクリームは、時折走る痛みに顔を顰める。

 

「……ちゃんと直せよ」

「あたりまえだろうが! 俺を誰だと思ってやがる! 前より調子良くしてやらぁ!」

 

 そんなやり取りをするスタースクリームとドクターを置いておいて、メガトロンはフレンジーの方に視線をやる。

 

「留守中、なにか不具合はあったか?」

「いえいえ、万事平穏そのもの! 退屈でしかたありませんでしたぜ!」

「あの女は、どうだ?」

「レイちゃんですか? それなら……」

 

 大袈裟な身振りを交えて報告していたフレンジーが機械類の隙間を見ると、そこには青みがかった長い髪と、角のような飾り、眼鏡の女性が膝を抱えて座り込んでいた。

 すすり泣きながら、意味のわからない言葉を呟いている。

 それは、反女神を掲げる市民運動家、キセイジョウ・レイだった。

 

「ずっと、あの調子なんで」

「フンッ! いつまでもウジウジと、情けの無い」

 

 不機嫌そうにメガトロンが言えば、レイはビクッと肩を震わせる。

そして小さな声で反論する。

 

「あ、あんな、あんなことされたら、誰だって……。うぅ、もうお嫁に行けない……」

 

 思い出しただけでも身震いする。

 彼女はメガトロンと遭遇したあと、彼によって拉致されたのだ。

 メガトロンは彼女をエイリアンジェットの僅かな隙間に押し込み、大空を超高速で飛び回ったあと、部下の発する信号を感知してこの村に降り立った。

 そこで待っていたのが、このフレンジーとドクターだ。

 先んじて合流していた二体は臨時基地として使えそうな場所を見繕い、そこで信号を発して仲間を集めていたのだ。

 

 まさか最初にやってきたのが、主君であるメガトロンだとは思いもよらなかったが。

 

 そこでレイを待っていたのは、解放ではなくさらなる責め苦だった。

 この見知らぬ世界の情報を欲したメガトロンは、ドクターに命じてレイから情報を絞り取らせた。

 ドクターは半有機の軟体動物のような器具をレイの口に突っ込み、レイの脳から直接情報を得ようとした。

 だがここで問題が生じた。レイの記憶には不自然なロックがかかっており、碌な情報を引出せなかったのである。

 そこでドクターは趣味と実益を兼ねて彼女を解剖しようとしたが、メガトロンが待ったをかけた。

 何故、有機生命体を蔑視するメガトロンがレイの命を奪わなかったのか。

 それはフレンジーとドクターには分からない。

 だが、なにか考えがあるのだろうと思い、あまり口は挟まなかった。

 

「ほう、いっちょまえに反論か」

 

 メガトロンはレイを睨みつけた。

 その迫力にレイは涙を流しながら後ずさる。

 

「ひいっ!? ごご、ごめんなさい!」

「まあ、良い。今日は機嫌がいいからな」

 

 しかしメガトロンは楽しげに笑ってみせた。

 フレンジーは、はて?と首を傾げる。

 いくら機嫌が良いとはいえ、メガトロンが自分に逆らうものを許すとは、珍しいこともあるものだ。

 そう思ったのはフレンジーだけではなかったらしい。

 

「珍しいですね。メガトロン様が無礼な言葉をお許しになるなど」

 

 ドクターによる治療の終わったスタースクリームが、手を握ったり開いたりしながらメガトロンに尋ねる。

 

「ムシケラの言葉に、いちいち反応していたのでは身が持たんからな」

「さようで」

 

 メガトロンの言葉は、レイの人権を無視するものだった。

 それを聞いたレイはさらに涙目になる。

 

「ムシケラ……」

「元気だしなって、レイちゃん! ムシケラでも殺されないだけマシじゃん!」

 

 フレンジーが陽気に言う。

 彼はレイをムシケラ扱いするディセプティコンたちのなかにあっては比較的、わずかに、本当にわずかにレイに優しい。

 

「ウウ……ありがとうございます、フレンジーさん」

 

 良く考えればまったくフォローになっていないのだが、レイは気づかず、フレンジーに礼を言う。

 と、ブラックアウトとグラインダー、スコルポノックがオイルタンクを抱えて歩いてきた。

 

「メガトロン様! エネルギーを運んでまいりました!」

「おお! それじゃ、さっそく……」

 

 スタースクリームが、そのタンクに手を伸ばす。

 

「がっつくな! この馬鹿者が!」

 

 だがメガトロンが一喝すると、スタースクリームは慌てて手を引っ込める。

 

「……アレが先だ」

 

 そう言うと、メガトロンは広場の奥にある聖堂へと歩いていく。

 メガトロンの巨体でも、少し身を屈めれば入れるほど大きな扉をくぐり、聖堂のなかに入っていき、スタースクリームとブラックアウトたちもそれに続く。

 フレンジーとドクターも急いで駆け出す。

 

「あ……。ま、待ってください!」

 

 レイもよく分かっていないが、つられて駆け出した。

 

 あれほど酷いことをされたのに、一人にされるのは嫌だった。

 

  *  *  *

 

 礼拝堂の内部は、機械で埋め尽くされていた。

 壁にはモニターが取り付けられ、床にはコードが縦横無尽に伸びている。

 その中央に、メガトロンの腰までくらいの大きさのカプセルが鎮座していた。

 台座に支えられた球体状のそれは、細かい幾何学模様に覆われている。

 メガトロンは、ブラックアウトからオイルタンクを受け取ると、それを球体の手前のピラミッド型の機械の前に置いた。

 スタースクリームがコンソールを操作すると、機械から無数の触手が伸び、それの先端がタンクに突き刺さる。

 レイは、それを見上げるフレンジーにたずねた。

 

「あ、あれは、なにをしてるんですか?」

「あれは、エネルギー変換器さ。トランスフォーマーの消化器官を模した物で、あれでオイルから、より純粋なエネルギーを取り出してるんだ。 そうすることで、俺たちに適応できるエネルギーにするんだ」

「は、はあ……」

「レイちゃん、分かってないだろ」

 

 そんな二人の会話をよそに、ピラミッド状機械から伸ばされたコードを通じて、球体へとエネルギーが供給される。

 球体の幾何学模様から青い光が漏れてきた。

 光は鼓動するかのように明滅を繰り返している。

 

「よしよし、いいぞ」

 

 メガトロンは満足げに球体を見て頷く。

 やがて青い光が治まり、空になったオイルタンクがガタンと倒れた。

 球体を見たまま、メガトロンが言う。

 

「どうだ?」 

 

 その言葉に応えたのは機械を操作していたスタースクリームだ。

 

「だめですね。まだエネルギーが足りないようです」

「そうか……」

 

 メガトロンの言葉には、やや失望が混じっていた。

 しかし、すぐにニヤリと笑い、フレンジーの傍にいたレイの方を見る。

 

「ならば、また奪ってくるまでだ。貴様が教えてくれた、もう一つのエネルギー源をな」

 

 レイは顔を青くする。

 

「……そ、そんな、あ、あれを奪おうだなんて……。そんなことしたら、どれだけの人が傷つくか……。あ、あなたたちは何とも思わないんですか!?」

「思わんな。ムシケラがどれだけ死のうが。それに、何を他人事のように言っている」

 

 メガトロンは身を屈め、その指の先端で、レイの胸を器用に小突く。

 ほんの僅かに力を込められただけで、レイは倒れて尻餅を突いてしまった。

 その態を見て、メガトロンは小馬鹿にしたように笑う。

 

「情報を提供したのは、貴様だ。つまり、これから起こることは、貴様にも責任の一端があるということだ」

 

 その言葉に、レイは驚き、声を荒げた。

 

「そんな!? わ、私のせいじゃありません! 私は悪くありません! あ、あなたが情報を言わなければ、こ、殺すって言うから!!」

「愚かだな。どのような理由があれ、行動には責任が伴うのだ。例え、無理強いされた物だとしてもな。それからは、だれも逃れられん」

 

 レイの必死の反論に、メガトロンはなおも低く嗤う。

 耳を塞いで目を瞑り、その場に蹲るレイ。

 聞きたくないと、全身で体現していた。

 そんなレイを見て、周りのディセプティコンたちは見下したように嗤うだけだ。

 メガトロンは興味を失ったかのように、悠然と聖堂から出ていき、他のディセプティコンもそれに続く。

 唯一、フレンジーだけが気遣わしげな挙動をしたが、歩み去るメガトロンとすすり泣くレイを交互に見た後、メガトロンを追っていった。

 

 あとには嗚咽を漏らすレイと、無機質な機械群。

 

 そして、幾何学模様に覆われた球体だけが残された。

 

  *  *  *

 

「なぜ、あの女を生かしておくんです? もう、あのムシケラから搾り取れる情報もないでしょう。いっそ、ドクターに解剖させてはいかがですか?」

 

 スタースクリームが、先を歩くメガトロンにたずねた。

 

「愚か者め。我々には人間どもの中で自由に動ける駒が必要なのだ」

 

 メガトロンは間髪入れずに言い返した。

 奸智に長けたスタースクリームのブレインサーキットは、それだけはないと直感的に察したものの、深くは言及しない。

 破壊大帝が、己の真意を他者に明かさないのはいつものことだ。

 

「フレンジー!」

「はい! メガトロン様!」

 

 呼ばれて、フレンジーが駆け足で寄ってくる。

 

「何でしょうか!」

「お前に任務を与える。重要な任務だ。詳細は後で伝える。……あの女を上手く使え」

「了解! このフレンジーに、お任せあれ!」

 

 フレンジーはその場でクルリと体を回してから深々とお辞儀をする。

 メガトロンは大きく頷くと振り返り、部下たちに向かって声を上げる。

 

「全員、修理と補給を済ませておけ! 近いうちに、もう一度出撃するぞ! ……プラネテューヌへな」

 

 




TF的お約束その4 とりあえず臨時基地を造るディセプティコン。
次回はオプティマスによる説明回の予定。
しかし今回、オプティマスとメガトロンが、お互いに責任について語っていますが、実はこれ、作者の意図したわけではなく、書いていたら勝手に対になるようなことを言ってました。
これがキャラの一人歩きというやつでしょうか。あるいは、もう何十年もライバルやってるオプティマスとメガトロンのキャラ性ゆえでしょうか。

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