超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION   作:投稿参謀

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ラブコメって難しい……。
戦闘も難しい……。


第66話 女神候補生より愛をこめて part2

「ここにもいない、か……」

 

 ラステイション教会近くの公園で、ユニとサオリの姿を探しながら、サイドスワイプは呟く。

 あの後、女神とオートボットはラステイションの町中で急に見えなくなった二人を探していた。

 

「こちらサイドスワイプ! こっちには二人はいない。バンブルビーそっちはどうだ?」

 

『こちらバンブルビー。いや、こっちにもいない。二人ともどこにいっちゃったんだろう?』

 

『こちらスキッズ。ここらへんにもいないみたいだぜ』

 

『マッドフラップ。右に同じく!』

 

 通信で仲間たちにたずねて見ても、答えは芳しくない。

 

 ――俺のせい、か……。

 

 サイドスワイプは今更ながらに自問する。

 ユニやサオリのことを思ってこそ、あんな酷い言い方をしたが、もっと上手い手段があったのではないか?

 

「くそ!」

 

 己の不甲斐なさに、苛立ちばかりが募る。

 

「悩んでるみたいだな?」

 

 そこへ声をかける者がいた。別の区画を探していたはずのアイアンハイドだ。

 師の登場に、サイドスワイプは驚く。

 

「アイアンハイド? どうしたんだ?」

 

「何、悩める若者に、一つ過去の話でも、と思ってな」

 

 男らしく笑うアイアンハイド。

 サイドスワイプは黙って師の言うことを聞くことにした。

 神妙な態度の弟子に、アイアンハイドはフッと微笑む。

 

「今のおまえを見てると、昔の俺を思い出してな……。俺もクロミアに惚れてすぐのころは、告るかどうか悩んだもんさ」

 

「アイアンハイドが?」

 

 再び驚くサイドスワイプ。

 この豪傑を絵に描いたようなオートボットは、そういう悩みとは無縁だと思ってたいたのに。

 オプティックを丸くする弟子に、照れくさそうな様子のアイアンハイド。

 

「あのころは、俺もまだ若造でな。……それに俺たちはほれ、いつ死んでもおかしくないしよ」

 

 アイアンハイドは生粋の戦士であり、戦士は戦場に立つものだ。そして戦場では、どんな剛の者でもアッサリ死んでしまうこともある。

 

「まあ、結局、まずは告白してみることにした。グダグダ悩むのは俺らしくない。……それに、おっ死ぬ時に『あの時想いを打ち明けておけば』なんて後悔したくなかったからな」

 

 そして、未だ懊悩の中にある弟子の肩に手を置く。

 

「おまえも、最後に後悔しないようにな」

 

「……アイアンハイド」

 

 少しだけ、サイドスワイプは楽になった。

 と、サイドスワイプのセンサーがある物を捉えた。

 それは、建物の壁についた小さな焦げ跡だ。

 

「これは……、ユニの銃の?」

 

 普通なら気付かないほどの小さな焦げ。

 だが、そこに残されたほんの僅かなエネルギーパターンから、サイドスワイプにはユニの銃から放たれた光線がつけた跡だと分かった。

 ユニが理由もなく銃を撃つとは思えない。

 と、すると……。

 

「ッ! ユニ!!」

 

「お、おい! どうした!?」

 

 急に走り出そうとするサイドスワイプに、アイアンハイドは慌てて呼び止める。

 しかし、サイドスワイプは振り返らずに声だけで答える。

 

「最悪の事態だ! ユニと、多分サオリがディセプティコンと出くわした!! まだそんなに前じゃない!!」

 

「ッ! 分かった。だが落ち着け」

 

 アイアンハイドは努めて冷静に逸る弟子を諌める。

 

「しかし!」

 

「ここで闇雲に飛び出しても、無駄に時間を喰うだけだ。……それよりも、教会の連中を使って目撃情報を当たろう」

 

「ッ! ……分かった」

 

 サイドスワイプは素直に頷き、それでも全身から怒りと闘志を漲らせる。

 今回のことは、自分が引き金を引いたようなものだ。

 自分で撒いた種は、なんとしても自分で刈る。

 

 ――必ず俺が助け出す! それまで無事でいてくれ、二人とも!

 

  *  *  *

 

 マジェコンヌとディセプティコンにより囚われたユニとサオリ。

 彼女たちはラステイションのある廃工場に作られた、ディセプティコン臨時基地に連れてこられていた。

 

「「きゃあ!」」

 

 床に乱暴に投げ出される二人を、マジェコンヌとリンダ、そしてクランクケースとネズミ型のモンスター……ワレチューという面々が見下ろしている。

 

「クックック……、さあてサオリ、だったか。ヘブンズゲートの起動キーを渡してもらおうかぁ」

 

 不様に転がる二人に、マジェコンヌは邪悪に嗤う。

 身を起こしたサオリは、キッとマジェコンヌを睨みつけた。

 

「ヘブンズゲートは誰にも渡しません! あれが起動したら大変なことになるんです! どうしてそれが分からないんですか!?」

 

「こいつらに何を言っても無駄よ、サオリ」

 

 ユニは厳しい声を出す。

 女神を倒すためにディセプティコンと組むような女だ。今更、良心に訴えても碌なことにはなるまい。

 対してマジェコンヌは笑みを崩さない。

 

「分かってるじゃないか。まあ、言いたくないなら、言いたくなるようにするまでだしな」

 

 言うや、マジェコンヌはどこからか小瓶を取り出す。

 

「この中には、特殊な調教を施したスライヌが入っている。……後は、言わなくても分かるな?」

 

 身を固くするユニとサオリ。

 

「ヒュー! さすがはマジェコンヌの姉さん! アタイたちにできないことをやってのける! そこに痺れる、憧れる~!」

 

 ヤンヤヤンヤと囃し立てるリンダ。

 

「久し振りに悪役(ヒール)っぽいことしてるYO」

 

「時々ああしないと、ただの残念なオバサンだからっちゅ」

 

 逆にクランクケースとワレチューは冷めた態度だ。

 一同の態度に眉根を吊り上げたマジェコンヌだったが、気を取り直してユニとサオリに向かい合う。

 

「んんッ! では、サオリよぉ、屈辱的な目に遭いたくなければ、起動キーを渡すのだぁ!」

 

「だ、誰が……!」

 

「そうか、ならばこの作品の警告タグをR-18に引き上げざるをえないなぁ!」

 

 よく分からないことを言いつつ、マジェコンヌは、小瓶の蓋を開け、中のスライヌを床に落とす。

 

「ヌラ~……」

 

「ヒッ……!」

 

 スライヌはサオリの白い足へと絡みつく。

 その生暖かくネットリとした感触に、サオリは全身が総毛立つが、スライヌはそれに構わず、足を這い上がろうとする。

 

「待ちなさい!」

 

 だが、ユニが声を上げた。

 

「ああん?」

 

 嗜虐的な笑みを浮かべていたマジェコンヌは、ギロリとユニをねめつける。

 だがユニは、小馬鹿にした笑みを浮かべた。

 

「……アンタも堕ちたもんね、マジェコンヌ。ディセプティコンの使いっ走りの次は、一般人をいじめてご満悦? おかしくて、涙が出てくるわ! こんな小物に一度でも苦戦したかと思うとね!」

 

「…………言うではないか、小娘」

 

 明らかに時間を稼ぐための挑発だが、痛い所を突かれたのか、マジェコンヌはギリギリと眉を吊り上げる。

 

「気が変わったぞ。まずは貴様が屈辱と悔恨に沈む態を、サオリに見せつけてやる」

 

 チチチとマジェコンヌが舌を鳴らすと、スライヌはサオリの足から離れ、ユニの体に纏わりつく。

 

「ッ……!」

 

「どうだ、おぞましいか? 気持ち悪いか? だがそれもこれから訪れる快楽と屈辱の序章に過ぎんぞ」

 

 ニヤニヤと嗤うマジェコンヌに呼応するように、スライヌは隙間から服の内側に侵入してくる。

 それだけはなく、なんとユニの衣服がジュウジュウと音を立てて溶けていくではないか。何ともお約束に忠実なスライヌである。

 その姿に、サオリは悲鳴染みた声を出す。

 

「ユニ様!」

 

「クッ……、これくらいどうってことないわ!」

 

「どうして、そんな……」

 

 耐えがたい辱めに遭いながらも強気なユニに、サオリは思わず問う。

 ユニは、不敵な笑みを浮かべて答えた。

 

「サイドスワイプが助けに来てくれるからね!」

 

 迷わず放たれた言葉に、サオリは息を飲む。

 だがマジェコンヌは嘲笑するばかりだ。

 

「ほほう? 随分な信頼だなぁ。だがお仲間が来た時に見るのは、貴様の惨めな姿だ! フフフ、アーハッハッハ!!」

 

「今回は、本当に悪役(ヒール)だYO……」

 

 お馴染の高笑いを響かせるマジェコンヌに、クランクケースやリンダはやや引いている様子だ。

 そうこうしている内にも、ユニの衣服は溶けて行き、白い肌が露わになる。

 

「せっかくだ、その哀れな姿をネットにアップしてやる! 女神様の痴態ともなれば、ミリオン再生は固いな! ……おい、ネズミ!」

 

「はいはいっちゅ。……まあヤバくない程度に加工しとくっちゅ」

 

 気丈なユニにさらなる恥辱を与えるべく、彼女の姿を映すようにマジェコンヌはワレチューに指示を出す。ワレチューはやる気なさげに、どこからかハンディカムカメラを取り出した。

 

「さあ、大事な国民に恥ずかしい姿を晒すといい!」

 

 さすがに、ユニは顔を青くする。

 そんなことをされればシェアにかかわる。

 

「待ってください!!」

 

 だが、そこでサオリが声を上げた。

 

「起動キーのことを教えます! だから、これ以上ユニ様に酷いことをしないで……」

 

 涙を流しながら、必死にサオリは言い募る。

 

「サオリ!」

 

「これ以上、私のせいであなたが苦しむのは嫌です……」

 

 咎めるユニだが、サオリは首を横に振り、涙を隠すようにユニの顔のすぐ近くに顔を寄せる。

 マジェコンヌは勝ち誇ったように笑みを大きくした。

 

「ほう? それで、起動キーはどこにあるのだ?」

 

「…………起動キーは、私自身です。私の遺伝子コードが、ヘブンズゲートの起動キーなんです」

 

 顔を上げて放たれたサオリの答えに、マジェコンヌは目を丸くする。そして納得したように頷いた。

 

「なるほどな、道理で見つからないワケだ」

 

「ユニ様を解放してください。でないと……」

 

 急にサオリは、そこらに落ちていた鉄片を拾い上げて自らの喉元に当てる。

 

「私が生きていないと、ヘブンズゲートは起動できないようになっていますよ?」

 

「……よかろう」

 

 再びチチチと舌を鳴らすマジェコンヌ。するとスライヌはユニの体から離れて、マジェコンヌの持つ小瓶に吸い込まれた。

 

「ではサオリよ、さっそくヘブンズゲートの隠し場所に……」

 

 瞬間、建物全体が揺れ、どこからか爆発音が聞こえてきた。

 

「ッ! どうなっている!?」

 

「クロウバー、ハチェット! 状況を報告するYO!」

 

 動揺するマジェコンヌ。クランクケースは冷静にこの建物のどこかにいる仲間たちに通信を飛ばす。

 

『分かってるだろ? オートボットと女神の襲撃だ』

 

『ガウガウ、ガウ!!』

 

「なにぃ! この部屋目がけて一直線だとぉ!?」

 

 クロウバーとハチェットの報告に、リンダが慌てる。

 だがマジェコンヌはすでに余裕を取り戻していた。

 

「うろたえるな! こっちにはこいつらがいる! この二人を人質に取れば……」

 

 言い終わるより早く、部屋の扉が吹き飛んだ。

 同時に侵入してきた相手は、色つきの風が如く目にも止まらぬスピードでマジェコンヌたちの間をすり抜け、ユニとサオリの前に陣取る。

 それは両腕にブレードを展開した銀色のオートボット、すなわち……。

 

「「サイドスワイプ!!(様!!)」」

 

 ユニとサオリが同時に喜びの声を上げる。

 少女たちの危機に、若きオートボットの戦士は違わず駆けつけたのだ。

 さらに、ネプギアとバンブルビーも部屋に突入してくる。

 

「ユニちゃん! サオリさん!」

 

 ネプギアは部屋の奥の二人を心配しつつ、その場でバンブルビーと共に武器を構えて敵を牽制する。

 

「そこまでです! シタッパーズのみなさん!!」

 

「ま さ か の 三 回 目 !?」

 

「これもう向こうさんでは定着してるYO……」

 

「おい待てぃ! まさか私も入ってるんじゃないだろうな!?」

 

「オイラは……、まあ下っ端なのは否定できないっちゅね……」

 

 ネプギアの言葉に各々反応するマジェコンヌたち。

 

「チッ! しゃあない、ここは退くYO!」

 

 この場にいるメンバーだけでオートボットと女神をまとめて相手にはできない。

 クロウバーとハチェット、戦闘員代わりのモンスターたちは、別の場所でアイアンハイドとノワール、二組の双子を相手にしていてこちらには来れそうにない。

 状況を鑑みクランクケースは即座に撤退を選択する。

 

「逃がすと思うか!」

 

「『ここが年貢の収め時だ!!』」

 

 サイドスワイプとバンブルビーが怒気を発するが、クランクケースの表情は変わらない。

 

「そうは上手くはいかないZE……、あばYO!!」

 

 言葉に反応して、部屋に取り付けられたスプリンクラーから煙が勢いよく吹き出す。

 瞬く間に広くはない部屋を煙が満たし、一同の視界を奪う。

 当然の如く、トランスフォーマーのセンサーを無効化する物質が混入されている。

 

「クッ、またこれか! 芸のない!」

 

 忌々しげにサイドスワイプは言うが、すぐに煙は晴れた。

 そしてそこにマジェコンヌたちの姿はなかった。

 

「……逃げやがったか。さて二人とも遅れて悪かった。大事はない……」

 

 サイドスワイプは敵の気配がないのを確認してから、振り返り、そしてユニのあられもない姿にオプティックを見開いて硬直した。

 

「ゆ、ユニ! そ、その恰好は!? い、いや見てない! 俺は見てないぞ!!」

 

「アタシのことよりも! サオリが連れてかれたわ! すぐに追ってちょうだい!!」

 

 動揺するサイドスワイプに、ユニはすぐさま檄を飛ばす。

 ハッとなって見回せば、確かにサオリがいない。

 

「アタシは大丈夫。だから、アンタはあの娘を護ってあげてちょうだい」

 

 真っ直ぐに見つめられて、サイドスワイプは思う。

 

 ――これだけの目にあっても、ユニはサオリを守ろうとしている。何と気高いことだろう。

 

 サイドスワイプは、決意を込めて頷くのだった。

 

  *  *  *

 

 町はずれの丘の上、あの伝説の樹の傍。

 突然ここに一機の黒塗りのジェット戦闘機が飛来したかと思うと、普通のジェット機では有り得ない急停止をして着陸する。

 そのキャノピーが開き、中からマジェコンヌが出てきた。

 

「クソッ! 忌々しい女神にオートボットめ!!」

 

 ここにはいない敵たちに向かって悪態を吐くマジェコンヌ。

 恐らく、女神とオートボットはこちらの目撃情報を追って来たのだろう。

 特にオートボットのディセプティコンに対する嗅覚は侮り難い。

 借金が増えるのを覚悟の上でメガトロンから兵隊を借りたのに、禄な戦果も挙げられず臨時基地まで失ってしまっては、今度こそ立つ瀬がない。

 

「だが……」

 

 まだ負けてはいない。

 奥の手はこちらにあるのだ。

 マジェコンヌはほくそ笑むとジェット機の操縦席から、拘束したサオリを無理やり引っ張り出す。

 

「来い!」

 

「ここは……!」

 

 そして伝説の樹の下までサオリを引っ張って歩いていくと、この場所に驚いている彼女を余所に、樹の手前に魔法弾を撃ちこむ。

 

「何を!?」

 

「ククク……、女神にオートボットめ! 最後に笑うのは私だ!!」

 

 魔法弾の起こした爆発によって土がめくれて出来た穴の底には金属製の分厚いハッチが現れた。どうやら何かの一部が露出したらしい。

 

  *  *  *

 

 いったんユニを教会に預けた後、お互いに合流した女神とオートボットは、一丸となって伝説の樹を目指していた。

 そこへ飛んで行くジェット機……ビークルモードのハチェットを、マッドフラップが目ざとく見ていたからである。

 だが、伝説の樹のある丘が視認できるようになったころ、突然地面が揺れ始めた。

 

「な、何だ!?」

 

 オートボットたちは、ロボットモードに戻って地面に踏ん張り、元より飛行している女神たちも一度動きを止める。

 

「あ!? 見てください!」

 

「何なの、アレ!?」

 

 ネプギアとラムが丘のほうを指差した。

 

 丘が、地面から離れて空に浮かんでゆく。

 

 いや、丘の下に埋まっていた何かが、丘そのものを押し上げながら浮上しているのだ。

 土がこぼれ落ちて現れるのは、巨大な空飛ぶ機械だった。

 全体的な形は涙摘型なのが見て取れ、飛行機や飛行船と言うよりはSF映画に登場する宇宙船のようだ。

 ヘブンズゲートとは、巨大な空中戦艦だったのである。

 ……だが、船体上部に例の伝説の樹が丘の上のほうごとデンと鎮座したままなのが、少々間抜けではある。

 

『あーはっはっはっは!!』

 

「こ、この時代遅れな高笑いは!!」

 

 突如として空に浮かぶ機械から、声が聞こえてきた。

 ノワールが、それに反応して機械を見上げる。

 

『見たか! これぞヘブンズゲート!! 主戦派の連中が対女神を視野に入れて造り上げた秘密兵器だ!!』

 

 案の定、声はマジェコンヌのものだった。

 恐らく、あの機械……ヘブンズゲートに乗り込んでいるのだろう。

 

「何よ! そんなデカブツ、すぐに叩き落としてやるわ! うちの妹を苛めてくれた借りは、億倍にして返してやる!!」

 

「今度こそ、終わりです!!」

 

「ユニちゃんの仇!!」

 

「仇!!」

 

 可愛い妹を傷つけられて怒髪天を突くノワールは好戦的に剣を構え、ヘブンズゲート目がけて突っ込んでいき、女神候補生たちもそれに続く。

 

『やれるものならやってみるがいい!! ヘブンズゲートの力を見せてくれる!!』

 

 マジェコンヌが吼えるやヘブンズゲートの前方部が展開し、その内側から無数の砲台が姿を見せた。

 そこから放たれる、数えきれないビーム弾。

 まさに空を埋め尽くさんばかりの弾幕だ。

 

「ッ! これじゃあ……」

 

 障壁を張ってビーム弾を防ぎながら、ノワールは呻く。

 さしもの女神たちもよけるのが精一杯で、近づくことができない。

 

「デカブツが! 的がデカくて当て安いってもんだ!!」

 

「『大きさ』『なんか飾りです! 偉い人にはそれが分からんのです!!』」

 

 アイアンハイドやバンブルビーは、降り注ぐ光弾をよけながら、それぞれの砲で攻撃するが、巨大なヘブンズゲートはビクともしない。

 

「ッ!」

 

「『硬え!』」

 

「それなら、俺たちの出番だ!!」

 

「応よ! こういう相手こそ、見せ場ってもんよ!!」

 

 前に進み出たスキッズとマッドフラップがそれぞれの右腕と左腕を組み合わせ、合体砲を発射する。

 狙い違わず、砲弾はヘブンズゲートの船体に命中。

 だが、ヘブンズゲートは多少揺れたものの、穴一つ開いていない。

 

「嘘だろ!? あれはデバステーターにさえ大ダメージを与えたんだぞ!?」

 

「初登場補正が切れると、こんなもんか……」

 

 自分たちの自慢の武器の残念な結果に、スキッズは唖然とし、マッドフラップはよく分からないことを言う。

 しかし、襲い掛かるビーム弾の雨に慌てて物陰に身を隠すのだった。

 

  *  *  *

 

「アーハッハッハ!! 素晴らしいぞ、この力は! 女神やオートボットがまるでゴミのようだ!!」

 

 ヘブンズゲートの操縦席でマジェコンヌは哄笑する。

 

「このヘブンズゲートがあれば、女神どもやオートボットどもを一掃し、さらにはメガトロンさえも倒すことができる!! 私がゲイムギョウ界のニューリーダーだ!!」

 

 狂気染みた表情で圧倒的な力に酔う彼女の後ろには、サオリが拘束された状態で転がされていた。

 

「なんてことを……」

 

 憎々しげにマジェコンヌを睨むサオリだが、マジェコンヌはそんなサオリを振り返り、皮肉っぽい嘲笑を浮かべる。

 

「喜ぶがいい! 貴様の父が作った兵器が、女神を打倒するのだ!!」

 

「違います! お父さんはそんなこと望んでいません!!」

 

「望もうと望むまいと、このヘブンズゲートによって女神は墜ち、オートボットは倒れるのだ! 貴様はそこで見ているがいい! アーッハッハッハ!!」

 

 悔しさのあまり、サオリは血が出るまで唇を噛む。

 そして、必死に祈る。

 もう彼女には祈ることしかできなかった。

 

 ――助けて……、サイドスワイプ様……。

 

「フハハハ! もはや私に適う者はいない! 最高にハイって奴だ!! ……む」

 

 得意になって女神やオートボットを攻撃していたマジェコンヌは、後方からこちらに近づいてくる者に気が付いた。

 それは、銀色の未来的なスポーツカーだ。

 凄まじい勢いで一直線にこちらに迫ってくる。

 

「馬鹿め! 後ろが死角だとでも思ったか! いいだろう、一思いに地獄へ送ってやる!」

 

  *  *  *

 

 ヘブンズゲートが全ての砲を展開し、サイドスワイプに向けて撃ってくる。

 とんでもない量の弾幕の中がサイドスワイプを襲うが、冷静に、しかして大胆に、その中を潜り抜けていく。

 確かに量は多いが、密度はかつて潜り抜けたスタースクリームとブロウルの飽和攻撃には及ばない。

 その前方にはヘブンズゲートが飛び立った丘の残骸があり、ヘブンズゲートから剥がれ落ちた土が重なり、小山になっていた。

 サイドスワイプはエンジンを極限まで回転させて最高速度で走る。そして小山をジャンプ台代わりにして跳躍した。

 

『死ね!!』

 

 弾幕が容赦なくサイドスワイプの体に襲い掛かるが、これを変形しつつ体を捻ることで辛くもかわす。

 そのまま弾丸のようにサイドスワイプはヘブンズゲートの船体に突っ込んだ。

 

 マジェコンヌとサオリのいる操縦区画へと。

 

「それじゃあ……」

 

 突撃のスピードを利用して、難なく操縦席を守る装甲を切り抜け、操縦区画にまで難なく到達したサイドスワイプは、片腕でサオリを掴み上げる。

 

「返してもらうぜ!」

 

 唖然とするマジェコンヌを後目に、サイドスワイプは全力で船体の上を走っていった。

 

「サイドスワイプ様!」

 

 腕の中でサオリが声を上げた。

 それは助けに来てくれた歓喜によるものではない。

 

「ヘブンズゲートを何とかしないと!」

 

「ああ、分かってる」

 

「この船にはたった一つだけ弱点があります! そこを突けば、これは墜ちます!」

 

 言い換えれば、その弱点を突かねばヘブンズゲートにいくらダメージを与えても破壊には至らない。

 最悪なことに、この船は本来操縦者がいなくとも戦闘を続けることができるよう、AIが搭載され、自己修復機能まで備えている。

 まさに悪魔の兵器と言えた。

 だが、サイドスワイプは笑む。まるで、勝利を確信したかのように。

 

「ユニにその弱点を伝えたんだろ?」

 

「はい……、さっき、捕まっていた時に」

 

 共にマジェコンヌに捕らえられていたあの時、顔を寄せた僅かな時間で、サオリはユニにヘブンズゲートの弱点を教えていたのだ。

 

「なら、大丈夫さ! なんたってユニは……」

 

 その瞬間、どこからか飛来した光線が、ヘブンズゲートの唯一の弱点……弾幕が一番濃い船体正面に、たった一つだけ開いた小さな排気口を貫いた。

 光線は数枚の防御隔壁を難なく貫き、その先にあるヘブンズゲートの中枢(コア)に命中し、光線を受けたコアは、耐え切れずに破壊された。

 同時に、船体全体にエネルギーが逆流を始め、ヘブンズゲートを自壊させていく。

 やがて飛行さえままならなくなったヘブンズゲートは、ゆっくりと下降を始めるのだった。

 それを各種センサーで捉え、サイドスワイプは笑みを大きくして、船体の端から飛び降りた。

 

「勝利の女神様ってやつだからな!」

 

 同時刻、戦闘区域から離れた高いビルの上で、光線を放った主……長銃を構えたユニが、会心の笑みを浮かべたのだった。

 

  *  *  *

 

「うわ~……、見事にやられたなぁ……」

 

 各所から火を噴きだし、船体を崩壊させながら墜ちていくヘブンズゲートを遠くから眺めながら、リンダは呆れた声を出した。

 周りにはドレッズとワレチューも集合している。

 

「まあ、あん中に助けに行く義理もないYO。メガトロン様からも早く帰ってこいって言われてるしNE」

 

「ん~、っつってもなあ……。そろそろ長い付き合いだし、助けてあげようぜ」

 

「オイラからも頼むっちゅよ。あんなんでも身内みたいなもんだっちゅ」

 

「……しゃあないYO。ハチェット、拾ってこい!」

 

「ガウ!」

 

 一人と一匹に頼まれ、クランクケースは仕方なく部下に指示を出す。

 四足獣型のドレッズは、一つ鳴くとジェット機に変形して飛び立つのだった。

 

  *  *  *

 

 ヘブンズゲートは元あった丘に墜ち、完全に崩壊した。

 主戦派の邪な夢を乗せた秘密兵器の残骸に囲まれて、あの伝説の樹は何事もなかったかのようにデデーンと鎮座している。

 あれほどの戦闘でも傷一つないとは、案外、本当に不思議な力を宿しているのかもしれない。

 その伝説の樹の前でサイドスワイプは決意を固めた顔をして樹を見上げ、佇んでいた。

 

「サイドスワイプー!」

 

 女神姿のユニが、その後ろに舞い降りた。

 変身を解きながら着地し、相棒に歩み寄る。

 

「こんなとこに呼び出して、どうしたのよいったい?」

 

「話しが、あるんだ」

 

 真面目な、そして緊張した声のサイドスワイプは、ゆっくりと振り返りユニの顔を見つめる。

 

「色々悩んだ。だけど、後で後悔したくないんだ。だから、今打ち明ける」

 

 ゴクリと、ユニは唾を飲み込んだ。

 サイドスワイプは、少し沈黙してから、ようやっと言葉を出した。

 

「ユニ、おまえのことが好きなんだ。金属生命体である俺が、有機生命体のユニを好きになるなんておかしなことなのかもしれない。それでも、俺はユニが好きなんだ」

 

「で、でも、サオリには有機生命体と恋人になる気はないって……」

 

「俺は迷っていた……いや、怖かったんだ。俺の体はユニたちの小さくて柔らかい体に比べてデカくて硬いし、第一俺は戦士だ。いつか戦場で死ぬ日が来るかもしれない。そんな俺が……、おまえを好きになるなんて、おこがましいんじゃないかって……。今の関係が居心地が良すぎて、こんな時間が壊れてしまうのが怖くて……でも、それでも! これ以上自分を誤魔化して、いつか散る時に後悔するは嫌だ! ……ユニ、どうか俺の恋人になってくれ!!」

 

 偽らざる自分の想いを、真摯に打ち明けるサイドスワイプ。

 例え、断られたとしても、これ以上自分を偽ることはできなかった。

 そしてユニは……。

 

「ユニ?」

 

 ユニは顔を伏せていた。

 その眼から、光るの物が流れ落ちる。

 

「ゆ、ユニ!? どうしたんだ!? やっぱり俺なんかに惚れられて嫌だったのか!?」

 

「馬鹿!!」

 

 上げられたユニの、その顔は、泣きながら笑っていた。

 

「嫌じゃないから……、嬉しいから、泣いてるんでしょうが!!」

 

 鳩が豆鉄砲を喰らったような顔になったサイドスワイプだが、一瞬後にその意味を理解しこちらも笑っているのか泣いているのか分からい顔になった。

 

「ユニ!!」

 

「アタシも好き! あんたのことが好き!! だーい好き!! 文句ある!!」

 

「あるわけないだろ!!」

 

 サイドスワイプは愛しい人の小さな体を、壊れ物を扱うように優しく抱き上げる。

 この愛が、正しいものなのかは分からない。

 それでも、今は身を焦がす情熱のままに愛し合おう。

 それが、若さの特権というものなのだ。

 

  *  *  *

 

「やれやれ、やっとくっ付いたか」

 

「まったく……、見ててもどかしかったんだから」

 

 少し離れた場所で、若い恋人たちを隠れて見守る者たちがいた。

 ユニの姉であるノワールと、サイドスワイプの師であるアイアンハイドだ。

 

「でも、あの二人これから大変よ。女神に恋人ができたなんて。プラネテューヌと違ってラステイションはそこらへんに厳しいところがあるし、ましてそれがトランスフォーマーとなるとね」

 

「こっから先は本人たちしだいさ。本気で大変なようなら、そのときはそれとなく助けてやりゃいいさ」

 

 暖かく笑いながら、妹と弟子を見つめる二人。

 その後ろにはサオリが立っていた。

 

「…………すごいですね」

 

 彼女は、抱き合うユニとサイドスワイプを見て静かに涙を流す。

 

「あの二人は、本当に信頼しあっていて……。私の割って入る隙間なんて、ないや」

 

 二人の強い信頼を間近で見て、彼女は自らの敗北を悟っていた。

 恋に敗れた少女は、負け惜しみも言わずに、ただ笑顔で泣いていた。

 

「……おまえさんなら、もっといい男が見つかるさ。若いんだから、これに懲りたりするなよ」

 

 涙が止まらないサオリをアイアンハイドは、ぶっきらぼうながらも彼なりに慰める。

 

「ッ! ……はい!」

 

 その不器用な優しさが今は嬉しくて、サオリは涙を拭い、笑顔で返事をするのだった。

 

  *  *  *

 

「クソッ!」

 

 その夜のこと、ラステイションのどこかにある、場末の安酒場。

 安っぽいカウンターバー席に腰かけマジェコンヌが酒を煽っていた。

 ヘブンズゲートが撃墜された後、ハチェットによって無事に救出された彼女だったが、ディセプティコン基地におめおめと帰る気にもならず一人ここで酒を飲んでいるのだ。

 

「なぜこうなった! どうしてこうなった!!」

 

 一瓶幾らもしない安い酒をラッパで煽り、マジェコンヌは懊悩する。

 思えばディセプティコンと関わったのが、ケチのつきはじめだった。

 最初は一応の同盟者という立場だったのに、今や借金のかたに働く下っ端。

 対して見下していたレイやリンダは、ディセプティコンの中で評価が高まっていく。

 何度挑んでも女神に負け、オートボットに負け、ディセプティコンには見下され……。

 副業のはずのナス農家が思いのほか軌道に乗っているのが、せめてもの救いか。

 

「ハアッ……」

 

 深くため息を吐くマジェコンヌ。

 と、彼女の横に一人の女が立っていた。

 燃えるような赤い髪の眼鏡をかけた女だ。

 

「隣よろしくて?」

 

「好きにしろ」

 

 無愛想なマジェコンヌに一つ会釈すると、赤い髪の女は隣の席に座る。

 

「マジェコンヌ、で良いいわよね?」

 

「……そうだが、だからどうした?」

 

 たずねられて、マジェコンヌは不機嫌そうに返す。同時に、目は探るように細められていた。

 赤い髪の女は、ニヤリと笑う。

 

「単刀直入に言うわ。……私たち、ハイドラに協力しない? ハイドラはあなたの知恵と力をかっているわ」

 

 マジェコンヌは答えない。

 女は妖艶に笑みながら続ける。

 

「あなたの力は、ディセプティコンでは生かし切れない。もちろん、良い待遇を約束するし、ディセプティコンから守ることもするわ」

 

「くだらん」

 

 だがマジェコンヌは、バッサリと斬り捨てた。

 

「ハイドラなどと大袈裟に名乗ってはいるが、その実態は友好条約による平和路線の時流に乗り遅れて大損こいた企業や団体の集合体。……その私兵集団に過ぎんのだろうが。そんな志の低い奴らと仕事はしたくないね」

 

「ええ、そうよ。でもあなたにとっては、ディセプティコンよりは気が合うのではなくて?」

 

 赤い髪の女は、こちらも探るような視線をマジェコンヌに向ける。

 だがマジェコンヌは、もう興味を失ったらしく女のほうを見向きもしない。

 

「……そう、残念だわ。もし、気が変わったなら連絡してちょうだい。我がハイドラはいつでもあなたのことを待っているわ」

 

 女はそれだけ言うと、席を立って歩き去っていった。

 マジェコンヌは、無言で酒を煽り続けるのだった。

 

  *  *  *

 

 こうして、一人の女神候補生と一人の戦士は恋人同士になった。

 

 めでたし、めでたし。

 

 

 

 ……だが、この話にはもう少しだけ続きがある。

 

 オートボットのラステイション基地である赤レンガ倉庫。

 

「じゃあユニ、そろそろ出かけようぜ!」

 

「ええ、スワイプ、今度は迷わないようにね!」

 

 模擬戦を終えたサイドスワイプとユニは、この前の埋め合わせとして仲間たちと映画を見るべく仲良く出かけていく。

 二人の様子は、前とあまり変わらないように見える。

 だがユニがサイドスワイプのことを『スワイプ』という愛称で呼ぶようになったことなど、確かに変化していた。

 

「アイアンハイド、出かけて来るぜ!」

 

「行ってきます! お姉ちゃん!」

 

 近くで模擬戦を眺めていた師匠と姉に挨拶をする二人。

 

「おう」

 

 地面に座ったアイアンハイドはぶっきらぼうに返すが、その顔は困ったような表情だ。

 原因は、自分の足に寄りかかったノワールと……サオリである。

 二人はそれぞれアイアンハイドの左右に陣取っている。

 ニコニコと笑いながらアイアンハイドの足に寄りかかるサオリに、ノワールは渋い声を出す。

 

「ねえ、サオリ。あなたはサイドスワイプのことが好きではなかったの?」

 

 多少、不機嫌な響きがあるのは気のせいではあるまい。

 

「ええ、そうですよ。完全に諦めて吹っ切るには、もう少し時間がかかりそうです」

 

「だったら……」

 

「ああ、もちろんアイアンハイドさんに恋愛感情は抱いてませんよ。でも、アイアンハイドさんの近くにいると、なんて言うかお父さんといっしょにいるみたいで安心するんです」

 

 ニッコリと微笑むサオリに、アイアンハイドは困った顔でポリポリと顔を掻く。

 だが、別に払いのけたりはしない。

 一方、ノワールはだんだんと目が三角になっていく。

 父親のように慕っているアイアンハイドに、若い女性が近づくのが、何となく気に食わないのだ。

 

「む~……!」

 

「ふふふ」

 

 視線をぶつけ合い、火花を散らすノワールとサオリに、アイアンハイドは深く深く排気する。

 そんな三人を見て、ユニとサイドスワイプは苦笑するのだった。

 




最初はユニのほうから告白するはずだったんですけど、書いてたらサイドスワイプのほうから告ってました。

今週のTAV。

ファン投票で生まれ、最近公式でプッシュされている噂のシンデレラガール、ウインドブレード登場回。
これで、ニンジャとサムライとゲイシャがそろったことに?
プライマスから直接指令を受けたとは……。
今回の敵は、何というかマトモな悪党でしたね。規模の小さい犯罪者や狂人ではないのは、今作では逆に新鮮かも。

今回の小ネタ。

スライヌ
スライヌに絡まれるのは、ネプテューヌの伝統(?)

赤い髪の女
ほとんどの方が忘れてらっしゃるでしょう。
彼女はハイドラの一員マルヴァです。

次回はコンストラクティコン主役回の予定です。
最初期に考えた話の一つなのに、こんなに遅くなっちゃいました。

皆さんのご意見、ご感想、お待ちしております。

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