超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION   作:投稿参謀

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何か早く書けたので投稿。



第62話 アイドル狂想曲

 アイドル。

 

 それは美しく咲き誇るメディアの花。

 

 アイドル。

 

 それは才能と努力はもちろん、さらに非凡な輝きを必要とされる選ばれし者。

 

 アイドル。

 

 それは多くの者が憧れ、目指し、そして挫折する狭き門。

 

 これは、そんなアイドルを目指した少女たちと、その他野郎どもの、血と汗と涙の記録である。

 

  *  *  *

 

「えー、そんなワケで、とりあえずアイドル目指そっか!」

 

「いや、どこらへんがとりあえずなのよ!」

 

 乗っけからワケの分からないことを言い出すネプテューヌにノワールがツッコむ。

 ここはプラネテューヌ教会の一室。この部屋でネプテューヌ、ノワール、ブラン、ベールが話し合っていた。

 議題は、『効率のいいシェアの獲得方法』である。

 サイバトロンに転送されたことで、数日の間ゲイムギョウ界を留守にしていた女神たち。

 その間は女神候補生たちが各国を統治してくれていたおかげで、シェアはほとんど下降しなかったものの、やはりこういう時のために何らかの手は打っておきたい。

 それを話し合うための集まりである。

 四人してお菓子とお茶を楽しみつつあーでもない、こーでもないと言い合っていたのだが、ふと部屋に備え付けのテレビを見たネプテューヌが言ったのが冒頭の台詞である。

 

「いいじゃん、アイドル! 歌って踊ってシェアゲットだよ!」

 

 明らかにその場のノリで言っただけであるが、そこは強引なネプテューヌ。他の三人が私情丸出しの案しか出せなかったこともあって、押し切ってしまう。

 ちなみにノワールの案はコスプレ大会に出場、ブランの案は同人小説発表、ベールは自作ゲームの作成、である。ネプテューヌの案が通るのもやむなし。

 

「アイドルか……。ま、まあ悪くはないわね!」

 

 

 ノワールは割と乗り気である。

 コスプレ衣装のような服が着れるからだろう。

 

「小説の種にはなる、か……」

 

 ブランも満更ではなさそうだ。

 

「申し訳ありません、わたくしはパスさせていただきますわ」

 

 しかし、ベールが突然離脱すると言い出した。

 

「ええ~! どうしたのさベール? この話しの元ネタ的に、帰るのはノワールだと思ってたのに」

 

「何でそうなるのよ!」

 

 理由を聞きつつよく分からないことを言うネプテューヌと、ツッコむノワール。

 そんな二人にベールは苦笑する。

 

「いえ、前々から進めているプロジェクトが大詰めでして、今はそちらの方に集中させていただきたいのです」

 

「ん~、ならしょうがないかー……」

 

 そう言うことなら、とネプテューヌも無理には引き留めない。

 

「では皆さん、ごきげんよう」

 

 たおやかに礼をしつつ、ベールは部屋から退出していった。

 いきなり離脱者が出たが、それでめげる女神たちではない。

 

「よーし、貴重な巨乳要員がいなくなっちゃったけど、わたしたち三人、これから頑張ろー!」

 

「「おおー!!」」

 

 かくして、女神アイドル化計画がスタートしたのである。

 

  *  *  *

 

 アイドルに必要とされる物は多い。

 体力はもちろんのこと、ダンス、演技力、精神力、そして……歌唱力。

 この歌唱力が曲者だった。

 

 ボエ~!!

 

 どこかのガキ大将を彷彿とさせる凄まじい不協和音がヴォイストレーニングのための部屋に響き渡る。

 いっしょにトレーニングをしていたノワールもブランも、何故かプロデューサーをすることになったイストワールも五月蠅そうに耳を塞いでいる。

 その発生源はあろうことかネプテューヌである。

 彼女は壮絶な音痴だった。声優さんの無駄使いも甚だしい設定である。

 

『これは……、何とも……』

 

 ネプテューヌの様子を見に来ていたオプティマスの立体映像も言葉を失っている。

 愛の力でフォローし切れないこともある。苦悩の末、めでたくネプテューヌと恋人になったオプティマスであるが、いきなりそのことを学ぶハメに陥っていた。

 

  *  *  *

 

 その後も普段のネプテューヌからは考えられないほど真面目にアイドルになるためのレッスンを重ねるも、歌だけは中々上手くならない。

 女神アイドル化計画もこれまでかと思われた矢先、イストワールはダメ元で一つ手を打った。

 

  *  *  *

 

「「「オトナミさんのミュージックルーム?」」」

 

 女神三人の疑問に、イストワールは大きく頷く。

 

「はい、今ネット上で話題になっているサイトなんです」

 

 そう言いつつ、空中に画面を呼び出す。

 画面にはあるサイトのトップページが映し出されていた。

 リーンボックスの歌姫5pb.のシルエットと大きな音符マークが特徴的に配置され、一目で5pb.のファンサイトだと分かる。

 

「このサイトがどうしたの? よくあるアイドルのファンサイトにしか見えないけど」

 

 ノワールの疑問はもっともである。

 アイドルとはファンサイトを見ればなれるほど、簡単なものではない。

 

「はい、確かにこのサイトは5pb.さんのファンサイトです。しかし、その情報量と彼女の人気に対する考察の深さは、他の追随を許していません」

 

 至極真面目な顔でアイドルのファンサイトの説明をするイストワール。

 教祖たる者がそれでいいのかとも思えるが、これもシェアのためである。

 

「さらに5pb.さん以外のかたの歌も評価しており、その良い所と悪い所、さらには改善点に至るまでを挙げています。この改善点に従った結果、歌が上手くなったという報告が多数あります」

 

 三女神にも、イストワールの思惑が見えてきた。

 どうやら彼女は、このサイトの運営者に助力を乞うてネプテューヌの歌唱力を上げようとしているらしい。

 

「……そう上手くいくかしら?」

 

 ブランが首を傾げる。

 某ガキ大将級の破壊力を持つネプテューヌの歌が、たかだかアイドルオタクの意見を聞いたくらいで上手くなるものだろうか?

 

「正直、ダメで元々です。しかし、私に思いつくのはこれくらいで……」

 

 そう言って目を伏せるイストワール。

 せっかく『あの』ネプテューヌが頑張っているのである。彼女だって力になりたいのだ。

 それを察したのか、ネプテューヌは明るく笑う。

 

「まあ、とにかく、このオトナミさん?に話しを聞いてもらおうよ」

 

 言うや画面の下にあるタッチパネルを操作し、歌についての相談を聞いてもらえるらしい『アイドル相談室』なる部屋に入り、文章を入力する。

 

『初めまして。アイドルを目指しているNと言います。こちらで歌についての相談を聞いてもらえると聞いて、書き込みをしてみました。相談に乗っていただけないでしょうか?』

 

「ずいぶん、ネプテューヌらしくない書き込みね」

 

「わたしだって、ネットマナーくらい守るよー!」

 

 グータラ女神らしくない真面目な文章に、ノワールが呆れた声を出すと心外そうにするネプテューヌ。

 返信はすぐにきた。

 

『Nさん、初めまして。オトナミさんと申します。とりあえず、あなたの歌を動画にしてメールに添付して送ってみてください』

 

『音声データだけではダメですか?』

 

『歌は姿勢や発声法も関係してきますので、全身を映した動画が望ましいです』

 

『分かりました。用意しますね』

 

 アッサリと相手の言葉に乗るネプテューヌに、ノワールとブランは心配そうに声をかける。

 

「ちょっと、大丈夫なのネプテューヌ?」

 

「さすがに顔出しは……」

 

 昨今のネットにおける拡散は、とてつもなく早い。

 正直、女神が顔出しして大丈夫かどうかは未知数だ。

 

「まあ、ダイジョブっしょ! このサイト、そこらへんの管理は徹底してるみたいだし。アドレスもすぐに破棄するってさ」

 

 ネプテューヌは気にせず、前もって撮っておいた自分が歌っている動画を添付したメールを指定されたURLに送る。

 これで少し様子見をしようとしたら、間を置かずに返信がきた。

 

「はやッ!」

 

「いくらなんでも早すぎない!?」

 

 驚くネプテューヌとノワール。

 とにかくメールを開いてみると、凄まじく長い文章が書き連ねてあった。

 要約すると。『声質など素材は悪くない根本的に歌い方が分かっていない印象。改善点が多すぎますが、まずはここに書いてある通りにやってみてください』とのことだ。

 

 顔を見合わせる一同。

 書いてある訓練法は、中々に厳しいものだ。

 果たして、飽きっぽく怠け者なネプテューヌがこのメニューをこなせるだろうか?

 

「よし! これをやればいいんだね!」

 

 意外にもやる気を見せるネプテューヌに、一同は驚く。

 

「どうしたのよ、ネプテューヌ! こんなメニューをこなそうとするなんて!」

 

「……あなたらしくもない。まさか偽物?」

 

「ああ、ネプテューヌさん、どうしてそのやる気をいつも出してくれないんですか?」

 

 散々な物言いの仲間たちだが、ネプテューヌは怒りもせずに苦笑いをする。

 

「いやさ、ほら、わたしってオプっちと恋人同士になったでしょ?」

 

 一同は、そのこととネプテューヌが頑張る理由が結びつかず首を傾げる。

 

「でもさ、オプっちって、まだまだ硬い感じがするんだよねー。色々と吹っ切れてない感じもするし。だから、アイドルになって可愛く歌って踊れば、ちょっとは喜んでくれるかなーって……」

 

 言っていてだんだん恥ずかしくなってきたらしく、顔を赤らめるネプテューヌ。

 いじらしいネプテューヌに、残る三人は顔を見合わせる。

 どうやら、恋や愛が人を変えるというのは本当らしい。

 

「あのネプテューヌさんが、こんな女の子らしいことを……。嬉しいような寂しいような……」

 

 イストワールは一筋流れ落ちた涙を拭う。

 ネプテューヌが生まれた時から見守ってきた彼女としては、少し複雑な気分であるらしかった。

 

 こうして、愛するオートボットの総司令官に歌と踊りを披露するという、女神としてはどうかと思える動機であるとはいえ、ネプテューヌは真面目にヴォイストレーニングに励むのだった。

 

  *  *  *

 

 そしてしばらく時はたち、プラネテューヌたちの初ライブの日がやってきた。

 ライブ会場となっている広場には、多くの人々が駆けつけていた。

 各女神たちは、何のかんの言いつつも国民から慕われている。

 その女神たちがアイドルをやると言うのだから、これが話題にならないはずはない。

 しかし、ライブ会場には肝心のステージが用意されていない。

 これはどうしたことかと不安になる観客だが、それは無用な心配だった。

 広場にどこからか大きなトレーラートラックが入ってきた。

 それは赤と青のファイヤーパターンが鮮やかなトラックで、後ろに大きなコンテナを牽引している。

 トラックは広場の中央、ライブ会場のど真ん中に陣取って停車する。

 何事かと観客がざわつく中、コンテナの側面が開いていき、スモークが中から溢れてきた。

 やがてスモークが晴れると、そこにあったのは光り輝くステージだ。

 そしてステージの中央に立つ三つの影は、もちろん……。

 

「みんなー! 今日は来てくれてありがとー!」

 

「みんなのために一生懸命歌うわ!」

 

「……応援、よろしくね!」

 

 可愛らしい衣装に身を包んだ、ネプテューヌ、ノワール、ブランである。

 

『うおおおおおおぉぉッッ!!』

 

「ネプテューヌさまあああぁ!!」

 

「ノワール様、素敵でぇえええす!!」

 

「可愛いですブランさまぁぁああ!!」

 

 いつもと違う三女神の姿に、信者たちは喉も割れよとばかりに歓声を上げる。

 

「それじゃあ、さっそく最初の曲、いっくよー!」

 

 中央のネプテューヌがマイクを手に満面の笑みを浮かべる。

 

「『Dimension tripper!!!!』ミュージックスタート!!」

 

  *  *  *

 

 流れる軽快な音楽と、それに合わせ歌い踊る三女神。

 その姿は、まさに女神。

 驚くべきはネプテューヌの歌唱力だ。

 簡単に言ってしまえば、『声優さんの有効活用』な、感じでとてつもなく上達しているのだ。

 そして上達した歌声は、素晴らしいの一言に尽きるものだった。

 

「やれやれ、どうなることかと思ったが……」

 

 牽引していたコンテナを切り離しライブ会場の端まで移動したファイヤーパターンのトラック……オプティマス・プライムは、そこにいたオートボットの仲間たちと合流すると、ロボットモードに戻った。

 

「上手くいっているようで、何よりだよ」

 

 正直、ネプテューヌの歌を前もって聞いていたオプティマスは不安だったのだ。

 

「ああ、そうだね」

 

「ほんとにね」

 

 ラチェットと、アーシーがそれに応じる。

 彼らはネプテューヌの応援にきたコンパとアイエフの付き添ってきたのだ。

 三人はステージのほうを見る。

 そこでは女神たちが輝く笑顔を見せていた。

 穏やかな笑顔で三女神を……特にネプテューヌを見つめるオプティマス

 そんな総司令官に、アーシーとラチェットはニヤッとする。

 

「しかし、聞いた話しでは、ネプテューヌは今回、だいぶ頑張ったそうじゃあないか」

 

「それもこれも、オプティマスに可愛い姿を見てもらいたいからとは……、何とも恋人冥利に尽きる話しね」

 

 からかうような二人に、オプティマスは照れくさげに微笑むのだった。

 和やかな空気に包まれるオートボットたちだが、一方で物騒な空気を醸し出している者もいた。

 

「ああ、ノワールの奴、あんなに足を露出して……」

 

 アイアンハイドである。

 娘のように思っている黒の女神が、露出度の高い衣装で踊っているのが心配らしい。

 

「………………」

 

 さらにミラージュもどこか不機嫌そうな顔で腕を組んでいる。

 どうも、ブランが普段自分にも中々向けてこない笑顔を振りまいているのが気に食わないようだ。

 

「まったく、二人とも……」

 

 苦笑しつつヤレヤレと首を振るオプティマス。

 

「ノワール様、カワイイィィ!!」

 

「ノワール様は俺の嫁!!」

 

「馬鹿! 俺の嫁に決まってるだろ!!」

 

 と、歓声に混じって、そんな言葉が聞こえてきた。

 さらに……。

 

「ブランちゃんマジロリ女神!」

 

「ブランちゃんペロペロしたい!」

 

「ハアッ……ハアッ……ぶ、ブランちゃんにお兄ちゃんって呼んでほしい……」

 

 そんなちょっと危ない応援は、ノワールへの歓声に比べれば小さい声だったが、幸か不幸かトランスフォーマーの聴覚センサーなら十分拾えるものだった。

 アイアンハイドはクワッとオプティックを見開くと武装を展開し、ミラージュは両腕のブレードを危険に光らせた。

 

「今、ノワールを嫁にするって言った奴は誰だ! 俺は認めねえぞ!!」

 

「アイアンハイド、あれは言葉の綾だから……」

 

「…………斬る」

 

「ミラージュ、君もブレードを降ろしなさい」

 

 物騒な空気を纏ったアイアンハイドとミラージュを、ラチェットが諌める。

 

「しかし、確かにあの衣装は男性のフェロモンを刺激するようだね。ゲイムギョウ界の言葉にするなら少々『エッチい』衣装と言ったところかな?」

 

「あなたも空気を読みましょうね」

 

 平常運転のラチェットに、アーシーが排気混じりにツッコむ。

 一方のオプティマスはと言うと、ジッとネプテューヌを見つめている。

 

「みんなー! 声援ありがとー! それじゃあ、次の曲いっくよー!!」

 

 たくさんの観客に囲まれ、笑顔を振りまく恋人を見て、オプティマスの胸には何とも言い難い感情が到来していた。

 あんなにも魅力的な人が自分の恋人であることが誇らしい反面、自分以外の者の視線を集めるのが、何故か落ち着かない。

 

「ふむ、なるほど……」

 

 ――これが『独占欲』か……。

 

 後半は思うに止めておくが、それを自覚したことは思いがけないほどの葛藤をオプティマスにもたらした。

 ……オプティマスは、いまだにエリータ・ワンを守れなかったことを吹っ切っておらず、彼女のようにネプテューヌを失うのではという恐怖と迷いの中にある。

 こんな自分が、恋人面して独占欲とは笑わせる。

 

 ――いかんな。どうも自虐的になっている。……今はこのライブを楽しむとしよう。

 

 可愛らしい恋人が、歌って踊っているのだ。楽しまなければ損だろう。

 

「ネプテューヌ様ぁああ! こっち向いてくださぁああい!!」

 

「ネプテューヌ様~♡ 愛してま~す♡」

 

「ああ、ネプテューヌ様の太腿にスリスリした~い!」

 

 観客も楽しんでいるようで何よりだ。実に何よりだ!

 思わずオプティマスの顔に笑みが浮かぶ。余人から見れば『背筋が凍るような』と形容されようと、殺気がどす黒い瘴気となって吹き出していようと、笑みは笑みである。

 と、ラチェットが何やら慌てた様子でオプティマスの右腕を掴んだ。さらになぜかアーシーが左腕を押さえている。

 

「オプティマス、取りあえずテメノスソードから手を離しなさい。それとエナジーブレードもしまうんだ。危ないから……」

 

  *  *  *

 

 その後は特に事件もなく、本当に絵的に面白いこともなく、ライブは大盛況の内に終了した。

 女神たちのシェアも大いに上がり、今後も定期的にライブをすることになったのだが……。

 

  *  *  *

 

 オートボット基地の自室でインターネットに自分の回線を繋いだオプティマスは由々しき事態に、剣呑な顔になっていた。

 

『【縞は】ネプテューヌ様のパンチラを拝むスレ【至高】』

 

『女神様のチラリズムについて語るスレ』

 

『女神を嫁にしたい奴集まれ~』

 

 あのライブ以降、大型掲示板であるNチャンにこんなスレッドが次々現れたのである。

 内容は、タイトルから押して知るべし。

 

「ふふふ……、度し難い。まったくもって度し難い」

 

 底なしに低い声が漏れる。

 総司令官権限を使ってオートボットたちを動員し、某オカマハッカーにまで手伝わせて片っ端から画像を削除しているのだが、それでもどこからか湧いて出てくる。

 一度ネットに拡散した物を完全に消滅させるのは難しいのだ。

 当の女神たちは、これも一種の有名税だと割り切っているのだが、オートボットたちはそうはいかない。

 特にアイアンハイドはノワールの際どい画像をアップした人間をミンチにしてやると息巻いているし、ミラージュは日に日に殺気立っていく。

 当のオプティマスも、何かもう黒いオーラがダダ漏れだった。

 

 この後、女神たちが惜しまれつつもアイドル活動を休止することになったのは、女神としての仕事ととの両立が難しいという理由からだったが、果たしてそこに意外と嫉妬深かったオートボットたちが関わっていないのかどうかは、誰も知らない。

 

  *  *  *

 

「なあ、良かったのかよ、サウンドウェーブ」

 

「ナニガダ」

 

 ここはディセプティコンの秘密基地。その諜報部隊の部屋。

 レーザービークは不満げに上司であるサウンドウェーブに問う。

 

「せっかく、女神から信頼を得たんだぜ。もうちょっと情報を引出してもよかったんじゃねえか?」

 

「趣味ニ、仕事ハ、持チ込マナイ、主義ダ」

 

「そりゃいいけどよ、何も律儀にアドレス廃棄しなくてもいいじゃねえか……」

 

 せっかく女神のパソコンのアドレスを手に入れたのに、律儀にサイトの規約通りにアドレスを廃棄した上司に、深く排気する機械鳥。

 どうにもゲイムギョウ界に来てからと言うもの、この無私無欲無感情のはずの上司は『らしく』ない。

 

「『オトナミさん』ノ時ハ、ソウイウ、ルール ダ」

 

 それだけ言うと、情報参謀は本来の仕事である情報収集に戻るのだった。

 

  *  *  *

 

 これにて女神アイドル化計画にまつわる話は終わる。

 そしてここからは、計画に唯一参加しなかった緑の女神と、その周りの者たちの話だ。

 

「……チカ様、ここはいったい?」

 

「黙って着いてらっしゃい」

 

 リーンボックスの教会。

 その地下に存在する金属の壁に囲まれた廊下。

 教祖補佐のアリスは、前を歩く教祖箱崎チカに聞くが、彼女は厳しい顔のまま答えなかった。

 普段通り仕事をしていたら、何やら大切な用事があるとかで、着いて来るように言われたアリス。

 通されたのは、彼女も知らない地下施設だった。

 

 ――こんな場所が、教会に存在していたとは……。

 

 教会に潜入してしばらく経つが、まったく気付かなかった。

 潜入のプロであるアリスの目を欺き続けるとは、中々のセキュリティである。

 なればこそ、ここで重要な情報を得ることができそうだと、アリスは考えた。

 やがて、何重にもロックされた分厚い扉を十枚ほど抜けた所で、大きな部屋に出た。

 研究施設と思しいその部屋の奥に、女神ベールが彼女らしくない厳しい表情で佇んでいた。

 その横には立体映像のジャズが、やはり普段の軽いノリが全くない、険しい顔をしていた。

 さらに研究に使う机の向こうには、リーンボックスが誇る天才プログラマー、ツイーゲが立っている。

 その目の前には黒いノートパソコンが置かれていた。

 物々しい雰囲気に、アリスは緊張するのを押さえられなかった。

 

「あ、あのベール様、チカ様……、ここはいったい?」

 

 芝居半分、本気半分で不安げにたずねると、ベールはようやっと重々しく口を開いた。

 

「ここは、機密レベル7に値する、言わばリーンボックスの秘中の秘。ここのことは、ここにいるメンバーの他には僅かな人間しか知りません」

 

 その言葉を聞いて人間臭くゴクリと唾を飲むアリス。

 

 ――どうやら、虎穴に入り込んだか……。

 

 予想以上の大事に、いやおうなしにアリスの緊張は高まる。

 

 ――落ち着け。これは重大な情報を得られそうだ。メガトロン様、どうかお力をお貸しください……。

 

「そ、それで、私をここに通したということはどういうことですか?」

 

「……我がリーンボックスに、女神候補生がいないのは知っていますわね?」

 

 アリスの疑問に、ベールは疑問で返した。

 その言葉の意味をアリスは計りかねた。

 確かにリーンボックスには女神候補生……ベールの妹に当たる存在はいない。

 それはこのリーンボックスに住んでいる者なら誰もが知る常識。

 

「それはつまり、わたくしに何かあった時の『代替品』がない、ということです。国として、それは致命的と言っていい『欠陥』です」

 

 『代替品』『欠陥』

 あえて、そういう言葉を選んだのだろうということは察せられる。

 だがそれとこの状況が結び付かない。

 

「ですから、わたくしは秘密裏に、あるプロジェクトを進めてまいりました。つまり、女神候補生を用意する手段についての研究です」

 

 そこでベールは、ツイーゲに目配せする。

 ツイーゲは一つ頷くと、目の前のノートパソコンを操作した。

 すると部屋の中央の床が開き、そこから何かを乗せた台がせり上がってきた。

 台に乗っているのは、淡く光る菱形の結晶だった。その内側にシェアクリスタルに似た結晶が入っているのが分かる。

 

「これは、その研究の一つの成果。ブレインズさんに協力してもらって、ようやく辿り着いた、人間を女神に変える奇跡のアイテム」

 

 ツイーゲの操作していたパソコンが、ギゴガゴと音を立てて小型のトランスフォーマーに変形する。

 

 ――アイツ、最近姿を見ないと思ったら、こんなことをしていたのか!

 

 ブレインズは、アレでも元は科学参謀ショックウェーブの配下。その見た目からは想像もつかないほど、研究職としては優秀だ。

 しかし、人間を女神に変えるとは……。

 

「名づけるならば、『女神メモリー』。……材料と工程の都合上、もう二度とは同じ物を作れない、ここにしか存在しえない物です」

 

 ベールは菱形の結晶を手に取って見せる。

 

「しかし、これと適合する人間は非常に稀で、もし適合できなければ、醜いモンスターになってしまうそうです。ゆえに我がリーンボックス教会では、女神メモリーの研究と並行して、適合者を探していました。……以前抜き打ちで行った健康診断も、その一環です」

 

 やっと、話が見えてきた。

 しかしそれは、アリスにとって信じがたいことだった。

 アリスにゆっくりと歩み寄りながら、ベールは話を続ける。

 

「その結果、教会の全職員の内、たった一人だけ適合者が見つかりました。その適合率は、驚くべきことに限りなく100%に近く、女神メモリーを使用すれば、ほぼ確実に女神になれるそうです」

 

 ピタリと、混乱のあまり硬直しているアリスの目の前でベールは止まった。

 

「単刀直入に申し上げます」

 

 そして、手に持った女神メモリーをアリスに向けて差し出す。

 

「アリスちゃん。…………わたくしの、妹になってはくれませんか?」

 

 




ギャグ話のはずだったのに、終盤がシリアスに……。
前のアリスの話で撒いた伏線を、ようやく回収。

今回の解説(?)

オトナミさん
漢字にすると音波さん。

女神メモリー
ネプテューヌVより、だいたい作中で説明してる通りの物ですが、原作では女神コアなる場所で自然発生します。
この作品内ではここにしかない一点物。
詳しくは次回で。

……何度も申し上げるようですが、自分に女神たちやオートボットをアンチ・ヘイトする気は、一切ございません。
むしろ、そう受け取る方がいてビックリしてたり。

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