超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION 作:投稿参謀
明らかに女神、オートボット側より気合が入ってんのは、気のせいということにしておいてください。
青く輝く大海原に浮かぶ、とある孤島。
ジャングルに覆われたこの島の上空に、一機の異形のジェット機が飛来した。
それはビークルモードのディセプティコン破壊大帝メガトロンだ。
メガトロンは島にある山の中腹に存在する、遺跡に偽装された秘密基地の入り口の前へと降り立つと、乗り込んでいたレイとフレンジーを降ろしてロボットモードに戻った。
「あ、あのレイちゃん、大丈夫かい?」
主君が基地の入り口を開けるべく見えない端末に暗号を転送している間、フレンジーは戦いに敗れてから一言も発していないレイに声をかける。
レイはディセプティコンのエンブレムを模した仮面を着けたままで、その表情をうかがうことはできない。
ただジッと破壊大帝の背中を見つめているだけだ。
「…………大丈夫ですよ」
しばらくして、レイは感情のこもっていない声を出した。
「で、でも」
「大丈夫です」
それでも何か言おうとしたフレンジーに、レイは同じ言葉を返す。
と、メガトロンが入力を終えたらしく基地の入り口が開いた。
背後の二人を振り返ろうともせず、メガトロンは中に入っていく。
黙って後をついていく、レイとフレンジー。
基地へと続くトンネルを会話もなく進む三人だったが、メガトロンがおもむろに口を開いた。
「いいかげん仮面を外せ。ここではおまえが顔を隠す意味はないからな」
こちらも感情のない声で言われて、レイは自分の顔を隠す仮面に手を伸ばし、ゆっくりと仮面を顔から外した。
「れ、レイちゃん……!?」
「……!」
フレンジーは驚く。
チラリと振り返ったメガトロンも、微かに驚いたような素振りを見せる。
目から顎にかけて残る幾筋もの涙の跡、真っ赤になっている目。明らかに泣いた跡。
その表情は、今も涙をこらえているように厳しいものだった。
ウルウルと濡れている瞳は、真っ直ぐにメガトロンを見ていた。
「ど、どうしたのさ! なんかあったの!?」
「何でもありません、大丈夫です」
「で、でもさ! レイちゃん、泣いてんじゃん!」
「私は大丈夫なんです!!」
心配そうなフレンジーに、レイは声を張り上げる。それからハッとなって頭を下げた。
「ごめんなさい、何だか頭の中がグチャグチャして……」
謝りながらレイはいつのまにか目から溢れてきた涙を拭う。
自分でも自分の感情がコントロールできていないらしい。
「貴様が何を見たか、それは知らん」
メガトロンだ。変わらず感情を排した声だったが、その言葉がレイに向けられているのは明らかだった。
「だが、忘れろ。それは過去の幻影だ。何の意味もない」
「………………」
レイは答えない。まるで、それはできないと言うように。
「それと、そんな顔はよせ。……ガルヴァたちが怖がる」
それだけ言うとメガトロンは彼女の返事を待たずに歩くことを再開した。
グシグシと目を擦りながら、レイはその背を追う。
身内から吹き出す黒いオーラと、強化された身体能力、そして突然『思い出した』技の数々。
自分の身に起きた現象が何なのか、まったく見当もつかない。しかしそれはレイ自身が驚くほどレイの関心を引かなかった。
それよりもスペースブリッジの中で垣間見た光景が、レイの頭から離れない。
かつてのメガトロンは、理想に燃える若者だった。
サイバトロンから差別と迫害をなくし、ディセプティコンとオートボットに平和をもたらすという崇高な使命感を持っていた。
だがその理想は、現実の前に踏みにじられた。
腐敗した評議会、認めてもらえない努力と才覚、残酷なほど無邪気な弟弟子、そしてそれらをひっくるめて『宿命』と称した師。
挫折したメガトロンは、これまでの甘さを捨てて、悪魔の誘惑に乗って力による支配によって平和をもたらす道を選んだ。
理不尽に降りかかる『運命』を破壊するために。
それこそが
雨の中独りで泣くメガトロンを目撃して、レイの胸中に浮かんできたのは身を裂くような悲しみと……それから怒りだった。
なぜ、メガトロンがここまで苦しまねばならない?
なぜ、ディセプティコンが悪と言われなければならない?
かつてメガトロンは言っていた。
卵や雛たちのことをオートボットが知れば、彼らは幼い命を『駆除』するだろうと。
かつては信じ切れなかったその言葉は、オートボットに蔓延していた差別意識……高潔と言われていたセンチネルでさえ、それから逃れきることはできなかった……と最高評議会の腐敗を見た今、レイの中で真実身を帯びる。
今までレイにはオートボットを憎む理由がなく、女神に対する憎しみには理屈がなかった。
それが今では。
――メガトロンを苦しめ、子供たちを傷つけるだろうオートボットが憎い!
――そのオートボットに組みする女神たちが憎い!
具体性のなかった憎しみに、形ができていた。
特に、あのプラネテューヌの女神は気に食わない。
かつて友好条約のおりに彼女の発した宣誓の、何と薄っぺらいことか。
争いを過去のものとする? 過去を乗り越える?
言葉こそ綺麗だが、それはつまり、過去を忘れ去るということではないのか?
過去こそが人間を形作る本質だというのに、それを捨てると言うのか?
未だに記憶の大部分を失っているがゆえに、過去に対して言い知れぬ憧憬を持つレイにとって、それは認められない理屈だった。
だが何よりもメガトロンのことだ。
努力も理想も踏みにじられ、師と弟弟子に裏切られる形になって、どれだけ辛かったのかレイには計り知れない。
彼の無念を思うと、レイは目から涙がこぼれるのを止めることができなかったのだ。
――このヒトは孤独だ。
この基地には大勢のディセプティコンがいる。
ケイオンには数えきれないほどの兵士たちがいた。
だがそのどれだけが、この誇り高く、ゆえに自分の弱みを決して見せようとしない男の内面に気付いているのだろうか。
スタースクリームやサイキルを見るに、多いとは思えない。
ショックウェーブや大多数の兵士たちのように盲目的に従うのも、何か違う気がする。
もちろん誇り高く孤高であろうとするメガトロンは理解者なんか必要としないだろう。
内面の奥深くに隠された悲しみや優しさを知られることを嫌うだろう。
だからこそレイは思うのだ。
自分は自らの中身すら未だ見つけられない弱くてチッポケな、ディセプティコンたちに言わせればムシケラのような存在だけど。
オートボットが、女神が、ゲイムギョウ界が彼らの意思と存在を認めなくても、自分は彼らを少しでも助けていきたい。
孤独なメガトロンを支えたい。
ディセプティコンのエンブレムを模した仮面は、自らもまたディセプティコンの一員であるという、レイなりの決意表明だ。
こうして細々と反女神運動を続けてきた市民運動家、自らの意思と関係なく巻き込まれて欺瞞の民と深くかかわることになったキセイジョウ・レイは、
女神に対する
* * *
基地へと続く長いトンネルを無言で歩き続けた三人は、やがて巨大な金属の扉の前に辿り着いた。
「まあ、何はともあれ」
扉を開く前にメガトロンは振り返り、ニヤリと笑った。
「この俺が戻ってきたのだ。スタースクリーム以外は歓声を上げて喜ぶだろうな」
そして扉を開け放つ。
「我がディセプティコンよ! 貴様らの主人、破壊大帝メガトロンが戻って……」
「おい! いたか!?」
「いや、いないYO! 監視カメラにも映ってない!」
扉の向こうではクロウバーとクランクケース、ドレッズの内の二体が何やらコンテナの後ろを覗き込んだり、コンソールをいじったりしていた。
会話から察するに何かを探しているらしいが、よほど必死なのかメガトロンたちに気付いていない。
「やっぱいったん戻って、リンダちゃんたちと合流……」
「おい」
部下たちに反応してもらえなかったせいか、メガトロンは苛立たしげにクランクケースに声をかけた。
「何だYO! 今忙しい……って、メガトロン様!?」
「お帰りなさいませ!!」
ようやくメガトロンたちに気が付いたクランクケースとクロウバーは、慌てて居住まいを正し敬礼する。
それを見て、なおも不機嫌そうにメガトロンはたずねた。
「それで? この俺が帰ってきたというのに、貴様らはいったい何をやっておるのだ?」
「いや、それはその、これには事情がありまして……」
危険に光るメガトロンの双眼に睨まれて、クランクケースは状況を説明しようとしたのだが……。
「おーい! そっち行ったぞー!」
「ガウガウガーウ!」
突然、通路の奥からリンダとハチェットの声が聞こえてきた。
何事かとメガトロンやレイがそちらを見れば、『何か』が四つん這いで走ってくるのが見えた。
それは、小さな金属生命体だった。
背中から生えた小さな翼をパタパタと動かしている。
「トランスフォーマーの、雛!?」
「新しい子が生まれたんですか!?」
フレンジーとレイが驚いた声を上げる。
メガトロンもオプティックを大きく見開いた。
「よもや、俺のいぬ間に生まれるとは……」
どこか残念そうに呟くメガトロンは自分の足元まで這って来た雛をヒョイと掴み上げる。
「なるほど、こやつが逃げ出したので探していたワケか。しかし、生まれて間もないのにこれだけ動けるとは、前途有望だな」
納得した様子の破壊大帝の手の中で雛は首を傾げるが、やがてその指をガジガジと噛み始める。
メガトロンはしばらく、雛の好きにさせてやるのだった。
「新しい子も元気みたいですね」
レイも柔らかく微笑み、雛を見上げる。
そんなレイを見て、ようやく笑ったとフレンジーはホッと排気した。
「元気なだけならいいんですが……」
しかしクランクケースは難しい顔をしていた。
その反応に、メガトロンは顔をしかめる。
「他に何かあるのか?」
「はい、実は……」
「おーい! またそっち行ったぞー!」
「ガウガウー!」
クランクケースが説明しようとしたその時、またしてもリンダたちの声が聞こえてきた。
再び何事かと一同が見れば、またしてもトランスフォーマーの雛が四つん這いで進んでくる。
それも一体ではない、何と全部で六体もの雛がこちらに向かってくるではないか。
レイとフレンジーは愕然とし、さしものメガトロンも言葉を失っている。
「まてまてー! って、メガトロン様! レイの姐さんも!」
「ガウガーウ!」
雛たちを追いかけてリンダとハチェットもメガトロンたちに気付き、姿勢を正す。
「いっぺんに七体も生まれたのか……」
自分たちの周りを動き回りながらキュイキュイと鳴く雛たちに、メガトロンは唖然としていた。
それに対し、クランクケースが困ったように言う。
「いや卵から生まれたのは一体なんですけどね……」
「何? 馬鹿なことを言うな、現にこうして七体いるではないか」
変なことを言い出すクランクケースにメガトロンは訝しげな顔をするが、その答えはずぐに分かった。
地面を動き回る雛たちが次々と細かい粒子に分解し、メガトロンの手の中の雛に吸い込まれていくではないか。
「これは……、こいつの特殊能力か?」
「はい、分身を生み出す能力のようです。この能力のおかげで、一体逃げ出したら、七体に分裂してあちこち逃げ回って、おかげでこの数日というものこいつらの相手で手一杯でして、メガトロン様の捜索もオートボットへの攻撃もままならなかったワケです」
「なるほどな」
クランクケースの説明に納得したように頷いたメガトロンは身を屈めて、リンダと話していたレイに新たな雛を近づける。
「ではこいつの世話は、いつも通りおまえに任せるぞ」
「アッ、はい! さあ、おいで~」
雛をメガトロンから受け取り抱き寄せるレイ。
ヒョイとばかりに雛を抱き上げる彼女を見て、リンダは目を丸くする。
「重くないんですか? こいつら結構ありますよ!」
「大丈夫です。これくらいなら」
朗らかな笑顔のレイ。
身体能力が強化された今の彼女にとって、雛の一体くらいなら抱き上げられないこともない。
「そう言えば、この子の名前はなんて言うんですか?」
「スカージです。サウンドウェーブ様の命名ですぜ」
「なるほど、……じゃあスーちゃんですね」
リンダの答えに、レイはスカージの頭を撫でながら頷く。
メガトロンはそんなレイを一瞥するとクランクケースに問う。
「状況はどうなっている?」
「とりあえずスタースクリームが勝手に仕切っていますが、サウンドウェーブ殿とショックウェーブ殿はメガトロン様の捜索を続けています。ご帰還されたと分かればお喜びになるでしょう」
「ではまず、スタースクリームの馬鹿に俺の帰還を告げてやるとしよう。行くぞ!」
慇懃な調子の部下に、満足したらしいメガトロンは一同を伴って歩き出すのだった。
* * *
「ちょ! 頭を齧んなっちゅ! オバハン何とかしてくれっちゅ!」
「無理を言うな! おい、暴れるんじゃない!」
雛たちが暮らす育成室。
普段はレイとフレンジーが幼い雛の面倒を見ている部屋であるが、今はマジェコンヌとワレチューがここを任されていた。
臨時に指揮を取っているスタースクリームの「同じ有機生命体なんだから、同じように仕事ができるだろう」という杜撰極まりない人事である。
もちろん上手くいくはずもなく、マジェコンヌとワレチューは雛たちに振り回されているのであった。
「もうちょっと、優しくやってやれよ。ほら、俺が変わるから」
マジェコンヌに寝かしつけられるのを全力で拒否して暴れるガルヴァを、ボーンクラッシャーが優しく抱き上げる。
「まったく、あの女はもっと上手くやっていたぞ……」
ワレチューの頭をガジガジと齧るサイクロナスを引きはがして、バリケードも呆れ果てたように排気する。
普段のマジェコンヌなら屈辱に身を震わすところだろうが、生憎とそんな体力も残っていないらしくグッタリとへたり込む一人と一匹。
と、育成室の扉が開く。
ボーンクラッシャーの腕の中でウトウトしていたガルヴァと、バリケードに摘み上げられていたサイクロナスがピクリと反応し、大人たちの手の中から飛び出した。
「ガルヴァちゃん! サーちゃん!」
部屋の中に入ってきたレイに、二匹の雛は飛び付く。
勢い余って後ろに倒れてしまうものの、レイは構わず二体を抱きしめる。
信愛を込めてレイの顔を舐める二体の雛、スカージもよく分かっていないようだが『兄』たちの真似をして『母』の顔を舐める。
「レイ! 無事だったんだな!」
「ああ、ようやく帰ってきたか」
ボーンクラッシャーとバリケードがそれぞれの反応をしつつレイに近寄ってくる。
「はい! ただいま戻りました!」
二体のディセプティコンと自分の顔を舐める三体の雛を見てレイはようやく帰ってきたという実感が湧いてきた。
雛たちの頭を撫でながら、レイは思う。
――自分がディセプティコンに協力することで、少しでも早く戦争が終わるのなら、ひょっとしたらガルヴァちゃんたちが戦わないですむ世界が来るかもしれない。
それが、儚い望みだとしても、
独りよがりな想いであったとしても、
母とは、子のためなら、ときに鬼にもなるものなのだ。
* * *
メガトロンは医務室のリペア台に横たわっていた。
とりあえず例によって例の如くニューリーダー気取りだったスタースクリームをしばき倒し、オプティマスとの戦いでついた傷を治しているところである。
いくつものロボットアームがメガトロンの体を修理していく。
「とりあえず……」
ロボットアームを操作しながら、ザ・ドクターが声を出した。
「ご無事にお帰り下さって、嬉しい限りです」
「世辞はよい。早く傷を治せ」
「ハッ……」
主君にピシャリと言われ、ドクターは治療を再開する。
しかしそのさなかにも、どこか迷っているような素振りのドクターだったが、やがて控えめに口を開いた。
「あ、あの、メガトロン様。実はガルヴァたちのことで、大切なお話が……」
「申せ」
短く続けるように言うメガトロンに応じ、ドクターは喋りだす。
「はい。実はガルヴァたちの遺伝子を詳しく解析してみたのですが、その結果驚くべきことが判明しまして……」
「もったいぶるな。要点を言え」
「は、はい! ガルヴァたちの遺伝子には『あるディセプティコン』の遺伝子と同じ特徴がみられます! どうやら、何らかの方法で遺伝情報を取り込んだらしく、これを生物学的に表現しますと、『親子』というのが相応しいかと……」
「……ふむ」
ドクターの話しを聞いて難しい顔をするメガトロン。
本来、金属生命体に親子の概念はない。
トランスフォーマーを含めたサイバトロニアンは、オールスパークの力により生まれてくる存在であり、有機生命体のように増殖したりはしない。
ガルヴァたちが特殊なトランスフォーマーであることは薄々感づいていたが、まさかそう来るとは……。
「それで、ガルヴァたちが取り込んだ遺伝情報の持ち主は誰なのだ?」
「メガトロン様です」
「ほう、俺か………………なんだと!?」
心の底から驚愕するメガトロン。
なぜ、自分の遺伝情報をガルヴァたちが持っているのか?
「ほら、いつだったか、メガトロン様が自分のエネルゴンを卵に分け与えたことがあったじゃないですか」
「あれか……」
かつて、まだゲイムギョウ界に来て間もないころのことだ。
エネルギー不足の卵に少しでも飢えを満たしてもらおうと、自分の傷口から漏れるエネルゴンを卵に振りかけたことがあった。
あの時に、雛たちはメガトロンの遺伝情報を取り込んだということだろう。
「残る卵が、どこまでメガトロン様の遺伝情報を取り込んでいるかは未知数ですが、少なくとも今いる三体の雛は、メガトロン様のお子であると言って間違いありません」
「う~む……」
唸るメガトロン。
なにせ、子を持つなど考えもしなかった身である。戸惑うのも仕方がない。
反面、言いしれず嬉しくもある。
「だが考えてみれば、俺の子が次代を担うというのも面白いな」
不敵にニヤリと笑むメガトロン。
トランスフォーマーが創り上げる次なる王朝は、すなわちメガトロンを祖とするメガトロンの子らの帝国となる。
それは、メガトロンにとって中々に楽しい未来絵図だ。
しかしドクターの話しは終わっていなかった。
「あと、その、もう一つ……」
「なんだ」
自らを創造主と仰ぐ世界を夢想していたメガトロンは、適当に話しを聞く。
「それが、その……、実はガルヴァたちはメガトロン様の他に、もう一人から因子を取り込んでいるようで……、これは実に不可解なことなのですが……、ああ、因子というのは遺伝情報を『肉体の設計図』とするなら、金属生命体はもちろん有機生命体も持っている言わば『魂の設計図』でして……」
「ええい! 要点を言えと言っただろうが! その因子は誰の物なのだ!」
歯切れの悪い話しぶりにイライラとしたメガトロンに怒鳴られ、ドクターは慌てて答える。
「は、はい! どうやら、キセイジョウ・レイのものらしいのです」
「…………………は?」
なぜ、ここでレイの名が出てくるのか。
彼女は有機生命体、どうして金属生命体に因子が宿る?
「ですから不可解なんです。雛かレイか、どちらかに特殊な能力があるとしか……」
そこまで言って、ドクターは頭をコンソールに擦りつける。
「お願いでございます! 有機生命体の因子を得たとはいえ、ガルヴァたちはメガトロン様のお子であり、ディセプティコンの希望です! どうか処分するようなことだけは! どうか、どうか……」
ドクターの嘆願にも、メガトロンはどこか上の空だった。
元より、今更ガルヴァたちを処分する気などない。
ましてメガトロンの遺伝情報を継いでいるのだ。
しかし、レイの因子を継いでいるということは、メガトロンの子であると同時にレイの子も同然ということだ。
「どうしたものか……」
このことは秘密にしておかねばならない。
有機生命体を下等と断じるディセプティコンは多い。
雛たちが有機生命体の因子を持っていると知れば、問答無用で駆除しようとする輩も出てくるだろう。
スタースクリーム辺りなら、これを口実にメガトロンに成り変わろうとするかもしれない。
「やれやれ、まったく……、ドクター、雛たちを処分したりはせんから、このことは内密にしておけ」
「は、はい! もちろんです!」
排気混じりの主君の声に、ドクターはペコペコと頭を下げる。
新たに増えた頭痛の種に、メガトロンは我知らず深く排気した。
そして、リペアルームの扉に一瞥をくれる。
「貴様もだぞ、フレンジー」
ドクターが驚いた顔を扉に向けると、フレンジーがオズオズと入室してきた。
「は、はい、メガトロン様……」
レイが育成室に戻ったことを報告するために、リペアルームまでやってきたフレンジーであったが、扉の外まで来たところで、偶然メガトロンとドクターの会話を聞いてしまったのだ。
――ガルヴァたちが、メガトロン様と、レイちゃんの子供?
もちろん、これが騒ぎの種になることは分かっているので、言いふらすような真似はしない。
だが、この秘密を抱えたままレイと接するのは、中々に大変なことだろう。
「えらいこと、聞いちゃったなあ……」
意図せず抱え込んでしまった厄介事に、フレンジーは排気する。
「排気したいのは、こっちだわい」
「まったくです……」
メガトロンとドクターも深く深く嘆息する。
しかし、このとき破壊大帝のブレインサーキットに浮かんできたのは、この秘密を誰に教え、誰に教えないでいるかということではなく、無機有機の要素を併せ持ってしまった雛たちが将来どうなるかということでもなく、
――さて、今度からどういう顔で、レイと会ったものか……。
という、小さなことだった。
ロストエイジをDVDで見る
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ああ、ガルバトロンって○○化したレイちゃんと同じ配色だなあ……(銀と黒基調で、発光部が青)
↓
そうか、ガルバトロンはメガトロンとレイちゃんの子供なんだ!(アホ)
となって、こういう展開になった次第。
今回の解説
レイの仮面
参照、IDW版のターンさん。
スカージ
本体、スカージ。分身、スウィープスということです。
当初は、他のトランスフォーマーやロボットをスウィープスに変えてしまうという、恐ろしい能力を持たせる予定でしたが、可愛くないのでマイルドな能力に再設定。
六体の分身たちにはそれぞれ個性があります。
最近まで、城下町のダン○ライオンにハマってまして、こういうのもアリかと。
実は一体だけ女の子だったり、スカージとスウィープスで七体合体できる設定があったり。
次回はトランスフォーマーに振り切ってた針を、ネプテューヌ側に戻すような話になる予定です。