超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION   作:投稿参謀

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ジェットロンは出さないと言ったな! アレは嘘だ! な今回。

短いのもあるけど、やっぱりディセプティコン側の話のほうが筆が乗ります。



第53話 コルキュラー

 時間は遡る。

 オプティマスたちがアイアコンに到着したころのこと。

 

 アイアコンから遠く離れた地。

 金属の荒野の上空を一機のエイリアンジェットが飛行していた。

 灰銀色の攻撃的なシルエットを持つその機体は、ディセプティコン破壊大帝メガトロンのビークルモードに他ならない。

 その機械と機械の僅かな隙間に、二つの影が乗り込んでいた。

 

「それで、ケイオンってどんな所なんです?」

 

 一つは薄青の長い髪をたなびかせたライダースーツのような恰好の女性。

 スペースブリッジの転送に巻き込まれて惑星サイバトロン(ここ)まで跳ばされてきたキセイジョウ・レイだ。

 

「そいつはま、着いてみてのお楽しみだ!」

 

 もう一つは細く小柄な青い四ツ目のディセプティコン、フレンジーである。

 普通ならディセプティコンの支配者たるメガトロンに乗り込むなど不敬もいいとこであるが、レイもフレンジーも移動能力が低いため、メガトロン本人が特別に許可したのである。

 三者はスペースブリッジの転送に巻き込まれた後、女神やオートボットが出たのとは別の場所に跳ばされた。

 すぐさま状況を把握したメガトロンは、サイバトロンに残った友軍に合流することにしたのである。

 メガトロンはフンと鼻を鳴らすような音を出した。

 

「ついたぞ」

 

 その言葉にレイが機械の隙間から外を覗いてみれば、そこには凄まじい光景が広がっていた。

 ディセプティコンの首都ケイオンは、なだらかな傾斜からなる盆地に造られていた。

 何重にも連なった高く分厚い壁の間に、無数の兵舎や武器工場と思しき建物が並ぶ。

 さらに数限りない戦艦が停泊しているのが見える。

 ゲイムギョウ界でメガトロンたちが乗り回しているのと同型の艦もあれば、さらに大型な物や小型の物もある。

 そして地上ではディセプティコンらしき影が、それこそ雲霞の如く蠢いていた。

 

「こ、これがケイオン……!」

 

 何と言う戦力だろうか。

 もし、これだけの数のディセプティコンがゲイムギョウ界に攻め込んできたら、どれだけの被害が出るか……。

 言葉を失っているレイを満足げに見ていたフレンジーは、調子っぱずれの歌を歌いだした。

 

「おおケイオン、懐かしの我が家。悪党どもの楽園よ……っと。驚くのはまだ早いぜ! あれを見なよ!」

 

 レイがフレンジーの指差す方を見ると、そこには巨大な建築物が建っていた。

 無数のウイングを備えた主柱の上に傘のような本体が乗っかっており、全体的なシルエットは巨大なキノコのように見える。

 だが驚くべきはその大きさだ。

 傘だけでも都市全体を覆ってしまいそうなほど大きい。

 

「あ、あれはいったい?」

 

「あれこそコルキュラー! メガトロン様の城さ!」

 

 フレンジーは胸を張る。

 メガトロンが呆れたように溜め息のような音を出したのがレイには分かった。

 やがて数機の戦闘機がどこからか飛んできて、メガトロンの周りを並んで飛行し始めた。

 

『そこの奴! ここはデイセプティコンの都市だぞ! 所属と階級を……』

 

「黙れ! この大間抜けめが! 俺を誰だと思っておる!」

 

 通信してきた隊長機と思しい機体からの通信を、メガトロンはピシャリとさえぎった。

 

『め、メガトロン様!? い、いやそんなまさか……』

 

 まさかの破壊大帝の怒声に、隊長はしどろもどろになる。

 それに構わず、メガトロンはコルキュラーの正面に造られたポートに降り立ち、レイとフレンジーを降ろすと、自分は素早くロボットモードに戻る。

 そこへさっきの隊長機が追いかけてきた。

 

「メガトロン様! お待ちください!」

 

 隊長機は自身もまた素早く変形してロボットモードになった。

 それはスタースクリームと同型のジェットィコンと呼ばれるタイプのディセプティコンで 青と水色のカラーリングの個体だ。

 そのディセプティコン、サンダークラッカーのことを一切気にせずメガトロンはフレンジーとレイを伴って歩いていく。

 

「お待ちください、メガトロン様! どうか正規の手続きを踏んでから……」

 

「愚か者め! 俺が俺の城に入るのに手続きなどいるか!」

 

 追いすがるサンダークラッカーをメガトロンはギロリと睨んだ。

 すると、どこからか現れた無数のディセプティコンが整列してメガトロンを迎えた。

 

『メガトロン様! お帰りなさいませ!!』

 

「うむ、御苦労」

 

 それだけ言うと、メガトロンは整列した兵士たちの間を抜け、コルキュラーへと進んでいく。

 兵士たちはメガトロンを讃える言葉を斉唱する。

 

『オールハイル・メガトロン! オールハイル・メガトロン!!』

 

 悠々と進むメガトロンの後をフレンジーが駆け足で追い、さらにレイも続く。

 だがレイの前に突如として立ちはだかる影があった。

 それはカメラレンズのような単眼が特徴的な三体のディセプティコンだ。

 

「見ろよ、ドレッドウイング。ムシケラがいるぜ」

 

「ああ、スィンドル。おかしいよな。こんな所にムシケラがいるなんて。おまえもそう思うだろペイロード」

 

「そうだな……」

 

 どうやら、赤の体色の者がスィンドル、背中に翼のある者がドレッドウイング、そして大柄な青い者がペイロードという名らしい。

 三体とも嗜虐的な視線でレイの体を舐めまわしながらジリジリとレイに詰め寄る。

 

「ヒッ……!」

 

 当然、他のディセプティコンたちはレイを助けるなんていう時間とエネルギーの無駄はしない。

 ただ二人、メガトロンとフレンジーを除いては。

 レイと単眼三体の間に割り込むようにフレンジーが現れた。

 

「このクソが! レイちゃんに指一本触れんじゃねえやい!」

 

「んだと、このチビ! 有機生命体なんぞを庇う気かよ!」

 

 吐き捨てるようにスィンドルは言うと、フレンジーに掴みかかろうとする。

 残る二体は嘲笑を浮かべながらこの愚かなチビをどうしてやろうかと考えていた。

 

「この馬鹿者め。俺の所有物に勝手に触れるでないわ」

 

 しかし、いつのまにかスィンドルの後ろに立っていたメガトロンが、その頭部を掴んで持ち上げる。

 破壊大帝の大怪力の前に単眼のディセプティコンは為す術なく宙吊りになった。

 

「ひッ……! メ、メガトロン様!?」

 

 なぜ有機生命体を庇うのか?とオプティックで問うスィンドルにメガトロンは耳元で答えてやる。

 

「俺とて有機生命体に情けをかける気などさらさらないわ。だが『これ』は俺の所有物なのだよ。そして俺の嫌いなことは、自分の所有物を許可なく壊されることなのだ」

 

 そしてスィンドルを乱暴に降ろすと、周囲のディセプティコンを見回し大音量で宣言する。

 

「他の者もよく覚えておけ! この女は俺の所有物であり、ゆえに許可なくコレを害した者はメガトロンの極限の怒りに触れるとな!!」

 

 破壊大帝の宣言に、ディセプティコンたちは震えあがり同時に疑問に思った。

 このチッポケな有機生命体は、いったい何者なのかと。

 

「め、メガトロン様! ご許しを!」

 

「俺たちはあなた様の忠実なる下僕!」

 

「決して逆らいません! オールスパークに誓って!」

 

 メガトロンの足元にひれ伏し、異様なほど卑屈な態度で忠誠を誓うスィンドル、ドレッドウイング、ペイロードの三体。

 一瞬つまらなそうに三体を眺めたメガトロンは、一言も発せずコルキュラーの中へと入っていった。

 身を寄せ合って体を震わす単眼三体にドヤ顔を向けるフレンジーと、ここに残るのは危険だと感じたレイがそれに続き、サンダークラッカーも現在の任務と忠誠心を測りにかけて忠誠心を選んで三者を追っていった。

 

  *  *  *

 

 メガトロン一行は巨大な展望エレベーターに乗り込み、上層を目指していた。

 

「それでアレが造船所さ! 小型から中型の戦艦を大量生産できるんだ!」

 

「へえ~、すごいですね~!」

 

 レイは展望エレベーターの外を興味深げに眺め、その横でフレンジーが得意げに説明している。

 

「それで状況はどうなっておる? 今は誰がここを仕切っているのだ?」

 

「ハッ……。そのことですが……」

 

 メガトロンは傍らに控えたサンダークラッカーに問う。

 サンダークラッカーはオズオズと答えた。

 

「メガトロン様が行方不明になられて以降、ディセプティコンは混乱の中にありました。今はブラジオン様が軍を取り仕切っています」

 

「ブラジオン! 奴か……!」

 

 苦々しげに顔を歪めるメガトロン。

 どうやらメガトロンとブラジオンなるディセプティコンはただならぬ間柄であるらしい。

 

「しかしさ、レイちゃん」

 

「何ですかフレンジーさん?」

 

「結構、スタイルいいんだね」

 

「……へ?」

 

 フレンジーの突然の言葉に、レイは面食らう。

 今レイが身に着けているのはライダースーツのような強化服だ。体に密着しているそれのおかげで体の線がハッキリ出ている。

 普段の服では分かりづらいが、彼女は胸こそ小振りだが中々にスタイルが良かった。

 

「ッ!? ななな、何を言ってるんですか!」

 

 遅ればせながら言葉の意味に気付き、レイは顔を赤くして自分の両肩を抱く。

 

「ああ、変な意味じゃないよ。ただ着やせすんだなあって……」

 

「それでも! 女性にいきなりそんなこと言っちゃいけません!」

 

 言い合うフレンジーとレイだが、それをメガトロンが止めた。

 

「ええい、やかましいわ! ヒトが話しをしている横でギャーギャーと喚くでない!!」

 

「「す、すいません……」」

 

 破壊大帝の怒りの声に、慌てて謝る二人。

 そうこうしている内に目的の階に到着したらしい。

 メガトロンはサンダークラッカーに声をかけることなくエレベーターを降りていき、フレンジーとレイも続く。

 

「あ、あの、メガトロン様!」

 

 しかし、サンダークラッカーは勇気を振り絞って問いを発した。

 

「す、スタースクリームは、無事でしょうか!?」

 

「……奴なら無事だ。今頃ニューリーダー風を吹かせていることだろうよ」

 

 感情のないその答えに、サンダークラッカーは安堵の排気を吐く。

 

「ああ、良かった……。スカイワープも安心します」

 

 メガトロンが一つ鼻を鳴らすような音を出すと、スカイワープの乗ったエレベーターの扉は閉まるのだった。

 

  *  *  *

 

 コルキュラーの最上階に存在する司令室。

 そこはゲイムギョウ界に存在するディセプティコンの秘密基地の司令部によく似た構造をしていた。いや、ゲイムギョウ界のほうがこちらに似せたのだろう。

 その奥にある本来なら破壊大帝が座るのだろう玉座の前に、一体のディセプティコンが立っていた。

 緑とオレンジのカラーリングをしていて、腰に長刀と脇差を差し全体的な印象は鎧武者のようだが、その顔と胴体は人間の髑髏のように見える。

 

「ブラジオン!」

 

 と、司令部の扉が開き灰銀の巨体が入室してきた。もちろん破壊大帝メガトロンである。

 髑髏顔のディセプティコン、ブラジオンはゆったりとそちらを向いた。

 

「これはこれはメガトロン様。ご無事なようで何より」

 

「下らん世辞はよいわ! それよりもブラジオン、貴様に聞きたいことがある!」

 

 あらゆる者が震えあがるメガトロンの鋭い視線にもブラジオンは動じない。

 

「はて、何でしょうか?」

 

「とぼけるな。なぜオートボットに総攻撃をかけない?」

 

 地獄から響くような重低音の声にもブラジオンは表情を変えずに答えた。

 

「彼奴らは地下に潜り、我らの索敵をかわしております。大局的に見て、我らの勝利は確定的なれば、無駄に戦力を割くことはないと……」

 

「もっともらしい答えだな。……だが、それだけではあるまい」

 

 ブラジオンの真意を探るようにメガトロンはさらに声を低くする。

 しばらく黙って睨み合うメガトロンとブラジオン。

 メガトロンの足元ではレイが所在なさげに立ちすくみ、フレンジーは腕を組んでブラジオンを睨む。

 しばらく沈黙していたブラジオンだが、やがてヤレヤレとばかりに口を開いた。

 

「……分かりました、お答えしましょう。此度のことは、『あの方』のご命令にございます」

 

「あの方? ……ッ! 師か……!」

 

 合点がいったメガトロンであったが、その顔はさらに不機嫌そうに歪む。

 ブラジオンは澄ました顔で言葉を続けた。

 

「はい。あの方からの私への直接のご命令があったのです。来る大事に備え、戦力を温存せよと」

 

 ギリリと歯を軋ませるメガトロン。

 ディセプティコンにおいて、破壊大帝メガトロンの命令より優先されるべきことなどない。

 唯一、『かの存在』の言葉を除いて。

 そしてブラジオンは一介のディセプティコンではない。

 『かの存在』に師事し、その言葉を代弁する使徒なのだ。

 しばらくブラジオンを睨みつけていたメガトロンだが、やがて低い声を出した。

 

「……ならば、よいわ。それより俺はこれからクリスタルシティを目指す。そのための軍勢を編成しろ」

 

「と、申されますと?」

 

「決まっておる。スペースブリッジがあるとすれば、あそこしかないからな。……それに気付かぬオプティマスでもあるまい」

 

 冷静な判断を下すメガトロンに、ブラジオンは内心で感心する。

 この即断即決っぷりは間違いなく、破壊大帝のカリスマの一助を担っているのだろう。

 

「は、では手配しましょう。それまでメガトロン様とそちらの……」

 

 そこでブラジオンは所在なさげに立つレイを見た。

 

「ご婦人も、ごゆるりと」

 

 それだけ言うと、ブラジオンは司令室から出て行った。

 

「……フン!」

 

 一つ鼻を鳴らしたメガトロンは、司令席にドッカリと座りこむ。

 取りあえずこれでゲイムギョウ界に戻る目途は立った。

 

「あの、メガトロン様、一つ質問があるんですが、よろしいでしょうか?」

 

 と、これまで黙っていたレイが、怖い教師に質問する生徒のようにオズオズと手を挙げた。

 メガトロンはジロリとレイを見る。

 

「何だ?」

 

「……メガトロン様、あなたは何のために戦っているんですか?」

 

 真面目な声色で発せられたその問いに、フレンジーは元々丸いオプティックをさらに丸くし、メガトロンはホウッと感心したように排気した。

 

「レイちゃん? 何を言って……」

 

「よい。続けよ」

 

 レイの言葉の意図が分からずたずねようとするフレンジーをメガトロンが制し、レイに先を促した。

 一つ頷いてから、レイは言葉を出す。

 

「実際に見て分かりました。この星がこんなになるまで戦い続けて、他の世界に来てまでまだ戦うなんて、私には理解できません」

 

 大地は残らず廃墟と化し、空は濁って、生命は死に絶えかけている。

 それでも戦う理由とは?

 

「あなたは前に言いましたよね? 自分が戦うのは運命を変えるためだって。でも、ここまでして変えたい運命って何なんですか?」

 

 レイの非難がましい物言いにフレンジーは戦慄する。ここまで言って、無事で済むはずがない!

 

「ククク……、小娘が、いっちょ前の口をききよるわ」

 

 しかしメガトロンは楽しそうな笑みを崩さなかった。

 

「しかし、なぜそんなことを問う?」

 

 レイの疑問には答えず、問い返すメガトロン。

 はぐらかされたことは分かっていたが、それでもレイは答えた。

 

「……私には、記憶がありません」

 

「ああ、そうだったな」

 

 以前、ドクターに検査された時から分かっていた。レイの記憶には不自然な欠落がある。

 淡々とレイは続ける。

 

「女神は憎いけど、その理由は分からない。今があって過去がない。子供のころの記憶も、両親の顔も、故郷がどこかも分からない。つまり、私には『中身』がないんです」

 

 それが、レイに言い知れぬ虚無感をもたらしている。

 今回のことの発端であるストーンサークルにレイが同行したのも、彼女の記憶……『中身』を見つけることができるかもしれないと考えたからだ。

 

「だから知りたいんです。あなたの中身を……」

 

 そう言って、レイはジッと破壊大帝の顔を見据える。

 ここに至ってようやく、メガトロンは眉根を吊り上げた。

 

「愚か者め。貴様如きに俺の中身が分かってたまるものか」

 

 あらゆる理解と共感を跳ね除け、メガトロンは傲然と言ってのけた。

 しばらくの間、二人は睨み合っていた。フレンジーはハラハラとそれを見守っている。

 やがて先に息を吐いたのはメガトロンだった。

 

「フン! 無駄な時間を喰ったわ!」

 

 この話はこれで終わりとばかりにメガトロンはレイから顔を逸らし、空中に無数のディスプレイを呼び出して情報の収集を始める。

 

「何だか疲れましたね……」

 

 これはもう何を言っても無駄だと悟ったレイは、ハアッと息を吐く。

 サイバトロン(こちら)に来てから休む暇がなかった。

 ここのディセプティコンたちは、ゲイムギョウ界にいる者たちと違ってレイを下等なムシケラとしか見ていない。

 空腹や喉の渇きは『なぜか』感じないが、精神的な疲労が半端ではない。

 

「まあ、ここにいりゃ安心だと思うぜ。さっきメガトロン様が俺の物宣言してたしな!」

 

「うう、ついに物扱い……」

 

 フレンジーの陽気な声に、少し涙ぐむレイ。

 いや、『俺の物』って所に反応しようぜ……、と内心呆れるフレンジー。

 

「まあどうせ、クリスタルシティに出撃するまでは時間があるし、ゆっくり休みなよ」

 

「はい、それじゃあ……、ふああ……」

 

 よほど疲れていたのか、欠伸をするレイ。

 空腹などは感じずとも眠気は感じるらしく、そのまま適当な所に寝転ぶと、すぐに寝息を立てはじめた。

 

「あらら、こんなトコで寝ちゃって……。まったく、図太いやら鈍いやら……」

 

 フレンジーは呆れつつも優しい声色で言って、拾っておいた外套をかけてやる。

 そして、メガトロンのほうを向く。

 

「それでですね、メガトロン様」

 

 その声色はいつになく真面目だった。

 

「そろそろ教えちゃくれませんか? ……レイちゃんは何者なんです?」

 

「何の話だ?」

 

「とぼけないでくださいよ。この星の空気は有機生命体には有害なはず、なのにレイちゃんは普通に呼吸してる。それだけじゃない、言葉だって普通に通じてる。これで、タダの有機生命体だってほうが無理がありますぜ」

 

 ジッと、メガトロンを見上げるフレンジー。

 だが破壊大帝は意にも介さない。

 それどころか面白い物を見たという顔で小ディセプティコンを見下ろす。

 

「ほぉ~う? この俺に詰問とは、随分と偉くなったものだな?」

 

「ッ! も、申し訳ございません! そんなつもりは……」

 

 どうやら首を突っ込み過ぎたと慌てて頭を下げるフレンジー。

 しかしメガトロンに不機嫌な様子はない。

 

「まあ、良かろう。少しだけ教えてやる。こやつはな、『拾い物』よ」

 

「ひ、拾い物?」

 

 主君の言葉の意味が分からず、フレンジーは首を傾げた。

 メガトロンはニヤリと笑った。

 

「そうだ。労せずして我が手の中に飛び込んできた、俺の目的に必要不可欠な欠片(ピース)。それがレイと言うわけだ。……もっとも、俺の期待通りの働きをするかは、まだ分からんがな」

 

 つまり、期待に添わなければレイの命は……。

 

「安心せい。すでにある程度の役には立っておるからな。今更捨てもせんわ」

 

 不安げなフレンジーに、メガトロンは笑って言った。

 エネルゴンも凍結するような笑みだったが、言葉の内容はフレンジーを安堵させた。

 

「少しは安心したか?」

 

「ええ、まあ。……レイちゃんに何かあったら、雛たちが泣きますから」

 

 気が付けば、雛たちは随分とレイに懐いている。

 いずれはディセプティコン軍団の一翼を担うべき次世代が有機生命体に懐くなど許されるのかという疑問はあるが、フレンジーとしてはレイがいてくれてよかったと思っている。

 この弱気な有機生命体のおかげで、幼体たちは楽しく暮らしているのだ。

 

「まあ、よいわ。おまえも休め。準備ができしだいの出立だからな」

 

 話しを打ち切り、メガトロンは情報収集を再開する。

 ディスプレイに浮かび上がる無数の情報を速読しているメガトロンは、もうフレンジーと眠れるレイへの興味を失ったらしかった。

 

「……まあさ、レイちゃん」

 

 フレンジーは寝息を立てるレイに、メガトロンに聞こえないように声をかけた。

 

「俺はさ、正直レイちゃんが何者かなんて、割とどうでもいいんだよ」

 

 その声色はディセプティコンらしからぬ優しいものだった。

 

「レイちゃんといっしょに雛たちを育ててるとさ、何か楽しいんだ。ボーンクラッシャーの奴も楽しんでるし、バリケードも口には出さないけどレイちゃんのこと、相当気に入ってるぜ」

 

 フレンジーは表情のないはずの顔で器用に微笑んでみせる。

 

「だからさ。『自分の中身』ってやつが見つからなくても、俺らといっしょにいようぜ」

 

 気まぐれで冷酷なメガトロンだってオートボットに勝利した先の世界に、小さな有機生命体の居場所くらい、きっと用意してくれるだろうから。

 そこには多分、あの下っ端も無い胸を張って立っているだろう。

 オバハンとネズミは文句を言いつつ居座っているかもしれない。

 それは中々、楽しい想像だった。

 

 メガトロンの聴覚を持ってすれば、フレンジーの独り言を拾い上げるくらい簡単なことには、フレンジーは気付かなかった。

 




QTF、個人的に和製も好きですよ。

あとがきに代えてゲスト(?)解説。

サンダークラッカー
ご存じ、初代ジェットロンの一角。
実写ユニバースではスタスクの忠実な部下らしい。
最初はこの役は別のモブだったけど、書いててサンダークラッカーでいいやとなって急遽登場。
ちなみにジェッティコンというのは、ジェットロンを原語版風に言い換えた造語。

スィンドル、ドレッドウイング、ペイロード
ご存じコンバットロンの一員と爆撃参謀とロングハウルの色違い……ではなく。
実写初期の玩具からのキャラクターで、誰が呼んだか 無 念 三 兄 弟 !!
そもそもはスィンドルの箱裏の説明の『胸の砲塔』という文字が、『無念お砲塔』と誤記されたのが、妙に受けて彼のあだ名となってしまったのが始まり。
そして良く似た見た目のドレッドウイングとペイロードも一括りにされてしまったのである。
最初はこの役はオリキャラにやらせる予定だったけど、だったらこの三人でいいかと考え直して急遽登場。

ブラジオン
元々はプリテンダーの一人で、骸骨武者のアウターシェル(外殻)を被った戦車に変形するデストロンという、よう分からんキャラ。アニメ未登場。
なぜかアメコミでは優遇され、一時期はメガトロンに代わってデストロンを支配していたりした。
リベンジ期に出た彼の玩具は傑作で、それゆえに何度も何度もリカラー&リデコされている。
上記の面々と違い、最初から登場が決まっていた。

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