超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION   作:投稿参謀

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短いけど、区切りがいい(と思う)ので投稿。


第51話 帰郷

 たゆう、たゆう。

 夢幻にたゆう。

 

 『全なる魂』は夢幻にたゆいながら、嘆く。

 

 我、在りしは二つの世界。

 一つには金属の体に可視の魂。

 一つには有機の体に不可視の魂。

 

 二つの世界に子らは満ち、しかして迷い、違い、争う。

 大地には怨嗟、海には悲嘆、空には絶望。

 

 このままでは、二つの世界に蔓延るは争いのみ。

 このままでは、子供たちの未来に残るは滅びのみ。

 

 『導き手』が必要だ。

 

 幻想の神ではなく、曖昧な救い手ではなく、争いを呼ぶ王でもなく。

 

 子を慈しむ母のような。

 

 夫と支え合う妻のような。

 

 親を癒す娘のような。

 

 戦士に寄り添う恋人のような。

 

 迷い、違い、争い、それでも最後には正道に回帰する、そんな導き手が。

 

 子らは祈る。真摯に祈る。

 どうか私たちをお導きくださいと。

 

 『全なる魂』の力と、子らの祈りが一つに結実し、生まれし人の姿をした、人にあらざる、ヒトの導き手。

 

 これを女の姿をした神、すなわち『女神』と呼ぼう。

 

 ……あれから長い月日が流れた。

 

 子らは変わらず迷い、違い、争っているけれど、少しずつ良い方向へ向かおうとしている。

 

 もし、全てが終わったその時は。

 

 この金属の星の、子供たちのために。

 

 力を貸しておくれ、女神たち。

 

 愛しき、我が娘らよ。

 

  *  *  *

 

「ネ……ューヌ、ネプテューヌ……」

 

 誰かが自分を呼んでいる。

 聞いたことがないのに、なぜか懐かしい声。

 

「ネプテューヌ!」

 

「う~ん、後10分~」

 

「ベタな寝言言ってないで、起きなさい!!」

 

「ねぷっ!?」

 

 いきなり怒鳴られて、ネプテューヌは目を覚ました。

 目の前には揺れるツインテール。

 

「もー、ノワールったらー。どうしたのさ、そんなに血相変えて?」

 

「あなたねえ……。状況、分かってる?」

 

「状況?」

 

 ゆっくりと上体を起こして欠伸をかみ殺しながら呑気に言うネプテューヌに、ノワールは呆れた声を出す。

 それでようやく思い出した。

 ストーンサークル、襲ってきたディセプティコン、カラスの女、そして突然光に包まれて……。

 

「そうだったー! ディセプティコンは!? オプっちたちは!? って言うかわたしたちどうなったの!?」

 

「ああ、もう! いっぺんに質問しない! ……まずは落ち着いて周りを見てみなさい」

 

 ノワールの言葉に、ネプテューヌは一度呼吸を整えてから周囲を見渡す。

 そこはどこかドーム状の建物の中だ。

 壁も天井も床も、全てが金属で構成され、柱にはやはり金属製の像があしらわれている。

 どこか神秘的なそれらは、しかし長い年月を経て錆びて朽ちかけていた。

 しかし妙に広く、天井が高い。まるで、巨人のための家のように。

 よくよく見れば、周りにはベールとブランもいる。

 

「……ここ、どこ?」

 

 不安げにネプテューヌはたずねた。

 彼女をしてただならぬ事態だと思わせる何かが。この場にはあった。

 まず、空気がおかしい。普通に呼吸しているはずなのに、妙な違和感がある。

 それに、どこからか流れ込んでくる風には、得体の知れない臭いが感じられた。

 

「……外に行けば分かるわ。そこにオプティマスたちもいる」

 

 ノワールは厳しい顔で言った。

 ネプテューヌは一つ頷くと立ち上がって、歩き出す。

 その背を、残る三人の女神が緊迫した面持ちで追う。

 

 開けっ放しになっていた扉を抜けて、部屋の外に出ると、そこはどこか高台の上だった。

 オプティマス、アイアンハイド、ジャズ、ミラージュ。

 女神のパートナーのオートボットたちが、並んで景色を眺めていた。女神たちは、それぞれのパートナーの横に立つ。

 

「これは……」

 

 ネプテューヌは言葉を失った。

 いつも底抜けに明るく、マイペースで、空気を読まない彼女をして絶句する光景が、そこには広がっていた。

 

 地平線の彼方まで広がる、高層建築からなる壮麗な都市。

 かつてはそうだったのだろう。

 しかし今は、破壊され焼かれ朽ち果てて、まるで墓場のような……、いや墓場その物と成り果てた都市が、どこまでも広がっていた。

 空は、淀んだ灰色だ。

 空気の臭いは、錆と腐った油の混じったそれ。

 死が、世界を包んでいた。

 

「ここは、いったい……?」

 

「惑星サイバトロン」

 

 ネプテューヌが誰にともなく放った問いに、隣に立つオプティマスが答えた。

 見上げると、オプティマスは無表情だったが、ネプテューヌにはそれが果てしない悲しみを押さえているように感じられた。

 

「我々の故郷だ。……戻ってきた」

 

 その言葉には、重い重い響きがあった。

 

「帰ってきちまったな……」

 

「ああ……」

 

「……」

 

 アイアンハイドも、ジャズも、普段は無表情のミラージュでさえも、どこか泣きそうな顔で景色を見続けている。

 

「ここが、オプっちたちの故郷……」

 

 茫然とネプテューヌは呟いた。

 かつて、オプティマスの立体映像で垣間見たことはある。

 この星をオプティマスととともに歩くことを想像したこともある。

 だが、実際に見たサイバトロンの姿は、あまりにも無残なものだった。

 いや、無残と言う言葉ですら生ぬるい。

 いかなる言葉が、この破壊の跡を表現できると言うのか。

 女神たちは、皆思い知った。

 自分たちが、いかに恵まれた世界に生きてきたかを。

 

 全員、何も言えなかった。

 

「……オプティマス」

 

 しかし、その中でアイアンハイドが言葉を発した。

 

「三時の方向に機影。小型艦が一、戦闘艇が四。識別信号は、ディセプティコンだ」

 

 淡々と、努めて淡々とアイアンハイドは報告する。

 

「戦うか?」

 

 ミラージュが問う。

 それを受けて、オプティマスは表情を引き締める。

 

「いや、いったん隠れてやり過ごそう。皆、さっきの建物の中へ戻るんだ」

 

 その言葉に、女神とオートボットは素直に従うのだった。

 

  *  *  *

 

「…………」

 

 ディセプティコンの部隊が上空を通過する間、女神とオートボットは息を潜めていた。

 

「そう言えば」

 

 ふと、ネプテューヌが小さく声を出した。

 

「メガトロンは? あと、小さいのとカラスの仮面の女の人もいっしょに光に飲み込まれたと思ったけど」

 

 オプティマスは小さく首を横に振った。

 

「分からない。別の場所に出たか、あるいは亜空間に取り残されたか……」

 

「それよりも、今はこれからどうするべき考えましょう」

 

 アイアンハイドの傍に立つノワールが何ともいえない表情で言う。

 腕を組んで立つミラージュの近くで座り込んでいたブランも頷く。

 

「そして、わたしたちはどうしたらゲイムギョウ界に帰れるのか……」

 

 その言葉に答える者はいない。

 ハアッとノワールは溜め息を吐いた。

 

「そもそも、この場所ではシェアをほとんど感じない。これじゃあ変身もできないわね」

 

 この世界に、女神たちを信仰する民はいない。

 シェアを供給するシェアクリスタルもない。

 つまり、ゲイムギョウ界では圧倒的強者である女神たちは、ここでは普通の人間となんら変わらないということだ。

 

「それだけではありません。どの道、食糧や水を手に入れることができなければ、いずれは……」

 

 ベールも顔を伏せる。

 八方ふさがりとはこのことか。

 場の空気が重くなっていく。

 だが、そんな空気を読まない者がいた。

 

「もう! みんな暗いよー! 大丈夫、何とかなるって!!」

 

 ネプテューヌだ。

 

 ノワールは当惑した声を出す。

 

「大丈夫って、何を根拠に……」

 

「根拠なんかないけどさ! ほら、わたし主人公だし! 主人公補正でなんとかなるって!」

 

 明るく元気に、ネプテューヌは宣言する。

 それを見て女神もオートボットも目を丸くするが、女神たちはやがて溜め息を吐いてから淡い笑みを作る。

 

「まったく、あなたって娘は……。でも、確かに、あなたが簡単に死ぬなんて思えないわね」

 

「そうね。不思議と、大丈夫な気がしてきたわ」

 

「まあ、まずはやれるだけやってみましょう。諦めるのは、それからでも遅くはありませんわ」

 

 ノワールもブランもベールも、ネプテューヌの底なしの明るさに感化されて調子を取り戻す。

 クヨクヨしてなんかいられない。帰るべき場所があるのだから。持っている人々がいるのだから。

 

「元気を取り戻したようなだな」

 

 笑い合う四人の女神たちを見てオプティマスはフッと微笑んだ。

 まったくネプテューヌのバイタリティには驚かされてばかりだ。

 

「で、実際これからどうする?」

 

 ジャズがオプティマスに問う。

 女神たちが立ち直ったのは、もちろん嬉しいが、現実的にこれからのことを決めなくてはならない。

 

「ひとまず、アイアコンを目指そう。オートボットが生き残っているとすれば、もうあそこしかない」

 

「アイアコン?」

 

 聞きなれない単語に、ネプテューヌは首を傾げる。

 

「我々、オートボットの首都だ。位置情報からすると、ここからそう遠くはない」

 

  *  *  *

 

 最初に跳ばされてきた場所から移動すること数時間。

 荒れ果てた大地を進むトレーラートラックを中心とした一団。

 どこまで行っても廃墟しかない。

 金属製の建造物からはまったく気配を感じない。

 トランスフォーマーは愚か、あらゆる生き物の息吹が感じられなかった。

 

「それで、アイアコンはどんな所なの?」

 

 ビークルモードのオプティマスの運転席に座るネプテューヌは、たずねた。

 沈黙しているのは自分らしくないし、何か話したかった。

 

「先にも言った通り、オートボットの首都だ。この星に残るオートボットの戦士と、非戦闘員は全てそこに集まっている」

 

「非戦闘員?」

 

「ああ、我々トランスフォーマーだって、全てが戦士や兵士なわけじゃない」

 

「そうなんだ」

 

 少し驚くネプテューヌ。

 これまで出会ったトランスフォーマーは皆、戦闘員だったが、考えてみれば当たり前のことだ。

 

「そしてアイアコンには、アルファトライオンがいらっしゃる」

 

 続けられたオプティマスの言葉には、懐かしさが滲んでいた。

 

「あの方なら、きっと良い知恵を授けてくださるだろう。……さあ、この丘を越えればアイアコンだ」

 

「わーい! やっと休めるよー!」

 

 自分は歩いていないくせに調子のいいことを言い出すネプテューヌ。

 しかし、その無邪気さにオプティマスは可能なら薄く微笑んだだろう。

 

  *  *  *

 

 アイアコン。

 そこは巨大なセンタードームを中心としたオートボットの都市だ。

 かつてはサイバトロンの政治と文化の中心地であり、戦争が激化してからは要塞化され難攻不落を誇った。

 

 だが今は。

 

 高層建築は倒壊し。

 

 それらを結ぶ高架橋は崩れ落ち。

 

 そして全ての中心、センタードームは半分が崩れていた。

 

 もはやアイアコンは廃墟と化していた。

 

 その外延部に立つビルの一つ。倒壊を免れたビルの屋上で、一人のオートボットが周辺を索敵していた。

 緑がかった肥満体の男性を思わせるボディに、髭のようなパーツで覆われた顔。そして全身に武器を装備して、実包を葉巻のように加えている。

 名をハウンドという、そのオートボットは、センサー類を最大限働かせる。

 もちろん、ディセプティコンの影がないか探るためだ。もし、敵影を見つけたら思い知らせるのみ。

 しかし、今日センサーが捉えたのは、ディセプティコンではなかった。

 

「そんな、まさか……!?」

 

 思わず口に出すハウンド。

 走ってくる六輪の輸送機械は、姿こそ違うが間違いない。

 

「オーイエー! 戻ってきた! オプティマスが戻ってきたぞ!!」

 

 他のビルの上。

 同じく索敵していた青い体の鎧武者を思わせるオートボット、ドリフトは、感極まったように口角を吊り上げた。

 

「ついに、希望の光が、灯ったか」

 

 そして、ビルから飛び降りると同時に戦闘ヘリに変形し、オプティマスの下へと飛ぶ。

 

「ハッハー! 宇宙の自由を守るリーダーが戻ってきたか!」

 

 道路を走るオプティマスの横を、鮮やかな緑のコートを羽織ったような姿のオートボット、クロスヘアーズがロボットモードで走る。

 クロスヘアーズはオプティマスの前に立つと気さくに話しかけた。

 

「生きてると思ってた、信じてたぜ!」

 

 その横に変形しながら着陸したドリフトも、クロスヘアーズの肩を叩きながら礼をする。

 

「絶対に帰ってきてくださると、信じておりました」

 

 少し離れた所で壁によりかかったハウンドは、ニヤリと笑った。

 

「さあ、いっちょ派手にいくか! 軍団の再結成だ!」

 

 オプティマスはネプテューヌを降ろすとロボットモードに戻り、居並んだオートボット戦士たちに向かって声を発した。

 

「ハウンド、ドリフト、クロスヘアーズ。皆、よく無事でいてくれた」

 

「もったいない、お言葉です」

 

 主君とあがめるオートボット総司令官の言葉に、もう一度礼をするドリフト。

 他のオートボットたちも女神を降ろしてロボットに戻り、再会した仲間たちと話始める。

 

「生きてたか! この錆塗れのデブ野郎が!」

 

「テメエこそな! 死にぞこないのガラクタがよ!」

 

 アイアンハイドとハウンドは言っている言葉は汚いが、笑顔で肩を叩きあっている。

 

「相変わらずしぶといな、どうせまたコソコソ隠れてたんだろ」

 

「…………」

 

「無視すんじゃねえ!!」

 

 ミラージュに突っかかるクロスヘアーズだが、無視されてさらに怒る。

 

「……で、この生ものどもは何だ!」

 

 少しの間、苦虫を噛み潰したような顔をしていたクロスヘアーズだが、突然コートの裏から銃を抜くとネプテューヌたちに向ける。

 

「わ! 何さいきなり!」

 

「ちょっと! 急に銃なんか抜いて、危ないじゃない!」

 

 しかし、それで臆する女神たちではなく、ネプテューヌとノワールは食って掛かり、ブランとベールも緑コートのオートボットに武器を向ける。

 

「……何のつもりだ?」

 

 クロスヘアーズがそう問うのは、女神たちではなく、自分の首にブレードを突きつけるミラージュに対してだ。

 

「銃を下ろせ」

 

「何で、テメエの言うことを聞く必要がある?」

 

 いつの間にかクロスヘアーズには女神たちに向けているのとは反対の手で銃を抜き、ミラージュの胴に向けていた。

 

 一触即発。

 

「よさないか二人とも! クロスヘアーズ、彼女たちは味方だ!」

 

 だが、オプティマスが二人を止めた。

 総司令官の制止に、赤と緑のオートボットは渋々ながら武器を引っ込める。

 

「お味方? しかし、何とも面妖な……」

 

「確かに。見たこともない生き物だぜ」

 

 ドリフトとハウンドは懐疑的な声を出す。

 それも無理もないこと。すでにゲイムギョウ界に慣れ親しんだオプティマスたちと違い、サイバトロンに残った者たちにとって、女神は単なる異星の有機生命体に過ぎないのだから。

 

「そう言うなよ。実際、頼りになる味方さ」

 

「素直じゃない上に、じゃじゃ馬だがな」

 

 明るい声を出すジャズとアイアンハイドだが、その言葉の内容にベールは苦笑しノワールは頬を膨らませる。

 

「とにかくだ。紹介しよう、彼女たちはネプテューヌ、ノワール、ブラン、そしてベールだ。彼女たちは女神と呼ばれる存在で、我々の協力者なのだ」

 

 オプティマスがとりあえず、オートボットたちに女神のことを紹介する。

 

「そして、彼らはハウンド、ドリフト、クロスヘアーズ。皆、オートボットの戦士だ」

 

「よろしくねー!」

 

 元気よく声を上げるネプテューヌ。

 しかし、三人組のオートボットの反応はやはり芳しくない。

 どこか戸惑っている様子のドリフト。

 興味なさげなハウンド。

 そして、不機嫌そうに鼻を鳴らすような音を出すクロスヘアーズ。

 その反応に、ネプテューヌは何となく既視感を憶えた。

 確か、アイアンハイドたちも最初に会ったころはこんな感じだった。

 オプティマスは一つ排気すると、話を進める。

 

「それで他の仲間たちはどこにいる? あれから何があった?」

 

 総司令官の問いに、三人を代表してドリフトが答える。

 

「センセイ、歩きながら話しましょう。我らの基地にご案内しますゆえ」

 

「頼む」

 

 オプティマスが頷くのを確認してから、ドリフトは残る二人を伴って歩き出す。

 女神とオートボットたちは、その後を追って移動を開始し始めるのだった。

 

  *  *  *

 

「オプティマス殿たちが姿を消されてからというもの、なぜかディセプティコンの攻撃も止みました。今は時折、偵察部隊が現れる程度です。」

 

 ドリフトに先導されて廃墟の中を進む一同は、やがて地下へ通じる通路に入る。

 女神たちはそれぞれのパートナーに抱えられていた。

 

「しかし、アイアコンの都市機能はもはや維持できず、我らオートボットは地下に基地を造り、そこに潜むことにしました。アルファトライオン様を中心に、無事な者が集まって共同生活を始めたのです」

 

「全員じゃねえがな。結構な数のオートボットがこの星を出て行ったよ。新天地ってやつを求めてな」

 

 どこか遠い目をして補足するハウンド。

 その間にも一同は、地下へと続く階段を下へ下へと降りていく。そして巨大な扉の前に辿り着いた。

 

「……着きました。こちらです」

 

 ドリフトは扉の前の端末を操作し、扉を開く。

 左右に開きゆく扉の正面に立つオプティマスは、顔には出さないが不安を感じていた。

 自分は、事故が原因とは言え長らくサイバトロンを留守にしていた身だ。その自分が今更受け入れてもらえるだろうか?

 扉が開き、オプティマスのオプティックに飛び込んできた光景は……。

 

「総司令官! お帰りなさい!」

 

「だから言っただろう! 必ず生きてるって!」

 

「オプティマス、万歳!」

 

 歓声を上げる、たくさんのオートボットたちだった。

 体の大きさも形状も色も様々なオートボットが、オプティマスたちの帰還を喜んでいる。

 そこは、大きな部屋だった。雑然としているが、天井からの照明は明るく賑やかな雰囲気だ。

 アイアンハイドやジャズ、ミラージュの周りにもオートボットたちが集まってくる。

 その中に、足が一輪になった女性型オートボットがいた。

 

「久し振りね」

 

 その女性オートボット、クロミアはアイアンハイドに親しげに話しかける。アイアンハイドも笑顔で返した。

 

「ああ、久し振り。……会いたかったぜ」

 

 そう言ってクロミアを抱き寄せる。

 周囲のオートボットたちがはやし立てるのも構わず、再会した恋人の腕の中で笑顔を大きくするクロミア。

 ジャズとミラージュの周りには、女性型オートボットが集まっていた。

 

「ジャズ! 帰ってきてくれたのね!」

 

「ミラージュ様~♡ こっち向いて~♡」

 

 黄色い声を上げるウーマンオートボット。

 中でもの赤いカラーのファイヤースターと水色のムーンレーサーは、にこやかに手を上げるジャズと、そっぽを向くミラージュに熱視線を送っている。

 笑い合うオートボットたち。

 と、騒いでいたオートボットたちが急に静まりかえり、その人波が二つに割れて奥から背の高いオートボットが歩いてきた。

 痩身の体は赤いカラーリングをしていて、金属繊維のマントを羽織っている。手には長い杖を持ち、金属製の長い髭が特徴的な顔は、穏やかで高い知性を感じさせた。

 まるで、昔話の魔法使いの老人がそのままロボットになったようだ。

 老人ロボットは、柔和に微笑む。

 するとオプティマスは頭を下げた。

 

「アルファトライオン」

 

「オプティマス、若き勇者よ。よくぞ帰ってきてくれた」

 

 そして、アルファトライオンは杖を投げ捨てオプティマスを抱きしめた。

 

「息子よ。おまえが無事でいてくれて、こんなに嬉しいことはない!」

 

「……私もです、父上。無事で良かった」

 

 不器用に微笑むオプティマス。

 オートボットの地下基地は、一際大きな歓声に包まれるのだった。

 

 ネプテューヌを始めとした女神たちは、その輪から少し離れた所に立っていた。

 どのオートボットも、彼女たちのほうには見向きもしない。

 こんな時、真っ先に何か言いそうなネプテューヌは、彼女らしくない複雑な表情でオプティマスを見つめていた。

 ノワールは、寂しげにアイアンハイドの笑顔を見ている。

 ベールは曖昧に微笑み、ブランは少しだけ涙をこらえているように見える。

 気付いてしまったからだ。

 

 この場所こそが、自分たちのパートナー(オートボット)の帰るべき場所なのだと。

 

 ……自分たちの、傍ではなく。

 




今週のQTFに誤解を恐れず、あえて言いたい。
全世界規模で見た場合、むしろ人気にあやかっているのはBASARAのほうだと。

今回の冒頭の電波なモノローグは、地味にこの物語の根幹に触れるものだったり。

そして、何で言葉が通じるの?とか、何で呼吸できてるの?とか思った方は鋭い。

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