超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION   作:投稿参謀

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今回、女神たちの敗北描写があります。お嫌いなかたはご注意ください。

※2015年12月13日、改稿。


第5話 自信過剰は敗北フラグ

 海底油田B-106は、いまや巨大な鉄の骸と化そうとしていた。破壊の爪痕がそこかしこに残され炎と煙が立ち昇る。愛社精神など欠片もない従業員たちはすでに逃げ出していた。

 彼らは賢い選択をして命が助かったと思っているが実際には運が良かっただけだ。

 もし、ここを襲撃した者たちが気まぐれの一つでも起こせば橋の上を、あるいは海上を逃げる従業員たちを皆殺しにすることなど容易いことだ。

 彼らからすれば、人間などと言う下等な生き物の生死に興味が無いのだから。

 それをしないのは、彼ら……ディセプティコンたちにとってもっと重要なことがあるからに過ぎなかった。

 

 油田の特に高い位置に、赤い(オプティック)を持つ異形の人型が陣取っていた。

 背中に翼を備え、逆三角形のフォルムと猛禽を思わせる逆関節の脚を持つ、そのトランスフォーマーは、不機嫌そうに辺りを見回していた。

 

「まったくなんだってこの俺様が見張りなんぞしなきゃいけねえんだ。それもこんなちんけなエネルギープラントなんぞのよぉ」

 

 不満を口にしながらも一応、各種センサーを研ぎ澄ませるが、そんな彼の不満を聞いている者がいた。

 

「スタースクリーム! 貴様、真面目にやらんか! このプラントの制圧はメガトロン様のご命令なのだぞ! 我らディセプティコンにはエネルギーが必要なのだ!」

 

 そう声を張り上げるのは、ヘリポートに陣取る、翼を持ったディセプティコンを大きく上回る巨体を持つ黒い色のディセプティコンだ。

 人型ではあるが、どこか歪な姿をして、背中にたたまれたローターを背負っている。

 このディセプティコンこそ、あの大型ヘリの真の姿である。

 

「うるせえよ、ブラックアウト! こんな幼稚な造りのプラントからじゃ、碌なエネルギーが採れねえのは分かりきってるだろうが! メガトロンは何を考えてやがるんだ!」

「なんだと! メガトロン様のご命令は全てに優先されるのだぞ!」

「ケッ! メガトロン様のご命令だから~、メガトロン様がおっしゃったから~……メガトロンがいねえと何もできない腰巾着が、俺様に意見してんじゃねえよ!」

「なんだと、貴様……」

 

 ブラックアウトと呼ばれた巨体の異形は両腕に備え付けられた機銃をスタースクリームと呼ばれた翼を持った異形に向ける。

 

「ええい! もう、我慢できん!!」

「やるか?」

 

 スタースクリームの方も両腕の機銃を向ける。

 しかし、両者の武器が発砲されることはなかった。

 

「待て、兄者。武器を収めよ」

 

 今にも発砲しそうなブラックアウトを諌めたのは、彼と全く同じ姿をした、しかし全身灰色のディセプティコンだ。

 

「何故止めるのだ、グラインダー!」

「今は我らも数が少ない、こんな奴でも貴重な戦力だ。メガトロン様も奴を殺すのをお望みにならない」

 

 実はブラックアウトがスタースクリームに挑んでも勝ち目がないと思うから、というのも理由なのだが、兄と慕う同型機のプライドを傷つけないために言いはしない。

 

「くッ……」

 

 灰色のブラックアウトは黒い同型機に諌められ、渋々ながらも機銃を引っ込める。

 メガトロンの名を出されては、聞かざるを得ない。

 

「……あん?」

 

 スタースクリームはオプティックをしばたたかせ、もう一度ヘリ型ディセプティコンを見た。ブラックアウトが灰、グラインダーが黒だ。

 

「……なんだ、スタースクリーム。じろじろ見て」

 

 グラインダーが訝しげにスタースクリームを見る。

 

「……お前ら今、色が入れ替わってなかったか?」

「なにを言っているのだ」

「ついにオプティックがどうかしたか?」

 

 グラインダーとブラックアウトが呆れた声をだす。その色は両方黒だ。

 

「……お前ら、今度はおんなじ色になってねえ?」

「馬鹿を言ってないで見張りに戻れ!」

 

 ブラックアウトがたまらず怒鳴る。

 その横ではグラインダーがやれやれと首を横に振っていた。

 今度は黒と灰で正しい色だ。

 スタースクリームは首を捻りながらも視線を遠く水平線の向こうへ向ける。

 その時、スタースクリームのセンサーは水平線の彼方から飛行して近づいて来る存在を捕らえた。

 

「この反応は……エネルゴンか? いや、似てるが違うな。なんだこりゃあ?」

 

 数は四つ、まるで感じたことのない大きなエネルギー反応だ。

 

 しかし相手が何者だろうとやることは一つ。

 

「おい、ヘリ兄弟! お客さんだぜ。数は四つ、9時の方角だ」

「なに! オートボットか!」

「あ~、多分違うな。だが何者だろうが俺たちの邪魔をするなら……分かってるな?」

 

 スタースクリームが凶悪に笑う。

 ブラックアウトが無言で愛用のプラズマキャノンを展開して答えとし、グラインダーもそれに倣う。

 これから起こる戦い、あるいは殺戮の予感に、三者は体内のエネルゴンが滾るのを感じていた。

 それは彼らディセプティコンにとって、なによりの喜びなのだから。

 

  *  *  *

 

「酷い……」

 

 油田上空へと到着したネプテューヌは、破壊に包まれた油田の様子に思わず声を漏らす。

 

「……死者がでなかったのが、せめてもの救いね」

 

 ノワールの声は少し震えていた。

 自分の国を愛する彼女は、この惨状を見て改めて怒りがわいてきたらしく、手に持った大剣を握りしめる

 

「で、あいつらがその、ディセプティコンだがデストロンだかか。さっさと片付けようぜ」

 

 油田の上に陣取る異形のロボットたちを睨みながら、手元に得物である巨大な戦斧を呼び出す。

 

「見るからに悪者といった風情ですわね。……優美さの欠片もありませんわ」

 

 ベールもまた、槍を呼び出しつつ顔をしかめる。

 彼女からするとディセプティコンの異様な姿は美意識から外れた物であるらしかった。

 

「みんな油断しないで!」

 

 ネプテューヌの手に大振りの太刀が現れる。四人の女神は、油田に向けて降下していく。

 

「そこの、鉄くずども! 私の国で好き勝手するなんて、良い度胸してるじゃない!」

 

 ノワールが手にした大剣を一番体の小さなディセプティコンに向け吼える。

 そのディセプティコン、スタースクリームは女神たちをつまらなそうに見回す。

 

「なんでえ、デカいエネルギーが近づいてくると思ったら、有機生命体のチビじゃねえか。 期待して損したぜ」

 

 ヘリポートに陣取るブラックアウトも、不機嫌そうにフンと排気する。

 

「下等生物が! 貴様らになんぞ用はない。死にたくなければ、とっとと失せろ!」

 

 唯一、ブラックアウトの隣に控えるグラインダーだけが冷静に四人の女神たちを観察していた。

 

「兄者、あまり油断しない方が良い。あの生物たちの戦闘力は未知数だ」

 

 その言葉に反応したのは、ブラックアウトではなくスタースクリームだった。

 

「ケッ! こんなチッポケで下等な原住生物に、俺様が遅れを取るわけがねえだろう!」

 

 完全にこちらのことを見下した言葉の数々に、女神たちの怒りのボルテージが上がっていく。

 

「舐めたこと言ってくれるじゃねえか。おい!一番槍は貰うぞ!」

 

 女神のなかでも短気なブランはそう言うと、戦斧を大きく振りかぶりスタースクリームへと斬りかかる。

 

 凄まじい重さと鋭さの一撃だ。

 

 しかしスタースクリームはその巨体に見合わぬ素早さで後ろに跳んでそれをかわした。

 

「なんだと!?」

 

 ブランがその予想外に軽快な動きに驚きの声を上げる。

 

「くたばれ」

 

 スタースクリームは後ろに跳びながら腕の機銃をブランに向け撃つ。無数の銃弾がブランに降り注ぐ。

 しかし、その体の前に障壁が現れ銃弾を防いだ。

 

「なにィ!?」

 

 スタースクリームはオプティックを見開いた。

 トランスフォーマーたちにとって、有機生命体がこんな能力を持っているのは想定外だ。

 

「チッ、デカいナリしてるわりには、すばやいじゃねえか」

「……攻撃を物理的に弾くバリアだと?」

 

 トランスフォーマーからしてみても、飛んでくる銃弾を完全に防ぐバリアというのは非常識な物だ。

 お互いに、この未知の敵が油断ならない相手であることを察し、睨み合う。

 一拍置いて、ブランが今度は横薙ぎに戦斧を振るう。

 

「テンツェリントロンぺ!」

「しゃらくせえ!」

 

 スタースクリームは今度は避けず、右手を丸鋸状に変形させてブランの一撃を受け止める。

 硬い音が鳴り響き、戦斧と丸鋸がぶつかり合う。

 両者の力は最初こそ拮抗していたが、徐々にブランが押され出し、ジリジリと後ろへ下がりだす。

 ブランは女神のなかでも一撃の重さなら並ぶ者がいない。

 その一撃を易々と受け止め、あまつさえ押し返す相手の力に改めて戦慄を感じるブラン。

 一方、スタースクリームも、ブランの力と斧の硬度に驚き苛立っていた。

 予定では、このチビは武器ごと真っ二つになっていたはずなのである。

 しかし、実際にはそうはならず、自分が押しているとはいえ拮抗状態になっている。

 突如、真上からスタースクリームめがけ、巨大な槍が飛んできた。

 槍はスタースクリームの背に命中するが、その体を貫くまでには至らず、細かく砕け散る。

 しかしダメージを受けたスタースクリームはすぐさま飛び退き体勢を立て直す。

 

「これは…… ベールか!」

 

 ブランが上空をみると緑の女神が、新たな槍を手の中に出現させているところだった。

 

「余計なマネしやがって……」

「あら? 押されていたように見えましたけど?」

 

 不機嫌な声を出すブランの隣に降り立ち、ベールは悪戯っぽく微笑む。

 そんな二人を見てスタースクリームはさらなる怒りを覚えた。

 

「ムシケラの分際で…… よくも俺様のボディに傷をつけてくれやがったな! 許さねえ、てめえら二匹ともジワジワと嬲り殺しにしてやる!」

 

 飛びかかってくるスタースクリームをヒラリと躱し、二人は空中高くへと飛び上がる。

 

「あら、随分と品のないことですの」

「ああ、程度が知れるぜ」

「言いやがったな!」

 

 スタースクリームは背中のジェットを吹かして空へと舞い上げる。

 

「飛べんのかよ、アイツ!」

「あんな不恰好な姿で空を飛ぶだなんて」

「聞こえてんだよ、チビどもが! 俺様を誰だと思ってやがる!」

 

 女神二人の物言いに、スタースクリームは激昂する。

 

「知らねえな」

「知りませんわ」

 

 だが女神達は、興味なさげだった。

 スタースクリームはワナワナと体を震わせていたが、やがて顔を伏せ深く排気した。

 

「……なら、死ぬ前に教えてやるよ」

 

 そしてスタースクリームはギゴガゴと音を立て変形した。

 

 ロボットから、航空力学の粋を集めて作られた、最高の機動性とステルス性を兼ね備えたジェット戦闘機の姿へと。

 

 

「……俺様の名はスタースクリーム。ディセプティコン航空参謀、スタースクリーム様だ!! 空を飛べることを、後悔させてやる!!」

 

  *  *  *

 

 一方、ネプテューヌとノワールは、ヘリポート上でブラックアウトとグラインダーと対峙していた。

 両腕の機銃を乱射していたブラックアウトはそれを中断し空を飛び回るスタースクリームを見てフンッと排気音を鳴らす。

 

「あの馬鹿者め、油断しおって」

「しかし兄者、空中において、あの二体にスタースクリームほどの戦闘力があるとは思えない。これまでだろう」

 

 プラズマキャノンによる攻撃を行おうとしていたグラインダーの声はあくまで平静だ。

 

「ずいぶんと軽く言ってくれるじゃない」

 

 ノワールが大剣を握り締め、ネプテューヌは無言で太刀を構え直す。

 二人とも目立った傷こそないものの肩で息をしている。

 

 この二体、思っていた以上の強敵だ。

 

 多彩な火器による弾幕を前に、さしもの女神と言えど回避重視の戦いになってしまった。

 機銃を障壁で防御し、飛んでくるプラズマ弾を回避していた紫と黒の女神だったが、接近することが出来ず攻撃を当てることができない。

 

「フンッ! スタースクリームはいけ好かない奴だが空中戦での実力は確かだ! 貴様らの仲間も終わりだな」

 

 ブラックアウトは相変わらず不機嫌そうだ。だがスタースクリームの実力は認めているらしかった。

 

「どうかしら? 仮にあのスターなんとかと言う奴が二人より強かったとしても、あなたたちをすぐに倒して助けに行けば、四対一。十分に勝ち目はあると思うけど?」

 

 ネプテューヌは不敵に笑う。強がりな部分はあるが、それでも自信があるのだ。

 

「そうね、こんな奴ら私ひとりでも十分よ。なんならあなた、二人を助けに行ったら?」

 

 ノワールも自信満々に笑みを浮かべる。

 

「あなたたちの弱点も見えてきたしね」

「……なんだと?」

 

 ブラックアウトは眉根をひそめた。

 

「あなたたち、さっきから私たちを近づけまいとしてるわよね? それは、どうしても私たちを近づけたくない……攻撃を受けたくない理由があるから、じゃないかしら?」

 

 ブラックアウトはチィッと舌打ちのような音を鳴らし、グラインダーもオプティックを鋭く細める。実際、二体の装甲はその巨体と厳つい外観に反し薄い。

 空飛ぶヘリに変形できるが故の弊害だ。

 だからこそ二体で死角を補いあい、弾幕を張ることで敵の接近を防いでいたのだ。

 それを見て、ノワールは笑みを大きくする。

 

「どうやら図星みたいね! それさえ分かればこっちのものだわ」

「それが分かったとしてどうなる! 貴様らを近づけなければいいだけのこと!」

「こうするのよ!」

 

 ネプテューヌが大きく腕を掲げると、その手にエネルギーが集中し、巨大な剣を形作る。

 

「32式エクスブレイド!」

 

 その声とともに腕を振り下ろすと、剣は凄まじい速さで飛んでいく。

 ブラックアウトとグラインダーは避けようとするが間に合わない。

 剣は狙い違わずブラックアウトに命中する。しかしブラックアウトはとっさに左腕で防御していた。

 

「この程度!」

「甘いわ! レイシーズダンス!」

 

 いつの間にかその懐へと潜りこんでいたノワールが、鋭い剣技と蹴りを連続で浴びせかける。

 その姿はまさにダンスのようだ。

 

「ぐおおお!!」

「兄者!」

 

 グラインダーがすぐさま手首のローターブレイドを起動させ、ノワールを切り裂こうと腕を振るが、ノワールは身を翻してそれをすり抜け、そのまま飛び去る。

 

「兄者! 大丈夫か!」

「ぬううう、この程度ぉ」

 

 ダメージは通ったものの、戦闘不能にまでは至らず体勢を立て直すブラックアウト。

 ノワールはネプテューヌの隣に移動する。

 

「さすがに一撃では倒れてくれないか、でもこの調子ならいけそうね」

「油断しないでノワール。まだなにかしてくるみたいよ」

 

 ネプテューヌの言葉のとおり、ブラックアウトは右腕のプラズマキャノンにエネルギーを集中させた。

 

「いい気になるなよ…… こうなればコイツの最大出力で……」

「!? 兄者、ここで最大出力のプラズマキャノンはまずい! せっかく制圧したプラントを破壊してしまう!」

 

 それを見て慌てて止めたのはグラインダーだ。

 

「だとしても! 下等生物に舐められっぱなしでいられるか!」

「落ち着け兄者! ……そろそろ来るだろう」

「……そうか! そうだったな」

 

 二体でなにやらツーカーの会話を繰り広げるブラックアウトとグラインダー。伊達に兄弟は名乗っていないということか。

 ヘリロボット達はネプテューヌとノワールに向き直る。

 

「ククク、我ら二人を相手に良く戦った。下等生物にしては上出来と褒めてやる!」

 

 ブラックアウトはあくまでも尊大に言い放つ。

 ネプテューヌとノワールは二体から目を離さずに武器を構え直す。

 

「何よそれ? 言っとくけどそういう台詞はこの世界では負け犬の遠吠えって言うのよ」

「ノワール、気を抜かないで」

「実際のところ、貴様らの戦闘力は驚くべきものだ。俺と兄者の二人だけでは分が悪いかも知れぬ」

 

 グラインダーは冷静だ。

 あくまでも事実を言っていると言いたげた。

 しかし、ブラックアウトはニヤリと笑った。

 

「俺たち二人だけならな! スコルポノック、やれ!」

 

 その瞬間、ネプテューヌとノワールの真下の床を突き破って、突如新たなロボットが姿を現しネプテューヌとノワールを両腕の爪で捕まえる。

 

「きゃあッ!」

「きゃっ! 放しなさいよ!」

 

 それは先端が槍の穂先のごとく鋭く尖った長い尾と数対の節足、腕の先に三本の爪を備えたその姿は巨大なサソリを思わせるロボットだ。

 

「ふははは! でかしたぞスコルポノック! それでこそ我が分身!」

 

 サソリロボ、スコルポノックは『どうだすごいだろう!』と言わんばかりに両手に掴んだ得物を高く掲げ、主人にして共生者たるブラックアウトのもとへと這い寄って行く。

 二人の女神は体をよじり、全身に力を込めて、なんとか爪から逃れようとするがうまくいかない。

 そもそも、このメカサソリの力で握られて、潰されないのが異常なくらいなのだ。

 女神であるが故の体の頑丈さだった。

 

「うあああ!!」

「きゃああ!!」

 

 と、上空で爆発が起こり、何かが二つ、ブラックアウトとスコルポノックの前に落ちてくる。

 

「ブラン! ベール!」

 

 それは、上空でスタースクリームと交戦していたはずの白と緑の女神だ。

 二人は落下中になんとか体勢を立て直し、油田の床に着地する。

 

「くそッ…… あのスターなんとかって言う奴、言うだけのことはありやがる!」

 

「女神が二人がかりで、遅れをとるとは……」

 

 二人とも大きな傷こそないものの、かなりのダメージを受けてしまったらしく、肩で息をしている。

 ブランとベールはスタースクリームに空中戦を挑んだものの、変形を繰り返し異常な軌道で飛び回るスタースクリームに翻弄され、ついにミサイルを撃ち込まれて落ちてきたのだ。

 そしてスコルポノックの背後に、スタースクリームがゆっくりと降りてきた。

 

「ひゃははは!! どうだ! これが俺様の……スタースクリーム様の実力よ!!」

「フンッ! いい気になるなよスタースクリーム! 貴様が手間取っている間に、我らはこやつらを二匹捕らえたぞ!」

「ああん? ブラックアウトよお、捕まえたってのはどういうことだ? ま~だぶっ殺してなかったのかよ。ホントにのろまだなぁ」

「クッ、これからやるところだ! さあ、スコルポノックよ、お前の自慢の爪でそいつらを握り潰して……いやプラズマキャノンで粉々のほうがいいか? それとも尾で突き刺すか?」

 

 次々と出てくる恐ろしい言葉に、さしものネプテューヌも冷や汗を垂らす。

 しかしスコルポノックは女神たちを掴んだままオロオロとするばかりで、一向に二人に止めを刺そうとしない。

 

「……兄者、一つに絞ってやれ。スコルポノックが混乱している」

 

 グラインダーが冷静に、しかしどこか呆れた声を出す。

 実はこのスコルポノックというサソリメカ、トランスフォーマーではなく知能の低い別種の金属生命体だ。

 普段は主であるブラックアウトと共生し、場合によって切り離され命令をこなす。

 だが動物並の知能しかなく、主に従順であるがゆえに複雑な命令には対処できない。

 今回も、油田の内部を探る命令を受けて、ここの奥深くに侵入し、その後新たな命令を通信で受けてネプテューヌたちの真下に移動してきた。

 『二体の敵を捕らえよ』と言う命令を受けて忠実にそれを実行し、それ以上のことはしない。

 スコルポノックの爪の内側にはプラズマキャノンが仕込まれているにも関わらず、女神を掴むだけに止まっているのはそういうワケだ。

 

「おお、すまんスコルポノック! それでは……」

「させるかよ!」

「させませんわ!」

 

 ブラックアウトが自分の共生体にとどめの指示を出そうとした瞬間、ブランとベールが弾かれたようにスコルポノックに飛びかかる。

 しかし、スタースクリームが左腕をミサイル砲に変形させてそれを撃ち、ブランとベールを撃墜する。

 

「うああああッッ!!」

「きゃあああッッ!!」

「ブラン!! ベール!!」

 

 ネプテューヌが叫ぶ。

 とっさに障壁を展開し直撃こそ防いだものの、白と緑の女神はそのまま吹き飛ばされヘリポートの床に叩き付けられた。

 ネプテューヌとノワールの顔がいよいよ青くなる。

 

「ヒャハハハハ!! どうした、そんなもんか? 大したこたなかったなぁ!!」

「おい、スタースクリーム! 貴様、スコルポノックに当たるところだったぞ!!」

「落ち着け兄者、とりあえず後にしよう」

「むう…… そうだな、まずはこの下等生物どもに止めを……」

 

 しかし、その時ディセプティコンたちは気が付いた。

 彼らの鋭敏なセンサー各種は、いつのまにかこの油田のなかをなにかが移動していることを察知した。

 

 それが、自分たちのよく知る存在であることも。

 

 少し遅れて女神たちも気が付いた。

 床が振動し、なにかが壁を突き破るような音が何回も聞こえてくる。

 勝ち誇っていたディセプティコンたちの表情が剣呑なものになり、慌てているような気配さえある。

 そして突然、ヘリポートの横の構造物を突き破って、赤と青のファイヤーパターンのトレーラートラックが現れた。

 

 面食らったのも無理はない。

 

 トラックはそのままスコルポノックを弾き飛ばす。

 サソリメカはたまらず両腕に掴んでいた女神たちを放してしまった。

 狼狽した様子のスタースクリームが、トラックを指差しながら発声回路から言葉を絞り出す。

 

「て、てめえは、てめえはまさか!?」

 

 トラックは、倒れ伏すブランとベール、彼女たちを助け起こすネプテューヌとノワールと、騒然とするディセプティコンたち、その間に止まる。

 

 まるで女神たちを守るように。

 

 ネプテューヌの見ている前で、トラックは変形してゆく。

 

「オプティマス・プライム!!」

「オプっち……」

 

 スタースクリームが吼え、ネプテューヌが呟く。

 その間にもトラック……オプティマス・プライムは変形を終え、赤と青のカラーリングを持つ金属の戦士が立ち上がった。

 オプティマスが無言で拳を握り構えをとると、その顔がバトルマスクと呼ばれる装甲に包まれる。

 

 さあ、第二ラウンドの始まりだ!

 




TF的お約束その2 作画ミス。
グラインダーが、ブラックアウトを兄と慕っているというのは、もちろん作者の捏造です。せっかくの名有りの同型機、兄弟だったらおもしろいかな? と思いまして……
スパークを分けた本当の兄弟ではなく、あくまでも義兄弟と設定しています。
また、スタースクリームの実写版における肩書きは、『航空宇宙司令官』となっておりますが、しっくりこないので、おなじみの『航空参謀』といたしました。

それにしても、まともな戦闘を書いたのは初めてですが、やっぱり難しいですね。

※グラインダーの色を『銀』から『灰』に変更。

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