超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION   作:投稿参謀

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QTF、それをツッコンじゃあかんよ……。
というかロックダウンよ、TFファン的にはあんたも結構なツッコミどころなんですが……。


第49話 キョウダイ

 あのヒトと初めてあったのは、まだ幼体のころだ。

 オールスパークから生まれ落ちて、縦穴を這い出た時、最初に傍にいたのがあのヒトだった。

 同型であることもあって、ただ何となくその後もつるんでいた。

 何のことない、それだけの関係だ。

 やがてディセプティコンとして、何となくオートボットと戦うようになった。

 当時はまだメガトロン様が台頭してきておらず、ディセプティコンはいくつもの小集団に分かれていて、俺もその一つに属して、あのヒトと共に戦っていた。

 自慢するわけじゃないが、俺たちは一帯では最強のチームだった。だからだろう、増長していた。慢心していた。

 ある時、強力なオートボットの部隊が俺たちを襲った。

 その圧倒的な戦力の前に俺たちはなす術もなく、俺は足に被弾して動けなくなってしまった。

 誰もが俺を見捨てて逃げていった。

 ディセプティコンとして、それは当然のことだったし、俺もそれを恨んだりはしなかった。

 ただ、「ああ、やっぱり」と思っただけだ。

 

 その時だ。

 

 手が、差し伸べられた。あのヒトだった。

 

 何で?と聞くと、あのヒトは笑って答えた。

 

「おまえは俺の弟みたいなものだからな! 弟を守るのは兄貴として当然のことだ!」

 

 それからだ。俺があのヒトを『兄者』と呼ぶようになったのは。

 

 俺たちがメガトロン様と出会う、少し前の話だ。

 

  *  *  *

 

 さて、今日の超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMETIONは、ルウィーとプラネテューヌを結ぶ街道から物語を始めよう。

 雪原の真ん中に作られた街道を、数台の車が走っていた。

 一台の装甲トラックを中心に、装甲車が並んで走る物々しい一団だ。

 しかしそれに混じって、グリーンとオレンジのコンパクトカーという場違いな車が走っていた。

 

「なあ、スキッズ。まったく、ミラージュの奴もあれだよな。俺たちにこんな子供の使いみたいな仕事させるなんてさ!」

 

「あのな、マッドフラップ。そう言うこと言うのは、ちゃんと仕事を終えてからにしろよ!」

 

 言う間でもなく、オートボットのスキッズとマッドフラップである。

 その運転席にはルウィーの双子の女神候補生、ロムとラムの姿があった。

 

「お姉ちゃんったら、やたら心配してたけど、わたしたちだってこれくらいのお使い、わけないんだから! ねえ、ロムちゃん!」

 

「うん、がんばろうね、ラムちゃん」

 

 この一団は、ルウィーで開発された魔法の力を詰めた爆弾をプラネテューヌのGDC本部まで運ぶことを任務としていて、四人はこの一団の護衛任務の最中なのである。

 ミラージュは今のオートボットの双子なら、これくらいの任務ならこなせるだろうと考えて、あえて自分は同行しなかった。

 さすがに候補生の双子のほうは出発するまで姉に心配されていたが。

 

「まあ、何事もなさそうだし、ノンビリ行こうぜ」

 

「そうだな。少し遠出のドライブだと思って……」

 

 スキッズの軽口にマッドフラップが軽口で返そうとした瞬間、どこからかバラバラとプロペラ音が聞こえてきた。

 可能ならば、オートボットの双子は表情を緊迫させるだろう。

 ロムとラムが窓から顔を出して上空を見ると、そこには巨大な軍用輸送ヘリが二機、こちらに向かって飛来してくるところだった。

 二機の内、一機は黒、もう一機は銀。見間違えようもない、ディセプティコンのブラックアウトとグラインダーの義兄弟だ。

 

「フハハハ、これは僥倖! まさか偵察任務の最中にオートボットの輸送部隊を発見するとはな! しかも護衛はチビどもだ!」

 

 ブラックアウトは望外の幸運に高笑いする。

 

「兄者、油断するな。相手はオートボットと女神だ」

 

 義兄を諌めるグラインダー。

 スキッズとマッドフラップは強力な合体砲を有しているし、ロムとラムの扱う氷の魔法は金属生命体に驚異的な威力を見せる。

 

「分かっている! 俺とおまえならば問題あるまい! さっさと片付けるぞ!」

 

 輸送部隊の前に回り込んだブラックアウトは、ロボットモードに変形して部隊の前に立ちはだかった。

 すぐさま、装甲車に乗った兵士たちが銃で応戦する。

 対ディセプティコン用に強化された銃である、さしもにダメージを受けるブラックアウトだが、プラズマキャノンを発射しようとする。

 その時、素早くロボットモードに変形したマッドフラップがブラックアウトに飛びかかった。

 

「このディセプティコンめ! 俺のカンフーグリップを喰らいやがれ!」

 

 黒いヘリ型ディセプティコンの背中に組み付き、果敢に格闘攻撃を繰り出すマッドフラップ。

 

「おまえみたいなデカブツには、近づくのが逆にいいって習ったんだ!」

 

「ほう、いい教えだな。……だが、まだまだ甘い!」

 

 言葉とともに、ブラックアウトは背中からスコルポノックを分離させ、マッドフラップもろとも地面に落とす。

 スコルポノックはそのままマッドフラップの上で身を捻ると、その爪と尻尾の針で双子の片割れを引き裂こうとする。

 

「アイスコフィン!」

 

 しかし、いつのまにか女神化したロムが氷の魔法を機械サソリに浴びせかけた。

 たまらず、スコルポノックはマッドフラップの上から落ちてしまう。

 

「サンキュー、ロム!」

 

「油断しないで、マッドフラップ!」

 

 声をかけあいながら、並んで敵を睨むロムとマッドフラップ。

 

「ふん、餓鬼どもが! 戦場の厳しさをレクチャーしてやる!」

 

 ブラックアウトはそれを両腕の武器を展開して迎え撃つ。

 

「兄者!」

 

「させるか!」

 

 義兄を援護すべく、変形して降り立つグラインダーだが、そこへすかさずスキッズが組みついた。

 

「貴様、このチビ助が!」

 

「へへへ、この距離だと、自慢の砲も意味ないみたいだな! やれ、ラム!」

 

 その瞬間、こちらも女神化してラムが魔法を放つ。

 

「アイスコフィン!」

 

 氷塊がグラインダーの胸に命中し、その体が凍っていく。

 

「ぐおおお! なんのぉ!!」

 

「うお!?」

 

 しかしグラインダーはすぐさま変形することでスキッズを振り払い、さらに巨大ヘリの姿のままラムへ突撃する。よける暇もない。

 

「きゃああ!!」

 

「ラム!」

 

 だがその時、どこからか飛んで来た砲弾が、グラインダーの側面に命中する。

 

「ぐおおお!?」

 

「グラインダー!!」

 

 耐え切れず墜落しそうになりながらも、変形して何とか着地するグラインダー。

 すぐさま戦いを中断し、弟分に駆け寄ろうとするブラックアウト。

 だがその上空で何かが爆発した。

 すると、ブラックアウトのセンサー類がノイズに塗れる。

 

「こ、これは、EMPボムか!」

 

 驚くブラックアウト。

 EMPボムとは、その名の通り強い電磁波でトランスフォーマーのセンサーを狂わせる武器だ。

 その被害はディセプティコンのみならず、オートボットとその協力者たちにも及ぶ。

 スキッズとマッドフラップに内蔵された通信装置も、ロムとラムの装着したインカム型通信機も、GDCの隊員たちの通信機器も使用不能になる。

 

「こ、こりゃいったい?」

 

 思わず声を出すスキッズだが、その答えは突然降り注ぐエネルギー弾という形でやってきた。

 ディセプティコンの物ではない、もちろん、オートボットやGDCの物でもない、ならば……。

 

「オートボット、ディセプティコン、それに今度は女神と人間……。どいつもこいつも同じ穴のムジナばっかりだ」

 

 エネルギー弾の発射元に立っていたのは、髑髏を思わせる顔をして、首から下をマントで覆ったトランスフォーマーだった。

 左手をブラスターに変形させ、右腕は手首から先が湾曲した大きな鉤になっている。

 

「おまえは……」

 

「ロックダウン、メガトロン様に従わぬ裏切り者が! 何をしにきた!」

 

 被弾した箇所を押さえながら茫然とした声を出すグラインダーと、怒声を上げるブラックアウト。

 メガトロンに絶対の忠誠を誓うブラックアウトにとって、ディセプティコンに生まれながら軍団に加わらないロックダウンのような輩は、裏切り者に等しいのだ。

 だが、ロックダウンは鼻で笑う。

 

「相変わらず、メガトロンの犬だな、ブラックアウト。いっそブラックドックにでも改名したらどうだ?」

 

 そして、ニヤリと嘲笑を浮かべる。

 

「それと俺は裏切り者じゃない。常に周りを裏切っている、メガトロンやオプティマスと違ってな」

 

「貴様……、メガトロン様を愚弄するか……! この、身の程知らずが……!!」

 

 とてつもない怒りを滲ませるブラックアウトだが、ロックダウンは動じない。

 

「どこが違う。メガトロンもオプティマスも、結局は耳障りの良いことを言って、戦争を長引かせているだけだ」

 

 その言葉にブラックアウトのみならず、オートボットの双子も顔をしかめる。

 だが彼らが何か口にするよりも早く、ブラックアウトがプラズマキャノンを発射した。

 ロックダウンは側転の要領でプラズマ弾をよけると、右腕のブラスターを撃ちかえす。

 命中、しかしブラックアウトはさしたるダメージもなく、さらにプラズマキャノンを乱射する。

 左右に素早く動き、マントをはためかせてそれをかわし続けるロックダウン。

 

「ええい! 小癪な!」

 

 業を煮やしたブラックアウトは、プラズマ波を発射した。

 波状のプラズマがロックダウンに迫る。

 だがロックダウンは冷静に手榴弾を取り出し、すぐそばまで迫ったプラズマ波に向けて放る。

 手榴弾はプラズマ波に接触すると同時に爆発を起こし、大量の煙をまき散らした。

 

「く! 煙幕か! 出てこい、卑怯者め!」

 

 大量の煙とさっきのEMPボムのせいで、ブラックアウトはロックダウンを見失ってしまう。

 それで怯むブラックアウトではないが、この煙の中だ。グラインダーへの誤射を恐れ、射撃をためらう。

 次の瞬間、ブラックアウトの背中にロックダウンの鉤が突き刺さる。

 

「ぐおおおお!!」

 

「兄者!!」

 

 倒れ伏すブラックアウトと、叫ぶグラインダー。

 一方、一連の流れを茫然と見ていたマッドフラップの横腹をスキッズが小突いた。

 

「おい、逃げるぞマッドフラップ!」

 

「え? でも……」

 

「馬鹿野郎、俺らの任務は新兵器を運ぶことだろうが! ディセプティコンが仲間割れしてくれんなら、それに越したことはないだろ」

 

 諭すように言うスキッズに、マッドフラップも頷く。

 

「ロム、ラム、行くぞ! GDCの奴らは動けるか?」

 

 ロムとラムを呼び寄せ、GDCの兵士たちにも声をかける。

 だが。

 

「さて、俺の仕事は二つ。まず、その輸送車の中身をいただくこと。……そして『おまえら』を捕らえることだ。『全員』な」

 

 ロックダウンが冷厳とした声を出した。

 

「ッ! 走れ!」

 

 賞金稼ぎの思惑を察知したスキッズの声にオートボットと女神、兵士たちは走り出す。

 同時にどこからか何かが降り注ぐ。

 いやそうではない、ロケットで空中に撃ち上げられた金属ネットだ。

 見れば、高台に陣取ったロックダウン配下の傭兵たちが金属ネットを撃ち出している。

 次々と降ってくる金属ネットに、GDCの隊員たちは身動きが取れなくなっていく。

 さらに、どこからか現れた犬のような金属生命体、スチールジョーの群れが、動けない隊員たちを取り囲む。

 

「くそ! 早いとこ安全なところまで逃げて、仲間に連絡を……、うお!?」

 

 そして、スキッズまでもが地面に落ちた金属ネットに足を取られ、転倒してしまう。

 

「スキッズ!」

 

「来るな、ラム!」

 

 倒れたスキッズの下に飛んで行くラムだが、彼女にも容赦なく金属の網が被さってくる。

 

「きゃああ!!」

 

「ラムちゃん!」

 

 片割れの危機に、ロムともちろんマッドフラップは助け起こそうとするが、スキッズは手を上げてそれを制した。

 

「ロムを連れて逃げろ! 早く!」

 

「でもよ!」

 

「早くしろ、この馬鹿!」

 

 必死に叫ぶスキッズに、マッドフラップはためらいながらコンパクトカーに変形する。

 

「乗るんだ、ロム!」

 

「そんな、ラムちゃんとスキッズは!? GDCの人たちはどうするの!?」

 

 仲間たちを置いて逃げようとはしないロムを、ロボットモードに戻ったマッドフラップは無理やり抱きかかえ走り出した。

 

「だめだよ、戻って! 戻って、マッドフラップ!」

 

 マッドフラップの体を叩くロムだが、マッドフラップは構わず、近くの針葉樹林の中に走り込んだ。

 ロックダウンはそれを追うべく、ゆっくりと動き出す。

 いつのまにか、グラインダーは姿を消していた。

 逃げたのだろうとロックダウンは考え、そちらは捨て置いて変形しようとする。

 

『まて、ロックダウン』

 

 と、通信装置に連絡が入った。

 それは彼の『雇い主』からだ。

 

「……なんだ。俺は残りの雑魚どもを捕まえるので忙しいんだが?」

 

『そいつらは、後でいい。先に捕まえた奴らを連れてこい』

 

 無愛想に問うと、雇い主はこちらも感情を感じさせない声で答えた。

 ロックダウンはチッと一つ舌打ちのような音を出すと、部下たちに号令をかけた。

 

「例の場所へ向かうぞ! 全員連れてこい!」

 

 そして、足元で呻くブラックアウトに声をかける。

 

「グラインダーは逃げたようだな。兄貴を見捨てて逃げるとは、大した弟だ」

 

 嘲るようなロックダウンに、ブラックアウトはニヤリと笑った。

 

「あいつは頭のいい奴だからな」

 

 倒れてなお不敵なブラックアウトが気に食わないのか、ロックダウンはフンと鼻を鳴らすのだった。

 

  *  *  *

 

「はあッ……、はあッ……」

 

 針葉樹林の中の開けた場所。

 排気を整えたマッドフラップは敵の気配がないのを確認して、抱きかかえていたロムを降ろす。

 

「……どうしてラムちゃんたちを置いてきたの?」

 

 ロムが雪の降り積もった地面に降りて、最初に言ったのはそれだった。

 目じりに涙をため、頬を紅潮させて放ったその言葉には、明確な非難の響きがあった。

 マッドフラップは何も弁明しない。

 

「どうしてラムちゃんたちを置いてきたの!!」

 

 マッドフラップの金属の胸を小さな拳で叩くロム。

 だが、マッドフラップは何も返さない。

 

「どうして、ラムちゃんたちを……」

 

「それは、あのままだと全員やられていた可能性が高いからだ」

 

 突然聞こえてきた第三者の声に、ロムとマッドフラップはハッと声のしたほうに顔を向ける。

 背の高い針葉樹の影に、銀色の歪な人型が佇んでいた。

 いつのまにか姿を消していたグラインダーだ。

 

「全員やられるよりは、少しでも多くの者が生き残る選択を。戦場の鉄則だ」

 

「何しに現れやがった、テメエ……!」

 

 ロムを庇うように進み出たマッドフラップは、ブラスターを構える。ロムも不安げながら杖を呼び出す。

 緊迫する三者。やがて最初に口を開いたのはグラインダーだった。

 

「……提案がある。ここは一時休戦しないか?」

 

「何だと!?」

 

 あまりにも意外な言葉に、マッドフラップは面食らう。

 そして怒りに顔を歪ませた。

 

「ふざけんな! だれがディセプティコンなんかと!」

 

「手を組んだほうがいいと思うぞ。ロックダウンから仲間たちを取り戻すためには、戦力が必要だろう」

 

 平静な声のグラインダーに、マッドフラップはますます怒りと不信を強める。

 

「ヘッ! おまえなんかの手を借りなくたって、仲間が助けに来てくれるさ!」

 

「それは無理だな。さっきのEMPボムのせいで、通信機は使用不能のはずだ」

 

 図星を突かれて黙り込むマッドフラップと、警戒しつつもこちらを不思議そうに見ているロムを眺めながら、グラインダーは言葉を続ける。

 

「仮に連絡がついたとしても、救援が来たころにはロックダウンは遠くに逃げおおせているだろう。そうなれば、仲間が無事なうちに見つけるのは困難になるぞ」

 

 無事なうちに、という言葉にマッドフラップは顔をしかめ、ロムはビクリと体を震わせる。

 どちらも、あまり好ましくない想像をしたようだ。

 

「俺なら、兄者のいる場所を探りあてられる。そこには、おまえ達の仲間もいるはずだ」

 

「本当に? 本当にラムちゃんたちの所に連れってってくれるの?」

 

 グラインダーに聞いてきたのは、マッドフラップではなく、今まで黙っていたロムだった。

 しかし、マッドフラップは訝しげな声を出す。

 

「……探せるんなら、何で、おまえ一人でいかねえ? 戦力が足りないっつうんなら、それこそお仲間を呼べばいいだろう」

 

「言っただろう、それでは遅すぎる。それにメガトロン様は厳しいお方だ。兄者の救出を許してはくれないだろう」

 

 睨み合うマッドフラップとグラインダー。

 

「……マッドフラップ、このヒトに着いて行こう」

 

 静かに、ロムが言った。

 マッドフラップは目を見開く。

 

「正気かよ! 相手はディセプティコンなんだぜ!」

 

「でも、このヒトもお兄さんを助けたいんだよ。それにわたし、ラムちゃんたちを助けたい」

 

 真っ直ぐにジッと、マッドフラップの目を見るロム。

 バツが悪そうにマッドフラップは目を逸らすが、ロムはその先に回り込んでさらに目を覗き込む。

 

「じ~……」

 

「……ああ、もう! 分かったよ、今回だけだぞ!」

 

 根負けしたマッドフラップは諦めたように排気する。

 そして、キッとグラインダーを睨みつけた。

 

「ただし、おまえを信用したわけじゃねえ! 変なマネしやがったらタダじゃおかねえからな!」

 

「好きにしろ」

 

 義兄を助けたいと言いながらも、無感情なグラインダーにイライラしながらも、マッドフラップは確信的な問いを放った。

 

「それで? どうやって仲間たちを見つけんだ?」

 

「こいつを使う」

 

 グラインダーが口笛のような音を出すと、地面の下からスコルポノックが顔を出した。この機械サソリもまた、いつのまにか戦場から逃れていたのだ。

 

「こいつは兄者とスパークを共有している。だから、離れていても超感覚的にお互いの場所を把握できるのだ。……スコルポノック、俺たちを兄者の下へ連れて行ってくれ」

 

 はたしてグラインダーの言葉が通じたのかはロムとマッドフラップには分からない。

 だが機械サソリはキューと鳴くと、地面から這いだし歩き始めた。

 

「行くぞ」

 

 それだけ言うと、グラインダーはその後を追う。

 ロムとマッドフラップは顔を見合わせ、歩き出すのだった。

 

  *  *  *

 

 ロックダウンが輸送部隊を襲撃した地点から、そう離れていない場所。

 針葉樹林に囲まれた場所に、今は使われていないルウィー軍の基地があった。

 敷地内は閑散としていて屋根には雪が降り積もりツララが伸びている。

 その基地内部の一室で、ロックダウンが何者かと話していた。

 

「なぜ、追うのをやめさせた? 援軍を呼ばれるぞ」

 

「それが狙いだ。我々はより多くのトランスフォーマーを捕らえたいのだよ」

 

 自身の何倍もあるロックダウンにも、その何者かは臆しない。

 青い軍服に黒いマント、顔を覆う仮面と機械的に変えられた声、謎の組織ハイドラの首魁、ハイドラヘッドだ。

 ロックダウンは不機嫌そうに排気した。

 

「業突く張りなことだ」

 

「生きたトランスフォーマーと、GDC隊員の頭の中身には、それだけの価値があるのだ」

 

 それだけ言うと、ハイドラヘッドは足音を響かせて部屋から出て行った。

 

「好きにすりゃいいさ。甘く見て、痛い目見るのはおまえらだ」

 

 残されたロックダウンは、皮肉っぽく顔を歪めるのだった。

 

  *  *  *

 

 基地の別の場所にある広い一室に、スキッズとラム、そしてブラックアウトがまとめて囚われていた。

 三者ともに手足を拘束され身動きが取れない。

 部屋は吹き抜けになっていて、二階部分からは何人かの覆面で顔を隠した人間がこちらを見下ろしていた。

 

「くそ、これを外しやがれ! このクソ野郎どもが!!」

 

「おやつくらい、でないわけ! わたしを誰だと思ってるのよ!!」

 

 悔しそうに喚くスキッズとラム。

 しばらくそうしていた二人だが、覆面の男たちは反応せず、やがて騒ぎ疲れて頭を垂れた。

 

「ロムちゃん、大丈夫かな……」

 

「分かんないな、マッドフラップの奴は間が抜けてるし……」

 

「ロムちゃんも、わたしがついてないと……」

 

 逃れた片割れのことを想い、途方にくれるラムとマッドフラップ。

 すると、今まで黙っていたブラックアウトが口を開いた。

 

「ふん! なんだ貴様ら、自分のキョウダイのことが信じれないのか。情けのない奴らめ」

 

 その言葉に、ラムはキッとヘリ型ディセプティコンを睨む。

 

「何よ、偉そうなこと言って! 姉妹なんだから心配に決まってるでしょ!」

 

「そうだぜ! 俺とマッドフラップはスパークを分け合ってんだ! おまえにそんな感覚は分かんないだろ!!」

 

 口々に言う幼い敵に、ブラックアウトは余裕の様子だ。

 

「俺は兄貴だからな。弟を信頼するのは、兄として当然だ」

 

 当然とばかりに言う、ブラックアウトにスキッズはムッとする。

 

「へっ! 知ってるぞ、おまえたち別にホントの兄弟じゃないんだろ!」

 

「確かに俺たちは、ただの義兄弟だ。スパークを分けたわけではなく、C.N.Aを共有してもいない。だがそうだとしても、俺にとってグラインダーは、やはり弟なのだ」

 

 あまりと言えばあまりなスキッズの言葉にも、ブラックアウトは怒るどころか諭すように語る。

 大敵ディセプティコンに諭され、スキッズはブスッと黙り込んだ。

 一方、ラムは多少ながらブラックアウトの言葉に納得したらしく、神妙な顔で頷いた。

 と、二階部分にある扉が開き、部屋に何者かが入ってきた。

 顔のない軍服の男、ハイドラヘッドだ。

 

「初めまして、オートボット、ディセプティコン、そして女神よ。私はハイドラヘッドだ」

 

「テメエが親玉か! このノッペラボウ! 俺とラムを放しやがれ!!」

 

 開口一番、スキッズが吼える。

 それに対する答えは嘲笑だった。

 

「それはできない。君たちはこれから我々の研究材料になってもらう」

 

「どういうことよ!」

 

 同じく吼えるラムにも、嘲笑でもって返すハイドラヘッド。

 

「簡単なことだよ。君たちの肉体を切り刻み、切り開いて、その構造を調べ上げるのだよ。……まずは君からだ、幼い女神」

 

 いつのまにかスキッズたちを取り囲んでいた白衣の男たちが、剣呑な道具を手ににじりよってくる。

 ようやく事態が飲み込めたらしく、ラムは青ざめて唾を飲み込んだ。

 

「おい、やるなら俺からやりやがれ!! ラムはまだ子供だぞ!!」

 

「甘いな。子供と言えど、戦場に出たからには兵士。死ぬ覚悟はしていなければね」

 

 スキッズの必死の抗議に、冷たい声色で吐き捨てるハイドラヘッド。

 

「おい、やめろ! このロリコンども!!」

 

 死にもの狂いで体を動かそうとするスキッズだが、拘束はビクともしない。

 白衣の男の持った、回転メスがラムに迫る。

 目を瞑るラム。

 その時である。

 

「おい、待て」

 

 ハイドラヘッドの登場以降、黙っていたブラックアウトが口を開いた。

 

「どうせ研究するなら、そのチビどもより、俺のほうが研究しがいがあるだろう」

 

 その言葉に驚いたのはスキッズだ。

 

「ブラックアウト、おまえ……」

 

「ふん、勘違いするな。敵とはいえ、子供がいたぶられるを見て喜ぶ趣味がないだけだ」

 

 ぶっきらぼうに吐き捨てた黒いヘリ型ディセプティコンに、ハイドラヘッドはくぐもった笑い声を漏らした。

 

「いいだろう。ならば、最初は君からだ」

 

 ハイドラヘッドがそう言うと、白衣の男たちは標的を変え、ブラックアウトに群がる。

 その姿は獲物に集る蟻を思わせた。

 回転カッターやドリルがブラックアウトの装甲を抉り、ガスバーナーが溶断していく。

 

「ぐおおおお!!」

 

 たまらず悲鳴を上げるブラックアウトの姿に、スキッズが研究員たちギロリと睨み、ラムが思わず目を背けるも興奮した様子の研究員たちは、意に介さず作業を続けるのだった。

 

  *  *  *

 

 ハイドラ基地の近くの林の中、そこからスコルポノックの案内でここまで辿り着いたロム、マッドフラップ、そしてグラインダーが様子をうかがっていた。

 

「警戒が厳重だな。こりゃとても入り込めそうにないぜ……」

 

「うん……」

 

 マッドフラップが、思わず悲観的な意見を出し、ロムもそれに頷く。

 それもそのはず、基地には完全武装のハイドラ兵士と彼らの乗り回す装甲車や小型戦闘ヘリ、機械の塊に手足をつけたような無人兵器に加え、ロックダウン配下の傭兵やスチールジョーまでも徘徊しているのだ。

 だがスコルポノックの背をさすっていたグラインダーは自信ありげだった。

 

「そこで、こいつにもう一働きしてもらう。スコルポノックに地下を掘らせるのだ。俺では狭くて入れないが、おまえたちならスコルポノックの掘ったトンネルを進めるはずだ」

 

「それで? 俺らを囮にして自分はトンズラか?」

 

 厳しい声のマッドフラップ。

 どうしても、グラインダーを信用できないようだ。

 一方のグラインダーも、そんなことで動じはしない。

 

「いや、囮には俺がなろう」

 

「なんだと!?」

 

「俺は目立つからな。適当に暴れ回るから、おまえらはまず、GDCの連中を助けろ」

 

 何でもないことのように、グラインダーは言った。

 

「スキッズたちが先じゃないのか?」

 

「トランスフォーマーは人間より頑丈だ。……体も精神もな。あとは解放した連中に騒ぎを起こしてもらって、その隙に兄弟を救助すればいい」

 

「……信じて、いいんだよね?」

 

 ラムが念を押すように緊迫した声を出す。

 妹を助けるために大きな決断をした彼女であるが、それでも、敵同士なのだ。

 

「兄者を助け出すまではな」

 

 ぶっきらぼうに、グラインダーは返した。

 ロムとマッドフラップ、グラインダーの三者は、ほんの少しの間睨み合っていたが、スコルポノックがキューキューと鳴き声を上げる。

 

「……ここでこうしている場合ではないな。スコルポノック、さっそく仕事に取り掛かってくれ」

 

 グラインダーの指令に、スコルポノックはキュウと鳴いて返事とし、地面を掘り始めた。

 

「では、俺もいく。武運を祈るぞ」

 

「ディセプティコンがか?」

 

「今回だけだ」

 

 それだけ言うと、グラインダーはヘリに変形して飛び立った。

 

「……武運を祈る、か」

 

 マッドフラップは、どこか複雑な表情を浮かべた。

 グラインダーに気を許したわけでは断じてないが、少なくとも兵士としての実力は信頼に値する。

 そこにロムが声をかけた。

 

「……わたしたちも行こう、マッドフラップ」

 

 いつのまにかスコルポノックは完全に地面の下に消え、彼の掘った穴だけが残されていた。

 

「おう!」

 

 マッドフラップはあえて陽気に答え、ロムとともに穴へと入っていった。

 

  *  *  *

 

「ぐぬおおお!!」

 

 ブラックアウトに対する研究と言う名の解体は続いていた。

 すでにあちこちの内部機構がむき出しにされている。

 

「ぐ、ふは、フハハハ! く、くすぐったくてマッサージかと思ったぞ……!」

 

 この状態になっても負けん気を見せるブラックアウト。

 だが、研究員たちは何ら反応を見せない。

 スキッズとマッドフラップはとても直視できず、顔を伏せていた。

 二階部分では、ハイドラヘッドが研究員のリーダーから報告を受けている。

 

「まったくもって、この機械は素晴らしいですな! 何もかもが既存のロボットの数世代以上先を行っています!」

 

「何せ、異星の金属生命体だからな」

 

「そのような荒唐無稽な話を信じておられるので?」

 

 当然とばかりに返したハイドラヘッドに、研究員は笑う。

 

「教会の発表している話など、非科学的で信用に値しません! あのロボットは四ヵ国のいずれかが極秘裏に開発した秘密兵器に違いありませんよ!」

 

「……叫んでいるが?」

 

「あんなのは、ダメージに反応して録音された音声が再生されているに過ぎませんよ」

 

「……なるほど」

 

 ハイドラヘッドは大して興味なさげに頷いた。

 どうやらこの研究者、優秀とは言い難いらしい。

 あるいは一定の能力があるがゆえに、自分の常識外のことを認められないのか。

 

「ご安心ください、ヘッド! 私たちが必ず……」

 

 そこまで言ったところで、どこからか爆発音が聞こえてきた。

 

「何事だ」

 

「基地が攻撃されています! 例のもう一体のヘリ型です!」

 

 ハイドラヘッドの問いに、近くの兵士が素早く答えた。

 

「どうやら、仲間を助けにきたようだな。こちらの思うつぼだ」

 

 どこか、ほくそ笑むような雰囲気を見せるハイドラヘッドは、手持ちの通信機でどこかに連絡する。

 

「ロックダウン、聞こえるかね? 出番だ」

 

『了解、ボーナスゲームのお時間だ』

 

  *  *  *

 

 プラズマキャノンで装甲車や無人兵器を吹き飛ばし、群がるスチールジョーを蹴散らす。

 ディセプティコンでも屈指の破壊力を誇るグラインダーの面目躍如だ。

 遠目からロックダウン配下の傭兵たちが撃ってくるが、これぐらいなら問題はない。

 自分の役目は、とにかく敵の目を引きつけることだ。

 その間に、あの子供二人とスコルポノックが上手くやってくれることを期待しよう。

 そう思考していた時、どこからかエネルギー弾が飛来した。

 撃った相手はセンサーを働かせずとも分かる。

 ダメージを確認してからオプティックを巡らすと、案の定マントを羽織った賞金稼ぎが立っていた。

 

「兄貴を助けに来たわけか」

 

「そういうことだ。兄者はどこにいる」

 

「さてな。今頃、この世界の連中が言うところの地獄とやらにでも堕ちてるんじゃないかね」

 

 挑発してくるロックダウンだが、グラインダーは動じない。

 むしろ、最大の難敵であるロックダウンを引きつけることができて御の字だ。

 

「では、力ずくで地獄から引き上げさせてもらおう」

 

「やってみろ! 貴様も同じ所に送ってやる!!」

 

 グラインダーがプラズマ弾を乱射し、ロックダウンが鉤を振りかざして飛びかかる。

 戦いが始まった。

 

  *  *  *

 

「どうやら、始まったようだな」

 

 外から爆音が聞こえてくると、ハイドラヘッドは冷静に呟いた。

 

「しかし、先にやってきたのがディセプティコンとは。意外ではあったな」

 

「…………」

 

 ブラックアウトは何も言わない。

 

「まあ、ロックダウンに任せれば心配あるまい。とりあえず、このまま……」

 

「ヘッド! 緊急事態です! 拘束していたGDCの奴らが脱走して、基地のあちこちで暴れています!」

 

「……ほう」

 

 兵士が報告すると、さすがに少し驚いた様子を見せるハイドラヘッド。

 

「陽動か。となると、後は……」

 

 彼がそう呟くのと、一階部分の壁が破壊されてサソリ型の金属生命体が飛び込んできたのは同時だった。

 スコルポノックに続いて、マッドフラップと女神態のロムも入ってきた。

 

「ロムちゃん!」 

 

「マッドフラップ!」

 

「ラムちゃん! 大丈夫!?」

 

「スキッズ! 無事か!?」

 

 ロムとマッドフラップは、自分の片割れに近づき拘束をはずす。

 

「二人とも、来てくれたんだね! ……でも、どうしてディセプティコンといっしょなの?」

 

「くわしい話は後だ! とっとと脱出するぞ!」

 

 首を傾げるラムに、マッドフラップはついて来るように促す。

 

「待って!」

 

「ちょっと待ってくれ!」

 

 そこでロムとスキッズが声を上げた。

 

「「逃げるならブラックアウトもいっしょに……え?」」

 

 異口同音に喋った女神候補生と緑のオートボットは、顔を見合わせる。

 

「「どういうこと?」」

 

「話は後にしようぜ。とりあえず……、立てるか? ブラックアウト」

 

 マッドフラップが、ブラックアウトの拘束をはずす。

 研究員たちはスコルポノックに威嚇されて、すでに逃げ出していた。

 

「ぐ……、き、貴様らオートボットの情けは受けん!」

 

 ダメージでふらつきながらも、ブラックアウトは立ち上がり、差し出されたマッドフラップの手を払いのける。

 

「そうはいかねえんだよ。あんたの弟と約束しちまったんでな。兄貴を助けるって」

 

「……グラインダーと?」

 

 ブラックアウトは訝しげな声を出す。

 義弟が、オートボットと手を組んだと言うのか?

 

「信じられないだろうが、事実だよ。だからとにかく……」

 

「残念だがね。ここから、逃がすわけにはいかんよ」

 

 同行を渋るヘリ型ディセプティコンを説得しようとするマッドフラップをさえぎったのは、ハイドラヘッドだった。

 

「ちょうどいい、全員捕らえさせてもらう」

 

「ヘッ! そうはいくかってんだ!」

 

 スキッズはこれまでのお返しとばかりに、ブラスターをハイドラヘッドに向けて撃つ。

 だが、エネルギー弾は不可視の壁に当たって弾けた。

 

「なに!?」

 

「バリアフィールドだ。君たちオートボットと女神の力を研究して得た新技術だよ」

 

 驚く、一同に不敵に笑いを漏らすハイドラヘッド。

 さらに彼が手で合図すると、何体もの無人兵器が現れ一同を取り囲む。

 スキッズは、マッドフラップに小声で話しかけた。

 

「……おい」

 

「あん?」

 

「アレ使うぞ」

 

「……アレか! よし!」

 

 一方のブラックアウトとスコルポノックはやる気満々で、武器を展開する。

 

「ふん! 自由になりさえすればこっちの物! 貴様ら如き雑兵、物の数では……」

 

「おい、ブラックアウトのオッサン! 盛り上がってるトコ悪いけど、少しオプティックつぶってろ!」

 

 スキッズが叫ぶとともに、マッドフラップと腕を交差させる。

 すると、一瞬にして双子のオートボットの腕は巨大な合体砲に組み替えられた。

 そしてそれを真上に向かって発射する。

 撃ち出されたエネルギー弾は空中で弾け、強烈な閃光が部屋の中を満たした。

 あまりに強い光に、兵士たちの目も機動兵器の光学センサーも役に立たなくなる。

 

「目が~、目が~!!」

 

 叫ぶ兵士たち。

 ハイドラヘッドでさえも、顔をそらす。

 閃光が治まると、そこにはもう女神候補生とトランスフォーマーたちはいなかった。

 壁にもう一つ穴が開き、外気が流れ込んでいる。そこから逃げたのだろう。

 

「……やるじゃないか」

 

 ハイドラヘッドは、どこか呑気に呟くのだった。

 

  *  *  *

 

 グラインダーとロックダウンの戦いは続いていた。

 だが、素早く動くロックダウンをグラインダーは捉えきれない。

 ただでさえ最初の襲撃の時に狙撃されたダメージがある上に、相性が悪いのだ。

 

「凄まじい粘りだな。そこは褒めてやる」

 

 ロックダウンはグラインダーのしぶとさを素直に賞賛する。

 

「だが、ここまでだ」

 

 それでも、止めを躊躇うような弱さはない。

 ヘリ型ディセプティコンの攻撃を潜り抜け、その背に鉤を突き刺す。

 もう少し力を込めるだけで、鉤はスパークにまで達し、グラインダーの生命を停止させるだろう。

 

「ぐ……!」

 

「死ね」

 

 そして最後の一押しをしようとしたその時、基地のほうからプラズマ弾が飛んで来た。

 咄嗟に鉤を引き抜いてそれをかわすロックダウン。

 首を巡らすと、そこには黒いほうのヘリ型ディセプティコンが立っていた。

 

「俺の弟から離れろ、下郎!」

 

「あ、兄者……!」

 

 グラインダーが微かに微笑む。

 

「奴め、逃がしたか。仕方がない、もう一度捕まえてくれる!」

 

 ロックダウンは、煩わしげに首を回し、ギラリと鉤を光らせる。

 

「できるかな?」

 

 ニヤリと笑うブラックアウトに、ロックダウンが攻撃しようとした瞬間、その頭上を影が覆った。

 

「「エターナルフォースブリザード!!」」

 

「「アンド、ツインズキャノン!!」」

 

 ロムとラム、そしてスキッズとマッドフラップの声が響き渡る。

 双子の女神候補生が作り上げた巨大な氷塊を、双子のオートボットの合体砲から放たれたエネルギー弾が撃ち砕く。

 氷の塊が蒸発し、あたりに霧が立ち込めた。

 

「この程度!」

 

 無論それで怯むようなロックダウンではない。

 しかし霧が晴れると、オートボットもディセプティコンも女神候補生も姿を消していた。

 

「……チッ!」

 

 舌打ちのような音を出し、ロックダウンは武装を収納する。

 これ以上は報酬以上の仕事になり、割に合わないからだ。

 

  *  *  *

 

「そうか……。じゃあ、後で合流しようぜ」

 

 基地から離れた針葉樹林の中、スキッズはGDCの隊員と通信していた。

 ちなみに通信機器はハイドラの物を奪い、周波数を変えた上で使用している。

 

「どうやら、全員無事に逃げれたみたいだな」

 

 マッドフラップもホッと一息吐く。

 これで残された問題は……。

 

「兄者、大丈夫か?」

 

「このくらい平気だ。後一時間は耐えられたぞ」

 

 オートボットの双子から少し離れた所で、ブラックアウトがグラインダーから応急手当を受けていた。そばではスコルポノックが尻尾を振っている。

 献身的に義兄を治療するグラインダーだが、ブラックアウトは不機嫌そうに鼻を鳴らすような音を出す。

 

「あのまま逃げて、メガトロン様のために情報を持ち帰るのがセオリーのはず。なぜ、俺を助けにきたのだ。それもオートボットなんぞと手を組んでまで……」

 

「おい、オッサン! そりゃ言い過ぎだろ! グラインダーはアンタを助けようとしたんだぞ!!」

 

「そうだよ。グラインダーさん、がんばったんだよ」 

 

 あんまりな物言いのブラックアウトに、マッドフラップとロムが抗議する。

 だが、ブラックアウトはそっぽを向く。

 オートボットと話す口は持っていないと言うことらしいが、いまさらである。

 

「おいおい、オッサンよ。弟を信頼すんのが兄貴の務めなんじゃなかったのかよ」

 

 その姿に呆れたような声を出すスキッズ。

 しばらくブスッとしていたブラックアウトだが、ようやく口を開いた。

 

「それとこれとは、話が別だ。俺はディセプティコンの軍人として……」

 

「もう! グチャグチャ言っちゃって! こういう時は、素直に『ありがとう』って言えばいいんだよ!」

 

 両腕を振り上げて、ブラックアウトを咎めるラム。

 少しの間、困ったような素振りを見せたブラックアウトだったが、やがて大きく排気した。

 

「まあ、助けてくれたことには感謝している。……貴様らにもな」

 

 ぶっきらぼうに付け加えるブラックアウトに、双子たちは苦笑する。

 

「まあ、こっちも助かったよ。……それで、これからどうする? 延長戦でもするか?」

 

「……ふん! このダメージでそれをする気にはならん。……言っておくが、今回だけだ。次に戦場であったら容赦はせん」

 

 それはつまり、だからおまえたちも容赦はするなと言っているように双子たちには聞こえた。

 ブラックアウトはそれ以上は何も言わず、スコルポノックを回収するとヘリに変形して飛び立った。

 

「……兄者を助けてくれて、感謝する。さらばだ」

 

 グラインダーも少しだけ頭を下げると、義兄に続いて飛び立つ。

 双子たちは、それを黙って見送るのだった。

 

「さて、これで一件落着……。ま、任務は失敗しちまったけどな」

 

「ミラージュにこっぴどく怒られるだろうな」

 

 ヘリ兄弟を見送ったスキッズとマッドフラップは、ヤレヤレと排気する。

 仲間たちは全員無事に助け出したが、新兵器はハイドラに奪われてしまった。

 任務として見れば大失敗であると言える。

 それでも、二人に後悔はなかった。

 

「新兵器なんか、どうでもいいわよ! みんなが無事だったんだもん!」

 

「うん、よかった!」

 

 ニッコリと笑い合うラムとロム。

 双子たちにとっては全員無事でいたことこそが、何者にも代えがたい最大の戦果だ。

 

「さて、それじゃあミラージュとブランに怒られに帰るとしますかねえ」

 

「そうそう、こんな所にいたら、またロックダウンの奴が出てくるかも知れないからな」

 

「わたしお腹ペコペコ、フィナンシェの作ってくれるクッキーが食べたい!」

 

「うん! ミナちゃんの入れてくれるお茶も飲もう!」

 

 スキッズとマッドフラップ、ラムとロムは笑い合い、帰路に着くのだった。

 




そんなわけでヘリ兄弟と年少組の主役回でした。
実質的にブラックアウトとグラインダーの回でしたね。

次回は、ミラージュ&ブランの回か、ゲスト回を含めた中編に突入する予定。

というか、貯めといたアイディアが、ほとんどディセプティコン回な件。

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