超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION   作:投稿参謀

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ロックダウン再登場&ヘリ兄弟とルウィー年少組が主役回を書く
→途中まで書いて、この前に一つ話を入れたほうがいいかも?と思う
→できたのが今回。


第48話 ハイドラの魔の手

 女神が統治する不思議な世界、ゲイムギョウ界。

 今この世界では、異世界から現れた金属生命体、トランスフォーマーたちが、女神に味方してゲイムギョウ界を護ろうとするオートボットと、ゲイムギョウ界を侵略しシェアクリスタルを奪おうとするディセプティコンの二派に分かれて戦いを繰り広げている。

 

 だが、ゲイムギョウ界の平和を乱す者が、ディセプティコンだけとは限らない……。

 

  *  *  *

 

 深夜のプラネテューヌ首都。

 その路上を異様な集団が爆走していた。

 改造した車やバイクに乗り、自らも刺々しい衣装や装飾品を身に着けた、いわゆる暴走族だ。

 だが彼らは、騒音をまき散らし走り回るだけの暴走族ではない。

 手に持った金属バットや鉄パイプ、棍棒に斧、蛮刀で目に着いた物を片っ端から破壊し、さらには銃火器を乱射している者までもがいる。

 深夜営業のコンビニやエネルギースタンドを見つけると、乗り込んで行って破壊と略奪の限りを尽くすという、世紀末から抜け出てきたかのような極悪非道の集団なのである。

 彼らの名はメダルマックス。

 壊したいから壊し、奪いたいから奪う。理性や良心など、母の胎に置いてきた無法者たちだ。

 彼らの先頭を走るのは、突起だらけの改造バイクに跨った筋骨隆々の男で、真っ赤なモヒカンを逆立て、顔を白塗りにし、目と口の周りを赤く塗った異様な姿をしている。

 

「ガガガー!! 汚物は消毒だー!!」

 

 このモヒカン男はなんと魔法で炎の弾を作り出し、それを次々と投げている。

 火炎弾が、あらゆる物を破壊し、町のあちこちで火の手が上がる。

 だが、そんな無法がいつまでも許されるわけがない。

 脇道から一台のトレーラートラックが現れ、武装改造車の集団に並走を始める。

 車体に赤と青のファイヤーパターンが描かれた、大きなトラックだ。

 

「おい見ろ、例のトラックだぜ!」

 

「何だって構わねえ! 俺らの横に並ぶなんざ、生意気な野郎だぜ!」

 

「ぶっ壊しちまえ!!」

 

 メダルマックスの荒くれ者どもは、すぐさまトラックに向かって武器を振りかざす。

 だが、鉄パイプや斧はトラックに当たってもまったく効かず、銃弾ですら弾かれる。

 この事態に至って、荒くれ者たちもさすがに驚く。

 

「ええーい、この化け物トラックめ! これでも食らいやがれ!!」

 

 暴走族の一人が、手榴弾を取り出して投げつける。

 爆発が起こるがそれでもトラックは止まらない。

 

「この役立たずどもめ! 俺様が手本を見せてやる!!」

 

 その態に業を煮やし、首魁のモヒカン男が巨大な炎の塊を頭上に作り上げ、それをトラック目がけて投げつける。

 たちまちトラックは激しい炎に包まれた。

 

「どうだ、破壊とはこうやるのだー! ガガガー!!」

 

 首魁の見事な攻撃に興奮し、メダルマックスたちは炎上するトラックの周りをグルグルと回り出す。

 

 だが。

 

「オプティマス・プライム、トランスフォーム!」

 

 炎を振り払いながらトラックがその姿を変えていく。

 無骨な人型、背には剣と盾、ライフルを背負ったオートボット総司令官オプティマス・プライムだ。

 

「諸君に警告する。諸君の暴走行為と破壊行為は、プラネテューヌ憲法に反することだ。素直に武装を解除し、自首するなら手荒な真似はしない」

 

 無法集団に対しても、まずは警告から入るオプティマス。

 だが、無法者たちにその言葉は逆効果だ。

 

「俺たちは決まり事と、命令が何より嫌いなんだー!!」

 

「金! 暴力! S○X!!」

 

「びゃあ゛あ゛あ゛!! この支配からの解放、イエェエエイ!!」

 

 怒りと興奮のままに、重火器でオプティマスを撃つ、ならず者たち。

 まったくダメージを受けていないオプティマスはハアッと一つ排気すると、背中から剣を抜く。

 

「警告はしたぞ」

 

「ヒャッハー!! 死ねやぁああ!!」

 

 ならず者の一人が、武装バギーで体当たりを仕掛ける。

 だがオプティマスはテメノスソードを唐竹割りの要領で振ると、武装バギーは真っ二つに斬られ、オプティマスの両脇を通り過ぎながら倒れた。

 

「う、うおおお!!」

 

 四方から金属の巨人に突撃してくるメダルマックスの武装改造車群。

 オプティマスは背中からレーザーライフルを抜き、連続して改造車の僅かに横を狙い撃つ。

 光線が地面に着弾し爆発を起こすと、改造車は次々と横転した。

 

「ガガガー! 情けのない奴らめ!!」

 

 首魁であるモヒカン男は、醜態をさらす部下たちに見切りをつけ、自ら攻撃に移る。

 

「火炎弾は効かずとも、これならどうだ!!」

 

 両の手から高熱の炎を噴き出し、絶えずオプティマスに浴びせるモヒカン男。

 オプティマスはレーザーライフルをしまい盾を前に突き出すと、火炎放射を受けながらもゆっくりとモヒカン男に向かって歩いていく。

 さすがに焦るモヒカン男だが、時すでに遅し。オプティマスはモヒカン男の眼前にまで迫っていた。

 動揺するモヒカン男の首根っこを指先で摘まんで持ち上げるオプティマス。

 

「まだやるか?」

 

 今度こそモヒカン男は負けを悟り、ガックリと項垂れるのだった。

 

  *  *  *

 

 警備兵にメダルマックスの連中を引き渡し、オプティマスは一排気吐いた。

 

「お疲れー、オプっち!」

 

 そう言いながら駆け寄ってきたのは、ネプテューヌだ。

 オプティマスは微笑む。

 

「ネプテューヌ。ああ、お疲れ様」

 

「いやあー、オプっちのおかげで楽できちゃったよー!」

 

 二人は微笑み合う。

 プラネテューヌに突然現れたメダルマックスなる暴走集団を逮捕することが、今回の二人の仕事だった。

 結局、先行したオプティマス一人で片付けてしまったが。

 

「それにしても、なぜあのような集団が現れたのだろうか?」

 

「暖かくなってきたからね。変な人も沸くよ」

 

 当然の疑問を浮かべるオプティマスに、ネプテューヌは呑気に答える。

 しかし、オプティマスの表情は晴れない。

 あれだけの規模の暴走族というだけでも普通ではないのに、理性と自制に著しく欠ける言動からして、何らかの薬物を摂取していた可能性がある。

 さらに、銃火器で武装していたという異常性。

 

「……ん?」

 

 と、思案していたオプティマスが何かに気付いたように虚空を睨んだ。

 ネプテューヌは首を傾げる。

 

「どうしたの、オプっち?」

 

「いや……、誰かに見られていたような気がしたんだが……、気のせいだったようだ。さあ、夜も遅いし帰るとしよう」

 

 しばらく辺りを見回していたオプティマスだが、やがてネプテューヌに微笑みかけた。

 

「うん! 寝不足はお肌の大敵だもんねー! わたしのお肌が荒れたら、全プラネ民が悲しみを背負っちゃうよ!」

 

「そうだな」

 

 語気壮大なことを言い出すネプテューヌに、オプティマスは笑ってしまう。

 二人は何事もなく帰路につくのだった。

 

  *  *  *

 

 だが、オプティマスの感じた視線は気のせいではなかった。

 

「ふむ、この距離からスパイカメラに気付くとは、さすがと言うべきかな?」

 

 どこか、暗い場所。

 無数のモニターにオプティマスの姿が写っていた。

 メダルマックスを叩きのめす様子が、様々な角度から撮影されていたのだ。

 複数の人間がコンソールを操作し、映像から様々なデータを取る。

 攻撃力、防御力、反応速度。

 モニターに映し出されるデータを、一人の男が見ていた。

「しかし、これではデータが足りないな。やはり、武器を与えただけの無法者では役者不足か」

 

 一人ごちる男。その声は機械的に変声されている。

 

「これは、もう少しデータ収集が必要だな。……できれば彼自身も確保したいものだ」

 

 男は後ろに視線をやる。

 そこには、マントで首から下を覆った痩身のトランスフォーマーが立っていた。

 

「君にも仕事をしてもらうよ。ロックダウン」

 

「かまわんが、追加料金を払ってもらうぞ。オプティマスを捕らえるのは骨だからな」

 

 痩身のトランスフォーマー、ロックダウンは、無感情に言うのだった。

  *  *  *

 

 数日後、オプティマスとネプテューヌは教会に寄せられた依頼により、ある場所を訪れていた。

 プラネテューヌの人里離れた山中に、奇妙な建造物が出現したと言うので、その調査に訪れたのだ。

 他の仲間たちは予定があって出動できなかったため、総司令官直々のお出ましとなった。

 

「あれか……」

 

 ネプテューヌを降ろしてトラックの姿から、ロボットモードに戻ったオプティマスは、山間に建つその建物を眺めた。

 あちこちに蛇の絵が描かれた、禍々しい意趣の巨大なビルか塔のような建造物だ。

 

「なんて言うか、見るからに悪者がいそうだね! あいちゃんに見せたら喜びそう!」

 

 塔のあからさまな外観に、ネプテューヌは興奮気味だ。

 そんな彼女を諌めるようにオプティマスは声を出す。

 

「今回はあくまでも偵察だ。何もないようならそれでいいし、何かあるようならいったん戻って、仲間たちを連れてこよう」

 

「オッケー! でも、その発言自体が一種のフラグだよね」

 

 よく分からないことを言うネプテューヌ。

 オプティマスとしては、これ以上塔に近づくつもりはない。

 ここからでも、センサー類を最大限働かせれば、塔の様子を探ることができる。

 だが、そうしようとオプティマスが試みると、塔の周りを電磁波が覆っていて不可能なことが分かった。

 これはいよいよ怪しい。

 

「やはり、いったん戻ろう。あの塔の中に入ったら、通信もできなくなってしまうはずだ」

 

「そうだね。ダンジョン攻略前にはパーティーの編成と装備の確認が大事だもん」

 

 慎重論を出すオプティマスに、ネプテューヌも頷く。

 二人が塔に背を向けようとした、その時である。

 

「た、助けてください……」

 

 近くの茂みの中から、一人の女性が現れた。

 赤い髪を長く伸ばした、スタイルのいい女性だ。服は引き裂かれ、白い肌が露わになっている。

 

「おおー!? 唐突に困ってる人発見! イベント強制突入?」

 

 相変わらずよく分からないことを言うネプテューヌ。

 一方、オプティマスは紳士的に対応する。

 

「いったい何があったのかね? 落ち着いて話してくれ」

 

「は、はい……。私はこの近くの村に住むアオイと言う者ですが、あの塔を建てた奴らが、村の者を連れ去ってしまったのです。私だけが、命からがら逃げだしてきました」

 

「我々はプラネテューヌ教会から来た者だ。とりあえず貴女は、我々が保護しよう。教会で詳しい話を聞かせてくれ」

 

 順当な対応をするオプティマスに、しかしアオイは安堵ではなく悲嘆を顔に浮かべた。

 

「そ、それが……、奴らは村の人たちを恐ろしい兵器の実験台にしようとしているらしいんです。このままだと、村の人たちが……」

 

 それを聞いて、義憤をたぎらせたのがネプテューヌだ。

 

「任せといて! わたしとオプっちが力を合わせれば、全戦全勝間違いなし! オプっち、ここはわたしたちだけでも行こう!」

 

「…………そうだな」

 

 短く同意したオプティマスに、ネプテューヌは疑問符を浮かべる。

 何か、乗り気でなさそうな感じだ。警戒しているようにも見える。

 

「それで、お嬢さん。村の人々を浚った奴らは、何者なんだ?」

 

 ネプテューヌが疑問に答えを出すより早く、オプティマスはアオイに聞いた。

 アオイは緊迫した表情で答える。

 

「はい、奴らはこう名乗っていました。『ハイドラ』と……」

 

  *  *  *

 

「たのもー!!」

 

 塔の正面扉が勢いよく開かれ、ネプテューヌの声が響き渡る。

 隠れる気などサラサラないネプテューヌは正面からの突破を提案し、なぜかオプティマスもこれに応じたため、 両者はアオイを近くの町に送ってから塔までやってきたのだ。

 しかし、ここまで迎撃はなかった。

 塔の中も静かだ。

 

「……あれ?」

 

 てっきり、敵の大軍が現れると思っていたネプテューヌは拍子抜けしてしまう。

 オプティマスは背負ったレーザーライフルとバトルシールドを手に持つと、油断なく進んでいく。

 

「……ネプテューヌ、私の傍を離れるなよ」

 

「うん!」

 

 ネプテューヌも刀を召喚し構えたまま歩いて行く。

 と、二人の後ろで扉が音を立てて閉じた。

 しかし、二人とも想定の内でありいちいち騒がない。

 

『フフフ。オートボットの司令官、オプティマス・プライムとプラネテューヌの女神パープルハートよ。ようこそ、ハイドラタワーへ。まさか君たちが来てくれるとは思わなかったよ』

 

 どこからか声が聞こえてきた。機械的に変声された、感情の読めない声だ。

 ネプテューヌはいち早く反応する。

 

「むうー! あなたが悪者だね! 大人しく村の人たちを返しなさい! そうすれば痛い目見ないで済むよ!!」

 

『威勢のいいことだ。だが、そういかん。返してほしくば、このハイドラタワーの最上階まで来るがいい。ただし、この塔には三体の守護者がいる。彼らを全て撃破して、最上階まで来ることができるかな?』

 

「ようするに格ゲー的なアレだね! 受けて立つよ!」

 

 挑発的な言葉に、ネプテューヌは眉根を吊り上げる。

 一方のオプティマスは無言だった。

 

『では、さっそく第一の守護者だ』

 

 すると部屋の奥がライトアップされ、そこに巨大な影が佇んでいた。

 巨大なブルドーザーのようなメカだ。

 

『紹介しよう。彼は『キルドーザー』だ。超重量級の建設機械だが、その力を破壊に使えば、恐ろしいことになるのは言うまでもない』

 

「コンストラクティコンの親戚みたいな奴だね! よーし、一面ボスなんかさっさと片付けるよ!」

 

 敵の姿に闘志を燃やし、元気よく女神化しようとするネプテューヌだが。

 

『言い忘れていたが、守護者と戦うのはオプティマス。君だけだ』

 

「な!? 何言ってんの!」

 

 アンフェアな条件で戦わせようと言う声の主に、ネプテューヌが怒りの声を上げる。

 だがオプティマスは前に進み出た。

 

「いいだろう。どうせ、言うことを聞かなければ村人を殺すとでも言う気だろう」

 

『フフフ、御想像にお任せしよう』

 

 ギラリとオプティックを光らせるオプティマスだが、何も言わずキルドーザーと向き合う。

 

『では、第一ステージ。オプティマス・プライム対キルドーザー。死合い開始だ』

 

 唸りを上げて、キルドーザーがオプティマスに突っ込む。

 なんとオプティマスはそれを正面から受け止めた。

 後方へと、押されていくオプティマス。

 このままでは壁とキルドーザーに挟まれて押し潰されてしまう。

 だが、途中でキルドーザーの動きが止まった。

 いや止まったのではない、止められたのだ。

 床に両足を着けて踏ん張るオプティマスによって、超重量級建機キルドーザーの突進は押し止められているのだ。

 何と言う怪力だろうか。

 キルドーザーの単純なAIは、さらにパワーを上げてオプティマスを押し潰そうとするが、それでもビクともしない。

 

「……おおおおお!!」

 

 そしてオプティマスは、全身に思い切り力を込め、キルドーザーを押し返した。

 一瞬、両者が離れる。

 その一瞬で、オプティマスは高く跳ぶと同時に背中からテメノスソードを抜き、キルドーザーのAIが搭載された、普通のブルドーザーで言うなら搭乗席の所を切りつける。

 沈黙するキルドーザー。

 着地したオプティマスは、剣を背にしまいながら口を開いた。

 

「グリムロックの一撃のほうが、はるかに怖かったな。さあ、行こうネプテューヌ」

 

「うん! さすがオプっち、楽勝だったね!」

 

 もちろん、オプティマスの勝利を微塵も疑っていなかった紫の女神は、会心の笑みを浮かべるのだった。

 

  *  *  *

 

 部屋の奥にあるエレベーターに乗り、二階へと辿り着いたオプティマス。

 そこは無数の鉄骨がジャングルジムのように張り巡らされていた。

 

『第二ステージへ、ようこそ。さっそく次の相手だ』

 

 声が聞こえてくると同時に、鉄骨の間を何かが凄まじいスピードで跳び回っているのが見えた。

 それはオプティマスの眼前に飛び降りてくる。

 華麗に着地を決めたそれは、異形の人型だった。

 緑色の爬虫類を思わせるが、リザードマン型のモンスターよりも遥かに禍々しい。

 両の手は鋭く長い爪を備えていた。

 

『『ネックチョッパー』 一種の生物兵器で、遺伝子操作によって誕生した、生まれながらの殺し屋。君のセンサーを持ってしても、捉えきれない素早さを持っているぞ』

 

「御託はいい。さっさと始めよう」

 

 ピシャリとオプティマスが言い放つと、声はくぐもった笑いを漏らした。

 

『ククク、良いだろう。では、オプティマス・プライム対ネックチョッパー。死合い開始』

 

 ネックチョッパーはキルドーザーのように突撃はしてこない。

 高く跳び上がると鉄骨の間を跳び回り始める。

 驚くべきはそのスピードだ。

 謎の声の言う通り、オプティマスのセンサーでも感知しきれない。

 しかも、そのスピードはだんだん上がっていく。

 トップスピードに達した時、ネックチョッパーはオプティマス目がけて飛びかかった。

 このスピードを持ってして、一撃で敵の首を刎ねるのがネックチョッパーの必勝法なのだ。

 だが、オプティマスには分かっていた。

 自分の弱い場所がどこであり、ゆえにどこが狙われるかを。

 だから後は、そこに剣を置いておくだけだ。

 超スピードのネックチョッパーは、空中で止まる手段を持たず、テメノスソードに突撃して自らのスピードと勢いで真っ二つになった。

 オプティマスの両脇を通り過ぎ、肉塊となって地面に激突したネックチョッパーだった物には目もくれず、剣を振って血糊を払い総司令官は虚空を睨む。

 

「いつまで、こんな茶番を続けるつもりだ」

 

『安心するといい、次で最後だ』

 

「村の人達も帰してくれるんだね!」

 

 ネプテューヌの当然の問いに、謎の声はくぐもった笑い声を漏らした。

 

『村人?……ああ、そうだったな。そう言う約束だった。では先に進め。……待っているぞ』

 

「むうー!」

 

 はぐらかすような謎の声に、ネプテューヌが頬を膨らませ、オプティマスは難しい顔をしていた。

 

  *  *  *

 

 またしてもエレベーターに乗り、次の階へと向かう。

 今度は何階も通り過ぎて、最上階へと昇ることができた。

 エレベーターを降りると、そこは闘技場のようになっていた。

 

「ようこそ、我がハイドラの誇る闘技場へ!!」

 

 今まで何度も聞こえてきた声が、闘技場の奥の天覧席から聞こえてきた。

 そこにいた男は異様だった。

 青い軍服に青い鉄兜、黒いマントを羽織り、蛇を象った握りの付いたステッキを持っている。

 だが、その男には顔がなかった。

 銀色の仮面で顔をスッポリ覆っているのだ。

 仮面には目も口も鼻もなく、一切の表情をうかがいしれない。

 

「おまえが、ハイドラとやらのリーダーか」

 

「その通り、人呼んでハイドラヘッド。以後お見知りおきを」

 

「なんか、顔も名前も手抜きっぽい奴だね!」

 

 オプティマスの言葉に慇懃なお辞儀で返すハイドラヘッド。ネプテューヌはいつもの調子だ。

 

「さあ、さっさとこの茶番を終わらせよう」

 

 不機嫌そうなオプティマスに、ハイドラヘッドは小さく笑う。

 

「もちろんだとも。だが、ファイナルステージの前に特別ゲストを用意した。楽しんでくれ」

 

「特別ゲスト?」

 

 謎の声の含むような言葉にネプテューヌが首を傾げると、部屋の中央の床が開き、下から人影がせり上がってきた。

 

「アオイ!?」

 

 ネプテューヌが思わず声を上げる。

 人影はネプテューヌたちに助けを求めてきた女性、アオイだった。

 鎖につながれ、グッタリとしている。

 

「アオイ、大丈夫!?」

 

 慌てて駆け寄り、彼女を助け起こそうとするネプテューヌ。

 

「駄目だ、ネプテューヌ! 彼女に近づくんじゃない!!」

 

 だが、オプティマスがそれを止めようとする。

 

「え?」

 

 何事かとネプテューヌが振り向いた瞬間、突然アオイが立ち上がり、ネプテューヌに駆け寄る。

 

 そして手に持ったナイフでネプテューヌを刺した。

 

「……え?」

 

 軽く肌に刺さっただけだが毒でも塗ってあったのか、グラリと体を揺らし、倒れるネプテューヌ。

 

「ネプテューヌ!」

 

「おっと、動かないでちょうだい!」

 

 アオイは倒れたネプテューヌの顔にナイフを突きつける。

 ネプテューヌには何が起こったのか分からなかった。

 

「あ、アオイ……?」

 

 朦朧とする意識の中で、その名を呼ぶが、返ってきたのは嘲笑だった。

 

「アオイ? 誰かしら、それは。私の名前はマルヴァっていうの」

 

 それだけ言うとアオイ、いやマルヴァは懐から眼鏡を取り出してかけ、オプティマスに嘲笑を向ける。

 

「動かないでね。これくらいじゃ女神を殺すことはできないけど、それでも酷い傷を付けることくらいはできる。顔に傷をつけたら、この娘のシェアはどうなるかしら?」

 

「貴様……!」

 

 殺気を乗せてマルヴァを睨むオプティマスだが、彼女は鼻で笑うとネプテューヌの身体を抱えて、さっき自分が囚われているふりをしていた場所に戻る。すると二人を乗せた床が下がり、二人は姿を消した。

 そしてどういう仕掛けなのか、少ししてからハイドラヘッドの後ろに現れた。

 

「フフフ、ではオプティマス。ファイナルステージの相手を紹介しよう! ……ロックダウン!!」

 

 ハイドラヘッドがその名を呼ぶと、どこからか現れた首から下をマントで覆った痩身のトランスフォーマー、ロックダウンがオプティマスの目の前に着地した。

 その姿にオプティックを剥くオプティマス。

 

「ロックダウン、貴様を雇っていたのはこいつらだったのか……!」

 

「こいつらは金払いがいいんでね」

 

 ロックダウンは首をゴキリと鳴らす。

 居並ぶ二者を心なし満足げに見ていたハイドラヘッドは、右手を挙げて声を出した。

 

「では、最終ステージ! オプティマス・プライム対ロックダウン!! 死合い開始!!」

 

 声が響いた瞬間、思考を切り替えたオプティマスは先手必勝とばかりに、ロックダウンに突っ込む。

 

 ――一刻も早くネプテューヌを助け出さねば!

 

 対するロックダウンは、何もしない。そこに立っているだけだ。

 そのことにオプティマスの警戒心が引き起こされた時には、遅かった。

 オプティマスの足が何かを踏み、その瞬間、その何かが爆発する。

 

 地雷だ!

 

「ぐわあああ!!」

 

「ああ、言い忘れていたが、この闘技場にはあちこちに罠が仕掛けてある」

 

 倒れるオプティマスを見下ろしながら、いけしゃあしゃあと言ってのけるロックダウン。

 そしてマントの内側から、見せつけるように右腕を露出させると、その手首から先が、湾曲した大きな鉤爪になっていた。

 

「おまえの部下のヤブ医者のおかげで、右腕の変形機構の調子が悪くてな。何とかこの形に固定したが……、部下のしでかしたことの責任は、上司が負わないとなあ」

 

 振り下ろされた鉤爪をかわし、立ち上がったオプティマスはセンサーを最大限働かせて罠の位置を探る。

 だが、このハイドラタワー全体を覆う電磁波の影響で上手くいかない。

 

「罠の位置を探ろうとしても無駄だぞ。ちなみに俺は、全部頭に叩き込んである」

 

 自身の額をコツコツと指で叩きながら、ニヤリと笑うロックダウン。

 

「分かるか、オプティマス? これは戦いじゃあない。これは、狩りだ」

 

「ぐ……、うおおおお!!」

 

 傍に立つロックダウン目がけて、レーザーライフルを撃つオプティマス。

 ロックダウンはヒラリとそれをかわす。

 さらにオプティマスはロックダウンの立っていた場所へとジャンプする。

 少なくともロックダウンの立つ場所に罠はないはず。

 

 だが、オプティマスが立った瞬間、左右から円盤状の刃物が飛んできて、体のあちこちを切り裂く。

 

「ぐわあ!!」

 

「もう一つ言い忘れていた。設置ある罠は地雷だけじゃなくて、赤外線に触れると作動する物もあるから、気をつけるんだな」

 

 そう言いつつ、左手をブラスターに変形させ撃つロックダウン。

 賞金稼ぎの辞書に、情け容赦の文字はない。

 

「ふむ……。一方的な展開、といったところか」

 

 一応にも自陣の側であるロックダウンが優勢であるにも関わらず、ハイドラヘッドは不満げだ。

 

「ど、どうして……」

 

 と、マルヴァに無理やり立たされているネプテューヌが朦朧としつつも声を出す。

 

「どうして、こんな……ことするのさ? 騙……したり、罠……。卑……怯、だよ……」

 

「卑怯?」

 

 ハイドラヘッドは、首を傾げる。

 その姿にネプテューヌの身内に怒りが満ちた。

 

「そう……だよ! こんな……」

 

「甘いな」

 

 ネプテューヌの言葉をさえぎったハイドラヘッドの声色は、底なしに冷たい物だった。

 

「これは戦いだ。戦いに卑怯などない。死んだ者が、悪いのだよ」

 

 仮面を被ったハイドラヘッドの表情は、全く読めない。

 

「それに、これはオプティマス自身が招いたことだ。いや、正確には彼と君が招いた、だな」

 

「どういう……こと?」

 

「簡単よ。彼、私がスパイだって気づいていたもの」

 

 ネプテューヌの疑問に答えたのは、ハイドラヘッドではなく艶然と微笑むマルヴァだった。

 

「その上で、誘いに乗ったのよ」

 

「そんな……、どうして……?」

 

「あなたを傷つけないためよ、あなたったら、すっかり私のことを可哀そうな村娘だと思っていたもの。だから、そんなあなたが私の正体を知らないで済むように、一人で抱え込もうとしてたみたいね」

 

「そんな、そんな……」

 

 ネプテューヌの顔が、悲しみに染まる。

 自分がオプティマスの足を引っ張ってしまったことが、ネプテューヌの心を苛む。

 そんな紫の女神を見て、マルヴァはサディスティックな笑みを浮かべる。

 

「こんな馬鹿な娘が女神だなんて、まったくゲイムギョウ界はどうかしてるわ」

 

「マルヴァ」

 

 いい加減、鬱陶しくなってきたのかハイドラヘッドはマルヴァを諌めるが、自分でもなじるような言葉を出す。

 

「だが、これで分かっただろう。君のような輩が、兵士を死に追いやるのだ。これがいかに罪深い……」

 

「それは違う!!」

 

 ネプテューヌをなじるハイドラヘッドをさえぎったのは、すでに罠によって痛めつけられたオプティマスだった。

 

「騙されるほうが悪いなどという理屈がまかり通ってなるものか! ネプテューヌは、その優しさと善意ゆえに人を信じたのだ! それを裏切った、貴様らが偉そうな口を叩くんじゃない!!」

 

 立ち昇るオーラが見えそうなほどの怒りを漲らせ、吼えるオプティマス。

 その迫力にマルヴァは冷や汗を一筋流したが、ハイドラヘッドはどこか面白そうな雰囲気を出し、ロックダウンは興味なさげだった。

 

「怒りがなんになる。いくら吠えても、貴様はこのトラップフィールドからは逃れられんぞ」

 

 無感情に言うと、オプティマスに止めを刺すべくブラスターを撃とうとする。

 だがオプティマスは、ロックダウンに向かって突っ込んできた。

 一歩進むたびにあらゆる罠が作動する。

 地雷が爆発し、回転する刃が飛び、レーザー光線がオプティマスの装甲を焼く。

 対するロックダウンはなおも冷静だった。

 マントを翻し、肩に装着したミサイルを発射する。

 計八発の小型ミサイルがオプティマスに襲いかかる。

 体を捻り、二発はかわす。

 盾を突き出し、二発は防ぐ。

 剣を振り、さらに二発を切り払う。

 二発が命中。爆発が起こる。

 それでもオプティマスは止まらない。

 上段から剣を振るう。

 ロックダウンはそれを鉤爪で受け止めた。

 

「グ……、そんなにあの女神が大事か?」

 

 オプティマスの力の前に押されるロックダウンだが、何とか踏みとどまる。

 超重量級建機さえ押し返すオプティマスの力に耐えられるのはテクニックの差だろう。

 

「ああ、大事だとも! だから彼女を傷つけた貴様らを許さん!!」

 

「たった一人で何ができる!」

 

「一人ではない!」

 

 その言葉にロックダウンではなく、ハイドラヘッドがピクリと反応する。

 そしてどこからか声が聞こえてきた。

 

『ハイドラヘッド様! GDCと思しき部隊がこちらに接近しています! オートボットの姿も確認できます!』

 

 ハイドラヘッドは、その放送でオプティマスの行動に納得する。

 おそらく、最初にマルヴァと会った時点で、手を打っておいたのだろう。

 

「あらかじめ仲間を呼んでおいたな。抜け目のない奴だ。……マルヴァ、撤収だ。全兵士を避難させろ。ここを放棄するぞ」

 

「了解!」

 

 命令を受けたマルヴァはネプテューヌを横たえると、部下たちに指示を出すべく駆けていく。

 それを見送ったハイドラヘッドは、今だ戦う二体のトランスフォーマーに向かって声を張り上げる。

 

「ロックダウン! 今回はここまでだ。引き上げるぞ!」

 

 それを聞いたロックダウンはチッと舌打ちのような音を出した。

 

「命拾いしたな。プライム」

 

「…………」

 

 無言でギラリとロックダウン、そしてハイドラヘッドを睨むオプティマスだが、今はネプテューヌを助けるほうが先と怒りをこらえる。

 

「ふふふ、また会おう、オプティマス・プライム。……ああ、罠は解除しておいたから、安心したまえ」

 

 ハイドラヘッドはそう言って、影の中へと消えていった。

 いつのまにかロックダウンもいない。

 

「ネプテューヌ!!」

 

 危険が去ったのを確認したオプティマスは、すぐさまネプテューヌに駆け寄り、彼女の身体にスキャンをかける。

 紫の女神はグッタリとしていたが、命に別状はなさそうだ。

 

「ごめん……、オプっち……。足……引っ張っちゃったね……」

 

 最初にネプテューヌが発したのは、安堵や苦痛を訴える言葉ではなく、謝罪だった。

 その瞬間、不意にオプティマスのブレインサーキットに過去の映像が再生された。

 遠い故郷、クリスタルで構成された都市、降り注ぐ酸の雨、そして……。

 恐怖と悔恨が、オプティマスのスパークから沸きあがる。

 

「すまない、私がもっと早く、マルヴァの正体を君に言っていれば……」

 

 彼女の現れたタイミングはあまりにも出来過ぎていたし、命からがら逃げてきたと言うわりには外傷らしい外傷もなかった。村人が捕らえられていると言うのも嘘だろう。

 だが、それでも確証はなかったのだ。

 だから、純粋に彼女を心配するネプテューヌのことを見て、指摘するのを躊躇ってしまった。

 それが、この結果を招いたのだ。

 

 何と言う甘さ!

 

「違うよ……、わたしが……、馬鹿だから……」

 

「ネプテューヌ……」

 

 何と言って良いのか分からず、オプティマスが次の言葉を出しあぐねていると、どこからか機械音声が聞こえてきた。

『基地の自爆装置が作動しました。基地内のハイドラ構成員は、速やかに避難してください。繰り返します。基地の自爆装置が作動しました……』

 

「っ! ネプテューヌ、話は後だ! 今は逃げよう!」

 

「うん……」

 

 ネプテューヌを抱きかかえ、オプティマスは出口に向かって走る。

 そのさなかにも、オプティマスの脳意には一つの考えがあった。

 今回のことは自分の甘さが招いたことだ。

 こんなことではいけない。戦士として、もっと厳しく、もっと冷静に。

 

 ……大切なものを、守るために。

 

  *  *  *

 

 爆発し崩壊していくハイドラタワーから、一台のヘリが脱出していた。

 それはハイドラ幹部用のヘリだ。

 豪華な内装が施された客席で、ハイドラヘッドはくつろいでいた。

 そこへ別ルートで避難しているロックダウンから通信が入った。

 

『おい、これで良かったのか?』

 

「ああ、データは十分に取れた」

 

 今回のことは、オプティマスのデータを取るために行ったこと。

 タワーも兵器も、そのための捨て駒に過ぎない。

 

「やはり素晴らしいな、オプティマス・プライムは。すっかりファンになってしまったよ」

 

 上機嫌な声を出すハイドラヘッドだが、ふと声色が冷たくなる。

 

「しかし、あの女神はいただけないな。彼女の存在が、オプティマスの良さを殺してしまっている」

 

『と言うと?』

 

 ロックダウンには理解できないようだった。

 財力、権力、そして戦力。女神が味方についたことによるオートボットへの恩恵は計り知れない。

 

「私の見立てでは彼は生粋の戦士だ。戦いに生き、戦いに死ぬ。そして、戦いを心から楽しむ。それを、女神とともにあることで忘れてしまっている。それではいけない。……私と戦争をするには」

 

 こらえきれないように、ハイドラヘッドが笑いだす。

 

『理解しがたいな』

 

「理解など求めていないからね。私が求めるのは唯一つ、戦争だよ」

 

 呆れたような声を出すロックダウンに構わず、ハイドラヘッドはくぐもった笑い声を出し続けるのだった。

 




そんなわけで第三勢力登場回。

TFに詳しいかたならお気づきでしょう。彼らはTFの親戚であるG.Iジョーの悪の組織、コブラがモデルになっています。
GDCが、意図したわけではないけどG.Iジョーっぽくなったので、いいかなと思いまして。

他、小ネタ解説。

メダルマックス
世紀末な世界を戦車で冒険するゲーム、メタルマックスより。
モヒカン男のモデルは二作目のボスキャラ、テッド・ブロイラー。

キルドーザー
アーマードコアの登場機体の一つより。

ネックチョッパー
バイオハザードの敵キャラ、ハンターより。
ハンターは首狩りという攻撃をしてくる。

マルヴァ/アオイ
ポケモンXYの登場キャラ、パキラより。
マルヴァはパキラの海外名で、パキラというのはアオイ科の植物。

では、次回こそ、ヘリ兄弟とルウィー年少組主役回です。

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