超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION   作:投稿参謀

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あるいは、作者、畜生道に堕ちる。


第46話 悪夢の三日間

 さて、今日の超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMETIONは、ディセプティコンの秘密基地から物語を始めよう。

 

『幹部会議の時間です。各参謀、及びチームリーダーは司令部に集合してください』

 

 ショックウェーブのコピーであるトゥーヘッドの声が、基地の中に響き渡る。

 それに伴い、グラインダーと訓練をしていたブラックアウトが、工事の監督をしていたミックスマスターが、仲 間たちと雑用をしていたクランクケースが、司令部に向かって動きだす。

 そしてもう一人、マジェコンヌも会議に出席しようと廊下を歩く。

 司令部の巨大な門の左右には、バリケードとボーンクラッシャーが門番のように立っていた。

 次々と門を潜っていくディセプティコンたち。

 マジェコンヌはそれに続こうとするが。

 

「おっと、おまえはダメだ」

 

 ボーンクラッシャーが立ちはだかった。

 当然、マジェコンヌは怒って声を上げる。

 

「何だと! 貴様、誰に向かって口をきいている!」

 

「さてな」

 

 だがその怒りにも破壊兵は動じない。

 バリケードも首を横に振る。

 

「残念だが、ここに入れるのはチームリーダー以上の権限を持つ者だけだ」

 

「貴様ら……! 私はメガトロンの同盟者だぞ……!」

 

「元、な。今はただのアルバイターだ」

 

 どこか馬鹿にしたようにバリケードは笑う。

 と、そこに台座型の浮遊機械に乗って、レイがやってきた。

 

「すいません、遅れました! みなさん、もういらっしゃってますか?」

 

「おう! もうみんな中だぜ。早く入んな!」

 

 一転、ボーンクラッシャーは和やかな調子で言うと、扉を開く。

 

「ありがとうございます」

 

 一つ礼を言うと、レイは司令部に入っていった。……ディセプティコンたちに視線を合わせていたために、マジェコンヌに気付きもせずに。

 

「おい! あいつはいいのか!」

 

「当たり前だろ。レイは雛たちの育成担当だぞ」

 

 怒りに顔を歪めながら問うマジェコンヌに、ボーンクラッシャーは当然とばかりに答える。

 

「雛たちの育成状態は、今後の作戦を決める重要な情報だからな」

 

 さらにバリケードも同意する。

 マジェコンヌは悔しげに唇を噛むのだった。

 

  *  *  *

 

「納得がいかん!」

 

 食堂にて、マジェコンヌはテーブルを拳で叩く。

 その場に集まったリンダとワレチューは、目を丸くした。

 

「いきなりどうしたんすか? マジェコンヌの姐さん」

 

「更年期障害っちゅか? 歳は取りたくないっちゅね」

 

「やかましい! ……なぜ、レイの奴が幹部扱いなんだ!」

 

 眼を血走らせながら続けるマジェコンヌ。

 

「奴が何をした! ただ日がな一日、餓鬼どもと遊んでるだけだろうが! それが……」

 

「ようするに僻みっちゅか。何で年増が幹部扱いなのかは分からないっちゅけど、オバハンの扱いが悪いのは、失敗した上に借金があるからっちゅよ」

 

 ワレチューの容赦のない言葉に、クッと言葉を詰まらせるマジェコンヌ。

 ズーネ地区とナス畑での失敗で、ディセプティコンたちのマジェコンヌに対する信用は地に落ちている。

 さらに、今だ返し切れない多額の借金。

 もはやマジェコンヌの立場はないも同然だった。

 

「って言うか、ショックウェーブ様のとこで仕事したくないってマジェコンヌの姐さんが言った時、レイの姐さんがメガトロン様に口きいてくれたんじゃないすか。それなのに文句を言うって……」

 

 リンダも非難がましい口調で言う。

 上昇志向が強いのはいいが、それと恩知らずは別問題だろう。

 

「じゃあ、アタイはもう行きますよ。この後も仕事があるんで……」

 

 これ以上付き合いきれないとばかりに、リンダは席を立つ。

 

「待て! おい!」

 

 それを引き留めるマジェコンヌだが、リンダは取り合わずに去っていった。

 

「ぐぬぬぬ! どいつもこいつも馬鹿にしおって……! こうなったら私の手で女神とオートボットを倒し、私の価値を証明してやる!」

 

「またっちゅか。どうやって倒すっちゅ?」

 

 息巻くマジェコンヌに、ワレチューは呆れた声で問うた。

 マジェコンヌは少し冷静さを取戻し、ニヤリと笑う。

 

「まあ任せておけ。私にいい考えがある」

 

  *  *  *

 

 そして、数日後。

 とあるエネルギープラントにて。

 

「今日こそは貴様を灰燼に帰してくれるわ、プラァァイム!!」

 

「それはこっちのセリフだメガトロン。このメタルの屑めが!!」

 

 吼えあうメガトロンとオプティマス。

 今日も今日とて、エネルギーを求めるディセプティコンと、それを阻止せんとする女神、オートボットが戦いを繰り広げていた。

 金属の巨体同士がぶつかり合い、その間を光弾と実弾が飛び交い、そして女神たちが戦場を駆ける。

 その戦いを、岩陰からマジェコンヌとワレチューが覗いていた。

 

「いいか! 私が発明したこの『願望増幅機』で撃たれた者は、その者の持つ隠された願望や欲望が増幅されるのだ! そうすれば、奴らは醜い仲間割れを起こし、共倒れになるという寸法だ!」

 

「また行き当たりバッタリっちゅね」

 

 マジェコンヌの作戦とは、自分の発明品を使うものだった。

 その時点で不安しかない上に、発明品の名前もどうかと思う。

 

「まあ、見ていろ……」

 

 ライフルのような発明品『願望増幅器』を構えるマジェコンヌ。

 その銃口の先には、スタースクリームと戦うブラン!

 

「まずは貴様からだ……!」

 

 狙いをつけ、発射。

 銃口から虹色の光線が飛び出し、狙い違わず戦斧を振りかざすブランに命中する。

 

「うわあああ!」

 

「! ブラン!」

 

 バリケードと切り結んでいたミラージュが、力無く落下していくブラン目がけてジャンプし、その小さな体を受け止める。

 

「!? どうしましたの……!!」

 

 さらにブロウルと戦うジャズを援護していたベールに。

 

「何がおこったの!? いやああ!!」

 

 ボーンクラッシャーに斬りかかっていたノワールに。

 

「ブランさん! ベールさん! きゃああ!!」

 

 バンブルビーと共にブラックアウトの相手をしていたネプギアに。次々と光線が命中していく。

 オートボットはもちろん、ディセプティコンも何が起こったか分からず、戦場は混乱に包まれた。

 

「みんな! これはどういうことなの!?」

 

 動きを止めてしまうネプテューヌ。

 

「次は貴様だ! ネプテューヌ! その澄ました面をグシャグシャにしてやる!」

 

 そして、ネプテューヌに狙いをつけ、マジェコンヌは引き金を引く。

 虹色の光線が願望増幅器から発射された。

 しかし、その動きに気付いた者がいた。

 

「! ネプテューヌ!」

 

 オプティマスである。

 総司令官はとっさに、組み合っていたメガトロンともども、ネプテューヌとマジェコンヌの間に割って入る。

 

「オプティマス、貴様……ぐおおおお!?」

 

「ぐわあああ!!」

 

 光線はオプティマスに命中。さらにそのエネルギーはメガトロンにまで伝播していく。二人は同時に膝を着いた。

 それを見て慌てたのが、マジェコンヌとワレチューである。

 

「お、オバハン! これヤバいっちゅよ!」

 

「く、クソ! この場は退くぞ!」

 

 メガトロンを巻き込んだことが知られれば命に係わる。

 二人はスタコラサッサと逃げ出すのだった。

 

「オプっち!!」

 

「メガトロン様!!」

 

 ネプテューヌとサウンドウェーブが、それぞれのパートナーと主君に駆け寄る。

 心配そうな声を上げる二人だが、オプティマスとメガトロンは双方ともに、ふらつきながらも立ちあがった。

 

「だ、大丈夫だ。しかし今の攻撃はいったい……?」

 

 心配そうなネプテューヌを安心させるように声を出すオプティマス。

 

「この程度! さあ、続きといこうか……!?」

 

 メガトロンは変わらず闘志をむき出しにする。だがその胸の内に不思議な衝動が満ちる。

 

「何だ、これは……?」

 

 その衝動はだんだんと強くなっていく。

 もう、ここでこうしている場合ではない!

 

「……ディセプティコン軍団! 退却だぁああ!! 早く、早く帰らねば!!」

 

「メ、メガトロン様!?」

 

 サウンドウェーブをはじめ、まだまだ余力を残していた兵士たちは突然の撤退命令に首を傾げる。

 だが命令は命令。素直に従う。

 すぐさまサウンドウェーブがダイノボット・アイランドで発掘した戦艦を呼び寄せる。

 自動操縦のそれは、下部からトラクタービームを発射し、ディセプティコンたちを回収していく。

 

「メガトロン様モ、オ早ク」

 

「よいわ! 俺は先に帰っておるぞ!!」

 

 主君を促すサウンドウェーブに言い放つと、メガトロンはエイリアンジェットに変形して飛び去った。

 バイザーの後ろから動揺を滲ませるサウンドウェーブだが、すぐに自分もトラクタービームの中に入る。

 後に残されたオートボットたちだが、勝利の余韻に浸ることはできなかった。

 

「いったい、何がどうなって……」

 

「それより、みんなは!?」

 

 突然の展開に疑問を口にするオプティマスと、仲間たちを心配するネプテューヌ。

 しかし、女神たちは大したダメージはないらしく、すでに立ち上がっていた。

 

「ああ、私たちなら大丈夫よ……」

 

「いったいなんだったんだ。あの光線は……」

 

 ノワールとブランは訝しげな顔をしている。その身体に目立った外傷はない。ベールとネプギアもしかり。

 

「とにかく、いったん基地に帰ってくわしく調べてみよう」

 

 オプティマスの号令に、一同は首を傾げつつもいったんオートボット基地に帰ることにした。

 

  *  *  *

 

 そしてオートボット基地。

 一同はリペアルームに集まっていた。

 

「ふうむ。これはマズイことになった」

 

 ラチェットはオプティマスの体から回収した粒子……あの光線に含まれていた物だ……を解析して、声を出した。

 

「これは、生き物の精神に左様して願望を増幅し、心のリミッターをはずす働きがあるようだ」

 

「どういう事だ?」

 

 いまいち分からないラチェットの説明に、オプティマスが要約を求める。

 

「つまり、自分に正直になるってことだね」

 

「それのどこがいけないの?」

 

 人間体のネプテューヌが首を傾げる。

 正直なのは良いことでは?

 だが、ラチェットは難しい顔をする。

 

「現実はそう簡単にはいかないよ……。とにかくだ。この粒子の効力は三日ほどで切れるはずだから、それまでは各自、自宅から外に出ないように」

 

「そんな、私たちには女神の仕事があるのよ!」

 

 抗議するノワールだが、ラチェットは厳しい顔になる。

 

「これでも君たちの生活を鑑みたんだ。本当なら、この基地に隔離しておきたい所なんだからね」

 

 その言葉に、オートボットも女神も顔を見合わせる。

 取りあえずオプティマスは締めの言葉を言うことにした。

 

「では、ラチェットの指示通り、各自教会でジッとしていてくれ。……それからネプテューヌは私の傍にいるんだ。どこにも行かないでほしい」

 

 一瞬、ネプテューヌは何を言われたのか理解できなかった。

 

「え? お、オプっち……?」

 

 戸惑うネプテューヌを見て、オプティマスはハッとなる。

 

「い、いや、……ハハハ、冗談だよ」

 

「いやいや~、何だ冗談かー。わたしはてっきり、この溢れんばかりの魅力でオプっちを誘惑しちゃったのかと思ったよー。なーんてね!」

 

 らしくもない冗談を言うオプティマスに、こちらも冗談で返すネプテューヌ。

 皆は笑ったり呆れたりしていた。

 

 ただ一人、ラチェットだけが厳しい顔を崩さなかった。

 

  *  *  *

 

 さて、そんなワケで願望が増幅された状態で教会に閉じこもることになった女神たち。

 ここからはそれぞれどんな状態になったかを見ていこう。

 

 ケース1:ノワールの場合

 

「ユニ~、ユ~ニ~! 本当にあなたは可愛いわねー!」

 

 ノワールはユニをギュウっと抱きしめる。

 

「可愛くて、優秀で、頑張り屋さんで、ちょっぴり素直じゃなくて、でもそんなところがもっと可愛くて……、あなたは本当に、私の自慢の妹よー!」

 

 ユニをべた褒めしながら、さらに抱きしめるノワール。

 

「お、お姉ちゃん……」

 

 当のユニはかなり戸惑っている。

 厳しい姉が、こうして自分を猫っ可愛がりするのが信じられないのだ。

 

「…………何だい、コレ」

 

 それを横で見る、ラステイションの教祖神宮寺ケイは、彼女としては珍しく唖然とした様子だ。

 

『だから言っただろう。コレがノワールの願望らしい』

 

 通信機から投射された立体映像のアイアンハイドは、ぶっきらぼうに答えた。

 

「い、いや、その話は聞いたし、理解もしているんだが、あまりにも普段とのギャップが酷すぎて……」

 

『正直、別人レベルだよな。コレ』

 

 ケイだけでなく、サイドスワイプも驚いている。

 深く排気するアイアンハイド。

 

『ああ、俺もてっきり、友達を欲しがる方向に行くかと思ったらコレだ』

 

「つまり、正直に感情を表したいということかな?」

 

 あまりにもユニを可愛がるノワールに、若干引きながらもケイは考察する。

 普段から素直じゃないこと(ツンデレ)に定評のあるノワールである。

 アイアンハイドやネプテューヌの影響で多少緩和されたが、それでも正直に感情を表しているとは言いづらい。

 それが、例の光線の影響で素直になったということだろうが……。

 

「ユニ、可愛いわ、ユニ!」

 

「何だろう、このお姉ちゃん、ちょっとウザい……」

 

 聞こえないようにボソッと呟くユニ。

 姉に認められることを目標とするユニであるが、これは何か違う気がする……。

 

「ま、まあ、ともかくだ。ノワール、それくらいにして、そろそろ仕事の話をしよう。教会から出られないなら、出られないなりにやることはある」

 

 何とか普段の調子に持っていこうとするケイ。

 だが彼女の見積もりは甘かった。

 

「うん、分かったわ。……ケイ、あなたには感謝してるわ」

 

 素直に応じるノワールだが、ケイに向けて恥ずかしげに上目使いを送る。

 

「へ?」

 

「あなたのような優秀な教祖がいてくれる私は幸せ者よ。あなたは契約だからだって言うけど、私はあなたがいつも私たちのことを思いやってくれていることを知ってる。だから、私はあなたことが好きよ」

 

「ななな、何を言って……」

 

 いつもの冷静さを完全に失うケイ。

 ビジネスライクを是とするがゆえに、ノワールとは別の意味で感情を露わにするのが苦手な彼女は、この告白に面食らう。

 だが、ノワールの攻撃は終了しない。

 

「これからもよろしくね!」

 

 ケイの手を両手で包み込み、満面の笑みを浮かべるノワール。

 それを見て、ケイは我知らず頬を染める。

 

「は、はい……」

 

 力無く返事をするケイだった。

 教祖が陥落(?)したのを確認したノワールはさらなる獲物(?)を求める。

 その視線の先には、立体映像のアイアンハイドだ。

 

「それから、もちろんアイアンハイドにも、感謝してるわ!」

 

『おいおい、勘弁してくれよ……!』

 

 少しウンザリしつつも満更でもなさげなアイアンハイド。

 

 まだまだノワールの戦闘終了(エンドフェイズ)は見えない。

 

  *  *  *

 

 ケース2:ベールの場合

 

「どうしてこうなった」

 

 そう、アリスは漏らさずにはいられなかった。

 眼前にはニパッと笑うベール。

 

「アリスお姉ちゃん、遊んでください!」

 

 いつもよりも、明らかに幼い声のベール。

 声だけでなく仕草も幼さを感じさせる。

 だが姿はそのままだ。

 女神の中でも最も大人びているベールが、幼い子供のようにアリスに甘えてくる。

 横目でそれを見ていた箱崎チカに視線でSOSを送るが、無視される。畜生。

 チカは、何とか感情を抑えた声でジャズにたずねた。

 

「……つまりどういうことなんですの?」

 

『どうもこうも、コレがベールの願望ってことさね』

 

「そんな馬鹿な! お姉さまの願望と言えば、妹を欲しがるのが鉄板のはずよ!」

 

 思わず声を大きくするチカに、ジャズは苦笑する。

 確かに、ベールと言えばそういうイメージだ。

 

『俺が思うにだな。誰もが大人びたイメージでベールを見るわけだ。加えてこの国の女神という立場。だから彼女は中々人に甘えられない。しかし彼女だって人に甘えたくなることくらいあるはずだ。そんな押さえていた感情が増幅されて……』

 

「幼児退行として現れたと。……そんなことって」

 

 ジャズの言葉に頭を抱えるチカ。

 

「何よりも……、何でアリスがお姉ちゃんなのよ! 普通わたくしじゃないの!?」

 

「そんなん、こっちのセリフですよ!」

 

 何が悲しゅうて、自分より年上の女性……少なくとも外見上は……に、お姉ちゃんと呼ばれなきゃならないのか。

 いや、これはこれで可愛いのは認めるが。

 作り笑いを張り付けてアリスはベールと遊ぶ。

 今はオママゴトである。

 

「えへへ、それじゃあ私がお母さんね! お母さんはお料理をするんですよ!」

 

 無邪気に食器を並べていくベール。

 ニコニコと笑って本当に楽しそうである。

 あるいは本当に、幼児退行願望があったのかも知れない。

 ハアッと息を吐くアリス。

 どうせ三日の辛抱だ。こうなったらとことん付き合おう。

 

「はいはい。それじゃあ、ベール。私は何をすればいいのかしら?」

 

「うん、そしたらアリスお姉ちゃんは私の娘なの! 娘は受験で疲れてノイローゼ気味なのよ」

 

「嫌な設定ね……」

 

 幼いんだか大人なんだか分からない内容のオママゴトだ。

 

「それでジャズは私の旦那様で、チカちゃんはおばあちゃんなの!」

 

「ハッハッハ! こいつはまいったな」

 

「わ、わたくしがおばあちゃん? それにジャズが旦那様って……」

 

 苦笑するジャズと、何やらショックを受けているチカ。

 

 ――あるいは、これも願望か。

 

 アリスはふと思う。

 ベールは妹を欲しがっているが、本当に欲しいのは妹に限らず、家族というものなのかも知れない。

 

「えへへ、それじゃあ始めるよー」

 

 無邪気なベールの声に、一同は配置につく。

 

「……まあ、こういうのも悪くはないか」

 

 周りに聞こえないように一人ごちながら、アリスはベールの入れてくれたお茶を受け取るのだった。

 

 と、どこからかブレインズがヒョコヒョコと歩いてきた。

 

「へへへ、ベール奥さん、回診のお時間ですぜ。やっぱ、子供のお遊びと言えばお医者さんゴッコだよなあ。なんならチカおばあちゃんか、娘さんのアリスでも……」

 

 嫌らしく手をワキワキと動かすブレインズ。

 アリスはそんな小トランスフォーマーの首根っこをムンズと掴むと、窓の外へ放り投げる。ちなみにこの部屋は三階だ。

 

「おわあああぁぁぁ……」

 

 悲鳴を上げながら落ちていくブレインズ。

 あれで頑丈な奴だし、死にはしないだろう。

 ジャズとチカを見れば、無言でサムズアップをしていた。

 ベールだけが、よく分からないらしく笑顔で首を傾げるのだった。

 

  *  *  *

 

 ケース3:ブランの場合

 

 ここはルウィー教会。そのブランの執務室。

 今ここでは、教祖の西沢ミナとロム、ラムが丸テーブルを囲んでお茶をしていた。

 

「……と言うわけで、ブラン様は三日ほど教会の外に出られませんので、ロム様とラム様はブラン様にご迷惑をかけないようにしてくださいね」

 

「「は~い!」」

 

 長い青い髪に眼鏡、赤いアカデミックドレスを着た女性、西沢ミナの説明に、幼い双子は元気よく応じた。

 

「で、問題はあれか」

 

「だな」

 

 二人の後ろに立つスキッズとマッドフラップは、胡乱な物を見る目で部屋の奥を見やる。

 そこには、ミラージュとブランが座っていた。

 だが近い、具体的にはブランがミラージュの足に寄り添っているのだが、表情が蕩け切っている。

 

「えへへ♪ ミラージュ~♪」

 

 普段の彼女からは考えられない甘ったるい声で傍らのオートボットを呼ぶブラン。

 ミラージュは普段と変わらず、ぶっきらぼうに問う

 

「……何だ」

 

「えへへ、何でもな~い♪ 呼んでみただ~け♡」

 

 そう言って、ミラージュの装甲に頬ずりを始める。

 完全にキャラ崩壊している。

 深く深く排気するミラージュ。

 それを見て、一同は何とも言えない表情になる。

 

「あのお姉ちゃん、何て言うか、変」

 

「……っていうか、むしろ気持ち悪い」

 

 子供らしい、ある意味残酷な言葉を吐くロムとラム。

 スキッズとマッドフラップも、からかう気にさえならないらしい。

 

「……これで三日ですか。これは何が何でも国民の前に出すわけにはいきませんね」

 

 ミナが溜め息を吐く。

 この状態が国民の目に触れたら、シェア暴落は免れないだろう。

 元々、ブランがミラージュに惹かれているのは、彼女に親しい者たちの間では何となく察せられていた。

 それでもブラン自身が自分とミラージュの立場を慮って、あまり表に出そうとしないことも分かっていたので、指摘したりしないのが暗黙の了解だった。

 どうやらブランは、そのことをかなりため込んでいたらしい。それが今回のことで噴出してしまったのだろう。

 

「えへへ~♪ ミラージュ~♡」

 

「…………これなら、普段のほうがマシだな」

 

 再度、それはもう深く排気するミラージュ。

 そして、三日後に効力が切れた時のことを考えて、頭痛さえ感じるのだった。

 

  *  *  *

 

 ケース4:ネプギアの場合

 

 どこか暗い地下室。

 

「えへへへ♡ ビィ~イ♡」

 

 蕩けるような笑顔でパートナーの名を呼ぶネプギア。

 その声にはあらゆる男が腰砕けになるだろう甘い響きある。

 バンブルビーだってこんな状況じゃなければ、嬉しかったかもしれない。

 ……ネプギアが大型レンチと電動ドライバーを手にしていなければ。

 眼からウォッシャー液を流しながら後ずさるバンブルビー。

 それにネプギアは一歩一歩近づいていく。

 

「えへへ。ビーが可愛すぎるのがいけないんだよ♡ もう私、我慢できないんだ♡」

 

 どうしてこうなってしまったのか?

 バンブルビーの記憶では教会にこもりきりでは寂しいだろうと、ネプギアの下を訪ね、そこで彼女に後をついてくるように言われたのだが……。

 

「この部屋はね、私の研究室♡ お姉ちゃんやいーすんさんだって知らない、秘密の部屋なんだ♡ 通信だって外には届かないから、邪魔は入らないよ♡」

 

 レンチを妖艶にペロリと舐めながら、迫るネプギア。

 壁際に追い詰められ、尻餅を突き、体を小刻みに震わせるバンブルビー。

 

「さあ、ビー♡ 私にあなたの全てを見せて♡」

 

 電子音の悲鳴が地下室に響き渡った。

 

 ※ここからは音声のみでお楽しみください。

 

「もう、暴れないの♡ 暴れると痛くなるだけだよ♡」

 

「へ~、ここ(エンジン)ってこうなってるんだ~♡ 可愛い~♡」

 

「気持ちいいの? 気持ちいいんだねビー!」

 

「ビーのここ(シャフト)こんなになってるよぉ~♡」

 

「ああ、もうビーったら悪い子だね♡ こんなにいっぱい出して(オイルを)♡」

 

「あははは! ビー、あなたは思った通り素敵だよぉおお!!」

 

 これ以上は、とても描写できない。

 バンブルビーはこの時の記憶を固く封印したのは言うまでもない。

 

  *  *  *

 

 ケース5:オプティマスの場合

 

 オートボット基地の中、オプティマスの私室。

 

「くッ……! うう……!」

 

 体を休めるためにスリープモードに入ったオプティマスだが、悪い夢でも見ているのか、うなされている。

 やがて、オプティマスは飛び起きた。

 

「は! はあ……、はあ……」

 

 排気を整え、熱くなったブレインサーキットを冷却する。

 

「これは、いったい……、どういうことなんだ……」

 

 自分を悩ませる夢の理由は分かっている。あの光線のせいだ。

 だが、なぜこんな夢を見る?

 

「これが、こんなことが、私の願望だというのか……!」

 

 オプティマスは再びスリープモードに入ることもできず、果てない懊悩に沈むのだった。

 

  *  *  *

 

 そして三日後。

 

 光線の効力が消えた一同は、ラチェットに診てもらうためにオートボット基地に集まっていた。

 

「ほい、診察完了! もう、問題ないようだね!」

 

「みなさん、良かったですね!」

 

「これで元通りってわけだ!」

 

 ラチェットと助手役のコンパ、ジョルトが陽気な声で言うが、反対に患者たちの表情は一様に暗い。

 椅子に一列に並んだ女神たちは、ガックリと項垂れていた。

 

「……私、思ったんだけど」

 

 左端に座るノワールがげんなりと声を出した。

 

「この三日のことは夢よ……。夢だったのよ……」

 

「……そうだな。夢だったんだ。全部、悪い夢だったんだ」

 

 隣に座るブランも力なく言う。

 

「そうですわね、ウフフフ……」

 

 さらに隣のベールは焦点の合っていない目でうす笑いを浮かべた。

 

「夢、夢だったら、どんなに良かったか……、ううう……」

 

 そして右端のネプギアは、顔を覆って涙を流す。

 なんとかバンブルビーは許してくれたものの、自分の所業を考えると泣くしかない。

 つきそいのネプテューヌはそんな妹の肩をそっと抱く。

 

「まあ、とにかくさ、効力が消えてよかったよ。ねえ、オプっち」

 

 空気を換えるために、近くに立つオプティマスに声をかけるネプテューヌ。

 

「……そうだな」

 

 だが、オプティマスもまた、重たい空気を纏っていた。

 なぜか、ネプテューヌと目を合わせようとしない。

 

「オプっち? どうしたのさ、何か変だよ」

 

「……すまない。その、私も少しあの光線の影響で変になっていたんだ。そのせいで気分がすぐれなくてな」

 

「ああ、そっか……」

 

 さしものネプテューヌもそれ以上は聞かない。

 本人なりに、超えてはならない一線は理解していた。

 オプティマスは曖昧に微笑むのだった。

 

「まあ、願望というのは、あくまでも心のどこかでしたいと思っていることであって、イコール本心ではない。それに光線のせいで不自然な状態だったのだから、あまり気にしないことだね」

 

 ラチェットは慰めるように言葉を発する。

 一同は力なく頷くのだった。

 

  *  *  *

 

 オプティマスの夢の内容は、オプティマスが人間になってネプテューヌと過ごすというものだった。

 ネプテューヌ『たち』とではない、ネプテューヌ『一人』とだ。

 それも単なると友達としてではなく、恋人として……。

 ラチェットと話した結果、オプティマスは強固な理性と感情をコントロールする術によって増幅された願望を無意識に抑えていたので、願望が夢となって表れたのだろうとのことだ。

 

 馬鹿な話だ。

 

 自分は金属生命体、彼女は有機生命体なのだ。

 ダイノボット・アイランドの一件で、自分がネプテューヌに執着しているのは理解していたが、それは友情の延長線上だと思っていた。

 自らの浅はかさに、怒りを通り越して呆れかえる。

 それ以前に……。

 

 自分に、誰かを愛する資格などない。

 

 かつて自分を愛してくれたヒトの思いを、受け止められなかった自分に、その資格などありはしないのだ……。

 

 翌日からオプティマスは普段通りにネプテューヌに接した。

 あの日の願望を理性によって胸の奥に固く固く、封じ込めて。

 

  *  *  *

 

 結局のところ、この事件は各々なんか大切な物を失いつつも、収束したのだった。

 

 そして、願望増幅機の光線を浴びた『もう一人』はと言うと……。

 

  *  *  *

 

「ひいいい!!」

 

 ディセプティコンの秘密基地。マジェコンヌはサウンドウェーブの機械触手に締め上げられていた。

 

「ぢゅううう! なんでオイラまでぇえええ!?」

 

 近くではワレチューがラヴィッジとレーザービークにボールのように転がされている。

 あの後、基地をいったん離れたマジェコンヌとワレチューだったが、リンダから話を聞いてサウンドウェーブに捕まったのである。

 

「貴様ハ、三日ガ過ギレバ、光線ノ効力ハ、切レルト言ッテイタナ。……デハ、ナゼ メガトロン様 ハ、元ニ戻ラナイ」

 

「き、効き方には個人差があるんだ! 三日以上、効果が持続することもある! だ、だが必ず切れる。本当だ!!」

 

 必死な声を出すマジェコンヌ。

 チッと舌打ちのような音を出し、サウンドウェーブはマジェコンヌを床に落とす。

 

「今度、勝手ナコトヲ、シテ見ロ。必ズ、殺ス」

 

 手に持った願望増幅機を握り潰し、それだけ言うと咳き込むマジェコンヌを無視して視線を主君に向ける。

 

 そこには……。

 

「フハハハ! よ~し、次は何をして遊ぶ?」

 

 雛たちと戯れているメガトロンがいた。

 

「かくれんぼがいいそうです。メガトロン様!」

 

 幼生たちのピイピイという鳴き声を、笑顔のレイが訳す。

 

「そうかそうか! ではまずは俺が鬼だ!」

 

 後ろを向き、いーち、にぃー、さーんと数えだすメガトロン。

 その間に雛たちは逃げていく。

 

「きゅうー、じゅう! よーし、ガルヴァとサイクロナスはどこかな~?」

 

 そして、メガトロンは心から嬉しそうに雛を探し出す。

 ちなみにサイクロナスというのは、この前生まれた雛のことで、命名は壮絶な戦い(くじ引き)の末に命名権を勝ち取ったスタースクリームである。

 レイからは、サーちゃんと呼ばれて、可愛がられている。

 

 三日前の戦いから帰って以来、ずっとこの調子だ。

 

 何をしようにも、雛たちと遊ぶので忙しいから後にしろと言う。

 おかげでディセプティコンはその機能を完全にマヒさせていた。

 ……ちなみにスタースクリームは、「こんな状態のメガトロンに指揮なんかできねえ! 今日から俺がニューリーダー……」とまで言ったところで顔面にフュージョンキャノン(弱)を叩き込まれてリペア中である。

 

「どうしたものか……」

 

 ショックウェーブも困った様子だ。

 さすがの彼も、主君のこの姿には何も言えないらしい。

 

 ――後、どれくらいこのままなのか?

 

 どうしてもそう思わずにはいられないサウンドウェーブだが、同時にもう少しなら、このままでいいとも思っていた。

 

 あんまりにも、メガトロンが楽しそうだから。

 

「よーし、ガルヴァを見つけたぞ! 次はサイクロナスだ!」

 

 物陰に隠れていたガルヴァを見つけ、手に抱くメガトロン。

 その顔には満面の笑みが浮かんでいた。

 




カオスな回を書いたはずだが、オプティマスパートだけ妙にシリアスになってしまった。
ついに、こういう描写しちまったよ……。全オプティマスファンから怒られれるなコリャ。

オプティマスパート抜きのパターンも途中まで書いたけど、どうしてもしっくりこなかったんです。

次回は、短編集の時に没った警備兵の話のリファインか、レイの休暇話かのどっちか。

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