超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION   作:投稿参謀

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作者の見積もり以上に長くなったダイノボット編も、これで完結です。
なんとかまとめることができました。


第44話 ダイノボットの王国 

 姫君と王国を護る騎士として、幸せに暮らしていた竜の騎士たちでしたが、あるとき空の彼方から『黒い神』が巨人たちを率いてやってきました。

 黒い神と巨人たちはとてつもなく強く、さすがの竜の騎士たちも苦戦を強いられました。

 それでもあきらめることなく竜の騎士たちは戦い続けました。

 あまりの戦いの激しさに大地は震え、山は火を吐きます。

 島の民は船にのって巨人たちから逃れましたが、姫君たちだけは最後まで残りました。

 長い戦いの末、ついに騎士たちは黒い神と巨人たちを追い返しました。

 だけど、騎士たちは深く傷つき、永い眠りにつかなければなりません。

 姫様たちは言います。

 

 いままでありがとう、と。

 

 騎士たちは言います。

 

 自分たちは、好きでやったのだ、と。この島が、王国が好きだからだと。

 

 こうして騎士たちは眠りにつき、姫君たちは自分たちを守ってくれた騎士たちを祭る巫女として生涯を通して祈り続けました。

 

 船に乗って島を脱出した人々は、長い航海の末に新しい土地を見つけ、そこに住むようになったそうです。

 その人たちこそが、今プラネテューヌに住んでいる人々の遠い遠いご先祖様だということです。

 

【古代プラネ民話 四人の騎士と姉妹姫】より一部抜粋。

 

  *  *  *

 

 戦いはなおも続いていた。

 ダイノボットたちの咆哮に、オートボットたちの雄叫びが重なる。

 普段から本能のままに戦うダイノボットだが、本能的なのと暴走しているのは違う。だからこそ驚異的な粘りを 見せる女神とオートボットだが、限界は当の昔に超えている。

 

「グリムロック! いい加減、目を覚ませぇえええ!」

 

 巨大な暴君竜に殴りかかるオプティマスだが、その金属の竜にはもう通用しない。

 セレブロシェルの効力が痛覚さえ麻痺させているのだ。

 

「このままじゃ……」

 

 ネプギアは魂に絶望がヒタヒタと忍び寄るのを感じた。

 だが、前回トランスオーガニックに襲われた時のような援軍はもう望めない。

 

「そうだ! 私に、いい考えがあるわ!」

 

 その時、ネプテューヌが何かを思いついた。

 

「ハイちゃんとヴイちゃんを、連れて来ればいいのよ!」

 

「そうか、本物の二人の言葉なら、届くかも!」

 

 ネプギアも笑顔になる。

 

「いや、それは不可能なんだ……」

 

 しかしオプティマスはどこか悲しそうに首を横に振った。

 

「最初にネプテューヌたちがセターン姉妹と会ったと言う、あの地下遺跡は、もう何千年も前の物だった……」

 

「それが何か……」

 

「そこには、あったんだ。……ヴイ・セターンと、ハイ・セターンの、墓が」

 

「「え?」」

 

 ネプテューヌとネプギアには、オプティマスが何を言っているのか理解できなかった。オプティマスは沈痛な面持ちで言葉を続ける。

 

「セターンの姉妹姫は、死んでいるんだ。……もう、何千年も前に。セターン王国は、遠い昔に滅亡しているんだ」

 

「そ、そんな……、じゃあ、私たちが出会った二人は……」

 

 まさか、幽霊だったとでも言うのか?

 言葉を失うネプテューヌとネプギア。

 全ての望みは虚しく絶たれた。

 もはやダイノボットを救う手だてはない。

 

「お願い、だれか……」

 

 ネプギアは祈った。誰かに祈るのは、女神として間違ったことだろう。

 それでも、祈らずにはいられない。

 だが、その祈りは虚しく大気に溶け……。

 

 そして、届いたのである。

 

『遅くなってすまない!』

 

 どこからか声が聞こえた。

 それはネプギアの脳内に直接響いてくる。聞き覚えのある声だ。

 

「ヴイさん!」

 

 地下遺跡で出会った不思議な少女、ダイノボットたちの真の主の一人。

 ヴイ・セターンの声が聞こえてきたのだ。

 

「ネプギア、どうしたの!?」

 

 突然動きを止めた妹に戸惑うネプテューヌだが、彼女の頭の中にも声が聞こえてきた。

 

『やっと動けるだけのシェアエナジーを得ることができました!』

 

「え、ハイちゃん!?」

 

 ヴイ・セターンの妹、ダイノボットのもう一人の主、ハイ・セターンの声だ。

 しかし、これはいったいどういうことか?

 

「どうしたんだ、ネプテューヌ!」

 

 戦いのさなか静止しているネプテューヌとネプギアに、グリムロックの尻尾をさけながらオプティマスが声をかける。

 

「オプっち! ハイちゃんの声がするの!」

 

「ヴイさんの声もです!」

 

「何だって!?」

 

 ありえないことを言い出す紫の姉妹に、オプティマスは戸惑う。

 さらに、どこからか二つの光球が飛来するに至り、さすがに混乱する。

 

『ネプテューヌ、ネプギア、今は時間がない』

 

『説明は後でします。お二人の体を貸してはいただけませんか?』

 

 今度はネプテューヌたち以外にも聞こえた。

 

「うん、いいよ!」

 

「私たちの体、使ってください!」

 

 間を置かずに紫の姉妹は変身を解き、頷く。

 

「ネプテューヌ、危険だ! 何が起こるか分からないのだぞ!」

 

「ギ…ア…『危ないよ~!』」

 

 それに驚き、心配そうな声を出したのはオプティマスとバンブルビーだ。

 しかし、ネプテューヌとネプギアの表情は、ある種の確信に満ちたものだった。

 

「大丈夫だよ、オプっち。……そんな気がするんだ」

 

「ビーも。心配しないで」

 

 そして二人は手を広げ、目を瞑る。

 二つの光球がネプテューヌとネプギアの体に重なり、溶け込んでいく。

 まばゆい光が辺りを見たし、その光の中に紫の女神たちの姿が消えた。

 

「え? 何!?」

 

「何なんだよ、この光は!」

 

「ネプギアちゃん、ネプテューヌ……?」

 

 ストレイフと空中戦を演じていたノワール、ブラン、ベールも異様な事態に面食らう。

 女神も、オートボットも、理性を失ったはずのダイノボットたちも動きを止める。

 

「何なのだ? この現象は……」

 

 そして、プルルートを砲撃していたショックウェーブもまた、自分の理解を超えた現象に微かに戸惑った声を出す。

 

 光りが治まった時、そこにネプテューヌとネプギアの姿はなかった。

 その代わりに立っていたのは、浅黒い肌に白い髪、南国風の衣服を纏い、蛇を模した髪飾りを着けた、ネプテューヌとネプギアによく似た少女たちだった。

 心配そうなオプティマスに、ネプテューヌに似たほうの少女……ヴイ・セターンが微笑みかける。

 

「鋼鉄の騎士よ、心配しないでくれ。貴公の姫君は無事にお返しする」

 

 そして、どこか葛藤するかのように震えるダイノボットたちに向き合うと、口を開いた。

 だが紡ぎだされるのはただの言葉ではない。

 

 ……歌だ。

 

 最初はハイの独奏(ソロ)だ。

 

 清水のように清らかな声で、母の優しさを、父の温もりを謳う。

 

 続いてヴイの独奏(ソロ)

 

 そよ風のような優しい声で、大地の雄大さを、大海の広大さを奏でる。

 

 女神も、オートボットたちも、ダイノボットたちさえ聞き入っている。

 

 そして、二人の歌声が重なる。

 

 歌が広がっていく。炎のように暖かに、風のように柔らかに、水のように清らかに、そして大地のように雄大に。

 それは生命の歌だ。あらゆる命を賛美する、生命賛歌だ。

 

 グリムロックは、自分の頭の中で過去の映像が激流のように流れていくのを感じていた。

 

 ――この歌だ。この歌に自分たちは敗れたのだ。

 

 そして、姉妹姫の部下となって様々なことをした。

 皆のために家を造り、河に橋を架けた。

 畑を耕し、木々を植えた。

 最初は嫌々だった。

 戦うために生まれた。それが存在意義だったのだ。

 でも姫君たちは、王国の人々は、それ以外のことを教えてくれた。

 いつしか、ダイノボットたちにとって、それはかけがえのないものになった。

 だから誓ったのだ。

 この国を、そこに住む人々を護っていこうと……。

 

「グ、グ、グ……!」

 

 荒ぶる闘争心に逆らい、グリムロックは無理やり騎士の姿へと戻る。

 そして、(スパーク)の底から咆哮を上げる。

 

「我……、我、グリムロック! セターン王国の騎士なり! 姫君以外の、何者の……、何者の指図も受けない!!」

 

 その瞬間、炎の騎士の体内を凄まじいエネルギーが駆け巡り、体内奥深くでグリムロックの神経系に取りついていたインセクティコンたちが跡形もなく消し飛んだ。

 他のダイノボットたちも同様に。

 それを察知し、ショックウェーブは彼らしくもなく動揺した声を上げる。

 

「論理的にありえない……。ありえないぞ、こんなことは……!」

 

「でも、彼らは目覚めたわぁ。あなたの論理とやらもぉ、そこが知れるわねぇ」

 

 そこへ容赦のない言葉を浴びせるプルルート。

 ショックウェーブは彼女を一瞬ギラリと睨むが、すぐさま身を翻しエイリアンタンクに変形して逃亡していった。

 歌を終えたヴイとハイは、ダイノボットたちを見回し優しくも厳しい笑みを浮かべた。

 

「騎士たちよ! 目を覚ましたか!」

 

 ヴイの声に、理性を取り戻したダイノボットたちは並んで跪く。

 

「姫様たち、面目ない……」

 

「すまない、俺としたことが……」

 

「反省……」

 

「俺、スラッグ。ごめんなさい……」

 

 全員で謝罪するダイノボットたちに、優しく笑うヴイとハイ。

 

「まったく、相変わらず手のかかる奴らだ」

 

「フフフ、そうですね」

 

 そして、今度はオプティマスに向かい合う。

 

「待たせたな、鋼鉄の騎士よ。貴公らの姫君を返すぞ」

 

「お二人の女神の力を少しだけ分けてもらいました。これで姿を保てるはずです」

 

 そう言って目を瞑ると、二人の体から光球が抜け出し、ネプテューヌとネプギアの姿に戻った。

 光球はやがて人の形になり、透けてはいるがヴイとハイの姿を取った。

 

「やー、人に体を貸すのって初めての体験だけど、思ってたより悪くなかったねー」

 

「うん。でもちょっと変な気分かも……」

 

 ネプテューヌは変わらず呑気に言い、ネプギアが苦笑する。

 異常のなさそうな二人を見て、オプティマスとバンブルビーはホッとした。

 

「姫様たち、その姿は……?」

 

 一方、グリムロックをはじめとしたダイノボットたちは混乱しているようだ。

 

「ダイノボット、我が騎士たちよ。我ら姉妹は、すでに死んだ身。この姿は皆とネプギアのシェアを使い、ネプテューヌたちの女神の力をほんの少し借りて作った仮の物に過ぎないのだ」

 

「姫様たちが……、死んだ!?」

 

「そんな馬鹿な!?」

 

「……」

 

「俺、スラッグ! そんなの有り得ない!」

 

 驚愕するダイノボットたち。

 だが、ハイは目を伏せる。

 

「本当です。私たちだけではありません。セターン王国は、遠い昔に滅びたのです」

 

「そんな……」

 

 あまりのことに、頭を垂れるダイノボットたち。

 ヴイとハイは再びダイノボットを見る。

 どこか涙をこらえているようにも見える騎士たちに柔らかい笑みを浮かべる姉妹姫だが、すぐに真面目な顔になる。

 

「騎士たちよ! 今、この島に危機が迫っている! 命の理を外れた者たちが、島を覆い尽くさんばかりに数を増やしているのだ!」

 

 ヴイの上げる朗々たる声に、ネプテューヌも思い出した。

 

「そうだ! 大変なんだよ、オプっち! 木偶の虎お酢浮遊城サイザーから、トランスオーガニックがいっぱい出てきてるんだよ!」

 

「お姉ちゃん、それじゃ分かんないよ……。あの、テクノオーガニックフュージョナイザーっていうのは、トランスオーガニックを作り出す機械なんです。それが暴走して、どんどんトランスオーガニックたちを作ってるんです! もうディセプティコンの言うことも聞かないみたいで、このままだと大変なことになるかも!!」

 

 姉の言葉を補足するネプギア。

 セターンの姉妹姫は大きく頷いた。

 

「その通り、放っておけばこの島は愚か、ゲイムギョウ界に災いをもたらしかねない。……騎士たちよ、もう一度だけ、戦ってはくれまいか」

 

「虫のいい話だとは、分かっています。自由を愛するあなたがたを何千年も縛りつけて……」

 

「それ、違う!」

 

 ハイの言葉をさえぎり、グリムロックは声を上げた。

 

「我ら、この国が、この島が好きだから、護った! 我らの意思で、護った! これからも、護り続ける!!」

 

 堂々たるグリムロックの宣言に、他のダイノボットたちもそうだそうだと同意する。

 

「皆……、ありがとう」

 

「ありがとうございます。本当に……」

 

 涙ぐむ姫君たちに、ダイノボットたちは力強い笑顔を見せる。

 

「その言葉、前にも聞いた。だから、同じ言葉、返す。我ら、好きでやっている!!」

 

「俺たちはさ、この島が大好きなんだ! だから姫様たちが気にすることじゃないよ!」

 

「同意!」

 

「俺、スラッグ! 難しいこと分からないけど、姫様たち、大好き!」

 

 どこまでも純粋に、それでいて誇り高いダイノボットたちの姿に、姉妹姫は破顔した。

 グリムロックは改めて宣誓する。

 

「ダイノボット、出陣する! セターンを脅かす者に、滅びを!!」

 

「「「応」」」

 

 武器を掲げ、鬨の声を上げるダイノボットたち。

 そこに声をかける者がいた。

 

「待ってくれ! 私も共に行かせてはくれないか!」

 

 セターンの姉妹姫と騎士団の再会に、今まで口を挟まなかったオプティマス・プライムだ。

 しかし、グリムロックはゆっくりと首を横に振る。

 

「オプティマスたちには、迷惑かけた。ここからは、我らの戦い!」

 

「ディセプティコンが相手なら、私にとっても他人事ではない!」

 

 頑としてゆずらないオプティマス。

 ネプテューヌは苦笑する。

 

「連れてったほうがいいと思うよー。こうなると、オプっちは絶対に曲がらないからねー」

 

「まったくだ。困ったヒトだよ、ホント」

 

 ジャズもそれに同意する。

 他の女神もオートボットもウンウンと頷きながら、武器を構える。自分たちも参戦する気満々だ。

 しばらくオプティマスの顔を真っ直ぐ見ていたグリムロックだったが、やがて重々しく口を開いた。

 

「……分かった。でも、丸腰で戦う、危険。ついて来る」

 

 それだけ言って、グリムロックは歩き出した。

 顔を見合わせる女神とオートボットだが、オプティマスは迷わずついていく。

 ネプテューヌはヤレヤレと肩をすくめながらも、それを追うのだった。

 

  *  *  *

 

 やがてグリムロックは、滝の流れ込む泉の前で止まった。

 滝の飛沫が虹を作り出し何とも美しい泉だが、その中に不思議な物がある。

 泉の中央に岩が突き出て、そこに一本の剣が刺さっているのだ。

 

「グリムロック、これは……?」

 

「これぞ、勇者の剣。人呼んで、テメノスソード」

 

「おおー! 伝説の剣的なアレ、キターッ!!」

 

 オプティマスの問いに厳かに答えるグリムロックとはしゃぐネプテューヌ。

 

「この剣は、かつて英雄が使っていた剣だ。貴殿になら使いこなせるだろう」

 

「さあ、鋼鉄の騎士よ。剣を抜くのです」

 

 ヴイとハイが剣の左右に並び、オプティマスに剣を抜くよう促す。

 一つ頷いたオプティマスは泉の中へと入り、剣の前に立った。

 そして剣の握りに手をかけ力を込める。

 すると、ゆっくりと剣は岩から抜けた。

 誰もが括目する中で、オプティマスはテメノスソードを顔の前に掲げる。

 示し合わせたようにオプティマスの手に調度いい大きさで、無地だった柄には彼と同じ赤と青のファイアーパターンが浮かび上がる。時を経ているにも関わらず錆一つなく輝く刀身には古代の文字が刻まれていた。

 

「おおー! 何か凄いねー!」

 

 最初に声を上げたのはネプテューヌだ。

 確かにテメノスソードは、神秘的ながらも言い知れぬ凄みを放っている。

 二、三度剣を振ってみると、太古の剣はリンと空気を切った。

 

「やー、確かに立派なもんだ!」

 

 と、どこからか知らない声が聞こえた。

 全員がそちらを向くと、木々の合間からヒョコヒョコと小さなトランスフォーマーが姿を現した。

 ディセプティコンを脱走してきたブレインズだ。

 

「貴様、ディセプティコンだな」

 

「まてって! 俺はもう、ディセプティコンは抜けたんだよ!」

 

 ブレードを構えるミラージュに、ブレインズは慌てて両手を上げて戦う意思がないことを伝える。

 訝しげな視線を向ける一同に、ブレインズは次の手を打った。

 

「まじだって! ほら、こうしてアンタらのお友達も連れてきたんだぜ!」

 

 そう言って示す先には、小さな影が二つ。

 

「ああー! ねぷてぬだー!」

 

「ああ、ホントにいたよ……」

 

 それはピーシェとホィーリーだった。

 基地に置いておくのは危険というスタースクリームの判断により、ブレインズとともに逃がされたのだ。

 

「ぴーこ!」

 

「ピーシェちゃん!」

 

 ネプテューヌとネプギアは笑顔のピーシェに駆け寄り、抱き寄せる。

 意味はよく分からずとも無邪気に笑うピーシェに、ネプテューヌは厳しい顔になった。

 

「ぴーこ! 悪い奴らやモンスターに見つからなかった? この島は今危険なんだよ!」

 

「うーうん、わるいやつとはあってないよ!」

 

 ニコニコとして答えるピーシェ。

 オプティマスは誰からも心配されていなくてふてくされているホィーリーに真偽をたずねる。

 

「本当か?」

 

「ああ、うん。まあピーシェを傷つけようとするようなのには、合わなかったな」

 

 利用しようとしてるのは会ったけど。とは言わず適当に誤魔化すホィーリー。

 これ以上、この話を続けるのはマズイと判断し、ブレインズは話題を変える。

 

「それはともかく……、あんたら、ディセプティコンの基地を襲うんだろ? だったら、俺の情報が必要なんじゃねえか? 俺はこう見えて、基地の制御をしていたんだ」

 

「何が目的だ?」

 

 ジャズが警戒した調子で問うと、ブレインズはニヒルに笑う。

 

「自由と安全。それさえくれりゃ言うことねえや」

 

「……いいだろう。情報を話してくれ」

 

 オプティマスはそれを承諾した。

 敵の情報はあるに越したことはない。

 ブレインズはニヤリと笑うと話し出した。

 

「トランスオーガニックは、テクノオーガニックフュージョナイザーで生産されてんのは知ってんな。実は、そのフュージョナイザーこそがトランスオーガニックの弱点でもあるのさ。トランスオーガニックは、フュージョナイザーから発せられるエネルギー波を浴びていないと、その生命を維持できない。つまり、フュージョナイザーを破壊しちまえば、全てのトランスオーガニックは死に絶えるってわけ」

 

「話は決まったな。じゃあ、そろそろ行こうや。俺のキャノン砲が、ディセプティコンを吹っ飛ばしたくてウズウズしてるぜ!」

 

「そうね。今日こそディセプティコンの奴らを三枚に下ろしてやるわ!」

 

 物騒なことを言い出すアイアンハイドとノワール。

 苦笑する一同だが、ダイノボットたちは歓声を上げ、オプティマスは厳かに頷いた。

 

「ああ、では行こう。……オートボット、出動(ロールアウト)!!」

 

 さあ、戦いだ!!

 

  *  *  *

 

 場所は変わってディセプティコン臨時基地の地下。

 何重もの隔壁で閉鎖されたここには、トランスオーガニックもまだ近づいていない。

 広大な空間が構えられているここで、メガトロンは脱出の指揮を取っていた。

 と、閉鎖されていた扉が開き、そこからエイリアンタンクの姿のショックウェーブが現れ、メガトロンの前で変形すると恭しく跪く。

 

「申し上げます、ダイノボットがセレブロシェルの影響を逃れました。論理的に考えて、彼奴らはオートボットと組んで、この基地を襲撃してくるものと思われます」

 

「何だと! ショックウェーブ、貴様、あの洗脳から覚めることはないって言ったじゃねえか!」

 

 ショックウェーブの報告を聞いて声を上げたのは、メガトロンではなく傍らに控えていたスタースクリームだ。

 メガトロンは跪くショックウェーブを見下ろしながら、スタースクリームに問う。

 

「後、どれくらいで発進できる?」

 

「へ? あ、はい、まだ少しかかります。何せ急なことだったんで……」

 

「急がせろ。それと……」

 

 短く指示を出し、ショックウェーブを見るメガトロン。

 

「失態だな、ショックウェーブ」

 

「はッ、咎は何なりと……」

 

「では、ついてこい。発進までの時間を稼ぐぞ。……スタースクリーム、貴様はここで指揮を取れ」

 

 それだけ言うと、メガトロンは半ば唖然とするスタースクリームを後目に、立ち上がったショックウェーブを引きつれて、戦場へと向かうのだった。

 

  *  *  *

 

 ディセプティコン臨時基地、正門前。

 すでに基地の地上部分はトランスオーガニックであふれかえっている。

 敵の攻撃を防ぐための高く分厚い壁が、大部分の飛行能力を持たないトランスオーガニックを閉じ込めることになったのは、皮肉である。

 無限の暴力衝動に突き動かされるトランスオーガニックたちは、獲物を求めて正門を破ろうとしている。

 もちろん知恵などないので、体当たりや引っ掻きが関の山だが。

 と、地響きが聞こえてきた。

 ほんの僅かに動きを止めるトランスオーガニックたちだが、すぐに門への攻撃を再開しようとする。

 

 次の瞬間、正門が外側から吹き飛んだ。

 

 倒れてくる門扉の下敷きになって、何体ものトランスオーガニックが潰れる。

 その上を駆けていく者たちがいる。

 巨大な金属の竜が四体。ダイノボットだ。

 角竜スラッグがアイアンハイドを、翼竜ストレイフがジャズを、棘竜スコーンがミラージュを、そして暴君竜グリムロックがオプティマスをその背に乗せ、それぞれの横に大剣を振るうノワール、光弾を次々撃ちだすブラン、長槍を投擲するベール、太刀を構えるネプテューヌと、蛇腹剣を舐めるプルルートが女神化した状態で並んで飛ぶ。

 ネプギアとバンブルビー、ジョルトは、今度こそピーシェたちがついてこないように見張っている。

 ドラゴン型がスラッグの突進に跳ね飛ばされ、さらにアイアンハイドの砲撃とノワールの斬撃で粉みじんになる。

 ミラージュが素早く背から降りるとスコーンは高く跳び、背中から落下して長い棘でトランスオーガニックたちを串刺しにする。

 空を往くストレイフに跨ったジャズは、鳥形や虫型のトランスオーガニックをまるでシューティングゲームのように次々と撃墜していく。

 そして、グリムロックの背から降りたオプティマスはテメノスソードを振るって並み居るトランスオーガニックを斬り伏せていく。

 その姿は、まさに伝説の一場面から抜け出てきたようだ。

 女神たちも負けてはいない。

 ノワールの大剣が、ブランの戦斧が、ベールの長槍が、ネプテューヌの太刀が、機械仕掛けのゾンビたちを切り裂き、粉砕し、貫き、薙ぎ払う。

 それでも、なおも、トランスオーガニックは無限に湧き出してくる。

 

 やはり、大本を潰さねばならないのだ。

 

「ゆえに、このまま突き破るのみ! 基地を破壊するのだ!」

 

「応! ダイノボット、突撃!!」

 

 ダイノボットたちはオプティマスの号令にさらなる進撃を続ける。

 壁をぶち破り、トランスオーガニックを蹴散らして、奥へ奥へと。

 それを阻める者はいない。

 いくつめかの隔壁を打ち破ったところで、オプティマスたちは巨大な機械を見つけた。

 ネプテューヌが声を上げる。

 

「オプっち、グリムロック、これよ!」

 

「よし! グリムロック、破壊しろ!!」

 

 女神と総司令官の声に応え、グリムロックは咆哮とともに轟炎を吐く。

 超高温が機械の中枢を破壊し、テクノオーガニックフュージョナイザーは、あっけなくその機能を停止したのだった。

 全てのトランスオーガニックも、もろともに。

 ゼンマイの切れた玩具のように動きを止めたトランスオーガニックたちは、それこそ日光に当たった吸血鬼のように、粒子に還るのだった……。

 

「……終わったか」

 

「こうしてみると、あっけない物ですわね」

 

 ブランとベールはホッと息を吐く。

 この島に来てからと言うもの、息つく間もない戦いの連続だった。

 しかし、アイアンハイドは、まだ砲を降ろさない。ノワールは訝しげに彼を見た。

 

「アイアンハイド?」

 

「気をつけろ! 何か来るぞ!」

 

 ダイノボットたちも、グルルと喉を鳴らして警戒している。

 やがて地響きが起こり、だんだんと大きくなっていく。

 そして、床を突き破って巨大な機械ミミズが姿を現した。

 ドリラーだ。

 

 さらに。

 

「オプティマァァス!!」

 

 横合いからエイリアンジェット姿のメガトロンが飛来したかと思うと、グリムロックの背に跨っていたオプティマスに体当たりをかまし、彼を浚っていった。

 二人はもみあいながら床に転げ落ちる。

 

「オプっち!」

 

 慌ててそれを追おうとするネプテューヌだが、ドリラーの触手がそれを阻む。

 

「君たちには、少し付き合ってもらおう」

 

 そう言いつつドリラーの操縦席から降りてくるのは、ショックウェーブだ。

 

「あらあらぁ、いくらあなたとミミズちゃんが強くてもぉ、この全員を相手にするのはぁ、論理的とは言えないわねぇ」

 

 ネプテューヌの隣に並んだプルルートが、『論理的』の部分を強調して嗤う。

この数の差に加えてダイノボットまでいるのだ。ショックウェーブに勝ち目があるとは思えない。

 

「心配は無用だ。君たちの相手は用意してある」

 

 そう言ってショックウェーブがパチリと指を鳴らすと、部屋の壁や床、天井を破壊して全部で五つの影が現れた。

 一つは巨大な類人猿。だが腕と頭部が金属で補強されていて、騎士の姿のグリムロックにも並ぶ巨体だ。

 二つ目はジャズと同じくらい影。豹を思わせる容姿だが二足歩行で、機械仕掛けの両手には剣を握っている。

 三つ、金属で補強された巨大な猛禽。

 そして最後に、蔓や根っこが絡まりあって女性を模している存在だ。下半身からは何本もの蔓や根が触手のように伸び、蠢いている。

 

「な、なんなのよ、こいつらは!」

 

 その不気味な姿にノワールが声を上げると、ショックウェーブが頼んでもいないのに説明を始める。

 

「彼らは、トランスオーガニックの第二世代だ。これまでのトランスオーガニックはフュージョナイザーからのエネルギー波を浴びていないと生命を維持できないという特性上、この島から出られないという弱点を抱えていた。だが体内にエネルゴンクリスタルを埋め込むことでこの弱点を克服したのだ。名付けて、ビーストマシーンズ」

 

 淡々と語るショックウェーブに、一同は改めて怒りを感じる。

 どうやらこの怪物たちも、ショックウェーブの狂気の被害者らしい。

 

「王国を荒らす者! 叩き潰す!!」

 

「援護するわ!」

 

 グリムロックが咆哮とともに類人猿型に向かって行き、ネプテューヌもそれに続く。

 

 いよいよ、最後の戦いだ!

 

「俺、スラッグ! こいつら嫌い!」

 

「同感だぜ! ぶっ潰してやる!」

 

「遠慮は無用ね!」

 

 スラッグが植物型に突撃していき。その上のアイアンハイドが容赦なく砲撃し、殺到する蔓をノワールが切り裂く。

 だが、与えたダメージはアッと言う間に回復された。

 突撃と砲撃で開いた穴は塞がり、新たな蔓が生えてくる。

 

「これじゃキリが無い!」

 

「俺、スラッグ! 回復するなら、回復しなくなるまで、攻撃すればいい!」

 

 声を上げるノワールに脳筋全開なことを言うスラッグ。

 

「まあ、それしかないわな! 全力でいくぞ!」

 

 アイアンハイドの声に、スラッグは歓声を上げて突撃を再開しつつ、口から炎を吐いていく。

 

「ああ、もう! 脳筋ばっかりなんだから!」

 

 愚痴りつつも、ノワールもまた剣に炎を纏わせる。

 スラッグの炎に蔓と根が焼かれ、砲撃が体積を削っていく。

 

「ヴォルケーノダイブ!!」

 

 最後に、ノワールの剣が大上段から植物型を真っ二つにする。

 叫び声を上げて、植物型は炎の中に消えた。

 

「早いな」

 

「クソッ! 攻撃が当たらねえ!」

 

「小癪!」

 

 目にも止まらぬ速さで動き回る豹型に、ミラージュとブラン、そしてスコーンは翻弄されていた。

 色つきの風のようですらある豹型のスピードに三人は追いつくことはできない。

 

「どうする?」

 

「こういう時は決まってんだろ。『歩調を合わせる』んだよ」

 

 ブランの言葉に、ミラージュは一つ頷くと透明化して姿を消す。

 一瞬混乱した様子の豹型だったが、すぐさまブランへと斬りかかってきた。

 しかし、現れたミラージュに後ろから斬られる。

 それを華麗にかわす豹型だが、さらに『もう一人』現れたミラージュが、その背後から斬りつける。

 最初のミラージュは、立体映像だったのだ。

 

「ツェアシュテールング!!」

 

 豹型が動きを止めた瞬間、ブランの戦斧が横薙ぎに振るわれ、豹型はとっさに両手の剣を交差させて防御するも、壁まで吹っ飛ばされる。

 何とか立ち上がろうとする豹型だったが。

 

「必殺!!」

 

 背中から落ちてきたスコーンに串刺しにされ、あえなく息絶えるのだった。

 

 基地を飛び出し猛禽型に空中戦を挑むのは、ストレイフに跨ったジャズと、それに随伴飛行するベールだ。

 猛禽型が機銃やミサイルをばらまき、双頭の翼竜と緑の女神を撃ち落とそうとする。その姿はさながら生きた戦闘機だ。

 しかし、ストレイフはその全てを回避して見せる。

 

「どうだい、俺の飛行テクニックは!」

 

「イヤッハー! 最高だぜ!」

 

 戦闘中だというのに気楽なストレイフとジャズ。

 

「まったく、二人とも呑気なんですから……」

 

 呆れた様子のベールだが、苦笑を浮かべる余裕があるあたり彼女も大概だ。

 その態度を馬鹿にされたと取ったのか、さらなる弾幕を張る猛禽型。

 

「しかし、このままじゃジリ貧だな。いっちょ、派手にいくか!」

 

 そう言うやストレイフは騎士の姿に戻る。

 

「イヤッホーーー!!」

 

 当然空中に放り出されるジャズだが、むしろこのスカイダイビングを楽しんでいる。

 ベールもいったんトランスフォーマーたちから離れる。

 突然三つに分かれた標的に混乱する猛禽型だが、次の瞬間ストレイフのボウガン、ジャズのクレッセント・キャノン、ベールのシレットスピアーの集中砲火を喰らい、針ネズミのようになって地上に落ちていった。

 それを確認したストレイフは翼竜に変形するとジャズを回収するのだった。

 

 そしてグリムロックは、暴君竜の姿で類人猿型と戦っていた。

 噛みつこうとするグリムロックだが、類人猿型は素早く上下の顎を掴み、口を無理やり閉じさせる。

 お互いの大怪力ゆえに膠着状態に陥る暴君竜と大猿人。

 

「クロスコンビネーション!」

 

 だが類人猿型の背中に向けて、ネプテューヌが剣技を放った。

 たまらずグリムロックを放してしまう類人猿型だが、すぐに体勢を立て直す。

 

「グルオオオ!! 我、グリムロック! もう怒った!」

 

 怒りの咆哮を上げ、騎士の姿に戻るグリムロック。しかし、その手にメイスはない。

 

「おまえ、素手で叩き潰す!」

 

 なんとグリムロックはこの機械仕掛けの大猿人と殴り合おうと言うのだ。

 類人猿型は胸板をドラミングしてからグリムロックに殴りかかる。

 顔面に拳を叩き込まれるグリムロックだが、ひるまず殴り返す。

 ストレート、フック、アッパーカット、ボディブロー。

 金属の拳と拳がぶつかり合い火花を散らす。

 お互いよけも防御もしない純粋な殴り合い。これぞ原始の戦いだ。

 あまりのことにネプテューヌは割って入ることができない。

 やがて地力の違いからか、先に膝を着いたのは大猿人だった。

 

「グルルルゥ! これで、止め!!」

 

 そして最後の一撃が、類人猿型の胸板に突き刺さる。断末魔の悲鳴を上げ、仰向けに倒れる大猿人。

 

「おまえ、中々強かった。……できることなら、違う形で、会いたかった」

 

 しかし、グリムロックに勝利の余韻はなかった。

 騎士として戦士として、また男として、狂気の犠牲になった強敵に哀悼を示すのみだった。

 

 蛇腹剣を振り回すプルルートに対し、ショックウェーブの乗り込んだドリラーの触手が迫る。

 

「あら、触手プレイがお好み? ショッ君たら大胆ねぇ」

 

『いったい何を言っているんだ、君は』

 

 戦闘中でも蠱惑的に笑むプルルートに、ショックウェーブは若干呆れたような声を出す。

 

「もう、つれないわねぇ……、ファイティングヴァイパー!」

 

 無数の触手を潜り抜け、雷を纏った蛇腹剣を繰り出すプルルート。

 しかし、巨体のドリラーは攻撃が直撃しても、大したダメージを受けた様子はなく、大口を開けて深紫の女神を飲み込もうとする。

 ヒラリとかわすプルルートだが、巨大ドローンを前に攻めあぐねていた。

 

『攻撃は無駄なことだよ。論理的に考えて、君の攻撃はドリラーに致命的なダメージを与えることはできない』

 

「どこまでも論理、論理ってうるさいわねぇ。それならその論理……」

 

 プルルートは凄惨な笑みを作った。自信と怒りに満ちた笑みだ。

 

「私が超えてやるわぁ……!」

 

『…………!』

 

 その言葉が発せられた瞬間、ドリラーが動きを止める。

 ハテと首を傾げるプルルートだが、すぐにドリラーからショックウェーブの声が聞こえてきた。

 

『ふざけたことを言う……!!』

 

 それはこれまでとは違い、明らかな怒りを滲ませた声だ。

 

『論理を超えるのはメガトロン様のみ。君にできるものか……!』

 

 ショックウェーブと一体化したドリラーは、さらに触手を振り回す。

 

「……ッ! ショッ君ったら激しいわねぇ!」

 

 これまでよりも激しい攻撃をプルルートはかわし続けるが、一本の触手がその妖艶な体に叩き付けられた。

 弾き飛ばされたプルルートは、床に落下する。

 

「くッ……!」

 

『どうやら口だけだったようだな……!』

 

 立ち上がろうとするプルルートに止めを刺すべく、ショックウェーブに操られたドリラーは触手を振るう。

 だがプルルートは触手が突き刺さるより先に高く飛び上がった。

 そしてそのまま、ドリラーを飛び越えて上昇していく。

 

『何を……』

 

「言ったでしょう? 論理なんか超えてみせるってぇ!」

 

 そして、蹴りの姿勢でドリラーに向けて急降下を始めた。

 

「とっておきよぉ! サンダーブレードキイィィック!!」

 

 雷を全身に纏い、ドリラーに向け突撃するプルルート。

 ドリラーは大口を開けて迎え撃つが、プルルートはよけるどころか大口に飛び来んだ。

 

『!?』

 

 さすがに驚くショックウェーブ。

 プルルートの体は雷のエネルギーに守られ、ドリラーの回転シュレッダーは彼女を傷つけることができず破壊されていく。

 そのまま体内の機構を破壊しながら直進したプルルートは、ドリラーの背部を破って飛び出してきた。

 床に無事着地するも、さしもにふらつく。

 

「はあっ……、はあっ……、どうかしらぁ!」

 

『ば、馬鹿な……!?』

 

 ショックウェーブは驚愕しながらも操縦席のコンソールからドリラーの中枢部……パーソナルコンポーネントを抜き取って脱出する。

 音を立てて着地したショックウェーブの後ろで、ドリラーは火花を散らしながら倒れ伏すのだった。

 

 オプティマスはメガトロンのフュージョンカノンをかわしながら突っ込んでいく。

 デスロックピンサーを展開しそれを受け止めるメガトロン。

 

「フハハハ! 何だそのボロ剣は!」

 

「これは、騎士の剣! 誇り高き戦士の武器だ!」

 

 鍔迫り合いを繰り広げながら吼えるオプティマスを、メガトロンは嗤う。

 

「そんな物が何の役に立つ! そんな剣は貴様の誇りもろともへし折ってくれるわ!」

 

 いったん距離を取り、横薙ぎに斬りかかるメガトロン。

 オプティマスもそれを受け止める。

 幾度となく切り結ぶ二人だが、徐々にメガトロンが圧倒しはじめた。

 あたりまえだ。メガトロンは元剣闘の王者なのだから。

 それでも、オプティマスの闘志は折れない。

 

「死ねい、オプティマス!!」

 

「私は死なんぞ、メガトロン!!」

 

 大上段から斬撃を繰り出してくるメガトロンに、こちらも大上段で迎え撃つオプティマス。

 二人の剣が交差し、そして……、デスロックピンサーが砕けた。対するテメノスソードは刃こぼれ一つない。

 

「なんだと!?」

 

 驚愕するメガトロンだがすぐに立ち直り、フュージョンカノンに変形させてオプティマスを撃つ。

 だが、放たれた光弾はオプティマスの振るうテメノスソードに弾かれた。

 だとしても、メガトロンの闘志は折れない。

 再度フュージョンカノンを発射しようとするメガトロンだが、そこへスタースクリームから通信が入った。

 

『発進準備ができましたぜ!』

 

 怒りを向き出しにして、まだふらついているプルルートに粒子波動砲の照準を合わせるショックウェーブ。

 

「……よくも!」

 

 それを見て、プルルートはニヤリと笑う。

 

「あらぁ、ようやくマトモな感情を見せてくれたわねぇ」

 

「死ねえ!!」

 

 だが、粒子波動砲を発射するより早く、メガトロンの声が響いた。

 

「準備ができた! 撤退するぞ!」

 

 主君の呼びかけに、科学参謀は怨嗟を込めた視線で深紫の女神を睨みつつ撤退するのだった。

 オプティマスと睨み合いながら、メガトロンは言う。

 

「ククク、貴様らも早く逃げたほうがいいぞ。今しがたこの基地の自爆装置を作動させたのだ」

 

「何だと!? そんな情報はないぞ!」

 

 驚愕するオプティマス。

 ブレインズはそんなこと一言も言っていなかった。

 ニヤリとメガトロンは顔を歪める。

 

「ふん! どうせブレインズから得た情報だろが、奴が知らないのも当たり前だ。自爆装置を仕込んでおいたのは、基地を建造する前だからな。時間の経過とともに地下のエネルゴンクリスタルに過負荷がかかり、爆発する仕掛けなのだ!」

 

 メガトロンはそれだけ言うと、エイリアンジェットに変形して飛び去った。

 

 ――仮に今の話が本当だとするならここにいるのは危険だ!

 

 オプティマスの決断は早かった。

 

「総員、撤退だ! 基地が爆発する!!」

 

  *  *  *

 

 急いで脱出した女神とオートボット、そしてダイノボット。

 一同が基地から離れた瞬間、基地の基底部から爆発を始め、崩れていく。

 そして大爆発が起こり、基地は完全に爆炎の中に消えた。

 だが炎の中から浮上してくる物がある。

 それは深海の古代魚を思わせる姿をした巨大な何かだ。

 

「あれは……、ディセプティコンの戦艦か! なぜこんな所に……?」

 

 オプティマスの疑問に答えることなく、戦艦はバーニアを吹かせて飛び去る。

 ディセプティコンたちを乗せて……。

 

  *  *  *

 

 ともあれ、トランスオーガニックは滅び、ディセプティコンは去った。

 島に平和が戻ったのだ。

 迎えの船が来るまで、まだ少しある。

 

「やーだー! 金髪巨乳がいい! 金髪巨乳といっしょに行くー!!」

 

 オートボットに連行、もとい保護されることになったブレインズが、ベールの足にしがみついて喚いているのが見えた。

 当のベールは困った顔をしている。

 

 薄く微笑むとオプティマスは、ネプテューヌとネプギアと話しているヴイ・セターンとハイ・セターンのほうへ歩いていく。

 ヴイとハイもそれに気づき、鋼鉄の騎士に向き直る。

 オプティマスは跪くと、背中からテメノスソードを抜き、恭しく掲げた。

 

「姫君たちよ、剣をお返しする」

 

 姉妹姫は微笑んだ。

 

「鋼鉄の騎士よ、それは貸したのではない。剣は貴公の物だ」

 

「剣は、岩から引き抜いた者の物。遠い昔からの決まりです」

 

「しかし……」

 

 こんな立派な剣をホイホイともらって良いものか?

 渋るオプティマスを見て、ネプテューヌが声を上げた。

 

「もう、オプっちったら! くれるって言ってるんだからもらえばいいじゃん!」

 

「そうだ、オプティマス。立派な戦士には、立派な剣が必要」

 

 後ろについて来たグリムロックも同意する。

 オプティマスは剣を受け取ることにした。

 

「……分かった。セターンの姫君たちよ、確かに剣は拝領した」

 

 厳かに礼をして、オプティマスは剣を背中にしまう。

 それを見て、笑むヴイとハイ。そしてネプテューヌとネプギア。

 オートボットとダイノボットの長は、そこから少し離れて高台に登り、仲間たちが仲良くしているのを並んで眺めた。

 

「色々、迷惑をかけた」

 

「もういいさ」

 

 潔く頭を下げるグリムロック。オプティマスは笑って許した。

 しばらく、黙っていた二人だったがオプティマスのほうから口を開いた。

 

「……我々とともに行かないか? 皆が来てくれれば、心強い」

 

 しかし、グリムロックは首を横に振る。

 

「言葉は、嬉しい。でも、やっぱり、ここが我らの、故郷。ずっとずっと、護ると決めた」

 

「そうか……」

 

 ならば、もう何も言うまい。

 グリムロックはオプティマスのほうを向いた。

 

「オプティマス、友よ。この借りは、いつか返す。ゲイムギョウ界に危機が訪れた時、共に戦おう」

 

 厳かな言葉に、オプティマスもまた厳かに頷く。

 

「我らはずっと、ここにいる。この島に、姫君たちと共に……」

 

「……ダイノボットの護る島。ダイノボット・アイランドか」

 

 何気なく言ったオプティマスの言葉に、グリムロックは破顔した。

 

「ダイノボット・アイランドか。……いいな。気に入った」

 

 二人の騎士は、笑い合うのだった。

 

「オプティマス。おまえの姫君、必ず守れよ」

 

「ああ、もちろんだとも」

 

  *  *  *

 

 こうして島は平和を取戻し、騎士たちと姫君たちは、また楽しく暮らすようになったそうです。

 

 めでたし、めでたし……。

 

~中編 Kingdom of Dinobots~ 了




今週のTFADVは。
ゲスいぞサイドスワイプ。カワイイぞストロングアーム。
こっちもノリは軽いけど、猛者ばっかりのD軍。
そのD軍相手に互角に戦えるまでに成長したA軍。
これで、いったんTFADVもお休みか。
秋が楽しみだ。QTF二期もね。

今回の小ネタ

テメノスソード
予想されてるかたもいらっしゃいましたが、ここで入手。
しかし、オプティマスをパワーアップする力はありません。
その代わり、メガトロンの武器を上回るトンでも武器に。
※テメノスソードが正式名称とのご指摘があり、そちらに名称変更いたしました。

ビーストマシーンズ
ビーストウォーズリターンズの海外名。
内約は、イボンコ、校長先生志望、パタパタ犬(元)、葉っぱ夫人。
……違うんです、リターンズが嫌いなんじゃないんです。
ただ、敵役クリーチャーとして出してみたら、異様にハマっただけなんです。

ディセプティコンの戦艦
ダークサイド・ムーンでワンサカ出てきたアレ。

ヴイ・セターン、ハイ・セターン
その正体は、かつて滅んだセターン王国の王女姉妹の幽霊(?)。
原作では明言されていないが、おそらく女神。

次回は、(作者の)息抜き的な話になる予定。

……そろそろ登場人物とか、用語とかまとめたほうがいいでしょうか?

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