超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION   作:投稿参謀

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ダイノボット編、4話目。

今回で終わるはずが、まとめきれずに長くなったので分割。


第43話 ダイノボットの暴走

「グルオオオオ!!」

 

 ショックウェーブによってセレブロシェルを取りつけられたダイノボットたちは竜の姿に変形し、咆哮を上げて決闘のダメージで碌に動けないオプティマスに迫る。

 巨大な咢が、唸りを上げて襲い掛かってきた。

 

「見てられんな! 助太刀ごめん!」

 

 その時、横合いからの砲撃が顔面に命中し、グリムロックはたまらず攻撃を中断する。

 ジャズのクレッセント・キャノンだ!

 

「そっちがルール無用なら、こっちだって容赦しねえ!」

 

「伝説の騎士か……、相手にとって不足はない!」

 

 アイアンハイドも両腕のキャノンで砲撃を開始し、ミラージュもブレードでスコーンに斬りかかる。

 

「ああもう! 結局こうなるんだから!」

 

「文句言ってる場合か! まずはこのデカトカゲどもを黙らせるぞ!!」

 

 ノワールとブランも女神化して攻撃に参加する。

 

「みなさん! ダイノボットの攻撃を絶対に受けないように! とても耐えられませんわ!」

 

 ジャズの横で指示を飛ばすのはベールだ。

 

「大丈夫か、オプティマス! 今応急処置をする!」

 

 仲間たちがダイノボットを引きつけている間に、ジョルトが手早くオプティマスに駆け寄りその傷をスキャンする。

 

「おいおい、全身の関節に負荷がかかり過ぎだ! それだけじゃなくパワーユニットにも不具合がでてるし、フレームもあちこち歪んで……」

 

「『いいから』『はよせい!』」

 

 あまりのダメージに戦慄するジョルトを、オプティマスを庇うように前に進み出たバンブルビーが急かす。

 

「分かってるよ! くそ、こんな時にラチェットがいてくれりゃ……」

 

「ジョルト」

 

 弱音を吐くジョルトに、オプティマスは静かに言葉をかけた。

 

「頼りにしてるぞ」

 

「ッ! ったく、ラチェットがあんたをほっとけない理由が分かったぜ!」

 

 短い激励を受けたジョルトは手早く応急処置を施していく。

 エネルゴン漏れを塞ぎ、ショートした回線をつなぎ直してエネルギーパックでエネルギーを補給する。

 

「……どうだ?」

 

「ああ、だいぶ良くなった」

 

 オプティマスは立ち上がり、女神三人と戦うグリムロックを睨む。

 

「グリムロック……」

 

 先ほどまで、お互いの意地を賭けて戦った相手が、今や暴れるだけの野獣と化している。

 ダイノボットたちは粗暴であっても誇り高かった。野蛮であっても弱者を襲うような真似はしなかった。

 それが今はどうだ。ひたすらに暴れ回る態はトランスオーガニックと何も変わらない。

 断じて許されることではない。彼ら自身のためにも。

 

「今、止めてやる!」

 

 オプティマスはまだ痛む体に鞭を打って、グリムロックに飛びかかっていった。

 

  *  *  *

 

「フハハハ! あの状態で竜どもに挑むとは、オプティマスめ、ついに正気を失いおったか!」

 

 心底楽しそうに嗤うメガトロン。

 そこにショックウェーブが忠言する。

 

「ここは危険です、お下がりください、メガトロン様。ダイノボットたちには敵味方の区別もついておりません。目に入った者を攻撃するだけなのです。我々も例外ではありません」

 

「まあ、まて。これほどのショーは中々見れるものではないぞ」

 

 しかし、メガトロンは口角を吊り上げるばかりだ。

 ショックウェーブもそれ以上は何も言わず、黙って主君の傍に控えるのだった。

 

  *  *  *

 

 ディセプティコンの臨時基地。その一室。

 ここにネプテューヌとネプギアが囚われていた。

 

「ねえちょっとー! お茶くらいないのー! ねえってばー!」

 

 鳥籠のような檻に入れられたネプテューヌは、見張り役のリンダに大声で文句を言うが、当然聞き入れられない。

 

「おーい! 下っ端ー! 下っ端ってばー!」

 

「だーもう! うるせえー!!」

 

 しつこいネプテューヌに、リンダのあまり頑丈でない堪忍袋の緒が切れた。

 

「おまえら現状分かってんのか!? もうちょっと他に反応があるだろうが!」

 

「えー! わたし、ウジウジするの嫌いだしー」

 

「あのなあ……」

 

 あまりにも呑気なネプテューヌに、調子を崩されたリンダは大きく嘆息する。

 

「これでプラネテューヌの女神ってんだからなあ……」

 

 紫の国の国民も、何が良くてこんなアーパー女神を信仰しているのだろうか。

 しかし、すぐに余裕を取り戻してニヤッと下卑た笑みを浮かべるリンダ。

 

「けど……、へへへ、その能天気がいつまで続くかな? その檻は女神の力でも壊せない特別製だぜ。さらに……」

 

 リンダはテーブルの上に置かれたリモコンを操作し、壁に備え付けられたモニターを点ける。するとそこには、巨大な機械が映っていた。

 巨大な円柱状の機械で、上部に開いた投入口には何かクリスタルのような物がベルトコンベアで運ばれ、下部から蠢く影が次々と吐き出される。

 

「あれは……、トランスオーガニック!?」

 

 驚愕するネプギア。

 その反応にリンダは満足げに胸を張る。

 

「そうさ! あのテクノオーガニックフュージョナイザーがエネルゴンクリスタルのパワーを利用してトランスオーガニックを量産してんのさ! その数はすっげえ勢いで増えてる! つまり、おまえらに勝ち目なんざないんだよ! アーッハッハッハ!!」

 

 哄笑するリンダ。

 唖然としてネプテューヌとネプギアが見ている中、モニターの向こうのテクノオーガニックフュージョナイザーは、無数のトランスオーガニックを生み出し続けていた。

 

「って言うかさ」

 

 ネプテューヌが半ば茫然としながらも声を出した。

 

「いくらなんでも多くない?」

 

「あん? 何言って……」

 

 つられてリンダもモニターを見るが、何だか様子がおかしい。

 フュージョナイザーからはトランスオーガニックが吐き出され続けているが、その数はもはや部屋を埋め尽くし溢れんばかりだ。

 

「あ、あれ? 確かに多いような……」

 

「でしょー?」

 

 呑気な調子を取戻したネプテューヌがドヤ顔をしていると、突然ドンドンと扉が叩かれた。

 何かとリンダが扉のほうに顔を向けると、扉が破られ無数のトランスオーガニックたちがなだれ込んでくる。

 

「ななな、何だおまえたち! ……そうだ!」

 

 リンダが慌てて笛を吹き鳴らすが、トランスオーガニックたちは大人しくならず、にじり寄ってくる。

 

「ど、どうなってんだ!? 言うことを聞かねえぞ!?」

 

「「ええ~!?」」

 

 突然のことに動揺する女神姉妹とリンダに、トランスオーガニックが殺到してくるのだった……。

 

  *  *  *

 

 ネプテューヌたちが囚われているのとは別の一室。

 そこにはスタースクリームがいた。ここは基地の中に勝手にこしらえた秘密の部屋だ。

 センサーを最大限働かせ、自分以外に誰もいないことを確認してから胸のキャノピーを開ける。

 するとそこからピーシェとホィーリーが転がり落ちた。

 

「とう!」

 

「ぐえッ!」

 

 ピーシェは綺麗に着地し、ホィーリーは頭から床に激突する。

 それを確認してから、スタースクリームはコンソールに向き合う。

 

「さて、ピーシェを連れてきたのはいいが、これからどうするか……」

 

「逃げるってのはどうだい?」

 

「つってもどこに……ん!?」

 

 独り言に返事をされたことに気が付き、スタースクリームは慌てて声のほうを向く。

 そこには、ズングリとした小さなディセプティコンがいた。

 

「てめえ、ブレインズ! 何でここに!? 誰もここを知らないはずだぞ!」

 

「おいおい、俺はこの基地の制御システムそのものだぜ。建物の構造は一から十まで把握してんだ。不自然な空間があれば気付くっての」

 

 皮肉っぽい笑みを浮かべるブレインズに、スタースクリームはチッと舌打ちのような音を出す。

 

「チビめ! 余計なことしやがったら、ここで叩き潰してやる!」

 

「やってみな。おまえが何をするより早く、メガトロンにここのことを教えてやるよ」

 

 グッと言葉に詰まるスタースクリーム。

 ここには、勝手に『チョロまかした』エネルゴンクリスタルが貯蔵してある。バレたらどうなるかは火を見るより明らかだ。

 思考を切り替え、交渉することにした。

 

「……何が目的だ?」

 

「まあ、あれさ。俺は逃げる。この基地からもディセプティコンからもな。そのためにアンタが作った秘密の抜け道を使わせてくれよ。そしてら俺も黙っててやる。ここのことも、そこのロリっ子のこともな」

 

「……いいだろう」

 

 少し考えた上で、スタースクリームはブレインズの要求を呑むことにした。

 この小ディセプティコンが脱走して、その後どうなろうと知ったことではない。

 それよりもピーシェのことがメガトロンに知られることのほうが問題だ。

 

「で、だ。この基地はもうお終いだ。テクノオーガニックフュージョナイザーは、もう俺の指示を受け付けずに勝手にトランスオーガニックを増産してる。トランスオーガニック自体も、高周波の効果がなくなってる。逃げるなら今がチャンスさね」

 

「な!? そんな酷いことになってんのかよ!」

 

 ブレインズの語る基地の惨状に、スタースクリームは言葉を失う。予想を超えた事態が起こっているようだ。

 そんな航空参謀を捨て置き、ブレインズはヒョコヒョコと歩いて行くと、コンピューターから秘蔵画像をプリントアウトする。

 

「おおー! それは!」

 

 と、後ろから歓声が聞こえた。

 何事かと振り返ると、ホィーリーがブレインズ越しに写真を覗き込んでいた。

 

「すっげえイケてるな、その女!」

 

 ニヤケ面で、写真に写った金髪巨乳の女性を注視しハアハアと排気を荒くするホィーリー。

 その姿にブレインズは驚く。

 

「分かるのか!?」

 

「おう! やっぱ金髪巨乳は最高だぜ!」

 

 ニカッと笑ってサムズアップするホィーリーに、ブレインズは我知らず感動していた。

 有機生命体を下等と断じるディセプティコンにあって、ブレインズの性癖はまさに変態的と蔑まれるものであった。

 しかし、生まれついての性はどうしようもない。理解者はいなくとも斜に構えて孤高を気取ることで自分の心を守ってきた。

 しかし、今ここに初めての同志が現れた。

 

「……ああ、女はやっぱり」

 

「金!」

 

「髪!」

 

「「巨乳!!」」

 

 初対面にも関わらず、息ピッタリにフュー○ョンのポーズを取るブレインズとホィーリー。

 それを氷点下のジト目で見ていたスタースクリームは、変態どもは放っておいて、とっとと脱出することにした。

 これ以上はブレインズにもショックウェーブにも付き合い切れない。

 

「ああー! ねぷてぬだー! ねぷぎゃーもいるー!」

 

 と、部屋の中を興味深げに眺めていたピーシェがモニターを見て声を上げた。

 釣られて見ると、そこには檻に入れられたネプテューヌとネプギアが、暴走したトランスオーガニックに囲まれていた。ついでにリンダも、檻の上に避難している。

 

「そうか。ねぷてぬってのは、あの女神のことだったのか」

 

 ようやく合点がいったとばかりに頷くスタースクリーム。

 しかし女神が身内とは、これはいよいよただ者ではない。

 内心で大当たりを確信し、ほくそ笑むスタースクリーム。

 

「じゃあ、ピーシェ。ここは危険みたいだから、俺といっしょに……」

 

「おねがい、すたすく! ねぷてぬとねぷぎゃーをたすけて!」

 

「はあ!?」

 

いきなり何を言い出すのか、この幼子は。

 

「このままだと、ふたりともあぶないよ!」

 

 どうやら幼いなりに、ネプテューヌとネプギアが危機的状況だと察知したらしい。

 

「いや、しかし……」

 

「おねがい!」

 

 もう結構な間敵対している相手だ。助けるのを渋るスタースクリームを、ピーシェは泣きそうな顔で見上げる。

 しばらくバツが悪そうに黙っていたスタースクリームだったが、やがて根負けしたように大きく排気すると、コンソールをいじりだした。

 

「ここのコンピューターからなら、あの檻の電子錠にアクセスできる。……これでよし。鍵は開けておいたから、後は自分たちで何とかするだろ」

 

 下っ端は知らんがな、とは口に出さない。

 

「ほんと!」

 

「ああ、あいつらはシャクだが強いからな。保障してやるよ」

 

 それは、実際に戦ってよく分かっている。

 

「わーい!」

 

 意味は分からずとも喜ぶピーシェに、つられて少しだけ、本当に少しだけ口角を上げる。

 ブレインズはそれを心底意外そうに見ていた。

 

「あれ、本当にスタースクリームか?」

 

「まあ、色々あんだよ。偽物のブランド服でも、着てるとその気になんだろさ」

 

 傍らの同志にたずねられ、ホィーリーはニヤリと笑って返すのだった。

 

  *  *  *

 

「こないでよー! あっちいけー!」

 

「下っ端さん! あの笛で言うことを聞かせられないんですか!?」

 

「さっきからやってるっつの! こいつらもう笛の音じゃ操れねえ!」

 

 檻の中のネプテューヌとネプギア。そして檻の上に乗っかったリンダは悲鳴を上げながら何とかトランスオーガニックから逃れようとしていた。

 だが、女神姉妹は檻の中では碌な抵抗もできず、仮に女神化しても意味はない。

 リンダのほうは機関銃を撃ってはいたが、撃っても撃ってもトランスオーガニックは沸いてくる。

 万事休すか?

 

「もう! 開けー!!」

 

 ネプテューヌはダメ元で檻の扉を揺らす。

 すると、頑丈な造りで電子的に施錠されていた扉が、あっけなく開いた。

 

「「「え?」」」

 

 思わず異口同音に言ってしまうネプテューヌたち。

 だが固まっていたのも束の間、すぐにネプテューヌは妹に号令をかける。

 

「ネプギア! 反撃開始だよ!」

 

「うん!」

 

 二人の姿が光に包まれ、女神の姿へと変身する。

 

「クロスコンビネーション!!」

 

「ミラージュダンス!!」

 

 紫の剣閃が舞い、光線が降り注ぐと、トランスオーガニックたちは次々と倒れていく。

 ほどなくして、部屋内のトランスオーガニックは全て沈黙した。

 

「さあ、オプっちたちと合流するわよ」

 

「うん、そうだね! ……あ!」

 

 さっそく脱出しようとする二人だが、ネプギアがリンダの存在を思い出した。

 ディセプティコンの下級兵は、憮然とした様子で檻の上に座っていた。

 

「それでどうするの? 私たちを止める?」

 

「ケッ! アタイだって、んなこと無理なこたあ分かってんだよ! とっとと行っちまいな!」

 

 ネプテューヌが問うと、リンダは吐き捨てるように答える。

 悔しいが女神二人に勝てると思うほど、リンダも能天気ではない。

 二人としてもこれ以上リンダに構っている暇はなく、仲間たちのもとへ向かうべく部屋を後にする。

 それを見送り、しばらく座り込んでいたリンダだったが、不意に近づいてくる何者かの気配に気付き、銃を構える。

 

「リンダちゃん! 大丈夫かYO!!」

 

 だが、部屋に飛び込んできた影はクランクケースだった。

 ホッと息を吐き、リンダは銃を降ろしてから笑顔で声を上げる。

 

「おせえよ! 何してたんだ!」

 

「ヒドイYO! これでも急いだだZE! それはともかく、スタースクリームの野郎がこの基地を捨てるってよ!」

 

 抗議もソコソコに素早く状況を説明するクランクケース。対するリンダは不満げだ。

 

「なんだよ、逃げんのか」

 

「まあ、今回は妥当な判断だYO。そこもかしこもトランスオーガニックだらけ! もう言うことなんか聞きゃしない!」

 

 ドレッズのリーダーの言葉に、それもそうかとリンダは頷く。

 

「仕方ねえか。じゃあ、『例のアレ』を使うのか?」

 

「ああ、他の連中はもう乗り込み始めてるYO」

 

 短い会話の後、一人と一体は仲間たちと合流するべく、武器を構えて動き出した。

 

  *  *  *

 

 女神、オートボット対ダイノボットの戦いは続いていた。

 だが当然と言うべきか、ダイノボットの力の前にオプティマスたちは圧倒的劣勢に立たされていた。

 刃は通らず、弾は防がれ、逆にダイノボットの攻撃はその余波だけでもダメージを与えてくる。

 

「くッ……!」

 

 やはり先ほどの決闘のダメージもあって、オプティマスは片膝をついてしまう。

 その周りで円陣を組む女神とオートボットを、さらに取り囲んでいるダイノボット。

 もはや、絶体絶命だ。

 それを高台から見ているメガトロンは、いよいよ迫る宿敵の最後にニヤリと笑みを浮かべる。

 

『メガトロン様! 応答してください、メガトロン様!!』

 

 その時、メガトロンの体に内蔵されている通信装置にスタースクリームから連絡が入った。

 

「なんだ! 今、いいところなのだぞ!」

 

『それどころじゃありませんって! フュージョナイザーとトランスオーガニックが暴走してこっちの操作を受け付けません! ブレインズの奴も行方不明ですし、この基地はもう終わりです!』

 

「なんだと!?」

 

 スタースクリームの報告に、驚愕するメガトロン。

 傍らのショックウェーブに視線をやると、科学参謀は少しだけ考える素振りを見せた後で口を開いた。

 

「どうやら、エネルゴンクリスタルの影響は私の予想を超えていたようですね。ブレインズが行方不明となると、もはや暴走は止められません。基地を放棄するのは論理的に正しい選択かと。私はこの場に残りますので、メガトロン様は脱出を」

 

 予想を超えていたと言うわりにはどこまでも穏やかなショックウェーブに、メガトロンは僅かに黙考する。

 

「分かった。この場は任せたぞ」

 

 そしてスタースクリームに脱出の指揮を任せて『アレ』まで台無しにされることだけはさけたいので、いったん部下たちと合流することに決めた。

 恭しくお辞儀をするショックウェーブを後目に、メガトロンはエイリアンジェットに変形して飛び去る。

 

「待て、メガトロン!!」

 

 叫ぶオプティマスだが、叩きつけられるグリムロックの尻尾をよけるので精一杯で、とても追いかけることはできない。他の女神やオートボットも同様だ。

 そんな女神とオートボットを何の感情もこもっていない目で見下ろしているショックウェーブ目がけて飛んでくる影があった。

 

「ショッ君~! あ~そ~び~ま~しょ~♡」

 

 凄絶な笑みを浮かべたプルルートだ。

 ショックウェーブは彼にしては冷ややかな声を出す。

 

「また君か。この状況で、私に向かってくるとは論理的ではないな」

 

 だがプルルートは笑みを大きくする。

 

「論理的に考えてぇ、あなたが竜さんたちに何か細工したんでしょぉ? だったらぁ、元を絶つのがいいかなぁって思って……、ねぇ!」

 

 そのまま斬りかかってきたプルルートの蛇腹剣を左腕のブレードで受け止めながら、ショックウェーブはほんの少し驚いた声を出す。

 

「ほう、少しは論理的思考ができるようになったか。感心したよ」

 

「まったく褒められてる気がしないわねぇ!」

 

 いったん距離を取ったプルルートは蛇腹剣の連結を解いて鞭のように振り回し、ショックウェーブはプルルート目がけて砲撃する。

 ダイノボットたちを操っているショックウェーブを無力化しようと試みるプルルートだったが、その間にもダイノボットの攻撃は続く。

 

「オプティマス! こっちはもうもたないぞ!」

 

 ジャズが暴れるスコーンの背にしがみつきながら言った。

 

「こっちも限界ですわ!」

 

 空中でストレイフを相手にしていたベールも、すれ違いざま爪先が少し腕の肌を裂き、声を上げる。

 次の瞬間、グリムロックが大口を開けてオプティマスに噛みついてきた。

 その牙を何とか受け止め、無理やり口を開かせて噛みつかれるのを防ぐ。

 だがグリムロックの喉の奥が赤熱し始める。炎を吐こうというのだ。

 

「くッ……」

 

 ――これまでか……。

 

 一瞬、諦めがブレインサーキット内をよぎる。

 

「オプっち!!」

 

 その時、声が聞こえてきた。

 少し離れていただけなのに、酷く懐かしく聞こえる。

 

「クリティカルエッジ!!」

 

 女神化した状態で飛来したネプテューヌは、グリムロックの横っ面に攻撃した。

 痛みに咆哮を上げるグリムロックは、オプティマスから離れる。

 

「ネプテューヌ! 無事だったのか!」

 

「ギ…ア…!」

 

 二人の姿を見て、思わず安堵の声を出すオプティマスとバンブルビー。

 もちろんネプテューヌとネプギアも仲間と再会できて嬉しいが、喜んでいる暇はない。

 

「オプっち、これは何がどうなってるの!? どうして、みんなとグリムロックさんたちが戦ってるの!」

 

「ダイノボットのみなさん、何だかおかしいです!」

 

 異様な様子のダイノボットたちに、ネプテューヌたちも警戒心を煽られる。

 

「グリムロックたちは、メガトロンによって正気を失わされ、暴走させられているのだ!」

 

「なんですって?」

 

「なんてことを……」

 

 あまりの仕打ちに言葉を失う紫の女神姉妹。特にネプギアは、嫌がおうにもスティンガーのことが思い出され、厳しい顔になる。

 

「でも、ひょっとしたら……!」

 

 ネプテューヌは女神化を解いて地面に降り立ち、ネプギアもそれにならう。

 

「何を……、そうか! まだ姫君たちの言うことなら聞くかも知れない!」

 

 二人の思惑を理解したオプティマスに、ネプテューヌは頷き、そして声を出した。

 

「グリムロック! ストレイフ! スコーン! スラッグ! みんなやめて!」

 

「もう、戦わなくていいんだよ!」

 

 猛け狂う竜の化身たちに、臆することなく必死に語りかける二人の女神。その姿は、まさに伝説の再現だ。

 

「グ、グ……」

 

 それを聞いて、ダイノボットたちの動きが鈍くなる。

 だが今回は、前回と違う点がある。

 

「愚かな。セレブロシェル、出力最大」

 

 それが高台でプルルートと戦うショックウェーブの存在である。

 

「グ、グ、グルオオオオ!!」

 

 科学参謀が、深紫の女神の一瞬の隙を突いて機械を操作すると、グリムロックは咆哮を上げてネプテューヌたちに向かってくる。

 もはや一片の理性すら感じられない。

 

「「きゃあああ!!」」

 

 抱き合い悲鳴を上げるネプテューヌとネプギア。

 二人に大口を開けて迫るグリムロック。

 

「うおおおお!!」

 

 オプティマスは両者の間に割り込み、思い切りグリムロックの鼻先に拳を叩き込んだ。

 グリムロックは激痛にのけ反って鳴く。

 

「オプっち!」

 

 いつもの如く自分を守ってくれた鋼鉄の戦士に、笑いかけるネプテューヌだが、その横顔が憤怒に溢れていることに気付き驚く。

 

「……グリムロック!」

 

 オプティマスは溢れる怒りを抑えきれず叫んだ。

 

「貴様、主君と定めた姫君に牙をむくとは、それでも騎士か!!」

 

 そのままグリムロックに向かってジャンプし、さらなる一撃をあたえる。

 

「おまえたちの忠義とは、その程度の者だったのか!」

 

 さらに横合いから噛みつこうとしてきたスコーンを裏拳で殴り飛ばし、突進してきたスラッグの角を掴んで投げ飛ばす。

 

「誇りとは、その程度だったのかぁああ!!」

 

 そして上空から襲い掛かってきたストレイフをかわし、カウンターの要領で叩き落とす。

 

「お、オプっち、どうしたの……?」

 

「まあ、男の世界らしいわ」

 

 あまりの怒りっぷりに目を丸くするネプテューヌの横に、ノワールが降りてきて肩をすくめる。

 

「え? なにそれ?」

 

「色々あったのよ」

 

 首を傾げるネプテューヌに、さっきまで実質あなたを取り合ってたのよ、とは言わないでおくノワールだった。

 

「どこまでも論理性のない。オプティマスの限界だな」

 

 プルルートと鍔迫り合いを演じながら、ほんの僅かに嫌悪を滲ませるショックウェーブ。

 

「どこまでもぉ……、腹の立つ奴ねぇ!」

 

 メガトロンと互角とさえ言われるショックウェーブと対等の勝負を繰り広げるプルルートだが、その内心は隠しようもない……隠す気もないが……怒りに満ちていた。

 スティンガーのことといい、トランスオーガニックのことといい、どこまでも命と精神を軽視するショックウェーブに怒りを抱くなと言うほうが無理だった。

 

「あなたねぇ、命ってやつをぉ、何だと思ってるわけぇ!」

 

「生命とは『現象』だ。それに価値があるなどと言うのは非論理的な幻なのだよ」

 

 不出来な弟子に真理を説く賢者のように、穏やかな声のショックウェーブ。

 

「ふ~ん、ディセプナンとかお得意のぉ。有機なんちゃらは無価値っていうあれかしらぁ」

 

 そろそろ聞き飽きてきた妄言に、プルルートは半ば呆れる。

 だが、次にショックウェーブが語ったのは、そんなプルルートをして戦慄させるには十分だった。

 

「それは違うな。有機生命体が無価値なのではない。……金属生命体も含めたあらゆる生命に価値などないのだ。無論、私も含めて」

 

「……は?」

 

 プルルートには眼前の相手が何を言っているのか理解できなかった。

 そんなプルルートに、ショックウェーブはさらに語る。

 

「言ったはずだ。生命とは現象に過ぎないと。生命だけではない。世界も、宇宙も、次元も、単なる現象とその結果に過ぎず、付加価値などありはしない」

 

 穏やかな、どこまでも穏やかな声音の科学参謀。

 プルルートは一瞬、対峙している相手が金属生命体の形を取った虚無なのではないかと錯覚した。

 

「例外は唯お一人、メガトロン様のみ。メガトロン様だけが、この現象の総体に過ぎない無価値な世界で価値がおありなのだ……!」

 

 どこか興奮しているショックウェーブ。

 そして語られるのは狂気の忠誠心。

 

「ゆえにあらゆる生命はメガトロン様のためにその全存在を捧げることが義務である。宇宙のあまねく、物質、現象はメガトロン様のためにのみ存在することが真理である。なぜ、こんな簡単な方程式が理解できないのか、まったくもって理解に苦しむな」

 

 そこに彼の信条とする論理はない。あるのは、どこまでも盲目的な狂信だけだ。

 しかし、彼にとってはそれこそが真理なのだ。

 プルルートは今更ながらにとんでもない相手と戦っていることを理解した。

 

「あのダイノボットたちも、メガトロン様のお役に立つことで、ようやく道具となることができたのだ。喜ばしい……」

 

「フフフフフ♡」

 

「?」

 

 なおも語り続けるショックウェーブに、プルルートは笑う。

 

「素敵よぉ……。その狂気、ゾクゾクするわぁ」

 

 悪鬼のように凄惨に、毒婦のように妖艶に、そして乙女のように純粋に。

 

「ますます屈服させたくなったわぁ!」

 

「……やれやれ」

 

 珍しく深く排気するショックウェーブ。

 

 戦いは続く。

 

  *  *  *

 

 ネプテューヌとネプギアが現れても、なお好転しない状況。

 暴走を始めたトランスオーガニック。

 物語は終息に向けて走り出す。

 

 そして、別の場所でもまた。

 

  *  *  *

 

 ジャングルの奥。

 四体の戦士像に囲まれ、向かい合う二体の女性像。

 すなわち、セターン王国を護る四騎士と、彼らが忠誠を誓う姉妹姫を現した像だ。

 ネプギアたちが地下遺跡に迷い込むことになった、あの場所である。

 ここには女神、オートボット、ディセプティコン、ダイノボットが繰り広げる死闘の音も、暴走と増殖を続けるトランスオーガニックたちの唸り声も届かない。

 今だに喧騒から離れたこの場所は、一種の聖域めいた静謐さを保っていた。

 と、不意に向かい合う姉妹像が発光を始めた。

 白く清浄な光がだんだんと強くなっていき、そして光球となって像から離れる。

 二つの光球は、尾を引いて飛んで行く。

 

 混沌の戦場へ向かって……。

 




今回のトランスフォーマーアドベンチャーは!

待望のドリフト回。
うん、何というか問題はあれど実写よりは侍してた。
次回でTFADVもいったんお休み。
括目して見よう。

今回の小ネタ(?)解説。

テクノオーガニックフュージョナイザー
実は元ネタなし。それっぽい単語を並べた造語。
あえて訳すなら、『科学と有機物の合成機』だろうか。
よく分かんないネーミングの機械はTFではお馴染みなので……。

では、次回こそダイノボット編も終わり……の、はず。

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