超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION   作:投稿参謀

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あるいは、潜入兵アリスの文化考察記。


第37話 アリス・イン・ワンダーランド

 リーンボックス教会教祖補佐。

 それが、突然現れた少女アリスに与えられた肩書きだ。

 簡単に言ってしまえば、教祖箱崎チカの秘書に近い立場だ。

 突然の、そして異例としか言えない抜擢に、教会内で一悶着なかったと言えば嘘になる。

 国軍との関係も深い大企業から推薦とはいえ、彼女は何の実績もない年若い少女なのだから当然だ。

 これには当然理由があり、ディセプティコンの出現を受けて軍備を強化するために、件の大企業との繋がりをより強固な物にしたいという思惑が、チカ以下教会の重鎮たちにはあった。

 チカとしては、最低限の能力さえあれば……もっとも、彼女の求める最低限は世間一般での一流に相当するが……最悪いるだけのお飾りでも構わなかったのだが、幸いと言うべきか、アリスは優秀だった。

 何より、女神ベールに気に入られているため、自然と教会内での立ち位置を確立していった。

 

 しかし、彼女には教会の人間に知られていない裏の顔がある。

 ディセプティコンの送り込んだスパイという顔が……。

 

  *  *  *

 

 必要最低限の家具しかない部屋にて、スリープモードから覚醒したアリスは、パチリと目を開けベッドから起きあがった。

 自分に自己スキャンをかけ、不具合がないかどうかをチェック。……問題なし。

 そして、朝の挨拶を声に出す。

 

「オール・ハイル・メガトロン」

 

 全ては偉大なるメガトロン様の御為に。

 

 情報参謀サウンドウェーブ配下、特殊潜入兵。それがアリスの真の姿だ。

 

 プリテンダーと呼ばれる有機生命体に擬態する能力を持つ種族である彼女は、異種族の中に潜りこみ、その生態や文化を調査する任務が与えられている。

 今回の任務は、このゲイムギョウ界の国の一つであるリーンボックス、その国政を司る教会に潜入し、その動きを、ひいてはオートボットの動きを探るというものだ。

 色々と幸運があったとはいえ、こうも簡単に教会の中枢に潜入できるとは拍子抜けも良い所だ。

 『休暇』の間にショックウェーブに更なる改造を施された彼女の正体を見抜くことは、もはやオートボットにも不可能だろう。

 事実、最近行われた健康診断では、完璧に誤魔化した。

 少なくともキスしたらディーゼルの臭いがする、なんてことはないはずだ。

 

 だが、彼女を悩ませる者がいないかと言うと、そうではなかった。

 

  *  *  *

 

 書類の束を手に、リーンボックス教会の廊下を歩きながらアリスはイライラとしていた。

 もう、予定の時間まで差し迫っているのに、主役が現れないのである。

 またかと怒りながらも慣れた様子の教祖チカは、自分の側近を差し向けたのだ。

 こういうのはジャズの仕事だろうと内心憤りながらも、乱暴に扉を開いてベールの私室へと入る。

 案の定、ベールはパソコンに向かっていた。

 

「ベール様!」

 

「あら、アリスちゃん」

 

 振り返ったベールは、たおやかな笑顔をアリスに向ける。

 

「ちょうど良かった。どうです? アリスちゃんもいっしょにゲームしません?」

 

「しません! もう予定の時間は迫ってるんですから、早く準備してください!」

 

「あら、もうそんな時間でしたのね」

 

 のんびりと小首を傾げるベールに、アリスはイライラがさらに上がるのを感じた。周りのカオス極まる内装もそれを助長する。

 何で男同士が裸で抱き合っているのか。いや、理屈は分かるが意味が分からない。

 ブレインサーキットに痛みを感じ、アリスは不機嫌に排気する。

 最初は猫を被っていたのだが、それではこの駄女神の相手はできないと、素に近い強い態度で臨むことにしたのだ。

 スパイの鉄則、潜入先の仕事に手を抜かない。

 

  *  *  *

 

 アリスの主な仕事は、この国の女神ベールの付き人、簡単に言ってしまえば、何かと問題のある彼女の面倒を見ることだ。

 病弱な上に多忙なチカ、オートボットの副官として働いているジャズ。彼女にこの必要だが困難極まる仕事が回ってくるのは必然だった。

 最初は、まさに渡りに舟と喜んだ。

 国のトップの傍にいれば、自然と情報は収集しやすくなる。

 彼女に気に入られるのも想定の内。そういう容姿を選んだ。女神ベールの年齢を引き下げた姿を。

 後は、オートボットの中でも切れ者で通っているジャズにさえ注意すればいい。

 簡単な仕事のはずだった。

 

  *  *  *

 

 少しして、リーンボックスのとある場所。

 新作映画の試写会を終え、ベールは惜しみない拍手を送る。

 アクション大作だが、ラブロマンス要素もあり、ベールの好みの映画だった。

 

「いかがでしたか、グリーンハート様? 今回の映画のご感想は?」

 

「ええ、素晴らしい出来栄えでしたわ。さすがは我がリーンボックスの誇る名監督ですわね」

 

 映画の監督は、信仰する女神の好意的な感想にホッと胸をなでおろす。

 

『俺からもちょっといいかい?』

 

 そこで立体映像のジャズがベールと監督に声をかけた。

 

『今回の映画、確かに映像は素晴らしかったが、少々CGに頼り過ぎじゃないかね? 役者の芝居と演出がかみ合ってない部分があるのも気になったな。』

 

 辛口なジャズに、監督は口元を引きつらせ、ベールは苦笑する。

 一方、ベールにくっ付いて来たアリスは映画の内容を興味深く吟味していた。

 人間の娯楽は色々と理解しがたい。

 ディセプティコンにとって娯楽とは、自分の武器を他者に自慢することや、その武器をどうやって奪うかを考えることなのだから。

 反面興味深くもある。

 なぜ、人間は仮想現実をこうも楽しめるのか?

 

「どうやら、アリスちゃんは気に入ったようですわね?」

 

「え? あ、はい」

 

 難しい顔をして考え込んでいたアリスに、ベールが微笑みかけてきた。

 適当に答えるアリス。

 

「ふふふ、それでアリスちゃん、次のお仕事はなんだったかしら?」

 

「はい、次は5pbさんの番組に特別ゲストとして出演することになっています」

 

 ベールの問いに、鞄からメモ帳を取り出し次の予定を確認するアリス。

 

「ありがとう。それでは、参りましょうか」

 

 たおやかに頷き、ベールは移動を始める。

 それを追うアリスを立体映像のジャズが訝しげに見ていることには、誰も気づかなかった。

 

  *  *  *

 

「みんなー! それじゃあ新曲、『きりひらけ!ロープレ☆スターガール』いっくよー!」

 

 ベールを特別ゲストに迎えた5pb.が司会進行を務める番組は滞りなく進み、最後に5pb.が新曲を発表することで締めとなった。

 鳴り響く歌声をスタジオの端で聞きながら、アリスは思考する。

 なるほど、人間の音楽は面白い。

 表現方法こそ原始的だが、音階は複雑で歌詞にはいくつもの意味がある。

 そこに様々な意味を乗せる人間の発想力は、サウンドウェーブをして入れ込むのも何となく分かる気がする。

 

  *  *  *

 

 とある大企業の応接室に通されたアリスは、上等なソファーに腰かけながら冷笑を浮かべる。

 ここは、サウンドウェーブによって弱みを握られディセプティコンの協力者と成り果てた、あの企業なのだ。

 今は自分を推薦した大企業との打ち合わせということで、ベールたちと別行動を取っている。

 

 ――ゲイムギョウ界の文化は我々ディセプティコンにとって理解しがたい。

 

 ディセプティコンにとって、文化とは奪い取る物だと生まれた時から教え込まれる。何代も何代も前から。

 科学者たちの思考も兵器、軍事関連に片寄り、例えばゲーム機のような娯楽に労力と時間を割くことはほとんどない。

 これは、支配者たる破壊大帝メガトロンが、そういった娯楽をエネルギーの無駄だと考えていることもある。

 そして『彼の存在』もまた。

 ディセプティコンにとって、『戦闘と生活のために不必要な物』はすべからく悪と断じられるのだ。

 サウンドウェーブの音楽好きにしても、情報参謀という高い地位にいて、なおかつ自分の有用性を証明し続けているからこそ許されているのである。

 

「いやいや、お待たせいたしました」

 

 と、恰幅のいい壮年の男性がニコニコと人の好さそうな笑みを浮かべて部屋に入ってきた。

 後ろには若い男も続く。だがこちらは心労が滲み出ている。頬はこけ、髪には白髪が混じっている。

 

「いいえ、問題ありませんよ」

 

 立ち上がって社交辞令を交わしつつ握手をするアリスと壮年の男。

 この男こそ、この大企業の経営者、社長なのである。

 そして後ろの若い男こそが、5pb.をストーキングした挙句サウンドウェーブの奴隷となった、あの男なのだ。

 

「それではさっそく、ビジネスの話に入りましょう」

 

 お互い席に着くと、社長がさっそく本題を切り出してきた。

 

「とりあえず、今回の物資はこれくらいで……」

 

 社長の息子が、ディセプティコンに差し出す物資の書かれたメモをアリスに差し出す。

 アリスはそれを一瞬で読み、記録し、こちらの要求と齟齬がないかと確認する。問題なし。

 

「確かに。しかし、意外でしたね。あなたがたが、こうも我々との取引に乗り気とは」

 

 いくばくかの皮肉を込めたアリスの言葉にも、社長は好々爺然とした笑みを崩さない。

 

「何、最初は戸惑いましたが、考えてみればこれは大きなビジネスチャンス。むしろ感謝さえしていますよ」

 

「……これは女神に対する反逆に等しいですよ」

 

 アリスの言葉に社長の息子がビクリと体を震わせた。

 最初は息子の命を盾に脅されていたとしても、今やこの企業はディセプティコンと通じている。

 物資を提供する代わりに科学技術を提供してもらい、いずれディセプティコンがゲイムギョウ界を制圧した暁には、そこでの安全と地位を約束する。ありきたりな取引だ。

 意外なのは社長以下幹部陣は、この取引にむしろ喜んで応じたことだ。

 

「ホッホッホ、アリス殿。我々企業にとって、信仰する神とは女神ではありません」

 

「? では?」

 

「……金ですよ。金こそが我々の上に絶対的に君臨する神なのです」

 

 この世の真理を語るが如く、社長は笑う。

 まったく変わらずニコニコと笑っているのに、その笑顔は得体の知れない怪物のようにも見える。

 

「金を稼がせてくれるのなら、相手が神でも悪魔でも商売する。それが商売人ですよ。国や女神など、金をもうける道具に過ぎないのです」

 

 人、それを売国奴と呼ぶ。

 

「……なるほど」

 

 ――つまり、ディセプティコンも金にならないなら縁を切ると。

 

 一切、納得できないが一応頷いておく。

 ゲイムギョウ界の人間は大半が女神を絶対視する反面、この男のように女神を軽んじる者もいる。

 メガトロンという絶対的なカリスマに支配されたディセプティコンでは考えられないことだ。

 スタースクリームのようにメガトロンに反感を持っている者でさえ、その影響力から逃れることはできない。

 

 ――まあいい、売国奴がいかなる末路を迎えるか、精々見させてもらおう。

 

「……ところでミスター、ロックダウンと言う名に聞き覚えは?」

 

 アリスがたずねると、社長は変わらず答えた。

 

「ロックダウン? 誰ですかな、それは?」

 

「報酬次第で、どんな仕事でもする賞金稼ぎですよ。……最近、オートボットと接触したそうです」

 

「ほう、それはそれは……。あいにくと存じませんな」

 

 ――ボロは出さない、か。

 

 先日、オートボットのラチェットとアーシー、それと組む人間二人がロックダウンに襲われるという事件が起こった。

 アリスはその依頼主が、この社長ではないかと考えている。

 カマをかけてみたのだが、さすがは海千山千の実業家。そう簡単に尻尾を掴ませてくれそうにない。

 

「……そうですか。失礼いたしました」

 

「いやいや、構いませんよ」

 

 表面上は穏やかに、あくまでも穏やかに会見は終了した。

 

  *  *  *

 

「はあっ……」

 

 全ての仕事を終え寝床にしているアパートの一室に帰り着いたアリスは大きく排気した。

 肉体的にはともかく、精神的な疲労が半端ではない。

 その疲労を回復するべく、帰り道で買ってきたケーキをテーブルの上に広げる。

 プリテンダーは有機生命体と同様の食物を摂取することができるのだ。

 甘い物は疲労を癒してくれるし、エネルギー効率もいい。

 決して、断じて、絶対に! アリスが食べたかったわけではない。贔屓の店の新作だから楽しみにしてたとか、そんなことはない。

 ムグムグとケーキを頬張りながら、アリスは考える。

 巷にあふれる娯楽の数々、ゲーム、映画、音楽、食事にしても単なる栄養の補給というよりは舌で味わう娯楽というほうがしっくりくる。

 何もかもがディセプティコンには無い物だ。

 それに溢れるこの世界は、さしずめ不思議の国(ワンダーランド)か。

 

 ――いけないな。本来の任務から思考が離れている。

 

 自分の任務は、あくまでもディセプティコンにとって有利になる情報を得ること。

 人間の文化について考察することではない。

 初心を思い出すために、決意の言葉を口に出す。

 

「オール・ハイル・メガトロン」

 

 全ては、偉大なるメガトロン様のために。

 

  *  *  *

 

 数日後、プラネテューヌにて。

 対ディセプティコンの対策を話し合うために、各国の女神が集まることになっていた。

 まあ、どうせまともな会議にはならないだろう。それでも、これは貴重な情報が得られるかもしれない。アリスはそう思ったのだが……。

 

「どうしてこうなった」

 

 アリスはそうこぼさずにはいられなかった。

 

「クレープ美味しいね! ロムちゃん」

 

「うん、ラムちゃん(パクパク)」

 

 目の前では、ルウィーの双子が屋台で買ったクレープをパクついている。

 

「ああもう、こぼれてる! 二人ともお行儀よく食べなさい!」

 

 そんな双子の世話を焼くのは、ラステイションの女神候補生だ。

 

「美味しいですね! アリスさん!」

 

 そして隣で自分に笑いかけてくるのはプラネテューヌの妹女神。

 本当にどうしてこうなった。

 きっかけは、姉たちが話し合っている間、暇だからと妹たちで遊びに出掛けることになったことだ。

 無論、自分は残って話し合いに参加するつもりだったのだが……。

 

「ちょうどいいですわ。アリスちゃんも、ネプギアちゃんたちと遊んできてくださいな」

 

 と言う、ベールの一声により、なぜか妹たちと同行することになったのだ。

 

「美味しくありませんでしたか?」

 

「あ、いえ、美味しいです……」

 

 小首を傾げるネプギアに、率直な感想を返しつつ、こうなったら折を見てこの妹たちから情報を引出そうと決める。

 幸い、姉に比べて警戒心は低く見える。

 いや姉たちも高いようには見えないが。

 

「良かった! アリスさんにはリーンボックスでお世話になったから、一度ちゃんとお礼をしたくて!」

 

 そう言って喜ぶネプギア。確かに女神たちが囚われた際、ネプギアたちの身の回りの世話をしたのはアリスだ。

 だがそれは、あくまでも彼女たちを監視するためだ。

 

「それで、ネプギア。今日はどこにいくのよ?」

 

 ユニが相方たるネプギアにそうたずねてきた。

 それはアリスも気になるところだ。

 

「そうだね、じゃあ……」

 

  *  *  *

 

 そして、一行が訪れたのはプラネテューヌのゲームセンターだった。

 いくつものゲームがキラキラと輝いている。

 

「ここ、新しくできたゲームセンターなんだよ! 最新のゲームを色々導入してるから、一度来たかったんだ!」

 

「ふーん、なかなか楽しそうね! どれから遊びましょうか?」

 

「ダンスゲームしよ! ロムちゃん!」

 

「うん! ラムちゃん!」

 

 ネプギアの案内に、戸惑うアリス以外のメンバーは目を輝かせている。

 そんなアリスに、ネプギアが手を差し出した。

 

「アリスさんも、いっしょに遊びましょう!」

 

 少し考えたアリスだったが、これも仕事と割り切ることにしたのだった。

 まずはダンスゲームからだ。

 

「よ~し! 踊るわよー!」

 

「まずは、ポシェモンの歌から」

 

 すっかり展開も水戸○門状態に突入して久しい大人気アニメの主題歌に合わせ、ロムとラムが息の合った動きで踊って見せる。

 ここらへん、さすがは双子である。

 曲が終了すると、二人はアリスの前にやってきた。

 

「次はアリスちゃんね!」

 

「楽しみ(わくわく)」

 

「……私に踊れと?」

 

「「うん!」」

 

 目を輝かせる双子。

 プ二プ二ほっぺにクリクリおめめ。

 

 ――畜生、かわいいなあ……。

 

 いかん、思考があらぬ方向へ走っている。

 何とか、この窮地を乗り越えなければ。

 メガトロン様、私に力をお貸しください。

 

「分かりました。踊りますよ、踊ってやろうじゃないですか!」

 

 半ばヤケを起こして音楽に合わせて踊り出すアリス。

 しかし、上手くいかず妙にカクカクした動きになってしまう。

 

「変なのー」

 

「ロボットみたい」

 

 益体のない言葉を発するラムとロム。

 子供って残酷である。

 

「し、しかたないじゃないですか! こういうのは初体験で……」

 

「じゃあ、私といっしょに踊りましょう。私がリードしますから、アリスさんは合わせてください」

 

 ネプギアが隣に立ち、いっしょに踊り出す。

 その動きは中々堂に入ったものだ。

 

「上手いですね」

 

「お姉ちゃんが、気まぐれにダンスPVを撮ろうって言い出したことがあって、その時にちょっと」

 

「なるほど」

 

 今回はネプギアのリードもあって、さっきよりは上手に踊れた。

 

  *  *  *

 

「シューティングですか」

 

「そう! このゲームすごっく面白いから、アリスもやってみて!」

 

 ユニに勧められて作り物の銃を手に取る。

 

「でも、これ少し難しいからまずは私といっしょに……」

 

「必要ありません」

 

 ユニの申し出をはっきりと断るアリス。

 自分は本物の兵士である。

 こんな遊びに後れを取るはずもない。

 

  *  *  *

 

「こ、こんなはずは……」

 

 思いきり後れを取った。

 具体的には一面で持ち金3000クレジットほど融けた。

 

「ううう、そりゃ、射撃は専門外だけど……」

 

 潜入が専門とはいえ仮にもプロなのに、兵士なのに。

 

「ま、まあ落ち込まないで。このゲーム難易度が高い上に、この店、難易度をHARDにしてるみたいだから……」

 

「い、いえ! このままではディ……リーンボックス教祖補佐の名折れ! もう一度、もう一度です!」

 

 苦笑するユニに一言断り、もう一度100クレジット硬貨を二枚、筐体に投入する。

 ここで引いてはディセプティコンの沽券に係わる。

 

 ――メガトロン様、なにとぞ力をお貸しください!

 

 何やら、燃え盛るアリスを見て、ユニはフッと微笑んだ。

 

「……よし! じゃあ、アタシが援護してあげる!」

 

 自分も100クレジット硬貨をゲーム機に入れ、2P参加するユニ。

 

「え、でも……」

 

「いいからいいから、このゲーム、二人でやったほうが面白いのよ!」

 

 そう言ってユニは慣れた手つきで銃を握る。

 その姿は自身の得物が銃であることもあって、とても様になっていた。

 

「それじゃあ、ゲームスタート!」

 

 今度は、何とか全面クリアができた。

 

  *  *  *

 

「ロム~、ラム~、そろそろ行くわよ~」

 

 ユニが、クレーンゲームの前に張り付いているルウィーの双子を呼ぶ。

 何か、ぬいぐるみが中々取れなくて粘っているらしい。

 

「ええ~? もうちょっとでワンちゃんが取れるんだから待ってよー」

 

「あと、少し」

 

 文句を言い出すラムとロム。

 もうすでに結構な額がクレーンゲームの腹へと消えている。

 それを見てネプギアは苦笑しつつもう一人に声をかける。

 

「アリスさんも、行きますよー」

 

 双子の横ではアリスも粘っていた。

 

「ま、待ってください! もう少し、もう少しで猫が……」

 

 彼女のほうは、猫のぬいぐるみ目当てであった。

 これも怪しまれないための演技である。……多分。

 

  *  *  *

 

 ゲームセンターを出ると、もう夕刻だった。

 

「楽しかったね、ロムちゃん!」

 

「うん、また来ようね、ラムちゃん」

 

 笑い合う双子。

 結局、この妹たちから情報を引出すことはできなかった。

 

「あの、アリスさん。今日は付き合ってくれて、ありがとうございました」

 

 と、ネプギアが話しかけてきた。

 

「ご迷惑じゃありませんでしたか?」

 

「あ、いいえ、私も楽しかったですから」

 

 適当に合わせた返答だ。

 しかし、ネプギアは笑顔になる。

 

「良かった! 正直、アリスさんって周りに壁を作ってるたみたいだったから……」

 

「壁……、ですか?」

 

「はい、その……、なんて言うか、違和感があったって言うか。笑ってるけど笑ってない感じがしたって言うか」

 

 確かに、スパイとして今のキャラを演じている以上、どうしても違和感が出るだろう。

 だが、それに気づくとは……。

 ネプギア、ポヤッとした娘だと思っていたが、意外と勘が鋭いのかもしれない。

 

「でも、今日は楽しんでくれたみたいで、私もホッとしました!」

 

「ええ、今日はありがとう」

 

 笑顔のネプギアに合わせて、こちらも笑顔を作る。

 まあ、自然に見える笑みはできたはずだ。

 

  *  *  *

 

 リーンボックスへの帰国の途。

 オートボットの輸送機の客席に、アリスとベールは対面して座っていた。

 

「それで、どこの国のゲーム機が一番かで揉めに揉めまして……」

 

「結局、碌な進展がなかったと……」

 

 ベールから聞く会議の様子は、やはりと言うか、あんまり中身のないものだった。

 溜め息の一つも出てくると言うものだ。

 

「分かってますか、ベール様! 今は明確な敵が迫っているんです! もうちょっと真面目にやってください!」

 

「それは分かっているのですが、まあ、ねえ……」

 

「ねえ、じゃありません! まったく、そんなだからチカ様のご病気も治らないんです! いい加減自覚してください!」

 

 頭から湯気を出しそうなアリスの剣幕に、ベールは穏やかに微笑むばかりだ。

 

「それよりもアリスちゃん。……今日は楽しかった?」

 

 少しだけ、ベールの纏う空気が変わった。

 それを敏感に察知し、アリスは言葉を選ぶ。

 

「ええ、まあ、楽しかったですよ。とてもとても……」

 

「アリスちゃん」

 

 アリスの言葉を途中で遮り、ベールはアリスの瞳を覗き込むように見つめた。

 

「ねえ、アリスちゃん。本当に楽しかった?」

 

 その視線に、なんだか見透かされているような気分になり、アリスは思わず目を逸らす。

 

「…………楽しかった、と思います」

 

 しかたなく、ある程度は本当のことを言うことにした。

 

「思います、と言うのは?」

 

「正直、よく分からないんです。……楽しかったんです。でも、何で楽しいのかが分からないんです」

 

「ふふふ、それはね」

 

 悪戯っぽく微笑み、ベールは続ける。

 

「『友達といっしょに遊んだ』からですわ」

 

 その言葉を理解できず、アリスは口をポカンと開けた。

 

「物にもよりますが、娯楽とは、誰かと共有することで、もっと楽しくなるものなの。だからあなたは、今日ネプギアちゃんたちといっしょに遊んで『楽しい』と感じたのではなくって?」

 

「いっしょに遊ぶと楽しい……?」

 

 その言葉は、アリスにとって、いやディセプティコンにとって理解しがたいものだった。

 ディセプティコンにとって、例外は有れど他人はどこまで行っても他人だ。

 何かを共有するのではなく、奪い合う相手だ。

 『彼の存在』が、他を蹴落せと、より強く在れと、そう定めたが故に。

 

 それでも、確かにアリスは楽しいと感じたのだ。

 

「だからアリスちゃん……」

 

 難しい顔をして考え込むアリスに、ベールは大きな笑みを向けた。

 

「この機にぜひ、傑作BLゲー、『救急員と保安員~ヤンデレ編~』をプレイして、楽しさを分かち合いましょう!」

 

「分かち合いません! そんなもん!!」

 

 世迷い事をほざくベールを怒鳴りつけ、アリスは勢いよく立ち上がる。

 

「あら、どちらへ?」

 

「パイロットに後どれくらいで着くか聞いてきます!」

 

 そう言って、アリスはズカズカと歩いていってしまった。

 

「…………」

 

 それをニコニコと見ていたベールだったが、ふと真面目な顔になった。

 

『いいのかい、ベール』

 

 そこへ、ジャズの立体映像が投影される。

 立体映像のジャズは、どこか訝しげな表情をしていた。

 

「……何がですか」

 

『彼女はクサい。これだって証拠があるわけじゃないが、彼女が現れた後にマジェコンヌがことを起こした。その後もこっちの行動が読まれてる節がある』

 

 いつになく真面目な態度のジャズに、ベールは目を伏せる。

 

「彼女が、ディセプティコンと繋がっている……。そう申されたいのですわね」

 

『可能性の話だがな。だが、用心するにこしたことはない』

 

 だから、ピーシェを彼女に会わせないようにしたのだ。

 ディセプティコンに狙われている可能性があるピーシェを、アリスに会わせるのは得策ではない。

 

「それでも、彼女は『あの計画』の適合者、その可能性が最も高い……」

 

 静かにベールは言葉を発した。

 健康診断と偽って教会の全女性職員に敢行した適性検査、その結果、適合者になりそうなのは彼女だけだった。

 

『…………その計画にしても、俺は反対だがな』

 

 やんわりと、しかし確かな非難を滲ませるジャズに、ベールは薄く微笑む。

 

「いくらあなたの言葉でも、こればかりは譲れませんわ。……リーンボックスのために」

 

『ベール……』

 

 座席に深く座り、ベールは瞑目する。

 

 ――全ては、愛するリーンボックスのために。

 

 しかし、それが結局は自分のエゴでしかないこともまた、彼女には理解できてしまっていた。

 

  *  *  *

 

 その後、諸々の処理を終えて寝床にしているアパートに帰り着き、着替えるでもなく、ベッドに横になる。

 

「…………」

 

 今日は疲れた。

 改造の弊害により、健全な機能を保つためにはいくらかスリープモードで体を休める……睡眠が必要になった。

 

 ――楽しんでなどいられない。

 

 これは、あくまで任務なのだから。

 だから、迷いを断ち切るために、その言葉を口に出す。

 

「オール・ハイル・メガトロン」

 

 全ては、偉大なるメガトロン様の御為に。

 

 プリテンダー、有機生命体に変化する異端のトランスフォーマー。

 ディセプティコンの中にあってさえ、否、ディセプティコンだからこそ迫害される、有機と無機の半端者。

 そんな彼女たちの価値を認めてくれたのは、メガトロンただ一人。

 だからアリスは、メガトロンのために働き続ける。

 そこに、余計な感情など不要。

 

「…………」

 

 しかし、それでも、だとしても、やっぱり、

 

「今日は、楽しかったなあ……」

 

 我知らずそう呟き、アリスは眠りの中へ落ちていった。




ネプテューヌVⅡ、あるイベントを見て、ふと思いついた場面。

オプティマス「ニンジャ、殺すべし。慈悲はない」

それはともかく……、お待たせしました、次回はついにリベンジ真の主役と影の主役が登場。
もう、影が薄いとか言わせない!

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