超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION 作:投稿参謀
さて、今日の超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMETIONは、プラネテューヌの中枢プラネタワー。ここから物語をはじめよう。
プラネタワーの女神の生活区画、そのリビングルーム。
ここでは謎の女の子ピーシェがテレビの前にかじりついていた。
『スーパーヒーローは、とっても強いんだ! 大きな物も軽々持ち上げて、すごい速さで空を飛ぶぞ!』
テレビでやっている子供向けヒーローアニメでは、主人公のヒーローが人助けをしたり敵と戦ったりしている。
「わー、がんばれー!」
「あだだだ、首絞めんなって!」
ピーシェはヒーローを応援しているが、そのさなかにも小型ディセプティコン、ホィーリーの首を握りしめている。
一方、それを横目で見ながら、ネプテューヌとイストワール、立体映像のオプティマスが話し合っていた。
「やっぱり、ピーシェも一度町に出てみたほうがいいと思うんだよねー」
「ずっと教会の中というのも不健康ですしね」
『それでピーシェにお使いを?』
オプティマスの声に頷くネプテューヌとイストワール。
基本的にピーシェはネプテューヌにくっ付いていく以外は、活発な印象に反してあまり教会の外へ出ない。
それではいけないと、三人はピーシェに初めてのお使いを頼んでみることにしたのだ。
『しかし、大丈夫だろうか?』
「う~ん、ピーシェはおバカだからねー」
心配そうな声を出すオプティマスに、ネプテューヌは身も蓋もないことを言う。と言うか、ネプテューヌには言われたくないだろう。
「……でも、どうせなら、お外で遊んでみてほしいですからね」
イストワールが頬に手を当てて意見を述べる。
『確かに、ピーシェにはこのプラネタワーも狭すぎるようだしな』
オプティマスの厳かな声に、ネプテューヌとイストワールも頷く。
健康で元気なピーシェには、プラネタワーに引きこもっているより外で遊びまわるほうが似合うだろう。
かくして、『ピーシェの初めてのお使い計画』がスタートしたのであった。
* * *
プラネタワーの正門前にて、ピーシェは買い物のためにリュックを背負っていた。
買った物を中に詰めるためだが、ピーシェがどうしても持っていくと言って聞かなかった、お菓子とお絵かきセットが中に入っている。
「いい、ぴーこ? この紙に書いてある物を買ってくるんだよ?」
「うん……」
正面に立つネプテューヌの声にも、ピーシェは少し元気がなさげだ。はじめてのお使いに不安なのだろう。
そんなピーシェに、ネプテューヌは優しく微笑みかける。
「お釣りでプリン買ってもいいから、がんばろ。ね?」
「ぷりん! うん、ぴぃがんばる!」
一転、元気になるピーシェにネプテューヌは苦笑する。
「あ! プリン、わたしの分も買ってきてね!」
「うん!」
そして、ちゃっかり自分の分のプリンの確保も忘れないネプテューヌだった。
* * *
「ぷりん、ぷりん、ぷ、り、ん♪」
陽気にプリンの歌を歌いながら、大きく腕を振って歩くピーシェ。その後をモンスタートラック型のラジコンカーが付いていく。ピーシェを見守るようにと、オプティマスから仰せつかったホィーリーである。
「おいおいおい、プリンはお釣りで買うんだろ? まずはカレーの材料な」
「うん!」
すでにプリンのことで頭がいっぱいなピーシェに、ホィーリーは注意する。
なんだかんだで、ホィーリーはピーシェに対し面倒見の良い一面を見せていた。
……途中、道行く女性のスカートの中を下から見ているのは、この際置いとこう。
やがて、小さな女の子と小ディセプティコンの奇妙な二人組は、プラネテューヌ市街のショッピングモールに到着した。
「これください!」
「はい、カレールーにジャガイモ、ニンジンね」
店員にネプテューヌから貰ったメモを見せ、無事に買い物を終えたピーシェは、リュックの中にカレーの材料を詰め込んだ。材料といっても、カレールーに野菜の類の一部だけなので、軽いものだ。もちろん、プリンも忘れない。
後は帰るだけだ。
「ぷりん、ぷりん、ぷ、り、ん♪」
来た時と同じようにプリンの歌を口ずさみながら歩くピーシェ。
ホィーリーはどうやら無事に終わりそうだと安心していた。
だが、世の中そうは問屋が卸さないものである。
何事も行きよりも帰りが大変なのだ。
順調に帰路を歩くピーシェの目の前を横切る影があった。
猫である!
それを見た瞬間、ピーシェの目が輝く。
「にゃんこだ!」
路地に入り込んだ猫を追いかけていくピーシェ。
「お、おい! どこ行くんだよ!?」
慌ててそれを制止しようとするホィーリーだが、悲しいかな彼にピーシェを止める力はない。ひたすら後を追うしかなかった。
* * *
猫を追いかけるピーシェとそれを追いかけるホィーリーは、いつの間にか荒廃した無人区画に入り込んでいた。 幸い周りにゴロツキやモンスターの影はない。
周りの荒れた空気にいっさい構わず、ピーシェは猫を追いかけ続ける。
やがて猫は大きな廃ガレージの敷地へと入り、閉ざされた入口の脇に開いた穴の中へと潜りこんでいった。
その穴は、小柄なピーシェなら入れそうだ。
ピーシェは、よし! と気合を入れ、その穴へと入っていく。
「まずいって! おいピーシェ!」
制止しきれずホィーリーもそれに続く。
ガレージの中はかなり広くなっていて天井も高い。
……トランスフォーマーぐらいなら、すっぽり入ってしまいそうなほどに。
「あれ~? にゃんこ~?」
そこで猫を見失ってしまい、ピーシェは残念そうな顔になる。
一方、ホィーリーはそれどころではなかった。
ガレージのあちこちに置かれた用途不明の機械の数々は、明らかにまだ動いており、さらにはホィーリーにとってなじみ深い技術で作られた物であるのは明らかだった。
「こ、こりゃあ、どう見てもディセプティコンの……」
そのときである。
ガレージの奥の扉が開き、そこから大きな影が姿を現した。
逆三角形のフォルムに背中に翼、逆関節の脚。そして赤いオプティック。
ディセプティコンの航空参謀、スタースクリームだ。
突然現れたスタースクリームは風変りに侵入者二人を見下ろした。
「あ~ん? 何だおまえらは?」
「ぴぃは、ピーシェだよ!」
当然の質問に、元気に自己紹介するピーシェ。その姿には恐怖のきの字もない。
「おい、ピーシェ! やばい! やばいって! 早くずらかろうぜ!」
そんなピーシェの服の端を引っ張り、必死に逃げようと促す。さすがに一人で逃げることはできないらしい。
だが、ピーシェはびくともしない。
そんな二人を見て、スタースクリームは何かに気が付いた。
「おまえ、あれか? ホィーリーか? サウンドウェーブの部下の部下の部下の……とにかく一番下っ端の」
スタースクリームがそんな下っ端のことをおぼえていたのは単なる偶然に過ぎない。
あまりにも役に立たない部下がいるとして、サウンドウェーブの取り巻きのレーザービークが愚痴っていたのを耳聡く聞いたことがあるだけだ。
「そそそ、そうだぜ! ディセプティコンにこのヒト有りとうたわれたホィーリー様たぁ、俺のことよ!」
せめて威勢よく胸を張るホィーリーだったが、足がガクガクと震えている。
「?」
一方、そんな二体の会話を理解できず、ピーシェはスタースクリームの巨体を見上げていた。
「それで? 何でテメエがこのチビなムシケラといっしょにいるんだ?」
小さな有機生命体のことを視界の隅に入れつつ、スタースクリームはホィーリーに質問する。
「な、何でって、上からの命令だよ! 上の上の上の……、とにかくスッゲエ上から命令が来たんだってさ! ピーシェに張り付いとけって!」
それを聞いて、スタースクリームは黙考する。
ホィーリーはペースブリッジの転送には巻き込まれてはいないはず。
さらに、この小ディセプティコンはこんなナリだが、一応はサウンドウェーブの配下。意味のない指令がくることは有り得ない。
とすると、その『スッゲエ上』とやらは次元を超えてホィーリーを転送する力を持ち、なおかつ、それほどの存在が監視を命じた有機生命体とは、つまり……
「なるほどな。そういうことか」
ブレインサーキットの中で答えを出し、スタースクリームはニヤリとほくそ笑む。
今までの二度に渡る造反と、度重なる失態に、ついにメガトロンから処分が下ったスタースクリーム。
しかしその処遇は、彼が極めて貴重な戦力であること、ズーネ地区での敗戦の責任はメガトロンの現場放棄にもあること、結果的にだがショックウェーブの覚醒に貢献したことで減刑され、しばらくの謹慎で済んだのである。
だが、それで大人しくしているスタースクリームではない。
折を見て基地を抜け出してはここにアジトを築き、自分にとって有利になる物を探していたのである。
そして今、ついにそれを見つけたのだ。
このムシケラこそ、メガトロンが探している『例の物』に違いない。
素早く冷静な思考と獣じみた勘から確信し、自分を見上げる頭のトロそうなムシケラを睥睨する。
「おい、そこのムシケラ」
「? ぴぃはピーシェだよ!」
「ああ、はいはい。じゃあピーシェ!」
スタースクリームは恫喝するように大きな声を出した。
「おまえには、俺様に協力してもらうぞ! 嫌とは言わせねえからな!」
しかし、ピーシェは首を傾げるばかりで怖がる様子はない。
むしろ、興味深げにスタースクリームの体を見ている。
「きょうりょく?」
「手伝うってことだよ」
言葉の意味を理解していなかったピーシェに、ホィーリーが意味を教えてやる。
「いいよー! なにをてつだえばいいの?」
ようやっと、自分がこの金属の異形から、手伝いを要求されていることを理解したピーシェはニパッと笑顔になる。
「お、おう! それじゃあまずはだ……」
まったく恐怖を感じていないらしいピーシェに若干ペースを狂わされつつも、スタースクリームは調子よく命じた。
「俺様に、力をよこしやがれ!!」
これで、メガトロンの求める力は自分の物だ!
その力でメガトロンを倒し、ディセプティコンのニューリーダーになるのだ!
そうだ、名前も変えよう。さしずめスーパースタースクリームなんかどうだろうか。
果てない妄想に浸るスタースクリームだったが……。
「…………ほえ?」
ピーシェは何のことだか分からず混乱している。
その足元ではホィーリーが痛ましい物を見る目でスタースクリームを見上げていた。
「いや、ほえ? じゃなくて」
思わずツッコむスタースクリーム。
「オマエの持ってる! 力を! 俺に! 寄越せって! 言ってるんだよ!」
一言ずつ区切って力をこめ、さっきと同じ内容を繰り返すスタースクリーム。
それでピーシェはやっと理解したらしい。
「いいよー! じゃあ、ぱわーあーっぷ!!」
何やら両の手のひらをスタースクリームに向かって突き出し、気合いを入れるピーシェ。
ひょっとして、これで自分の元気をスタースクリームに与えているつもりなのだろうか?
「…………」
とりあえず、そこらの大き目な機材を持ち上げてみるスタースクリーム。
軽々と持ち上がった。
「おおー!!」
それを見て目を輝かせるピーシェ。
ちなみにこれは、平時のスタースクリームでもできることである。って言うか、平時と何も変わらない。
力が漲る感じとか、必殺技が閃いたとかもない。
「……なんも変わってねえじゃねえか! どうなってんだ!」
ピーシェに向かい、大人げなく怒鳴るスタースクリーム。
だが、ピーシェは首を傾げるばかりだ。
「ちゃんと、ぱわーあっぷしたよー?」
「嘘つくんじゃねえやい!」
もちろん、ピーシェに嘘を吐いているつもりなど毛頭ない。
パワーアップとは、彼女の好きなヒーローアニメにおいて、ヒロインが主人公に力を与えるときの決め台詞なのだ。
「テメエ! さては俺様に力を渡すのが嫌で誤魔化してやがるな!」
「いや、なんでそうなるんだよ……」
とんでもないことを言い出すスタースクリームに、ホィーリーは力なくツッコム。幼子相手に何を言っているのか。
一応、スタースクリームにとってピーシェは、『彼の存在』が目を付けた相手なのだからただの子供ではないと考えているのだが……
「こうなったら、どっちが上かハッキリさせてやる!!」
そう言うやいなや、スタースクリームはピーシェを摘み上げ、自分の胸の部分、ジェット機のコクピットに当たる部分に彼女を放り込む。その拍子に買った物を詰めたリュックが、床に落ちた。
「きゃわー!」
「おわわわ!?」
ついでにホィーリーもピーシェの服を掴んでいたので巻き込まれた。
「へへへ、地獄を見せてやるぜ!」
するとスタースクリームは改造したガレージの天井を開き、ジェット戦闘機に変形すると、そこから飛び出していった。
* * *
超音速で大空を飛ぶスタースクリーム。
そのコクピットにはピーシェが操縦席にベルトで固定された状態で座っていた。ちなみにホィーリーはピーシェの膝の上でもろとも固定されている。
「ひゃははは! どうだ、俺様のこのスピード! 有機生命体には辛いだろう!!」
哄笑するスタースクリーム。
これだけの速度で飛行すれば、当然搭乗者にはとてつもないGがかかる。
体が潰され、呼吸ができなくなるはずだ。
高い飛行能力を有するスタースクリームならではの、簡易な拷問であった。
だが。
「きゃははは! はやーい!」
ピーシェは喜んでいた。
Gが堪えている様子はない。
「な、なんだと? そんな馬鹿な……」
驚くスタースクリーム。
有機生命体の脆い体で、この加速に耐えられるはずがない。
「ねえ、もっとはやくー!」
「ッ! まだまだこんなもんじゃねえぞ! ほえ面かかせてやるから覚悟しやがれ!」
ピーシェのリクエストに、スタースクリームはムキになってさらに加速していく。
雲を突き抜け、閃光のような速さでジェット戦闘機が飛ぶ。
「うわー! すごい、すごーい!!」
だが、ピーシェは喜ぶばかりだ。
なんという頑丈さ。
「くそッ! これならどうだ!!」
錐もみ回転、連続宙返り、そして急降下と急上昇。
見る者がいれば感嘆し惜しみない賞賛を送るだろうアクロバット飛行を披露するスタースクリーム。
コクピット内部は凄まじく揺れ動き、回転する。
これなら一たまりもあるまい!
「きゃははは! すごいすごーい!!」
しかし、やはりピーシェは嬉しそうに笑顔を大きくする。
「……ちょ、おま……、揺らさないで……」
むしろ、膝の上のホィーリーのほうが、気が遠くなっているようだった。
「な、なんてガキだ! こうなりゃとっておきだ!」
小さな子供一人、泣かすこともできないとあってはディセプティコンの名折れ。
当初の目的を半ば忘れ、スタースクリームはブースターを吹かして急上昇していく。
雲を越え、空を越え、さらにその上へと。
「うわー……!」
上昇が止まったとき、コクピットの外には星空が広がっていた。
ここは大気圏と宇宙空間の狭間。ここから先はゲイムギョウ界の外だ。
しばし、その光景に瞳をキラキラと輝かせて見入っていたピーシェ。一方、スタースクリームは可能ならニヤリとほくそ笑んだだろう。
「さあ! こっからが本番! 天国から地獄だぜ!!」
「え!? ちょ、ちょっと待って!!」
ホィーリーが悲鳴を上げるが、もちろん無視し、スタースクリームは機首を下げて、重力に従って落下をはじめた。
さらにブースターを噴射して加速までつける。
凄まじいスピードで、スタースクリームは地表に向かって落ちていった。
「ぎぃゃぁあああぁああああ!? 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!! 死んじゃうぅううう!!」
オプティックからウォッシャー液をまき散らし、泣き叫ぶホィーリー。さすがのピーシェも言葉を失っている。
「へへへ、さ~て最後の仕上げだ!」
見る見る迫る地上に、しかしスタースクリームはまったく動じない。
もはや地面は目の前、墜落はさけられない!
「イィッヤッハァアアア!!」
だが地面に衝突する寸前、スタースクリームは機首を上げ、地面スレスレをかすめて再び上昇していった。
何と言う神業だろうか。
「ひゃ~っはっはっはっ!! どうだスタースクリーム様のテクニックは!」
スタースクリームはしばらくぶりに大空を思い切り飛んだことに、内心で満足と高揚を得ていた。
やはり、空を飛ぶのは気持ちいい。
そしてピーシェはと言うと、今までのやかましさが嘘のように黙り、小刻みに体を震わしている。ちなみにホィーリーは泡を吹いて気絶していた。
その様子をセンサーで捉え、スタースクリームは満足していた。さすがにこれで、この有機生命体も言うことを聞くだろう。
だが、またしてもスタースクリームの予想は裏切られた。
「す……、すっごーい!! ねえ、もういっかい! もういっかーい!!」
「な、なんだと!?」
満面の笑みで瞳を輝かせるピーシェに、スタースクリームは面食らう。
あの技は、極限の集中力を必要とするスタースクリームの自慢の技だったのに。
「ねえ、もういっかーい!」
無邪気にねだるピーシェ。
「ええい! こうなりゃ根競べだ!」
スタースクリームはムキになって曲芸飛行を再開する。
「きゃっほー!!」
かくして、ジェット戦闘機は飛んで行くのだった。
* * *
一時間ほどして。
スタースクリームのアジトであるガレージ。
「く、屈辱だ……」
そこではロボットモードのスタースクリームが項垂れていた。
結局、大気圏急降下を何回繰り返しても、どんなアクロバット飛行をしてもピーシェは楽しそうに笑うばかりで、スタースクリームのほうが先にまいってしまったのだ。
当のピーシェは、リュックからお絵かきセットを取り出し、呑気にお絵かきをしている。
「ははは、生きてる……。俺、生きてる」
そのそばではホィーリーが大の字になって寝っ転がり、生の実感を噛みしめていた。
元気なのはピーシェばかり。
トランスフォーマーよりタフな幼児とか、末恐ろしい限りである。
「くっそ……。やっぱりただ者じゃねえ……」
スタースクリームはあらためて確信する。
この小娘には何かある。
何とか利用する手段を考えなければ……。
「はい! できたよ!」
「……あん?」
と、ピーシェが絵を描き終えて、その絵をスタースクリームに向け掲げる。
そこには、スタースクリームと思しきトランスフォーマーとピーシェらしき人物が手を繋いでいる様子が描かれていた。
「……なんだよコリャ」
「あげる! ぴぃから、ええと、ええと……」
そう言えば名乗ってなかったと気付き、スタースクリームはぶっきらぼうに名を名乗る。
「俺様はスタースクリームだ」
「す、すたー……、すたすく!」
「スタースクリーム!」
「すたすく! すたすく!」
「だから……、はあッ、もういいよそれで……」
スタースクリームが何度訂正しても、ピーシェの言い間違いが直らない。もうどう言っても無駄だと悟り、嘆息して諦める。
「で? なんだよこれ?」
「すたすく! スーパーヒーローの、すたすく!」
「…………………はあッ?」
思わず素っ頓狂な声を上げるスタースクリーム。
スーパーヒーロー? 誰が? 自分が?
「だって、スーパーヒーローはおもいものをもちあげて、そらをとぶんだよ! だから、すたすくはスーパーヒーローなんだよね!」
ニコニコと笑いながら、スタースクリームを見上げるピーシェ。
その瞳はディセプティコンの航空参謀をスーパーヒーローだと確信してキラキラと輝いている。
「何を馬鹿なこと……」
有機生命体の馬鹿な勘違いを嘲笑ってやろうとして、スタースクリームはふと思った。
この有機生命体から、力を引出す方法はまだ分からない。この調子だと本当に自分では分からないのだろう。
じっくり調べるためにも、ここはこいつを手懐けておいたほうが得策では?
そこまで思考し、スタースクリームはニヤリとほくそ笑む。
そして、腰に両手に当て胸を張る。
「その通り! 何を隠そう俺様は悪と戦う正義のスーパーヒーローなのだ!」
「おお~!」
突然の宣言に、ピーシェは歓声を上げる。
「……何言ってんの?」
困惑したのはホィーリーだ。
「あのな、ピーシェ。こいつは……」
純真な幼児の間違いを訂正しようとするホィーリーだが、そこへスタースクリームから通信が入った。
『余計なことを言うなよ! 叩き潰すぞ!』
その通信にアッサリと引き下がるホィーリー。勝てない戦いはしない主義だ。
「わーい! すたすくはスーパーヒーローなんだー!」
自分の予想が当たっていて、大喜びするピーシェ。
それを見て狡猾な航空参謀はニヤリと笑う。
「じゃあ、ピーシェ! 俺といっしょに来て……」
その時である。
ガレージの中に置かれた機械が、アラーム音を発した。
「びっくりしたぁ! すたすく、それなに!?」
「ああ、これは通信傍受のための機械だ」
大きな音に驚くピーシェをよそに、スタースクリームは話を中断して機械のスイッチを入れる。
すると、機械から助けを求める声が聞こえてきた。
『バスが崖から落ちそうになってるんです!! 誰か、タスケテー!!』
どうやら一般の無線らしい。何だツマランと装置のスイッチを切ろうとするスタースクリームだったが、ふと見るとピーシェが期待に満ちた顔で見上げていた。
「……なんだよ?」
「たすけにいくんだね! すたすく!」
「…………はあッ?」
何を言い出すんだこの小娘は?
「スーパーヒーローは、ひとだすけがおしごとなんだよね!」
ああそうだった。自分は今、スーパーヒーローということになっているのだった。
しかし、なぜ自分がそんな一エネルゴンチップの得にもならないことをしなければならないのか。
「あぁとだな、こういうのは救助隊とかそこらへんに任せて……」
「たすけにいかないの?」
少し不安げな顔になるピーシェ。
まずい、このままではせっかくの懐柔策がパーになる! それは困るのだ!
「も、もちろん行くとも!」
すぐさま態度を変えるスタースクリーム。
何だかホィーリーが呆れたような顔をしているが、気にしないことにした。
まあ、ガレージを出てどこかで時間を潰し、何食わぬ顔で戻ってくれば……
「じゃあ、ぴぃもいっしょにいくね!」
駄目だった。
* * *
プラネテューヌ近郊の山道。
崖の直ぐそばに通ったこの道から、一台のバスが崖に車体を半分ほど乗り出し、今にも落ちそうになっている。
乗降口は車体前部にあり、後部からは降りることはできない。
非常口もあるのだが、乗っている面々は混乱してそのことに思い至らなかった。
それも無理のないこと。
バスに乗っているのは子供ばかりなのだから。
このバスは山向こうの集落とプラネテューヌ市街を結ぶ通学バスなのだ。
唯一の大人である運転手は頭をぶつけて意識を失っている。
突然飛び出してきた動物をよけようとしてこうなったのだ。
何とか年長の子供が備え付けの無線で助けを呼んだが、誰かに届いたかは分からない。
やがて、バスはバランスを崩して崖下へと滑り落ちそうになる。
悲鳴を上げる子供たち。もうこれまでなのか!?
しかし!
どこからかジェット戦闘機が飛んで来たかと思うとロボットに変形し、バスを下から押し上げたではないか。
「ああ、どっこいしょっと……」
山道までバスを軽々と押し戻したロボット、スタースクリームは排気しつつ胸のコクピットからピーシェを降ろす。
「だいじょうぶ!?」
降りたピーシェは、すぐさまホィーリーを引きずってバスに駆け寄った。
正体を隠しているつもりなのか、目の部分に穴を開けた布を巻いている。
バスからは子供たちが次々降りてきた。
「助かったの?」
「僕見てたよ! あのロボットが助けてくれたんだ!」
「そうなんだ! 見た目はカッコ悪いけど、いいロボットなんだね!」
「ありがとー、カッコ悪いロボットさーん!」
「素敵ー! 見た目は悪いけどー!」
感謝はすれど、色々と容赦のない子供たち。
「うんそうだよ! すたすくはね、スーパーヒーローなんだよ!」
ピーシェは自慢げに胸を張る。
子供たちは歓声を上げた。
「ったく……、じゃあ行くぞ」
一方のスタースクリームは、さっきから酷い子供たちに内心ムカつきながらも、ピーシェの手前怒鳴るわけにもいかないので、さっさとこの場を離れようとする。
「うん! ヒーローはさっそうとさるんだもんね! じゃあみんな、バイバーイ!」
アニメの受け売りの知識から納得し、ピーシェは子供たちに手を振りながらジェット戦闘機に変形したスタースクリームに乗り込んだ。
ピーシェがベルトで体を固定したのを確認すると、スタースクリームはすぐさまジェットを噴射して飛び立つ。
子供たちは自分たちを助けてくれた不思議な二人に手を振り続けるのだった。
この後、意識を取り戻した運転手が無線で助けを求め、彼らは速やかに救出された。
また、このころから子供たちの間で謎の子連れスーパーヒーローが噂されるようになるが、それはまた別の話。
* * *
アジトに戻ったスタースクリームは、ピーシェを降ろすと速やかに通信傍受装置の電源を切った。
これ以上余計な手間が増えるのはゴメンである。
「まあ、とりあえずこれで用事は済んだな! よっし、ピーシェ! 今度こそ俺といっしょに……」
「あー!」
ピーシェから力を引出す算段を立てるべく、彼女を連れ去ろうとするスタースクリームだったが、彼女は突然声を上げる。
「今度は何!?」
「もうかえらないと!」
「はあぁああ!?」
いきなりの帰宅宣言に驚愕するスタースクリーム。
ピーシェの視線の先を追えば、そこには時計があった。
時間は午後5時を回っている。
「ねぷてぬにおこられるー!」
出発する前に言われたのだ。
5時までに帰ってきてね、と。
急いで荷物とホィーリーを拾い上げ、急いでガレージを出ようとする。
「お、おい!」
それを呼び止めようとするスタースクリームだが、ふと思い直す。
とりあえず、今回はこいつへの懐柔策の第一歩だ。
こいつは自分を信用している。
今はそれでよしとしておこう。
「……分かった。じゃあ、ピーシェ一つ約束してくれ」
「やくそく?」
「ああ、ここでのことは俺たちだけの秘密だ。誰にも言わないでほしい」
「わかった! ヒーローはしょうたいをかくすものだもんね!!」
またもアニメの知識で納得するピーシェ。
「じゃあ、すたすく! またここにきてもいい?」
「ああ、いいぞ。俺も色々と忙しいから、いつもいるとは限らんがな」
「うん、わかった!」
笑顔で頷くピーシェ。
それを見ながらも、スタースクリームはもう一人に釘を刺すのを忘れない。
『テメエもだぞ。俺のことをオートボットにチクッたらタダじゃおかねえからな!』
『はいはい、分かってますよ! ……ところでスタースクリーム。あんた気付いてる?』
何のことかと訝しがる遥か格上の航空参謀に、小さな下っ端はニヒルに笑って見せた。
『さっき子供たちに礼を言われてた時のアンタ、随分と嬉しそうだったぜ?』
――嬉しそう? 俺が?
有り得ないと一笑に伏そうとして、はたと思い当たる。
あんな風に、手放しで感謝されたことはなかったかもしれない。
今まで戦うのは自分のため、策謀は自分だけのためと割り切ってきたスタースクリームである。
そしてその考えはディセプティコンの中では、決して珍しいものではない。
だから、感謝もない。賞賛もない。尊敬もない。
「……フッ」
それで良いのだ。恐怖と憎悪、嫉妬と羨望を受け、敗者を踏みにじって喜ぶのがディセプティコンなのだから。
今度こそ気の迷いを一笑に伏し、スタースクリームはピーシェに向き直る。
「まあ、暇な時にでもこい。……親御さんに心配をかけない時間にでもな」
オートボットや女神に、怪しまれないために。
「うん! ……あ! そうだ! これあげるね!」
満面の笑みのピーシェはリュックを一度降ろして何かを取り出した。
それは、さっき描いていたスタースクリームとピーシェが手を繋いでいる絵だ。
「…………ああ、ありがとう」
礼を言うのも、随分と久し振りだった。
差し出された絵をつまむ。
「えへへ、あのね、すたすく!」
「……なんだ?」
「また、いっしょにとぼう! やくそく!」
「……………分かったよ。またいつかいっしょに飛ぼうぜ。約束だ」
口約束だ。守る気などない。ないはずだ。
その答えに満足したらしいピーシェは、手を振りながらガレージから出て行くのだった。
ピーシェがいなくなったあと、スタースクリームは手の中の絵を見る。
――……馬鹿な餓鬼だ。
自分はスーパーヒーローなんかじゃない。
力も知恵も全ては自分のため。自分だけのため。
メガトロンに代わって自分が宇宙の支配者となる野望のためだ。
そこに他者を助けるためなんて馬鹿な選択肢は存在しない。
――何だ、こんな物!
スタースクリームはその絵を握り潰そうとして……
胸のコクピットにしまいこんだのだった。
* * *
無事プラネタワーに帰り着いたピーシェとホィーリーだったが、待っていたのは当然と言うべきか、ネプテューヌやイストワール、オプティマスによるお説教だった。
帰りの遅さに心配していた一同から怒られに怒られても、ピーシェはどこで何をしていたのか言おうとしない。
「……やくそくした。ひみつだって」
「……分かった」
涙目になっても口を割らないピーシェを見て、ネプテューヌは根負けしたようにフッと微笑んだ。
「なら、もうそれはいいよ。でもねピーシェ、みんな心配してたんだよ。だから、言わなきゃいけないことがあるでしょ? ね?」
優しい笑みのネプテューヌに、ピーシェはうつむいたまま言葉を発した。
「……しんぱいかけて、ごめんなさい」
「はい、よくできました! じゃあお説教はこれでお終い! カレー食べよ!」
今までとは打って変わって、いつもの調子に戻ったネプテューヌはピーシェを連れてリビングルームへ向かうのだった。
『それで? 実際の所はどうなんだ?』
オプティマスが問うと、ホィーリーは少しだけ皮肉っぽく笑った。
「ああ何、ピーシェに友達ができたってだけさ」
嘘は言っていない。
少なくともピーシェは、あの航空参謀のことを友達だと思っているはずだから。
* * *
カレーをお腹いっぱい食べ、デザートにプリンまで食べたピーシェは速やかにおねむになり、お風呂に入って歯を磨きベッドに入った。
その日見た夢は、スタースクリームと手を繋いで空を飛ぶ夢だった。
そんなわけで、スタースクリームがやらかす話でした。(嘘は言ってない)
トランスフォーマーアドベンチャーのサイドスワイプは、いつになく軽いというか何と言うか……
サンダーフーフは準レギュラーかな?
次回はお待ちかね! あの賞金稼ぎが登場する予定!
……自分の中で彼はアメコミより、アニメイテッドのイメージが強いです。