超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION   作:投稿参謀

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思いっきり趣味に走ってみた話。

前の話と同時進行で書いてたので、早く書きあがりました。

そして、やっぱり分割。


番外編② クリスタルシティの滅亡 part1

 惑星サイバトロンの南方に位置する都市、ケイオン。

 かつては剣闘で賑わったこの都市は今やディセプティコンの首都だった。

 無数の砲台と高い壁、兵器工場と兵舎が並ぶここの中央に、異様な建造物が存在した。

 その形状を有機生命体に例えるなら『キノコ』が一番近いだろうか。

 いくつものウイングを備えた円柱の上に、傘のような本体が乗っている。

 だがその笠の大きさは都市全体を覆うほどだ。

 これこそがコルキュラー、破壊大帝メガトロンの居城である。

 

  *  *  *

 

 その司令部で、航空参謀スタースクリームが大声で喚き散らしていた。

 

「メガトロンはオールスパークを追って宇宙に消えた! これからは俺様が指揮を取る!! 異論はないな!!」

 

 それに対し残る参謀二人、サウンドウェーブとショックウェーブは何とも言えない表情をしていた。二体とも分かりづらいが。

 しかしとりあえず、異論はない。

 こんなんでもナンバーツーであり、不在時に指揮を取るように指示を出したのはメガトロンそのヒトだ。

 反対意見を出さない同僚に、スタースクリームは満足げに頷く。

 だが。

 

「この愚か者めが!」

 

 言葉とともに司令部へ入ってくる者がいた。

 灰銀の巨体に、悪鬼羅刹の如き顔。

 破壊大帝メガトロンだ。

 片腕に円筒状の容器を抱えている。

 タイガーパックスの戦いにおいて宇宙に放逐されたオールスパークを追い、姿を消した彼が帰って来たのだ。

 

「「「メガトロン様!!」」」

 

 三体の参謀は一様にその名を呼ぶ。

 二体は畏怖を込めて、もう一人は僅かな無念さを込めて。

 代表してスタースクリームが質問する。

 

「いったい、どうされたのです? てっきり、オールスパークを探しに行かれたのだと……」

 

「少し黙っておれ!」

 

 それをピシャリと封じ、メガトロンは自分の席である司令席の前に立つ。そして、腹心三体に向かって言葉を発した。

 

「我がディセプティコンよ! 我らはこれより、ゲイムギョウ界を目指す!!」

 

「げ、げいむぎょうかい? それはいったい、何なんですかい?」

 

 主君の突然の宣言に素っ頓狂な声を出すスタースクリーム。

 サウンドウェーブとショックウェーブも顔を見合わせている。

 だが、メガトロンは気にしていない。

 

「ゲイムギョウ界とは、こことは違う次元に存在する天体の呼び名だ。豊かなエネルギー資源に溢れ、有機生命体が蔓延っている」

 

「は、はあ……。で、何でそこを目指すんです?」

 

 当然の質問をするスタースクリーム。

 だがメガトロンはナンバーツーの質問に取り合わず言葉を続ける。

 

「そのためには、時間と空間を越えることのできるスペースブリッジが必要だ」

 

「い、いやだから何で……」

 

 そこまで言って、スタースクリームは諦めた。

 こういう時のメガトロンには何を言っても無駄だ。

 

「シカシ メガトロン様、スペースブリッジ ハ、現在デハ失ワレタ技術。専門家ダッタ センチネル・プライム モ、スデ二イナイ」

 

 側近中の側近であるサウンドウェーブが、無感情な調子のなかに僅かに動揺を滲ませながら進言すると、メガトロンは顔を不機嫌そうにしかめる。

 先代のオートボット総司令官センチネル・プライム。忌々しい名だ。

 かつては師と仰いだこともあったが、様々な出来事を経てメガトロンにとって最大の敵の一人となった。

 超一流の戦士であり、思想家。同時に天才的な科学者でもあった彼は、スペースブリッジと呼ばれる時間と空間を超越して移動できる技術、スペースブリッジを開発した。正確には、以前からあった物をより良く改良したのだ。

 だが、奴は宇宙の藻屑と消えた。

 無い物ねだりをしてもしようがない。

 そこで、これまで黙っていたショックウェーブが発言した。

 

「あるとすれば、そう……、『あそこ』しかないでしょうな」

 

 科学参謀の言葉に、メガトロンのオプティックがギラリと光る。

 主君が何も言わずとも、ショックウェーブは言葉を続ける。

 

「クリスタルシティ」

 

「……やはりか」

 

 そこに有るような気がしていた。

 

「よし、すぐにクリスタルシティに向かうぞ! 軍勢を集めよ!!」

 

 即決したメガトロンは三参謀に指示を飛ばす。

 

「お待ちください、メガトロン様!」

 

 しかし、スタースクリームは納得いかないとばかりに声を上げる。

 

「クリスタルシティはオメガスプリームの護る土地! そう簡単にはいきませんぜ!」

 

「ソレニ、アノ都市ハ強固ナ外壁二守ラレテイル」

 

 スタースクリームとサウンドウェーブは口々に反対する。

 

「二人の言う通り、論理的に考えますと、不可能かと」

 

 他の二人ほどではないものの、ショックウェーブも穏やかに反対した。

 メガトロンは参謀たちを見回し、そして間を置き抱えていた容器の中から、ある物を取り出した。

 それは、青い半透明の球体だった。しかし中の液体が淀んでいる。

 

「こ、これは……!」

 

「トランスフォーマー ノ、卵……!」

 

 スタースクリームとサウンドウェーブが驚きの声を上げる。

 もう二度と見ることはないと思っていた。

 オールスパークが失われた今、この星に新たな生命が生まれることはないのだから。

 

「しかし、すでに生命活動を停止しているようですね」

 

 動揺する航空、情報、両参謀とは対照的に科学参謀は平静にそれの状況を説明する。

 それに対し、メガトロンは大きな声を上げた。

 

「そうだ! だがコイツは少し前まで生きていた! ついさっきまでだ!!」

 

 さすがに少し気圧されるショックウェーブに構わず、メガトロンは言葉を続ける。

 

「オールスパークの泉でこれを見つけた! これ以外にもいくつもの卵もだ! だが、コイツは死んだ! 他も死にかけている! 分かるか、この意味が!」

 

 その声には、いつになく必死な感情が込められていた。

 

「エネルギーだ! 我々にはエネルギーが必要なのだ!!」

 

 トランスフォーマーの卵が孵化するためには、大量のエネルギーが必要だ。

 だが、もはやサイバトロンにそれをまかなう余力は残されていない。

 目指すしかないのだ。エネルギーに溢れた別の世界を。

 

 もう、誰も反対はしなかった。

 

  *  *  *

 

 クリスタルシティ。

 科学と文化の聖地。惑星サイバトロンに残された、最後の安住の地。

 高く分厚い外壁に囲まれ、その上には無数の対空砲台。

 それを越えると、その名の通りクリスタルで構成された美しい建造物が立ち並び、幻想的な光景を作り出している。

 ここは鉄壁の防御システム、オメガスプリームによって守られている。

 さらに、この都市の地下にはプラズマエネルギーが蓄えられ、そのおかげで死にゆくサイバトロンの中でも都市機能が維持できていた。

 今ここをオートボット総司令官オプティマス・プライムが訪れていた。

 ビークルモードのまま、光り輝く街並みを進んでいく。

 非戦闘員たちが、そこかしこで穏やかに暮らしているのが、走っていても分かった。

 

「なんて言うか、ここは平和だな」

 

 アイアンハイドがしみじみと呟いた。

 身を寄せ合って生活している非戦闘員たちを見ていると、いままさに星が死にかけているだなんて思えない。

 

「まさに最後の楽園だな。オメガスプリームさまさまだ」

 

 ジャズも同意する。

 二人の会話に加わらず、オプティマスはクリスタル製のハイウェイを進む。

 やがて、ハイウェイの先、高い塔のような建物が見えてきた。

 まるでロケットのようなデザインの塔で今にも宇宙に飛び立ちそうだ。中部にはオートボットのエンブレムが刻まれている。

 これこそがクリスタルシティの中心部、メインタワーである。

 オプティマスたちはその塔の前で止まると、ロボットモードに戻り、クリスタル製の彫像の間を通って内部へと進んだ。

 そのままロビーにジャズとアイアンハイドを待たせ、廊下を渡り、エレベーターで上へと上がる。

 最上階につくと、そこは都市を一望できる展望台になっていた。

 部屋の中央には、透明な半球状の物体が鎮座していて、その横には赤い色で細身の年老いたトランスフォーマーが立っていた。

 

「アルファトライオン」

 

 オプティマスが頭を垂れると、そのトランスフォーマー、アルファトライオンは穏やかに微笑んだ。

 

「オプティマス、若き勇者よ。よくぞ来た、オメガスプリームも歓迎しているぞ」

 

 するとアルファトライオンの横の半球体の中に、顔が浮かび上がった。

 

『オプティマス司令官。ゆっくりしてゆくといい』

 

 低い声でオプティマスの来訪を歓迎するこの顔こそ、クリスタルシティを統括する都市防衛システム、オメガスプリームの外部コミュニケーション装置である。

 しかし、オプティマスはゆっくりと首を横に振った。

 

「残念ですがノンビリはしていられません。アルファトライオン、今日は避難民の安全を確認に来たのです」

 

「分かっておる。……しかし、お主の中に悩みが見える」

 

 見透かすようなアルファトライオンの言葉に、オプティマスは一瞬目をそらす。

 

「……オールスパークの件か」

 

「……はい」

 

 根負けしたように、オプティマスは語り出した。

 

「オールスパークを宇宙に放逐することは、あの場では最善だと私は考えていました。……しかし、終わってみれば、果たしてあれが本当に正しかったのか、自身がなくなってきたのです」

 

 その言葉はオプティマスが滅多に見せない弱音だった。

 仲間たちの前でなく、アルファトライオンの前ならばこそ吐露することができた。

 アルファトライオンは、オプティマスにとって育ての親に当たるのだから。

 

「私は、……私は、この世界に致命的な傷を与えただけなのではないかと……」

 

 弱々しい声のオプティマスに、アルファトライオンは優しくその肩に手を置く。

 

「オプティマス。メガトロンがオールスパークを手に入れれば、必ずよからぬことに使っただろう。おまえは侵略の危機から、あらゆる生命を守ったのだ」

 

「……そうなのでしょうか? これは正しい選択だったのでしょうか?」

 

「それは儂には分からん。お主自身が答えを見つけねばならんのだ」

 

 優しくも厳しい言葉に、オプティマスは項垂れる。

 

「まあ、ここにいる間くらいは、肩の荷を下ろしてゆっくりするといい。ここにはお主にとって懐かしい顔ぶれもおる」

 

「……はい」

 

  *  *  *

 

 先にも述べた通り、ここクリスタルシティは非戦闘員の避難場所でもある。

 高く分厚い外壁に加え、オメガスプリームの操る戦車やガードロボットに守られたこの地は、鉄壁の防御を誇り避難民に安全を約束していた。

 それでも有事に備え、いくらかの戦闘員が常駐している。彼らは日夜、このクリスタルシティを守るために働いているのである。

 しかし、彼らにも休息は必要だ。

 そんなワケで、クリスタルシティ防衛隊の隊長、エリータ・ワンは休日を取っているのである。

 

「……ふう」

 

 エリータ・ワンは紫のボディが特徴的な細身の女性型オートボットで、真面目な性格をしている。

 それゆえに、部下からは根を詰め過ぎないかと心配されているのだ。

 

「無用な心配だと思うんだけどな……」

 

 自分は仕事が趣味みたいなものだし。

 それでも、部下が気遣ってくれるのは嬉しい。

 なので、お言葉に甘えて休むことにした。

 少しだけセンサーの感度を落とし、周りからの情報を最低限にしてリラックス。ブレインサーキットを休める。

 しばらくそうしていたが、ふと自分の横に立つ影に気が付いた。

 部下が呼びにきたのだろうか?

 そう思いそちらにセンサーを向けると、そこには赤と青のカラーリングの大柄なオートボットが立っていた。

 エリータはそのオートボットの存在に驚くと同時に嬉しくなった。

 

「オプティマス」

 

「やあ、エリータ」

 

 二人はどちらともなく、照れたように微笑み合う。

 親密な空気が二人の間に漂っていた。

 

  *  *  *

 

「久し振りね。最後にあったのはいつだったかしら?」

 

「確か、ターンの戦いの後だから…、だいたい3デカサイクルくらいかな」

 

 オプティマスとエリータは並んでクリスタルシティの小道を歩いていた。

 やがて二人は、ある建物の前に到着した。

 

「さあ、入って。ここが私の部屋よ」

 

「ああ、では遠慮なく」

 

 部屋に入ると、そこは片付いたこざっぱりとした部屋だった。

 女性の一人暮らしにしては、物が少なすぎるとも言える。特に娯楽と言える物が何もない。

 

「相変わらず娯楽の類は苦手かい?」

 

「ええ、それより仕事をしてるほうが楽しいわ」

 

 快活に笑うエリータに、オプティマスは苦笑する。

 昔から彼女はそうだ。自分に輪をかけた真面目ぶりで周囲から一目置かれる努力のヒト。

 

「はっはっは、さすがはエリータだ」

 

「ふふ、そう言うあなたこそ……」

 

 エリータは、オプティマスの目をじっと見る。

 

「疲れてるでしょ?」

 

「……ああ、最近いろいろとあったからな」

 

 図星を突かれ、言葉を濁すオプティマス。

 そんな彼に、エリータは慈愛に満ちた笑みを浮かべる。

 

「それなら、少し休んでいきなさいな。ここにならあなたを傷つける者はいないわ」

 

 その言葉に、オプティマスは困ったような顔になるが、やがて根負けしたようにフッと微笑んだ。

 

「……そうだな。そうさせてもらおう」

 

 そう言って、椅子に腰かけるオプティマス。

 

「何か作るわ。あなたは少しノンビリしていて」

 

 エリータは、軽い料理でも作ろうと台所に立とうとするが、その背にオプティマスが声をかけた。

 

「ああ、エリータ。気を遣わせてすまない。君は私にとって最高の……」

 

 その言葉に、エリータのオプティックが微かに期待するような輝きを帯びる。

 

「最高の『親友』だ」

 

 堂々と言い放つオプティマス。

 エリータは少しガックリと肩を下げた。

 たまには言い返してやろうかと振り向くと、オプティマスはスリープモードに入っていた。

 

「……はあッ」

 

 大きく排気して座ったまま動かないオプティマスに近づき、その顔をそっと撫でる。

 深く眠っている。本当に疲れていたのだろう。

 サイバトロンとオートボットの未来。あらゆる生命の自由と平和。

 彼が背負う責任はあまりにも大きすぎる。

 一見すると、オプティマスはその重圧に見事耐え抜いているように見える。

 だが、エリータは知っている。

 彼が本当はディセプティコンを傷つけることさえ躊躇うほど、繊細で優しく……、そして、孤独だということを。

 

  *  *  *

 

 オートボット総司令官オプティマス・プライム。

 その出自は謎に満ちている。

 

 なぜなら、彼は『孤児』なのだから。

 

 かつてのある日、宇宙から一つのポッドが惑星サイバトロンに降ってきた。

 その中に入っていた者こそ、幼少のみぎりのオプティマスだった。

 このことは、彼が通常のサイバトロニアンのようにオールスパークの力によって生まれたのではなく、まったく別の方法で誕生したことを示していた。

 最初に彼を発見したのは、歴史学者アルファトライオンだった。オプティマスにとって幸運なことに、彼はこの異星の孤児を自分の養子として育てることにしたのだった。

 幼少のころから多彩な才覚を示し、アルファトライオンから愛情を注がれてすくすくと育ったオプティマスだったが、他の皆と違う出生であるという事実は、彼の心に暗い影を落としていた。

 それでも、歪むことなく真っ直ぐに育ったオプティマスが養父と同じ歴史に関わる仕事を選んだのは必然だった。

 首都アイアコンの公文書館で働き出したオプティマスだったが、ここで転機が訪れる。

 彼に、プライム王朝のCNAが流れていることが判明したのだ。

 プライム王朝の子孫はセンチネル・プライム以外に残っていないはずだったのだから、オートボット首脳陣は上へ下への大騒ぎだった。

 結局、オプティマスをセンチネルの弟子として迎え入れるということで話は落ち着き、オプティマスは次期プライム候補としての道を歩み出したのである。

 ここで出会ったのが、親友にして後の最大の宿敵である若き日の破壊大帝メガトロンであり、後に部下として彼を支えることになる友人たちであった。

 他ならぬエリータ・ワンもその一人だ。

 

  *  *  *

 

 あの頃から、オプティマスの苦悩は膨らむ一方だ。

 一度は兄弟と思い合ったメガトロンの裏切り。

 師であるセンチネル・プライムとの死別。

 そして周りからの過度な期待が、彼に果てしない苦悩と孤独をもたらしている。

 

「親友、か……」

 

 エリータはスリープモードのオプティマスの横に腰かけ、一人ごちる。

 

 ――どうして気付いてくれないかな。私は、こんなにあなたを愛しているのに。

 

 彼と初めて出会ったころ、その優しさに惹かれた。

 彼のことをよく知るにつれ、その孤独と苦悩を癒したいと思うようになった。

 しかし、きっと自分ではダメなのだ。

 彼の心を癒せるのは、きっと底抜けに明るく元気で、どんな困難も笑って蹴っ飛ばしてしまうような、そんな人物なのだろう。

 自分は彼を、あだ名で呼ぶこともできないのだから。

 ……もし仮に、彼をあだ名で呼ぶとしたら、何と呼ぼうか?

 

「おぷおぷ? なんか違うなあ。おぷりん? さすがにねぇ。 オプ、オプっ……」

 

「う~ん……」

 

 急にオプティマスが寝言を言い、エリータはビクッと体を震わす。

 慌ててオプティマスのスリープモードが解けていないことを確認し、ホッと排気するエリータ。

 やはり自分には、オプティマスをあだ名で呼ぶのは敷居が高いようだ。

 

  *  *  *

 

 クリスタルシティを目指すディセプティコン軍団。

 大型の空中戦艦を中心に、無数の戦闘機と飛行能力を持った者たちが空を行き、ビークルモードのディセプティコンたちが地上を進む。

 その中枢たる空中戦艦の艦橋にて、メガトロンはモニターに映る荒廃した地表を見ながら物思いに耽っていた。

 

「メガトロン様」

 

 そこへ、ショックウェーブが声をかけた。

 

「ミックスマスターを連れてまいりました」

 

 その言葉にメガトロンが振り向くと、ショックウェーブの隣に細長い手足に四枚の盾を備えたコンストラクティコンのリーダーが立っていた。

 

「ミックスマスター、参上いたしやした」

 

 鷹揚に頷くメガトロン。

 

「よろしい。ではミックスマスターよ。此度のクリスタルシティ攻略において、有益な情報を持っているとのことだったな」

 

「へい。ではまずこれをご覧くだせえ」

 

 ミックスマスターが艦橋の大型モニターの制御盤に近づきそれを操作すると、モニターにクリスタルシティの見取り図が浮かび上がった。

 

「知っての通りクリスタルシティは高い壁に囲まれ、さらにその防衛システムは強固そのもの。対空砲台、戦車、防衛ロボットらに守られていやす」

 

「そんなことは分かっておる。その攻略法はないかと言うんだ」

 

 既知の情報を長々と説明するミックスマスターに、メガトロンはイライラとした声を出した。

 破壊大帝の怒りに、しかしミックスマスターはニヤリと笑ってみせた。

 

「これからが本番ですよ。あの都市の防衛システムは、ある種の酸に酷く弱いんです。そう、都市と壁を構成する超硬質クリスタルもね……」

 

 その言葉にメガトロンのオプティックがギラリと光った。

 

「その酸は、すぐに用意できるか?」

 

「普通なら無理でしょうがねえ、しかしアッシは薬品調合のプロ! クリスタルシティに着くまでには準備できますぜ!」

 

 自身たっぷりのミックスマスターに、メガトロンは満足げに笑いかけた。

 

「よろしい。しかし、ミックスマスターよ。あの都市を造り上げたのは、おまえらコンストラクティコンのはず。誤情報を流して奴らを庇おうという算段ではあるまいな?」

 

 メガトロンの疑問はもっともだった。

 かつて、サイバトロンでもっとも美しいと言われる都市クリスタルシティを建造したのは、誰あろう、ミックスマスターと仲間たちなのだ。

 対するミックスマスターは、どこか暗い笑みを浮かべた。

 

「お言葉ですが、メガトロン様。あの都市を造るために、俺らがどれだけ酷使されたか……。そして、どれだけの仲間が使い潰されたか、御存じで?」

 

 その声にはどこまでも暗い情念が込められていた。

 

「ぶっ壊れちまえばいいんだ。あんな町……」

 

 それを聞いて、メガトロンは納得した。

 クリスタルシティ、科学と文化の聖地。

 だが、その栄光は多数の労働者の血肉の上に成り立っている。

 

「よかろう。後は……、スタースクリーム!」

 

「はい、メガトロン様!」

 

 主君の呼びかけに、脇に待機していた航空参謀が進み出る。

 

「レインメーカーズを使え」

 

「奴らをですかい? 確かに奴らなら今回の作戦にピッタリですが……」

 

 口ごもるスタースクリーム。

 レインメーカーズはスタースクリーム率いる航空部隊の中の一部隊で、腕はいいのだが人格のほうに大いに問題のある者ばかりなのだ。

 しかし、メガトロンは口角を吊り上げる。

 

「レインメーカーズなら、この『汚れ仕事』でも嬉々として実行するだろう?」

 

「まあ、そりゃあ……」

 

 いかにディセプティコンが戦闘と破壊を至上とする軍団であっても、非戦闘員を攻撃するのに抵抗のある者は多い。

 しかし、人格破綻者揃いのレインメーカーズならむしろ喜んで引き受けるだろう。

 

「加えまして、メガトロン様」

 

 そこでショックウェーブが発言した。

 

「コンストラクティコンには、試験的にある特殊な機能が組み込んであります。論理的に考えて、それを上手く利用すればクリスタルシティ攻略はより容易になるかと」

 

「うむ」

 

 科学参謀の意見に、メガトロンは同意する。

 

「これで、スペースブリッジは我が手に入ったも同然だわい」

 

 危険に笑むメガトロン。

 クリスタルシティに破壊が迫っていた。

 




あとがきに代えてゲストの皆さん紹介

アルファートライオン
歴史学者。日本名アルファートリン。実写映画未登場だが、サイバーミッションというCGアニメで存在に触れられている。

オメガ・スプリーム
クリスタルシティの守護神。初代アニメでは巨大なトランスフォーマーだったが、ここでは都市を護る防衛システムとして登場。実写映画未登場。

エリータ・ワン
クリスタルシティ防衛隊の隊長である女性型オートボット。実写映画では、アーシー三姉妹の一人として登場したが、ここでは一人のトランスフォーマーであり、体の大きさも結構なもの。
初代アニメではオプティマスことコンボイ司令官の恋人だったが……

続きは近日中に更新予定。

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