超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION   作:投稿参謀

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第34話 人造トランスフォーマーの誕生 part2

 ホイルジャックとネプギアの手によって誕生した人造トランスフォーマー、スティンガー。

 バンブルビーへの嫉妬からくる衝突など、紆余曲折あったものの、スティンガーはオートボットの仲間となったのだった。

 

  *  *  *

 

 プラネテューヌ市街の公道。

 何台もの車が走るここを、二台のスポーツカーが他の車を追い抜きながら疾走していた。

 一台は黄色に黒のストライプ模様のスポーツカー、もう一台は赤いスーパーカーだ。

 言う間でもなく、ビークルモードのバンブルビーとスティンガーである。

 二台、いや二人は競い合うように猛スピードで走っていく。

 

『どうですか! スティンガーはバンブルビーより速い!』

 

「『甘いな坊や!』『大事なのはテクニックさ!』」

 

 張り合うバンブルビーとスティンガー。

 前回の決闘を経て一応は和解した二人だったが、こうして他人の迷惑にならない範囲で競い合っているのである。

 と、二人の通信機に連絡が入った。

 

『こちらオプティマス、プラネテューヌ郊外の発電所にディセプティコンが現れた! 近くのオートボットはただちに急行せよ! 繰り返す……』

 

「『どうやら』『レースは』『終了のお知らせ』『だな』」

 

 総司令官からの通信を受けて、バンブルビーは真剣な(ラジオ音声だけど)声を出す。

 

『分かりました。スティンガーは初陣というものにワクワクしています』

 

 スティンガーは少し浮かれた調子だ(電子音声だけど)。

 

「『戦場はゲームとは違うぜ?』」

 

 そんな暫定弟分を諌めつつ、オプティマスに自分たちが向かう旨の通信を飛ばすバンブルビー。二人は現場に向けて走り出した。

 

 常に張り合っているバンブルビーとスティンガー。保護者役のネプギアなどはもっと仲良くなってほしいと考えているのだが、オプティマスやアイアンハイドに曰く、男兄弟なんてそんなもんなのだそうな。

 

  *  *  *

 

 そして、ここがプラネテューヌ郊外の発電所である。

 それほどの規模ではないものの、結構な発電量を誇るここに、ディセプティコンのブラックアウトとグラインダーが襲撃してきていた。

 職員たちはこういうときのためのガイドラインに従い速やかに避難済みである。

 ヘリ型の兄弟は、箱型の機械を並んだ発電機にとりつけ電力を奪う。

 この箱型の機械こそ、科学参謀ショックウェーブが開発したエネルギー吸収装置である。見た目より遥かに大きな、それもあらゆる種類のエネルギーをトランスフォーマーに接種できる物に変換した上で貯蔵できる優れものである。

 手早くエネルギーを奪うブラックアウトとグラインダーだったが、何かに気付いて武器を構える。

 

「来たか…… グラインダー、今回の作戦は分かってるな?」

 

「ああ、兄者」

 

 二体が建物の外へ出ると、発電所の敷地にビークルモードのバンブルビーとスティンガーが走り込んできたところだった。

 二人はディセプティコンの姿を認めると、それぞれロボットモードに戻る。

 スティンガーの変形方法は特殊で、いったん粒子状に分解してから体を再構成するというものだった。これにはブラックアウトとグラインダーも驚いた様子だ。

 

「『何度見ても慣れないな』」

 

『そう言われましても……』

 

 何回か見たバンブルビーだったが、この変形だけはどうもシックリこない。

 ホイルジャックとネプギアが、女神の変身から着想を得て開発したらしいが、女神たちは驚くと同時に微妙な顔になったものだ。

 

「『まあいいや』『いくぜ!』『油断するなよ若造!』」

 

 その声とともに、バンブルビーはブラスターを発射する。

 

「応戦だ! モンスターども、来い!」

 

 ブラックアウトとグラインダーも撃ち返し、さらに機械系モンスターを呼び寄せた。

 スティンガーは果敢にモンスターをブラスターで撃ち、さらに迫りくるモンスターを回し蹴りで叩き落とす。

 そこに地中から飛び出したスコルポノックが飛びかかってきたが、スティンガーは体を粒子に分解することで突進をかわす。

 スティンガーは粒子の姿のまま空中を飛びまわり、ブラックアウトとグラインダーの後ろに回り込むとロボットモードに戻り回し蹴りを二体に叩き込む。

 

「ぐお!」

 

「ガッ……!」

 

 たまらずよろけるブラックアウトとグラインダーだが、素早く体勢を立て直しスティンガーにローターブレードで斬りかかる。

 だが、スティンガーはまたしても粒子に分解してバンブルビーの隣に飛んでくる。

 

『どうです?』

 

「……『やるじゃん』」

 

 モンスターをひたすら打ち倒していたバンブルビーは舌を巻く。

 

「『だが』『まだまだ甘いな』」

 

 そう言ってスティンガーの背後に迫っていたスコルポノックをブラスターで撃つ。

 

「『最後まで』『油断しないのは』『鉄則だぜ?』」

 

『……むう』

 

 唸るスティンガー。

 なんだかんだでバンブルビーは歴戦の勇士。悔しいが学ぶべきことは多い。

 二人は再度ディセプティコンと向き合う。

 

「『どうだ見たか!』」

 

『あなたちなど敵じゃありません!』

 

 勝ち誇る二人。

 

「クッ! 舐めるなよ! 我ら兄弟の力を……」

 

 怒るブラックアウトだが、オプティマスをはじめとしたオートボット戦士たちが到着してきた。これはとても敵わない。

 

「兄者、ここは引こう。……作戦は成功した」

 

「……そうだな」

 

 弟の進言に兄は不承不承ながら頷き、スコルポノックを回収して大型ヘリに変形して飛び去る。

 

「……『逃がしたか』」

 

『ディセプティコンはスティンガーに恐れをなして逃げ出しました!』

 

 残念そうなバンブルビーに対し、スティンガーは初陣での勝利にはしゃいでいる。

 

「やれやれ、どうやらタッチの差で活躍しそこねたようだな」

 

「バンブルビーにスティンガー、御苦労だった。二人とも大活躍だったようだな」

 

 到着したラチェットがビークルモードのままぼやくと、オプティマスはロボットモードに戻ってバンブルビーとスティンガーを労う。

 

『はい、司令官! スティンガーは大活躍でした!』

 

「『まあ』『ルーキーにしては』『なかなかかな』『調子にはのるなよ』」

 

 素直に喜ぶスティンガーと、それをたしなめるバンブルビー。その姿は本当に兄弟のようだ。

 そんな二人を見て、オプティマスはどこか感慨深げに頷くのだった。

 

 スコルポノックが突撃してきたとき、小さな虫のような物が飛び出して、スティンガーに取りついたことには誰も気づかなかった。

 

  *  *  *

 

 毎度おなじみオートボット基地は、ホイルジャックのラボ。

 ネプギアはリペア台に横になったスティンガーの整備をしていた。

 

「う~ん…… やっぱり粒子変形は体の構造に負担がかかるのかな?」

 

 内部回路を調整しながら、ネプギアは声を出す。

 

「そうね。でも通常通りの変形だと、今の技術じゃ不可能だし……」

 

 それに応じたのはいまやオートボットの協力者となったアノネデスだ。

 

「これからの課題だな」

 

 ホイルジャックもそれに頷く。

 三人してああでもないこうでもないと話し合う。種族も年齢も異なる三人だが、なんだかんだで技術者同士波長が合うのだろう。

 その時、スティンガーの装甲の隙間から小さな虫のような物が姿を現し、三人がよそ見をしている内に赤いロボットの体から離れる。

 話を終えたネプギアは横になっているスティンガーに微笑みかけた。

 

「スティンガー、今日の戦いはどうだった?」

 

『大活躍でした! ネプギアにも見せたかったです!』

 

 子供のようにはしゃぐスティンガーにニッコリするネプギア。

 

「ギアちゃんたら、なんだか本格的にママが板に着いてきたわね」

 

「ああ、微笑ましい限りだ」

 

 それを見て、アノネデスとホイルジャックも笑う。スティンガーからは親と見られていない二人だが、二人のほうからは親心に近いものがあった。

 

「よし、これで整備は終わりだ! どこも異常無しだよ! あとはスリープモードになって体を休めるといい」

 

 そうこうしているうちにホイルジャックがスティンガーの整備を終えた。

 

「それじゃあ、スティンガーちゃん、お休みなさいね」

 

「スティンガー、また明日!」

 

 アノネデスとネプギアもスティンガーに手を振る。

 

『はい、ホイルジャック、アノネデス、ネプギア、……また明日』

 

 ラボを退出する三人に挨拶をして、スティンガーはスリープモードに入る。

 それを確認したネプギアは、ラボの明かりを消すのだった。

 

 三人が完全に去ったあと、小さな虫のような物……金属製の昆虫が、一つしかない目を怪しく光らせながらスティンガーの頭部に止まり、そして装甲の隙間から内部に入り込んでいった……

 

  *  *  *

 

 深夜のオートボット基地の出入り口。

 夜勤の警備兵の横を素通りし、止める間もなく赤いスーパーカーが走り去って行った。

 

  *  *  *

 

 スリープモードから覚めた時、スティンガーは自分が眠りにつく前と変わらず横たわっていることに気が付いた。

 だが、あらゆるセンサーはここがオートボットの基地ではなく自分の知らない別の場所だと告げている。

 

 ここはいったい?

 

 発生回路を作動させるが、上手く作動しない。アイセンサーも不調らしく周りが良く見えない。

 

「ふむ、実に興味深い構造だ」

 

 と、声が聞こえた。とても穏やかな声だ。

 上手く動かない体でなんとかそちらを向くと、そこには紫の体と赤い単眼のトランスフォーマーが立っていた。

 ディセプティコンの科学参謀ショックウェーブだ。

 データ上でしか見たことのない敵の大幹部の姿に驚くスティンガー。

 だが、ショックウェーブはスティンガーに構わず、右腕の器具を機械に接続して何か作業を続ける。

 気付いていないのだろうか? だとしたら好都合だ。

 体を動かそうとするスティンガーだったが、動かない。全身にコードが繋がれているのだ。無論、頭にもコードが繋がれている。

 

「しかし、このロボットの構造は素晴らしいが、頭脳回路はこの上なく論理的ではないな」

 

 そう言って左手でコンソールを操作する。

 嫌な感じがする。

 

「信じがたいほど無駄が多い。不必要な機能と記録を削除してしまおう」

 

 ……!? 何を言っているんだ!?

 

 不穏な言葉に、スティンガーは身をよじって拘束をはずそうとする。だがパワーユニットを切られているらしくビクともしない。

 

「記録、削除開始」

 

 その言葉とともに、スティンガーの記憶回路の中身が消されていく。

 仲間たちの顔が、思い出が、消えていく。

 

 嫌だ嫌だ嫌だ!!

 

 必死に叫ぼうとするが声さえ出ない。

 最後まで残っていたのは、ネプギアとバンブルビーの……

 

 嫌だぁああああ!!

 

「このような無駄な情報で記憶容量を圧迫するなど、まったくもって理解しがたいな」

 

 ショックウェーブは穏やかな声で言うと、作業を再開する。

 この無駄だらけの『兵器』を完璧な物にするために。

 

  *  *  *

 

 スティンガーが失踪してからすでに三日がたっていた。

 オートボットたちの必死の捜索にも関わらず、その行方はようとして知れない。

 ネプギアはすっかり落ち込んでしまい、バンブルビーも沈んでいる。

 

「しっかりしなよネプギア! そのうち帰ってくるって!」

 

「そうだよ~。あきらめちゃダメだって~」

 

「ありがとう、お姉ちゃん、プルルートさん……」

 

 捜索の最中もネプギアをなぐさめるネプテューヌとプルルートだが、ネプギアは浮かない顔のままだ。

 それもしかたがない、スティンガーがネプギアを母と慕うように、ネプギアもスティンガーを子供のように思っているのだ。

 三人はプラネテューヌの街を捜索し続ける。

 

  *  *  *

 

 バンブルビーはプラネテューヌの町並みを一人、ビークルモードで走っていた。無論、突然消えた弟分を探して。

 

 あいつ、ネプギアに心配をかけやがって…… 絶対に見つけ出して殴ってやる!

 

 バンブルビーは思考しながらセンサーを働かせる。

 だが、求める相手は見つからない。

 と、そこへオプティマスから通信が入った。

 

『オートボット、応答せよ!』

 

 こちらバンブルビー、どうしました司令官?

 

『バンブルビーか。すまない、スティンガーの捜索はいったん中止だ。発電所がディセプティコに襲撃されている。すぐにネプギアたちと合流してくれ』

 

 これもオートボットの務めだ。仕方がない、と思考し了解の旨を伝えネプギアたちを拾うために走り出した。

 

  *  *  *

 

 再び発電所、ここは今、懲りずに現れたブラックアウトとグラインダーに襲われていた。

 前回と同じようにキューブ型機械でエネルギーを奪う二体のヘリ型ディセプティコン。

 そしてやはり同じように、オートボットが駆けつけてきた。

 しかし今回はバンブルビーだけでなく、オプティマス、ネプテューヌ、ネプギア、プルルートもいっしょだ。

 さらに珍しいことにホイルジャックが出撃してきている。その運転席にはアノネデスまでもがいる。二人もまた スティンガーを探していて、その途中で駆けつけたのだ。

 オートボットたちは女神を降ろすと、ロボットモードに変形する。

 

「そこまでだ、ディセプティコン! おとなしく降伏しろ!!」

 

 オプティマスがイオンブラスターを手に、警告した。もちろんそれで大人しく降参するディセプティコンではない。

 

「あーもう! 空気の読めないヒトたちだね!」

 

 ネプテューヌも大事なスティンガー探しを中断させられておかんむりだ。ネプギアに至っては言わずもがな、すでに女神化し武器を構えている。

 

「来たなオートボットに女神ども! 今回は前とは違うぞ!!」

 

 ブラックアウトのその言葉とともに、どこからかバンブルビーに向かってエネルギー弾が飛んできた。バンブルビーはすんでのところでそれをかわすが……

 

「『この攻撃は……!?』」

 

 バンブルビーは驚愕していた。攻撃されたことにではなく、その攻撃のエネルギーパターンにおぼえがあったからだ。

 

 そんな馬鹿な!?

 

 慌てて弾の飛来した方向を見ると、案の定そこには立っていた。

 

 バンブルビーと同サイズのボディ。

 赤いカラーリング。

 蜂を思わせるバトルマスク。

 バンブルビーの弟分、そしてネプギアの子供である人造トランスフォーマー。

 スティンガーがそこにいた。

 

「スティンガー!」

 

 ネプギアが心配そうな声を上げてスティンガーのもとへ飛んで行こうとする。

 

「ギ…ア…!『駄目だ!』『様子がおかしい!』」

 

 だがそれをバンブルビーが制止した。

 いきなり攻撃してきたのもそうだが、雰囲気が以前とまるで違う。

 

 何なんだ、この空虚さは!? まるで人形だ!

 

 対峙したスティンガーの体からは意思と言うものが、まったく感じられなかった。

 不気味に思うバンブルビーをよそに、スティンガーは再びブラスターを発射する。

 ネプギアに向けて。

 

「やめて! スティンガー!」

 

 それを障壁で防ぎ、悲痛な声を上げるネプギアだが、スティンガーはかまわずに攻撃を続ける。

 そこへ、バンブルビーが殴りかかった。その拳を苦も無く受け止めるスティンガー。

 

「『てめえ!』『何してやがる!』」

 

 ネプギアはおまえの大切な存在じゃないのか!

 

 ラジオ音声と通信で呼びかけるが、スティンガーは反応しない。

 

「無駄なことだ」

 

 組み合うバンブルビーとスティンガーに、どこからか穏やかな声がかけられた。

 赤い単眼に紫の体、いつの間にか近くにショックウェーブが現れていた。

 

「ショックウェーブ……!」

 

 ドレッズと撃ち合っていたオプティマスが憎々しげにその名を呼ぶ。

 

「無駄って…… どういうことですか!?」

 

 科学参謀の聞き捨てならない言葉に、ネプギアが声を張り上げる。

 それに対し、ショックウェーブは穏やかに答える。

 

「言ったとおりの意味だ。スティンガーの記録回路から無駄なデータを削除した。感情回路もだ。スティンガーは論理的な兵器に生まれ変わったのだ」

 

 その言葉に、オートボットと女神たちは絶句する。ブラックアウトとグラインダーも少し顔をしかめている。

 

「あなたは…… あなたは何てことを!」

 

 ネプギアは震える声を出しながらショックウェーブを睨みつける。だがショックウェーブは身じろぎ一つしない。

 

「君たちの設計は実に無駄が多かったからな。コミュニケーション能力は必要最低限を残して排除。余った容量は全て戦闘機能に割り振った。論理的に考えて、兵器とは合理的でなければな」

 

「そんな! スティンガーは、スティンガーは兵器なんかじゃありません! 私の…… 私の子供です!!」

 

 怒りに震えるネプギアの声に、ショックウェーブは変わらず穏やかに声をかける。まるで出来の悪い生徒に教える教師のように。

 

「子供とは、親の遺伝情報を引き継いだ個体のことだ。スティンガーは君の遺伝情報を持っているわけではない。よって、スティンガーは君の子供ではない。単なる兵器だ」

 

「そんなの! 心で繋がっていれば、立派な家族です!!」

 

「心、精神とは脳内における電気信号と化学反応の結果おこる現象に過ぎない。それに物理的な拘束力などない」

 

 狂気的なまでに穏やかなショックウェーブに、ネプギアは言葉を失う。

 

「どうやらぁ、ショッ君にはナニを言っても無駄みたいねぇ……」

 

 いつのまにやら女神化したプルルートが不機嫌そうに蛇腹剣を振るった。

 

「やっぱりぃ、体に刻み込んであげないといけないわねぇ!」

 

 自らの獲物と睨むショックウェーブに、スティンガーへの非道も相まって凄惨な笑みを浮かべて突撃していくプルルート。

 それに砲撃を撃ち込むショックウェーブ。

 

「スティンガー! スティンガー! 忘れちゃったの! ネプギアだよ!」

 

 バンブルビーと戦うスティンガーに必死に呼びかけるネプギアだが、スティンガーは意に介さず拳をバンブルビーの腹に叩き込む。

 地下から出現したドリラーに邪魔され、オプティマスたちは近づくことができない。

 振るわれる拳を必死にかわし防ぐバンブルビーだが、徐々に押され始めている。

 前回よりもスティンガーがパワーアップしているのもあるが、バンブルビーが本気を出せないのだ。

 

 やめろ! オイラはおまえを壊したくない!

 

 バンブルビーも通信で呼びかけ続けるが答えはない。

 二人とも頭では分かっていた。もう、スティンガーの記憶と人格が戻ることはないということは。

 それでも、呼びかけずにはいられなかった。

 

「論理的思考の放棄だな。愚かしい」

 

 それをプルルートと鍔迫り合いをしながら見ていたショックウェーブは変わらず穏やかに言う。だがわずかに、ほんのわずかに唾棄するような響きが混じっている。

 

「愚かなのはあんたのほうよ!!」

 

 そんなショックウェーブに向かって怒鳴り声を上げる者がいた。

 誰あろう、何とアノネデスだ。

 

「あんたねえ! スティンガーには心があったのよ! 偶然に偶然を重ねて生まれた本物の心って奴がね! それを……!」

 

 普段の飄々とした仮面を脱ぎ捨て、怒鳴り散らすアノネデス。

 

「感情は化学反応に過ぎない。それを神聖視するなど、論理性の欠片もない」

 

「やかましい! ふざけんじゃねえぞ、この論理厨が! 世の中にはなあ、論理じゃ測れないもんがあるんだよ」

 

 怒りのあまりついにオカマ口調までも返上し、アノネデスは吼える。

 それを見て、ショックウェーブは初めて明確な嘲笑らしき声を出した。

 

「有り得ない。全ての宇宙に置いて、論理を超越するのはただお一人、……メガトロン様のみだ。それ以外は全て、論理の奴隷に過ぎない」

 

「……もういいわ。ぷるちゃん、そいつギッタギタのボッコボコにしてやってちょうだい!!」

 

 少しだけ頭を冷やしたアノネデスは、プルルートに全てをまかせることにした。

 その言葉を受けて、プルルートは不敵に笑う。

 

「言われなくても、そのつもりよぉ!!」

 

 ショックウェーブの巨体を押し返し、弾き飛ばすプルルート。

 戦いは続く。

 

 一方、何とかスティンガーを無力化しようとするバンブルビーだが、上手くいかない。ネプギアも手を出しかねている。

 

「ビー! ネプギア君!」

 

 そこへドリラーの体の向こうからホイルジャックの声が聞こえてきた。

 

「スティンガーの頭脳回路に直結して、バックアップメモリーを起動するんだ! バックアップ自体は一種のブラックボックスになっていて弄れないはずだ!!」

 

「……!『了解!』」

 

 それを聞いたバンブルビーはすぐさまスティンガーに飛びかかる。だがスティンガーはヒラリヒラリとそれをかわし、組み付かせない。

 しかしそこで意を決したネプギアが援護射撃を開始した。

 

「お願い! ビー!」

 

 その隙を突いて、バンブルビーがスティンガーに組み付く。

 ネプギアは二人に素早く近づくと、スティンガーの後頭部から備え付けのコードを引っ張り出し、バンブルビーの後頭部へと接続する。

 そのままスティンガーの頭脳回路からバックアップメモリーを起動した。

 

「お願い!!」

 

 目を覚ませぇえええ!!

 

『……………バックアップは完全に削除されています』

 

 無情なメッセージが流れた。

 バンブルビーの、ネプギアの、ホイルジャックの、アノネデスの、その表情が絶望に染まる。

 スティンガーは一瞬にして体を粒子に分解して拘束を逃れた。

 

「その程度のシステムを改ざんするなど容易いことだ」

 

 皮肉なほど穏やかな声が、バンブルビーたちの絶望を煽るように響いた。

 ショックウェーブはプルルートの振るう鞭のような蛇腹剣を掴むと、そのまま振り回してプルルートの体を地面に叩き付ける。

 

「さあ、スティンガー、止めを刺せ」

 

 今や操り人形と化したスティンガーは項垂れるバンブルビーと、それに寄り添い涙を流すネプギアにブラスターの狙いを定める。

 

「も…う…ダ…メ…か…」

 

 バンブルビーは力なく呟いた。せっかくできた味方に殺されるだなんて、なんて最後だろうか。

 

「きょ…う…だ…い…」

 

 その時、スティンガーの動きがピタリと止まった。

 

『バンブルビー? ネプギア?』

 

 何が起こったのか分からないというふうに、ブラスターを下ろし戸惑った声を出す。

 

「スティンガー?」

 

 ネプギアがおずおずと声をかける。

 記憶が戻ったというのか? バックアップは完全に消されていたはずなのに……

 

 ショックウェーブは一瞬にして状況を把握した。

 論理的に有り得ないことだが、スティンガーの人格が復活したようだ。

 興味深い事例だが、論理的思考のもと敵の撃破を優先すべきと判断。

 地面に叩き付けられ意識が朦朧としているらしいアイリスハートよりも、動きを止めているバンブルビーとパープルシスターを抹殺したほうが効率がいい。

 瞬間的に右腕の粒子波動砲を二人に向け発射した。

 

『危ない!』

 

 とっさにスティンガーは二人の前へと飛び出し、飛来するエネルギー弾をその身で受けた。

 バンブルビーとネプギアには、スローモーションのように見えた。

 胸に大きな穴が開いたスティンガーが、二人の前に仰向けに倒れ込んだ。

 

「スティンガー!! いやぁああああ!!」

 

 ネプギアが悲鳴を上げ、バンブルビーがその上体を支えて起こす。

 スティンガーのバトルマスクが割れていて、中の素顔と目が合った。

 バンブルビーとよく似た顔で、同じ青いオプティックをしていた。

 

『ネ…プギ…ア…マ…マ。ママ……』

 

 もういい、喋るな!

 

 必死に通信で呼びかけるバンブルビーだが、スティンガーは最後の力を振り絞るようにして声を出し続けた。

 

『バン…ブル…ビー… 兄弟…… キョウ…ダ……イ………』

 

 腕の中のスティンガーの体から力が抜け、オプティックから光が消える。

 

「スティンガー…… いや、いやぁ……」

 

 涙を流しながら、スティンガーにすがりつくネプギア。

 もはや何も言えぬスティンガーの体をゆっくりと横たえ、バンブルビーは大きく吼えた。それは喪失からくる魂の慟哭だった。

 

「データは取れた。引き上げるぞ」

 

 ショックウェーブは興味を失ったように冷たく言うと、踵を返してドリラーの操縦席へと向かう。

 

「待ちなさい!!」

 

 フラフラと立ち上がったプルルートはその背に怒鳴る。

 

「これだけのことして、ただで済むと思ってんのぉ!!」

 

 蛇腹剣を構えなおし、危険に目を光らせるプルルート。

 だがショックウェーブは一顧だにしない。

 何も言わずに操縦席に乗り込み、ドリラーごと地中に姿を消す。

 プルルートはギリリと歯を食いしばるのだった。

 

「……兄者、俺たちも」

 

「……ああ」

 

 オプティマスと撃ち合っていたブラックアウトとグラインダーも撤退していく。

 去り際に、ブラックアウトはバンブルビーのほうを振り向いた。

 

「……すまなかったな」

 

 それは敵同士ではあるものの、同じ『兄』としての彼なりの謝罪だったのかもしれない。

 二体は大型ヘリに変形して飛び去っていった。

 

「スティンガー……」

 

 横たわるスティンガーと、その前で嗚咽をもらすネプギアとバンブルビーの周りに、オプティマス、ネプテューヌ、プルルート、ホイルジャック、アノネデスが集まってきた。皆、沈痛な面持ちだった。

 

「ねえ、スティンガー、直るよね! もともとはネプギアたちが作ったんだもん!」

 

 ネプテューヌが傍らのオプティマスに努めて明るく声をかける。

 しかし、オプティマスは目を伏せ答えない。

 

「ねえ、大丈夫だよね!」

 

 今度はホイルジャックとアノネデスのほうを見るが、二人は首を横に振った。

 

「……分からないわ。スティンガーちゃんの頭脳回路はいろんな偶然が奇跡みたいな確立で重なって成り立っていたの。だから……」

 

「仮に直せるたとしても、人格や記憶が戻るかは……」

 

 その言葉に、ネプテューヌは涙を浮かべる。

 

「……直すよ」

 

 うつむいていたネプギアは、顔を上げた。

 

「スティンガーは私が直す! 今は無理でも、いつか必ず!」

 

 強い決意を込めて、ネプギアは宣言する。バンブルビーも頷いた。

 

「『それまでは』『ゆっくり』『眠れ』きょ…う…だ…い…」

 

 きっとそれは大変な道のりだ。

 それでも、ネプギアとバンブルビーは決意を新たにするのだった。

 

 いつか、大切な家族と再会するために……

 

 




ネプテューヌVⅡの発売が近づいてきました。
なんか、色々えらいことになるようですね。

アドベンチャーはバンブルビーがリーダーとして悩む回。
オプティマスも、かつては新米リーダーとして悩んだりしたんでしょうか。

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