超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION 作:投稿参謀
結局、本編のほうが番外編より先に出来上がりました。
ある夜のオートボット基地。そのホイルジャックのラボにて。
「フフフ、上手くいったねネプギア君」
「はい! ホイルジャックさん!」
なぜか照明の点いていない暗い部屋で、オートボットの技術者ホイルジャックと、プラネテューヌの女神候補生ネプギアが何事か作業していた。
その前の作業台には『何か』が横たわっている。
二人とも目をビカビカと危険に光らせ、尋常でない雰囲気をかもしだしていた。
「……ねえ、ホントにやるの?」
あまりにも危険な様子にたまりかねたのか、第三の人物が声を出す。
ピンク色のメカニカルなスーツにオカマ口調。
オートボットとの取引で彼らに協力することになったアノネデスだ。
優秀なメカニックである彼もホイルジャックに協力しているのだ。
「いまさら何を言い出すのかね、アノネデス君!」
「そうですよ! 『これ』は科学が生み出した奇跡なんですよ!」
泡を吹きかねない勢いのホイルジャックとネプギア。アノネデスはその勢いに若干引き気味だ。
さらに横にいたラチェットが無駄だとばかりに首を横に振る。
「わ、分かったわよ…… どうなってもアタシ知らないからね」
嫌々ながらも作業に戻るアノネデス。
「よ~し、では確認だ。エネルゴン濃度……良好。トランスフォームコグ……問題なし。そして頭脳回路であるメモリーヘアバンド……極めてよし! 全機能オールグリーン! これより起動実験に移る!」
ホイルジャックの宣言に、ネプギアは目をより強く輝かせ、アノネデスは落ち着かなげな様子だ。
機械に備え着けられたレバーに手をかけ、ホイルジャックは緊張した面持ちでカウントダウンを始める。
「3、2、1……起動!」
レバーがガシャンと降ろされると、作業台に横たわる『何か』に接続されたコードに電気が走り、バチバチとそこら中でスパークする。
強い光がラボを満たし、その『何か』はゆっくりと動きだした。
「はーはっはっは! 生きてるぞぉー!!」
実験が成功したのを見てホイルジャックは満足げに高笑いするのだった。
* * *
そして翌日の昼。
オートボット基地の集会室に、各国の女神たちとそのパートナーであるオートボットが集められていた。
バンブルビーもいるが、ネプギアの姿は見えない。
「それで、いったい何の用で私たちを集めたのよ!」
そう言ったのはノワールだ。
対するネプテューヌは呑気に答えた。
「ん~? なんでもホイルジャックが何か作ったんだってさー」
あんまり興味がないのか、ネプテューヌは少し投げやりだった。
一方、オートボットたちはなにやら不安そうだ。
「ホイルジャックの発明品か……」
「またぞろ、厄介事にならなきゃいいんだが……」
ミラージュとアイアンハイドが、それぞれ苦々しい顔をしている。
戦闘凶のレッカーズに比べ、オートボット技術陣の中では良識派のような印象のあるホイルジャック。
だが彼は、昔からいろいろ作ってはトラブルを起こしているのである。
「イモビライザーの時とか酷かったもんな……」
なにやら遠いオプティックをするジャズ。
オプティマスまでもが、難しい顔している。
オートボットたちのただならぬ様子に女神たちも緊張する。
「いや~、みなさんお待たせ~!」
そんな一同の心配をよそに、本人が実に明るく登場した。傍らにはネプギアとアノネデス、ラチェットを伴っている。
「あれ? ネプギアじゃん!」
「げッ……」
それを見て不思議そうな顔をするネプテューヌと、あからさまに嫌悪感を見せるノワール。
「あ、お姉ちゃーん!」
「……はぁい、ノワールちゃん」
一方、ネプギアは元気に手を振るものの、アノネデスは力なく項垂れている。
その様子に、ノワールは違和感をおぼえた。前回会ったときはウザいくらいに騒がしかったのに。
「どうしたのよ? らしくないわね」
「ちょっと、ここにいると自分がマトモな奴のような気がしてきてね……」
「何よそれ?」
しかし、アノネデスは力なく首を横に振るだけで、それ以上何も言わなかった。
「え~、それではさっそく私の新発明の発表に移りたいと思いますが、その前に今回手伝ってくれたラチェット君、ネプギア君、アノネデス君に感謝を!」
上機嫌で口上を述べるホイルジャック。
「そして、この発明ができたことにより、我がオートボット、ひいてはゲイムギョウ界に革命的な進歩を……」
「演説はいいからー、そろそろ発明品を見せてよー!」
まだまだ喋くるホイルジャックに、ネプテューヌが文句を言う。
それを受けて、ホイルジャックはいよいよ新発明の紹介に入った。
「では、ご紹介しよう! 我が傑作! スティンガーだ!!」
すると部屋の中央の床が開き、下から何かがせり上がってくる。いつの間にこんな仕掛けを作ったのか?
出てきたのは人型のロボットだった。
赤い全身に、蜂を思わせるバトルマスクを装着した姿をしている。大きさはバンブルビーと同じくらいだ。
「さあ、スティンガー君、みんなにご挨拶しなさい」
ホイルジャックが言うと、そのロボット、スティンガーは手を胸に当ててお辞儀をした。
『初めまして。私はスティンガーです』
機械的な音声で挨拶するスティンガー。
その姿を見て、困惑気味のオプティマスがホイルジャックに問う。
「ホイルジャック、彼はいったい……?」
「それはですな司令官。彼は我々が創り出したトランスフォーマー、いわば人造トランスフォーマーなのです!」
自慢げなその言葉に、オートボットたちはさらに困惑する。
「人造トランスフォーマーだって?」
「そんなことができるのか?」
懐疑的な声を出すジャズとアイアンハイド。ミラージュも疑わしげだ。
「もちろん、スパークは持っていないがね。だが重要なのはだ。これにより我々が新戦力を作り出せるということであって……」
「しかし、ホイルジャック。それは道義に反することなのでは?」
オプティマスはやんわりと、咎めるようなことを言う。
一方、バンブルビーは興味深げにスティンガーを見ていた。
「どう、ビー? この子はあなたのデータを元にしたんだよ!」
ネプギアが笑顔を見せると、つられてバンブルビーも電子音で少し笑う。
なるほど、そう言われれば似ている気がする。
スティンガーはそれをジッと見ていた。
「ほら、スティンガー! 彼がバンブルビーだよ!」
『初めまして、バンブルビー』
そう言ってスティンガーは右手を差し出す。
バンブルビーは笑ってそれを握り返した。
なごやかに握手する一人と一体。
「『痛い!』」
だがスティンガーの握る力は異常に強く、バンブルビーの手を潰さんばかりだ。
思わず振り払ったバンブルビーは、何をするのかと赤い人造トランスフォーマーを睨む。
『申し訳ありません。パワーユニットの不具合です』
変わらず合成音声で答えるスティンガー。
「あ、あれ? そんなはずは…… ごめんねバンブルビー」
代わりにネプギアがショボンとしてしまう。
「ギ…ア…『が謝ることじゃ……』」
『ネプギアが謝ることはありません。私の責任です』
バンブルビーの言葉をさえぎって謝罪するスティンガー。
「ありがとう、優しいんだね」
『はい、スティンガーはネプギアに優しい』
笑顔になるネプギアと、それに腕を広げて答えるスティンガー。
……なんだか気に食わない。
そう胸の内で思うバンブルビーだが、あえて言葉にはしなかった。
「……まあ、しばらくは様子見だな」
オプティマスが排気とともに厳かに言うと、オートボットたちも女神たちも頷くのだった。
* * *
翌日。
バンブルビーは気分よくオートボット基地の廊下を歩いていた。
今日はネプギアといっしょにドライブに行く約束なのだ。
廊下の先にネプギアの姿を見つけ駆け寄るバンブルビー。
「ギ…ア…『やあ!』『ドライブとしゃれ込もうぜ!!』」
しかし、ネプギアは申し訳なさそうな顔をした。
「ビー、ごめん」
その言葉にバンブルビーが怪訝そうな顔をすると、赤いロボットが影から現れた。
「今日はスティンガーに街を案内することになって……」
『どうもすいません。しかし、スティンガーは人間の住まいに興味があります』
感情を感じさせない合成音声に、バンブルビーは顔をしかめる。
「『なんでさ?』『約束しただろ!』」
『スティンガーは人間を守るのが使命です。そのためには街の情報を得なければなりません』
「そういうわけだから……」
スティンガーの説明に、ネプギアがすまなそうに頭を下げる。
バンブルビーは名残惜しげに排気する。だが彼女のこういう顔は苦手だ。
「『分かった』『ドライブはまた今度で』」
「うん、またね」
ネプギアはそう言うとスティンガーを伴ってバンブルビーの前を横切る。
『……ネプギアは、バンブルビーよりスティンガーを選びました』
すれちがいさま、小さな、人間には聞こえないような小さな声でスティンガーはそう言った。
バンブルビーは驚いてそちらを向くが、スティンガーは何事もなかったかのように歩き去るのだった。
* * *
それからというものの、スティンガーはバンブルビーの行く先々に先回りするように現れた。
ある時はリペアルーム。
「ラ…チェ…ット『なんか手伝うことある?』」
「いや、バンブルビー。今は大丈夫だ。……スティンガーが手伝ってくれてるからな」
『スティンガーには、リペアのための108通りの方法がインプットされています』
またある時は訓練場。
「『司令官』『いっしょに訓練を……』」
「すまないなバンブルビー。今日はスティンガーに訓練をつけてやることになった」
『司令官と訓練できて、光栄の至りです』
さらにはプラネテューヌの教会までも。
「いー…す…ん『クエストするよ~』」
「すいませんバンブルビーさん、今さっきスティンガーさんが引き受けてくださったところで……」
『スティンガーはクエストを通じて人々を助けます』
とにかくバンブルビーの行動を邪魔するように現れるのである。
偶然かもしれない。それでもバンブルビーはその行動に何らかの意思を感じるのだった。
* * *
そして今日も、オートボット基地の一角で遊びに来たネプギアとスティンガーがテレビゲームをしている。
「わあ、スティンガーうまーい!」
『いいえ、ネプギアのほうが上手ですよ』
二人はそれは楽しそうだ。
「なんて言うか、最近のネプギア。スティンガーに掛り切りだよねー」
そんな二人を見て、同じく遊びに来たネプテューヌが笑顔で言う。
横に立つオプティマスも厳かに頷いた。
「不安もあったが皆と打ち解けたようで何よりだ」
「うん、そうだねー。……若干一名、馴染めてないヒトがいるけど」
「うむ……」
二人が振り向くと、そこには柱の影からネプギアとスティンガーを見つめているバンブルビーがいた。
「ギ…ア…『今日は』『オイラと』『出かける予定だったのに』……」
柱に指をめり込ませ、妬ましげな視線を送るバンブルビー。
「『畜生』『あの泥棒猫!』」
「あはは、だ、大丈夫だよビー、ネプギアは間違っても『サラマンダーよりはやーい!』とか言い出す子じゃないから……」
苦笑気味のネプテューヌの言葉に、しかしバンブルビーは納得いかなげだ。
「バンブルビー」
そこでオプティマスが静かに声をかけた。
「彼は生まれたばかりなのだ。多少の我が儘は勘弁してあげなさい」
その言葉に、バンブルビーは憮然とした様子で電子音を鳴らし、その場を後にするのだった。
『すいません、ネプギア。少し席を外します』
「え? うん」
それをセンサーで察知したスティンガーはゲームを中断すると席を立った。
目的を果たすために。
* * *
バンブルビーは一人、森の中をビークルモードで走っていた。
オプティマスやネプテューヌはああ言っていたが、やはり納得がいかない。
ネプギアは、自分のパートナーなのに。みんなもみんなだ、スティンガーの肩を持って……
森の中の泉のほとりまで来ると、そこでロボットモードに戻り地面に腰かける。
自分でも大人げないのは理解しているが、自分の中で落ち着かせるには時間が要りそうだった。
そのときである!
バンブルビーに向かって何者かがブラスターを撃ちこんできた。
それに気づきとっさにかわすバンブルビー。
『……かわしましたか』
それは赤い体に蜂を思わせるバトルマスク。
スティンガーだ。
「『なんのつもりだ!』」
当然の問いに、スティンガーは今まで見せたことのない、嘲笑するような音を出す。
『スティンガーはバンブルビーよりあらゆる面で優れています。バンブルビーはもう必要ありません』
それだけ言うとさらにブラスターを発射するスティンガー。
『ネプギアはスティンガーが守ります。ネプギアはスティンガーのものです』
こいつ、ネプギアに懸想してやがるのか!?
バンブルビーのブレインサーキット内に、驚愕とともに嫌悪がわきあがる。
さらにブラスターを撃つスティンガーだが、バンブルビーはそれを素早くよけるとスティンガーに飛びかかった。
スティンガーを押し倒し馬乗りになって殴るバンブルビーだったが、なぜか反撃せずに殴られるに任せている。
「ビー!」
そこへ声が響いた。
ビクリとしてバンブルビーは動きを止める。
「……何をしてるの?」
それはネプギアだった。
出て行ったバンブルビーとスティンガーを追ってきたのだ。
バンブルビーはこの人造トランスフォーマーがなぜ反撃しなかったのか気付いた。
「ギ…ア…!『違うんだ!』『これはこいつが!』」
『バンブルビーが、いきなり暴力を振るってきました』
いけしゃあしゃあと言ってのけるスティンガーの頭を、バンブルビーは思わず掴んで引き寄せる。
「『このガラクタめが!』『よくもそんなウソを!』」
「ビー!」
その顔を殴ろうとするバンブルビーを、ネプギアが制止する。
「……なんでそんなことするの?」
怒りを滲ませて、バンブルビーを睨むネプギア。
一瞬、スティンガーがバトルマスクの下で嗤ったような気がした。
バンブルビーは両者に交互に見た後、ガックリと項垂れてスティンガーの上をどく。
「帰ろう。……スティンガー」
ネプギアは黄色い情報員ではなく、赤い人造トランスフォーマーにそう言うと、踵を返して歩き出した。
『これでバンブルビーは、もう不要ですね』
またしてもネプギアには聞こえないような小さな声で、スティンガーは嘲笑する。
バンブルビーは、ギラリとそれを睨むが、何もせずに歩きだした。
その近くの木に一匹の鳥が止まっていた。その鳥は甲高い声を一つ上げると空へ飛び立った。
その鳥は金属でできていた。
* * *
「……つまり、バンブルビーがスティンガーに一方的に殴りかかったと」
「……はい」
オプティマスが問うと、ネプギアは頷いた。
オートボット基地の司令室。
今ここに、オプティマスをはじめとしたこの基地に常駐するオートボットと、プラネテューヌの女神姉妹、そしてスティンガーが集まっていた。
オプティマスの正面にバンブルビーとスティンガーが立ち、その間にネプギアが立っている。
場に雰囲気は一同の厳しい顔もあり、さながら軍事法廷を彷彿とさせた。
「しかし、バンブルビーが言うにはスティンガーから攻撃してきたそうだが?」
「…………」
総司令官の問いにネプギアは沈黙する。
「では、どちらかが嘘をついていることになるな。ホイルジャック、スティンガーは嘘をつくことができるのか?」
「あー、まあ、事実を意図的に隠し、誤情報を伝えることぐらいはできるかな? しかしこの場合ある程度の知能を持たせた結果の当然の帰結で……」
「つまり、つけるんだな」
長々と語るホイルジャックの言葉を要約した後で、オプティマスは並んでいる三人を見る。
「君の意見を聞こう、ネプギア。二人の内、どちらが嘘をついていると思う?」
「私は……」
どこか厳しい響きのオプティマスの言葉に、ネプギアはどこか躊躇いがちに言葉を出した。
「……分かりません」
その言葉に、バンブルビーとスティンガー、両方が驚いたような動きを見せる。
「スティンガーが嘘をついたとは思えません。……でも、ビーが嘘を言う気もしないんです」
「…………分かった」
オプティマスは大きく排気すると、決断を下した。
「バンブルビー、スティンガー。二名にはこの件の真相が判明するまでの間、謹慎を命ずる。反対意見のある者は?」
誰も何も言わなかった。ネプテューヌさえも。
だが、一人だけ手を上げる者がいた。
「……何かな、バンブルビー」
オプティマスに促され、手を上げた黄色い情報員はラジオ音声ではなく通信で言葉を出した。
オイラは、そいつに『サイバトロンの掟』を則った決闘を申込みます!
「……本気か?」
「え、え? なに、どうしたの!?」
厳しい顔のオプティマスに、ざわつくオートボットたち。一方、バンブルビーの通信を聞けないネプテューヌは状況を把握できずに困惑する。
「……バンブルビーはスティンガーに決闘を申し込んだのだ。……そして掟により、その決闘に負けた者はオートボットを去らねばならない」
オプティマスの説明に、ネプテューヌとネプギアは目を見開く。
「そんな! そんなの酷いです!」
「そうだよ! 追放だなんて、そんな大事にしなくてもいいじゃん! もっと穏便に……」
口々に異議を申し立てる女神姉妹だが、オプティマスは頑として受け入れない。
「駄目だ。これはオートボット戦士の誇りある掟なのだ。そしてスティンガーよ、この申し出を受けるか?」
強く厳しいオプティマスの問いに、スティンガーは一瞬体をビクッと震わせる。
「答えよ、スティンガー! おまえはバンブルビーと決闘するのか!」
動揺して答えられないスティンガーにバンブルビーが通信を飛ばす。
逃げるなよ、臆病者。
その声なき声に、スティンガーはバトルマスクの下で憎々しげに顔を歪める。
『……いいでしょう。お受けします!』
そしてバンブルビーとスティンガーは向き合った。
『スティンガーがバンブルビーより優れていると証明して見せましょう!』
* * *
「ま~ったく、さあ! オプっちも頭固いよね! 『これはオートボット戦士の誇りある掟なのだ』なんて言っちゃってさー!」
基地の廊下を歩きながら、ネプテューヌは不満を漏らしていた。その後ろを、ネプギアとスティンガーが歩いている。
と、ネプギアがスティンガーを見上げて声をかけた。
「……あのね、スティンガー。バンブルビーのこと、怒らないであげてね。きっと何か誤解があるんだよ」
その言葉に、スティンガーは驚愕する。
あれだけやって、まだあのバンブルビーのことを信じているのか?
「バンブルビーもスティンガーも出て行かなくてすむよう、オプティマスさんに言ってみるから……」
絞り出すようなネプギアの言葉を、スティンガーはもう聞いていなかった。
この機会に、ネプギアに近づくあの旧式を叩き潰してやる!
* * *
そして、決闘当日。
基地近くの平原に、オートボットたちと女神たちが集まっていた。
「……それで、なんでこんなことになったわけ?」
「いや、わたしにもよく分からないんだよね……」
ノワールが少し不機嫌そうにたずねると、ネプテューヌは戸惑いがちに答えた。
「……わたしはネプギアをめぐって、二人の男が激突するって聞いたけど?」
「まあ、ネプギアちゃんも隅に置けませんわね」
ブランとベールはどこか呑気に話していた。
「では、『サイバトロンの掟』について説明する」
対面するバンブルビーとスティンガーを見回し、オプティマスが厳かに口を開く。
「両者は、持てる力の限りを尽くして戦うこと! そして何者の力も借りず自分自身の力で戦い抜くこと! そして敗れた者は潔くオートボットを去るのだ!」
その言葉にバンブルビーとスティンガーは頷く。
「バンブルビー、スティンガー……」
そんな二人を見て心揺れるネプギア。
結局、自分の願いが聞き入れられることはなかった。
オプティマスは総司令官としての厳しい顔を見せたのだ。
それが、どういう結末を呼ぶか、ネプギアには見当もつかなかった。
「では二人とも、……はじめ!」
オプティマスの合図とともに、二人は右腕をブラスターに変えて撃ち合う。
飛び交う光弾。だが二人とも素早く動いてそれをかわす。
鏡写しのように同じ動作で岩陰に隠れると、同じように顔を出して再度撃ち合う。
「『当たらなければどうということはない!』」
『それはどうでしょうか?』
バンブルビーの肩にスティンガーの放った光弾が命中した。
「『グッ……』」
『スティンガーには、よりよい照準装置が搭載されています!』
ほくそ笑むスティンガーに、バンブルビーは状況を打開するべく岩陰を飛び出し走り寄っていく。スティンガーは射撃をやめそれを迎え撃つ。
「『うおおおお!』」
『フッ!』
四つに組み合う両者。最初は拮抗していたが、やがてスティンガーが押し始める。
『スティンガーのパワーユニットはより優秀です! バンブルビーは、もう旧式です!』
「『黙れ!』『このパチモノが!』」
『聞き捨てなりませんね! この時代遅れのガラクタ!』
「『言ってろ!』『模造品!』」
口汚く罵り合う二人は、いったん距離を取ってから殴り合いに以降する。
『スティンガーにはカラテ・プログラムがインストールされています! バンブルビーでは勝てません!』
鋭いパンチを繰り出すスティンガー。
だがバンブルビーはそのパンチを潜り抜け、スティンガーの顎にフックを入れる。
『ぐおうッ……!』
「『性能の差が勝敗を決めるわけではないことを教えてやる!』」
反撃しようと、バンブルビーに拳を振るうスティンガーだったが、それを屈んでかわしたバンブルビーはさらに足払いをかける。
『うぐッ!』
「『どうした? 新型!』『もう息が上がったのか?』」
『まだだ!』
バンブルビーの挑発に激昂したスティンガーは素早く立ち上がり、さらなる攻撃をかけようとするが、それよりも早くバンブルビーの回し蹴りがスティンガーの胴に叩き込まれる。
『がッ! な、なぜだ? スティンガーのほうが性能は上のはず……』
「『こちとら』『お師匠様』『たちに』『みっちり仕込まれてるんでね!』」
バンブルビーはただの斥候ではない。歴戦のオートボット戦士たちから戦いの妙義を叩き込まれたエリートなのである。
加えて、彼はすでに幾多の激闘を潜り抜けている。
その経験値の差が、ここに来て如実に出ているのだ。
「『どうやら』『不用品は』『おまえのほうみたいだな』」
『ま、まだだ…… まだ!』
それでもスティンガーはバンブルビーに飛びかかる。
だが、バンブルビーは冷静だった。
その捨て身の攻撃にカウンターの要領で右拳を当てると同時にブラスターを発射、スティンガーの体を吹き飛ばす。
『ぐわぁあああッ!』
「『終わりだ!』」
さらにダメ押しとばかりにもう一発、ブラスターの弾をスティンガーの体に命中させる。
宙を舞ったスティンガーは地面に仰向けに落ちて動かなくなった。
「『コピー商品は嫌いでね!』」
少し気障にブラスターの硝煙を吹き消すような動作をし、倒れたスティンガーに背を向ける。
だが……
『ま…… まだだ、まだまだまだぁ!』
スティンガーはヨロヨロとしながらも立ち上がり、バンブルビーに殴りかかってくる。
そのガッツに、バンブルビーは驚く。
「『しつこいぞ』」
だがその弱々しい攻撃にバンブルビーを傷つける威力はなく、反対にバンブルビーが放った回し蹴りで、スティンガーはまたも倒される。
「『今度こそ』『終わりだ』」
だが、スティンガーはまたしても立ち上がろうとする。
『ま……だ。ま、だ』
もう見てられないとネプギアをはじめとした女神が駆けよろうとするが、それをオプティマスが手を上げて制した。
「なんでですか! それも掟だからですか!」
「そうだ。二人は己の力のみで戦うと誓った」
ネプギアがいつにない怒りを見せてオプティマスを見上げるが、オプティマスは冷厳とすら言える態度を崩さない。
ネプギアのみならず、他の女神たちも非難するようにオプティマスを見る。
だが、オプティマスはそれ以上何も言わず、またオートボットたちもそれに不満を言う様子はない。
まだ立ち上がるスティンガーに、バンブルビーは複雑な気分だった。
たしかにいけ好かない奴だが、必要以上に痛めつける趣味はない。
『い…やだ… いや…だ。ネプ…ギ…アと…い…っしょ…にいた…い…!』
必死なその叫びに、バンブルビーはハアッと大きく排気する。
「『そんなに』ギ…ア…『のことが好きなのか』」
『好き……です…よ…! なの…に、ネプ……ギア…は、バ…ンブル…ビー…の、こと…ばかり』
いっしょにドライブに行っても、ゲームをしていても、必ずバンブルビーの話題が出てくる。そして、そのときのネプギアは、とても楽しそうな顔をするのだ。
悔しかった、悲しかった。
「『本当に』ギ…ア…『が好きなんだな』」
『あたりまえだ! ネプギアはスティンガーの、スティンガーの!』
『スティンガーのママなんだから!!』
「…………………は…い…?」
思わず地声で聞いてしまった。
一同も面食らって目が点になっている。
「『ママ』『ですか?』」
『作ってくれたヒトなんだから、ママでしょう?』
何を当然のことをばかりに首を傾げるスティンガー。まともな口がきけるくらいには回復してきたようだ。
どうしようかと当のネプギアを見れば……
「え、ええと…… わ、私はスティンガーのママ? ママ? 結婚もしてないのに?」
混乱していた。あたりまえである。
そしてなぜかホイルジャックが照れていた。
「いや~、ということは私がパパか! しかしこの歳でパパというのも……」
『あ、なぜかホイルジャックはパパという感じがしません。ごめんなさい』
「あ~、うん。分かってたよ……」
スティンガーのバッサリした言葉に、ホイルジャックは酷く落ち込むが、誰も何も言えない。
というか、これ以上ややこしくしないでほしかったのでほっとかれた。
「ね、ネプギアがママ!? ということはわたしはオバサンに……」
ネプテューヌもショックを受けていた。さすがこの状況でボケることはできないようだ。
混乱する一同。
当のスティンガーは、何で皆が当惑しているのか分からないようだ。
「『で、』『オイラに』『いやがらせしたと』」
『だって、ネプギアときたらいつもバンブルビーの話ばっかり!』
地団太を踏むスティンガーを見て、バンブルビーは遅まきながら理解した。
ようするにコイツ、幼いのだ。
色々なデータを詰め込んであっても肝心の精神は幼児並み。
だから母親であるネプギアを独り占めしたいと考え、邪魔者である自分を追い出そうとした、ということらしい。
なんだかな~……
やったことは簡単に許せないが、張り合っていたことが馬鹿馬鹿しく思えてくる。
「『あの』『司令官』」
しょうがないとバンブルビーは審判役のオプティマス・プライムに声をかけた。
「なんだ? バンブルビー」
「『この決闘』『放棄してもよろしいでしょうか?』」
「それはできない。何者も決着がつくまで戦い続けるのが掟だ」
その答えに、場外の女神たちからブーイングが上がるが、オプティマスは厳しい表情を崩さない。
「だが、中断することはできる。……いつ再開するかは本人たちの自由だ」
シレッと、オプティマスは言った。
「それでどうする、二人とも?」
「『中断します』」
『不本意ですが、同意します。今のスティンガーでは、バンブルビーに勝てないことが分かりました』
二人の言葉にオプティマスは頷く。
「それがいい。不要な争いなど、しないにこしたことはない。……まして二人は兄弟のようなものなのだから」
「『兄弟?』」
『バンブルビーとスティンガーが?』
オプティマスのその言葉に、顔を見合わせる二人。
「そのつもりでスティンガーを作ったのだろう?」
ネプギアのほうを見て、そう問うオプティマス。
「は、はい! そうです! スティンガーはバンブルビーの弟っていうつもりで作りました! だ、だから、戦ってほしくないって……」
急に話題を振られて慌てて答えるネプギア。その答えに満足そうに頷くオプティマス。
「……『分かりました』『まだ』『納得はいかないけど……』」
『他ならぬネプギアがそう言うなら……』
バンブルビーとスティンガーは顔を見合わせる。
納得はいかない。相手を許せたわけではない。それでも、ネプギアの願いなら仕方がない。
どちらともなく、手を差し出し握り合う。
「それでいい。とりあえずは」
厳かに言うオプティマスはそこでスティンガーを見やる。
「お互いに高め合うために、競い合うのはいい。だが、卑怯な手段を使うことはオートボットの流儀に反する。よくおぼえておくように」
『……はい』
お見通しだったオプティマスに、スティンガーは素直に返事をする。
なるほど、このヒトには敵わない。バンブルビーが尊敬するのも頷ける。
「バンブルビー! スティンガー!」
そこへ、ことと次第を見守っていたネプギアが駆け寄ってきた。
「もう、二人とも! 喧嘩しちゃダメだよ! 心配したんだからね!」
ネプギアは怒っているのだが、涙目で両腕を振り上げる姿に迫力は皆無である。
しかし、バンブルビーとスティンガーには効果覿面だった。
二人はペコペコと頭を下げている。
「いや~、一時はどうなることかと思ったけど、とりあえずどっちも出ていかずに済んでなによりだねー」
と、オプティマスの足元にやってきたネプテューヌは、総司令官を見上げて声をかける。
「でもオプっち? もし、決着がついて、どっちかを追い出すことになったらどうするの?」
「そのときは、追放したうえで、改めてオートボットに迎え入れればいい。入団しなおしてはいけないという掟はないからな」
またも、シレッと言うオプティマスに、ネプテューヌは苦笑するのだった。
* * *
どこか、暗い空間。
バイザーが特徴的な銀色のトランスフォーマーと、単眼で紫色のトランスフォーマーが対峙していた。
その一方、紫のほうが赤い単眼を輝かせる。
「人造トランスフォーマーか、実に興味深い」
そんなわけでゲスト第一号は人造トランスフォーマー代表、スティンガーです。