超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION 作:投稿参謀
科学参謀も本格参戦。
プラネタワー最上階、ネプテューヌたちの生活スペース。
ここでは今、新たに現れた女神プルルートの歓迎会が慎ましいながらも開かれていた。
オートボットたちも立体映像で参加している。
テーブルにはおいしそうな料理が並べられ、グラスには飲み物が注がれている。
「あたし~、プルルート~。よろしくね~」
主賓ののんびりとした自己紹介が終わると、一同はパチパチと拍手した。
「プラネテューヌの新しい女神さん、ぷるちゃんに乾杯するです」
グラスを取ったコンパが、代表して乾杯の音頭を取る。
「ちょっとまったぁー!!」
だがその言葉に異を唱える者がいた。
ネプテューヌだ。
「こんぱぁ、それじゃあわたしがぷるるんに女神の座を奪われたみたいじゃない!」
「え? でもぷるちゃんもプラネテューヌの女神さんです……」
事態が飲み込めないのか困惑するコンパに、ネプテューヌはさらに言葉を続ける。
「プラネテューヌはプラネテューヌでも、別のプラネテューヌなんだからね!」
「えっと、つまりプルルートさんは別の次元からやってきたみたいなんです」
『そして別の次元にもプラネテューヌが存在し、プルルートはそこの女神というわけだ』
まだ頭の上に?を浮かべるコンパに、ネプギアとオプティマスが補足する。
「まあ、別の次元とかサラッと言われても反応に困りますけどね」
『『まったくだぜ』』
少し困った感じのイストワールに、バンブルビーも同意する。
「変身もできるんですか?」
ふと思った疑問をアイエフが口にする。
対するプルルートは、穏やかに答えた。
「できるよ~。でも~、あんまり変身しないようにって、みんなから言われてるんだ~」
「ええ、どうしてー?」
そう声を出したのはネプテューヌだ。
女神化は、女神の最大の力であり象徴だ。
むしろ積極的に女神化していこうとするものでは?
「う~ん? どうしてかな~?」
首を傾げるプルルート。自分でもよく分からないらしい。
ネプテューヌは次の質問を思いついた。
「あ! そう言えば、ぷるるんのいた次元にもトランスフォーマーっていたの?」
「ううん~。オプっちみたいな人たちは~、いなかったよ~」
『そうなのか』
のんびりとしたプルルートの答えに、オプティマスは納得する。
そもそも、自分たちトランスフォーマーがいるというほうがイレギュラーなのだろう。
会話を気にせず一人食事を続けていたピーシェは早々にお肉を食べ終わってしまった。
まだお腹が空いているのか表情を曇らせるが、すぐに『隣』の皿にまだあることに気づき、それを食べようとする。
「あー! ちょっとぴーこ!」
自分の皿から肉が奪われたことに気が付いたネプテューヌは、それを阻止せんとする。
「ぴぃ、おにくたべるー!」
だが、阻止ならずお肉はピーシェの口の中に消えた。
「ああ……」
「ねぷてぬには、これあげる!」
絶望するネプテューヌに対しピーシェが差し出したのは、付け合せのナスである。
それが眼前に現れた瞬間、ネプテューヌの顔色が青くなった。
「き、きゃああ! 近づけないでー! わたしナス嫌いなのー!!」
『しかしネプテューヌ。好き嫌いは良くないぞ』
喚き散らすネプテューヌに対し、オプティマスがやんわりと諌める。
「そうよ、今日は我ながらおいしくできたんだから」
調理した張本人であるアイエフも穏やかにナスをすすめてみる。
だが、ネプテューヌはナスに拒否反応を示していた。
「やだよー…… ナスなんてぇ。あの臭いを嗅いだだけで、力が抜けちゃうんだから」
それを聞いてアイエフは悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「まったく、ナスが嫌いなんて人生の三分の一は損してるわね」
『『そこまで言っちゃう?』』
からかうようなアイエフに、バンブルビーがツッコみを入れる。
「なんて言われたって嫌ーい!!」
ネプテューヌは、意見を変える様子はない。
そんな女神に、イストワールは苦笑する。
「ネプテューヌさん、女神が好き嫌いをしていては国民に示しが……あば、あばばばばば!?」
突然、イストワールが細かく振動しだした。
明らかに異常な震え方だ。
その姿にみんな心配そうな声を出す。
「イストワール様! 大丈夫ですか!?」
「祟り! ナスの祟りだよー!」
『なにかの動作不良か?』
混乱する場のなかで、ピーシェはナスを頬張ってみる。
そしてその美味しさに笑顔になる。
「プルルートねえ、また色気のないのが増えたなおい」
一人食卓から離れてソファーに腰かけたホィーリーは、少しシニカルに呟くのだった。
* * *
その窓の外、何者かがそこでネプテューヌたちの会話を聞いていた。
その何者かは邪悪な笑みを浮かべるのだった……
* * *
所かわって、ここはディセプティコンの秘密基地。その一室である。
訓練場として使われているここの中央に、メガトロンが佇んでいた。
と、突然周囲に機械系のモンスターが現れ、メガトロンに攻撃を始める。
カッとオプティックを見開いたメガトロンはその攻撃を全てさけて見せ、さらに『右腕』一本で叩き伏せていく。
その腕は肩に装甲が追加され、指は人間の物に形状が近づいていた。
新たに中型のモンスターが現れるが、メガトロンは剣状の武器デスロックピンサーを展開すると、モンスターを切り裂く。
その背に砲撃を浴びせる者がいた。四足歩行の戦車のようなモンスターだ。
だがメガトロンは振り向きざま身を反らして砲撃をかわし、右腕を変形させたフュージョンカノンを無造作に撃つ。
着弾とともにモンスターは跡形もなく消し飛んだ。
「……お見事です。メガトロン様」
そう言いつつ部屋の中に現れたショックウェーブは、恭しく頭を下げる。
「うむ。おまえの作ってくれた、この腕。なかなか調子が良いぞ」
「光栄の至り」
ショックウェーブが作成したメガトロンの新たな右腕は、以前よりも強化されており、片手でもフュージョンカノンが撃てるようになった。
また一発一発の威力こそおちるものの連射すら可能になっており、メガトロンの破壊力を助長していた。
「その腕は以前の御身の腕よりも、より威圧的、より攻撃的、そしてより破壊的な物に仕上がったと自負しております」
「フハハ、気に入ったぞ! これでオプティマスを捻り潰してやれるわい!」
ついでに雛を撫でやすい形状なので言うことなしだ。
「メガトロン! メガトロン、いるか!」
そこへメガトロンを呼ぶ声がした。
ディセプティコンの兵士ではない。彼らならメガトロンを呼び捨てしたりはしない。
メガトロンが視線を巡らすと、黒衣の女性マジェコンヌがこちらに歩いてくるところだった。
「……貴様か」
メガトロンの声は酷く冷めたものだった。視線もまたしかり。
それに気づいていないのか、あるいは気にしていないのかマジェコンヌは一方的に要件をきりだした。
「作戦を思いついた! 兵隊を貸せ!」
「馬鹿を言え」
メガトロンはにべもなく断った。
この女、厚かましいにもほどがある。
あれほどの失敗をしておいて、さらに助力を乞いにきたとは。
「この作戦なら、女神を倒すことができる! 貴様だって女神は邪魔だろうが!」
なおも言い募るマジェコンヌを、さてどうしてやろうかと思考していると……
「メガトロン様! メガトロン様、こちらですか!」
もう一つ、メガトロンを呼ぶ声が聞こえてきた。
それはキセイジョウ・レイだった。
浮遊する台座のような機械に乗ってメガトロンのもとへ飛んで来たレイは、機械を彼の前に着陸させる。
この機械は基地内での移動が楽になるようにとフレンジーたちが用意した物だ。
「レイか。何用だ?」
メガトロンはマジェコンヌに対するより少しだけ柔らかい声でたずねた。
レイは一つお辞儀をすると、奏上をはじめた。
「はい、ガルヴァちゃんの育成状況について報告とご意見が……」
「申せ」
短い答えに、レイはもう一度頭を下げる。
ガルヴァとは先日生まれたあの雛のことだ。リーダー、ボスを意味するその名はメガトロン自らの命名である。
「では。現在のところ、ガルヴァちゃんは順調に育っています。体長、体重ともに健康そのもの。ですが、みなさんがエネルゴンチップや金属片をあげるせいで、少し体内のエネルゴン濃度と金属バランスが崩れがちです。ですので……」
「おい! 私の話のほうが先だぞ! 私は女神を倒す策を提案しにきたのだ! 貴様の話は後にしろ!」
レイの報告をさえぎってマジェコンヌが声を上げた。
しばらく見ないうちにレイの雰囲気が変わっていることには気付いたが、興味はない。
そこでレイははじめてマジェコンヌに気付いたらしく、そちらに顔を向ける。
「えっと、マジェコンヌさん? それならお先にどうぞ」
素直にマジェコンヌに譲るレイ。
二人は気づいていないが、メガトロンは少し不機嫌そうである。
それでもさっさと言えと手振りで示す。
「んん! では……」
マジェコンヌは一つ咳払いすると、自分の作戦を語り出した。
その内容が進行するにつれて、メガトロンの顔が剣呑な色に染まり、やがて呆れたように脱力していった。
レイまでもが目を点にしている。
表情が変わっていないのはショックウェーブだけだ。
「どうだ、完璧な計画だろう?」
自信満々のマジェコンヌ。
メガトロンは大きく、それはもう大きく排気した。
「そんな作戦に兵隊を貸せるわけがなかろう。馬鹿も休み休み言え」
「なんだと!」
怒るマジェコンヌが、いい加減鬱陶しくなってきたメガトロンはそろそろ本気で、この黒衣の女を始末しようかと思考する。
しかし、そこで意外な人物が発言した。
「メガトロン様」
それは今まで沈黙を守っていたショックウェーブだった。
メガトロンが視線をやると、科学参謀は言葉を続ける。
「よろしければ彼女の作戦、私めが協力いたしましょう」
「……なんだと?」
思わず変な声が出た。
ショックウェーブは慇懃に頷く。
「そろそろ、女神とやらの実戦データがほしかったところです」
「むう……」
顎に手をやり、メガトロンは唸る。
しばらく黙考していたメガトロンだったが、やがて口を開いた。
「よかろう。このショックウェーブと、ついでにドレッズも貸してやる」
その言葉に満足そうなマジェコンヌ。
レイは訝しげな視線をメガトロンに送るが、メガトロンはそれ以上何も言わなかった。
* * *
場所はプラネテューヌに戻り、シェアクリスタルの間。
この場ではシェアクリスタルを挟んで二人の人物が会話していた。
「分かりました。こちらでも注意してみます」
その一方、イストワールが丁寧な調子で言うともう一方も丁寧に返す。
その人物は立体映像を使っていずこからか通信してきていた。
『お願いしますm(__)m プルルートさんだけだと頼りないですから』
立体映像の人物も……イストワールだった。
しかし、立体映像のほうは体がより小さく、容姿や声も幼い感じだ。
この場では二人のイストワールが会話していることになる。
これはいったいどうゆうことなのか?
実はこの小さなイストワールはプルルートの元いた次元に存在するもう一人のイストワール。いわば平行存在のイストワールなのである。
仮称として『あちらのイストワール』とでもしておこうか。
あちらのイストワールの話を要約すると、プルルートの元いた次元からこちらの次元へ、正体不明の大きな力が転移したことが分かった。その影響があちらの次元に現れることもあり得るので、その力を元の次元に戻すためにプルルートを送り込んだ…… ということであった。
「ただ、こちら今はいろいろと忙しいので、最優先でとはいきませんが……」
『トランスフォーマーでしたっけ? そっちも大変ですね(;´Д`)』
あちらのイストワールの言葉に、こちらのイストワールは少し苦笑する。
「ええ、でも悪いことばかりではありませんよ。オプティマスさんたちからの技術提供は魅力的ですし、なによりネプテューヌさん……こちらの女神様が少しでも仕事してくれるようになったのが……」
『な、なんですってー!!Σ(`Д´ )マヂデスカ!?』
心の底から驚愕するあちらのイストワール。
『と、トランスフォーマーといっしょにいるとそんな素晴らしいことに……』
――ああ、そういう反応ということは、そちらも似たようなものなんですね。
あちらのイストワールの反応に、思わず温かい笑みを浮かべるこちらのイストワール。
イストワール、その名を持つ者は、どの次元でも苦労人らしかった。
* * *
「……というわけで、何か変わったことがあったら、早めに報告をお願いします」
『分かった。仲間たちにも言ってパトロールを強化しよう』
イストワールの言葉に、立体映像のオプティマスは厳かに頷き、アイエフとコンパも同意を示す。
しかし、他の者はと言うとネプギアのエヌギアを奪いホィーリーを抱えて走り回るピーシェ。
そのピーシェを追いかけまわすネプギア。
なぜか裁縫をしているプルルート。
そして例によってゲームに夢中のネプテューヌ。
「……あの、みなさん聞いてます?」
そう言いたくなるも仕方がない。
「あ、すいません、いーすんさん! 聞いてます!」
そう答えたのは真面目なネプギアだ。
だが、彼女もすぐにピーシェ追跡に戻ってしまう。
「変わったことがあったらでしょー? 今んとこないよー!」
ゲーム画面から目を逸らさずに、ネプテューヌは言う。
「って! 何も見に行ってないじゃないですか!」
「ええー、オプっちたちがやってくれるんなら、いいじゃーん!」
ゲームにポーズをかけて文句を言うネプテューヌに、イストワールはまだ懲りてないのかと目を三角にし、オプティマスは苦笑した。
『そう言うな、ネプテューヌ。これも女神の仕事だろう?』
「うう…… オプっちまで……」
さすがのネプテューヌも、色々な貸しからオプティマスに言われると少し弱かったりする。
「分かったよ…… 後で行く……」
『うむ。偉いぞ』
観念したネプテューヌを見て、満足げに頷くオプティマス。
そんな女神と総司令官にちょっと苦笑気味のアイエフが発言した。
「イストワール様、私もアーシーといっしょにパトロールに行ってきます」
「いつもすいません…… アーシーさんにもよろしく伝えてください」
「はい、それでは」
丁寧にお辞儀をして退室しようとするアイエフだったが、ふと思い出してコンパのほうを向く。
「あ、コンパ。これから仕事でしょ。後ろに乗ってく?」
「わ~い! ありがとうです~!」
アイエフの申し出に、嬉しそうなコンパ。本当に仲の良い二人である。
二人が退室したところで、プルルートが嬉しそうに声を上げた。
「できた~!」
そう言って掲げるのは小さなぬいぐるみだ。
「あれ? ぷるるんそれって……」
思わず嬉しそうな声を出すネプテューヌ。
「ねぷてぬー!」
「あったり~♪」
ピーシェの歓声のとおり、それはネプテューヌの姿を模した物だった。うまい具合に特徴をとらえてデフォルメされており、とても可愛らしい。
ネプギアも黄色い声を出す。
「わあ、可愛い!」
「ホントー! わたしの持つ萌え要素が、ギュっと凝縮されてるよー!」
自分のぬいぐるみをプルルートから受け取り、ギュっと抱きしめるネプテューヌ。
『うむ。よくできているな』
オプティマスも感心している。
「いや、自分で萌えとか言っちゃうのかよ……」
と、漏らすのはピーシェに放り出されたホィーリーである。
それを無視してプルルートはニッコリと笑う。
「わたし~、お友達のぬいぐるみを作るの~、好きなんだ~」
のんびりほんわかとした様子のプルルート。
見ているほうもほんわかした気分になる笑顔だ。
「ぴぃも! ぴぃもつくって!」
「じゃあ、次はピーシェちゃんで~、その次はぎあちゃんね~」
その言葉に、ピーシェとネプギアは笑顔を大きくして拳を合わせる。
「わーい♪」
「やったね!」
「それじゃあ~、さっそく~!」
プルルートはそう言って裁縫台の上に布を広げ、鋏を握って考え込む。
「もしかすると、今からすごい職人芸が見られるのかなー」
「うん、型紙なしで、作っちゃったりして」
『楽しみだな』
期待を込めた視線をプルルートに送る一同。
だが、
「……く~」
突然、プルルートは裁縫台に突っ伏す。
「あ、あれ?」
「寝てる……」
プルルートの眠りにつく速さに、唖然とする一同だった。
* * *
偵察がてらコンパを送り届けることにしたアイエフ。
今コンパはGDCに出向中の身であり、仕事場もそちらになる。
ちなみにラチェットはオートボット基地のほうにいて別行動である。
バイク姿のアーシーに二人乗りして、道路を進む。
しかし行く手に工事中の看板が現れた。
「なんだか、今日は工事が多いわねえ」
アイエフのぼやきのとおり、先ほどから何回も工事に出くわし、そのたびに遠回りしていいるのだ。
「遅くなってゴメンね、コンパ」
「大丈夫ですぅ、あいちゃんといっしょだから、楽しいです」
詫びるアイエフに、笑顔で返すコンパ。
そんな二人にアーシーがからかうように声をかける。
「楽しいんですって。良かったわね、アイエフ。両想いよ」
「うえ!? アーシー、あんたはまた……」
「?」
顔を赤くするアイエフだが、理解できていないコンパは首を傾げる。
「も、もう! 行くわよ!」
アイエフは誤魔化すように声を出し、アーシーのエンジンを吹かす。
そうして路地を走っていると突然紫の煙が辺りを包んだ。
「これは…… アイエフ! まずいわ!」
「何!?」
急停車したアーシーはアイエフに警告する。
「催眠ガスよ! 吸っちゃダメ!」
「ッ! コンパ!」
すぐさま口を押さえ振り向くアイエフだが、コンパはすでに意識を失い、彼女の背中によりかかって寝息を立てていた。
「あっさり引っかかったな……」
そこへ、誰かが歩いてきた。
傍らに小さなモンスターを連れている。
「あんた、まさか!」
その姿にアイエフは見覚えがあった。
忘れようもない、マジェコンヌとワレチューだ。
「私をお忘れ!」
アイエフとコンパを降ろしたアーシーは、すぐさまロボットモードに変形してエナジーボウを構える。
だが、そのとき頭上から網のような物がアーシーに覆いかぶさった。
「これは……」
払いのけようとするアーシーだが、上手くいかない。
「無駄だZE! その網は特別製だYO!」
ビルの上から道路に着地したのは、ドレッズのクランクケースだ。クロウバーとハチェットもビルの上から降りてくる。
彼らが網を投げたのだろう。
「あんたたち……」
悔しげに声を出すアイエフだったが、それを最後に意識を失った。
* * *
プルルートは相変わらず裁縫台に突っ伏して眠っていた。
さらにネプテューヌとピーシェも、ソファーで肩を寄せ合って昼寝している。
「お姉ちゃん! お姉ちゃん、起きて!」
そこへネプギアが慌てた様子で駆けてきた。
「むにゃむにゃ、もう食べられない……」
「もう、ベタな夢見てないで! お姉ちゃんったらあ!」
寝言を言うネプテューヌの身体をゆするネプギア。
目を擦りながらネプテューヌはピーシェを起こさないように体を起こす。
「んん~…… なあにー、ネプギアー……」
ネプギアはエヌギアを取り出すと姉に映像を見せた。
そこには、木の柱に縛り付けられたアイエフの姿が写っていた。
「あ!? なにこれ!」
「ひど~い!」
その姿にネプテューヌとプルルートも緊迫した顔になる。
「知らないアドレスから送られてきて、地図も添付されてたの」
ネプギアの説明に、ネプテューヌはすぐさま立ち上がった。
「すぐに助けに行かないと! オプっちたちにも声かけよう!」
「うん!」
頷くネプギア。
しかし彼女の脳意には一つの疑問があった。
いったい、何者がこんなことをしたのか?
* * *
「ううん……」
アイエフが目を覚ますと、そこはどこか屋外だった。
自分は木の柱に縛り付けられている。
その前に黒衣の女性が立っていた。
「復讐の時はきた……!」
それはマジェコンヌだった。
ほくそ笑むマジェコンヌをアイエフはキッと睨みつける。
「マジェコンヌ…… やっぱりあんただったのね! コンパとアーシーはどこ!」
「ふん! 他人の心配などしてる場合か?」
「こんなことしても無駄よ! ネプ子やネプギア、オプティマスたちがあんたを倒すわ!!」
囚われの状況でも怯まないアイエフだが、マジェコンヌは余裕を崩さない。
「前回のようにはいかんぞ! 私には秘策があるのだ!」
そう言ってマジェコンヌは自分の背後を示した。
「それは、このナスだ!!」
そこには一面のナス畑が広がっていた。
どこまでもナス、ナス、ナス……
しかしこれのどこが秘策なのか?
「ナスが女神の弱点だということは調査済みだ! このナス畑でこの世の地獄を見せてやる!!」
あまりのことに絶句するアイエフ。
しかし、冷静に考えてみれば少なくともネプテューヌにとっては有効な手段かもしれない。あくまでもネプテューヌに対してのみだが。
「なにやったって勝ち目はないわよ! あんたみたいなオバサンに!」
アイエフの言葉に、マジェコンヌは眉を吊り上げる。
「黙れ、小娘が!」
そして、ニヤリと笑うとナスを取り出した。
繰り返す、ナスである。
マジェコンヌはアイエフの顔を掴み、無理やりその口にナスをねじり込みはじめた!
食べ物とはいえ、一個丸々生のままは苦しい。
「全部食え、残さず食え。人生の三分の一を損するぞ」
何とかナスを食べたアイエフは、マジェコンヌに向かって吼える。
「何すんのよ、この年増!」
「うるさい!」
その言葉にマジェコンヌはさらにナスを取り出し、アイエフの口にグリグリと押し付ける。
「ほ~れ、ナスの皮にはポリフェノールもいっぱいだぞぉ」
抵抗できずにナスを頬張るアイエフを見て嗜虐心が刺激されたのか、舌なめずりまでして嗤うマジェコンヌ。
アイエフは必死に抵抗するも、ナスは容赦なく口内を蹂躙するのだった。
* * *
「なあ……」
「ん~?」
「この作戦どう思う?」
「……馬鹿みてえだYO」
「だよなあ……」
縛られたアーシーを見張るリンダは、溜め息をつきながらアイエフとマジェコンヌを眺めていた。相槌を打ったのはクランクケースだ。
クロウバーとハチェットも呆れ顔だ。
「…………」
縛られてナス畑の中の空き地に転がされたアーシーは、憎々しげなオプティックでドレッズとリンダを睨みつける。
しかし、ドレッズはどこ吹く風だ。
「マジェコンヌの姐さん、すごい人だと思ったんだけどなあ……」
もう一度溜め息を吐くリンダ。
あのメガトロン相手にも物怖じしないし、女神を倒そうという気概は本物だ。
だが、前回に比べてもこの作戦、お粗末過ぎやしないか?
「何だよナスって……」
ガックリとするリンダと、それに釣られて項垂れるクランクケース。
「ガウ! ガウガウ!」
「来たぞ。オートボットと女神だ」
と、ハチェットとクロウバーが敵の襲来を知らせた。
その報告に、クランクケースとリンダは顔を見合わせる。
来たならしょうがない。
ドレッズとリンダは戦闘態勢に入るのだった。
* * *
女神とオートボットの接近はマジェコンヌも視認していた。
女神化したプラネテューヌの女神と、憎きその妹がもう一人……プルルートの手を掴んで飛んでくる。
あのもう一人の実力は未知数だが問題あるまい。
必勝の策に加えて奥の手もある。
「よく来たな女神! 今日こそ貴様たちを葬ってくれる!!」
「お望みなら、いくらでも相手をしてあげるわ! とにかくあいちゃんを放し……ウプッ!」
マジェコンヌの口上に律儀に答えるネプテューヌだったが、突然鼻と口を押さえる。
「お姉ちゃん! 大丈夫?」
心配そうに聞くネプギア。
いったいどうしたというのか?
答えは周りのナス畑にあった。
「だ、大丈夫よ…… ナスの臭いがちょっと……」
「フッ、今頃気付いたか」
気分が悪そうなネプテューヌを見て、マジェコンヌはほくそ笑む。
「おまえの弱点を突くために、この農園を買い占めたのだ! ここがおまえの墓場となる!!」
「馬鹿言わないで! いくらナスが嫌いでも、それでやられるわけないでしょ!!」
いくらなんでもあんまりな作戦に、ネプテューヌは思わずツッコミを入れる。
確かにいやがらせ以上のものはなさそうな策だが……
マジェコンヌは自信満々に笑う。
「それはどうかな? いでよ! 我が紫のしもべたちよ!!」
言葉とともにマジェコンヌは大量のナスを空中に向かって放り投げる。
するとナスはポンと間抜けな音を立ててモンスターへと変わった。
その外観は、ナスに手足が生えて落書きのような顔を付けたし、鳥馬に跨りキュウリ製の槍を持った……ようするにナスである。
なんとも奇抜な見た目だが、ネプテューヌには威嚇効果抜群だった。
「ああ……」
なんと、ネプテューヌの変身が解けてしまう。
ネプギア一人ではプルルートとネプテューヌ、二人分の体重を支え切れない。
必死に二人を持ち上げようとするネプギアだったが、耐え切れず二人を落としてしまう。
轟音とともに地面に衝突したネプテューヌとプルルート。
それでも、女神の頑丈さで大したダメージもなく上体を起こすが、二人にナスモンスターたちが群がっていく。
「きゃあああああ!!」
恐怖のあまり、絶叫するネプテューヌ。
危うし、ネプテューヌ!
だがその時、爆音を立てて一台のトレーラートラックが突っ込んできた。
それを見て、ネプテューヌから恐怖の表情が消え、代わりの希望が浮かぶ。
「ネプテューヌ!」
トレーラートラックから聞こえてきた声は間違えようもない。
ギゴガゴと音を立ててトラックはオプティマス・プライムへと変形した。
「大丈夫か?」
「オプっちぃ…… 怖かったよぉ……」
珍しくしおらしい態度のネプテューヌ。よほどナスが怖かったらしい。
ネプテューヌとプルルートの無事を確認したオプティマスは怒りを漲らせ、マジェコンヌを睨みつける。
「貴様…… 一度ならず二度までも、ネプテューヌたちを苦しめるとは…… もはや許せん!!」
両腕のエナジーブレードを展開するオプティマスは、手始めとばかりに周りのナスモンスターを切り裂く。
その気迫に、マジェコンヌは一瞬気圧される。
だがすぐに余裕を取り戻した。
「フッ、忘れたのか! こちらには人質がいるのだぞ!」
マジェコンヌが指を鳴らすと、どこからかドレッズとリンダが、縛られたアーシーを連れて現れた。
「あ、あなたたちは!」
ネプテューヌが声を上げた。
ドレッズとリンダは、その反応が少し心地良さそうだった。
「みんなまとめて、シタッパーズ!!」
しかし、ネプテューヌのボケっぷりは予想以上だった。
「「ドレッズだ!!」」
「リンダだっつうの!!」
「ガウガウ!!」
思わず大声で訂正するドレッズwithリンダ。
そうこうしてる間にも、クランクケースが銃をアーシーに突きつける。
「動くなYOオプティマス! この女がどうなってもいいのかYO!」
「まさか、こうも上手くいくたあ…… イケんじゃね? これイケんじゃね!」
リンダも下卑た笑みを浮かべる。
「フフフ、これでどちらが上の立場か良く分かっただろう! さあ、武器を捨てるがいい!」
ニヤリとするマジェコンヌ。
だが、オプティマスはギロリとディセプティコンとその協力者たちを睨みつける。
「……貴様らこそ、何か忘れていないか?」
その言葉に、マジェコンヌは怪訝そうな顔をする。
一方、クランクケースははたと何かに気付いた。
「他のオートボットはどうしたYO!?」
その時である!
ドレッズの後ろから黄色いスポーツカーが突撃してきた。
もちろん、ビークルモードのバンブルビーだ。
そのままクランクケースをはねるとロボットモードに戻り、回し蹴りでクロウバーとハチェットを弾き飛ばす。
「『お待たせ!』」
そして狼狽えるリンダをよそに、アーシーを助け起こすとその拘束を解く。
アーシーは自由になるとすぐに声を上げた。
「私より、アイエフとコンパを!」
その声にオプティマスは厳かに頷き、改めてマジェコンヌのほうを向く。
しかし、ことここに至ってもマジェコンヌは余裕を崩さない。
「ふ…… こうなれば奥の手を使うしかなさそうだな。来い! ショックウェーブ!!」
* * *
「う、ううん……」
一方、そんな戦いとは関係のない所で、コンパは遅まきながら目を覚ました。
そこは建物の屋根の上だった。
「あれ? ここはどこです?」
辺りを見回していると、声がかけられた。
「オイラとコンパちゃん、二人だけの場所っちゅ……」
そこには、ワレチューがモジモジとしていた。
「ネズミさん?」
「コンパちゃんに会いたい一心で、地獄の底から這いあがってきたっちゅ……!」
全ては胸の内を打ち明けるために。
だがその瞬間、地面が揺れ始めた。
* * *
オプティマスは驚愕にオプティックを見開いた。
「ショックウェーブだと!?」
「それって、この前の雪山の!?」
ネプテューヌが声を上げると、バンブルビーが電子音で肯定する。ネプギアも慌てた様子だ。
「あの、メガトロンと同じくらい強いっていう!?」
「……ふえ~?」
プルルートだけが、状況を飲み込めずに首を傾げている。
激しくなる揺れとともにナス畑の中央が盛り上がり、土を押しのけて呆れるほど巨大な機械ミミズが姿を現した。ドリラーだ。
そしてその胴体に存在する操縦席から悠々と降りてくる者がいる。
紫の逞しい体躯に右腕と一体化した巨大な粒子波動砲。水牛のような角に、何より目立つ真っ赤な単眼。
ディセプティコン科学参謀、ショックウェーブである!
「状況把握。実に論理的でない」
ショックウェーブは穏やかな声でそう発すると、警戒する女神とオートボットを無視して近くを飛んでいたナスモンスターを左手で摘む。
「しかし、この生物は興味深い。植物でありながら動物的であり、また極めて低レベルだが知性と呼べるものを有している。驚くべきはこの生物が人工的に生み出された者であることだ。この世界では、多種多様な生命体に対し一括りにモンスターと実に論理的でない分類がされているが……」
「ショックウェーブ! 何してる、敵を倒せ!!」
敵を無視して独り言(?)を続けるショックウェーブに、マジェコンヌがたまらずに声を上げた。
それに対し、ショックウェーブはナスモンスターをドリラーの操縦席にしまうと、敵に向き直る。
オプティマス・プライムに向かって。そして無言で右腕の粒子波動砲を発射する。
「ッ!」
オプティマスは咄嗟に、ネプテューヌとプルルートをかばい、散弾のように散らばるエネルギー弾を受けてしまった。
「オプっち!」
「ほえ~!?」
心配そうな声を上げる二人に、オプティマスは力強く微笑む。
「大丈夫だ、問題ない」
「それはダイジョブじゃないフラグだよ……」
「まったくもって論理的ではないな、オプティマス」
ショックウェーブが、粒子波動砲を構えながら変わらず穏やかな調子で言った。
「その女神は現在戦力外だ、つまり論理的に考えて女神を守るより自信の防御に徹するべきだった」
淡々と述べるショックウェーブ。
その姿に尋常ではないものを感じ、マジェコンヌは冷や汗をかく。
対するオプティマスは、立ちあがるとショックウェーブを睨む。
「それは違う。友を守るのは当然のことだ!」
「相変わらず論理性の欠片もないな。なぜ、貴様のような論理を欠いた者がオートボットを率いることができるのか、理解に苦しむ」
ショックウェーブの言葉に、嘲笑の響きはない。ただ、どこまでも穏やかなだけだ。
それが逆に、空恐ろしさを感じさせた。
「『よくも』『司令官を!』」
「おしおきよ!!」
その背後からバンブルビーとアーシーがショックウェーブに飛びかかる。
だが突然、ドリラーが動き出しその触手の一本でオートボット二体を叩き落とす。
さらにドリラーは無数の触手を動かしてオプティマスに迫る。
「ドリラー、ランチの時間だ」
ショックウェーブがそう言うと、ドリラーは触手を凄まじいスピードで伸ばす。
「二人とも、つかまっていろ!」
そう言うとオプティマスはネプテューヌとプルルートを抱き上げ、ドリラーの触手から逃れるべく走り出す。
「うわわわ!」
「ほえ~!」
オプティマスに抱えられて声を上げる二人。
背後では何本もの触手が次々と地面に突き刺さる。
その背にさらに砲撃するショックウェーブ。文字通り機械的に撃つ態はいっそ作業のようですらある。
「オプっち、わたしも戦うよ! ナスが怖いって言ってる場合じゃないもんね!」
「ああ、頼む!」
オプティマスの腕の中で女神化したネプテューヌは、腕の中を飛び出し太刀を構える。
「なるほど、それが女神化か。興味深い。……ぜひとも研究したいな」
一瞬、ショックウェーブの単眼がギラリと妖しく光った。
その視線にネプテューヌは体を震わせる。
「そうはさせんぞ、ショックウェーブ!」
だが、ネプテューヌとプルルートを守るようにしてオプティマスが立ちはだかる。
それに対しショックウェーブは実に論理的な行動に出た。
すなわち、いまだ女神化していないプルルートを狙い粒子波動砲を発射したのだ。
「ほえ?」
「危ない!!」
だがまたしてもオプティマスが、それをかばって砲撃を受ける。
「オプっち! ぷるるん!」
「今助けます!」
当然、ネプテューヌとネプギアが助けに向かおうとするが、ナスモンスターに阻まれて身動きが取れない。
その間にも、ショックウェーブは容赦なく作業的にオプティマスに砲撃を浴びせる。
「邪魔よ!」
ネプテューヌは苦手意識を忘れてナスモンスターを切り裂くが、ナスモンスターは次々とわいてくる。
「『司令官!!』」
オートボットたちも、ドリラーの触手をよけるので精一杯だ。
さらにドレッズもオートボットへの攻撃に加わる。
「ふ…… あーはっはっは!!」
一連の流れを半ば茫然と見ていたマジェコンヌだったが、圧倒的な戦局に余裕を取戻し高笑いする。
「どうだ見たか、女神ども! どうやらここまでのようだな!! あーはっはっは!!」
この状況はほとんどショックウェーブの手柄で、自身はナスをばらまいたくらいなのだが、そのことは都合よく忘れているらしく勝利を確信して笑うマジェコンヌ。
「ネプ子! オプティマス! そんな奴らなんかに負けないで!!」
縛られていて動くことができないアイエフは、せめて応援しようとする。
だが、それが気に食わないらしいマジェコンヌは、アイエフの口にさらにナスをねじり込む。
「おまえは黙っていろ! せっかくだからナスを食わせ続けてやる!」
次々とナスをアイエフの口に入れるマジェコンヌ。本人はいたって真面目である。
そうしている間にもオプティマスに砲撃が浴びせかけられる。
もはやこれまでなのか?
「……なんか~、むかつく~」
そのとき、オプティマスに庇われていたプルルートが小さく呟いた。
小さな声なのに、様々な音に溢れる戦場でもよく響く。
そして手に持っていたネプテューヌのぬいぐるみを地面に叩きつけた。
「ッ!?」
とてもぬいぐるみが出すとは思えない轟音が鳴り地面が陥没する。
マジェコンヌも、女神たちも、オートボットたちも、ディセプティコンたちさえも何事かと動きが止まる。
唯一、ショックウェーブだけが大して驚いた様子もなく、むしろ興味深げにプルルートのことを見ている。
「どうして~、オプっちやアイエフちゃんを~、そこまで~、苛めるのかな~?」
ぬいぐるみをグリグリと踏みつけるプルルート。
その姿からは尋常でない迫力が滲み出ていた。
「ひ、人質をどうしようが私の勝手だろうが!」
プルルートの迫力に圧倒されながらも、そんなことをのたまうマジェコンヌ。
一方、ショックウェーブはプルルートの豹変にも動揺する素振りを見せない。
「その質問は論理的ではないな。論理的に考えてオプティマスを集中攻撃するのは当然の……」
「むかつく~!!」
懇切丁寧に説明しようとするショックウェーブをさえぎり、プルルートが大声を上げた。
その身体が光に包まれる。女神化しているのだ。
光りが治まった時、そこにいたのは……
「あなたたちぃ、すごく気に入らないわぁ」
薄紫の髪は、長い紫へと。
幼い肢体は、艶めかしい大人の女へと。
瞳の色は変わらず深い紫で、女神の証たる文様が浮かびつつも妖しく輝き。
衣装は黒く露出度の高い、まるでボンテージのような姿へと変わる。
「だからぁ、苛めてあげるぅ」
女神化したプルルートのその声は、のんびりとした調子を残しながらも大人っぽく妖艶なものへと変貌していた。その顔にはサディスティックな笑みが浮かんでいる。
「ぷ、ぷるるん!?」
「お姉ちゃん以上の変貌ぶり……」
変身前とのあまりのギャップに、ネプテューヌとネプギアは唖然とする。
「き、貴様何者だ!!」
マジェコンヌも、思わずアイエフの口にナスを入れるのを中断して声を上げる。
「あたしぃ? アイリスハートよぉ」
それに答えて名乗りを上げるアイリスハートことプルルート。
「でも、おぼえなくていいわぁ。……体に刻み込んであげるからぁ!!」
手のなかに大振りの蛇腹剣を召喚し、ショックウェーブさえ反応しきれない速度でマジェコンヌに近づくと、その身体を上空へと弾き飛ばす。
「ぐわあああ!!」
たまらず空に舞い上がるマジェコンヌ。だがプルルートの攻撃は終わらない。
「もしかしてぇ、見た目のわりに淡泊なタイプぅ?」
先回りしたプルルートは嘲笑とともにさらなる斬撃を繰り出す。
その攻撃をまともに食らい、マジェコンヌは地面に叩き付けられた。
プルルートは何とか上体を起こしたマジェコンヌの前にゆっくりと降りてくる。
「ひぃッ!」
「どうしたのぉ、無駄に歳くってないところ、見せてよ……ね!!」
怯むマジェコンヌに容赦なく攻撃を浴びせるプルルート。
その顔には実に楽しそうな笑みが浮かんでいる。
「楽しんでるみたい……」
その姿を見てネプギアが茫然と呟いた。
「し、ショックウェーブぅ! なにしてる、助けろぉ!」
息も絶え絶えのマジェコンヌは、彼女がいたぶられる様を興味深げに見ていたショックウェーブに助けを求める。
だが、ショックウェーブは微動だにしない。
「興味深い、形態の変化やパワーの上昇もそうだが人格の変容が面白いな。あるいは潜在意識の発露か? 形態の変化についてはまさに肉体の再構成といっていい。我々の変形との類似点、あるいは相違点について考証する必要があるな」
仮にも仲間が助けを求めているにも関わらず、穏やかに、あくまでも穏やかに淡々と独り言を続けるショックウェーブ。
その言葉にマジェコンヌは愕然とし、女神たちは戦慄する。
「な、何なんだよあのヒト……」
「ああいうヒトなんだYO……」
リンダはその一種異様な姿に震え、隣に立つクランクケースは多分に諦めの入った排気を出す。
そして、プルルートはというと……
「気に入らないわぁ」
言葉とは裏腹に、どこか楽しそうな笑みを浮かべていた。
「オプっちを苛めてくれたこともだけどぉ、その澄ました顔がムカつくわねぇ。……泣かせてみたいわぁ」
もう、色んな意味で味方側の人物が言ってはいけないセリフを吐くプルルートは、マジェコンヌを捨て置き、ショックウェーブに狙いを定める。
一方、ショックウェーブは無言でプルルートに……ではなく、放っておかれたアイエフに狙いを定める。
だが、間一髪のところでオプティマスが、アイエフが縛られている柱を地面から引っこ抜くことで救い出した。
「あなたねぇ…… あなたの相手はあたしでしょうがぁ!!」
プルルートが笑みを消して怒声を上げる。
だが、ショックウェーブは穏やかに答えた。
「弱い者から倒すのは論理的な戦法だ。まして論理的でないことに、最大の強敵が自らダメージを受けに来てくれるのだ。論理的に考えてこれが正しい……」
「もういいわぁ…… 絶対泣かす!!」
プルルートは怒りのあまり凄絶な笑みを浮かべてショックウェーブに斬りかかる。
ショックウェーブはすかさず粒子波動砲をプルルート目がけて撃つが、それは全てかわされた。
左腕のブレードを展開し、斬撃を受け止めるショックウェーブ。拮抗する両者。
だがプルルートは凶暴にニヤリと笑う。その手首のスナップ一つで、蛇腹剣は長く伸びてショックウェーブの体を打ち据える。
「ファイティングヴァイパー!!」
その声とともに、蛇腹剣に電流が流れショックウェーブの体を焼く。
だが、ショックウェーブは相変わらず穏やかな調子を崩さない。
「生体電流…… いや違うな。これが魔法か、興味深い」
「痛くないのぉ?」
その様子にさすがに首を傾げるプルルート。
「痛みに声を上げるなど、実に論理的でない行為だよ。痛みなど、肉体的ダメージを示す指標に過ぎないのだから」
どこまでも平静なショックウェーブの言葉に、プルルートは顔をしかめ、……それから笑い出した。
「あ~はっはっはっは!! あなた最高よぉ!!」
その行動はさすがにショックウェーブの虚を突くものだったらしく、少し単眼を細める。
「最っ高に腹が立つわぁ!! 必ず屈服させてあげるぅ!! 泣かせてぇ、許しを請わせてぇ、それから潰してあ、げ、る!!」
狂気じみてすらいるプルルートの宣言に、女神もオートボットもディセプティコンも寒気をおぼえる。
唯一、ショックウェーブを除いては。
「ふむ、私も君のように論理の欠片もない存在は正直、嫌悪の対象だよ」
冷静に平静に、プルルートとは別ベクトルの狂気を滲ませてショックウェーブも宣言する。
しばし睨み合う両者。
だがそれも束の間のことだった。
突然、ショックウェーブはプルルートに背を向ける。
「ドリラー、撤退するぞ」
「あら、逃げる気ぃ?」
プルルートの挑発にもショックウェーブは動じない。
「データは十分に取れた。これ以上戦う意味はない」
それだけ言うとドリラーの操縦席に乗り込む。
ドリラーの触手でマジェコンヌを含めた友軍を回収するのも忘れない。
巨大ドローンが地中に消えると、プルルートは消化不良気味に蛇腹剣を振るのだった。
* * *
一方、そんな戦場を少し遠くから眺めていたワレチューとコンパ。
「恐ろしい、戦いだったっちゅ……」
思わずそんな言葉を漏らすワレチュー。
新たな女神とディセプティコンの科学参謀は、方向性は違えど狂気すら感じさせる存在だった。
もうこれ以上、あんな奴らと付き合っていられない。
一大決心して、ワレチューはコンパに向き直る。
「コンパちゃん! おいらといっしょに逃げるっちゅ!!」
「へッ!?」
突然のワレチューの言葉に、コンパは戸惑う。
「どこか遠く…… オートボットもディセプティコンもいない所へ行くっちゅ! 二人でそこで暮らすっちゅ!!」
それはワレチューなりに真摯な思いを込めた言葉だった。
ディセプティコンは自分のような小悪党が関わり続けるにはあまりにも恐ろしい連中だ。それと戦うオートボットも正直な話、同類に見える。
だから、戦いから離れた場所へ……
「それはできないです」
しかし、コンパはハッキリと拒否する。
「な、なんでっちゅ!?」
「わたしのお友達は女神さんです。それにオートボットさんたちとも、もうお友達です。みんなを置いて逃げるわけにはいかないです」
強い決意を感じさせる笑顔で、コンパは言う。
しばらく、その顔を黙って見ていたワレチューだが、やがて根負けしたように息を吐いた。
「分かったっちゅ…… でもコンパちゃん」
「なんですか?」
「もし、何かあったらおいらを頼ってほしいっちゅ。全力で助けるっちゅ!」
その言葉に、コンパは笑顔で頷くのだった。
* * *
かくしてアイエフとアーシー、コンパを救出しプラネタワーと帰ってきた一同。
三人に怪我はなく、損害と言えばアイエフがナスに強烈なトラウマを持ってしまったくらいだろうか。
「ちくちく~♪」
ソファーに腰かけ、プルルートはぬいぐるみを作っていた。
それは……
「わあ! オプっちだー!」
プルルートの手元を覗き込んだネプテューヌが歓声を上げる。
それは可愛らしくデフォルメされたオプティマスのぬいぐるみだった。
「えへへ~」
穏やかに微笑むプルルート、とても女神化しているときと同一人物とは思えない。
「ぎあちゃんと~、ピーシェちゃんのも~、今度作るから待ってってね~」
「うん! でもなんでオプっちを?」
ネプテューヌが聞くと、プルルートは頬に手を当て二ヘラと相好を崩した。
「だって~、助けてくれたし~」
それを見て同じように微笑むネプテューヌ。だがそのときプルルートの傍らにもう一つぬいぐるみが有るのに気が付いた。
「あれ、ぷるるんそれって……」
紫の体に赤い単眼。
それはまさに……
「ショックウェーブ?」
しかしなぜ、あの恐ろしいディセプティコンのぬいぐるみを作ったのか?
「えへへ~、そうだよ~、ショッくんだよ~」
そのぬいぐるみを手に取って見せるプルルート。
次の瞬間、プルルートはショックウェーブのぬいぐるみに拳をめり込ませる。
「決めたんだ~、ショッっくんは~、あたしの獲物だよ~」
変わらずニコヤカに宣言するプルルート。
グリグリとぬいぐるみに拳をめり込ませるその姿に、ネプテューヌは寒気をおぼえずにはいられないのだった。
* * *
輝く太陽が照らすなか、マジェコンヌはナスを収穫していた。近くにはワレチューもいる。
この作戦に有り金を使い果たし、色々と疲れたマジェコンヌは、ここでナス農家をしていくことに決めたのだった。
戦いでかなり荒されたが、それでも挽回は可能だ。
農作業に勤しんでいると、なんだか癒される気がする。
「ちわーっす!」
そこへリンダが訪ねてきた。
「おまえか、何の用だ?」
「いえ、メガトロン様からこの手紙を預かってきたもんで……」
「メガトロンから?」
マジェコンヌはリンダが差し出した手紙……なぜか手書き……を受け取る。
それを開き読むマジェコンヌの顔が青ざめていく。
手紙にはこう書かれていた。
『タダで兵士を貸してやると思ったの? 馬鹿なの? 死ぬの? ついては現金10,000,000クレジットを要求するものなり。支払えない場合は労働でもって対価とする。貴殿の生活も鑑み週3日、当軍団にて労働されたし。
メガトロン
PS:サウンドウェーブに調べてもらって手紙を書いてみたけど、書き方はこれであってただろうか?』
10,000,000なんて、この農場を売り払っても払える額ではない。かといって無視すれば後が怖い。
「まあ、なんつーか……」
ワナワナと震えるマジェコンヌに、リンダは少し痛ましげに声をかける。
「これからもよろしくお願いします」
そんな二人を見て、ワレチューは深いため息をついた。
まあ、しょうがない。
これも義理だ。付き合ってやるとしよう。
そんな人間たちとは関係なく、太陽は輝き、ナスは今日もたわわに実っていた。
なんか、書いてるとぷるるんとショックウェーブがどんどん怖いヒトになっていく……
ネプテューヌ、はろーにゅーわーるどっていうマンガを手に入れたけど、さてこれをどうやって本編に組み込んだものか……
ちなみに、右腕を修復したメガトロンは、勝手に『リベンジアーム・メガトロン』なんて呼んでいたりします。(腕だけリベンジ仕様だから)
ご意見、ご感想、お待ちしいます。