超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION   作:投稿参謀

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念願のAHM日本語版を手に入れたぞ!

面白いけど、いろいろキツイ……

それはともかく、本編より早く、番外編が書きあがったので投稿。


番外編① タイガーパックスの戦い

 惑星サイバトロン、金属の月輝く大地。

 ここは、金属の肉体と高い知性、そして変形能力を備えた超ロボット生命体、『トランスフォーマー』たちの世界である。

 彼らは高度な文明を築き上げ、何代にも渡って平和と繁栄を享受してきた。

 しかし、トランスフォーマーたちはいつしか平和と秩序を愛する『オートボット』と戦闘と破壊を尊ぶディセプティコンの二派に分かれて、果てしない戦いを繰り広げていた。

 

  *  *  *

 

 ディセプティコン破壊大帝メガトロン。

 力を正義とし、弱肉強食を旨とするがゆえに統率に欠けていたディセプティコンを平定し、軍団としてまとめ上げた張本人。

 彼が歴史に初めて登場したのは、ケイオンの闘技場だった。

 当時のサイバトロンでは各地で積極的に剣闘大会が開かれ、ケイオンもそうした都市の一つだった。

 後に歴史に名を残す多くの者がそうであるように、メガトロンもまた、最初は無名の新人剣闘士に過ぎなかった。

 最初に彼と対戦することになったのは、当時百戦錬磨で知られたベテランの剣闘士であり、誰もが無名の若者の敗北を疑わなかった。

 そして伝説は始まった。

 試合開始直後、ベテラン剣闘士の攻撃を全てかわしたメガトロンは一瞬の隙を突いて相手を昏倒させた。全ては僅かな間の出来事だった。

 こうして鮮烈なデビューを飾ったメガトロンは、瞬く間にケイオン闘技場のチャンピョンにまで成り上がった。

 誰もが彼の戦いに魅了され、相手となる剣闘士たちは彼と戦えることを誇りに思うようになった。

 やがて、転機が訪れる。

 当時のオートボット軍の最高司令官にして惑星サイバトロンの統治者、すなわちセンチネル・プライムの御前試合が行われることとなり、優勝者には彼に謁見する名誉が与えられることになったのだ。

 実は、これこそがメガトロンが望んでいたことだった。

 御前試合にはサイバトロン中の猛者がそろい、熾烈な戦いが行われたが、最後に勝ったのはやはりメガトロンだった。

 この大会でメガトロンと優勝を争ったのが、サウンドウェーブという名の技巧派の剣闘士であったことは周知の事実である。

 そして、プライムに謁見し直接会話する栄誉を授かったメガトロン。

 センチネル・プライムを前にして彼が語った自らの生い立ちは壮絶だった。

 下層階級の生まれである彼は、剣闘士になる前はある鉱山で働いていたが、そこは労働者を家畜のように扱っていたのだ。

 メガトロンはそこで自分と仲間たちがどのように扱われてきたかを詳細に語り、センチネルに仲間の解放を訴えた。

 言うまでもなく公正にして賢明なるセンチネルはその願いを聞き入れ、奴隷として扱われていた労働者は解放され、下層階級に対する扱いは大きく改善された。

 この偉業の立役者であるメガトロンに、センチネルはすばらしい褒美を与えた。自分の弟子、つまり次期プライム候補として召し抱えたのである。

 こうしてメガトロンは虐げられた者たちの解放者として、また一労働者からプライムの従士にまでに成った下層民の希望の星として、大きな支持を集めたのである。

 ここまでなら、メガトロンは英雄譚の主役であっただろう。

 しかし、運命は彼の前にもう一人の英雄を用意した。

 後のオートボット総司令官、オプティマスである。

 以外にも、オプティマスは最初プライムの従士に召し抱えられたさい、兄弟子であるメガトロンと意気投合したという。

 オプティマスはメガトロンを兄、師たるセンチネルを父と慕う朴訥な若者だった。

 しかし、オプティマスがその才覚を発揮しだすとメガトロンは次第に彼を妬むようになっていった。

 そして、センチネルが自分の後継者、次期プライムにオプティマスを指名したことで、その嫉妬は爆発しメガトロンは師のもとを出奔。しばらく行方をくらましていた。

 そして歴史に残る限り、次にメガトロンが姿を見せたとき、彼はすでに剣闘士時代のあだ名、『破壊大帝』の称号で呼ばれるディセプティコンのリーダーだった。

 メガトロン率いるディセプティコン軍団はオートボットに対し宣戦布告。

 かくして永い永い戦争が始まった……

 

 ここまでが、一般に知られ、多くのオートボットとディセプティコンが信じているメガトロンの来歴である。

 これがはたして真実なのかは分からない。

 それでも、多くの者たちはこれを真実であると考えているのだ。

 

  *  *  *

 

 果てしなく続いた戦争は、やがてサイバトロンを取り返しがつかないほど荒廃させていった。

 かつては澄み切った青だった空は排煙に覆われ、文字通り輝いていた金属の大地はくすんで色を失った。

 数で勝り、力でまさり、いまや統率でも勝るディセプティコンの猛攻を前に、オートボットはジリジリと追い詰められていた。

 そしてメガトロンの軍団は今、オールスパークの安置された『オールスパークの泉』に向かって進軍していた……

 

  *  *  *

 

 オールスパークの泉。

 地下深くまで穿たれた巨大な縦穴。

 その底に、オールスパークは鎮座していた。

 サイバトロンの言語が刻まれた巨大なキューブ。

 これこそがオールスパークである。

 それの前に、赤と青の体色の大柄なトランスフォーマーが佇んでいた。

 オートボットの総司令官オプティマス・プライム、その人だ。

 

「オプティマス」

 

 そこに、銀色の小柄なオートボットが声をかける。

 オプティマスの副官ジャズだ。

 

「ジャズか。作業工程はどうだ?」

 

「だいたい80%ってところだ。この調子だと、あと30サイクルってとこだろう」

 

 その答えに、オプティマスは頷くと、視線をオールスパークに戻す。

 しかし、ジャズは不安げだった。

 

「なあ、オプティマス。本当にやるのか?」

 

 不安はもっともだ。

 このオールスパークは、全ての金属生命体の命の源。あらゆるトランスフォーマーはこのオールスパークの力により誕生する。

 

 そのオールスパークを宇宙に打ち上げるなど、不安をおぼえないほうがおかしい。

 

 しかしそれでも、そうしなければならなかった。

 メガトロンがオールスパークを手に入れれば、その力で自分に忠実な軍団を創り上げ、このサイバトロンだけでなく周辺の星々、やがては銀河の隅々にいたるまで侵略の魔の手を伸ばすだろう。

 それだけは、なんとしてでも阻止しなければならない。

 自由と平和のために。

 

 しかし、オプティマスに不安がないわけではない。本当は不安でいっぱいだ。

 それでも総司令官として、部下の前では彼らを不安にさせないよう強く振る舞わねばならない。

 だから今回も、自身たっぷりに見えるよう、厳かに頷いた。

 

「もちろんだ、ジャズ。そうすることが、最良の選択なのだ」

 

 しかし、オールスパークを打ち上げるためにはまだしばしの時間が必要だ。

 そのために手は打った。

 

 頼むぞ。オートボットの戦士たちよ……

 

  *  *  *

 

 戦場へと向かう降下船の中で、若きオートボットの情報員バンブルビーは落ち着かなかった。戦場にでるのはいつものことだが、これほどの大役を仰せつかるのは始めてだからだ。

 オールスパークを打ち上げるまでの間、メガトロンの進軍に対し時間を稼ぐこと。

 それが、バンブルビーたちがオプティマス・プライムから命じられた任務である。

 任務を受けるさい、バンブルビーは初めてオプティマスと直接対面した。

 実の所、バンブルビーはオプティマスに憧れていて、彼と会える日をいつも想像していた。

 オプティマスに任務を仰せつかる自分。

 オプティマスの隣で戦う自分。

 オプティマスに勲章をもらう自分。

 みな入念にシミュレートを重ねてきた。

 しかし、想像するのと実際に合うのとでは大違いだった。

 オプティマス・プライムの存在感はまさに圧倒的だった。

 彼に「友よ」と声をかけられたときなどは、冗談でなくオイルを失禁するかと思った。

 そのオプティマスからの直接の任命である。

 なんとしても成功させなくては……

 しかし、相手はあのメガトロンである。

 緊張しない方が無理だった。

 

「そう気張るなよ、バンブルビー」

 

 隣の席に座る赤い同型、クリフジャンパーが声をかけてきた。

 

「なにも怖いことなんかないさ。いつもどおり、ディセプティコンを血祭に上げてやりゃいいんだ」

 

 軽い調子のクリフジャンパー。

 彼はベテランの戦闘員で、格闘戦のプロだ。

 バンブルビーは緊張を悟られないように自信に満ちた声を出した。

 

「別に怖いことなんかないさ」

 

「そうともバンブルビー。ようは俺らがメガトロンの野郎をぶっ殺してやればいいだけなんだからな」

 

 対面に座る、赤い体色と胸の砲が特徴的な大柄なオートボット、ワーパスもニヤリと笑いながら言う。

 

「そうすれば、オールスパークを宇宙に放り出す必要もなくなって、万々歳ってわけだ」

 

 同じく赤い体色のオートボット、インフェルノが言葉を継ぐ。

 

「じゃあ、いっちょかつてはメガトロンの首だったはずの金属の塊を、蹴っ飛ばしてサッカーでもして遊ぼうじゃないの!」

 

「「「HA☆HA☆HA☆HA☆HA☆」」」

 

 バイザーをした赤いオートボット、ウインドチャージャーの締めに、バンブルビーを除く四人は大笑いする。

 バンブルビーは少し笑いながらも、ちょっとこのノリついていけないと思考するのだった。

 

  *  *  *

 

 チーム・レッド。

 それが彼らの名だ。

 オートボットの中でも歴戦の勇士というにふさわしい功績と、特に好戦的な性格の持ち主が集まった最強の攻撃部隊である。

 バンブルビーは彼らに斥候としてついていくようになってしばらくたつが、いまだにこのノリには慣れなかった。

 それでも、頼りになる仲間たちなのは確かだった。

 

  *  *  *

 

 戦場であるタイガーパックスの原野は、すでに地獄絵図の様相を呈していた。

 進軍するディセプティコンの前に戦列は突破され、大火力の前に兵士たちが蹂躙される。

 ディセプティコンの一員スカルグリンは、全身に装備した火器と自信のパワーを生かして次々とオートボットを物言わぬ鉄屑に変えていた。

 そのセンサーが新たな獲物を捉える。

 降下してくる船から降りてきた連中だ。

 スカルグリンの放ったミサイルで、降下船は爆炎に包まれたが、その寸前に五人のオートボットが地上に降り立ったのをスカルグリンは見逃さなかった。

 そのオートボットたちを屑鉄に変えてやるべく、スカルグリンは全身の火器を放つ。

 

「チーム・レッド! ぶっ壊しレーススタートだ!」

 

 だが、赤いチビ……クリフジャンパーの号令によりチーム・レッドはすぐさまビークルモードに変形して砲火をかわしてみせる。

 唯一かわさなかったのがワーパスだが、彼はこの程度の攻撃はそよ風とでも言わんばかりに動じない。

 

「オラ! 追いついてみなノロマ!」

 

 ウインドチャージャーがスカルグレンの周りをグルグルと走り挑発する。

 スカルグレンは怒り狂って手に持ったつるはし状の武器を振るおうとするが、その瞬間インフェルノの狙撃がスカルグリンの腕を打ち抜き、ディセプティコンは武器を取り落としてしまう。

 

「クズ野郎が! テメエには過ぎた玩具だぜ!」

 

 一瞬驚くスカルグリンだが、すぐに火器攻撃に切り替えようとする。

 だが、ときすでに遅し。

 

「イェアア! おっ死ね!」

 

 ワーパスの胸の砲が火を噴き、スカルグリンの半身を吹き飛ばした。

 それでも反撃しようとするディセプティコンだったが、いつのまにか接近していたクリフジャンパーがその頭にブラスターを突きつける。

 

「安心しな。生きてる屑鉄が、本物の屑鉄になるだけだ」

 

 そう言って容赦なくスカルグリンの頭を撃ちぬく。

 半身のみならず頭部も失ったディセプティコンは力なく倒れる。

 その死体をつまらなそうに蹴っ飛ばすクリフジャンパー。

 騒ぎに気付いて他のディセプティコンたちも集まってきた。

 

「やってきやがったぜディセプティコンのクズどもが。俺らに殺されによぉ」

 

 クリフジャンパーが好戦的な笑みを浮かべ改めてブラスターを構える。

 一連の流れを半ば茫然と見ていたバンブルビーだったが、正気を取り戻し射撃をはじめた。

 

 チーム・レッドはまさに一騎当千の強さを見せるだけでなくチームワークに置いても完璧だった。

 彼らの前に敵はないかに思われた。

 

 だが、そうではなかった。

 

  *  *  *

 

 メガトロンは空中戦艦の舳先から戦場を睥睨していた。

 

『メガトロン様、戦況ハ順調二推移シテイル』

 

 腹心の部下サウンドウェーブからの報告にも、メガトロンは満足しているとは言い難かった。

 オールスパークを手に入れるまで満足することはないだろう。

 メガトロンのセンサーは戦場の隅々まで把握していた。

 東で航空部隊を率いるスタースクリームが、敵の航空戦力を蹴散らしているも、西でショックウェーブが単体で一個中隊を殲滅するのも分かっていた。

 そのセンサーが、正面に異変を捉えた。戦列が乱れている。

 何体かのオートボットが暴れているのがオプティックでも見えた。

 

「サウンドウェーブ、ここは任せたぞ!」

 

『メガトロン様?』

 

「少しは骨のある奴らがいたようだ。狩ってくる」

 

 それだけ言うと、メガトロンは戦艦から飛び降りた。

 

  *  *  *

 

 それが自分たちの正面に着地したとき、戦場の空気が変わった。

 誰もが口にせずとも理解した。

 灰銀の巨体。

 悪鬼羅刹の如き顔。

 真っ赤なオプティック。

 何よりも、圧倒的な、物理的な衝撃さえ伴いそうなほどの覇気。

 あれこそが闘技場の英雄、ディセプティコン破壊大帝メガトロンだと。

 メガトロンは視界にチーム・レッドを捉えると、獲物を前にした猛獣のように笑い、ゆっくりと歩き出した。

 

「……ッ! みんな! いつものフォーメーションでいくぞ!」

 

 メガトロンの覇気に飲まれていたチーム・レッドだったが、いち早く正気に戻ったクリフジャンパーの号令に弾かれたように動き出す。

 

「メガトロン! デカブツめ、俺の動きを捉えられるか!」

 

 いち早くビークルモードで飛び出したウインドチャージャーが、挑発しながらメガトロンの周りを走り出す。

 短距離なら最速を誇るウインドチャージャーの走りに、メガトロンは困惑する……はずだった。

 メガトロンは無造作に腕を突き出した。

 すると、その腕にウインドチャージャーが囚われていた。

 

「な!? 馬鹿な……」

 

 瞬時にウインドチャージャーはロボットモードに戻り反撃を試みるが、時すでに遅し。

 メガトロンは両手でウインドチャージャーの足と胴を掴み、軽く捻る。

 それだけで、ウインドチャージャーの胴はブチリとねじ切られ、彼は命を失った。

 

「ウインドチャージャー!!」

 

 バンブルビーは叫んだが、他のメンバーは悲しんだり取り乱したりはしない。速やかに次の攻撃に移った。

 インフェルノがライフルでメガトロンの頭部を狙い撃ち、クリフジャンパーがブラスターを乱射し、ワーパスが胸の主砲を発射する。

 しかしメガトロンは殺到する砲撃の中でも微動だにしない。回避も防御もしない。

 ただ、両腕を合わせて変形させ、巨大なフュージョンカノンを組み上げただけだ。

 

「散れ!!」

 

 クリフジャンパーの叫びに、オートボットたちはバラバラに飛びのく。

 唯一、ワーパスを除いては。

 ワーパスがどうして逃げなかったのか、自分の装甲に自信があったからなのか、それともどのような形であれ敵に背を見せるのが嫌だったからか、それは分からない。

 確かなのはワーパスが飛来するフュージョンカノンのエネルギー弾を受け止め……

 

「ワーパス!!」

 

 そして、その上半身を粉々に爆破されたということだけだ。

 倒れ伏すワーパスの下半身。

 巻き起こる噴煙に紛れ、残る三人は構造物の影に身を隠した。

 

  *  *  *

 

「くそう!」

 

 物陰に身をひそめながら、インフェルノは毒づいた。

 無敵を誇るチーム・レッドがこうもアッサリと!

 だが、まだ反撃の芽はある。残る二人と合流して……

 思考していたインフェルノに、影が覆いかぶさった。

 

「……!」

 

 最後にインフェルノが見たのは、自分の顔を掴む手と、その隙間から覗く真っ赤なオプティックだった。

 

  *  *  *

 

 恐ろしい悲鳴が響き渡り、インフェルノの最後を物陰に隠れたバンブルビーとクリフジャンパーに知らせた。

 

「インフェルノまで……」

 

 バンブルビーは全身の震えが止まらなかった。

 仲間が三人、まるでゴミのように殺された。

 メガトロンは格が違いすぎる。まるで別次元のモンスターだ。

 

「バンブルビー」

 

 クリフジャンパーが、彼らしからぬ静かな声を出した。

 その声にバンブルビーが顔を上げると、赤い同型は真っ直ぐにそのオプティックを見た。

 

「奴には勝てない。俺が時間を稼ぐから、その間におまえは逃げろ」

 

「ッ! そんなこと!」

 

「いいか、おまえはまだ若い。俺らに付き合って死ぬこたない」

 

 その言葉にバンブルビーは必至に反論しようとする。

 だが、クリフジャンパーはバンブルビーが何か言うより早く、物陰から飛び出していってしまった。

 

「メガトロン!!」

 

 クリフジャンパーはメガトロンの正面に立ち、ブラスターを構える。

 

「貴様か、チビ助。もう一人はどうした?」

 

 メガトロンはインフェルノの首を投げ捨てると、クリフジャンパーに向き直った。

 

「……逃がした」

 

「なるほど、賢明だな。だが、貴様はここで終わりだ」

 

「確かにな。だけど一人で逝くのは寂しいんでね、メガトロン!」

 

 それだけ言うとクリフジャンパーはメガトロンに飛びかかった。

 無論メガトロンはすぐさま反応し、チェーンメイスを展開するとクリフジャンパーを打ち据えようとする。

 だがクリフジャンパーはそれを素早くかわし、メガトロンに組み付いた。

 

「おまえも道連れだぁああああッ!!」

 

 その瞬間、クリフジャンパーがもしものときのために、体内に仕込んでおいた爆弾が起動、瞬時にメガトロンもろとも大爆発を起こした。

 

  *  *  *

 

「クリフジャンパー……」

 

 一人残されたバンブルビーは恐る恐る、物陰から顔を覗かせた。辺りは噴煙に包まれている。

 結局、自分は何もできなかった。

 あまりの無力さに、絶望がスパークを支配しそうになる。

 せめて、仲間たちの遺体を回収したかった。

 彼らのおかげで、メガトロンは倒されサイバトロンは救われたのだから。

 物陰から這い出して、散らばった金属パーツを集めようとする。

 だが、バンブルビーは気付いた。噴煙の中に屹立している影に。

 

「あ、あ、あ」

 

 メガトロンがそこに立っていた。

 

 ダメージは受けているようだが、大した傷には見えない。

 今度こそ、バンブルビーのブレインサーキットを絶望が支配した。

 

 仲間たちの死はまったくの無駄だったのだ。

 

「……小僧、貴様の仲間たちは勇敢だったぞ」

 

 オプティックを光らせ、メガトロンがバンブルビーに近づいて来る。

 

「勇敢で、そして愚かだった」

 

「あ、あ、うあああああ!!」

 

 気がついたら、バンブルビーはブラスターを撃ちながらメガトロンに向かって走っていた。

 もう、何が何だか分からなかった。

 メガトロンはバンブルビーの射撃をその身に受けて一切かわさず、突撃してきたバンブルビーの首を掴んで持ち上げる。

 

「愚か者めが。仲間が救った命を無駄にしおって……」

 

 その言葉には少しだけ悲しそうな調子が含まれていたが、バンブルビーは気付かなかった。

 手足をバタバタと動かし、何とかメガトロンにダメージを与えようともがく。

 しかし、メガトロンの大怪力の前には徒労に終わった。

 

「……これも戦いの常、貴様も仲間の後を追うがいい」

 

 メガトロンが腕に力を込める。

 致命的な損傷を与えるべく、メガトロンの指がバンブルビーの喉に食い込んでいく。

 まず破壊されたのは、バンブルビーの発声回路だった。

 さらに力を込めれば、もっと重要なパーツが破壊されるだろう。

 そしてそれは、もう間もなくだった。

 

  *  *  *

 

 今、オプティマス・プライムの眼の前には、一つのコンソールが置かれていた。そのコンソールにはスイッチが一つあるだけだ。

 だが、そのスイッチを押せば全てが変わる。

 全てのシークエンスは終了した。後はスイッチを押せばオールスパークは宇宙に打ち上げられ、メガトロンの手に落ちることはなくなるだろう。

 

 そして、サイバトロンに新たな命は生まれなくなる。

 

 はたして、これが最良の選択なのだろうか?

 自分は、傷ついた星に止めを刺そうとしているのではないか?

 

『オプティマス! エアリアルボット部隊はすでに壊滅状態だ! 制空権を維持できない!』

 

『オプティマス! 最終防衛ラインが突破されたぞ!!』

 

『オプティマス! こっちは怪我人であふれかえってる! スペアパーツもエネルゴン輸液も足りていない!!』

 

 ジャズの、アイアンハイドの、ラチェットの、仲間たちの悲鳴じみた報告が、四方から飛びこんで来る。

 もはや、戦線を維持できない。これしか手はないのだ。

 オプティマスはスイッチに手を伸ばし、そして……

 

 震えながらも、そのスイッチを押した。

 

「すまない……」

 

 オプティマスは、オートボットの英雄は、力無く頭垂れ、悔恨と罪悪感に震えていた。

 

「どうか、私を許してくれ……」

 

 そしてオールスパークを宇宙に上げるための巨大なコイルガンが動きだした。

 砲身は長い縦穴、砲弾はオールスパークそのものだ。

 無数の機械が起動し、電磁的な力により巨大なキューブは瞬く間に加速して、オールスパークの泉を飛び出し、第二宇宙速度を突破。サイバトロンの大気の外へと飛び出していった……

 

  *  *  *

 

 一直線に軌跡を描いて、一つの光が空へと昇っていった。

 それを、全てのオートボットが、全てのディセプティコンが見上げていた。

 破壊大帝メガトロンも、例外ではなく。

 

「……馬鹿な」

 

 手の中の黄色いオートボットに止めを刺すのも忘れて、メガトロンは茫然と呟いた。

 

「馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な! 馬鹿なぁああああ!! オプティマス! あの愚か者めが!!」

 

 絶叫するとオートボット……バンブルビーを放り出し、メガトロンはギゴガゴと音を立ててエイリアンジェットに変形する。

 そして、もう間に合わないと分かっていながらも消えゆく光を追いかけて、空の彼方へと飛び去った。

 バンブルビーは薄れゆく意識の中で、それを見ていた。

 

 ざまあみろ!

 

 そう声に出そうとして、出せなかった。

 

 もう二度と。

 

  *  *  *

 

 宇宙空間に飛び出したメガトロンは、オールスパークのエネルギーの痕跡を追って飛び続ける。

 奇跡でも起こって、オールスパークがどこかの惑星に墜落でもしない限り、追いつけないのは分かっていた。

 だが、それでも追わずにはいられなかった。

 そのままいけば、メガトロンはサイバトロンの属する恒星系を抜け、無限の虚空へと飛び出していっただろう。

 あるいは、どこかの星の墜落したオールスパークの痕跡を見つけ、そこに辿り着くも氷に突っ込んで凍結し、何千年もそのまま眠り、やがてその星の原住民に発見されて……

 そんな未来もあったのかもしれない。

 

 だが、そうはならなかった。

 

 恒星系の最も外側の星の傍を通過しようとしたところで、メガトロンのブレインサーキットに直接通信が送られてきた。

 特殊な専用回線を使い何重にも秘匿されたそれは、とある惑星に蔓延る有機生命体の言葉を借りるならテレパシーで直接頭に話しかけられているようなものだ。

 

【待つのだ、メガトロン】

 

 遥か彼方の暗闇から響いてくるような悍ましさを感じさせる、昏く静かな声。

 その声をメガトロン知っていた。忘れようはずもない。

 メガトロンはロボットモードに戻ると、虚空に向けて吼えた。

 

「師よ! 何故です!?」

 

【オールスパークの行先は分かっている。おまえはそこへ向かえ】

 

 静かな師の声。だがメガトロンは納得できなかった。

 

「今、手に入れればよいではありませんか! 必ず追いついてご覧にいれます!!」

 

【愚か者め!】

 

 師の声の調子が低く危険なものへと変わる。

 

【オールスパークは、その超常の力により時空を越えて別の宇宙へと堕ちていったのだ。その中のチッポケな星へとな……】

 

「時空を越えて…… それはいったいどこなのです!?」

 

 メガトロンの言葉に対する答えは、言葉ではなかった。

 無数の映像がメガトロンのブレインサーキットに直接送られてくる。

 無限の虚空の中、恒星に照らされて浮かぶ水と呼ばれる液体に包まれた青い星。

 地にも海にも空にも有機生命体が蔓延っている。

 なかでも原始的な知的生命体が原始的な社会体制、『国』を創り上げていた。

 その頂点に君臨する存在、女神。

 そして、女神を支えるのは国民の祈りと信仰。すなわち……

 

「シェア……エナジー……」

 

【そうだ、それを奪い取るのだ】

 

 唐突にメガトロンは理解した。

 なぜ、師がその世界に拘るのか。

 その世界とオールスパークがどのような関係なのか。

 シェアエナジーと呼ばれるそれが、何なのか。

 

【目指せ、『ゲイムギョウ界』を】

 

 その言葉が終わるより早く、メガトロンは振り返ってビークルモードに変形すると、元来た航路を戻りだした。

 生まれ故郷、惑星サイバトロンへ向かって。

 

  *  *  *

 

 戻って来たサイバトロンは色あせて見えた。

 永遠と続いた戦争によって、かつては輝く銀色だった大地は黒ずみ、大気はくすんでいた。

 それでも、ついこの間まではこの星は『生きて』いた。今はそうではない。

 いまやサイバトロンは、寿命が尽きて枯れゆく巨木も同然だった。

 オートボットはその責任の全てがディセプティコンに、ひいてはメガトロンにあると言うだろう。

 だが、メガトロンには分かっていた。

 確かに、ディセプティコンの攻撃は故郷をボロボロに破壊した。

 

 しかし、決定的な止めを刺したのはオートボット総司令官、オプティマス・プライムなのだ。

 

 どう言い繕っても、否定しようがなく。

 

  *  *  *

 

 再び、タイガーパックス。

 もはやオートボットもディセプティコンも引き払い、金属の原野には静寂と戦闘の跡だけが残されていた。

 兵器と兵士の残骸が野晒しのまま捨て置かれ、燻る残り火から煙が上がる。

 死が、どこまでも広がっていた。

 メガトロンは無人の荒野の上空を飛び、やがて大地にポッカリと開いた縦穴の上にやってきた。

 そのまま穴に飛び込み、下へと降りていき、ロボットモードに変形して穴の底に着地した。

 

 そこには、何もなかった。

 

 今さっきまでは、ここにオールスパークが、命の源があったのだ。

 オールスパークさえあれば、サイバトロンの再建は可能だった。

 途方もない労力と時間が必要だとしても、できることだったのだ。

 しかし、いまやそれは不可能なことへと変わった。

 

――オプティマス、あの愚か者め……

 

 地面をそっと撫でながら、メガトロンは思考を続ける。

 そうまでして、自分にオールスパークを渡したくなかったのか。

 なるほど、確かに自分がオールスパークを手に入れれば、オートボットにとって好ましくない使い方をしただろう。

 だとしても、奪われたのなら、奪い返せばよかったではないか。

 そんな道理も分からないのか。

 昔からアイツは肝心なところが抜けて……

 

 そこまで思考したところで、メガトロンは撫でた地面の感触が他と違うことに気が付いた。

 

「ッ!」

 

 全てのセンサーを使って、その下を探る。

 センサーは、巨大な空洞の存在を示していた。

 突き動かせるようにして、地面を構成する金属板を無理やり引っぺがす。

 案の定、その下は空洞になっていた。中から青い光が漏れてくる。

 迷わず、降りていく。

 そこは不思議な青い光に満たされた空間だった。

 メガトロンの巨体がギリギリ入れるくらいの広さだ。

 

「これは……」

 

 思わず、メガトロンは声を上げた。

 

 卵だ。

 

 トランスフォーマーの卵が壁と同化している。

 この空間を照らす青い光は、この卵から発せられていたのだ。

 壊さないようにそっと、卵に触れてみる。

 暖かかった。

 小さく弱く、ドクンドクンと脈打っている。

 

「…………」

 

 メガトロンは自分がオプティックから液体を流していることに気が付いた。

 

――まだ、こんな機能が残っていたか……

 

 とっくの昔に、枯れ果てたと思っていた。

 同時に、スパークから力が漲る。

 それは、新たな決意からくるものだった。

 

――守らねばならない。コイツらだけは、何としてでも! ……例え、師に背いてでも! そのためにも……

 

「行かねばならない! ゲイムギョウ界へ……!」




トランスフォーマーアドベンチャーは面白いですね。

ネプテューヌは新作がいろいろ発表されました。

……正直、今回の展開は袋叩きに合うのも覚悟の上です。

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