超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION   作:投稿参謀

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思ったより早く書けたので更新。
なんで語ることがありません。


第31話 ターゲットはノワール part2

 ツイーゲが突き止めたハッカーのアジトと思しき廃工場に、オートボットを建物の外に残してもぐりこんだ女神たちは、その奥、人の気配のする部屋の前にいた。

 先頭のノワールが少しだけ扉を開けて部屋を覗き込むと、そこには人影がコンピューターのディスプレイの前に座っている。

 あれこそ犯人に違いない。

 即時決断したノワールは、扉を蹴破るように開けて部屋の中に踏み込んだ。

 他の女神たちもそれに続く。

 

「動かないで!」

 

 ノワールをはじめとする女神たちは各々の武器を構えて犯人を睨みつける。

 

「手を上げて! ゆっくりこっちを向きなさい!」

 

 その声に従い、人影は手を上げ、椅子を回転させて座ったまま女神たちのほうを向いた。

 人影の全容は人間大のショッキングピンク色をしたメカだ。

 まさかディセプティコンの一員か?

 

「あなたね? ハッキングした犯人は! やっぱりディセプティコンだったのね!」

 

 そう声を上げるノワールに対し、ピンクのメカは嘆息するような音を出した。

 

「さっさと答えなさい!」

 

 強い調子で詰問するノワール。

 だが、ピンクのメカは突如立ち上がってシナを作るとクネクネと体を動かしだした。

 

「あは~ん♡ そんな他人行儀な喋りかたしないで~♡ アタシのことはアノネデスちゃんって呼んで♡」

 

 面 食 ら っ た の も 無 理 は な い ! !

 

 いきなり女のような口調で喋り出したメカ、アノネデス。

 しかし、その声はまぎれもなく男のものだ。

 

「オカマさん!? その見た目で!? ディセプティコンなのに!? いや、いままでにもガチホモのヒトとかいたけどさ!」

 

 ネプテューヌも思わず声を上げる。

 

「あ~ら、失礼ね! 心は誰よりも、乙女よ~♡ それにディセプティコンでもないわ。これでもれっきとした人間よ~♡」

 

 軽い調子で反論してくるアノネデス。どうやら、このメカニカルな外観はスーツか何からしい。

 

「ホント、分かりやすくオカマね……」

 

「しかも、ちょっと毒舌だったりするんですわよね。きっと」

 

 どこか呆れたようにブランが言うと、ベールがやんわりと意見を言った。

 

「あったり~! 胸だけデカい馬鹿女神かと思ったら、違うのね~!」

 

 その通りに辛辣な物言いのアノネデスに、ベールは顔をしかめる。

 

「あなたの性別なんて、どうでもいいわよ! 犯行を認めるの! 認めないの!」

 

 不機嫌なノワールに対し、アノネデスはこらえきれないように笑い声を漏らす。

 

「生で見るノワールちゃん…… やっぱかわいいわ。想像以上よ」

 

 アノネデスが呟いた内容に、ノワールは顔を赤くする。

 

「な!? 気をそらそうったって、そうは……」

 

「やだ、本気よ。ホ、ン、キ♡」

 

 言葉とともに、アノネデスは指をパチンと鳴らす。

 すると、暗闇にいくつものディスプレイが浮かび上がった。

 

「こんな写真とか撮っちゃって、ごめんなさ~い♡」

 

 問題は、その全てにノワールの姿が写っていることだ。

 

「なああああ!?」

 

「うわあ、あっちもノワール、こっちもノワール、ぜーんぶノワールだー!?」

 

 ノワールとネプテューヌが声を張り上げるのも無理はない。

 仕事中や、食事中のものはもちろん、就寝中、さらには着替え中や入浴中といった際どい物まである。

 明らかに盗撮写真だ。

 

「アタシ、ノワールちゃんの大ファンなの! ノワールちゃんのことならなんでも知りたくてつい出来心で~!」

 

 言いつつ自分の頭をポカポカと叩くアノネデス。

 女の子がやればまだかわいいのだろうが、やっているのはメカニカルなオカマである。

 現実は非情だ。

 このオカマに怒りつつも、ノワールは本題を忘れずに追及する。

 

「写真なんてどうでもいいのよ! 私が言ってるのはハッキングのことで……」

 

「あら、どうでもいいの? じゃあ、これも?」

 

 ノワールの言葉をさえぎりつつ、さらに指を鳴らすアノネデス。

 すると新たな写真がディスプレイに現れた。

 そこには、何かの衣装を編んでいるノワールの姿があった。

 それを見て、ノワールは目を見開く。

 

「ノワールがお裁縫してる!」

 

「そういうことする人だったかしら?」

 

 ネプテューヌとブランが疑問を呈すると、ノワールは慌てた様子で言い繕うように声を出した。

 

「そうなの! 私、案外家庭的なタイプでね! あは、あははは……」

 

「あの服、どこかで見たような?」

 

「気のせい! 100%気のせいだから!」

 

 誤魔化すように笑うノワールだが、ベールが写真に写った衣装を見て首を傾げると、さらに急いで否定した。

 

「ちょっとお!! それじゃないって言ってるでしょう!!」

 

「ふーん、それじゃないなら…… これのこと?」

 

 怒りの矛先を自分に向けるノワールに、アノネデスは今一度指を鳴らす。

 またしても新たな写真が現れた。

 そこに写っていたのは……

 

「ああああ!!」

 

「おお! これは!」

 

 青い鳥とか歌いそうなアイドルなノワール。

 白い軍服のような服に身を包んだ格闘ゲームなノワール。

 改造制服を纏った眼鏡で助手な感じのノワール。

 長刀を構えた忍(くノ一に非ず)なノワール。

 他にも様々なアニメやゲームのキャラクターの恰好をしたノワールだった。

 それぞれのキャラクターに合ったポーズを決め実にイキイキとしているのが写真からも伝わってくる。

 

「明らかにコスプレ写真ね……」

 

「あの服、四女神オンラインのコスプレだったんですわね」

 

 ブランとベールは納得がいったという風に声を漏らすが、当のノワールはそれどころではない。

 

「見ないでぇえええ!!」

 

 心の底から叫び、羞恥のあまり武器を落とす。

 そんなノワールを、アノネデスは興奮した様子で見つめる。

 

「やだ! 取り乱すノワールちゃんも、カーワーイーイー♡」

 

 そして、頬を押さえて頭を振るノワールをどこからか取り出したカメラで写真に収めた。

 インスタントカメラからはすぐさま羞恥に悶えるノワールの写真が吐き出される。

 

「こ、この……! いいわ、とりあえず盗撮の罪で牢屋に放りこんでやる!!」

 

 怒り狂うノワールだが、涙目で顔を赤らめ迫力はまったくなく、アノネデスは余裕を崩さなかった。

 

「あら、アタシがこの場を離れると…… この写真ぜーんぶ公開される手はずになってるけど、それでもいいかしら?」

 

「ふえ!?」

 

 アノネデスの言葉に、ノワールは目を点にする。

 そんな黒の女神を見て、アノネデスは満足そうに言葉を続けた。

 

「最初は独り占めって思ってたけど…… 世界中をノワールちゃんで埋め尽くすのも、楽しそうじゃない?」

 

 愕然とするノワール。

 

「悩みどころですわねー。こんな写真が公開されたら……」

 

「恥ずかしくて表を歩けないわね……」

 

 どこか呑気に言う、ブランとベール。

 

「大丈夫じゃないかなー? このノワール超かわいいしー」

 

 そう述べるネプテューヌだが、見事な棒読みだった。

 

「いいわよ…… やってみなさいよ!!」

 

 もはや怒りが頂点を迎えたノワールはこらえきれずに吼える。

 

「そのかわり、あなたの命はないわ!!」

 

 一瞬にして女神化したノワールは、大剣を振りかざして憎き盗撮犯に飛びかかった。

 だが、アノネデスはなおも楽しそうだ。

 

「そうこなっくっちゃ♡」

 

 もう一回指をパチンと鳴らすと、暗闇に浮かんだディスプレイがモンスターに変化して、ノワールたちに襲い掛かる。

 女神たちは問題なくこれを蹴散らすも、数が多い。

 その間に、アノネデスは部屋を出て行こうとする。

 

「うふふ、楽しかったわあノワールちゃん。あ、写真を公開するっていうのは嘘だから、安心してね♡」

 

「そうかい…… それが聞きたかったんだ……」

 

 その瞬間、アノネデスが手をかけた扉が、部屋の外側から爆発した。

 

「きゃああああ!!」

 

 悲鳴を上げて吹き飛ばされるアノネデス。

 繰り返すが彼は男である。

 

「な、なんなのよ、いったい?」

 

 上体を起こして爆発したほうを見れば、その煙の向こうに巨大な影が立っていた。

 女神たちも突然の爆発に何事かとそちらへ視線を向ける。

 

「あ……」

 

 ノワール思わずその名を呼んだ。

 

「アイアンハイド……」

 

 黒い無骨な体躯に両腕のキャノン。

 ノワールのパートナーであるオートボットの戦士がそこにいた。

 アイアンハイドは鋭い目つきでアノネデスを睨みつける。

 そのオプティックには凄まじい怒りが浮かんでいた。

 

「家のノワールのことを盗撮してくれたクズやろうが…… 覚悟はできてんだろうな……」

 

「ど、どうしてそれを……」

 

 そう漏らしたのはアノネデスではなくノワールのほうだ。

 

「あ、ごめーん! 通信繋いだままだったー!」

 

 さらにそれに悪びれずに答えたのは、アーパー女神ことネプテューヌである。

 

「……はい? はぃいいい!?」

 

 その意味に気付いたノワールは愕然とした。

 ネプテューヌたちの使うインカム型通信機は以前よりバージョンアップされており、音声のみならず映像までもリアルタイムでオートボットたちに伝えることができる。

 つまり……

 

「ああああ!?」

 

 ノワールが、なにがなんでも隠したかったコスプレ写真が、余すことなくオートボットたちに見られたということだ。

 あまりのことに奇声を上げ続けるノワール。

 一方、アノネデスは多少ショックから回復したらしく、殺気を滲ませる黒いオートボットを睨み返した。

 

「何よ、あんた! 家のノワールってなによ! 家のって!!」

 

 アノネデス的にそこが大事らしい。

 巨大ロボットに見下ろされているにも関わらず、ふてぶてしいこの態度。ある意味豪胆だ。

 

「あんた、ノワールちゃんのなんなのよ! まさか、恋人とか言う気じゃないでしょうね!!」

 

 ノワールの大ファンを自称するアノネデスにとって、彼女の傍にいる鋼の巨人は気に入らないのだろう。恐怖を感じさせない声色で問い詰める。

 

「……別に俺は、ノワールの恋人だとか言い出すつもりはねえよ。あくまで任務上の相棒ってだけだ」

 

 静かに、しかし砲口を危険に光らせながらアイアンハイドは口を開いた。

 その言葉に、ノワールは少しだけショックを受けたように表情を曇らせる。

 

「なら、あんたにどうこう言う資格は……」

 

「だがなあ!」

 

 我が意を得たりとばかりに、まだ何か言おうとするアノネデスをさえぎって、アイアンハイドは大声を出した。

 

「頑張り屋で、誰よりこの国のことを思ってる、そんなコイツが大切になっちまってな!! 俺にとってノワールはもう他人じゃねえ! 娘みたいなもんだ!!」

 

「は、はい?」

 

 衝撃的な発言に固まるアノネデス。

 一方ノワールはと言うと……

 

「アイアンハイド……」

 

 なんかニヤけてた。

 

「ノワールが満更でもなさそうな件」

 

「殿方に父性を求めるタイプでしたのね……」

 

 それに対し呆気に取られるネプテューヌとベール。

 ブランも同様だ。

 

「な、なによ! 父親気取りってわけ? ロボットの癖に何の権利があって……」

 

「じゃかわしい!!」

 

 気に食わないのか難癖をつけてくるアノネデスに向けて、アイアンハイドは発砲した。

 

 もう一度言う、発砲した。

 

 爆音とともにアノネデスの前の床に大きな穴が開く。

 

「ヒッ……」

 

「そんなわけでだ。大事な娘を盗撮したストーカー野郎は……」

 

 まだ硝煙が上がる両腕のキャノン砲を、ストーカーに向ける。

 

「死ねやゴラァアアアア!!」

 

 アイアンハイドはアノネデスに向けてキャノン砲を乱射しはじめた。

 

「いやぁああああ!!」

 

 悲鳴を上げ、爆発の合間を逃げ回るアノネデス。

 とりあえずアイアンハイドの砲撃をよけられるのがすごいが、黒いオートボットのほうも怒りのあまり照準装置がうまく作動していない。

 メチャクチャに放たれる砲撃は床を抉り、柱を砕き、壁を破っていく。

 

「ちょ、これやばいって!」

 

 切羽詰まったネプテューヌの言葉のとおり、度重なる爆発に耐え切れず建物そのものが崩れはじめている。

 女神たちは落ちてくる瓦礫をよけて外へと退避していった。

 

「いやあああ!!」

 

「待てやゴラァ!! 腸ぶちまけて死にくされぇえええ!!」

 

 その間にも、地獄の鬼ごっこは続く。

 オカマとオートボットは、瓦礫と爆炎の向こうに消えていくのだった。

 

  *  *  *

 

 やがて廃工場は完全に崩れ去り、瓦礫の山と化した。

 その中央に、息も絶え絶えでスーツも焼け焦げ破損しているアノネデスと、殺気を漲らせたアイアンハイドが立っていた。

 見た目だけだと完全にどっちが悪者か分からない。

 

「や、やめて……」

 

「ダメだ」

 

 飄々とした態度はどこへやら。ズタボロのアノネデスは助命を願うが、怒りに我を忘れているアイアンハイドは聞き入れない。

 止めを刺すべくキャノンを撃とうとするが……

 

「アイアンハイド、そこまでにしておけ」

 

 寸でのところで肩に手を置かれて止められた。

 もちろん、総司令官オプティマス・プライムにだ。

 

「止めるなオプティマス! このクズ野郎をくず肉の山に……」

 

 反論するアイアンハイドだが、オプティマスは首を横に振った。

 

「彼を裁くのは我々の仕事ではない。それは、この世界の司法の役割だ」

 

 総司令官の静かな言葉に、アイアンハイドはチッと舌打ちのような音を出しつつキャノンを引っ込めた。

 ホーッと息を吐くアノネデス。

 だがアイアンハイドはそんなアノネデスをギロリと睨む。

 

「いいか? 今度同じようなことをしてみろ。そのときは法も秩序も知ったこっちゃねえ。俺がおまえを殺す!」

 

 アノネデスは何も言えずに震えあがった。

 

  *  *  *

 

 瓦礫の山と化した廃工場の敷地の外。

 

「結局、ハッキングは認めずじまいだったわね……」

 

 警備兵に引っ立てられるアノネデスを見ながら、ブランが嘆息混じりに言った。

 

「まあ、途中からそれどころじゃありませんでしたし……」

 

 ベールは苦笑する。

 

「特にノワールは……」

 

 その視線の先では、ノワールが妹とそのパートナー、そして自分のパートナーを問い詰めていた。

 オプティマスが中継したノワールのコスプレ写真を、妹たち、そしてオートボットたちも見ていたらしかった。

 

「見たの? あの写真、見たの!?」

 

「ええと……」

 

「ああ、見たぜ!」

 

 言葉に詰まるユニに対しサイドスワイプはあっけらかんと答える。

 

「ちょっと、サイドスワイプ……」

 

「いいじゃねえか。コスプレって、よーするにアニメとかゲームの登場人物にあやかろうってんだろ? どこが恥ずかしいんだ?」

 

 なにを当然のことを、と言わんばかりのサイドスワイプ。

 

「うむ、我々オートボットも、歴史上の偉人や物語の英雄にあやかり、彼らの恰好を真似たりすることはよくあることだ!」

 

 そこにオプティマスも乗っかってきた。

 

「コスプレってなあに?」

 

 首を傾げるのはロムだ。

 

「まあ、あれだ。人気のアイドルやモデルの恰好をみんな真似するだろ? あれと似たようなもんなんだろ、コスプレって」

 

「分かる分かる! とりあえず形から、みたいな!」

 

 スキッズとマッドフラップが陽気に答えた。

 どうやら、オートボットたちはコスプレとは、『憧れの人物になり切るためにその恰好を真似ること』だと思っているらしい。

 当たらずとも遠からず。

 しかし、それで納得しないのがノワールである。

 

「うわああああ!!」

 

 羞恥に顔を押さえて、声を上げるノワール。

 どう言われようと恥ずかしいもんは恥ずかしいのである。

 

「って言うか、どうしてあなたたちがここにいるのよ! ああー! もう嫌ぁ!! あなたたち、今日見たことはぜーんぶ忘れなさいよ!!」

 

 喚くノワールに、一同は面食らう。

 そんな輪から離れて、ピーシェは一人膝を抱えていた。

 大人たちの話にはついていけないし、お腹は空いた。

 

「ぴーこ!」

 

 それを目ざとく見つけたのはネプテューヌだ。

 彼女は懐から、一つのプリンを取り出した。

 蓋には大きく『ねぷの』と書かれている。

 

「これ食べる? こっそり持ってきたんだ!」

 

「うん! ぴぃたべる!」

 

 たちまち笑顔になるピーシェ。

 プリンをもらったこともそうだが、ネプテューヌからもらったことが何より嬉しいらしい。

 

「あ、でも半分こね!」

 

「うん! ねぷてぬと、たべる!」

 

  *  *  *

 

 かくして、ラステイションの刑務所に収監されたアノネデス。

 牢屋の中で、彼は一人思考していた。

 彼は依頼を受けて動く、雇われハッカーだ。

 今回はラステイションのとある大企業が依頼主で、オートボットの技術を得たいと言うことだった。

 だがアノネデスの考えでは、本当の理由は嫉妬だ。

 積み重ねてきた自分たちの技術より、突然現れたオートボットの技術のほうがもてはやされるのが気に食わないのだろう。だから何とかその足を引っ張りたい。

 つまらない理由だが、自分としてもオートボットには一度挑戦してみたかったし、依頼を受けた。

 結果はこのざまだが……

 まあ、生でノワールに会えたことを思えばお釣りがくる。

 適当なところで脱獄して、ほとぼりが冷めるのを待とう。

 

「おい」

 

 そこまで思考したところで、看守から声がかけられた。

 

「面会だぞ」

 

  *  *  *

 

 連れていかれたのは、面会室ではなく刑務所の中庭だった。

 そこで待っていたのは、あの忌々しいオートボットの内の二人、オプティマス・プライムと、その副官ジャズだった。

 なるほど、これでは面会室では話ができない。彼らの巨体は刑務所の中には入らないからだ。

 

「それで?」

 

 アノネデスは少しでもイニシアチブを握るべく、自分から切り出した。

 

「アタシに何の用かしら? オートボットさんたち」

 

 彼本来の飄々とした調子を取戻し、アノネデスは薄く笑う。

 

「おまえにいくつか質問があって来た」

 

 オプティマスは重々しい声を発した。

 そのオプティックが探るような光を帯びる。

 

「おまえはディセプティコンと繋がっているな?」

 

「悪いけど、契約上の守秘義務があるの。その質問には答えられないわ」

 

 ヤレヤレと首を振るアノネデス。

 

「だろうな。アノネデス、本名不明、年齢不明、国籍不明の凄腕雇われハッカー。享楽主義者ではあるが、契約には至って忠実。情報のとおりだ」

 

 スラスラとそう言うのは、オプティマスの傍らに立つジャズだ。

 

「調べたのね。そのとおりよ、アタシは契約者を売らないわ。この世界、なんだかんだで信用が第一だしね」

 

 ふてぶてしい態度のアノネデスに、オプティマスはオプティックを細めた。

 

「相手がディセプティコンでもか? 奴らは女神を傷つけたというのに。おまえの執着するノワールのこともな」

 

「例え相手が何者であろうと関係ないわ。それにノワールちゃんなら乗り越えられるって信じているの。……あなたたちの力を借りずとも、ね」

 

 いけしゃあしゃあと言ってのけるアノネデス。さすがに自称大ファンは伊達ではないということか。

 

「はっきり言ってアタシ、あなたたちみたいな正義の味方面した奴らって大嫌いなの。正義なんて、子供向けのフィクションの中にしか存在しないわ」

 

 アノネデスは辛辣な言葉を吐く。

 それは彼なりの信条なのかもしれない。

 

「私は正義の味方を名乗ったおぼえはない。ただ、自分なりの正義を信じているだけだ」

 

「加えて、少なくとも女神の味方ではある…… だが、まあ今はどうでもいい」

 

 総司令官の言葉に一言付け加え、ジャズは本題に入った。

 

「どうだ? 司法取引に応じる気はないか?」

 

「司法取引?」

 

 訝しげなアノネデスに、ジャズは頷く。

 

「そうだ。俺たちが女神に進言すれば、おまえの罪を軽くできる。ノワールだって他の三人から言われればノーとは言えない」

 

「だから、顧客の情報を教えろと? 冗談!」

 

 鼻で笑うオカマハッカーに、ジャズはニヤリと人の悪い笑みで返した。

 

「いやそれはいい。もう今回の主犯は掴んだからな」

 

 アノネデスは今度こそ驚愕した。

 

「な!? いったい、どうやって……」

 

「何、ここらへん一帯の通信を傍受したのさ。その中からおまえさんの声を探り出すなんざ、俺にとっては簡単なことだ」

 

 笑うジャズ。

 確かに、アノネデスは牢獄のなかで依頼主と連絡を取った。しかしそれは秘匿された回線を使ってのことだ。

 

「俺にあの程度の秘匿は通じないぜ。しかしまさか、ラステイション内の企業だとは思わなかったがな」

 

 陽気に言ってのけるジャズに、わずかに嘆息するような気配を見せるオプティマス。

 自信があっただけにアノネデスは悔しげに唸る。

 

「ぐッ…… じゃあ、何を取引しようってのよ!」

 

「なに、俺たちに雇われないか、って話さ」

 

 またしても、アノネデスは驚く。

 

「……ホンキ?」

 

「本気さ! おまえさん、ハッカーとしてだけじゃなく、研究者、科学者としても有能みたいだからな」

 

 だから、仮にディセプティコンと組まれると厄介なので、いっそ味方に引き込もうというのがオプティマスとジャズの思惑だった。

 その言葉に、アノネデスは少し考え込むそぶりを見せる。

 だが、やがて首を横に振った。

 

「やめとくわ。正義の味方なんて、それこそ性に合わないし」

 

 ジャズは、さらに何か言おうとするが、それを手振りで止めてオプティマスが言い放った。

 

「アノネデス、君は優秀なハッカーであり、科学者だ」

 

「あらどうも」

 

「だが、『最高の』ではない」

 

 静かなオプティマスの言葉に、アノネデスを包む空気がわずかに不機嫌なものになる。

 

「最高のハッカーはサウンドウェーブだ。我々と組めば、サウンドウェーブと張り合う機会があるかもしれない」

 

 ディセプティコンにつけば、どんなにあがいても二番手扱いだぞ、と言外にそう滲ませるオプティマス。

 アノネデスは内心で悩む。

 実の所、彼は一時期ディセプティコンに接触していたことがある。

 マジェコンヌの計画を探り当て、メガトロンに伝えたのもアノネデスだ。

 理由は単に、面白そうだったから。

 享楽主義者たるアノネデスにとって、倫理道義は二の次三の次だ。

 だが、すぐにやめてしまった。

 ディセプティコンは『真面目』な奴らだったからだ。

 破壊大帝メガトロンを頂点とし、規律と統制を是とする軍隊。

 メガトロン本人はともかく、他の連中はアノネデスにもそれを強いようとした。

 さらに、アノネデスはあくまでも『サウンドウェーブの代わり』であり、それも気に入らなかった。

 

「仮の話だが、君がディセプティコンに接触したことがあるとしよう。さらに、何らかの理由で離反したとしよう。すると、ディセプティコンにとって君は裏切り者だ。ビジネスなどというのは、奴らにとって言い訳にはならない。必ず君を殺しにやってくる。いつかはな。……すべからく、仮の話だが」

 

「だが俺らと組めば、少なくともディセプティコンからは守られる。……『それ以外』からは自己責任だけどな」

 

 たたみかけるようなオプティマスとジャズの言葉に、アノネデスは揺れる。

 

「……これは私の考えだが、最高のハッカーの下につくよりは、最高のハッカーと戦ったほうが、『楽しい』と思うのだがな」

 

 オプティマスのその言葉が止めだった。

 

「……いいわ。その取引に応じる。ただし、これまでの客の情報は一切、言わないわ」

 

「それでいいさ」

 

 ジャズは快活に笑い、オプティマスは厳かに頷いた。

 

「……あんたたち、意外とくわせものね」

 

 溜め息とともに出たアノネデスの言葉に答えず、オプティマスは不本意であることを示すが如くオプティックを閉じるのだった。

 

  *  *  *

 

 ラステイション教会。

 夕日のなかノワールはテラスでたそがれていた。そばにはユニと立体映像のアイアンハイドとサイドスワイプもいる。

 

「ねえ、ユニ……」

 

 ノワールは不安げにきりだした。

 

「コスプレやってる私なんて、嫌よね……」

 

 実の姉が、コスプレにうつつを抜かしているなんて、嫌に決まってる。

 

「もし、ユニが嫌なら私、やめても……」

 

「ううん、やめないで」

 

 しかしユニは姉の言葉をさえぎって微笑む。

 

「え?」

 

「そういうことができるのって、お仕事に余裕があるからでしょ?」

 

 少しはにかむユニに、ノワールは微笑み返す。

 

「……そうね。最近時間ができたから」

 

「それって、アタシもちょっと役に立てるようになったからかな? な~んて思って」

 

 控えめなその言葉に、ノワールは少し悪戯っぽい表情を浮かべる。

 

「う~ん、それはどうかしら?」

 

「え?」

 

「ちょっとどころじゃないわ。すごく頼りにしてる!」

 

「お姉ちゃん……」

 

 感極まるユニ。

 姉妹はニッコリと微笑み合う。

 

『これで一件落着、かな?』

 

 それを見てサイドスワイプが声を漏らした。

 

『よかったな、『お父さん』』

 

 そしてからかうように師を見やる。

 当のアイアンハイドはブスッとしていた。

 振り返ったノワールは、そんな黒いオートボットを見て照れたように顔を赤くする。

 

「その…… アイアンハイドとサイドスワイプもありがとう。二人のことも頼りにしてるから」

 

『おう!』

 

 陽気に答えるサイドスワイプに対し、アイアンハイドはムッツリとしたままだ。

 

『……なあ、ノワール』

 

「なに?」

 

『俺はおまえさんのコスプレについてとやかく言うつもりはない。そもそも、何が恥ずかしいのか俺には分からんしな』

 

 何か真面目な様子のアイアンハイドに、ノワールは少し気圧される。

 

『だけど…… だけどなあ』

 

 何かを堪えるように、立体映像のアイアンハイドは震える。

 

『前々から思ってたが、おまえの恰好、少し露出度が高すぎるだろ!?』

 

 その言葉に、ノワールは一瞬キョトンとする。

 

「はい?」

 

『あのコスプレにしてもそうだ! 足だの肩だの胸元だの! 惜しげもなく晒しおってからに! そんなんだからあのオカマ野郎みたいな変態を呼び寄せるんだろうが!』

 

「はぃいいい!?」

 

 だんだんとヒートアップするアイアンハイドに、ノワールは面食らう。

 

「私がどんな格好しようと、関係ないでしょう!」

 

『あるわ! 俺はおまえを心配してだなあ……』

 

「うるさいうるさいうるさーい!!」

 

 喧嘩をはじめるノワールとアイアンハイド。

 それを見て、ユニとサイドスワイプは顔を見合わせて苦笑する。

 

 その姿は、本当の家族のようだった。

 

 しかし、今回の話はここでは終わらない。

 

「どいてどいて~!」

 

 突然、どこからかそんな声が聞こえてきた。

 一同は辺りを見回すが、声の主の姿はない。

 

「どいて~!!」

 

 なんか既視感を感じる展開だ。

 

 その声は上空からだった。

 ノワールが見上げると少女が空から落ちてくるところだった。

 

「のわぁあああ!?」

 

 驚くノワールは高速で落下してくる少女をかわすこともできず、轟音をたてて衝突した。

 その大きな音に、何事かと部屋の中にいた女神たちと立体映像のオートボットたちも駆けつける。

 

「何今の音! ねぷぷぅう!?」

 

 場の惨状を見て、ネプテューヌが素っ頓狂な声を上げる。

 何者かが倒れ伏して呻くノワールを尻にひいていた。

 

「あ、いた~い……」

 

 唖然とする一同をよそに、その何者か、空から落ちてきた少女は言葉とは裏腹に呑気そうな様子だ。

 クシャクシャとした薄紫の髪を三つ編みにした、柔らかい雰囲気の少女だった。

 その場にいる誰も、見たこともない少女だ。

 

「だ、だれ?」

 

「ん~?」

 

 ネプテューヌが思わず声に出すと、少女はのんびりとした調子で答えた。

 

「あたし~? あたしは~、プルルートっていうの~」

 

 そして次に少女……プルルートが言い放った一言は、一同を驚愕させた。

 

「プラネテューヌの~、女神なんだよ~」

 

「へ?」

 

『ええええ!?』

 

 女神もオートボットも、等しく声を上げた。

 突如現れたプラネテューヌの女神を自称する少女、プルルート。

 彼女はいったい、何者なのだろうか?

 謎を残したまま、プルルートはニッコリと微笑むのだった。

 




ついに降臨した、プラネテューヌ残虐大帝。

その活躍は次回……

ところで番外編ですが、『オリキャラとアニメ版にでてこないメーカーキャラと玩具組が活躍する外伝』か、『両軍がゲイムギョウ界を訪れるまでの過去話』のどちらかにしようと思っています。

※追記
アノネデスはもともと、ディセプティコンに合流する予定でした。そのための伏線もいくつか張ってありました。
しかし、書いてる途中でいっそオートボット側についたほうが面白いのでは? と思いこういうことになりました。(ハッカー枠はすでにサウンドウェーブがいるし、科学者枠はショックウェーブが、レイの相方にはフレンジーたちがすでいるのでディセプティコンだと活躍できない)
このように作者は、その場の思いつきで伏線を投げ捨てるいい加減な奴です。

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