超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION   作:投稿参謀

32 / 203
第二次決戦、終幕。


第27話 希望

 ついに全ての女神候補生が女神へと変身し、状況が好転するかに思われた。

 だが、その矢先、女神を捕らえているアンチクリスタルの結界が異変を起こし、黒い液体が女神たちを飲み込もうとしていた。

 

 さらに。

 

 戦場にエイリアンジェットの姿で飛来したメガトロンは空中でロボットモードに戻ると瞬時にフュージョンカノンを組み上げ、戦場のど真ん中目がけて発射する。

 その場で戦っていたオートボットもディセプティコンも蜘蛛の子を散らすように退避した。

 エネルギー弾は地面に着弾すると大爆発を起こし、地上のトランスフォーマーたちも空中のマジェコンヌや女神候補生たちも爆風に煽られる。

 その態をまったく気に留めず、メガトロンは炎が燻る爆心地に悠々と降り立った。

 

「このザマはなんだ? スタースクリーム、そして我が同盟者よ……」

 

 周りを睥睨してメガトロンは唸るような声を出す。

 炎の作り出す煙と陽炎の向こう側にいる破壊大帝は、とてつもなく恐ろしげだった。

 彼が現れただけで、戦場の空気が一変する。メガトロンはそういう力の持ち主だった。

 

「……見ての通り、敵を迎え撃っている。何か不満でも?」

 

 マジェコンヌが不敵に言うと、メガトロンは鼻を一つ鳴らすように排気した。

 

「まあ、よかろう。スタースクリームは……」

 

 女神の力を得たマジェコンヌを見ても、大した反応も見せずにそう言って結界の中、みっともない姿で固まっているスタースクリームに視線をやる。

 

「しばらく、そこで沙汰を待っておれ」

 

 冷たく言うと、恐怖と屈辱に震えるスタースクリームを無視してオートボットたちに向き直る。

 

「さて、オートボットどもよ、俺の留守中、好き勝手やってくれたようだがここまでだ」

 

 その周囲に、戦闘不能になったメンバーと、いまだ双子に悪戦苦闘しているデバステーターを除くディセプティコンが集結してきた。

 

「ディセプティコン軍団、攻撃(アタック)!!」

 

 指揮官の帰還に戦意の高まった兵士たちは、仇敵を倒すべく前進を開始した。

 他ならぬメガトロンが、その先頭に立って敵陣に突っ込んでいく。

 

「『オートボット、迎え撃て!!』」

 

 バンブルビーがオートボットたちを鼓舞するように号令をかけ、先陣を切ってメガトロンに突っ込んでいく。

 もはや、メガトロンを倒さねば生きて帰ることはできないのだ。

 今の自分たちには女神の加護が付いている。

 きっと大丈夫だ。

 

 最後の戦いが、始まった。

 

  *  *  *

 

「まあ、予定通りっちゅね……」

 

 激戦が繰り広げられる中、ワレチューは一匹でフィールドを見張っていた。

 正直すぐにでも逃げ出したいが、メガトロンへの恐怖がそれを阻んでいる。

 最終的な勝者はメガトロンになるだろう。マジェコンヌには悪いが、役者が違う。

 それにしても、こんな恐ろしい戦場に愛しのコンパがやって来るとは思わなかった。

 できることならば、コンパには安全な場所にいてほしかったのに……

 

「あ、あの~…… ネズミさん?」

 

 ワレチューが悶々としていると、当のコンパの声が聞こえてきた。

 ついに幻聴が聞こえるようになったのだろうか?

 

 否!

 

「ちゅ? ぢゅぅうう!!」

 

 愛しの天使、コンパがワレチューの近くに立っていた。

 

「あ、あの…… いっしょにいっぱいお話しないですか? ……あっちで」

 

 しかも恥ずかしいのか若干棒読みながらも自分を誘ってくるではないか。

 

「おっぱ!? おっぱいい話っちゅか!」

 

 なにをどうしたらそうなるのか。

 耳は正常か。

 むしろ、頭は大丈夫か。

 第三者がいれば、そんなツッコミが殺到するであろう言動で、目を輝かせるワレチュー。

 普通ならドン引きだろう。

 だが、天然なコンパは第三者がいるなら予想しえない斜め上を行く行動を取った。

 

「はいです!」

 

 満面の笑みである。

 

「こ、こ、コンパちゅあぁああああんんッッ!!」

 

 かくしてワレチューはメガトロンへの恐怖を忘却の彼方に追いやり、コンパにホイホイとついていったのだった。

 そこへワレチューの死角を通ってアイエフがフィールドへと近づいていった。

 

「ジャズ! 聞こえてる?」

 

 彼女が声をかけたのはフィールドの中で倒れているオートボットの副官ジャズだ。

 

「アイエフか! 聞こえてるぜ!」

 

 ジャズは倒れ伏しながらも、軽快に答えた。

 しかし、その声は平時に比べ無理をしている感じがする。

 アイエフは少し遠くにいるジャズにも聞こえるように声を出す。

 

「イストワール様からメッセージがあるの! ネプ子たちに聞こえるように再生できる?」

 

「任せときな! データを送信してくれ!」

 

 一つ頷き、アイエフは携帯電話でジャズにデータを送る。

 するとジャズは自身に内蔵したサウンドシステムで、イストワールからのメッセージを再生する。

 

『みなさん、大変なことが分かりました……』

 

  *  *  *

 

 戦場は今やメガトロンとマジェコンヌの庭と化していた。

 

 オートボット戦士たちの銃弾やエネルギー弾をもろともせず突っ込んできたメガトロンは、手始めにバンブルビーを横薙ぎのチェーンメイスで吹き飛ばす。

 続いて、斬りかかってきたサイドスワイプとロードバスターの腕を掴んで二人を振り回し、はるか遠くに放り投げた。

 そして、突進してきたレッドフットの腹に回し蹴りを叩き込む。

 歴戦の、あるいは見違えるような成長を遂げたオートボットの戦士たちが、いいように翻弄されていた。

 唯一なんとか勝負に持ち込めているのがラチェットで、EMPブラスターを的確に急所に当て、接近するとメガトロンの振り回すチェーンメイスをかわして、回転カッターで関節部を切りつける。

 だが、ラチェットのあらゆる攻撃は効果がないか、あったとしても微々たるものだった。

 さらに戦士たちが死にもの狂いで与えたダメージは、僅かな間に癒えていく。

 これが、底知れない破壊力と桁違いの怪力、さらには並はずれた自己再生能力までも備えた、ディセプティコン破壊大帝メガトロンなのだ。

 

 最初こそ押していた女神候補生たちは、マジェコンヌに次第に逆転されていった。

 ネプギアとユニの放つビーム弾はことごとく防がれ、かわされる。

 ロムとラムの魔法も、その足を止めるには至らない。

 切り結ぼうとするネプギアには、太刀による斬撃を撃ち込み。

 狙い撃ってくるユニには、それを掻い潜り接近して蹴りと大剣の連撃を喰らわせ。

 魔法を使うロムとラムには、横薙ぎの戦斧の一撃でまとめて薙ぎ払い。

 怯んだ候補生たちに、容赦なく長槍で怒涛の刺突を浴びせる。

 マジェコンヌの使う技は、女神たちのそれと寸分違わず、あるいはそれ以上の威力とキレを持っていた。

 強さに対してどこまでも貪欲なマジェコンヌは、女神たちの技を徹底的に研究しつくし、さらには自分なりの改良までも加えているのである。

 彼女の最大の武器は、野望のため自らを鍛え上げたその向上心なのである。

 

 主君の攻撃の合間を縫うように、サウンドウェーブが振動ブラスターで倒れるオートボットたちを狙う。

 ブラックアウトとグラインダー、そしてブロウルがあらゆる火器で弾幕を張り反撃を封じる。

 それでも反撃を試みるレッカーズに、バリケードとボーンクラッシャーが飛び出してきて、格闘攻撃を繰り出す。

 

 スキッズとマッドフラップはいまだデバステーターに食いついているが、この巨大な怪物は体を揺らし全身の火器を発射して、自分の体にへばりつくノミのようなオートボットを振り落とそうとしてくる。

 この戦況でデバステーターまでもが他のオートボットたちを狙いだしたら全滅は必至だ。

 その一念で死力を尽くして怪物にしがみつく双子のオートボットの限界も、ジリジリと近づいていた。

 

  *  *  *

 

『アンチクリスタルの力は、シェアクリスタルとみなさんのリンクを邪魔するだけではないようなんです』

 

 イストワールのメッセージが語る内容は衝撃的だった。

 女神たちを絡み取ろうとする手は次第にその数を増し、ベールやブランはすでに体が麻痺しはじめている

 

『行き場を失ったシェアエナジーを、アンチエナジーという物に変える働きもあるみたいで……』

 

 それが、この黒い液体の正体であり、マジェコンヌの力の源でもあるのだろう。

 

『密度の濃いアンチエナジーは、女神の命を奪うと言われています……』

 

「で、どうすればいいの!?」

 

 ネプテューヌが普段の呑気さを感じさせない必死な声を上げる。

 もはや一刻の猶予もない。

 

『今の所、対処法は分かりません。せめて『みっか』あれば……』

 

「ベール!!」

 

 イストワールのメッセージをさえぎって、ネプテューヌが悲鳴じみた声を上げた。

 黒い液体、高密度のアンチエナジーにベールが沈みかけていた。

 

「ネ、ネプテューヌ……」

 

 ベールはネプテューヌに向け、できる限り手を伸ばす。ネプテューヌは必死になってその手を掴んだ。

 だが、そこでベールは力を使い果たし、目をつぶってアンチエナジーに沈んでいく。

 

「ジャズ……」

 

 最後に、パートナーの名を口にしながら。

 

「だめぇえええ!!」

 

 ネプテューヌの必死の声も虚しく、緑の女神はアンチエナジーの中に消えた。

 

「ベール……」

 

 オートボットの副官の顔が絶望に染まる。

 

「ノワール……!」

 

 同じようにアンチエナジーに沈みゆくブランは、ノワールの手を掴もうと力を振り絞る。

 そして、やっと手が届いたそのとき、

 

「……ミラージュ」

 

 素直でない赤いオートボットの名を呟き、白の女神は力尽きた。

 

「……おぉおおおお!!」

 

 ミラージュが声にならない叫びを上げ、体を動かそうともがく。

 だが、無駄なことだった。

 

「あッ……!」

 

「え? お姉ちゃん!?」

 

 ロムとラムも異変に気付くが、マジェコンヌの激しい攻撃を前に助けに向かうことができない。

 アイエフは、銃で結界を発生させている機械を狙い撃つが、機械にはまるで効かない。

 コンパもワレチューのもとを離れ、涙を流しながらビーム弾を結界に浴びせるが意味はなかった。

 

「コンパちゃん…… 悲しいけどそれ無駄なのよねっちゅ……」

 

 そんな二人を見て、ワレチューが嘆息とともにつぶやく。

 

「なんなのアレ!?」

 

「わ、分かんない……」

 

 並んで戦うユニとネプギアが、茫然と疑問を口にする。

 その答えはすぐに得られた。

 

「アンチエナジーはああやって女神を殺すのだ!」

 

 狂気じみた笑みを浮かべたマジェコンヌが言う。

 その身には、アンチエナジーが極限まで満ちている。

 

「ネプテューンブレイク!!」

 

 マジェコンヌは、かつてメガトロンにさえ大きなダメージを与えたネプテューヌの必殺技を放つ。

 縦横無尽に飛び回り、一塊になった女神候補生たちを無数に斬りつける。

 

「「「「きゃああああッ!!」」」」

 

 四人の妹たちは悲鳴とともに地面に叩き落とされた。

 

「そんな……」

 

「嘘だろ!?」

 

 唖然とするスキッズとマッドフラップは、ついにデバステーターの巨体から振り落とされた。

 デバステーターは大きく咆哮すると鬱陶しい思いをさせてくれた双子のオートボットの上に両の手を振り下ろす。

 逃げる間もなく、悲鳴を上げることさえできずにスキッズとマッドフラップは潰された。

 

 オートボット戦士たちはディセプティコンの猛攻の前にほとんどが倒れていた。

 サイドスワイプは、残る力を振り絞ってメガトロンに斬りかかる。

 だがメガトロンは片手を砲に変えると、サイドスワイプに撃ち込む。

 ブレードを交差させて防いだものの、大きく吹き飛ばされたサイドスワイプは地面に落ちた。

 地面に激突する寸前、その見開かれたままのオプティックが絶望に打ちひしがれるユニを映していた。

 

「ネプ……テューヌ……」

 

「ノワー……ル……」

 

 もはや液体を超えて固体になるほどの密度に至り、無数の蛇のような実体を持ったアンチエナジーに飲み込まれ、紫の女神と黒の女神は姿を消した。

 それでもお互いに手を伸ばし、しっかりと握り合いながら。

 

「アイアン……ハイド……」

 

「オプっち……」

 

 パートナーの名を呼びながら。

 

「ノワール! ノワールぅうう!! うおおおお!!」

 

 アイアンハイドはウォッシャー液を流して吼える。

 

「ネプテューヌ……」

 

 そしてオプティマスは、茫然とアンチエナジーの結界を見ていた。

 何が起こったのか理解できないと言わんばかりに。

 

「お、お姉ちゃん……!」

 

 廃棄物処理場の荒れた大地に墜とされたネプギアは、息も絶え絶えに姉を呼ぶ。

 だがその目の前で、三角錐の結界から光が失われる。

 まるで、女神たちの命の火が消えてしまったかのように。

 

「いやぁああああああッ!!」

 

 あらん限りの声で、ネプギアが啼く。

 

「―――――!!!!」

 

 その声に呼応するように、バンブルビーが咆哮しメガトロンに最後の攻撃を試みる。

 だがメガトロンはよけようともしない。

 力無く胸板を叩くに終わった拳のお返しに、右腕のチェーンメイスの鉄球部分を直接手首から生やす形にして、小柄な情報員の顔に渾身の力で叩き込む。

 バンブルビーは爆発したかのような音を立てて十数メートルも吹き飛ばされ、仰向けに倒れてピクリとも動かなくなった。

 

「……実際の所」

 

 メガトロンは動かないバンブルビーを見て静かな声を出した。

 

「貴様たちは頑張ったよ。賞賛に値する。俺がいなかったことを差し引いてもな……」

 

 そこに、いつものような嘲笑は一切なかった。

 

「だが、希望は尽きた」

 

  *  *  *

 

 果てしない闇の中。

 ネプテューヌの意識は夢の中のような酩酊感に包まれていた。

 

 ――どこだろう、ここ……

 

 生き物のように蠢く暗黒が辺りを取り巻いている。

 

 ――わたし、死んじゃったのかな……

 

 そうおぼろげに思考したとき、どこからか心臓の鼓動が聞こえてきた。

 

 ――ううん、違う。

 

 その鼓動は、自分の胸の中から聞こえているのだ。

 ネプテューヌの命は、いまだ息づいていた。

 

 ――でも、どうして? シェアエナジーはもう、とどかないはずなのに……

 

 そのとき、気が付いた。

 両の手のひらに流れ込んでくる、シェアの熱に。

 

 ――あったかい……

 

 それは、ノワールだ。

 反対側にはベールもいる

 二人の先にはブランの存在を感じた。

 自分も含めた四人の女神が、無明の闇の中で輪を描くように手を繋いでいる。

 

 かつてプラネテューヌの教祖イストワールは言った。

 シェアエナジーとは信頼の力だと。

 

 四人の女神はお互いが強く信じていた。

 それが、シェアとなって四人を支える。

 いや、彼女たちだけではない。

 少し遠くに、大きなシェアを感じる。

 

 しなやかだが強かさを併せ持つジャズ。

 冷たく見えて、本当は暖かいミラージュ。

 大きく包み込むような感じのアイアンハイド。

 そして、だれよりも強く輝いているのはオプティマス・プライム。

 女神たちと強い信頼で結ばれたオートボットたちだ。

 

 彼らの存在が、彼らの信頼(シェア)が、女神たちを守っているのだ。

 

 ――そっか…… そうなんだね……

 

 互いの強い絆が、互いを支え合い、助け合う。

 

 ――わたしたち……!

 

  *  *  *

 

 嗚咽を漏らすネプギアを前にして、マジェコンヌは邪悪にほくそ笑み、勝ち誇る。

 

「何もかも遅すぎたなぁ、だがそう悲観するな。すぐに同じ所へ逝かせてやる」

 

 そして武器を大きく振り上げた。

 

「どす黒い絶望の縁へなぁ!」

 

 そのとき、結界内部の闇の中で光が輝いた。

 

 一つ、二つ、三つ、……四つ!

 

 同時に、アンチスパークフィールドに倒れるオートボットたちの体から虹色の光が発せられた。

 

 マジェコンヌの武器が大上段から振り下ろされる。

 だが立ち上がったネプギアは、再び手にM.P.B.Lを再構成しそれを受け止めた。

 ネプギアの女神の力とマジェコンヌのアンチエナジーがぶつかり合い、電撃となって二人を包む。

 

「お姉ちゃんは…… お姉ちゃんたちは!」

 

 ネプギアは吼える。

 ユニも、ロムも、ラムも気が付いた。

 姉たちはまだ死んではいないことに。

 

「はああああ!!」

 

 地面に踏ん張ったネプギアは、翼を再発生させてマジェコンヌを押し返す。

 

「お姉ちゃんたちはまだ戦ってる……!」

 

 決然とネプギアは言った。

 

「アタシたちだって……!」

 

 ユニが立ち上がり、長銃を手に取る。

 

「絶対に……!」

 

「負けない……!」

 

 ロムとラムも支え合って立ち上がる。

 四人の体が虹色の輝きだす。

 

「あなたたちを倒します……!」

 

 ネプギアはマジェコンヌを真っ直ぐに見据える。

 

「全身全霊を…… 私たちの全てをかけて!!」

 

 虹色の光は四人を中心に渦を巻き、やがて広がって行く。

 減衰することなく、どこまでもどこまでも。

 

「こ、これは、シェアエナジーの共鳴!?」

 

 マジェコンヌがその光景を見て驚愕の声を上げる。

 突然の異変に、メガトロンをはじめとしたディセプティコンたちも戸惑いを隠せない。

 デバステーターは辺りを包む光の発生源を叩き潰すべく、移動を始めようとする。

 

「まてよ、デカブツ……!」

 

「おまえの相手は俺らだろうが……!」

 

 その両の手を押し上げる者たちがいた。

 誰あろう、踏み潰されたはずのスキッズとマッドフラップだ。

 女神候補生たちが戦おうというのに自分たちが寝ているわけにはいかない。

 その身体は虹色に輝いている。

 二人は自分の何十倍もあるはずのデバステーターを持ち上げる。

 デバステーターが両手に体重をかけて押し潰そうとしてもビクともしない。

 

 有り得ない!

 

 デバステーターの単純なブレインサーキットを混乱が支配する。

 さらに全ての重量と力を両腕に込める。

 これなら生意気な双子は一たまりもないはず。

 

 だが、飛来したもう一組の双子がその自信を打ち砕く。

 

 先手を切ったロムが杖を大きく掲げる。

 

「ノーザンクロス!!」

 

 遥か上空から、四つの巨大なエネルギー球がデバステーター目がけて降り注ぐ。

 エネルギー球同士は強力な光線で結ばれ、それが絶大な破壊力をもたらす。

 無敵のはずの合体兵士は、大きな悲鳴を上げてのけ反る。

 その隙にスキッズとマッドフラップは掌の下から抜け出した。

 それでもデバスターターは倒れることなく、この異常な事態になんとしても双子たちを抹殺すべく大口を開けて ヴォルテックス・グラインダーを起動する。

 全てを飲み込む台風が、スキッズとマッドフラップの体を引き寄せる。

 可能ならデバステーターはほくそ笑んでいたであろう。

 

「アブソリュートゼロ!!」

 

 だがラムの極大氷結魔法が、巨躯の怪物に襲い掛かる。

 絶対零度の凍結エネルギーのその前に無数の機械の集合体であるデバステーターが凍結していく。

 当然ヴォルテックス・グラインダーを発生させている機構も例外ではない。

 無数のミキサーは回転を止め、風が止んでいく。

 その正面にオートボットの双子が雄々しく立っていた。

 

「気張れよマッドフラップ! 正念場だぞ!!」

 

「ああ、スキッズ! これで決めてやる!!」

 

 スキッズは右腕を、マッドフラップは左腕を掲げ、それをクロスさせる。

 すると掲げられた腕がギゴガゴと音を立てて組み合わさり、巨大な砲身を形作る。

 まるでメガトロンのフュージョンカノンのように。

 その異様な迫力に、デバステーターはオプティックを大きく見開く。

 だが、氷漬けになった巨獣は逃げることはおろか、開いた大口を閉じることもできない。

 

「「これで止めだぁあああ!!」」

 

 その砲身から電気がほとばしり、電磁誘導によって加速した砲弾が合体砲から発射され、デバステーターの大口に飛び込み、内部機構を破壊しながら直進し、背中を突き抜けてそれでも止まらずに飛んで行った。

 その代償とばかりに、合体砲は自身のエネルギーに耐え切れず爆発を起こし、片腕を失ったスキッズとマッドフラップはその場に倒れ込む。

 だがデバステーターの被害の被害はそれどころではない。

 体内をメチャクチャに破壊された合体兵士は断末魔を上げることもできずに崩れるように前のめりに倒れた。

 いや、比喩ではなくデバステーターは八つのパーツに崩れ、元のコンストラクティコンに戻った。

 あまりのダメージに合体を保てなくなったのだ。

 特に頭部を構成していたミックスマスターと、上半身を担当していたスカベンジャーのダメージは甚大で、二体はほとんど半身を失っていた。

 最強最大の合体兵士、デバステーターはここに敗れた。

 

「ば、馬鹿な…… デバステーターが!?」

 

 ブラックアウトが茫然と声を出した。

 崩れ落ちるデバステーターの姿はディセプティコンに少なからぬ動揺が走る。

 

「落ち着け兄者。もはや我らの勝利は目前……」

 

 義兄を諌めようとするグラインダーは、そこまでしか言葉を出せなかった。

 

「M.G.P!!」

 

 頭上に現れたユニが、とてつもない数の実弾とエネルギー弾を撃ってきたからだ。

 ブロウルの最大火力をも上回る、とてつもない爆発が巻き起こる。

 その中を凄まじいスピードでサイドスワイプが動き回り、虹色の軌跡を残してディセプティコンたちを切り裂いていく。

 バリケードのホイールブレード・アームも、ボーンクラッシャーの三本目の腕も、ブロウルの重火器も、ブラックアウトのプラズマキャノンもかすりもしない。

 グラインダーが普段の冷静さをかなぐり捨てて驚愕の極致で声を上げた。

 

「なぜだ! なぜこの弾幕の中をあんな速さで動き回って弾が当たらない!?」

 

 雨のように降り注ぐ、実弾とエネルギー弾。

 その中を動き回れば、被弾は免れないはずなのに!

 

 サイドスワイプは、自分は限界を超えて動いていることを理解していた。

 ジョイントが軋み、油圧パイプが悲鳴を上げる。

 回路が焼け付き、エンジンがオーバーフローを起こしている。

 だが、それでも止まるわけにはいかない。

 そして彼には、弾がどこに落ちてくるのか分かっていた。

 いや、違う。

 言葉では言い表せない感覚で繋がった黒い女神候補生が教えてくれているのだ。

 同時にサイドスワイプも、どう動くかを彼女に伝える。

 二人の攻撃は完璧な連携を描き、それは、舞踏にも似た一種優雅さえ兼ね備えた光景だった。

 弾幕と剣劇の壮絶なダンスの合間で、ディセプティコンたちは痛みと恐怖、混乱に悶え狂う。

 

 マジェコンヌは茫然と瓦解しゆく戦況を、広がっていく虹色の光を見ていた。

 その手の武器が、背中の翼が、ボロボロと崩れてゆく。

 

「アンチエナジーが…… 私の奇跡が、打ち消されていく……」

 

 あまりのことに我を忘れたマジェコンヌは敵に背を向けて飛び去ろうとする。

 恐怖だけが、頭の中を満たしていた。

 だが、それを紫の女神候補生が追う。

 

「絶対に逃がしません!!」

 

 姉を、仲間を、友達を傷つけたこの女を許すわけにはいかなかった。

 

「プラネティックディーバ!!」

 

 ネプギアの持つM.P.B.Lが凄まじい力を放出する。

 その斬撃が、容赦なくマジェコンヌに襲い掛かった。

 

「ぐわあああ!!」

 

 吹き飛ばされるマジェコンヌに、さらにM.P.B.Lから放たれたエネルギー弾が次々と命中し、武器が、翼が、女神から奪った力が砕けていく。

 そしてマジェコンヌの行き着く先はアンチスパークフィールドの中、彼女の野望の根源、アンチクリスタルの結界だ。

 結界に叩き付けられたマジェコンヌの目に、最大を超えてエネルギーをチャージしたM.P.B.Lの引き金を引く、ネプギアの姿が映る。

 

「……消えて!!」

 

 とてつもないエネルギーの奔流がマジェコンヌを結界ごと飲み込み、結界は大爆発のなかに砕け散った。

 

 メガトロンは冷静さを保とうとしていたが、それでも己の理解を超えたことが起こっているのを認めざるをえなかった。

 この戦況もそうだが、完全に打倒したはずの小柄な情報員が四肢に力を込めて立ち上がったことがだ。

 その全身から虹色のエネルギーが噴き出している。

 

「有り得ん……」

 

 その姿に、宿敵の姿が重なる。

 かつて声を奪ってやった若者が、何倍も大きく見える。

 

「有り得んぞ! こんなことは!!」

 

 破壊大帝メガトロンが、恐怖を感じるなど!

 両腕を組み上げてフュージョンカノンを、眼前の得体の知れない存在に向け発射する。

 

 おおおおおお!!

 

 バンブルビーは咆哮を上げて右腕のブラスターを撃ち放つ。

 二つのエネルギー弾が衝突し、とてつもない爆発が生まれる。

 バンブルビーとメガトロンは、その爆炎の中を突っ切っていく。

 両者の拳がぶつかりあい、そして……

 

 二人の右腕が砕け散った。

 

「おお! おぉお!? おおおおおッッ!!」

 

 有り得ない事態に、メガトロンが叫ぶ。

 だが、バンブルビーは怯まない。

 残った拳を、メガトロンの顔面に叩き込む。

 

 破壊大帝は二、三歩後ずさり、

 

 そして片膝をついた。

 

「おのれぇえええ!! 俺に膝をつかせおったなぁあああ!!」

 

 咆哮を上げるメガトロンは、それでも戦意を失わず残った腕を武器に変形させる。

 

「メガトロン様!!」

 

 そこに自身もダメージを負ったサウンドウェーブが駆け盛る。

 

「メガトロン様! 撤退ヲ!」

 

「撤退だと!!」

 

「コノママデハ全滅モ、アリ得ル! 撤退ヲ!!」

 

 オートボットを降したとしてもまだ女神候補生たちがいる。

 常時の冷静さをかなぐり捨てて叫ぶサウンドウェーブに、メガトロンはついに撤退を決意した。

 

「ディセプティコン、撤退! 撤退だあ!!」

 

「マジェコンヌ ハ、ドウスル?」

 

「放っておけ!」

 

 ディセプティコンたちはオートボットに背を向けて我先にと逃げていく。

 サウンドウェーブが信号を送ると、妨害電波を出していた電波塔が爆発し、その下に大きな穴が現れた。

 念の為用意しておいた抜け穴だ。

 

「ひ、ひぃいいい!!」

 

 フィールドに囚われていたスタースクリームは、フィールドが消滅するや真っ先に変形して飛び去った。

 

「運ぶのは嫌い……とか言ってる場合じゃないんダナ!」

 

 ダンプカーに変形したロングハウルが半身を失いながらも、まだスパークが消えていないミックスマスターを乗せ、残る四体がスカベンジャーを引きずっていく。

 

「兄者…… 置いていってくれ…… これ以上は迷惑をかけたくない……」

 

「何を言うか! 弟を助けるのが兄貴の努めだ!」

 

「……すまん」

 

 ブラックアウトはよりダメージの大きいグラインダーに肩を貸して脱出口に向かう。

 その足元をスコルポノックが心配そうに見上げながら追っていた。

 

「おーい! アタイも連れてってくれぇええ!!」

 

 敵のど真ん中に置いていかれては大変とリンダが声を上げるが、誰も目もくれない。

 だが、フィールドから解放されたクランクケースが黒塗りのバンの姿で、その前に駆けつけた。

 

「リンダちゃん、早く乗るYO!!」

 

「すまん、恩に着るぜ!」

 

 リンダが素早く乗り込むとクランクケースは走り出す。

 次々と穴に消えていくディセプティコンたちを、オートボットは見送る。

 もはや、オートボットにもほとんど余力はなかったのだ。

 

「おのれオートボットどもに女神ども! この借りはいずれ返すぞ……!」

 

 最後にサウンドウェーブがフィールドから解放された部下たちを回収して抜け穴に入るのを確認してからメガトロンは捨て台詞とともにエイリアンジェットに変形して飛び去っていった。

 

 戦いは終わった。

 だがそこに歓声はなかった。

 勝利の雄叫びも、祝砲もありはしなかった。

 

「お姉ちゃん……」

 

 地上に降り立ったネプギアは茫然と呟いた。

 

「どこなの?」

 

 アンチスパークフィールドが存在していた場所には、巨大なクレーターができていた。

 そこに、女神たちの姿はない。

 オプティマスたちもいない。

 支えあうオートボットたちは顔を伏せ、女神候補生たちの表情が沈んでいく。

 

「ねえ、お姉ちゃん……」

 

 希望は果てたのか?

 全ては遅すぎたとでも言うのか?

 

「ここよ、ネプギア」

 

 だが、そうではなかった。

 ネプテューヌが、ノワールが、ブランが、ベールが。

 山の向こうから顔を出した朝日に照らされて、四人の女神がそこにいた。

 皆、変身した姿で宙に浮かんでいる。

 その下には、オプティマス、アイアンハイド、ミラージュ、ジャズ。

 解放されたオートボットの勇士たちが並んでいた。

 女神候補生の、オートボットの決死の戦いは無駄ではなかったのだ。

 

「「お姉ちゃん!」」

 

 最初にラムとロムがこらえきれず、二人揃って飛びあがる。

 

「会いたかったよぉ!」

 

「良かった……」

 

 二人は姉に抱きついて泣きじゃくる。

 

「子供みたいに泣くなって。……ごめんな、心配かけて」

 

 ブランは優しく、二人を抱き返した。

 

「ごめんね、お姉ちゃん…… 遅くなって……」

 

 ユニはどうしたらいいか分からずに、感情を押さえて声を出した。

 そんな妹に、ノワールは柔らかく微笑む。

 

「なに謝ってるのよ。だいぶ成長したじゃない。……ありがとう」

 

「お姉ちゃん……!」

 

 姉の言葉に溢れる感情を抑えきれずユニはノワールに抱きつく。

 そして、ネプギアとネプテューヌは空中で見つめ合う。

 

「お姉ちゃん、あのね! 私、私……」

 

「うん。頑張ったわね、ネプギア。……これからはずっと、いっしょにいるから」

 

 プラネテューヌの姉妹は涙を流し思いのたけを込めて抱擁を交わした。

 その苦難も、心痛も、今報われたのだ。

 抱きしめ合う姉妹たちを、ベールは微笑みながらもどこか寂しそうに見ていた。

 それに気付いたネプギアは、いったん姉の下を離れて緑の女神へ近づく。

 

「ベールさん!」

 

「え?」

 

 ネプギアは優しくベールを抱きしめる。

 

「お疲れ様でした」

 

「…………ありがとう」

 

 涙をこらえるように笑うベールを、ネプテューヌが一つ息を吐いて見ていた。

 

「まったく、今日だけだからね! ベール!」

 

 その顔はどこまでも晴れやかだった。

 

「どうだよミラージュ!」

 

「俺らのこと、ちったあ見直したか?」

 

 共に片腕のスキッズとマッドフラップは、得意げにミラージュに問う。

 ミラージュは何も言わずに、黙って二人の頭をグシグシと撫でた。

 双子のオートボットは照れくさそうに笑うのだった。

 

「まったく、随分と遅かったじゃねえか」

 

「おいおい、助けてもらっといてそれかよ!」

 

 アイアンハイドとサイドスワイプの師弟は憎まれ口を叩き合う。

 だが、黒いオートボットはフッと相好を崩した。

 

「だが、ありがとうな。……もう、一人前の戦士だな」

 

 頑固な師匠の思いがけない言葉に、若き戦士はオプティックからウォッシャー液が流れてくるのを止められなかった。

 ニカッと笑うアイアンハイドは弟子の背中をバシバシと叩くのだった。

 

「バンブルビー、我々が危機を脱せたのは、みなおまえのおかげだ」

 

「『司令官』……」

 

 オプティマスは優しい笑みを浮かべてバンブルビーをねぎらう。

 

「あ、あ、うあああああ!!」

 

 自身の声で泣きながら若き臨時指揮官は、本当の司令官に抱きついた。

 

「やれやれ、やっと大人になったと思ったら、まだまだ甘えん坊だな!」

 

 ジャズがからかうような声をだして、バンブルビーの頭を撫でてやる。

 ラチェットも、アーシーも、レッカーズも皆それを見て笑い合うのだった。

 

 女神たちも、女神候補生も、コンパとアイエフも、そしてオートボットたちも、みな満身創痍だ。

 それでも、全員満足そうに笑い合い、称え合う。

 長い夜は明けたのだ。

 

 かくして、ズーネ地区における戦いは女神とオートボットの大勝利に終わったのだった。

 

  *  *  *

 

 時として、若者は周りの者が予想もつかないような成長を見せる。

 今回がまさにそれだった。

 一つの戦いが終わり、若者たちは一つ大人になった。

 そしてマジェコンヌの野望は私たちにかつてない危機をもたらしたが、同時に我々と女神の信頼を再確認させてくれた。

 若者の成長と、女神との信頼。

 この二つがある限り、我々は希望を失うことはない。

 

 私の名はオプティマス・プライム。

 

 ゲイムギョウ界での女神と我々との日々は、まだ始まったばかりだ。

 

 ~Robots in Gamindustri~ 了

 




ある日のこと、いつもどおりハーメルンの日間ランキングを覗いていたら、やたら見慣れたタイトルが……

( ゚д゚)

(つд⊂)ゴシゴシ

(;゚д゚)

マジでこんな状態になりました。
これも読者の皆さんのおかげです!
本当にありがとうございます!

次回はディセプティコン側の短い話になり、そして次章になります。
ご意見、ご感想、お待ちしています。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。