超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION   作:投稿参謀

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第2話 目覚めたら異世界はお約束

 ラステイション沿岸部。

 

 プラネテューヌとの国境に近いここに、ゲイムギョウ界では珍しい海底油田がある。 海上道路で本土と連絡されたB-106と呼ばれるこの油田は、勤務内容の過酷さと福利生の劣悪さで知られ、作業員がみんなゾンビに見えるほど生気がないことで有名である。

 そのかいあって、近々国による手入れが入る予定だ。

 

 そんな油田のヘリポートに一機のヘリが近づいて来ていた。

 

 かなり大型のヘリで、真っ黒に塗装されている。

 

 油田の作業員たちはそれを無気力に見上げた。

 彼らには知る由もなかったが、このヘリはリーンボックスの軍用大型輸送ヘリである。

 作業員たちはどうせお偉方の気まぐれか何かだろうと、疲労のあまりゾンビ並になった思考を巡らして、興味を失い持ち場に戻る。

 だがヘリポートを持ち場にしている者たちはそうはいかない。

 このヘリが現れることは完全に予定になく、なおかつ明らかにヘリポートに着陸しようとしているからだ。

 

「そこのヘリ、アー、そちらの着陸は予定にない。できれば事情を、ウー、説明してほしい」

 

 ヘリポートの管制官はヘリに通信を繋げて呼びかけるがヘリからの応答はない。

 

「そこのヘリ! 応答しろ! さもなくば無断侵入で通報するぞ!」

 

 少し語気を強めてもう一度通信する。今度は返事があった。

 

「黙れ! 下等生物め! ここは我らディセプティコンの物となるのだ!」

 

 その言葉を管制官が聞いた直後、ヘリがギゴガゴと異音を立てまったく違う姿へと変形していく。

 ゾンビ状態の作業員たちもこれにはさすがに驚く。管制官が、正気に戻り油田の責任者に指示を仰ぐべく電話を手にしたとき、ふと窓の外が見えた。

 そこには海上をこちらに接近する二つの飛行物体が見えた……ゾンビと揶揄されても目は良いのだ。

 一つはあのヘリと同型の大型輸送ヘリ、もう一つはリーンボックスの最新鋭戦闘機だ。

 動きを止めた管制官の背後では、ヘリが巨大で歪な人型へと変形を終えていた。

 

  *  *  *

 

 暗い通路を四つの人影が歩き、その前を宙に浮かぶ本に乗った妖精のような姿の少女が先導している。人影はいずれも女性だ。

 

「みなさん、こちらです」

 

 先頭を行く妖精少女……プラネテューヌの教祖イストワールがそう言って、四つの人影に先を促す。

 

「しかし驚いたわね。いきなり空から落ちてくるんだもの」

 

 四人のうちの一人、長い黒髪をツインテールにした少女がどこか呆れたように言う。

 キツメの容貌だが、目鼻立ちのはっきりした美少女だ。

 

「たしかに…… おかげで式典がメチャクチャだわ」

 

 短めの茶髪に大きな帽子が特徴的な、あどけない雰囲気の少女が低いテンションで息を吐く。

 無表情だが、それを差し引いても可愛らしい容姿だ。

 

「それで、あのロボットは何者でしょうか?」

 

 金色のロングヘアーの穏やかな雰囲気の美女が首を傾げた。

 彼女は四人の中でも大人びた美貌の持ち主で、その胸は豊満だった。

 

「オプティマス・プライムって言うらしいよ~。本人が言ってたもん」

 

 薄紫色の髪をショートカットにして十字の飾りを付けた活発そうな少女が、呑気な調子で答える。

 まだ幼げな容姿だが、全身から発散される元気とコロコロと変わる表情が魅力的な少女だ。

 

 彼女たちは四か国の女神たち、その人間としての姿である。

 女神は普段、人間の姿と名前で生活し、必要に応じて女神へと変身するのだ。

 

 ラステイションの女神ブラックハートが、ツインテールの少女、ノワールに。

 

 ルウィーの女神ホワイトハートが、帽子の少女、ブランに。

 

 リーンボックスの女神グリーンハートが、金髪の女性、ベールに。

 

 そしてプラネテューヌの女神パープルハートが、薄紫の髪の少女、ネプテューヌへと、それぞれ姿と名を変えている。

 

 あの式典から数日がたった。

 式典の最中に、突如空から落ちてきた巨大な人型ロボット、オプティマス・プライムはあの騒動の後、まったく動かなくなり、プラネテューヌ某所の地下倉庫へと輸送された。

 この地下倉庫は元々、大型の機械を格納するためのものであり、オプティマスの巨体を収めて余りあるほどの広さがある。

 なぜ空から落ちてきたのか、造ったのは誰か、危険はないのか。もろもろのことを調べるために、ここへと移された。

 女神たちは、その正体を確かめるために、ここを訪れたのだ。

 

「わたしはさあ、きっと宇宙警察のエネルギー生命体がロボットの姿を取ってるんだと思うんだ。それかあ、超AI搭載の警察ロボットだよ、きっと」

「そんな妄想、よくポンポンでてくるものね……」

 

 当事者、しかも自分の国が被害にあったにも関わらず、ネプテューヌは呑気によく分からないことを言い、それにノワールがツッコミを入れる。

 

「あの、みなさん。そのオプティマス・プライムについてですが、たった今連絡がありまして……」

 

 と、イストワールが控えめに発言する。どこか困ったような表情だ。

 

「どうしたの? いーすん」

 

 ネプテューヌが代表して彼女の愛称を呼びつつ質問する。

 

「……起きたそうです」

 

  *  *  *

 

 地下倉庫は騒然としていた。

 

 防護服の研究員たちが右往左往し、その中央で巨大な人型のロボットが座っていた。

 正確には、さっきまで仰向けに寝かされていたのだが、突然目を開けたかと思うと、上体を起こしたのだ。

 ロボット、自称オプティマス・プライムは首を回して辺りを観察し、現状を把握しようとしているらしかった。

 

「おお~! ほんとに目を覚ましたんだ!」

 

 地下倉庫に場違いなほど能天気な声が響き渡る。その声に反応したのかオプティマスが顔を向けると、五人の女性が部屋に入ってくるところだった。

 先ほどの声の主であろう先頭の少女以外は、警戒心が表情に出ている。

 オプティマスはネプテューヌに視線をやると声を発した。

 

「君は…… さっきの女性……パープルハート、だったか?」 

 

 その声は深く理知的で、思慮深さを感じさせるものだった。

 

「分かるんだ!?」

 

 軽く驚くネプテューヌ。

 女神は変身すると外見や性格が変化するが、その中でも彼女は変身前と変身後のギャップが激しく、そうと知らなければ同一人物として認識することは難しい。

 オプティマスはその金属製の顔に笑みを浮かべる。

 

「ああ、君たちからは特殊なエネルギー反応を感じた。他の有機生命体からは感じられないエネルギーだ。それにしても驚いた、君たちも姿を変えることができるのか」

「うん、そうだよ! なんたってわたしたちは女神だからね! あッ! わたしのことはネプテューヌでいいよ!」

「ネプテューヌ……メガミか。すまないが理解の及ばない概念だ。一応検索してみたのだが……」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ」

 

 話続けるオプティマスとネプテューヌだが、ノワールが聞き捨てならない物を感じ待ったをかける。

 

「ちょっと気になったんだけど……」

「おお、そうだ! ナ~イス、ノワール! 君たちも、ってことは、あなたも変身できるの?」

「そこかい!」

 

 ネプテューヌの言ったことは、ノワールの言いたいことと大幅に違った。

 土台、ネプテューヌにまともな疑問を期待したのが馬鹿だったとノワールは自戒する。

 

「そうじゃなくて、女神のことが理解できないってとこ!」

「ああ、そういえばそうだね」

 

 ゲイムギョウ界に生きる者なら女神について知らないはずはない。

 いよいよもって、このロボットが怪しい存在であると言える。

 

「そもそも、あなたは誰に造られたロボットなのよ!?」

 

 ノワールは核心とも言える問を放つ。

 それに対するオプティマスの答えは、一同の想像を絶するものだった。

 

「我々は造られたロボットではない。生まれてきた金属生命体だ」

 

 ノワールはその言葉の意味を飲み込むに少し時間がかかった。

 

「つまり……あなたは自分がロボットじゃなくて、生き物だって言いたいの?」

 

 オプティマスは頷いた。

 唖然とするノワールをよそにベールもまた、会話の中から気になるフレーズを見つける。

 

「それに我々の種族と言うからには、あなたのような存在が他にもいるということですの?」

「そのとおりだ。我々はここから遠く離れた違う世界……惑星サイバトロンで生まれた種族だ。君たちの言葉で表現するならば、『サイバトロニアン』『超ロボット生命体』あるいは……」

 

 金属の巨人は少し考えて言葉にした。

 

「トランスフォーマー」

 

 ネプテューヌはオプティマスを見上げて目を輝かせていた。

 

「あ、そうだ! そういえばどうしてわたしたちの言葉がわかるの?」

「そうよ、おかしいじゃないの! アンタは他の世界から来たって言ったけど、それなら言葉が分かるわけないじゃない!」

 

 ネプテューヌが今気づいたとばかりに声を上げ、ノワールも大声をだす。

 騒がしい二人に対して、オプティマスはあくまでも穏やかに答える。

 

「インターネットから情報をダウンロードしたのだ」

「ほへ~」

 

 呑気な調子のネプテューヌだが、イストワールと三人の女神は戦慄いていた。

 あんな短時間で、本人の言葉を信じるなら、まったく未知の文明のインターネットに接続し、言語を習得したと言うのか? 

 そんな教祖と女神たちに気付いたのか否か、オプティマスは一度立ち上がる。

 その大きさは地下倉庫の天井には届かないものの、女神たちがちっぽけに見えるほどだ。

 

 この巨体で暴れれば一体どれほどの被害が出るだろうか?

 

 あの太く長い腕を振り回せば、どれだけの破壊をもたらせるのだろうか?

 

 自然と女神たちが一歩下がる。

 

 

 

 ……ネプテューヌを除いて。

 

 彼女は恐れることなくキラキラと目を輝かせていた。

 

 そしてオプティマスは次の動作に移った。

 

 片膝をつき、手を胸に当て、頭を垂れたのだ。

 

「そして、私は知った。あの場が……私が落ちてきたあの場が、君たちが平和を誓い合う場であったと言うことを……。私は取り返しのつかないことをしてしまった。せっかく訪れた平和を破壊してしまったのだ」

 

 イストワールと女神たちは唖然と機械の巨人を見上げる。

 その金属の顔には、明らかに悔恨の色が浮かんでいる。

 

「私の身をどうしようと構わない。だからどうかお願いだ。戦争をするようなことはやめてほしい……このとおりだ」

 

 そう言って、オプティマスはもう一度、頭を深く下げる。

 その姿を見て、イストワールは酷く現実感に欠ける絵画のような光景だと思った。女神の前に跪く、鋼の巨人。

 

 しかも、今巨人が跪いているのは、ネプテューヌなのだ。

 

 そして、紫の女神は宣託を告げるかのように口を開いた。

 

「うん、いいよ~! 戦争はしないから! だからもう気にしないでね!」

 

『軽ッ!?』

 

 あっさりと、本当にあっさりと機械の巨人は許された。

 思わずイストワールと女神たちが声を上げる。

 一同を代表するが如く、ノワールがツッコミを入れる。

 

「ちょっとネプテューヌ! アンタそんな勝手に……」

「ええ~、だって式典の大事なとこはもう終わってたからいいじゃん!」

 

 余りに軽い。

 

 そんなことでいいのかとイストワールは頭を抱えた。

 

「まあ、わたしも戦争する気なんてないけど……」

「わたくしも同感ですわ。オプティマスさんも紳士的な方のようですし、とりあえず、この話はこれで終わり……と言うことで」

 

 ブランとベールも一応は同意する。

 ノワールは少し考え、そして遂に折れた。

 

「はあッ、もういいわよ。あなたの好きにしなさい」

「うん、ありがとう! よかったね! オプっち!」

 

 黙って事の行く末を見守っていたオプティマスは、それを聞いて頭をもう一度下げ感謝の意を示した。

 

「寛大な処置に感謝する……オプっち?」

 

 自分のものと思しい呼び名だが、聞き慣れない響きだ。

 さすがに気になったらしい。

 

「うん! オプティマス・プライムじゃ長くて言いにくいから、オプっち! どう? 気に入った?」

 

 ニコニコと笑うネプテューヌにオプティマスはこちらも薄く微笑んだ。

 それは金属のパーツが作ったとは思えない、柔らかな笑みだった。

 

「そんなふうに呼ばれたのは初めてだ。気に入ったよ」

「でしょでしょ! 本当はコンボイのほうがいいかな~って思ったんだけど、第四の壁の向こうにいる皆さんがやめとけって言ってる気がしたから、こっちにしたんだ!」

「……? とにかくありがとう」

「これでわたしたち、もう友達だよね!」

「ああ、友だ」

 

 微笑み合う紫の女神と鋼の巨人。

 そんな光景を見ていると、ノワールはさっきまで肩肘を張っていた自分が馬鹿らしくなってくる。

 誰とでもいつの間にか仲良くなる。それがネプテューヌの不思議なところだ。

 と、オプティマスが思い出したように言った。

 

「そうだ。私を修理してくれたことにも感謝しなくては。おかげで強制スリープモードから回復することができた。礼を言わせてくれ」

「……修理?」

 

 イストワールは首を傾げる。

 研究員たちにはあくまでオプティマスの解析を命じただけで、そんな命令は出していないはず。

 そう思ってさっきから何か作業している白衣と防護服の一団を見る。

 そこには研究員一同が特大のフリップを大勢で掲げていた。

 

『おもしろそうなんでつい、直しちゃった。テヘペロ♡ ……まじ、すいませんでした』

 

 フリップにはそう書かれていた。

 ……プラネテューヌはこんなんばっかりか。……こんなんばっかりかも知れない。

 イストワールは本格的に頭痛を感じていた。

 

 そんなイストワールたちを痛ましげに見ていたノワールだったが、突然鳴り出した自分のスマホを取り出し、通話ボタンを押す。

 

「私だけど。なんだケイか、どうしたの……ッ! 分かった! それならこっちから行ったほうが早いわね」

「どうしたのさノワール? マナー違反だよ」

 

 ネプテューヌは呑気に話かけるが、ノワールは真面目な表情でオプティマスを睨みつける。

 

「ついさっきのことよ、私の国の油田が何者かに襲撃されたわ。……現場から逃げてきた人たちの話だと、巨大なロボットに襲われたそうよ」

 

 それを聞いた瞬間、オプティマスを包む空気が変わる。

 

「詳しく聞かせてほしい」

 




 お気づきのかたもいらっしゃるでしょうが、オプティマスはいまだプロトフォームのまま、所謂サイバトロンモードです。
 公式ではプロトフォームのオプティマスは白っぽいんですが、それでは誰だかわからないんじゃないかということで赤と青のカラーリングと表現しています。
 どうしても納得いかない方は、作画ミスだとお思いください。

2015年12月25日、改稿。

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