超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION   作:投稿参謀

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原作アニメ、第一の山場に突入です。

ついに、ここまで来ました。


第21話 楽しい時間

 リーンボックス、海に囲まれたこの国に人であれ、物であれ、入るためには必然的に船か飛行機を使うことになる。

 だから、都市からすぐ沖を他国から輸入した物資を運ぶコンテナ船が航行しているのはありふれた光景だ。

 軍事に長けた大企業の所有する、この大型コンテナ船の甲板上には何台かの建設車両が積まれていた。

 ホイールローダー、ブルドーザー、ダンプカー、そしてミキサー車。

 動くことがなくとも威圧感を放つ建機たちの影から、奇妙なモノが姿を現した。

 猫科の猛獣を思わせる姿をした、単眼の機械。ディセプティコン諜報破壊兵ラヴィッジだ。

 黒い金属の豹が一つ吼えると、建機たちはギゴガゴと音を立てて歪な人型へと変形していく。

 スクラッパー、ランページ、ロングハウル、そしてミックスマスター。コンストラクティコン部隊の面々だ。

 ラヴィッジは四体のディセプティコンがロボットモードになったのを確認すると、勢いよく甲板から海へ飛び込み、コンストラクティコンたちもそれに続いて次々と海に身を投じる。

 海に飛び込んだディセプティコンたちは重力に従って沈んでいき、やがて海底に到達した。

 機械の異形たちの真ん中に降り立ったラヴィッジは、胸の装甲を開き何かを排出しようとする。

 だが、かなり無理に詰め込まれているらしいそれは、引っかかってなかなか出てこない。

 ラヴェッジが気持ち悪そうに身をよじると、やっと押し出されたそれは潜水服を着たネズミだった。

 無理やりラヴィッジの内部に詰められていたせいか、すでにグロッキーである。

 ラヴィッジが前足でペチペチと叩くと、ネズミはなんとか立ち上がった。

 

「ふう、酷い目にあったっちゅ……」

 

 ネズミが大きく息を吐きつつ言うと、ラヴィッジがその背をさらにペシペシと叩く。

 

「わ、分かってるっちゅ! 例のブツを探すっちゅよ!」

 

 急かされたネズミは慌てて腕に装着した機械を起動した。

 何となく七つ集めると竜が出てくる球を探せそうなその装置の示す限り、目的の物は少し離れた地点にあるようだ。

 

「さあ、こっちっちゅ! おまえら、着いて来るっちゅ!」

 

 ネズミはまるでリーダーのように目的の物のある方向を指差すが、ラヴィッジは命令するなとばかりに低く唸る。

 猫科とげっ歯類、アニメや漫画のようにはいかず、力関係はラヴィッジのほうが上である。

 

「ぢゅっ!? す、すいませんっちゅラヴィッジさん! こちらですっちゅ!」

 

 その迫力に怯えながらも、ネズミはディセプティコンたちを先導して海底を歩いていく。

 ラヴィッジはどこか不機嫌そうにそれを追いかけ、コンストラクティコンたちは顔を見合わせつつも後に続くのだった。

 

  *  *  *

 

 海に隣接するリーンボックスの大スタジアム。

 数多くのアーティストが目指すここで今、あるアイドルのライブが行われていた。

 輝くライトの照らす中央で踊りも交えて歌っているのは、鮮やかな青い髪に、露出の高めの黒い服。特徴的なヘッドフォン。

 リーンボックスが世界に誇るアーティスト、5pb.だ。

 その美しく明るい歌声がスタジアムを越えて広がっていく。

 七色の光が輝き、空では戦闘機が航空ショーを展開している。

 だが、その全ては主役である5pb.を引き立てるものでしかない。

 まさに彼女こそ、偶像の頂点(アイドルマスター)だった。

 

「おおー!!」

 

 それを賓客用の特別席で立ち見していたネプテューヌが感嘆の声を上げる。

 

「さっすがリーンボックスの歌姫、5pb.ちゃんよね」

 

「です~!」

 

 アイエフとコンパも、それに同調する。

 周りにはノワールとユニ、ブランとロム、ラム、そしてネプギアもいる。

 リーンボックスに招待された各国の女神たちと女神候補生、コンパとアイエフは、特別席からこのライブを楽しんでいるのだ。

 

  *  *  *

 

 スタジアムの外にも巨大なモニターが設置され、ライブを生中継している。

 そのモニターの周りでは、オプティマスをはじめとするオートボットたちがライブを見物していた。

 彼らもこの国に招待されたのだ。

 

「う~む、素晴らしい音楽だ」

 

「だろ! この国一番の歌い手なんだぜ!」

 

 感心しているオプティマスの右横でジャズが得意げに言う。

 

「まあ、悪かないが俺としちゃ、もっと静かなほうが……」

 

 左側に立つアイアンハイドは、好みに合わないのか少し難しい顔だ。

 

「ったく、アイアンハイド! そんなんだからノワールに年寄り臭いとか言われるんだよ!」

 

「……関係ねえだろ」

 

 弟子であるサイドスワイプの言葉に、アイアンハイドはムッツリと黙り込む。少し、痛い所を突かれたらしい。

 

「なるほど、彼女の衣装は男性のフェロモンレベルを……」

 

「それはいいから」

 

 空気の読めないことを言い出しそうなラチェットを、アーシーがピシャリと制した。

 バンブルビー、スキッズ、マッドフラップの年少組は5pb.の歌に合わせて体を揺らしている。

 ミラージュは仲間たちから少し離れて黙っているが、よく見れば足でリズムを取っている。

 オートボットたちも、この一大ライブを大いに楽しんでいるのだった。

 

 ちなみに、スタジアムを挟んで反対側でやたらハイテンションに車体を揺らす銀色のスーパーカーが目撃されたが、今は関係ない。

 

  *  *  *

 

 一方、リーンボックス近海の海底。

 潜水服のネズミとラヴィッジ、四体のコンストラクティコンはここで何かを探していた。

 

「ったくよ~、なんで俺がこんなことしなくちゃいけねえんだ」

 

 海底の砂をさらっていたミックスマスターが愚痴っぽく呟いた。

 

「しょうがないでしょう。この前の件のペナルティなんですから」

 

 近くで同じように海底を掘り返すスクラッパーが呆れたように言う。

 

「どっちかゆうたら、こんぐらいで済んでえかったゆうとこじゃろう」

 

「そうなんダナ。普通なら八つ裂きにされてるトコなんダナ」

 

 岩に開いた穴を覗き込むランページが言うと、石を持ち上げてその下を探っていたロングハウルも同意する。

 

「ヘイヘイ、分かりましたよ! あ~あ、メガトロン様は慈悲深い方でござんすねえ! おかげで塩水漬けの錆だらけだぜ、コンチクショウ!」

 

 愚痴をこぼし続けるリーダーを放っておいて、コンストラクティコンたちは探し物を続ける。

 こんな海底にもスタジアムでライブ中の5pb.の歌声が響いている。

 それが耳に入り、思わずネズミがこぼす。

 

「ライブだか何だか知らないっちゅけど、うるさいっちゅね~、労働している身にもなってほしいっちゅ」

 

 その瞬間、ネズミの後ろにいたラヴィッジの単眼がギラリと光り、発声回路から不機嫌そうな唸りを発する。

 

「ぢゅっ!? じ、冗談っちゅよ! 本気にしないでほしいっちゅ!」

 

 ネズミの必死な言葉に、ラヴェッジは鼻を鳴らすような音を出して離れていく。

 ホッと一息吐くネズミ。潜水服の内側はすでに冷や汗でビッショリしていた。

 なんでこんなことになったのかと自問自答していると、前方に禍々しい赤い光が海底から漏れているのを見つけた。

 とりあえず、これで陸に上がれそうだ。

 陸上のスタジアムでは5pb.のライブが最高潮に達していた。

 

  *  *  *

 

 ライブも大盛況のうちに終了し、女神とオートボット一行はリーンボックス教会、つまり緑の女神ベールの住まいに招かれていた。

 毎度のことながらオートボットは別の場所に待機しており、ここにいるのは通信装置の投射する映像である。

 しかし、招待した側のベールの姿は見えない。

 

「それであなた、アリスだっけ? 招待してくれたのはいいけど、なんでベールが姿を見せないのかしら?」

 

 ノワールが一団を先導する少女に声をかける。

 出張中の教祖チカに代わってベールを補佐するのが仕事だという、どこかベールと似た美少女アリスは、微妙に冷や汗をかきながら答えた。

 

「ええと、それはですね、とても難しい問と申しますか……」

 

「きっと、何か事情があるのよ」

 

 ブランが静かに言うと、アリスはホッと息を吐いた。

 ノワールは納得いかないらしく、さらに問う。

 

「で、どこなの? ベールの部屋は?」

 

「皆さまには、まず応接間にてお待ちいただきます」

 

 アリスの答えは、四角四面なものだった。

 不満そうなノワールに立体映像のジャズが声をかける。

 

『すまないな、みんな。まだ主催者の準備ができてなくてさ』

 

『いや、そちらにも都合があるのだろう。持て成してもらう立場で文句は言うまい』

 

 それに穏やかに答えたのはノワールではなくオプティマスだ。

 ノワールは一つため息を吐く。

 他方、ネプテューヌとロム、ラムは目についた扉を片っ端から開けようとしていた。

 どの扉にも鍵がかかっているのだが、三人は気にしない。

 

「あ、開いてる!」

 

 と、ネプテューヌが鍵のかかっていない扉を発見した。

 

「あああ!? そ、その部屋は! 鍵かけてなかったの!?」

 

『待て、待つんだ! 入るなネプテューヌ!』

 

 それを見て慌てるアリスとジャズ。

 しかし、時すでに遅しである。

 

「おおー!」

 

 ネプテューヌは部屋の中を覗いてしまった。

 さらに何事かと他のメンバーも次々と部屋を覗き込む。

 そこにあったのは、部屋中に散乱する雑誌、フィギュア、ゲーム、壁にはポスター。

 問題はその中に明らかに18歳未満お断りな物や、男性同士が絡んでいる物があることだ。

 

「何が…… あったです?」

 

「荒された跡みたい」

 

「と言うより、片付いてないだけじゃ……」

 

 コンパとブランが驚くが、ノワールは苦笑混じりだ。

 一同は興味津々で部屋へと入っていった。

 

「何で鍵を閉めてないのよぉ……」

 

『ベールの奴……』

 

 その後ろでは、アリスとジャズが頭を抱えている。

 女神たちとは対照的にオートボットたちは部屋の中の異様な雰囲気に引いていた。

 

『オォウ…ジャァズ…』

 

 オプティマスが複雑な感情を込めて、友人でもある副官に声をかける。

 

 なんなのコレ?

 

 オートボット全員がそんな顔をしていた。

 

『言っただろ? 女には色んな面があるって』

 

 大きく、それはもう大きく排気しながらジャズがぼやくように言うと、オートボット一同から……ミラージュやツインズでさえ……同情的な視線が寄せられる。

 それはともかく、ネプテューヌを始めとした面々はベールのものと思しき部屋を探索していく。

 

「おおー! これは18歳にならないと買えないゲーム!」

 

「やめなさいよ、小っちゃい子もいるんだから……」

 

 何が楽しいのかハイテンションなネプテューヌをアイエフが常識的に止める。

 一方、同じく常識人のはずのネプギアは、壁に飾られた美形の男同士で絡んでいるポスターを、顔を赤らめながらも笑顔で眺めていた。

 

『ギ…ア…? 『そういうのが好みなのね……』』

 

「へ? ち、違うよビー! ただ絵が綺麗だなーって思って……」

 

 バンブルビーが訝しげな顔をすると、ネプギアは慌てて言い繕う。

 

「後方の部隊は何をしていますの!」

 

 と、そんな声がさらに奥の部屋から聞こえてきた。

 

「わたくしが援護いたしますわ!」

 

 ネプギアが覗いて見ると、そこにいたのはパソコンの前でコントローラーを握りしめるリーンボックスの女神だった。

 

「ああ!? それは早過ぎますわ!」

 

 ネプギアや、何だ何だと集まってきた一同に気付かず、ベールはコントローラーをカチャカチャと操作し続ける。

 

「何やってんのよ、ベール……」

 

「どう見てもネトゲね……」

 

 そんなベールを見て呆れるノワールとブラン。

 

『おい、ベール!』

 

 ジャズの立体映像がベールの横に現れた。

 

「ひゃッ! じ、ジャズ、どうしましたの?」

 

『どうしましたのじゃないぞ! 俺、言ったよな! オプティマスたちが来るからゲームはやめとけって!』

 

「私も言いましたよね! 時間を稼ぎますから、その間に片付けてくださいって!」

 

 怒るジャズとアリスに、ベールは誤魔化すように笑う。

 

「えっと、ほんの少しやってやめようと思ったのですけれど、攻城戦が始まってしまいまして……  抜けられなくなったのですわ。あ、皆さんいらっしゃいませ」

 

 たおやかに微笑みながら、一同に会釈するベール。

 反省の色の見えないその態度に、ジャズとアリスはそろって嘆息する。

 

「ライブの後はホームパーティーで持て成してくれるんじゃなかったかしら?」

 

 ブランが呆れたように言うと、ベールはアッという顔をした。

 

「もう少しで攻城戦が終わりますから、その後で……」

 

 そこで視線を逸らし画面を見る。

 明らかに少しで終わりそうにない。

 その横ではジャズが申し訳なさそうに頭を下げている。

 

「こういう人だったのね」

 

「ま、まあ、趣味はいろいろだから」

 

 ブランが呆れを滲ませると、なぜかノワールが苦笑混じりにフォローを入れた。

 

「ダメ女神だねー、もしかしたらわたしよりダメかも?」

 

「「それはない」」

 

「ねぷう!? こんな時だけ気が合ってる!?」

 

 調子に乗ったネプテューヌに、ノワールとブランが冷ややかにツッコむと言う漫才めいたやり取りをしていると、アイエフが横から声をかける。

 

「どうします? もうしばらくかかりそうですけど」

 

 それにノワールは少し考え込むそぶりを見せた。

 

  *  *  *

 

 そして、しばらく後、何を思ったのかノワールはメイド服に着替えていた。

 

「さあ、みんなで準備するわよ!」

 

 フリフリだらけでミニスカートの、可愛らしいが微妙に勘違い感の漂うメイドさんはモップ片手に号令をかける。

 

「ええ~!? なんでわたしたちが準備~?」

 

「文句言わない! せっかくリーンボックスまで来たんだから、キッチリ、パーティーして帰るわ!」

 

 すかさずグータラに定評のあるネプテューヌが反論するが、ノワールは妙に張り切って次々と指示を出した。

 

「まず、ネプギア、アイエフ、コンパの三人は食糧の買い出し! アリスも案内してあげて!」

 

「「「「は、はい!」」」」

 

 四人はノワールの剣幕に二つ返事で了解するしかない。

 ノワールはさらに指示を続ける。

 

「他の人達は部屋の掃除よ! はい、今すぐ始めて!」

 

「で、でたー、こういう時妙に張り切る奴」

 

「変なスイッチ入ったわね……」

 

 ネプテューヌとブランが呆れたように言うが、黒の女神は二人をギロリと睨む。

 

「うるさい! ちゃっちゃと働く!!」

 

『すまねえな、みんな。家のノワールが……』

 

『いや、もとはと言えばベールの奴が……』

 

『清掃は大事だ。しかし手伝えなくて申し訳ない』

 

 アイアンハイドとジャズがヤレヤレと排気すると、オプティマスが少しズレた言葉を発するのだった。

 

  *  *  *

 

 食糧を買いに出たネプギアたち。彼女たちはアリスの案内で、近場のショッピングモールへ来ていた。

 

「ぎあちゃんたちはまだみたいですね~」

 

 自分の担当の買い物を済ませたコンパは、待ち合わせの場所へやって来たが、他のメンバーの姿はまだない。

 

「あ~、急がないとっちゅ!」

 

 そこへネズミ型モンスターが駆けてきた。

 海底で何かを探していた、あのネズミである。

 ネズミの心中は焦りと恐怖で一杯だった。

 本来の雇い主である黒衣の女性はまだいい。せいぜい小言を言われる程度だ。だが、その同盟者である破壊大帝とその手下たちは……

 身体を震わせ、ネズミは走る。

 

「おわッ!」

 

 しかし焦りからか何もない所で転んでしまう。

 そのうえ転倒したはずみで、鞄から『赤く光る十字型の結晶』を落としてしまった。

 

「うう…… 痛かったっちゅ……」

 

 地面にぶつけた鼻を抑えるネズミ、それを見たコンパはネズミの前でしゃがみこむ。

 心配そうなコンパに、ネズミはウットリとした顔になるが……

 

「な、何っちゅか! ネズミが転ぶのがそんなに面白いっちゅか!?」

 

 思わず憎まれ口を叩くネズミ。しかし、それでめげるコンパではない。

 優しくニッコリと微笑んで見せる。

 

「大丈夫そうで、良かったです!」

 

 その笑みを見た瞬間、ネズミの脳天から尻尾の先まで電流が駆け巡る。

 別に時計型ディセプティコンに取りつかれているわけではない。比喩表現である。

 

「あ、でも擦りむいてるですね。これ、貼ってあげるですね」

 

 そう言ってネズミの手を取り、擦り傷に絆創膏を貼ってやるコンパ。

 ネズミのハートにフュージョンカノンで撃ち抜かれたような衝撃が走る。

 だがコンパのターンは終わらない。

 

「もう、大丈夫ですよ♪」

 

 満面の笑みである。

 オートボットの総攻撃を喰らったが如く、ネズミは完全に堕ちた。

 

「気を付けてくださいね、ネズミさん♪」

 

「は、はいっちゅ……」

 

「じゃあ、わたしはこれで」

 

「ま、まってくださいっちゅ!」

 

 去ろうとするコンパを、ネズミは呼び止めた。

 

「? なんですか?」

 

「あ、あの…… お名前は、何と言うっちゅか……」

 

 顔を赤くするネズミに、コンパはその意味は分からないものの、笑顔で答える。

 

「コンパですぅ!」

 

「こ、コンパちゃん…… 可憐なお名……」

 

「ふむ、このモンスターはフェロモンレベルから察するに交尾を望んでいる」

 

「ぢゅぅうううッッ!?」

 

 いつの間にか現れた薄いグリーンのレスキュー車と、それから聞こえた言葉にネズミは飛びあがった。

 

「あ、ラチェットさん」

 

「やあコンパ。迎えに来たよ」

 

 コンパは笑顔でレスキュー車型オートボットの名を呼ぶ。

 各員のパートナーたちも、買い物に付き合っていたのだ。

 

「しかし不思議だな、君とこのネズミは完全な異種族だ。にもかかわらず、このネズミは君と交尾を……」

 

「ななな、ナニを言ってるっちゅか!? こ、コンパちゃんの前でそんな、ふ、ふしだらな!!」

 

 空気読めないってレベルじゃないことを言い出すラチェットにネズミは顔を真っ赤にして怒鳴る。

 

「?」

 

 だがコンパはまったく意味が分からず首を傾げている。さすがに交尾の意味が分からないわけではないが、それが自分と結びつかないのである。

 罪深きは自覚のなさ。コンパは魔性の女の素質があるのかもしれない。

 

  *  *  *

 

 そんな一人と一匹と一オートボットから少し離れた所を、ネプギアとアリスが買い物を抱えて歩いていた。

 

「それじゃあ、アリスさんは最近リーンボックスへ?」

 

「はい、私のような新参者を受け入れてくださるなんて、ベール様は素晴らしいかたです。……少し、困ったところもありますけど」

 

 年齢が近いこともあり、ネプギアとアリスは親しげに話し合う。

 

「あれ?」

 

 と、ネプギアが足元に落ちていた赤い十字型の結晶を何気なく拾い上げた。

 横にいたアリスの目が一瞬驚愕に見開かれる。

 その瞬間、ネプギアの全身から力が抜け、座り込んでしまう。

 

「……ね、ネプギア様!」

 

 ハッと我に返ったアリスがネプギアの肩を掴んでゆすり、その揺れでネプギアは手に持っていた結晶を落とした。

 一瞬、ほんの一瞬、アリスがホッとしたように息を吐いたのを見た者はいない。

 

「ぎあちゃん?」

 

 コンパが異変に気付いた。

 

「さ、触るんじゃないっちゅ!」

 

 それはネズミも同じだった。

 すぐさま結晶を拾うと、走り去る。

 

「ギ…ア…?『ダイジョブかい?』」

 

 いつの間にか黄色いスポーツカーがネプギアの近くに寄って来た。彼女たちを迎えに来たバンブルビーだ。

 

「ぎあちゃん? どうしたですか?」

 

 コンパとラチェットもネプギアの傍にやってくる。

 

「分かりません、急に力が抜けて……」

 

「ふむ、貧血の症状に似ているね」

 

「でも女神さんが貧血なんて聞いたことないです」

 

 医療担当の二人が意見を出すが、答えは分からない。

 一方、走り去るネズミは待ち合わせ場所にやってきたアイエフとすれ違っていた。

 

「……?」

 

 アイエフはネズミを見て、少しだけどこかで見たような気がしたのだった。

 

  *  *  *

 

 ネズミは全力疾走でひとけのない路地に入ると、一息吐く。

 

「危なかったっちゅ。まさか女神の妹が……」

 

 危なかったが、どうにか切り抜けられた。

 

「それはともかく…… コンパちゃん天使、マジ天使! っちゅ!」

 

 顔を赤らめ出会いの思い出に浸るネズミ。

 

「おいおいおい、ネズ公よう」

 

 そこに甲高い声がかけられた。ネズミの全身の毛が逆立つ。

 

「っぢゅ!?」

 

 声のしたほうをネズミが見ると、機械の鳥が退路を塞ぐように舞い降りたところだった。

 

「何やってんだよ、おまえ……」

 

 レーザービークだ。

 さらにラヴィッジも影から姿を見せる。

 ネズミは二匹の金属の獣に挟まれた格好だ。

 

「なあおい、おまえ、こんな餓鬼の使いみたいな仕事も満足にできないわけ?」

 

 ネットリした声でレーザービークが問うが、ネズミは恐怖のあまり固まっている。

 

「今も、『アイツ』がフォローしてくれなかったら、ヤバかったよなあ……」

 

 相方の言葉に、ラヴィッジも低い唸り声で応じた。

 機械の鳥はさらに言葉を続ける。

 

「もういっそ、俺たちに『それ』を渡しちまいな。そうすりゃ……」

 

「……用済みで消すっちゅか! そうはいかないっちゅ! こいつはオイラが届けるっちゅ!」

 

 ネズミはなけなしの勇気を振り絞り、レーザービークの脇をすり抜けて大通りへと出て行った。

 

「……はん!」

 

 その姿が見えなくなった後、レーザービークは唾のような液体を路面に吐き捨てる。

 

「まったく、使えねえ。あんなので上手くいくのかね?」

 

 その疑問に、ラヴィッジが低く唸って答えた。

 

「ああそうだな、捨て駒にゃ、ちょうどいいさ」

 

 そう言って機械鳥は酷薄に笑う。

 

「それはそうとラヴィッジ」

 

 しかし、何か思い出したように機械豹に向き直った。

 

「5pb.のライブのデータ、ほしいだろ?」

 

 レーザービークの顔は弟分をからかうかのようなものに変わっていた。

 ラヴィッジがブンブンと尻尾を振る。

 

「しっかし、やっぱり生は良かったぜ! 迫力が違うよな!」

 

 後足で立って、いいからよこせと全身で示すラヴィッジに、レーザービークはニヤニヤと笑う。

 

「どうしよっかな~?」

 

 ワザとらしく顔を背けるレーザービークに、ラヴィッジは今にも飛びかからんばかりだ。

 

「はいはい、分かったよ! ほれデータ」

 

 短い通信で、数時間に渡るライブのデータをラヴィッジに渡す。

 ラヴィッジはすぐさま、ブレインサーキット内で映像を再生し、歌姫の歌声に浸かる。

 

「んじゃ、俺は次の仕事に行くから。おまえは待機な」

 

 どこか恍惚とした様子のラヴィッジを横目で見ながら、レーザービークは翼を羽ばたかせて飛び立っていった。

 

  *  *  *

 

 日も暮れはじめ、夕方。

 リーンボックス教会のベールの部屋は、すっかり片付き、テーブルには料理と飲み物が並んでいた。

 

「お待たせしました! 我が家のホームパーティーに、ようこそ!」

 

 ベールが腕を広げ笑顔で言う。

 しかし、持て成されるはずの一同の表情は冷めたものだ。

 アリスは用があるとかで席を外している。

 

「っていうかベール、ほとんど何もしてない……」

 

「やめましょう、いっても虚しいだけよ」

 

 ブランとノワールは呆れ果てた様子だ。

 一方、ネプテューヌはネプギアに心配げな視線を向ける。

 

「さっき、立ちくらみしたんだって?」

 

「うん、もう平気だよ」

 

 そんな一同の空気を気にせず、ベールはパーティー開始の音頭を取った。

 

「さあ、みなさん! 遠慮なく食べて、飲んで、騒ぎましょう! 今日のために飛びっきりのゲームも用意しておりますわ!」

 

「おおー! なになに?」

 

 ゲームという言葉にネプテューヌが反応する。

 

「説明するより見せたほうが早いですわね。ネプテューヌとノワール、少し後ろに立ってくださいな」

 

「ほいなー!」

 

「え、なに?」

 

 ベールの言葉に二人はとりあえず後ろに行く。

 するとベールは机の上に置いてあったコントローラーを手に持つ。

 

「ジャズ、そちらの準備はよろしくて?」

 

『ああ、こっちはOKだ。いつでも始めてくれ!』

 

 どこからかジャズの声が聞こえてきた。

 

「では、いきますわよ」

 

 そしてコントローラーを操作すると、床に置かれた球体状の機械から光が放たれ、部屋の景色が変わっていく。

 そこは広大な密林だった。木々も地面も飛び交う蝶も本物にしか見えない。

 しかし、なんだか縮尺がおかしい。妙に小さいのだ。いや見ているほうが巨大になっていると言うべきか。

 

「あ! ねぷねぷたちが!」

 

 コンパの声に一同が二人のほうを向くと、そこには少女たちの姿はなく、代わりに紫と黒のロボットが一機ずつ立っていた。

 それぞれ何となくネプテューヌとノワールを思わせる造形をしている。

 

「ねぷう!? ロボットになってる!?」

 

「こ、これ、私なの!?」

 

 ロボット二機からは、やはりネプテューヌとノワールの声を出した。

 ベールは薄く微笑む。

 

「二人の動きを特殊なカメラで読み取って立体投影していますの。オートボットの技術を応用したのですわ」

 

「なるほどー」

 

「むう、さすがはベール……」

 

 ネプテューヌロボは素直に感心し、ノワールロボは少し悔しそうだ。

 だがベールは、さらに悪戯っぽい笑みを浮かべた。

 

「そして、ここからが本番ですわ!」

 

 新たなロボットたちが転送されてきたようなエフェクトとともに現れた。

 

「おお! これは!」

 

「『わーい!』ギ…ア『と同じサイズだー』」

 

「やれやれ、この歳でゲームか……」

 

「また年寄臭いことを」

 

「…………」

 

「おおー! すげー!」

 

「でも俺らはあんま変わんねえな」

 

「ふむ、なかなか面白いな」

 

「このゲームでも一番小柄なのね、私」

 

 それは、人間サイズのオートボットの面々だった。

 皆サイズ差が出過ぎないように調整されており、少し戸惑っているようだ。

 ネプテューヌが気にせず先頭の総司令官に駆け寄り、それでも自分よりだいぶ大きな体を見上げ、さらにその胸板をペチペチと叩く。

 

「おおー! オプっちがなんかちっちゃーい! それに触れるんだー!」

 

「う~む、何とも不思議な感覚だ……」

 

 オプティマスが一同を代表するように声を出すと、横に立っていたジャズがニカッと笑って見せる。

 

「どうだい? なかなかのサプライズだろ。これならみんなで遊べるぜ!」

 

 そのそばにベールが寄り添うように並び、柔らかい微笑みを浮かべる。

 

「オートボットのみなさんが、ゲイムギョウ界にいらっしゃってからしばらく経ちますし、この機会により親交を深めていきましょう」

 

 もちろん、オートボットたちはこの場にいるわけではなく、離れた場所で待機している。

 彼らはゲーム機に自分の回路を繋ぐことで、この場にその似姿を投射しているのだ。この姿でなら、ゲーム機の作り出す仮想空間限定ではあるが、女神たちと触れ合うこともできる。

 オートボットの技術が平和利用された一つの結果であった。

 ロムとラムがもう一組の双子に駆け寄り、そっぽを向いているミラージュの顔をブランが覗き込む。

 アイアンハイドが照れ隠しに渋い顔をすればノワールが苦笑し、サイドスワイプとユニは何となくお互い照れたように微笑み合う。

 ラチェットとコンパは素直に笑い合い、アーシーとアイエフは特に理由なく背比べしている。

 一同は楽しいひと時を過ごすのだった。

 

  *  *  *

 

 リーンボックスの港、水平線に沈みゆく夕日が海を赤く染める。

 そんな一角で黒衣の女性が何者かを待っていた。

 

「……っぢゅう ……っぢゅう」

 

 そこへ走ってきたのは、あのネズミだ。

 黒衣の女性は厳しい声を出す。

 

「遅い! 計画を台無しにするつもりか!!」

 

「これでも精一杯急いだっちゅよ! 余裕のないスケジュール組んだオバハンが悪いっちゅ!」

 

 ゼエゼエと息を吐きながら反論するネズミ。

 オバハン呼ばわりに黒衣の女性は額に青筋を浮かべる。

 

「雇い主をそう呼ぶのをやめろと何度言えば……」

 

 しかし黒衣の女性は怒っている場合ではないと仕切りなおす。

 

「ま、まあいい、ネズミふぜいにいちいち腹を立ててはいられん。例の物を早くよこせ!」

 

「分かってるっちゅよ……」

 

 ネズミは鞄からあの赤く光る結晶を取り出し、黒衣の女性に差し出した。

 不敵に笑いながら、女性は結晶を手に取る。

 

「フフフ、これで四つそろった」

 

「……ホントにやるっちゅか?」

 

 対するネズミはどこか不安げだ。

 女性は顔をしかめる。

 

「何だ? いまさら怖気づいたのか?」

 

「そういうわけじゃないっちゅけど…… 正直、ディセプティコンと組んでるのは生きた心地がしないっちゅ……」

 

「……まあな」

 

 黒衣の女性とて、メガトロンの恐ろしさは分かっているつもりだ。

 同盟という形で黒衣の女性とディセプティコンが手を組んでいるのは、女神とオートボットという共通の敵がいるからに過ぎない。

 用が済めば、ほぼ確実にメガトロンは女性を消すつもりだろう。

 だがそうはさせない。

 

「手はあるさ……」

 

 ほくそ笑む黒衣の女性。

 

「今夜、世界というゲイムのルールが塗り替えられる」

 

 ただ利用されるつもりはない。

 むしろ、利用するのはこちらのほうだ。

 昏い決意を込めて黒衣の女性は笑う。

 

 二人のことをレーザービークが監視していることには、気付かずに。

 

 夜が、来ようとしていた。

 




楽しい時間の裏で暗躍する者たち、迫りくる危機、そんな回。

それにしてもトランスフォーマーはアドベンチャー放送、ネプテューヌはVⅡ発売が近づいてきましたね。
アドベンチャー、プライム(海外版)の続編らしいけど、いろいろとどうするんだろう?
ギャラクシーフォースみたく、まったく関係ない新作ってことにして放送する気でしょうか?
VⅡはゴールドサァドにダークメガミ、ネクストフォームと面白そうな要素が多いけど、この作品に設定取り込むかは未定で。
ああでも、ネクストフォームのネプテューヌ、いままでとイメージ違ってていいなぁ。

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