超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION   作:投稿参謀

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例によって、思ってたより長くなったので分割。
閑話が前後編って、どうなんでしょう?


閑話 暗闇の中で part1

 来る日も来る日も、暗闇の中で穴を掘り続ける。

 もう、どれだけこうしているのかも分からない。

 友達だった奴は、坑道の崩落に巻き込まれて潰れた。

 長老格はエネルギー切れで、動かなくなってリサイクルされた。

 自分より年下の新入りは、劣悪な採掘機器が暴走してバラバラになった。

 いつも喧嘩していたアイツは、暴動に参加して銃で撃たれた。

 仲間と呼べる者は皆、死に絶えた。

 自分も、もうすぐ彼らの後を追うだろう。

 きっとこれが自分に定められた、運命なのだ。

 

  *  *  *

 

 ディセプティコン破壊兵ボーンクラッシャー。彼の性格を一言で表すなら『方向性無き破壊衝動』という言葉がふさわしい。

 彼は理由などなく、オートボットも、ディセプティコンも、それ以外も、全てを等しく憎んでいるのだ。

その憎悪の向く先は破壊大帝メガトロンでさえ例外ではなく、しかしメガトロンへの恐怖がディセプティコンに彼を繋ぎ止めていた。

 だから、ゲイムギョウ界に跳ばされた今回も彼は変わらず周囲の全てを破壊したかったが、転送時のダメージがそれを阻んだ。

 ボーンクラッシャーは僅かな理性を最大限働かせ、手近な軍事基地にもぐりこみ、そこにあった兵器をスキャンした。

 ここで問題が生じた。彼のエネルギー不足と機能不全は深刻で、動くことは愚か通信も変形さえできなくなってしまったのだ。

 さらに、彼にとって不運だったのは彼がスキャンしたのが地雷処理車だったことだ。

 このゲイムギョウ界に置いて、地雷とは非常に珍しい兵器だ。

 かつて女神が争い合っていた時代、地雷は実戦に投入されるや、その有用性と同時に非道さも証明した。

 しかし地雷の作り出す地獄絵図を誰よりも忌避したのは、国の統治者たる女神たちだった。

 かくして地雷の開発、製造、使用は全世界規模で禁止され、徹底的に根絶された。

 地雷への対策として開発された地雷処理車もまたわずかな期間で無用の長物と化し、忌むべき地雷の記憶とともに忘れ去られた。

 軍事大国リーンボックスの、僻地の小規模な軍事基地に稼働しない状態で置かれているのを除いては。

 それこそがボーンクラッシャーがスキャンした地雷処理車である。

 この基地はリーンボックスでも僻地も僻地に位置しており、配置された兵もほんのわずかで、やる気も緊張感もない。

 ボーンクラッシャーが本物の地雷処理車と入れ替わっても、気づく者はいなかった。

 サイバトロンにいたころと変わらず全てを憎み、オートボットとディセプティコンとメガトロンに対する恨み言をため込みながら、ボーンクラッシャーはじっと救援が来るのを待っていた。

 彼は、己のディセプティコンにとって欠かせない戦力だと理解していたから。

 やがて基地に務める警備兵たちが、オートボットとディセプティコンの戦いについて噂し始めた。

 だが、助けはこない。

 ボーンクラッシャーは無能な仲間たちを憎んだ。

 プラネテューヌという所でオプティマスとメガトロンが激突したらしいという噂を聞いた。

 だが、助けはこない。

 ボーンクラッシャーは愚かなオートボットたちを憎んだ。

 ラステイションでコンストラクティコンたちが暴れていると言う噂を聞いた。

 だが、助けはこない。

 ボーンクラッシャーは呑気な有機生命体を憎んだが、同時に減りゆくエネルギー残量と上手くいかない自己修復が不安になってきた。

 ルウィーでドレッズが誘拐騒動を起こしたという噂を聞いた。

 だが、助けはこない。

 ボーンクラッシャーはひょっとして自分は見捨てられたのでは? と考え始めていた。

 有機生命体がオートボットとディセプティコンのことを噂しなくなった。

 だが、助けはこない。

 もう間違いない。自分は見限られたのだ。

 エネルギー残量はもう限界であり、自己修復は進まず、通信も変形も声を出すこともできない。

 身体が仮死状態(ステイシス・ロック)に入ろうとしている。

 ボーンクラッシャーは戦場で死ぬのは怖くなかった。むしろ、そういう死に方がいいと思っていた。

 だがこのままでは自分の運命は、誰にも気づかれず忘れ去られ、埃と錆にまみれてゆっくりと朽ちてゆく……

 

 嫌だ! そんなのは嫌だ! 誰か、誰か助けてくれぇええぇええッッ!!

 

 ボーンクラッシャーはステイシス・ロックに入る瞬間、生まれて初めてスパークから助けを求めて声にならない叫びを上げたが、それを聞く者はいなかった。

 

  *  *  *

 

 突然、ステイシス・ロックが解除された。

 エネルギーが補給され、最低限だが修理されたのだ。

 なんとかロボットモードに戻るが、姿勢制御が上手くいかずうつ伏せに倒れ込んでしまう。

 オプティックが機能を回復し、視界に映像がうっすらと映る。

 最初に飛び込んできたのは光だった。

 その中に、有機生命体の影が浮かんでいる。

 ボーンクラッシャーは有機生命体のことも憎悪していたが、なぜか今はまったく憎悪を感じなかった。

 それどころか、その有機生命体を『美しい』とさえ感じていた。

 頭部の何か長くて青い物が、光を反射してキラキラと輝き、オプティックから流れる透明な液体が上質なクリスタルのような光を放つ……少なくとも彼にはそう見えた。

 ボーンクラッシャーは生まれて初めて『美しい』という概念を理解した。

 

 一方その有機生命体、青い髪に眼鏡、頭に角のような飾りの女性、キセイジョウ・レイは不安で涙を流していた。

 後ろに立つフレンジーとバリケードの話によると、目の前のこのディセプティコンはとてつもない乱暴者だという。

 事実、長く太い腕と、特徴的な背中の三本目の腕に鋭い爪を備えた砂色の巨体は見るからにして恐ろしい。自分など、簡単に叩き潰せそうではないか。

 なぜかマジマジと自分を見つめていたボーンクラッシャーなるディセプティコンは、ゆっくりと立ち上がると、バリケードとフレンジーのほうを見た。

 そして、

 

「う、う、う、うおおおぉぉぉん!」

 

 大声を上げて泣き始めた。真っ赤なオプティックからウォッシャー液が流れ出す。

 

「うおおおん!! うおおおん!! 助げに来でぐれだのがぁ!」

 

 その姿をレイは唖然と見上げ、フレンジーとバリケードは顔を見合わせる。

 

「ありがどお! ほんどにありがどぉー!!」

 

「お、おう、礼にゃ及ばねえ……」

 

 泣きながら礼を言ってくるボーンクラッシャーに、フレンジーはなんとか声を出した。

 

「見捨てられだがどおぼったどー!!」

 

「いや、まあ、そのつもりだったんだが……」

 

 バリケードが気まずげに言った。

 メガトロンから、ゲイムギョウ界中に散ったディセプティコンの捜索を命じられたフレンジー、バリケード、レイの二体と一人だが、なにやら大規模な作戦の決行が近づいているらしく、そろそろ仲間の捜索を打ち切るようにと命令されたのだ。

 現状ではこれ以上探しても無駄かとフレンジーとバリケードは考えたのだが、

 

「この、レイちゃんが、ここに基地があったのを思い出してさ。最後に寄ってみることにしたんだけど、そしたらドンピシャリだ」

 

 フレンジーは少しいつもの調子を取戻し、軽い調子で言う。

 

「……そいつが?」

 

 ボーンクラッシャーはようやく泣きやむと、ウォッシャー液を拭い、身を屈めて硬直しているレイの顔をもう一度マジマジと見る。

 

「あんたが…… そうか、そうか!」

 

 そしてなぜか嬉しそうに言うと、姿勢を正す。

 

「あんたは俺の恩人だ! 俺は有機生命体が大嫌いだが、あんたは別だ!」

 

「は、はあ……」

 

 突然の宣言についていくことができず、レイは曖昧な声を漏らす。

 フレンジーとバリケードは再び顔を見合わせ、無言で同じ言葉を交わした。

 

 こいつ、こんなキャラだっけ?

 

 戸惑うレイを前にしても、ボーンクラッシャーの言葉は続く。

 

「何か、邪魔な物はないか? 嫌いな奴は? 恩返しに俺がぶっ潰してやるよ!」

 

 ボーンクラッシャーの言う『恩返し』の内容は多分に暴力的だった。

 

「あは、あははは……」

 

 レイは困って曖昧に笑うことしかできなかった。

 

  *  *  *

 

 ゲイムギョウ界の海のどこかに浮かぶ島、その地下深く、ここにディセプティコンの秘密基地が建造されていた。

 元々そこにあった地下遺跡を利用したそれは、臨時基地ながら規模、機能、ともに廃村に築いた基地とは比べものにならない。基地建設に従事したコンストラクティコンたちの技術力のほどがうかがえた。

 その基地の中枢に存在する司令部。

 宗教的な施設だったと思しい円形の部屋の中央に、トランスフォーマーサイズの円卓と、それに一体化したホログラム発生装置が設置され、扉から見て奥にはメガトロンのための椅子が据えられている。その後ろには壁に直接、ディセプティコンのエンブレムが彫り込まれていた。

 あるいはかつて神聖な場所だったのかも知れないそこは、今や破壊大帝の玉座の間と化していた。

 メガトロンは玉座に腰かけてオプティックをつぶり、その正面にはトンガリ帽子に黒衣の女性が誰もが恐れる破壊大帝を物怖じせず見上げていた。

 

「それで、戦力は整ったのだな」

 

 黒衣の女性が言葉を発すると、メガトロンは閉じていたオプティックを開ける。

 

「うむ、今度フレンジーたちが回収してくるので、とりあえずはな」

 

 実際には、まだ見つかっていないディセプティコンはいる。

 メガトロンの腹心の一体である科学参謀と、斥候が一体。

 特に科学参謀が見つからなかったのは痛いが、仕方がない。

 

「……貴様の策、上手くゆくのだろうな?」

 

 メガトロンは黒衣の女性を睨みつける。

 対して女性は不敵に答えた。

 

「もちろんだ。この作戦で女神どもはもちろん、目障りなオートボットどもも一網打尽にしてくれる!」

 

 自信満々でほくそ笑む黒衣の女性だが、メガトロンは視線を合わせず黙考する。

 この女の策は、たしかに女神に対して有効な手だ。

 それにディセプティコンの技術を合わせれば、オートボットをも打倒し得る。

 加えて、この女の女神を倒し自分こそが世界の頂点に立とうと言う、その気概は気に入っている。だが、それゆえに彼女が自分の下につくことはないということも理解していた。

 現在も彼女はディセプティコンに従っているわけではなく、対等な同盟者ということになっているのだ。遠くない未来には敵同士になるだろう。

 

 油断は禁物だな……

 

 そう思考したところで、通信が入った。

 

『メガトロン様! フレンジー、バリケード、ただいま戻りました! 無事ボーンクラッシャーを回収しましたぜ!』

 

 フレンジーからだった。

 

「入れ」

 

 メガトロンは鷹揚が言うと司令部のトランスフォーマーサイズの自動扉が開き、フレンジーとバリケード、ボーンクラッシャーが入室してきた。

 どういうわけか、ボーンクラッシャーはキセイジョウ・レイを恭しく腕に抱えている。

 

「あ、あの降ろしてください……」

 

「おう!」

 

 レイが控えめに声を出すと、ボーンクラッシャーはそっと彼女を降ろした。

 バリケードはどこ吹く風だが、なぜかフレンジーは微妙に不機嫌そうだ。

 一連の流れを訝しげに見ていたメガトロンだったが、整列した兵士たちに声をかける。

 

「フレンジー、バリケード、御苦労だった。ボーンクラッシャーも無事だったようだな」

 

「「「ははッ!」」」

 

 三体のディセプティコンは跪き、頭を垂れる。

 

「おまえたちは待機しておれ。命令は追って伝える」

 

「「「了解!」」」

 

 メガトロンの言葉に、兵士たちは合意する。

 破壊大帝の言葉に逆らうなど、あるはずがない。

 

「あ、あの~」

 

 と、オズオズと声を出す者がいた。

 レイだ。

 

「………………なんだ?」

 

 たっぷりと間を置いてから、メガトロンは顔を動かさず視線だけレイに向ける。

 

「ひッ! ……あ、あの、私ってもう、お役に立ちませんよね?」

 

 その言葉に、メガトロンは顔をしかめ、フレンジーとバリケード、ボーンクラッシャーは固まった。

 ディセプティコンにおいて役に立たないとは、死を意味するからだ。

 

「そうだな。おまえがいても、なんの役にも立つまい」

 

 レイの言葉に答えたのは玉座に座る破壊大帝ではなく、いつのまにかレイのそばまで来ていた黒衣の女性だ。

 

「はっきり言って、いないほうがマシだな」

 

「で、ですよねー」

 

 見下したような顔の黒衣の女性に、レイは愛想笑いで返す。

 その横ではボーンクラッシャーが立ち上がったのを、バリケードが抑えている。

 メガトロンはレイから視線を外さないまま、黙っていた。

 

「つ、つまりですね、私もう、ここにいる意味ありませんし、家に帰っても……」

 

「ダメだ」

 

 レイの言葉を突然メガトロンがさえぎった。

 

「な、なんでですか!?」

 

「なんででもだ。……逃げれば殺す」

 

 それだけ言うと、話は終わりだとばかりにオプティックを閉じる。

 

「そんな……」

 

 レイは糸が切れたように床にへたり込む。

 ディセプティコンを全て集めれば、解放される。この恐ろしい怪物から逃れられるだろうという儚い望みだけがレイを支えていたのだ。

 そんな彼女を、黒衣の女性は汚い物を見る目で見下ろしていた。

 

「まあいいじゃん! 俺たち、結構レイちゃんのこと好きだぜ!」

 

 フレンジーが両腕を広げて陽気に言うが、バリケードは皮肉っぽく嗤う。

 

「そうだな。ペットとしては、まあまあな」

 

「ペット……」

 

 レイは虚ろな表情で呟く。

 

「なんだと! バリケードてめえ! 俺の恩人に向かって……!」

 

「おいおいバリケード! そりゃ言い過ぎだろ! レイちゃん気にすんなって! こいつ仲間にはいつもこの調子なんだよ!」

 

 ボーンクラッシャーがバリケードに掴みかかり、フレンジーが軽い調子で言う。

 しかし、バリケードは皮肉な笑みを消さない。

 

「何か間違ったこと言ったか? まさかおまえら、そいつのこと本当に仲間だの恩人だのって言ってるわけじゃないよな? ……ディセプティコンのくせに」

 

 その言葉に、ボーンクラッシャーは振り上げた右腕を止め、フレンジーはバツが悪そうに黙りこむ。

 そして、興味なさげにオプティックを閉じたままのメガトロンを盗み見た。

 金属生命体にとって、ことさらディセプティコンとその支配者にとって、有機生命体は下等なムシケラに過ぎない。

 それを軍団が、すなわち破壊大帝が必要とする以上に構うのは、この冷酷な支配者の気に障りかねない。それはディセプティコンに属する者にとって、最大の恐怖だ。

 ボーンクラッシャーはバリケードから手を放し、フレンジーは気まずげにレイを見る。

 レイの顔からは、いっさいの表情がなくなっていた。

 そしてゆっくりと立ち上がると、フラフラとした足取りで部屋の出入り口に向かって歩いて行く。

 

「……逃げるなよ?」

 

 メガトロンは、オプティックを片方だけ開けて言った。

 

「逃げませんよぉ」

 

 レイは振り返らず妙に明るい声を出した。

 

「あ、あのレイちゃん……」

 

 フレンジーが意を決したようにレイに声をかけるが、レイは歩みを止めない。

 

「……少し、一人にしてください」

 

 部屋を出る直前にようやく出したその声は、やはり無理をしているかのように明るいものだった。

 

「ペットにも、お休みは必要ですから」

 

 そして、部屋から退出した。

 黒衣の女性は嘲笑を浮かべ、バリケードは皮肉っぽく肩をすくめ、ボーンクラッシャーは自問自答するように頭を掻き、フレンジーは茫然と扉のほうを見つめていた。

 鋭く細められたメガトロンのオプティックが、レイのことをジッと見ていたことに気が付いた者はいなかった。

 

  *  *  *

 

 レイはおぼつかない足取りで広大な基地の中を歩き、自分にあてがわれた部屋に戻った。

そこは金属とコンクリートの壁がむき出しになり、家具の一つもない殺風景を通り越して人間の生活する場所とは思えない部屋だ。

 辛うじて粗末な水道と薄い毛布の存在が、ここに『生き物』がいるということを示していた。

 毛布を拾い上げると、それを頭からかぶり照明も点けずに壁にもたれて座り込む。

 表情は虚ろで、目は何も映していない。

 しばらくそうしていたが、やがて誰にともなく感情のこもっていない声で呟いた。

 

「…………逃げよう」

 

 それは決意をしてと言うよりは、他にすることがないからとでも言うような、空虚な言葉だった。

 

  *  *  *

 

 逃げることにしたのはいいが、どうすればいいかは分からない。

 基地の中を彷徨うレイに計画などなかった。

 いくつめかの角を曲がろうとしたところで、その先からトランスフォーマー特有の重く大きい足音が聞こえて来た。

 レイは立ち止まり、影に身を隠す。

 

「メガトロン様、よろしいでしょうか?」

 

 声が聞こえてきたかと思うと、足音が止まる。

 その声はレイの記憶が確かなら、コンストラクティコンのリーダー、ミックスマスターのものだ。

 

「ミックスマスターか、どうした?」

 

 メガトロンの地獄から響いてくるかのような低い声がした。

 

「へえ、御報告しておきたいことが……」

 

「申せ」

 

 へつらうようなミックスマスターの声に、メガトロンは短く言った。

 

「へえ、第5区画の拡張工事をしていたところ、別の人口的な空間と繋がっちまいまして、どうやら古い坑道跡みたいなんです」

 

「それがどうした」

 

 メガトロンの声は冷たい。

 

「へ、へえ! それが、その坑道、どうやら『上』に続いてるらしく…… へたすると人間どもが入り込んでくる可能性が……」

 

「ならば、埋めてしまえばよかろう。つまらんことで俺に時間を割かせるな」

 

 それだけ言うと、メガトロンは再び歩き出したらしく、重い足音が聞こえはじめ、そして遠ざかって行った。

 

「カーッペッ!」

 

 足音が完全に聞こえなくなったところで、ミックスマスターの不機嫌そうな声が聞こえた。

 

「まったく、威張り腐りやがって! 誰がこの基地を造ってやったと思ってんだ! 穴埋めんのだって大変なんだぞ! これだから苦労知らずの戦闘馬鹿は……」

 

 グチグチと呟きながら、ミックスマスターの声も遠ざかって行った。

 レイは壁の影に身を隠したまま、今の会話について考える。

 今のが本当なら、外に通じる道がある。

 この場所は元々、レイの知っている場所だ。

 外にさえ出られば人間がいるはず。

 

「出られる…… 逃げられる……!」

 

 レイは心にわいてきた希望のままに、考えもなく駆け出した。

 

  *  *  *

 

 ディセプティコン基地の長い通路を、フレンジーとバリケード、ボーンクラッシャーの三体が歩いていた。

 三体とも布に包まれた荷物を抱えている。

 

「ま~ったく! メガトロン様もあんなに脅しちゃ、レイちゃんだって引いちまうのが分かりそうなもんだよな!」

 

「……おう」

 

 先頭を行くフレンジーの言葉に、ボーンクラッシャーはボソボソと答える。

 

「おまえもおまえだぜ、バリケード! ペットはねえだろ、ペットは!」

 

「フン」

 

 相方の言葉に対し、バリケードは小さく鼻を鳴らすような音を出した。

 

「しかし、ボーンクラッシャーが手伝ってくれるとはな~。おまえもっと協調性のない奴だと思ってたぜ!」

 

「……間違っちゃいないな」

 

 意外そうなフレンジーに対し特に否定はしないボーンクラッシャー。

 三体のディセプティコンは、荷物を抱えたまま進んでいく。

 そして、ある部屋の前で止まった。

 そこはキセイジョウ・レイにあてがわれた部屋だった。

 

「へへッ、レイちゃんもこれ見りゃ少しは機嫌治すだろ!」

 

「……そうだと、いいなあ」

 

「どうだかな」

 

 陽気にフレンジーが言うと、ボーンクラッシャーとバリケードはそれぞれ返す。

 どうやら手にした荷物はレイへの贈り物であるらしい。

 どういう風の吹き回しか、ディセプティコンらしからぬことだ。

 

「レ~イちゃん! 入るぜ~! ……あれ?」

 

 フレンジーが陽気に声を出して部屋に入るが、そこにレイの姿はなかった。

 部屋の中には隠れるような場所もない。

 

「あれ~? どこ行ったのさ~? ………まさか!?」

 

  *  *  *

 

 ディセプティコンの基地にはメガトロン以外には限られた者しか入ることを許されない部屋がある。

 かなり広いドーム状の空間になっていて、外周にそって機械が設置され、中央にはあの幾何学模様の球体が安置されている。

 球体の下部には何本ものチューブが接続され、地熱から得たエネルギーを絶えず球体に供給していた。

 球体はまるで鼓動するように青く明滅を繰り返している。

 その球体の前にメガトロンが立っていた。

 

「……これでも、まだ駄目か」

 

 メガトロンは、球体の表面を撫でながら、どこか残念そうに言った。

 

「エネルギー変換機で作った疑似エネルゴンだと、エネルギー効率があまり良くないみたいですからね……」

 

 機械を操作していたスタースクリームが、こちらも嘆息混じりに声を出した。

 

「まあいい。今度の計画が上手くいけば、『コイツら』にもたらふくエネルギーを与えてやれるわ」

 

 メガトロンは一つ排気すると、傲然とした言葉を発した。

 

「上手くいけば、だけどな……」

 

 スタースクリームはメガトロンに聞こえないように小さく言うと、機械を自動維持モードにする。

 

「チームリーダーを集めろ。作戦に向けてミーティングをするぞ」

 

 副官である航空参謀に向けそう言うとメガトロンは球体に背を向けて歩き出す。

 

『めめめ、メガトロン様! た、大変です!』

 

 そこへ、フレンジーから緊急通信が入って来た。

 飄々とした彼らしくない慌てた声だ。

 

「フレンジーか、どうした」

 

『レイちゃんが! レイちゃんがいないんです!!』

 

「なんだと!?」

 

 声を荒げるメガトロン。

 ただでさえ恐ろしいその声が、さらに危険な響きを帯びる。

 

『基地の中はあらかた探しましたけど、見当たりません!』 

 

「あの女を見張るのが、貴様の任務だろうが! 何をしておった!!」

 

『ももも、申し訳ございませぇぇぇんん!!』

 

 破壊大帝の怒号に、必死で謝るフレンジー。

 

「もうよいわ! 貴様はそのまま基地の中を探せ!!」

 

 通信を切り、メガトロンは怒り心頭ながらもブレインサーキットを回転させる。

 この基地の出入り口は固く閉じられている上に、見張りもいる。

 通風孔や上下水道も、侵入も脱走もできないようになっている。

 ならば、あの女の行く先は……

 

「あの坑道か!」

 

 思い当ったメガトロンは、怒りのままに大股に歩いていく

 その背にスタースクリームが声をかけた。

 

「あ! ちょっと、メガトロン様! ミーティングはどうするんですか!?」

 

「後だ! あの女め! 俺が直接捕らえてくれる!!」

 

 部屋を出て行くメガトロン。

 一体残されたスタースクリームは、何事かを思いついたかのようにニヤリと顔を歪める。

 

「坑道、ね」

 

 その笑みは、酷く楽しそうだった。

 

  *  *  *

 

 そしてここが問題の坑道。

 かなりの広さのあり、あちこちに飛び出た鉱石が光り輝いていて地下にも関わらずある程度の明るさがある。

 

「はあッ…… はあッ……」

 

 レイはここを夢中で進んでいた。

 坑道の入り口で見張りをしていたロングハウルはオイルの飲み過ぎでスリープモードに入っていた。望外の幸運だ。

 しかし坑道の床は土がむき出しでデコボコとしており、なかなか思う様に歩けない。

 増してどんくさいレイのこと、すでに結構な時間坑道内を進んでいるにも関わらず、出口に辿り着けていなかった。

 一本道で迷うことはないのが、せめてもの救いだ。

 

「もうすぐ…… もうすぐよ……」

 

 泥だらけになり肩で息をしながらも、顔に笑みが浮かぶ。

 これでメガトロン、あの恐ろしい怪物ともオサラバだ。

 だが、ズシンズシンと重い足音が背後から響いてきた。

 レイが顔を真っ青にして振り返ると、遥か後ろの暗闇に赤い光が見える。

 ディセプティコンのオプティックだ。

 慌てて走り出すが、足音はどんどん近づいて来る。

 生存本能の命ずるまま、両足に力を込めてレイは全力疾走する。

 

「あうッ!」

 

 だが床から飛び出した鉱石につまずき、転んでしまう。

 必死に立ち上がろうとするが、重い足音がすぐ後ろまで来て止まった。

 レイがゆっくり後ろを向くと、そこには斜めに傷の走った悪鬼羅刹の如き恐ろしい顔があった。

 

「女ぁ、 命令に背いたなぁぁ!」

 

 地獄の底から響いてくかのような重低音の声が、レイの鼓膜を叩く。

 怒りに満ちたメガトロンの手がレイに伸ばされる。

 

 その時である!

 

 突如としてどこからか爆発音が聞こえて来た。

 レイの身体に指先が触れる寸前、メガトロンの動きが止まった。

 

「いかん!」

 

 メガトロンの声には余裕がなかった。

 坑道全体が揺れ、崩れ始める。

 恐怖と絶望のあまり意識を失いかけているレイの頭上に大量の土砂が落ちてくる。

 

「あ……」

 

 意識を失う瞬間、レイが最後に見たのは自分に覆いかぶさるようにして土砂を受け止める、灰銀の巨体だった。

 




メガトロンの話のはずが、なぜかボーンクラッシャーとレイが目立ってますね。
おかげでメガトロンのエピソードがマルっと次回に。

さて次回の超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMETIONは、

『いつものスタースクリーム』
『そのころのメガトロン』
『そして、このザマである』

で、お送りいたします。
ご意見、ご感想、マジでお待ちしています。

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