超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION 作:投稿参謀
そして全てのベールさんファンへ、ごめんなさい(ジャンピング土下座)
「う~ん、今日は働きましたわねえ」
リーンボックスの女神ベールは、衛星写真を鮮明化するソフトをルウィー側に受け渡す準備を終え、パソコンの前でコキコキと首を鳴らす。
「十分働きましたし、ちょっとくらい……」
そう言ってネットゲームを起動しようとする。
『おいおい、それはやめとけってチカに言われてるだろう』
そこへ通信装置越しに、ジャズが声をかける。
『まだ今日は予定が詰まってるんだぜ』
厳しい声を出すジャズに、ベールは拗ねたような顔をする。
「いいじゃありませんの。ほんの30分くらい……」
『いつも、30分じゃすまないだろう?』
少し口調を柔らかくするジャズに、ベールは何か思いついたような顔をする。
「そう言えば、あなたにわたくしがゲームをするのを止める権限はなかったと思いましたけど?」
柔らかく微笑むベールにジャズはしてやられたという顔をする。
『やれやれ、後で怒られても知らないぞ』
「大丈夫ですわ。公私はきちんと分けるよう努力してますもの」
努力が実を結んではいないけどな…… と思考しつつ、口には出さないジャズだった。
* * *
「そう、お姉さまったら……」
ジャズの報告を聞いて、薄緑の髪を後ろで結った色白の少女、リーンボックス教会の教祖箱崎チカは頭痛を抑えるようにコメカミに指を当てる。
『で、どうする? 許可さえもらえれば強引にでも連れ出すが?』
ジャズがおどけて言ってみる。無論本気ではない。
しかしチカは映像のジャズを鋭く睨んだ。
「あなたにその権限はないわ。そっちのほうはアタクシが何とかするから、あなたは会見会場の護衛をお願い」
そして、厳しい口調で言葉を続ける。
「最初に決めた取決めの通りに動いてちょうだい」
ジャズは苦笑しながらも頷くのだった。
* * *
オートボット副官ジャズのリーンボックスにおける立場を一言で表すと『外様』と言うのが一番しっくりくる。
戦力としてあてにされてはいても、完全には信用されていない。そんなポジションだ。
ジャズがリーンボックスに常駐することが決まったとき、彼にある程度の権限を与える取決めがリーンボックス教会との間で成された。
逆説的に権限外の行動を制限するそれは、ベールやチカがジャズのことを完全には信用していないことを指していた。
ジャズは別にそれでも構わなかった。
なぜなら、こちらも信用していないから。
* * *
「……そんなわけで、この計画は両国、ひいては世界全体にとって有益であるわけです」
衛星写真とそれを鮮明化するソフトについての会見の場。
ベールは矢継ぎ早に繰り出される質問に、淀みなく答えていく。
結局あの後、チカに部屋から引きずり出されたベールは、そのまま会見会場まで引きずられて来た。
しかし、そんな情けない事情は今の堂々と、それでいてたおやかに言葉を紡ぐ彼女からは想像もできない。
「うまいこと、化けるもんだねえ」
ジャズは会見に使われている建物の外に、ビークルモードで停車した状態でひとりごちた。
生中継される会見を見る限り、ベールは仕事をそつなくこなしている。
あるいは、眉目秀麗な彼女には、こういう派手な場のほうが向いているのかも知れない。
* * *
「それが、仕事してないときはこうだもんな……」
ジャズは、彼らしくもなくハアッと排気する。
ここはリーンボックス教会からほど近い所にあるガレージで、この場所はジャズに与えられた空間である。
ジャズの好みに合わせて、壁にはポスターが貼られ、音響機器が置かれている。
今は通信装置を使って……もちろん許可をもらって……ベールを観察しているのだが、映像の向こうでベールは、コントローラーを握りテレビ画面を凝視している。気のせいか息も荒い。
彼女がしているゲームの内容は、男性同士でアレやコレやソレなことをするという、ジャズには理解しがたい物だった。
生粋のゲーマーであるベールが嗜むゲームの中には、そういうゲームがかなり含まれている。
彼女がそれとなく、金属生命体にも同性愛の概念はあるのか……と聞いてきたときなどは、どうしたもんかと途方にくれてしまった。
ちなみに、トランスフォーマーにもそういう性癖は存在するが、少なくともジャズにはその気はない。
しかし、本当に楽しそうである。
その姿から、会見での立派な姿はうかがい知ることは出来ない。
良く言えば切り替えが出来ている。悪く言えば……よく分からない。
「どっちが本当なんだか」
女神として美しく振る舞うベールと、ゲーマーとしてだらけきっているベール。
はたして、どちらが本当の姿なのか。
それとも、両方とも本当なのか。
「あるいは、どっちも嘘か……」
画面の向こうで鼻血を垂らすベールを見つつ、そんな疑念を口にするジャズだった。
* * *
ジャズがリーンボックスへの赴任を望んだのは、もちろんベールが気に入ったのもあるが、女神たちの中でオートボットに対してなにがしか仕掛けてくるとしたら彼女だろうと考えたからだ。
確かな根拠はないが、ジャズの勘がそう告げている。
だから、ジャズはベールの傍でその動向を探ることにした。
オートボットのために。
* * *
そんなある日のこと。
ジャズはガレージの中で音楽を聞いていた。
今日は仕事もなく非番である。
椅子代わりのコンテナに腰かけ、人気アイドル5pb.の曲をかける。
「ごめんくださいな。ジャズ、いらっしゃいまして?」
と、そこにたずねてくる者がいた。
ジャズがそちらを向くと、そこにはベールが逆光を背負って立っていた。
「ベールか、どうしたんだい?」
軽い調子でたずねると、緑の女神はニッコリと笑った。
「いえ、いつぞやに約束したドライブの件ですが……」
「ああ、それならいつでもいいぜ」
以前、冗談めかして彼女をドライブに誘ったのだが、忙しいベールのこと、なかなか実現はしていない。
このまま時間とともに忘れられるのもやむなしとジャズは考えていたのだが、ベールの方から切り出してくるとは思わなかった。
「それでしたら」
ベールは完璧な笑みえを崩さずに言う。
「今から、というのはどうでしょう?」
* * *
何を考えているんだか……
そう思考するビークルモードのジャズの助手席には、ベールが涼しい顔で腰かけている。
ジャズは彼女の真意が測りかねていた。
完全には信用していない自分に、なぜその身を預けるのか。
ひょっとして単なる気まぐれだろうか。自分が考え過ぎなだけかもしれない。
本来ジャズは頭脳派ながらシンプルな考えを好み、人を疑う性質ではないのだが、なにぶんオートボットには単細胞が多すぎる。
出来る奴が出来ることやっておかないと、総司令官の心労が溜まるばかりだ。
ジャズはそう考え、今の状況とは関係ないなと思考を切り替える。
「それで、どこに行くんだい?」
たずねるとベールは笑みを浮かべたままで言った。
「そうですわね、まずは……」
* * *
大通りにて幾人もの若者たちが軽快な音楽に合わせて踊っている。
そう、ここはストリートダンス大会の会場である。
しかし、今や観客の視線は一組の男女に集中していた。
女性のほうは美しい金の髪に緑の瞳、その胸は豊満だった。
言わずと知れたベールである。
自らの国の女神が飛び入り参加したとあって、会場は軽くパニックだ。
それでも、例え女神相手であってもダンスで負けるわけにはいかないという、根性のあるダンサーたちが、当の女神が接待プレイを禁止してきたこともあって真面目にダンスに取り組んでいるが、やはりと言うか緑の女神の輝きには及ばない。
だが、それ以上に目立っているのが女神の後ろで軽快なダンスを披露している銀色のオートボットだ。
何を思ったのかストリートダンス大会に飛び入り参加した二人は息の合ったダンスを披露していた。
「いや、ゲイムギョウ界のダンスもなかなか楽しいね!」
「そうですわね。思い切り体を動かすのも悪くないですわ!」
結局のところ、二人は優勝こそ逃したものの……変形まで組み込んだジャズのサイバトロン式ダンスの評価に審査員が困ったのが原因……思い切りダンスを楽しんだのだった。
* * *
日が傾いてきたころ、カフェのオシャレなオープンテラスにて、ベールは早めの食事を楽しんでいた。
サンドウィッチを上品にかじり、紅茶を優雅に飲む。
「ここの紅茶はなかなかですわね」
「へ~、そんなもんかい」
カップをソーサーに戻すベールに、ジャズは語りかける。
……テラスの外から。
他の客たちが驚いているが、ジャズもベールもどこ吹く風だ。
「あなた方トランスフォーマーには、こういう嗜好品はなくて?」
ベールがたずねると、ジャズは少しだけ考える素振りを見せる。
「そうだな。オイルなんかがそれにあたるかな?」
「そうなんですの?」
「ああ、でもどっちかっていうと酒のほうが近いかな」
取り留めない会話を続けるベールとジャズ。
その姿は、ともすれば仲の良い恋人どうしのようにも見える。
片方が金属の巨人、もう片方が女神でなければだが。
* * *
日も暮れて夜。
リーンボックス市街地の郊外の原っぱに車が何列も並んでいた。
いったい何が始まるというのか?
車が一様に向いている方向には、大きなスクリーンが設置されていて、そこに映像が映り出す。ここはドライブインシアターなのだ。
他の国では廃れたそれも、このリーンボックスでは愛する人がいるのだ。
本日の上映はラブロマンスの古典であり、身分違いの男女が恋に落ち、共に苦難を乗り越え最後に結ばれるという物だ。
古いながらも多くの人に愛される珠玉の名作だった。
並んでいる車の中に、リアウイングが特徴的な銀色のスポーツカーがいた。
もちろんビークルモードのジャズである。
その助手席ではベールが感動のあまり涙を流していた。
* * *
そして深夜、リーンボックス某所の海岸で、ベールとジャズは星空を眺めていた。
一日の最後に星を見たいと言うのがベールのリクエストだった。
「やっぱり、あの映画は最高でしたわね。わたくし、何度観ても泣いてしまいますわ」
ベールは夜風にたなびく髪を押さえながら、静かに声を出した。
「そうだな。俺は観るの初めてだったけど、いい映画だったよ」
ロボットモードでベールの隣に座るジャズも同意する。
ジャズの感性からしても、あの映画はすばらしい出来栄えだった。
まったく音楽といい人間の芸術性には驚かされてばかりだ。
ディセプティコンをはじめ、金属生命体は有機生命体というだけで人間を見下しがちだが、ジャズは逆に一種の敬意さえ抱いていた。
「あんな、素敵な恋をしてみたいものですわね……」
ベールはそう呟く。薄く微笑むその顔に、しかしジャズは寂しさが浮かんでいるのを見逃さなかった。
「すればいいじゃないか」
ジャズはあえて軽い調子で言う。
「あんたなら、どんな相手だって選びたい放題だろう。まあ、恋ってのは映画とかゲームみたいにはいかないもんだが、そこが面白い」
「あら、経験豊かなんですのね」
金属の巨人を見上げ、ベールも軽く返した。
「まあな。これでも故郷じゃモテたんだぜ」
「目に浮かぶようですわね」
ベールの笑みから寂しさが減る。だが完全には消えない。
「それで、恋、してみるかい?」
「わたくしは……」
あくまで軽い口調で言うジャズに、ベールは少し言葉に詰まったが、やがて海のほうを向くと口を開いた。
「わたくしは恋をすることは出来ません」
ジャズには、その意味が理解できなかった。
だが、すぐに思い至る。
「わたくしは女神、国の統治者にして象徴。国民全員の恋人であり母であり娘であり姉妹、それがわたくしですわ」
ジャズは黙ってベールの独白を聞く。
「ですから、特定の方とお付き合いする、ということは出来ませんの。そんなことをすれば多くのシェアを失ってしまいますから」
そう言って笑う緑の女神は酷く儚げだった。
一瞬、星空に彼女が溶けて消えてしまうのではと思ったほどだ。
「そういう意味では、女神とは孤独な存在と言えるかもしれせんわね」
「……チカはどうした。あんたを姉と慕ってるだろう」
ジャズの言葉に緑の女神はゆっくりと首を横に振る。
「チカのことは、大切な妹のように思っていますわ。でも、あの娘は人間…… いつかは死に別れますわ」
ジャズは言葉を失う。
確かにそのとおりだ。シェアさえあれば半永久的に存在できる女神と、わずかに百年ほどで寿命を迎える人間とでは、根本的に生きる時間が異なる。
「わたくしはチカの先代の教祖も、その先代も、さらにその先代のことも、子供のころから知っていましてよ。……その最後まで」
そう言って遠くを見るベール。
その目には懐かしさと悲しみが浮かんでいた。
「まして、わたくしには他の国の女神と違って、妹がいませんわ」
「……そうだったな」
それはベールがリーンボックスの国民から強く信仰されている証であるが、裏を返せば喜びを分かち合う家族もなく、次代を担うべき後継者もなく、全ての重圧が彼女の細い双肩にのしかかってくることを意味する。
「なあ、ベール……」
ジャズは意を決したように言った。
「そろそろ、腹を割って話そう」
その言葉に、ベールは驚いたようにジャズを見上げる。
銀のオートボットの顔は戦場に立っているかのように厳しく油断のないものだった。
「なんで急にドライブに行こうなんて言い出した? なぜ俺に自分の孤独を語る? よりにもよって余所者の俺に」
詰問するかのようなジャズの厳しい言葉に、ベールはヤレヤレと肩の力を抜く。
「あなたとわたくしの仲を深めるため、と言ったら信じまして?」
「信じる。もっとも、仲良くなりたいだけ、とは思わんがな」
これまでの軽い笑いが嘘のようなニヒルな笑みを浮かべて、ジャズはベールの顔を見る。その顔もまた、不敵な笑みになっていた。
「そうですわね。正直に言いますと、わたくし、あなた方オートボットのことを完全には信用していませんの」
「道理だな。俺だって仮に自分の何倍もある光の巨人が現れて、『心配することはない』とか言われても、それを鵜呑みにはできない」
ジャズはオートボットの異文化交流の第一人者である。
故にこそ、それがどれだけ難しいことか誰よりも知っている。
今現在、オートボットと女神が同盟を結んでいるのは友情の他に、利害関係の一致という部分がある。
総司令官オプティマスの理想を支えるために得た、現実的な考え方だ。
その考え方が、おのずとベールが自分と仲を深めようとする理由を推察させる。
「今、各国に散っているオートボットは、ラステイションに二人、ルウィーに三人、そしてプラネテューヌに六人。比べて、リーンボックスには俺一人」
「そうですわ。それはリーンボックスが四ヵ国中最大の軍事力を誇るため、ということでしたけれど、別の側面から見ればオートボットからの恩恵……戦力だけでなく、科学技術を得る機会が少ないということですわ」
ジャズとベールはお互いに示し合わせたように言葉を発する。
「技術を得るために派遣した我が国の技術者が、ノコノコと帰って来たときには頭を抱えましたわ」
「レッカーズの歓迎は強烈だからな」
その時のことを思い出したのか、頭痛をおぼえたような顔になるベールに、ジャズは苦笑した。
「これからは、オートボットから得た技術が世界を変えていきます。我が国がそれに乗り遅れることだけは、何としても避けなければなりませんわ」
「それで俺の同情を買って、オートボットの情報を集めつつ味方に引き込もうとしたわけだな。今回のドライブも、自分語りもそのための伏線か」
「ええ、効果的でしたでしょう?」
「ああ、もう少しで術中にハマるところだったぜ」
二人は笑い合う。それは好敵手どうしで称えあう戦士のような笑みだ。
「そしてこれは、最後の一手」
そう言ってベールは、体の力を抜きふらりと倒れ込んで見せた。
ジャズはオートボットとしての習慣で……あるいは別の理由で……手を伸ばしてそれを支える。
「女神に並び立つ力を持ち、女神と同じく永遠に等しい時を生きる、勇者ジャズ。わたくしの孤独を埋めてくれるのは、あなただけ……」
ジャズの手の中で、ベールは泣きそうな笑顔をして静かに言葉を発した。
「あなたは、わたくしを護ってくれますか?」
その声は夜空の月光よりも儚く、夜の闇よりも蠱惑的な響きでジャズのスパークに染み込んでいく。
その姿の、声の、全てが種族の壁さえ超えてしまうほどの魅力で誘惑してくる。
今の彼女を見れば、あらゆる男がその守護を魂に誓うだろう。
葛藤するかのような間をおいて、ジャズは発声回路から声を絞り出した。
「………………もちろん、喜んで」
ベールの笑みが大きくなる。
それは酷く、悲しそうな笑みだった。
対するジャズは突然陽気な笑顔になる。
「ただし、オートボットの使命に反さない限りな」
「……あらら?」
ジャズのその言葉に、ベールはキョトンとする。
「生憎と、こっちはどっかのお人よしの理想主義者に、フレームの芯まで惚れ込んでてね」
「あらあら、あなた方、やっぱりそう言う関係でしたのね」
「同性愛的な意味じゃないぜ?」
ジャズの軽口に、ベールも軽い調子で答える。
銀の副官と緑の女神は今度こそ、心から楽しそうに笑い合う。
お互い口に出さずとも理解していた。
ベールがジャズを利用しようと画策したのも、ジャズがそれを見透かし警戒していたのも本当だ。
同時に、二人で笑い合い、互いに仲良くなりたいと思ったのもまた、本当なのだ。
そしてそれを無視することが出来るほど、ベールもジャズも達観してはいなかった。
ベールは少女のように邪気のない笑みを見せる。
「それで、ジャズ? わたくしを護ってはくれませんの?」
「護るとも。それが俺たちオートボットの偽らざる使命であり、俺自身の望みなのだから」
ジャズには分かっていた。
ベールが語った孤独、あれは間違いなくベールの本心だ。
女神として優雅に振る舞うベールも、ゲームに夢中になるベールも、恋に恋するベールも、孤独に震えるベールも、それさえ利用する狡猾なベールも、誘惑してくるベールも、子供っぽく無邪気に笑うベールも、全てが彼女の一面であり、間違いなく本物なのだ。
ああ、まったく…… 本気で惚れそうだ。
月と星が見下ろす海岸で、二人はそれこそ映画のワンシーンのように見つめ合う。
あるいはこれもまた、自分を利用しようとするベールの術なのかもしれない。
まあ、それもいいさ。
利用し合いながら笑い合い、探り合いながら思い合う、そんな関係があってもいい。
そう、例えば共犯者のような。
計らずしてベールもまた同じ思いであることは、さしものジャズも見抜けなかった。
ちなみにジャズを誘惑するのは、本人的にもさすがに葛藤と羞恥があったらしく、そのことでベールは後々までジャズにからかわれ続けるのだが、それはまた別の話だ。
* * *
その後はまあ、夜も遅いので教会に帰ったのだが、待っていたのは頭から角を生やした箱崎チカだった。
どうも今回の件はベールの独断だったらしく、今日一日の二人の行動とベールの思惑を説明されたチカは顔を青くして、楽しそうに笑うジャズを見上げ、
「よく分かったわ! アナタは今からアタクシのライバルと言うことね!! 負けないわよ!!」
と、宣言したのだった。
* * *
同時刻、リーンボックス某所の軍事基地。
一台の戦車の前に青い髪と眼鏡、角のような飾りが特徴的な女性が、CDラジカセを抱えて立っていた。
その戦車は通常の戦車と違い、副砲やミサイルポッドがゴテゴテととりつけられ、異様な雰囲気を纏っていた。
* * *
そして翌日。
「う~ん、今日は働きましたわねえ」
リーンボックスの女神ベールは、近日に控えた人気アイドル5pb.のコンサートの打ち合わせを終え、パソコンの前でコキコキと首を鳴らす。
「十分働きましたし、ちょっとくらい……」
そう言ってネットゲームを起動しようとする。
『おいおい、それはやめとけって言っただろう』
そこへ通信装置越しに、ジャズが声をかける。
『今日も予定が詰まってるんだぜ』
厳しい声を出すジャズに、ベールは拗ねたような顔をする。
「いいじゃありませんの。ほんの30分くらい……」
『だから、30分じゃすまないだろう?』
少し口調を柔らかくするジャズに、ベールは何か思いついたような顔をする。
「あなたに、わたくしがゲームをするのを止める権限はなかったと思いましたけど?」
『権限はないさ。パートナーとして意見してるだけだよ。今日はゲームより、外でランチのほうがいいんじゃないかな?』
「そうですわね」
ベールは名残惜しげながらもネットゲームの起動を諦めたのだった。
「それじゃあ、あなたは外で待っていてくださいまし。準備が出来たら参りますわ」
『オーライ』
短い返事とともにジャズの映像が消える。
「お姉さま、よろしいですか」
そこへ、チカが入室を求めてきた。
「チカ? どうしましたの?」
ベールが小首を傾げると、ドアの向こうから呆れたような気配がした。
「お忘れですか? 今日は新しくアタクシの補佐になる娘を紹介するって、今朝言ったでしょう?」
「そうでしたわね」
思い出したのかベールはポンと手を叩く。
たしか、リーンボックス屈指の大企業の推薦で教祖補佐を起用したと言っていた気がする。
まあ、時間はかからないだろうし、ジャズには後で謝ろう。
「どうぞ、お入りになって」
「失礼しますわ」
ベールの言葉に、チカはドアを開いて部屋に入って来た。
その後ろには金髪の少女が続く。
「その娘がチカの補佐ですの?」
「はい、能力は確かなようですので採用しました。お姉さまの補佐も手伝ってもらおうと思っていますわ」
チカがそこまで言うのだから、確かに有能な子なのだろうとベールは思った。
彼女を推薦した企業は、兵器系の最大手でリーンボックス軍とも関係が深い。
難点は御曹司の素行の悪さだが、最近は大人しくなったと聞いた。
「さあ、自己紹介なさい」
チカがそう言うと少女はベールの前に進み出る。
金髪を肩のあたりで切りそろえた、垂れ目で青い瞳が印象的な美しい少女だ。
なんとなく、ベールに似ているかもしれない。
「初めまして、ベール様」
その少女は微笑むと穏やかな口調で声を出した。
「アリス、と申します」
「ラステイション編とルウィー編が前後編なのに、リーンボックス編だけ一話完結とか舐めてんの!?」
「こんなのベールさんじゃない! 馬鹿なの? 死ぬの?」
「ジャズはこんな女に惚れたりしねえよ、バーカ!!」
「死ね! 死んで償え!!」
そんな声が方々から聞こえてくる……
どうも、投稿参謀です。
ええと、言い訳させていただくと他の組の話が、なんか事件が起きてディセプティコンが暴れて、それをやっつけてと言う流れだったので、自分なりに話にバリエーションを付けたくてこういうことに……
他の編に比べ短いのは登場人物が少ないから、というのもあります。
次回は、うん、「また」ディセプティコン側の話なんだ。済まない。
さらに、主役はメガトロンなんだ。
オートボットや女神の活躍を期待しているかたがたには、本当に申し訳ない。
ご意見、ご感想、切にお待ちしています。