超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION   作:投稿参謀

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今回は予告どおり、ディセプティコンの人気者と愉快な仲間たちが主役です。
女神も女神候補生もオートボットもでないけど、メーカーキャラはでる。
そんなお話となっております。



閑話 音と歌

 その音楽と出会ったのは偶然だった。

 転送の際のダメージで殆ど体も動かせず、通信機の故障で仲間と連絡を取ることも出来ず、自己修復する中で、他にやることもないので、この世界の 原始的なコンピューターネットワークに接続して情報を収集する。

 長年の習慣と、主君に合流したときに何か手土産はないかと言う考えで電子の海を探るが、結果は芳しくない。

 すでに四ヵ国の中枢部はオートボットの技術によりアップグレードされており、いかな情報参謀と言えど易々と接続は出来ない。

 逆探知されれば発見される可能性があるからだ。

 満足に動けない状態では、それはさけるべきリスクだった。

 そんなおり、ふと接続したラジオから、その歌は流れてきた。

 彼からしてみれば原始的な、しかしパワーに満ち溢れた歌だった。

 気が付けば情報収集の合間に、その歌の主の情報を集めていた。

 5pb.と言うらしい、この有機生命体は、このリーンボックスという国を代表する歌手らしい。

 もちろん偉大なる破壊大帝に仕える身としては、そんなことは取るに足らないことであり、歌い手も金属生命体から見れば下等生物に過ぎない。

 それでも、彼は自分の記憶回路の一部に彼女専用のフォルダを作成したのだった。

 まあ、いい暇つぶしだ。そう思考しながら。

 

  *  *  *

 

「お休み、ですか?」

 

 青い長髪と泣きボクロ、露出度が高めの服が特徴的な少女、5pb.は呆気に取られてたずねた。

 

「うむ」

 

 目の前の人物、5pb.が所属する芸能プロダクション7610プロの社長……なぜか顔が影になって見えない……は鷹揚に頷く。

 

「最近頑張ったからね。そのご褒美だよ」

 

「……はあ」

 

 5pb.は、そう返事するしかなかった。

 

  *  *  *

 

 休日の件は置いておいて、とりあえず帰宅する。

 

「ただいま~」

 

 ドアを開け挨拶しても一人暮らしの身に返事をしてくれる相手はいない。

 だが出迎えてくれる相手はいた。

 拾って飼うことになった『猫』である。

 甘えた声を出しながらすり寄ってくる猫の頭をなでてやり、上着を脱いでクローゼットにしまい、ソファーに腰かける。

 

「ねえ、お休みもらったんだけど、どうしようか?」

 

 何気なく猫にたずねてみると、猫はテーブルの上に置かれていたテレビのリモコンを器用に操作する。

 そこには、近所にできたショッピングモールのCMが流れていた。

 

「買い物かあ、そうだね、行ってみるよ!」

 

 5pb.の言葉に猫はゴロゴロと喉を鳴らすのだった。

 本当にお利口でかわいい子だ。

 この子を『修理』してくれた親戚などは、

 

「これを猫と呼ぶのは、ちょっとな……」

 

 などと言っていたが、理解できない。

 

  *  *  *

 

 そして休みの日。

 5pb.は近所のショッピングモールに買い物に来ていた。

 もちろん、有名人であるため軽く変装してだが。

 衣服に、アクセサリー、CDと、いろんな売場を見て回る

 久し振りの休日だ。楽しまねば。

 しかし、そう簡単にいかないのが現実である。

 

「ねえ、5pb.ちゃんだよね?」

 

 声をかけられて振り向くと、そこには若い男が立っていた。

 5pb.はその男に見覚えがある。

 主に悪い意味で。

 

「いや、奇遇だな~。まさか、たまたま訪れたモールで5pb.ちゃんと出会えるなんて!」

 

 軽薄に笑いながら、男は言う。

 5pb.は無言で後ずさるが、男はニヤニヤと本人はさわやかと信じている笑顔で近寄る。

 

「逃げないでよ~、俺と5pb.ちゃんの仲じゃないの~」

 

 この男、実は5pb.の熱狂的なファンであるのだが、その性格は何と言うか、歪んでいる。

 5pb.を独り占めしたいと言う短絡的な思考のもと、ストーカーじみた追っかけを繰り返しているのである。

 しかも、たちの悪いことにこの男、大企業の御曹司であり、親に溺愛され、その権力と財力を笠に着て5pb.を 無理矢理自分のものにしようとしているのだ。

 無論、5pb.の所属する7610プロや真っ当な彼女のファンがそれを許すはずもない。

 強引に5pb.に迫っては追い返されての繰り返しだった。

 

「今日は邪魔者もいないし、二人だけで楽しもうよ~」

 

 公衆の面前で馴れ馴れしくしてくる男。

 5pb.は元々人見知りが激しいのもあり、男に対し恐怖しか感じず小刻みに震えている。

 

「さ、行こう」

 

 しかし男は軽薄な笑みを浮かべたまま、5pb.の肩に手を伸ばす。

 

「い、いやッ!」

 

 5pb.はその手を払いのけると、踵を返して走り去る。

 男は驚いた顔で5pb.にはたかれた手を見ていたが、やがてニヤリと笑うと彼女を追って歩いていった。

 

  *  *  *

 

「ハアッ…… ハアッ……」

 

 5pb.は無我夢中で走るうち、駐車場に出ていた。

 なんでこんな所に来たのか自分でも分からない。

 

「5pb.ちゃ~ん! 待ってよ~!」

 

 ストーカー男は恐るべき嗅覚で5pb.に追いついてきた。

 

「ひッ……!」

 

 思わず近場の車に寄りかかる。高級車ブランドから発売されているガルウイングドアのスーパーカーだ。

 すると、突然その車のドアが開いた。

 

「乗レ」

 

 機械音声のような異様な声が車から聞こえた。

 5pb.はストーカーから逃れたいあまり、思わず乗り込む。

 

「あ! ちょっと5pb.ちゃん!?」

 

 車はエンジン音を立てて動き出し、驚くストーカーをよそに、走り去るのだった。

 

  *  *  *

 

 スーパーカーの助手席に行儀よくシートベルトを締めて座っている5pb.は、しかしガチガチに緊張していた。

 なぜなら、運転席に誰も座っていないからだ。

 5pb.も最近話題の他の世界から来たというロボットたちのことは知っていた。

 だから、この車もそれなんだろうとは思い至ったが、問題はこの車が善玉か悪玉かということだ。

 

「あ、あの……」

 

「おいおいおい!」

 

 それでも何とか絞り出した声を、甲高い声が遮った。

 運転席になぜか黒いエレキギターが置いてあり、それから声が聞こえた。

 5pb.がそれに手を伸ばすと、エレキギターは突然ギゴガゴと音を立てて細かくパーツが寸断され、組み変わり、姿を変える。

 そして現れたのは鳥だった。

 いや、鳥の姿をした機械だ。

 大きな翼を器用に折りたたみ、蛇のような長い首をうねらせ、ギョロッとした目を赤く光らせている。

 

「せっかく動けるようになったってのに、こんな有機生命体を連れ込んでどうすんだよ」

 

 言葉を失っている5pbを無視して、呆れたように機械鳥は言った。

 それに対し、機械音声のような声がどこからか聞こえてきた。

 

「思ワズ」

 

「思わずって、なんだよそれ! らしくねえなあ」

 

「自覚ハシテイル」

 

 機械音声は平坦な調子でしれっと言った。

 

「で、どうするんだよ、コイツ!」

 

「ドコカデ降ロス」

 

「殺しちまったほうが早いって!」

 

 機械鳥の放った言葉は助手席で震える5pb.にさらなる戦慄をもたらすものだった。

 しかし、それに異を唱えたのは、やはり機械音声だ。

 

「ダメダ。彼女ハ、著名人ダ。殺スト騒ギ二ナル」

 

「大丈夫だって! 上手く偽装するから! 事故とか」

 

 機械鳥はケタケタと笑う。

 5pb.は恐ろしさのあまり、泣き出したかった。

 

「ダメダト言ッテイル!」

 

 機械音声は突然強い調子になった。

 それに5pb.も機械鳥もビクッと体を震わす。

 

「わ、分かったよ…… まあ、コイツになんぞ出来るとは思わないしな」

 

 根負けしたように機械鳥が言うと、5pb.はホッと息を吐いた。

 

「まったく、それでコイツ何者だよ」

 

「彼女ハ5pb.ダ。イワユル『アイドル』デ、ノビヤカナ歌声デ人気ヲ博シテイル。コノ国ノ女神グリーンハートノオボエモメデタイ。代表曲ハ、『きりひらけ!グレイシー☆スター!』『Dimension tripper!!!!』ナドダ」

 

「詳しいな、おい」

 

 呆れたような機械鳥に、機械音声は平坦な調子でやたら詳しく答えた。

 

「常識ダ」

 

「さいですか……」

 

 シレッと言ってのける機械音声に機械鳥はいよいよ嘆息(嘆排気?)する。

 

「あ、あの……」

 

 機械音声と機械鳥の会話が途切れたところで、5pb.が小さくと声を出す。

 

「なんだよ?」

 

 機械鳥が不機嫌そうに聞くと、5pb.はオズオズと言った。

 

「た、助けてくれて、ありがとうございます」

 

「ああ…… サウンドウェーブに感謝しろよ」

 

 ケッと吐き捨てながら機械鳥は腕を組むように、器用に翼を交差させる。

 

「礼ナド不要ダ」

 

「それでも、ありがとうございます…… アッ! そうだ!」

 

 5pbは何か思い出したらしく声を上げる。

 

「ひょっとしたら、あの子もあなたたちも仲間なのかな?」

 

 その言葉に、機械鳥は鳩が豆鉄砲くらったような顔になるのだった。

 

  *  *  *

 

 そして5pb.の自宅であるマンション近くの空き地。

 なぜか彼女は飼っている猫と戯れていた。

 器用に後ろ足で立ち、じゃれてくる猫の頭を撫でてやる。

 

「……っていうか」

 

 その後ろに停車しているサウンドウェーブの横に立ち、機械鳥……その名もレーザービークは呆気に取られていた。

 

「ラヴィッジぃぃぃ!? おまえ何やってんのぉぉぉ!?」

 

 その猫が、自分の仲間だったから。

 いや正確には猫ではない。

 姿こそ四足歩行の猫科の生き物を思わせるが、金属で構成された刺々しい体に、なにより真っ赤に光る単眼。おまけに大きさも豹ぐらいはある。

 明らかに猫の範疇に収まらない。

 そう、彼もまた金属生命体、名をラヴィッジと言う、ディセプティコンの一員なのだ。

 

「心配したんだぞ、おい!」

 

 レーザービークはラヴィッジの近くまで飛んでくると彼に声をかけるが、ラヴィッジは5pb.に撫でてもらうのに夢中だ。

 

「無視すんなや!」

 

「そうか、君はラヴィッジっていうのか」

 

 5pb.はラヴィッジの喉を掻いてやりながら言った。

 まだ名前をつけてなかったのだが、ちょうど良かったようだ。

 

「ラヴィッジ、来イ」

 

 と、サウンドウェーブが相変わらずの平坦な声でラヴィッジを呼んだ。

 ラヴィッジは名残惜しそうに5pb.から離れ、サウンドウェーブのもとへ歩いていく。

 するとサウンドウェーブの車体から、金属製の触手が一本伸び、ラヴィッジの後頭部に刺さった。

 だがラヴィッジは痛がる素振りも見せない。

 

「あれはだな、データを交換してんだよ。俺とラヴィッジは、サウンドウェーブの子機みたいなもんだが、ラヴィッジはしばらく接続が切れてたからな」

 

 心配そうに見守る5pb.にレーザービークが聞いていないのにそう言う。

 

「ありがとう、優しいんだね」

 

 レーザービークは5pb.の言葉に答えず、仲間たちのところへ飛んで行く。

 少ししてデータ交換が終わったらしく、ラヴィッジの後頭部から触手が抜かれてサウンドウェーブの内部に収納された。

 

「しかし、まさかラヴィッジがこんなトコにいたとはな」

 

 レーザービークが呆れた声で言うと、ラヴィッジが前足をチョコンと上げる。

 

「雨ノ降ルナカ、壊レカケテイタトコロヲ、5pb.二拾ワレタソウダ」

 

「なに、そのホントに猫みたいな出会い方……」

 

 抑揚のない声で言うサウンドウェーブの言葉に、レーザービークは力なく突っ込む。

 だが、気を取り直して言葉を出す。

 

「それじゃあ、ラヴィッジも回収したし、いよいよメガトロン様と合流だな!」

 

「アア」

 

 その言葉にサウンドウェーブは短く答え、ラヴィッジも頷くことで肯定の意を示す。

 

「そっか、お別れなんだね……」

 

 5pb.はラヴィッジに近づき頭をもう一度撫でてやる。

 一人暮らしが長いこともあってラヴィッジには本当に癒されていたのだ。

 ラヴィッジも寂しげに喉……発声回路を鳴らす。

 

「ほら! 早くしな!」

 

 レーザービークに急かされ、ラヴィッジはサウンドウェーブに乗り込む。

 

「じゃあな、お嬢さん」

 

 そのレーザービークもサウンドウェーブに乗り込み、ドアが閉まった。

 5pb.は走り去るサウンドウェーブに向かって手を振る。

 やがてガルウイングドアのスーパーカーが見えなくなると、5pb.はいつのまにか流れていた涙を拭い、家に帰ろうと歩き出す。

 だが、突然音を立てて車が目の前に止まった。

 サウンドウェーブではない。高級そうなリムジンだ。

 何事かと固まる5pb.の前でリムジンのドアが開き、そこから何人もの黒服の男たちが降りて来て、5pb.の周りを取り囲む。

 やたら動きがカクカクしていて、全員まったく同じ顔と体格だ。

 最後に降りて来たのは軽薄な笑みを張り付けた若い男だった。

 5pb.が驚愕の声を上げる

 

「あ、あなたは……!?」

 

「ふふふ、やっと会えたねえ、5pb.ちゃん」

 

 それは、あのストーカーだった

 

「な、なんでここに……」

 

「やだなあ、僕の力を使えば、君の住所を突き止めるぐらい、わけないんだよ。これまでそれをしなかったのは、紳士である僕の流儀に反するからさ」

 

 前髪をかきあげながら、ストーカー男は言葉を続ける。

 

「でも、どうやら5pb.ちゃんは強引なほうが好きみたいだからね」

 

 どういう理屈でその答えに達したのか、それは本人にしか分からない。

 

「だから、ちょ~っと乱暴にいこうかなってね」

 

 伸ばされる手を今度は払いのけることができなかった。

 

  *  *  *

 

「あ~あ、それにしてもよ」

 

 サウンドウェーブの体内に組み込まれたレーザービークは、通信で主や仲間と会話する。

 

「サウンドウェーブといい、ラヴィッジといい、なんであの有機生命体の小娘を気にするんだよ?」

 

「なんでって、拾って修理してもらったし」

 

 それに同じくサウンドウェーブと一体化しているラヴィッジが答えた。

 ラヴィッジの発声回路は人語を喋るようには出来ていないが、今は通信で会話しているので関係ない。

 

「まあ、それはいいさ。問題はサウンドウェーブだ」

 

「そうなの?」

 

 レーザービークの言葉に、ラヴィッジは疑問符を浮かべる。

 

「そうなの! で、何でなんだよサウンドウェーブ!」

 

「ソウダナ……」

 

 サウンドウェーブは不言実行を旨とする彼にしては珍しく、少し考える素振りを見せる。

 

「歌ガ美シイカラ、ダロウカ」

 

「歌ぁ?」

 

 サウンドウェーブはそれきり何も答えなかった。

 レーザービークは可能なら大きく排気しているところだ。

 

「そうだよ! 5pb.の歌はすごいんだ! ボクも大好き!」

 

 明るい声でラヴィッジが言う。

 それにレーザービークはヤレヤレと思わざるをえない。

 その時、サウンドウェーブの横をリムジンが無理やり追い抜いていった。

 レーザービークが文句を言う

 

「なんだよ! 危ないな!」

 

 と、ラヴィッジが何かに気が付いた。

 

「あれ? あの車に乗ってるの、5pb.じゃない?」

 

 車の窓にはスモークフィルムが貼られているが、トランスフォーマーのセンサーには関係ない。

 さらに、三者のセンサーは車に乗っている他の人物たちのことも正確に捉えていた。

 

「コノ男ハ……」

 

「ああ、あのとき、お嬢さんを追っかけてた奴だな」

 

 サウンドウェーブとレーザービークはその男に見覚えがあった。

 

「まあ、俺たちには関係ないな。さっさと行こうぜ」

 

 レーザービークは軽く言うが、サウンドウェーブはリムジンを追い掛けだす。

 

「お、おい!? サウンドウェーブ!?」

 

「乗リカカッタ船ダ」

 

 それだけ言うとサウンドウェーブは着かず離れずの位置でリムジンを追跡する。

 

「そうこなくっちゃ! 5pb.を助けよう!」

 

「ええい! 好きにしろ! 俺は知らんからな!!」

 

 ラヴィッジとレーザービークが口々に言う。

 リムジンに乗っている者たちにはまったく気付かれず、スーパーカーは走って行く。

 

  *  *  *

 

 大人数が相手ではろくな抵抗も出来ずに車に連れ込まれた5pb.がリムジンに揺られて着いた先はどこかの倉庫だった。

 

「ここは僕のパパが所有している倉庫でね。ここなら誰も来ないよ」

 

 ストーカー男は自分の持ち物でもあるまいに自慢げに言う。

 

「ふふふ、この瞬間をどれほど楽しみにしていたか……」

 

 5pb. を強引に立たせて歩かせ、工場の奥へと引きずっていくストーカー男。

 ことここに至って5pb.はその手を振りほどこうとするが、すごい力で握られていてできない。

 

「はなして! はなしてください!」

 

「ダメだよ。これから君は僕の物になるんだからね」

 

 そう言うとストーカー男は5pb.を抱き寄せる。

 あまりのおぞましさに5pb.が身震いしているとストーカー男はいやらしく笑った。

 

「じゃあ、まずはキスからだね」

 

 そう言って、5pb.に顔を近づけてくる。

 

「いや、いやだ! 誰か……」

 

 5pbは必死に身をよじるが、ストーカー男は力ずくで5pb.の顔を自分のほうへ向けた。

 

「ふふふ、助けを呼んでも誰もこないよ。さあ、おとなしく……」

 

 その瞬間、銀色のスーパーカーが倉庫の入り口を破って侵入してきた。

 

「な、なんだ!?」

 

 ストーカー男が驚愕し、黒服たちがそれを守るようにスーパーカーの前に立ちふさがる。

 

「さ……」

 

 5pb.は驚きと喜びの声を上げた。

 

「サウンドウェーブさん……!」

 

 スーパーカーはギゴガゴと音を立てて姿を変えていく。

 現れたのは、ディセプティコンとしては珍しい均整のとれた人型だ。

 腕についた円盤状のレドームと、オプティックを覆うバイザーが特徴的な姿をしている。

 これぞディセプティコンの情報参謀、サウンドウェーブだ。

 

「な、なんだおまえは!?」

 

 ストーカー男は、露骨に怯えながら5pb.を引っ張って後ろに下がる。

 

「5pb.ヲハナセ」

 

 サウンドェーブとしてはこれでストーカー男は泣き喚きながら5pb.を手放すものと踏んでいたが、ストーカー男は意外にも余裕を取り戻しニヤリと笑って見せた。

 

「馬鹿め! 彼女は僕の物だ! おまえみたいなポンコツ、パパの会社の製品で片付けてやる!!」

 

 そしてなぜか黒服たちに指示を飛ばす。

 

「おまえたち! このガラクタを本物のガラクタにしてやれ!!」

 

 すると黒服たちは、命知らずにもサウンドウェーブに飛びかかっていく。

 

「レーザービーク、ラヴィッジ。イジェークト!」

 

 サウンドウェーブの抑揚のない声とともに、その胸部分が開き、中から二体のロボットが飛び出してきた。

 それは鳥型のレーザービーク、そして豹型のラヴィッジだ。

 

「レーザービーク、ラヴィッジ。敵ヲ殲滅セヨ」

 

「ああ、もう! こうなったらヤケだ! おまえらで憂さ晴らししてやる!」

 

 レーザービークは胴体に備えた二丁のアサルトライフルで、ラヴィッジは背中に生えた機銃で黒服たちを攻撃する。

 銃弾を浴びた黒服たちは、もんどりうって倒れ込んだ。

 その傷からは血が流れず火花が散っていた。

 

「ロボット?」

 

「そうさ! パパの会社の新製品! オートボットから提供された技術をフィードバックしてるんだ!」

 

 5pb.が思わず呟くと、傍らのストーカー男は自慢げに言った。

 しかし黒服ロボたちはサウンドウェーブに叩き潰され、レーザービークとラヴィッジの銃撃に倒れ、見る間に数を減らしていく。

 

「この程度かよ! やっぱり、有機生命体の作るもんなんざ大したことねえな!」

 

 レーザービークはストーカー男を嘲笑する。

 

「僕を馬鹿にするな! パパの会社の新製品はこれだけじゃないぞ!」

 

 ストーカー男ポケットからリモコンのような物を取り出し操作すると、工場の奥からズシンズシンと足音を響かせ、巨大なロボットが進んできた。

 威圧的な姿はしかし、鉄の塊に無理に手足をくっつけたようで、均整のとれたサウンドウェーブに比べると不恰好さが目立つ。

 

「なんだよ、またガラクタか」

 

 レーザービークが呆れて言うと、巨大ロボはサウンドウェーブに突撃する。

 だがサウンドウェーブは大きくジャンプしてこれを躱すと、その背にとりつき腕から金属製の触手を伸ばしてロボットの頭部に当たる部分を締め上げる。

 さらに金属触手はロボットの装甲の隙間から内部に侵入し、その電子回路にハッキングを開始した。

 一瞬の間にロボットはコンピューターを乗っ取られ、サウンドウェーブの従順なペットと化す。

 

 

「なんだ? どうしたんだ!?」

 

 それに気づかないストーカー男は思わず5pb.をはなしてリモコンを無茶苦茶に操作する。だがすでにロボットはリモコンからの信号を受け付けない。

 サウンドウェーブが離れるとロボットはストーカー男に向かって歩き出す。

 狼狽するストーカー男は、みじめにもロボットの万力のような手に摘み上げられた。

 そこでロボットは電源が切れたように動きを止める。

 

「終ワッタ」

 

 サウンドウェーブが静かに言った。

 5pb.は目まぐるしく変わる状況についていけなかったが、すり寄ってくるラヴィッジの唸り声に、ようやく正気を取り戻した。

 

「あ、あの、また助けてくれたんですね! ありがとうございます!」

 

 5pb.はサウンドウェーブたちに物怖じせずお礼を言った。

 実の所、これはサウンドウェーブとレーザービークを軽く驚かせていた。

 自分たちの力を見せつけたのだから、もっと怯えられると思っていたのだ。

 

「礼ハイラナイ。ラヴェッジノ恩返シダ」

 

「いえ、なにかお礼をさせてください!」

 

 どうにも助けられっぱなしというのは、5pb.の気が済まなかった。

 

「ナラ」

 

 サウンドウェーブは抑揚のない声に、ほんのわずかに興奮を滲ませて言った。

 

「歌ヲ、歌ッテホシイ」

 

  *  *  *

 

 倉庫の外は波止場だった。

 すでに夕日が水平線に落ちようとしている。

 5pb.は大きく息を吸い込み、エレキギター……レーザービークが変形した物だ……を鳴らして、たった三体の観客のために歌い始める。

 曲目は『Rave:tech(^_^)New;world』

 まだ世間には発表していない新曲だ。

 美しい歌声が、大気に溶けていく。

 エレキギターはアンプもないのに完璧な音を出す。

 歌い終わったとき、5pb.の耳にパチパチという音が聞こえた。

 サウンドウェーブが、手を叩いているのだ。

 

「素晴ラシイ、音楽ダッタ」

 

 サウンドウェーブは簡潔に5pb.を賛辞する。

 なんとなく5pb.には、それが彼にとっての最大限の褒め言葉なのだと分かった。

 腕の中のエレキギターが、ギゴガゴと音を立てて機械鳥の姿に戻る。

 レーザービークは伸ばされたサウンドウェーブの腕にとまり、5pb.のほうをジッと見つめる。

 

「なんつうかさ……」

 

 レーザービークは少し照れくさそうに声を出した。

 

「すごかったよ。言葉にできないぐらい」

 

 それは、この捻くれた機械鳥とは思えない素直な言葉だった。

 ラヴィッジも後ろ足で立ち、喜びを表現している。

 

「ありがとう!」

 

 5pb.は満面の笑みだった。

 人間だろうが、金属生命体だろうが、例えディセプティコンだろうと、自分の歌で感動してくれることが嬉しくてたまらないのだ。

 まさに生粋の歌い手の姿だった。

 

  *  *  *

 

 5pb.を家まで送り届け、ここは危険だから引っ越すように助言して彼女と別れたサウンドウェーブは、波止場の倉庫に戻って来た。

 倉庫の中では相変わらずストーカー男がロボットに摘み上げられたままでいた。

 サウンドウェーブたちに気付き必死にもがくが、ビクともしない。

 

「さて、と」

 

 レーザービークはワザとネットリとした声を出した。

 

「こいつどうする?」

 

 アサルトライフルを展開しながら先ほどまでとは違う残虐な笑みを浮かべる。

 

「殺すか?」

 

「イヤ」

 

 サウンドウェーブは感情をまったく感じさせない声を出しながら、ゆっくりとストーカー男に近づく。

 

「コイツニハ、利用価値ガ有ル」

 

「ははあ、なるほど……」

 

 レーザービークは合点がいったとばかりに、ストーカー男を捕まえているロボットの腕にとまる。

 

「なあ、おい」

 

 そして恐怖に怯えるストーカー男の耳に排気を当てる。

 

「おまえ、死にたくないだろう? 実のところ、俺も今日は殺しをする気分じゃあない」

 

 ストーカー男はコクコクと頷く。

 

「だったら、俺たちに協力しな」

 

 レーザービークの言葉に、ストーカー男は顔を青くした。

 

「どの道、おまえに拒否権はないぜ」

 

 そう言うと、レーザービークはロボットの腕から飛び去り、ラヴィッジの前に着地する。

 ラヴィッジは胸の装甲を開いて、そこから手乗りサイズのムカデのような金属生命体を吐き出した。

 

「へへ、ありがとよラヴィッジ」

 

 レーザービークはそれを片足で摘むと、再びストーカー男の前に飛んで行く。

 

「さあ、プレゼントだ!」

 

 レーザービークの足から離れた金属ムカデはストーカー男の身体を這いまわり、やがて右腕に行き着く。

 そこで金属ムカデは腕時計に変形して、ストーカー男の腕に巻きついた。

 

「そいつはおまえの神経系に食い込んでる。おまえの見ている物は俺たちにも見える。おまえの聞いている物は俺たちにも聞こえる。この意味、分かるよな?」

 

 レーザービークはニヤニヤと笑いながら言い、ストーカー男は言葉の意味を理解して顔色を青から白へと変える。

 

「ちなみに、逆らうと電流が流れる」

 

 つまり逃げることはできないのだ。

 ストーカー男はガックリとうなだれた。

 サウンドウェーブは一連の流れを無感情に、だがほんの微かに満足げに眺めていた。

 このストーカー男の父親の会社はリーンボックスでも指折りの大企業で、特に兵器に強い会社だ。

 この世界の原始的な兵器は役に立たないだろうが、使われている資材は別だ。

 さらにこの男の会社は、政財界や芸能界に太いパイプを持っている。そのつてで5pb.の住所を突き止めたのだろう。

 いい手土産が出来たと内心で考えていた。

 と、

 

『サ……ドウェ……応答…よ』

 

 治りきっていなかった通信機に音声を送ってくる者がいた。

 その声は、サウンドウェーブにとって、何よりも優先すべきものだった。

 

『コチラ、サウンドウェーブ。メガトロン様、聞コエテイル』

 

 全力で通信機の周波数を合わせ、すぐに通信に返答する。

 

『おお、サウンドウェーブ! 無事であったか!』

 

 それはサウンドウェーブが宇宙で唯一忠誠を誓う存在、ディセプティコン破壊大帝メガトロンだった。

 

『ハイ、転送時ノ負傷ガ大キク、自己修復二徹シテイタ。ソノセイデ合流ガ遅レ、申シ訳ナイ』

 

『気にせずとも良いわ!』

 

 メガトロンは豪放に言う。

 彼ら二人は古い付き合いであり、メガトロンが本当の意味で信を置くのは、サウンドウェーブを除けば一体しかいない。

 それくらい、強い信頼関係で結ばれているのだ。

 

『さて、さっそくで悪いがサウンドウェーブよ! おまえに仕事を頼みたい』

 

 メガトロンはさっそく仕事を言いつけてくる。

 それは情報参謀にとって不快ではない。むしろ大いなる喜びだった。

 

『喜ンデ』

 

『うむ。ではサウンドウェーブ、宇宙に上がりルウィーの人工衛星を乗っ取るのだ。我々が発見されるリスクを完全に消すためにな』

 

 メガトロンの命令は、それほど意外なものではなかった。

 むしろ命じられずとも自分から進言していただろう。

 ルウィーの人工衛星は、地上の映像を撮影している。

 下手をすれば、ディセプティコンの潜伏先を発見される恐れがあった。

 だがサウンドウェーブにかかれば、その情報を改竄するくらい簡単だ。

 

『ああ、おまえの小さな暗殺者たちは地上に残しておけよ。今は手が足りん』

 

『了解』

 

 メガトロンの言葉にサウンドウェーブは短く答えた。

 

『では、通信を終わるぞ。……っと、その前に』

 

『?』

 

『よく無事でいてくれた。嬉しいぞ』

 

 それは平時のメガトロンからは考えられない穏やかな声であり、サウンドウェーブにとっても意外な言葉だった。

 どう答えたものか考えているうちに、通信は切れてしまう。

 しばしメガトロンの言葉の意味について黙考していたが、さて、と思考を切り替え、部下たち、むしろ一心同体の家族とでも言うべき二体のほうを向く。

 レーザービークとラヴィッジは、サウンドウェーブとある程度の情報を共有している。言葉は不要だった。

 

「しばらく、離れることになりそうだな」

 

 それでも、レーザービークは少し寂しげに声にした。

 

『大丈夫、離れていてもボクたちはいつもいっしょ』

 

 ラヴィッジも通信で言う。

 サウンドウェーブは無言で頷くのだった。

 

  *  *  *

 

 それからサウンドウェーブはサイバトロンモードに戻り、この状態でのビークルモードであるエイリアンジェットに変形すると大気圏を楽々突破して、ルウィーの衛星に取り付いた。

 衛星が撮影している地上の映像を改竄し、ディセプティコンに繋がりそうなものは残らずその痕跡を消す。

 高度な情報処理能力を持つ情報参謀からすれば、単調な作業だった。

 ついでにいつもの癖で、あらゆる情報を収集する。

 新たにディセプティコンに加わったという新参者に、この分野で遅れを取るわけにはいかなかった。

 データが増えゆくにつれ、ふと不要なデータを消去することにした。

 膨大な容量を誇るサウンドウェーブにとって、それは別に必要に駆られてのことではなかったが、長年の習慣で定期的にしていることだった。

 いくつもの不要なデータを消していくうち、5pb.の専用フォルダに行き当る。

 数々の音楽と映像、画像、文字列。そして、あの日の歌と映像。

 所詮暇つぶし、これも不要なデータだな。

 そう考え、そのフォルダを消去しようとして、

 

 しなかった。

 

 何故だかは、自分でも分からない。

 どれほど素晴らしくとも、下等な有機生命体の奏でる原始的な音楽に過ぎないのに。

 まあ、永遠に近い時を生きる金属生命体の、その中でも感情の希薄な自分にとっても、無限に続く虚空にたった一人で浮かんでいるのは、なかなかに堪えるからな。音楽くらいはいいだろう。

 そう結論付け、5pb.の歌を再生する。

 美しい歌声が、サウンドウェーブのブレインサーキットの内部を駆け巡る。

 眼下の青い星を見下ろしながら、サウンドウェーブは不要データの消去作業を再開する。

 やはり、生は違ったな。機会があれば、もう一度聴きたいものだ。そう思考しながら。

 




そんなわけでサウンドウェーブと部下たち、誰が呼んだか音波一家と、作者のお気に入りのメーカーキャラ、5pb.ちゃんのお話でした。
曲名までならセーフ……でしたよね?

音波さんことサウンドウェーブのデザインは、またしても玩具準拠(ちゃんとバイザーしてます)、声は独特のエフェクトヴォイス(吹き替えだとカッチョイイ声で喋ってますが、言語版だと、声優さんがエフェクトがかかってるっぽい声を出しています)。
また、イジェークトギミックは、ついに出しちまった当作品オリジナルのギミックとなっております。

ついでに、コンドルさんことレーザービークがギターに変形するのはアニメイテッドネタ。

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