超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION   作:投稿参謀

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 どうも、新年に入っていろいろ忙しかったり、体壊して寝込んだりしてました。
 おかげで少し遅くなってしまいました。
 そして気が付けば、通算UA10,000越え!?


第19話 白と赤のシブリングス part2

 さて今日の超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMETIONは、身の毛のよだつ変態トリックから、ロムとラムの幼い姉妹が救い出されたところから始めよう!

 

「「お姉ちゃん……」」

 

「ロム…… ラム……」

 

 白の女神ブランは感涙を流し、二人を抱きしめる。

 しかし、愛する妹たちの身体は霞のように掻き消えてしまった。

 

「ロム? ラム?」

 

「くくく、妹たちが貴様のもとに戻ることはないわ!」

 

 その瞬間、山のように巨大な灰銀のロボットが出現する。

 ディセプティコン破壊大帝、メガトロンだ!

 

「なぜなら、二人は我がディセプティコン軍団の一員となったからだ! さあ、二人とも挨拶するがいい!」

 

 天を突くほどの巨体のメガトロンが手を開くと、そこにはラムとロムが立っていた。

 その恰好は、やたら露出度が高くあちこちトゲトゲと尖った、見るからに悪役風の衣装で、胸にはディセプティコンのエンブレムがこれ見よがしに描かれている。

 ……クレヨンで。

 

「お姉ちゃ~ん! 見て見て~!」

 

「……似合う?」

 

 誇らしげなロムとラムにブランは困惑する。

 

「あなたたち、どうして……?」

 

「ディセプティコンに入ればいくら悪戯してもいいんだって~!」

 

「お菓子も食べ放題♪」

 

 双子は無邪気に笑い合う。

 愕然とするブランを見下ろしメガトロンは嗤う。

 

「フハハ! そういうわけだ! これからはディセプティコン悪戯参謀ロム&ラムをよろしく頼むぞ! いずれはB社から玩具も発売だ!」

 

 ひとしきり嗤った破壊大帝は、踵を返して去って行く。

 

「まって、まって……」

 

 ブランは必死に手を伸ばすが体が動かない。

 

「メガトロン様! 玩具、い~っぱい買ってね!」

 

「お菓子も……」

 

「フハハハ、良いだろう! いくらでも買ってやるわい!」

 

 仲良さげに話しながら、メガトロンと双子は闇に消えていった。

 後には慟哭するブランだけが残されたのだった。

 

「いや…… いやぁぁぁぁッッ!!」

 

  *  *  *

 

「いやぁ…… ッは!?」

 

 そこで目が覚めた。

 ブランが辺りを見回すと、自室のベッドだった。

 もう夕刻だ。

 ブランは涙を拭ってベッドから起き上がる。

 最愛の妹たちを探し出すために。

 

  *  *  *

 

 時間は遡る。

 ロムとラムの誘拐事件が発生して、すでに数時間が経っていた。

 警備兵を総動員しているにも関わらず、その行方はようとして知れなかった。

 当然ながら、ネプテューヌたちは協力を申し出たのだが……

 

「そう言われましても…… 誰も通すなと、ブラン様に申しつけられているんです……」

 

 ルウィー教会の執務室の扉の前でメイドは困ったように、そう言った。

 

「ええ~!? わたしたち女神仲間なんだからいいでしょ!」

 

「あ、いえ、女神様と言えども……」

 

 ネプテューヌの非難に、メイドは自分では判断しかねるようで、困り顔が大きくなっていく。

 

「せめて、謝らせてください!」

 

「ロムとラムが誘拐されたのは、アタシたちのせいなの!」

 

 ネプギアとユニが必死に頼み込む。

 誘拐現場にいながら何もできなかったことに、二人は強い自責の念を感じていた。

 

「我々も協力したい。子供をさらうとは許せない行為だ!」

 

 オプティマスも怒りを滲ませて言う。

 ルウィー教会が広いこともあって、今回は映像ではなく本物である。

 その迫力に、メイドは若干引いている。

 

「『ロリコンは』『消毒だぁ!!』」

 

 バンブルビーをはじめとしたオートボットたちも仲間たちを傷つけられて怒り心頭の様子だ。

 オートボットたちの後ろで、恥じ入るように縮こまっている双子と、少し離れたところで壁に背を預けて腕を組んでいるミラージュを除いては。

 

「帰って……」

 

 と、扉の向こうからブランの声が聞こえてきた。

 その声は弱々しく、かなり参っているのが窺える。

 

「あなたたちはいつも迷惑よ……」

 

 その言葉に、スキッズとマッドフラップは顔を伏せる。

 女神たちも、オートボットたちもどうしたらいいか分からず、オプティマスの、

 

「今はそっとしておこう」

 

 と言う言葉に、とりあえずその場を離れる。

 

「……おい」

 

「ああ」

 

 そんなオートボットたちの中から、双子はそっと離れていった。

 バンブルビーがそれに気付き連れ戻そうとするが、オプティマスがその肩に手を置き、ゆっくりと首を横に振る。

 ミラージュは何も言わず通り過ぎて行く双子を見送り、自らはオートボットに合流せずにその場に佇み続けるのだった。

 

  *  *  *

 

 女神たちとオートボットたちを追い払ったブランは、広大でどこか寒々とした執務室の中を歩いていた。

 

「ロム…… ラム……」

 

 その足取りはおぼつかず、体はフラフラと揺れている。

 

「わたしのせい…… わたしが、姉として、もっと、ちゃんとしていれば……」

 

 もちろん誘拐事件は彼女の責任などでは断じてない。

 だが、せめて一緒にいれば、結果は違ったのではないかと言う考えが、ブランの意識を苛んでいた。

 

「なんとかしなくちゃ、なんとか……」

 

 それでも涙を拭い、状況を打開するべく思考を巡らす。

 

「そうだ! あれを……」

 

 そのときである!

 

「ガラッ! ガラッ!! ガラッ!!!」

 

 自分の口で効果音をつけながら、扉を横に開き……この扉、開き戸のはずである……小柄な少女が部屋に入って来た。

 ピンク色のあちこちにフリルとデフォルメされたドクロだらけの派手な服を着て、金髪を長く伸ばしている。

 後ろには黒子のような恰好の男性を二人引きつれていた。

 

「みい~つけたッ!!」

 

 その少女は素早くブランのもとへと駆け寄って来た。

 

「……誰?」

 

 ブランの疑問に少女は胸を張る。

 

「わたしはアブネス! 幼年幼女の味方よ!!」

 

「……え?」

 

 意味が分からず茫然とするブランに、アブネスは一方的に捲し立てる。

 

「大人気ネット番組、『アブネスちゃんねる』の看板レポーターじゃない! 知らないの!?」

 

 戸惑うブランを気にせずに、アブネスなる少女は黒子の持ったテレビカメラに向き合う。

 

「さあ、今日も中継スタートよ!!」

 

「……中継?」

 

 ブランの疑問に答えることなくカメラが回り出し、白の女神の肢体を舐めるように映していく。

 

「全世界のみんな~、幼年幼女のアイドル! アブネスちゃんで~す!」

 

 アブネスはカメラの前に立ち、媚びたような声を出す。

 

「今日はルウィーの幼女女神、ブランちゃんのところに来てるぞ☆」

 

 その人を食ったような態度に、ただでさえ良いとは言えないブランの機嫌がさらに悪くなった。

 

「おい、テメエいい加減に……」

 

「ところで! 妹のロムちゃんとラムちゃんが誘拐されたって噂は、ホントなのかな? ブランちゃん!」

 

 ブランの言葉を遮り、アブネスは手に持ったマイクをブランに突きつける。

 

「どうして、それを……!?」

 

 驚きのあまり硬直するブラン。

 ロムとラムが誘拐されたことは、極秘とされているはず。

 いったいどこから情報を得たというのだろうか?

 

「ホントなんだ!? アブネス、心配……」

 

 アブネスはわざとらしく心配して見せる。

 だが、次に出た言葉は心配などとは無縁のものだった。

 

「で! かわいい妹を誘拐された気分はどうですか? ブランちゃん!」

 

  *  *  *

 

 それからのことは、ブランはよくおぼえていない。

 疲弊した頭脳は思考を放棄し、アブネスの質問に小さな声で答えることしかできない。

 

「つまり、妹が誘拐されたのはあなたの責任ってことですね? ブランちゃん!」

 

「そ、それは……」

 

 妹たちのことで疲弊した心に、アブネスの言葉が突き刺さる。

 

「見てください! 幼女女神はな~んにも釈明できません!」

 

 次々と発せられる言葉は、酷く一方的なものだ。

 

「やっぱり、幼女に女神は無理なんです!」

 

 そうアブネスは結論づける。今までの流れは結局ここに着地するためのものであったらしい。

 

「幼女は、お遊戯とかしてノビノビ生活するべきなんです!」

 

 ブランが反論しないのをいいことに、アブネスは強い調子で言葉を続ける。

 

「アブネスちゃんねるは幼女女神に断固ノー……」

 

 その瞬間、金属質の音が響きテレビカメラをはじめとした取材機器が真っ二つになる。

 

「な、な、な」

 

 驚愕するアブネスの前に透明化を解いたミラージュが厳めしく姿を現した。

 彼がアブネスたちの取材機器を切り裂いたのだ。アブネスたちにまったく傷つけずにそれを行うのとは、凄まじい技量だ。

 

「中継は終わりだ。失せろ」

 

 ミラージュは低い声を出した。

 対するアブネスは驚愕から回復し、自分の何倍もある巨体を睨み返す。

 

「……そう、あなたがオートボットね! 幼年幼女に悪影響を与える危険なロボットよ!」

 

「俺は失せろと言ったぞ」

 

 赤いオートボットの声が危険な響きを帯びる。

 

「ミラージュ、それぐらいにしておけ」

 

 それを諌める者がいた。

 騒ぎを聞き付け部屋に入って来たオプティマス・プライムである。

 その周りにはオートボットたちが、足元にはネプテューヌたちが集まっていた。

 みな、厳しい顔でアブネスたちの方を見ている。

 六人もの巨大ロボットに睨まれては、いかに強引なアブネスとて退散するしかない。

 

「いい! わたしの目の黒い内は、アンタたちみたいな有害なエイリアンにはデカい顔はさせないわよ! 規制して追い出してやるんだからね!」

 

 それでも、アブネスは憎まれ口を欠かさない。

 

「今日はこのへんにしといてあげるわ!! こっちには『報道の自由』があるんだからね!!」

 

 アブネスは捨て台詞とともに、部屋を出て行こうとする。

 その背に、オプティマスが声をかけた。

 

「私は『報道の自由』は『誰かを傷つける自由』ではないと思うぞ」

 

「…………フンッ!」

 

 それを最後に、アブネスは去って行った。

 

「一昨日来やがれー! 誰か塩まいて、塩!」

 

 ネプテューヌが嫌悪感を露わにして言う。

 

「まったく、なんなの今の?」

 

「どうやって入りこんだのかしらね?」

 

 ノワールとベールも不機嫌そうであり、オートボットたちも有害呼ばわりされて難しい顔だ。

 と、ブランの華奢な身体がよろけ、倒れそうになる。

 それを受け止めたのは、近くにいたミラージュだった。

 

「ブランさん!」

 

 そこにネプギアをはじめ女神たちが心配そうに駆け寄る。

 

「しっかりして! ブランさん!」

 

 ネプギアがブランに呼びかけるが、反応がない。

 

「どうしたんだろう……」

 

「今の中継をルウィーの国民が見て、一気にシェアが下がったとか……?」

 

 ユニが曇り顔で言う。

 

「シェアが失われると、女神の力も失われる、か……」

 

 重々しく言葉を出すオプティマスに、ノワールは首を横に振った。

 

「シェアのせいじゃないと思うわ。いくらなんでも影響が出るのが早すぎよ」

 

 ならば、それほどまでに心労が溜まっていたと言うのか?

 

「みなさん……」

 

 そう一同が考えていると、ベールが声を出した。

 みなの視線がベールのほうに集中する。

 

「方法がありますの。……ロムちゃんとラムちゃんの居場所を突き止める」

 

  *  *  *

 

「ん……」

 

 どこか暗い場所でロムは目を覚ました。倉庫だろうか?

 身体は縛られていて自由に動かせない。

 

「レ~ロレロレロ♡」

 

 妙な声にそちらを向けば、そこにはあの巨大カメレオン、トリックが長い舌で舌なめずりしていた。

 

「い、いや!」

 

「……ロムちゃん? ……あ!」

 

 思わず悲鳴を上げるロム、その声にラムも目を覚ます。

 

「アックックックッ、寝起きの幼女キターーーーッ!! 舐めまわしてもいいかな?」

 

 トリックは奇声を上げると、答えは聞いてないとばかりに舌を伸ばしロムの身体を舐めまわす。

 

「いやぁぁぁッ!!」

 

「ちょっと! ロムちゃんになにすんのよ! やめなさい!!」

 

 ラムに怒鳴られてもトリックはニヤケ顔を崩さない。それどころか今度はラムの身体を舐めだす。

 

「い、いやぁ! やめてぇ!」

 

 ロムとラムの声を気にすることなく、その身体を舐め続けるトリック。

 その行為、ハアハアと荒い息、締りのない顔、どれをとってもまごうことなき変態である。

 

「トリック様~、身代金要求の電話してきました~」

 

 そこへ緑の髪にネズミを模したパーカーを着た少女が入って来る。

 ロムとラムを誘拐したときにトリックのそばにいた、あの下っ端である。

 

「って、なにやってるんすか!?」

 

 面食らったのも無理はない。

 誘拐してきた幼子二人を満面の笑みで舐めまわすトリックと、よだれで体中ベトベトのロムとラム。

 部屋の中で繰り広げられる異様な光景(控えめな表現)に下っ端は唖然とする。

 

「見てのとおり、癒しているのだ。俺のペロペロには治癒効果があるからな」

 

 かなり疑わしいことを言うトリック。

 

「そ、そうすか……」

 

 下っ端は呆れたように溜め息を吐くと、部屋を出て行く。

 こうなったトリックが手に負えないのは経験上明らかだ。

 トリックは何事もなかったようにロムとラムを舐めまわす。

 部屋にはロムとラムの悲鳴がコダマする。無論そこには嫌悪以外の感情などあるはずがなかった。

 

  *  *  *

 

 下っ端、本名をリンダが隣の部屋に移動すると、巨大な影が三つ待ち構えていた。

 なぜかトリックに協力するディセプティコンたち、クランクケース、クロウバー、ハチェット。

 ドレッズだ。

 

「ボスはお楽しみかYO?」

 

 先頭のクランクケースが言うと、リンダは頷く。

 

「ああ、えらく楽しそうだったぜ」

 

「まったく、理解できん趣味だな」

 

 クロウバーは呆れ果てた様子で腕を組んでいる。

 

「ガウ! ガウガウガウ!」

 

「そうだな、ハチェット。たしかについていけねえよ」

 

 ハチェットが唸り声を上げると、リンダはヤレヤレと肩をすくめる。

 

「……つーか、分かんねえんだけど」

 

 そこにリンダでもドレッズでもない、別の声がかけられた。

 一人と三体が声のした方を向くと、そこには木箱に腰かける小型トランスフォーマーがいた。

 細い体躯に四つのオプティック。もはや毎度おなじみ、フレンジーである。

 その隣には長い腕に肩にはPOLICEの文字が印象的な、バリケードが立っている。

 

「なんでおまえら、あの変態に従ってるわけ?」

 

「……これも浮世の義理だYO」

 

 フレンジーの言葉に、クランクケースが嘆息まじりに答えた。

 

「この世界に跳ばされたとき、出た場所が雪原のど真ん中でな。三人そろって氷漬けになりかけていたところを、この……」

 

 リーダーの言葉を継ぎながら、クロウバーがリンダのほうを見る。

 

「リンダに拾われてな」

 

 その言葉に、リンダは照れたように笑う。

 

「いや、まあ偶然っつうか、コイツらがいたのが取引に使う場所でさ。驚いたぜ、見たこともねえロボットがガタガタ震えてたんだから」

 

「それで恩返しのために、リンダちゃんの仕事を手伝ってるんだYO」

 

 クランクケースの締めに、バリケードはイライラとした様子だ。

 

「それで? メガトロン様の招集を蹴って、あの変態野郎に従うと?」

 

「心配しなくても、この仕事が終わったら合流する予定だZE」

 

 クランクケースはあくまで軽い調子で言う。

 

「俺たちはプロだ。プロってのは仕事を途中で投げ出さないもんだ」

 

 したり顔のクロウバーに、バリケードは顔を不愉快そうに歪めた。

 ディセプティコンにとって絶対的なメガトロンの命令よりも有機生命体との義理を優先する姿勢が気に食わないのだろう。

 

「それはそうと、そっちのヒトは大丈夫なのかYO?」

 

 クランクケースはそう言って、フレンジーとバリケードの後ろを見る。

 そこには案の定、キセイジョウ・レイが蹲っていた。

 

「ウフフフ…… 幼児の拉致監禁とか、ガチの犯罪だわ」

 

「なにを今更、あのアブネスとかいうのに情報を流したのは貴様だろう」

 

 ブツブツと呟くレイを、バリケードは白いオプティックで見る。

 そうなのである。あの自称幼年幼女の味方、アブネスにロムとラムが誘拐されたことを告げたのはレイなのだ。

 両者は反女神思想の持ち主ということもあって面識があり、特に幼女が女神をやってるルウィーに思う所があるアブネスは、偶然出会ったレイがうっかり漏らした情報を鵜呑みにして深く考えず教会に潜り込んだ、というのが事の真相である。

 

「そーですよー。つまりその気がなかったとはいえ、私も片棒を担いだことに…… もうモドレナーイ」

 

 レイは心ここにあらずと言った様子で言う。

 

「ま、いつものことだから気にすんな。それより早めに合流しろよ! ほら、レイちゃん立って!」

 

 フレンジーは木箱から飛び降りレイを立たせると、バリケードを伴って部屋から出て行った。

 ドレッズとリンダはそれを見送りつつ、隣から聞こえてくる雇い主の声に辟易するのだった。

 

  *  *  *

 

 ブランとベールは友好条約締結のおりから、秘密裡にある計画を進めていた。

 それはかつてルウィーが行っていた人工衛星を使った『お寺ビュー』というサービス。

 10年ほど前にサービスは終了したが、衛星そのものは今も稼働しており、低解像度ながら地上写真のデータを送ることが出来るのだ。

 それを解析して高解像度にするソフトウェアをリーンボックスの研究所が開発した。

 そこでベールはブランに持ちかけた、ルウィーが衛星写真を提供してくれるのなら、リーンボックスはそのソフトを提供すると。

 それは必然的に、全世界の情報をこの二国が独占することを示していた。

 しかし両国の女神はそれをよしとせず、その情報を四ヵ国全てで共有することにしたのだ。

 それを言い出したのは、誰あろう白の女神ブランだった。

 友好条約を結んだのだから、四つの国で等しく利用すべきだと。

 まして今はディセプティコンという共通の敵もいる。

 衛星を上手く利用すれば、彼らの動向を掴むことができる。

 故に両女神は公開のタイミングを見計らっていた。

 全世界に向けてのサプライズプレゼントとして……

 

  *  *  *

 

 そして、ベールの提案により衛星写真から得た情報をもとに突き止めた誘拐犯のアジト。

 それは意外な場所だった。

 

「建設中のアトラクションに隠れてたとわね……」

 

 ノワールが緊迫した様子で言った。

 

「灯台下暗しとは、このことだな」

 

 アイアンハイドもその言葉に頷く。

 一同は倒れたブランを自室に寝かせ、再び誘拐現場であるスーパーニテールランドを訪れていた。

 この場所こそが、誘拐犯たちのアジトだったのである。

 

「よーし、今すぐ殴り込みだー!」

 

「待つんだネプテューヌ」

 

 ネプテューヌが拳を握りしめて意気込むが、それをオプティマスが制した。

 それにベールも頷く。

 

「こういうときは、人質の救出が最優先ですわ」

 

「その通りだ」

 

 オプティマスは同意した。

 ましてディセプティコンが誘拐犯と組んでいる以上、慎重に行かねばならない。

 

「ミラージュ、先に行って偵察してきてくれ」

 

「了解」

 

 ミラージュは短く肯定すると、透明化して姿を消した。

 

  *  *  *

 

 再び、アトラクション内の倉庫、トリックは飽きもせず幼い少女たちを弄んでいた。

 

「い、いやぁ……」

 

「や、やだ! やめて! やめなさいってば」

 

 息も絶え絶えのロムとラム。

 しかしそれでやめるトリックではない。

 むしろ幼女の悲鳴をおかずにご飯三杯いける。そんな変態である。

 

「ボス、お楽しみ中に失礼するZE」

 

 そこにクランクケースが部屋に入ってきた。その後ろにはクロウバー、ハチェット、リンダもいる。

 

「なんだ? 俺は今、幼女をペロペロすることで忙しいのだ」

 

 対するトリックの声はラムとロムに向けられる興奮したものとは明らかに違う、冷めたものだった。

 

「ここに長居しすぎだ。そろそろ移動したほうがいいYO」

 

 軽い調子で、しかし冷静に言うクランクケース。

 その言葉をクロウバーが継ぐ。

 

「いつまでもここにいると発見されるリスクが高くなるからな。安全な場所を見繕っておいたから、そこに移ろう」

 

「ガウ! ガウガウ! ガウ!」

 

「ハチェットもそのほうがいいって言ってます」

 

 ハチェットの唸り声をリンダが訳す。

 トリックは不機嫌そうに鼻を鳴らした。

 

「何度も言わせるな! 俺様は忙しいのだ! 邪魔者が来たらそれを片づけるのが貴様らの仕事だろう!」

 

「そのガキどもを助けに来るとなると、女神かオートボットが出張ってくる可能性が高いYO」

 

「そうなると、俺たちだけでは戦力が足りない」

 

 彼我の戦力差を考えて冷静に言うクランクケースとクロウバーに、トリックはようやく納得したらしい。

 

「……いいだろう。準備を始めろ、終わるまで俺は幼女との時間を楽しんでるから」

 

 それだけ言うと、再びロムとラムに舌を伸ばす。

 

「「やめろ!!」」

 

 と、突然扉が勢いよく開かれた。

 

「お姉ちゃん……?」

 

 ラムは思わず希望を込めて言った。

 しかしそこにいたのは、彼女たちの姉ではなかった。

 

「野郎、やっと見つけたぜ!」

 

「さあ、覚悟しな! この変態!」

 

 それは、オートボットの双子、スキッズとマッドフラップだった。

 仲間たちのもとを離れ、ルウィー教会を飛び出した二人は、自力でロムとラムの行方を捜していたのだ。

 

「どうやってここが分かったんだYO?」

 

 クランクケースがトリックの前に進み出て問う。

 

「簡単さ! 犯人は現場に戻ってくるっていうだろう!」

 

「それ、俺が考えたんだろうが! ……それであとは、この遊園地のアトラクションしらみつぶしに探したんだよ!」

 

 マッドフラップとスキッズが交互に言う。

 

「んな単純な方法で……」

 

 リンダが呆れたように言うが、ドレッズは感心したようにホウッと排気した。

 

「さあ! ロムとラムを返しやがれ!」

 

「ついでに神妙にお縄につきな!」

 

 スキッズとマッドフラップは勇ましく武器を構えるが、トリックは以前と同じく余裕を崩さない。

 

「ふん! 小生意気なガキめ! おまえら! さっさと片付けろ!」

 

 その言葉に答えるまでもなく、クランクケースとクロウバーがツインズに飛びかかる。

 しかし、二人は素早い動きでそれを躱すと、トリックに向かって突撃していく。

 

「ッ! ハチェット!」

 

 クランクケースの声に反応し、ハチェットが双子の前に立ちはだかり、低いうなり声を上げて威嚇する。

 

「「うおぉぉぉッッ!!」」

 

 だが、ツインズは構わず突っ込んでいく。

 マッドフラップに狙いを定め襲い掛かるハチェット。

 防御する間もなく、獣型ディセプティコンの牙がマッドフラップの身体に食い込む。

 

「ぐおぉぉッ!」

 

「マッドフラップ!」

 

「構うな! 二人を助けろ!」

 

 片割れのその声に、スキッズは眼前の戦いを興味なさげに見ているトリックに突撃を再開しようとする。

 だがクランクケースは自分の背中から棘だらけの棍棒を引き抜くとスキッズ目掛けて投げつけた。

 

「ぐわあぁぁッッ!」

 

 それは狙い違わず、スキッズの肩に突き刺さった。

 思わず倒れ込むスキッズに、クランクケースとクロウバーが近づき無理やり立たせる。

 

「これで分かっただろ? おまえらじゃ俺らにゃ勝てないYO」

 

「命が惜しければ答えろ。仲間と一緒なんだろ? どこにいる?」

 

 ドレッズは双子から情報を引出そうとする。

 当然だ。この戦闘力の低い双子が、二人だけで敵地に乗り込んでくるとは考え辛かった。

 

「……いねえよ」

 

「あ?」

 

「仲間は連れてきてねえ、俺たちだけだ」

 

 スキッズはドレッズではなく、トリックを睨みつけて言う。

 マッドフラップも、いまだハチェットに噛みつかれているが、闘志を漲らせている。

 

「嘘をつくなYO!」

 

 クランクケースはスキッズの肩から無理やり棍棒を引き抜く。

 

「がぁ……」

 

 激痛にうめくスキッズ。

 クロウバーがその顔に聴覚センサーを近づける。

 

「これで吐く気になっただろう? さあ、仲間はどこにいる!」

 

「……せ」

 

「あん?」

 

「返せよ…… ロムとラム……」

 

 クランクケースとクロウバーは顔を見合わせ、それからスキッズの腹に二体そろって拳を叩き込み、壁に向かって放り投げる。

 

「じゃあ、もう一人に聞くYO! ハチェット!」

 

 リーダーの声に、ハチェットはマッドフラップを噛む力を強める。

 

「ぐがあぁぁ!」

 

「さあ、吐け! 仲間はどこにいる!」

 

 クランクケースが低い声で聞くが、マッドフラップはトリックを睨むのをやめない。

 

「ふ、二人を、返せ……!」

 

 その言葉にクランクケースはハチェットに仕草で合図する。

 するとハチェットはマッドフラップの身体を振り回しはじめた。

 マッドフラップの小柄な身体が壁や床に何度も叩き付けられる。

 やがてハチェットは飽きたのかマッドフラップをスキッズが倒れているほうへと投げ出した。

 二人のオートボットは、折り重なるように床に倒れた。

 

「……この調子だとホントに仲間はいないようだYO」

 

 クランクケースがいつもと変わらぬ軽い調子で認めた。

 しかし手に握った棍棒が暴力的な雰囲気を醸し出している。

 

「の、ようだな」

 

 クロウバーも同意する。

 と、

 

「か、返せって、言ってん、だろ」

 

「こ、後悔、す、るぜ」

 

 スキッズとマッドフラップだ。

 二人はヨロヨロと立ち上がる。

 

「スキッズ! マッドフラップ!」

 

「もういい、もういいよ……」

 

 トリックの手の中のロムとラムが涙混じりに声を上げる。

 しかし、オートボットの二人は雄叫びとともにドレッズに殴りかかった。

 

「なあ、返せよ! そいつらの姉ちゃん…… つらそうなんだよ!!」

 

「すっごいすっごい心配してんだよ! かわいそうじゃねえかよぉぉぉッッ!!」

 

 もはやドレッズにダメージを与えることも出来ず、弱々しくそのボディを叩くことしか出来ないスキッズとマッドフラップ。

 クロウバーとクランクケースはどうしたものかと、一様のボスであるトリックのほうを見る。

 トリックにとってはツインズの奮戦にも慟哭にも興味ないらしく、冷たく言った。

 

「前にも言ったぞ、俺様は幼女以外に興味はない。とっとと止めを刺せ」

 

「え……? トリック様、それはやり過ぎなんじゃ……」

 

 リンダが控えめに異を唱える。

 

「なにも殺すことないんじゃないすか」

 

「殺す? 壊すの間違いだろう。俺様は幼女以外に興味はない。ましてそんなガラクタ、見てるだけで吐き気がするわ!」

 

 その物言いに、ドレッズが微妙に顔をしかめるが、トリックは気づかない。

 

「さあ、さっさとぶち壊してしまえ!」

 

「やめて! やめてよ!」

 

「お願い!」

 

 ロムとラムが必死に懇願するが、トリックは聞き入れない。

 変態紳士であっても本来の意味での紳士ではなかったらしい。

 クランクケースとクロウバーはツインズを跳ね飛ばすと、太腿から銃を抜く。

 

「大した根性だったYO」

 

「ああ、オートボットにしとくには惜しい奴らだった」

 

 そして銃の狙いを二人の頭につける。

 

「まあ、オートボットに生まれたことを不幸と思え」

 

「悲しいけど、これ仕事なのよね」

 

 二体の指が引き金を引こうとした、そのときである。

 

「動くな」

 

 低い声が響いた。

 そしていつの間にか出現した赤いロボットが、トリックの首筋にブレードを突きつけている。

 スキッズとマッドフラップが息も絶え絶えにその名を呼ぶ。

 

「み……」

 

「ミラージュ……?」

 

 一方のトリックは突然の事態に動揺する。

 

「き、貴様いつのまに!?」

 

「俺は動くなと言ったぞ。次は首を落とす」

 

 ミラージュのブレードの切っ先がわずかにトリックの喉に食い込む。

 ドレッズは動きを止めた。

 

「よし、その二人を降ろせ」

 

「なんだと!? ……アダダダ」

 

 ミラージュの要求に、拒否するそぶりを見せたトリックだったが、喉元に少しずつ刺さってくる刃物の感触はいかんともしがたい。

 

「くッ、幼女のためなら死ねるのが俺様だが…… 命あっての物種だし…… 悩みどころだ」

 

「言っとくが俺は、あまり気の長いほうじゃないぞ」

 

 ミラージュの殺気を滲ませた声に、トリックは嫌々、本当に嫌々ロムとラムを降ろす。

 

「スキッズ!」

 

「マッドフラップ!」

 

 解放された二人は座り込んでいるもう一組の双子に駆け寄ろうとする。

 

「行くな!」

 

 しかし、それをミラージュが制した。

 

「どうしてよ!」

 

 ラムが非難を訴え、ロムも涙目でミラージュを見上げる。

 

「あの二人は、おまえらを助けるために傷ついた。だから、おまえらは絶対に無事に帰らなきゃならない。あの二人のためにも、おまえたちの姉のためにも」

 

 ミラージュは静かに、だが強い調子で言い聞かせる。

 

「外に仲間が来てる。そこまで走れ」

 

 ロムとラムはしばらく渋っていたが、やがて頷くと扉から出て行った。

 

「ああ…… 幼女が、幼女が行ってしまう……」

 

 トリックが情けの無いの声でしょうもないことを言う。

 首に刃物が当てられた状態でこんなことが言えるのだから、ある意味大物かもしれない。

 

「それで? おまえらはどうするんだYO。俺らから逃げられると思うのか?」

 

「仲間が来るまでこのままでいればいい」

 

 クランクケースが言うとミラージュはぶっきらぼうに返す。

 笑いを漏らすクロウバー。

 そしてもう一本拳銃を目にも止まらぬ速さで抜くと、それをツインズに向ける。

 

「これで五分と五分だ」

 

「……なにが望みだ」

 

「高望みはしない。なに、俺たちを見逃すだけでいい」

 

「……いいだろう」

 

 ドレッズはリンダを伴い、ロムとラムが出て行ったのとは反対の方向にある扉から出て行こうとする。

 

「お、おい、おまえら! 俺を置いていく気か!?」

 

 トリックが悲鳴を上げた。

 

「……忘れるとこだったZE。おい、オートボット! その変態を放すYO!」

 

「貴様らが出て行ったらな」

 

 一瞬、ミラージュとクランクケースの視線が交錯する。

 だがクランクケースとクロウバーはアッサリと部屋から出て行った。

 リンダだけが戸惑いがちだったが、ハチェットに背中を小突かれて歩いていった。

 完全にドレッズの気配が遠退くのを待って、ミラージュはトリックからブレードを放す。

 

「くッ、あいつらめ! ……おっと、こうしている場合ではなかった! 幼女を追いかけなければ!」

 

 トリックは解放された瞬間ロムとラムを追っていってしまった。この期に及んで幼女優先とは、ある意味驚嘆である。

 それを無視して、ミラージュはツインズのそばに歩いていく。

 

「あの変態…… 懲りずにロムたちを…… なんで逃がしたんだよ……」

 

 マッドフラップが非難がましく言うが、ミラージュは無視して双子の傷を確認する。

 

「さっき言っただろう。外にはオプティマスたちが待ち構えてる。あいつは詰みだ」

 

「……いつから見てたのさ」

 

 スキッズが憮然として言った。

 

「おまえらがディセプティコンに殴りかかった辺りからだな」

 

 ミラージュは速やかにオートボット的応急処置を双子に施しつつ答える。

 

「二人で独断専行の上、返り討ち。褒められたもんじゃないな」

 

 冷たく言うミラージュに、双子は何も言い返すことが出来ない。事実だと言うことは、本人たちが一番よく分かっていた。

 

「だが」

 

 ミラージュは一拍置いて続けた。

 

「根性は大したもんだった。まさにオートボット戦士の戦いだった」

 

 ぶっきらぼうに言う赤いオートボットに、双子は顔を見合わせ力無く笑った。

 

  *  *  *

 

 ロムとラムは通路を走り、非常口を潜ってアトラクションの外へと出る。

 そこにはネプテューヌとネプギア、オプティマスとバンブルビーが待っていた。

 

「ロムちゃん! ラムちゃん!」

 

 ネプギアが二人に駆け寄り抱き留める。

 

「ネプギア!」

 

「ネプギアちゃん……!」

 

 ロムとラムがネプギアを抱き返す。

 その瞬間オプティマスが叫んだ。

 

「ッ! 三人とも、そこを離れるんだ!」

 

 突然、非常口の扉が吹き飛び、そこから黄色い物体が飛び出してきた。

 

「アックックックッ! 幼女はっけ~ん!!」

 

 それはトリックだった。

 巨体に見合わぬ速さと執念でロムとラムを追って来たのだ。

 地響きを立てて着地すると、ネプギアに連れられてオプティマスたちの後ろに避難したロムとラムをいやらしい目つきで見る。

 先ほどまでのことを思い出し、双子はトリックを嫌悪と怒りのこもった目で睨み返した。

 そして怒りを感じていたのは、双子だけではなかった。

 

「……おまえが誘拐犯か」

 

 オプティマスが底なしに低い声でいった。

 

「そのとおり! さあ、俺様の幼女を返せ!」

 

「私の部下を傷つけてくれたようだな……」

 

 トリックの言葉には答えず、オプティマスは両腕のエナジーブレードを展開する。

 

「おお…… オプっちが本気と書いてマジだ……」

 

 ネプテューヌがちょっと怖がりながら言った。

 

「というか、この場面でのわたしの最初のセリフがこれって酷くない?」

 

 よく分からないことを言い出すネプテューヌだが、いつものことなので、みんな気にしない。

 

「しかし今回は私の仕事ではないようだ」

 

 オプティマスはなぜか、エナジーブレードをしまう。

 その姿に、トリックを含めた一同は怪訝な顔をする。

 

「『先約』がいるからな」

 

 オプティマスの言葉に呼応するが如く、横合いから人影が現れた。

 

「わたしの大切な妹に何してくれた…… 許さねえぞ……」

 

 低い声を荒い口調で響かせながら現れたのは、誰あろう、白の女神ブランその人である。

 

「……この変態が!」

 

「変態? 幼女に言ってもらえるなら、それは褒め言葉だ!」

 

 トリックは堂々と言い張る。

 

「そうかよ…… じゃあ、褒め殺しにしてやるぜ!!」

 

 言葉とともにブランの身体が光に包まれ、その姿が女神ホワイトハートへと変身した。

 それを見てオプティマスはネプテューヌたちを下がらせる。

 

「ここは彼女に任せよう」

 

「ええ~!? わたし主人公なのに見せ場なし!?」

 

 ネプテューヌが騒ぐが、トランスフォーマーではよくあることである。しょうがない。

 

「『ネプテューヌでも』『わりと』『そんなもん』」

 

 バンブルビーがしたり顔で言った。

 ごちゃごちゃ言ってる一同を後目に、ブランはトリックへと斬りかかっていく。

 

「覚悟しやがれ! このド変態!!」

 

「アククク! だからそれは褒め言葉だ!」

 

 トリックはブランに向かって跳躍すると、舌を勢いよく伸ばす。

 だがブランは縦横無尽に飛び回ってそれをかわし、戦斧をトリックに叩き込む。

 

「この、超絶変態!!」

 

 さらに息つく間もなく追い打ちをかけるブラン。

 

「激甚変態!!」

 

 トランスフォーマーの装甲にさえダメージを与える白の女神の攻撃が、怒涛の勢いでトリックを襲う。

 

「テンツェリントランぺ!!」

 

 そして渾身の一撃がトリックの巨体を吹き飛ばす。。

 

「幼女ばんざぁぁぁぁいッッ!!」

 

 トリックはあくまでも『らしい』悲鳴とともに空の彼方に消えたのだった。

 

「女神に喧嘩売ったんだ。文句はねえよな」

 

 低い声で言うとブランは変身を解き、オプティマスの足元から顔を覗かせる妹たちの方を向く。

 

「ロム…… ラム…… ごめんなさい、こんな目にあわせて……」

 

 その言葉には深い悔恨があった。

 

「わたし、姉失格ね……」

 

「お姉ちゃん」

 

 しかしロムとラムは姉のもとへ駆け寄り、懐から何かを取り出した。

 

「おみあげ!」

 

「デッテリュー!」

 

 それはデッテリュー模様のコインだった。

 姉へのおみあげにと、二人が集めていた物だ。

 妹たちに微笑み返し、ブランは二人を抱きしめるのだった。

 

「終わったみたいね」

 

 そこへノワールとユニがアトラクションの中から出て来た。

 アイアンハイドとサイドスワイプも一緒だ。

 

「お、ノワール~! そっちはどうだった?」

 

 ネプテューヌが元気に声をかけるが、ノワールは首を横に振った。

 

「……逃げられたわ。と言うより、躱されたと言うほうがいいかしら」

 

「ああ、抜け穴があったらしい」

 

 アイアンハイドも苦い顔で言う。

 

「そうか、御苦労だった」

 

 オプティマスは黒の女神とオートボットを労う。

 とりあえず仲間も人質も無事だった。

 今日はそれでよしとしておこう。

 

  *  *  *

 

 雪の降り積もるルウィーの街並みの中を、一人の女性が歩いていた。

 それはルウィー教会に務めるメイドだった。

 そのメイドが人目のない所に来ると、その姿が突然変わった。

 魔女を思わせるトンガリ帽子と黒衣の女性だ。

 黒衣の女性は手に持っていた箱を開くと、ほくそ笑む。

 箱には禍々しい赤い光を放つ、十字型の結晶が入っていた。

 

「上手くいったみたいだな」

 

 そこへ、影から声がかけられる。

 黒衣の女性がそちらを向くと、そこにはフレンジー、バリケード、レイが立っていた。

 声を出したのはフレンジーだ。

 

「ふん、当たり前だ。私の計画なのだからな」

 

 恐ろしい姿のフレンジーとバリケードに臆することなく、黒衣の女は傲然と返す。

 

「まあ、あの変態を使ってオートボットどもと女神どもを引きつけて、その隙に目当ての物を手に入れるっていう単純な作戦だがな。これで失敗したら能力を疑うところだ」

 

 バリケードが皮肉っぽく笑いながら言った。

 黒衣の女性は顔をしかめる。

 

「なるほど、そう言うことだったのかYO」

 

 と、フレンジーたちの後ろから軽い調子の声が聞こえた。

 クランクケースだ。

 部下のドレッズたちとリンダもいる。

 

「よう、無事に逃げおうせたな」

 

 フレンジーも軽い調子で言う。

 クランクケースは頷いた。

 

「ああ、こんなこともあろうかと、秘密の脱出路を用意しておいたのSA☆ あの変態には言ってなかったけどな!」

 

「抜け目がねえなあ……」

 

 フレンジーが呆れたように言うと、ドレッズはそろって薄く笑う。

 

「プロは仕事を投げ出さないんじゃなかったのか?」

 

「時と場合によるさ」

 

 バリケードの言葉に、クロウバーがいけしゃあしゃあと言ってのける。

 

「まあ、いい。それじゃあ、そろそろ基地に戻るぞ」

 

 クロウバーの言葉に呆れつつもバリケードが冷静に言うと、ドレッズとレイ、フレンジーは頷き、黒衣の女性は鼻を鳴らしつつも逆らわない。

 

「あ、あのさ……」

 

 そこでリンダが声を出した。

 

「あ、アタイも一緒に行っていいかな? 他に行くあてもないし……」

 

「うえ!?」

 

 これに驚いたのがここまで黙っていたレイである。

 

「ほ、本気ですか!?」

 

 無理やりディセプティコンに協力させられている彼女からすれば、有り得ない話である。

 

「本気だって! メガトロン様ってのはすげえワルなんだろ? 憧れるじゃねえか!」

 

「ワルなんてもんじゃありません! 邪悪です! 凶悪です! 極悪です!!」

 

 レイは身振り手振りを交えて、メガトロンの恐ろしさを伝えて、どうにかリンダの間違いを正そうとする。

 しかし、ワルに焦がれる不良少女にとって、その言葉はメガトロンを称えるものでしかない。

 

「レイちゃん…… さすがにTPOを考えようぜ……」

 

 さすがにフレンジーが微妙な声を出す。

 ディセプティコンに囲まれた状況でこんなことを言い出すあたり、図太いのかもしれない。

 

「で、どうなんだコイツ? 使えるのか?」

 

 バリケードがドレッズにたずねる。

 

「能力はあるYO。上司がアレだっただけで」

 

「それに洗車が上手い。リンダに洗ってもらうと、すごく具合がいい」

 

「ガウガウガウ!」

 

 ドレッズの言葉は概ね肯定的だ。

 

「どうする?」

 

 傍らの相棒に意見を求めるバリケード。

 

「いいんじゃねえの? 人間の中で動ける駒は多いに越したことないし。ま、結局はメガトロン様次第だけどな」

 

「やりぃ!」

 

 フレンジーはとりあえずこの下っ端を連れて行くことにした。

 リンダは喜ぶがレイは嘆息せざるをえない。

 

「メガトロン様の恐ろしさを知らないから、そんなに喜べるんですよ……」

 

 彼女に待ち受ける運命を思って、レイは暗澹たる気分になった。

 

「そんなわけで姐さんたち! これからよろしくお願いしやす!」

 

 何を思ったのか、リンダはレイと黒衣の女性に頭を下げる。

 

「はい、こちらこそよろしく……って、うえぇ!?」

 

「変な声を出すな、鬱陶しい」

 

 驚くレイに、黒衣の女性は興味がないのか冷めた態度だ。

 

「あ、姐さんって、私が!?」

 

「うっす! アタイより先にディセプティコンに入ってたんすから、お二人とも姐さんっす!」

 

 リンダのその言葉に、黒衣の女性は眉を吊り上げる。

 

「私は別にディセプティコンに入ったわけではないぞ」

 

「わ、私だって……」

 

 レイも反論するが、横からフレンジーが口を挟む。

 

「いいじゃん、レイちゃんより下っ端ができてさ。これまでレイちゃん、ヒエラルキーぶっちぎり最下位だったんだしさ!」

 

「そういう問題じゃ…… って、最下位? ぶっちぎり最下位だったんですか私!?」

 

「そりゃそうさ」

 

 何を当たり前の事をと言わんばかりのフレンジーに、レイは涙を流さずにはいられなかった。

 そんなレイを見て、黒衣の女性は不機嫌そうに顔を歪める。

 彼女には、あのメガトロンがなぜレイを始末しないのかが分からない。

 どう考えても、能が有るようには思えなかった。

 首を捻る黒衣の女性をよそにディセプティコン一同は騒がしく移動を始めるのだった。

 

  *  *  *

 

「とりあえず、修理は済んだ。だが念の為、今日はこちらに泊まってもらうよ」

 

「分かった」

 

「あんがと」

 

 ラチェットの言葉に、リペア台に乗せられたスキッズとマッドフラップは彼ららしくないことに、殊勝に礼を言った。

 双子のオートボットは、あの後ラチェットのリペアを受けるべく、プラネテューヌのオートボット本部に移送されていた。

 

「まあ、明日にはルウィーに帰れるから、それまでは静かにしていなさい」

 

 ラチェットはそれだけ言うと、部屋から出て行った。

 ツインズはしばらく無言だったが、マッドフラップの方から声を出した。

 

「なあ」

 

「んだよ」

 

「俺らってさ」

 

「ああ」

 

「情けねえよな」

 

 その言葉にスキッズは押し黙る。

 結局、今回の事件では何も出来なかった。

 そのことを考えると、酷く辛かった。

 二人はいつもの明るさを失って沈み込む。

 と、

 

「失礼、二人とも」

 

 ラチェットが一言断ってから部屋に入って来た。

 何かとツインズがそちらを見ると、ラチェットは柔らかい笑みを浮かべた。

 

「お見舞いだ」

 

 すると、その足元からひょっこり顔を出す者たちがいた。

 それは、ラムとロムだった。

 

「やっほー! スキッズ!」

 

「マッドフラップ、大丈夫?」

 

 二人はスキッズとマッドフラップの寝ているリペア台のそばまで歩いてきた。

 スキッズは訝しげにたずねる。

 

「二人とも、なんでここに?」

 

「なによー! お見舞いに来てあげたんでしょ!」

 

 それをどう受け取ったのかラムがプリプリと抗議した。

 

「それと、お礼」

 

「お礼って……」

 

 ロムの言葉に、マッドフラップは気まずそうに視線をそらす。

 

「そうそう! 助けに来てくれて、ありがとう!」

 

「ありがとう! かっこよかったよ」

 

 ラムとロムは笑顔でお礼を言ってくる。

 スキッズとマッドフラップは顔を見合わせ、それから明るく笑う。

 

「礼なんか言う必要ねえって!」

 

「そうそう! 当然のことをしただけ、ってやつだ!」

 

 四人は笑い合い、話始めるのだった。

 

『なあ、兄弟』

 

 笑いながらマッドフラップはスキッズに通信を飛ばす。

 

『なんだよ、兄弟』

 

 スキッズもロムとラムにばれないよう、通信で答えた。

 

『強く、なりてえな』

 

『なりてえ、じゃねえだろ』

 

 片割れの言葉に、スキッズは強い決意を込めて答える。

 

『強くなるんだ』

 

  *  *  *

 

 ミラージュは今日もモンスターを半ダースほどなます切りにする作業を終え、基地である礼拝堂で武器の手入れをしていた。

 うるさい双子はいまごろ軍医のリペアを受けているころだ。

 ひさしぶりに心安らぐ時間と言えた。

 

「ミラージュ? 入るわよ」

 

 その静寂を破る者がいた。

 ブランである。

 ミラージュはブランの言葉に答えず、ブレードを磨き続ける。

 

「沈黙は許可と受け取るわ」

 

「好きにしろ」

 

 ブランはミラージュのそばまで歩いてきて、その顔を見上げる。

 

「……もう、体は大丈夫そうだな」

 

「ええ」

 

 ぶっきらぼうなミラージュの言葉に、ブランは少し照れたような顔をする。

 結局ブランが倒れたのは、単なる寝不足が原因だった。

 それも公務ではなく趣味の同人誌を書いていて徹夜したそうな。

 ミラージュからすれば、実にバカバカしいオチだ。

 

「それで、何の用だ?」

 

 またぞろ苦情か何かかと思い聞いてみれば、返ってきたのは意外な言葉だった。

 

「まだお礼を言ってなかったと思って」

 

「礼を言われるようなことをした覚えはない」

 

 ぶっきらぼうに返す。

 

「あのアブネスとかいうのから、かばってくれたわ」

 

「アイツの態度が気に食わなかっただけだ」

 

「ロムとラムを助けてくれた」

 

「オプティマスの命令だったからな」

 

 どこまでもつれないミラージュに、ブランは何故か小さく笑う。

 

「……何がおかしい?」

 

「別に。あなたって素直になれないタイプなのね」

 

 フンと一つ排気し、赤いオートボットは武器を磨き続ける。

 

「あなたが望まずとも、わたしはあなたに感謝しているわ。ありがとうミラージュ」

 

 ブランは満面の笑みを浮かべてミラージュに礼を言う。

 その瞬間、ミラージュはチラリとブランのほうを見て、何故か動きを止めた。

 

「……? どうしたの?」

 

「………………なんでもない」

 

 間は有ったものの、変わらずブスッと言って、ミラージュは武器磨きを再開する。

 気のせいか、ブレードを磨く手が早くなっていた。

 

  *  *  *

 

 ミラージュは有機生命体が苦手である。

 生暖かいし、脆いし、勝手に増えるし。

 

 それに、笑顔を見ると、どうにもブレインサーキットが落ち着かない。

 

 オートボット仲間の双子はもっと苦手だ。

 訓練サボるし、悪戯三昧だし。

 

 だが、根性だけは認めてやってもいい。

 鍛えてやれば、化けるかもしれない。

 

 ……まあ、こんな任務も悪くはない。

 

 最近のミラージュは、そう思考するようになっていた。

 




 シブリングス、兄弟姉妹の意。
 ミラージュ、見下してた兄弟たちを少し見直す。
 野郎は女の子のためなら頑張るもの。
 そんな感じの19話でした。
 前回書き忘れてましたが、ドレッズのビークルモードがバラバラなのは玩具準拠だからです。
 次回はリーンボックス編の前に、閑話になります。
 皆さんお待ちかね(?) ディセプティコンの人気者が登場する予定となっております。

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