超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION   作:投稿参謀

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新年、あけましておめでとうございます!
思ったより早く書けました。
そんなわけで新年一発目、いきます。



第18話 白と赤のシブリングス part1

 唐突だが、ミラージュは有機生命体が苦手である。

 生温かいし、やけにプ二プ二してて脆いし、なにか勝手に増えるしで生理的に受け付けないのだ。

 断っておくと金属生命体的な価値観において、ミラージュのような意見はそう珍しいものではない。

 むしろ、有機生命体と何の抵抗もなく仲良しこよしなオプティマス以下、他のオートボットたちのほうが、ある意味においては異端だと言っていい。

 繰り返そう、ミラージュは有機生命体が苦手である。

 

 まあ、このルウィーとやらの女神は、そこまで嫌いではない。

 怒らせない限り静かだからだ。

 問題は今の仕事仲間のほうだ。

 

  *  *  *

 

 この日もミラージュは雪深いなかモンスターを半ダースほど切り刻む仕事を終えて、城塞の如きルウィー教会の門を潜ろうとしていた。

 

「よーし! スキッズ全速力だー!」

 

「オーケー、ラム! 俺様の華麗なドライビングテクニックを見せてやる!」

 

 そのとき緑のコンパクトカーが、ミラージュの目の前を横切る。その運転席にはピンク色の服を着た長い髪の女の子が乗っていた。

 

「待ちやがれ! 俺たちを置いてくなー! なあロム!」

 

「安全運転でね、マッドフラップ……」

 

 さらにオレンジのコンパクトカーが、水色の服の女の子を乗せて横切った。

 

「ロム様! ラム様! お待ちなさーい!」

 

 それを追って数名のメイドが走ってくる、先頭にいるのはフィナンシェとか言ったか。

 ある者はなぜかずぶ濡れで、別の者は絵具で顔に模様が描かれていた。

 ミラージュはまたかと思い、深く排気した。

 

  *  *  *

 

 スキッズとマッドフラップ、この一際小柄な二体のトランスフォーマーは一つのスパークが二つに分裂することで生まれた双子だ。

 ゲイムギョウ界にいるオートボットのなかで最年少であり、それに比例して小生意気である。

 問題は、ここルウィーにも幼い双子がいたことだ。

 どういうわけか二組の双子はお互いをいたく気に入り、組んで行動しているのである。

 その結果、ロムとラムの悪戯は協力者を得て加速し、しかもスキッズとマッドフラップは、オートボットとしては体が小さく、やたらと広いルウィー教会の中を自由に動き回っている。

 そんなわけでルウィー教会の職員たちは頭を悩ませることになったのだ。

 さらに、ミラージュにとって悪いことに、オートボットのほうの双子は頻繁に訓練をサボる。

 ミラージュにとって、ある意味この双子のほうが有機生命体よりも厄介だった。

 

  *  *  *

 

 ルウィー教会の執務室。

 ここの奥に配置された机を挟んで二人の女性が座っていた。

 一人はルウィーの女神ブラン、もう一人はリーンボックスの女神ベールだ。

 さらに、ブランの後ろには両腕の湾曲したブレードが特徴的な赤いオートボット、ミラージュが、ベールの後ろにはバイザーでオプティックを隠した銀色のオートボット、ジャズがそれぞれ立っている。

 その姿は二人がともに流麗な体躯であることもあって、どこか騎士然とした雰囲気を醸し出していた。

 

「逃げろー!」

 

「わーい!」

 

 部屋の外では、ラムとロム、

 

「よーし、逃げろ逃げろ!」

 

「早くしろよ!」

 

 そしてマッドフラップとスキッズが何かやらかしたのかメイドに追いかけられていた。

 その声は容赦なく室内にも響いてくる。

 

「……オートボットを止めるのはあなたの仕事ではないの?」

 

 ブランが背後に立つミラージュを非難がましく見上げる。

 ミラージュは興味なさげに肩をすくめて見せた。

 

「相手がオートボットならな。だが、あんなのはオートボットとは言えん」

 

「おいおい、そりゃ言い過ぎだろ」

 

 ジャズがその態度を咎める。

 

「訓練をサボって遊び回ってるようなのを、俺はオートボットとは認めん」

 

 冷たく言うミラージュに、ジャズはやれやれとバイザーの下で目をつむり排気する。

 とりあえずそれを置いておいて、ベールは話を切り出す。

 

「それはともかく…… よろしいですのね? この計画を実行すれば世界に革命的な変化がもたらされますわよ?」

 

「承知しているわ。実行までは絶対ばれないようにしないと」

 

 ブランは真面目な顔でベールの問いに答えた。

 ……しかし、外の廊下では双子二組がメイドに追いかけられて騒いでいる。

 その喧騒に、ブランの機嫌が急降下していく。

 この女神、沸点がかなり低いのだ。

 おもむろに立ち上がると、執務室のやたら大きな扉に向かって大股に歩いていく。

 そして、大きな音を立てて扉を開いた。

 

「おまえらぁ…… 仕事中は静かにしろって言ってんだろ!」

 

 女神化時を思わせる荒い口調で大声を出すブラン。

 メイドのほうは、「申し訳ございません!」と頭を深く下げるが、肝心の双子二組はブランの剣幕にも恐れることなく彼女に近づいてくる。

 

「お姉ちゃん!」

 

「見て見て~!」

 

 ロムとラムはそう言って姉に何かを差し出す。

 

「これは……」

 

 それはブランのお気に入りの本だった。

 ただし、あらゆるページにクレヨンで落書きがしてある。

 特に目立つのは牙だらけの口と赤い目をした、あたかも破壊大帝の如き女性である。

 大きな帽子をかぶったこれは……

 

「お姉ちゃんだよ~!」

 

「ラムちゃんと描いたの」

 

 妹たちは無邪気に笑う。

 さらに、オレンジとグリーンのズングリした双子の言葉が火に油を注いだ。

 

「俺たちも描くの手伝ったんだぜ。なあ、スキッズ」

 

「ああ、マッドフラップ。なかなか芸術的に仕上がったぜ。」

 

 その言葉が止めとなり、ブランが怒髪天を突く。

 

「わたしの大事な本にぃぃ、おまえらあぁぁッッ!!」

 

 まさしく落書きの通りに目を赤く輝かせて怒るブランに、双子二組は歓声を上げて逃げ出した。

 

「まちやがれぇッ!!」

 

 それを追いかけるブラン。

 そんな喧騒をよそに、ベールは優雅に紅茶を飲み、ミラージュは呆れたように排気し、ジャズは苦笑するのだった。

 

  *  *  *

 

 場所は変わってルウィー教会の中庭。

 ブランは雪が退けられテーブルと椅子が置かれた即席のカフェテリアで本人曰く「来ちゃった、テヘッ♡」なネプテューヌ以下、他国の女神と女神候補生をもてなしていた。

 候補生たちはスキッズとマッドフラップ、バンブルビーを交えて雪ダルマを作っている。

 

「まあ、そんなわけでね、ルウィーに新しいテーマパークが出来たって聞いたから、みんなで遊びに来たのー」

 

「イストワールからは、女神の心得を教えてやってほしいって、連絡をもらっているけれど?」

 

 軽い調子で言うネプテューヌに、ブランが突っ込む。

 

「あ~…… うん、そっちのほうもあるけど、とりあえず後でね」

 

「相変わらずね、ネプテューヌ」

 

 嫌なことを後回しにするネプテューヌに、ノワールが嘆息する。

 もっとも、心得を教えてもらう気があるだけ進歩であり、イストワールが聞いたら感涙に咽ぶことだろう。

 そこらへんさすがに前回の一件が堪えたらしかった。

 

「テーマパークの噂はわたくしも聞いていますわ」

 

 と、ベールが穏やかに話題に乗って来た。

 

「みんなで遊びに行くのも、楽しいのではないかしら?」

 

 緑の女神の言葉に、ブランを模した雪ダルマをこさえていた候補生たち、特に幼い双子が反応する。

 

「スーパーニテールランド!? 行きたい行きたい!」

 

 ラムがブランに駆け寄って来た。

 

「連れてって! (わくわく)」

 

 ロムも目を輝かせる。

 ネプギア、ユニ、さらにはバンブルビーとオートボット・ツインズも女神たちが囲んでいるテーブルの近くにやってくる。

 妹たちの期待に満ちた視線を受けて、しかしブランの反応は芳しくなかった。

 

「……妹たちを連れていってもらえるかしら?」

 

 その言葉に一同が驚く。

 

「え? ブランは?」

 

「お姉ちゃん、行かないの?」

 

 ネプテューヌとロムの言葉に、ブランは少し顔を伏せる。

 

「わたしは…… 行けない」

 

「ええー、仕事ー? やめなよー」

 

 不満たらたらと言った様子でネプテューヌが言う。

 

「昔の偉い人も言ってるよ、働いたら負けかなと思ってるって」

 

「それ、偉い人じゃないから。適当なこと言ってると、またオプティマスが本気にするわよ」

 

 ノワールの突っ込みに、一瞬、真に受けて職務放棄するオートボット総司令官を想像してしまい、ウッと言葉に詰まる。

 オプティマス・プライム、結構なボケ殺しであった。

 そんな呑気なやりとりに腹が立ったのか、ブランはテーブルを両手で叩いて立ち上がる。

 

「とにかく、わたしは無理」

 

 それだけ言うと、踵を返して立ち去る。

 一同はその背を唖然と見ていた。

 

「やっぱカルシウム足んないのかね?」

 

「いや、きっとストレスの溜め過ぎさ」

 

 空気の読めないマッドフラップとスキッズの双子を除いては。

 

  *  *  *

 

「……ああ、分かった。後でな」

 

 オプティマスはネプテューヌとの通信を切った。

 ここはルウィー教会の敷地内にある礼拝堂跡。

 ミラージュとツインズはここを拠点に活動している。

 もっとも三人とも、ここにいないことが多く、内部はほとんど手付かずのままである。

 オプティマス、バンブルビー、アイアンハイド、サイドスワイプ、ジャズの五名に加え、ミラージュの計六名のオートボットがここに集結していた。

 ツインズはロムとラムにくっ付いて遊園地に遊びに行っている。

 

「ネプテューヌたちは遅くなるそうだ。とりあえず我々はここで待機していよう」

 

「おう」

 

「了解」

 

「ああ」

 

 オプティマスの言葉にアイアンハイドとサイドスワイプ、ジャズが答える。

 

「しかし、遊園地か。いいね、楽しそうで」

 

 サイドスワイプが笑いながら言うと、ジャズも頷く。

 

「まあ、シックス・レーザーズには及ばないだろうけどな」

 

「ああ、しかし……」

 

 アイアンハイドは、礼拝堂の端に座り込む黄色いオートボットに視線をやる。

 

「『遊園地』『いいな~……』」

 

 床にのの字を書いて、落ち込んだ様子のバンブルビーにアインハイドとサイドスワイプはどうしたもんかと黙考する。

 さっきからずっとこの調子なのだ。

 

「バンブルビー、しかたないだろう。双子ならともかく、おまえでは体が大き過ぎて、遊園地では遊べないのだから」

 

 オプティマスが優しく諭すが、バンブルビーは沈んだままだ。

 サイドスワイプとジャズが元気を出せよと、その背を叩く。

 

「オプティマス」

 

 バンブルビーの姿に苦笑を浮かべていた総司令官に、ミラージュが声をかけた。

 

「話がある」

 

「配置換えの件なら、ナシだと言ったはずだ」

 

 オプティマスは年若いオートボットの言葉を先読みして遮る。

 ミラージュは不満そうな表情を浮かべた。

 

「なぜだ」

 

「前にも言ったはずだ。若い者を育てるのも戦士の仕事だと」

 

「あんな奴らが、一端の戦士になるか! はっきり言って見込みはゼロだ!」

 

 ミラージュが声を荒げるが、オプティマスは表情こそ厳しいが穏やかな声を崩さず返した。

 

「ゼロではない。私がそうであり、おまえがそうであるように、あの双子もまた目に見える以上のものを秘めているはずだ」

 

「信じられないね」

 

 そう言って、ミラージュはオプティマスに背を向ける。

 

「ミラージュ!」

 

 オプティマスはその背に声をかけた。

 

「これは、おまえのためでもある」

 

 ミラージュは答えなかった。

 

  *  *  *

 

 スーパーニテールランド。

 『二番手だって主役になれる!』がキャッチフレーズのこの遊園地は、今日が平日であることもあって、そんなに混んではいない。

 これが休日ともなれば、家族連れにカップルで賑わっていたはずだ。

 そんな遊園地を女神たちが訪れていた。

 特にはしゃいでいるのが、やはり一番幼いルウィーの双子だ。

 トロッココースターに、パイプダンジョン、テレヤサンのホラーハウスなどのアトラクションをぞんぶんに楽しむ。

 ネプギアとユニも負けじと楽しみ、それにも増してスキッズとマッドフラップがアトラクションに乗れないながらもはしゃぎまわっていた。

 

 さて、この遊園地には変わった趣向があり、空中に浮かんでいるコインを取るとそれを自分の物にできるのだ。

 

「スライヌ模様のコイン!」

 

「こっちはアエルーだ!」

 

 ユニとネプギアは、それぞれ可愛らしいモンスターの描かれたコインを手に入れ、ホクホク顔だ。

 

「テリトス……」

 

「こっちはテスリト、つまんな~い!」

 

 一方、ロムとラムはお気に召さなかったらしく、不満そうな声を上げる。

 

「へっへー、こっちはデッテリュー模様だぜ!」

 

「激レアだぜ!」

 

 スキッズとマッドフラップが、大人げなくコインを見せびらかす。

 

「む~、負けないんだから! 行こ、ロムちゃん!」

 

「あっ! 待って、ラムちゃん!」

 

 双子はもう一組の双子に負けまいと、コインを求めて駆け出した。

 

  *  *  *

 

 遊園地の上空、冷たい空気の中を黒い戦闘機が旋回していた。

 その戦闘機は各種センサーによって得た情報を、仲間たちのもとへとリアルタイムで送信していた。

 

  *  *  *

 

 女神候補生たちが遊んでいるなか、女神たちはベンチに腰かけて一休みしていた。

 

「くーださいなー」

 

 ネプテューヌがベンチに隣接する売店で、なぜか売られている桃を買い込む。

 

「他国の女神がわざわざ来てるんだから、ブランも付き合うべきじゃない? ほんと、何考えてるかわかんないわ」

 

 ノワールの苦言を、ベールが穏やかに聞いている。

 

「確かに、彼女はもう少し、大人になるべきですわね。わたくしのように」

 

 そう言って、自分の胸を強調して見せる。

 その胸は豊満だった。

 ノワールは反応に困ったが、少しして口を開く。

 

「ねえ、そう言えばベールは、どうしてルウィーに……」

 

「ねぷう!?」

 

 と、突然ネプテューヌの悲鳴が聞こえてきた。

 何事かと見てみれば、何故かネプテューヌが大きな亀にのしかかられている。

 

「この亀、わたしのピーチを狙ってるよー!? いやあ! オプっち、助けてー!」

 

  *  *  *

 

「!?」

 

 オートボットのルウィー基地である礼拝堂で、オートボット総司令官オプティマス・プライムは突然、仲間との会話を中断して明後日の方向を向く。

 

「どうしたんだ、オプティマス?」

 

 それにジャズが声をかけた。

 

「いや、今ネプテューヌに呼ばれた気がして……」

 

「……そうか?」

 

 オプティマスの言葉に、副官ジャズは首を傾げるのだった。

 

  *  *  *

 

 そんなやり取りが行われているとはつゆ知らず、ロムとラムはコイン集めを楽しんでいた。

 

「ロムちゃん! デッテリュー模様! レアアイテムだよ!」

 

 喜ぶラムに、ロムが別の方向を指す。

 

「あれもデッテリュー」

 

 そこにはデッテリュー模様のコインが大量に浮かんでいた。

 ありがたみの薄れる光景に、喜んでいたラムもちょっと困ったような顔になる。

 

「……さすがに、もういいかな?」

 

「お姉ちゃんにも持っていってあげる」

 

 ロムが笑みを浮かべながら言うと、ラムがむくれた。

 

「ええ~!? お姉ちゃん、いっしょに来てくんなかったんだよ」

 

 そう言われて、ロムは悲しそうに顔を伏せる。

 

「そうだけど……」

 

「……分かった、お姉ちゃんの分も、たくさん取って帰ろう!」

 

 双子の姉のその姿に、ラムは考えを改め明るく言った。

 ロムが笑顔になる。

 

「うん!」

 

 二人はコインのあるほうへとかけて行った。

 そのコインが、意図をもって配置された物だと気付かずに。

 二人の後ろを、脇道から現れた黒塗りのセダンがゆっくりと追いかけて行った。

 

  *  *  *

 

「ロムちゃんとラムちゃん、どこ行ったのかな?」

 

「こっちには来てないけど……」

 

 ネプギアとユニは双子の姿が見えないことに気づき、あちこち探しまわっていた。

 とりあえず、もう一組の双子に聞いてみることにする。

 

「スキッズさん! マッドフラップさん! ロムちゃんとラムちゃんを見ませんでしたか!?」

 

「アンタたち、いつもいっしょにいるでしょう!」

 

 ユニの言葉にオートボットの双子は顔を見合わせる。

 

「いや、見てないぜ。なあ、マッドフラップ」

 

「ああ、きっとトイレじゃねえの?」

 

「デリカシーのねえこと言ってんじゃねえよ!」

 

 マッドフラップの頭をスキッズが叩く。

 ネプギアとユニは、こりゃダメだと、踵を返そうとする。

 

「あ、そういや……」

 

 そこでマッドフラップが思い出したように声を出した。

 

「さっき、あっちのほうに行ったのを見たな」

 

「テメッ! なんでそれを先に言わねえんだ!」

 

「忘れてたんだよ~」

 

 殴り合いと言うか、じゃれ合う双子に一つ嘆息しネプギアとユニはマッドフラップの指したほうへ向かう。

 

「ロムちゃ~ん? ラムちゃ~ん? ……あッ!?」

 

 ネプギアがルウィーの双子の名を呼びながら建物の影に入ると、そこには信じられない光景が広がっていた。

 

「アックックックッ」

 

 悪趣味な黄色いカメレオンを思わせる巨体のモンスターが、ロムとラムを両腕に抱えているのだ。

 双子は気持ち悪そうに身もだえしている。

 そのそばには三白眼のガラの悪そうな女性が立ち、なぜか、巨大カメレオンの後ろには黒塗りのバンとセダンが停車していた。

 

「ロムちゃん! ラムちゃん!」

 

「アンタ! 何やってんのよ!」

 

 ネプギアとユニが巨大カメレオンに向かって叫ぶが、その返事は長く伸びた舌による殴打だった。

 

「「きゃあああッ!?」」

 

「幼女以外に興味はない!」

 

 悲鳴を上げて地面に転がるネプギアとユニに巨大カメレオンはそう吐き捨てる。

 

「上手くいきましたね、トリック様」

 

 そばのガラの悪い下っ端が、巨大カメレオンにそう声をかけた。

 

「アックックックッ! お楽しみはこれからだ!」

 

 トリックと呼ばれた巨大カメレオンはそのまま方向転換して去ろうとする。

 

「おい、待てや!」

 

「ロムとラムに何しやがる、この変態!」

 

 そこにスキッズとマッドフラップが、異常事態を察して駆けつけた。

 スキッズが右腕、マッドフラップが左腕にブラスターを展開し、トリックと下っ端を睨みつける。

 

「テメエら、ボッコボコにしてやんよ!」

 

「俺のブラスターを舐めな!」

 

 おちゃらけた外観の二人だが、少なくとも武器は本物である。

 しかし、トリックたちは余裕の態度を崩さない。

 

「アックックックッ、重ねて言うが、幼女以外に興味はない。やれ!」

 

「おまえら、出番だ!」

 

 下っ端がそう言うと、停車していたバンとセダンがギゴガゴと音を立てて変形し、立ち上がる。

 共に歪な人型で良く似た姿をしていて、四つの赤いオプティックと牙の飛び出した顎、そして後頭部から伸びたドレットヘアーのような触手が特徴的だった。

 その姿を見て、ネプギアが声を漏らす。

 

「ディセプティコン……!?」

 

「そのとおりだYO」

 

 バンから変形したほう、肩の湾曲した大きな突起が目立つほうが答える。

 

「一応、自己紹介だZE。俺はクランクケース。そっちはクロウバーだYO」

 

 その悪魔的な容姿からは想像もつかないほど軽い調子でクランクケースが言う。

 

「ヒト呼んでドレッズとは俺たちのことだ」

 

 クロウバーと呼ばれた自身の身の丈より長いドレット触手をうねらせる方が頷く。

 

「へッ! ディセプティコンがなんだい! まとめて片付けてやるぜ!」

 

「ああ! ツインズ殺法を見せてやる!」

 

 スキッズが勇ましく武器を構え、マッドフラップがそれにならう。

 だが、その二人の後ろにいきなり黒い戦闘機が飛来したかと思うと、巨大な四足歩行の肉食獣を思わせる姿に変形して着地した。

 やはり四つのオプティックとドレットヘアーのようなパーツを備えている。

 

「そいつはハチェットだZE」

 

 クランクケースが最後の仲間を紹介する。

 双子は都合三体のディセプティコンに囲まれた形になった。

 スキッズが雄叫びを上げてクランクケースにブラスターを撃つ。

 だがクランクケースはそれより早くスキッズの近くに駆け寄り、拳をスキッズの顔面に叩き込む。

 

「ぐあああッ!?」

 

 悲鳴を上げて転がるスキッズ。

 マッドフラップが片割れを助けようとクランクケースに飛びかかろうとするが、飛び込んできたクロウバーに組み伏せられ地面に押し付けられる。

 ハチェットは何もせず唸り声を上げながら仲間二人を見守っている。

 スキッズは何とか立ち上がり反撃しようとするが、その腹にクランクケースの蹴りが食い込む。

 自らを組み伏せるクロウバーを跳ね除けようとマッドフラップはもがくが、一つ動くたびにクロウバーの拳が容赦なく顔面に浴びせられた。

 

「まるでO☆HA☆NA☆SHIにならないYO」

 

 クランクケースは冷たく言って、ヨロヨロと起き上がるスキッズに止めを刺すべく太腿から拳銃を抜く。

 

「まて」

 

 そのとき、ことを傍観していたトリックが声を出した。

 

「ロボットのリョナなど見ていても誰得だ。そんな奴らほっておいて、さっさと帰るぞ」

 

 その言葉に、クランクケースはチッと舌打ちのような音を出しつつも、黙って従い拳銃をしまう。

 

「命拾いしたな。弱っちいオートボット君たち」

 

 クロウバーは嘲笑を隠そうとせずに言うと、マッドフラップを解放する。

 マッドフラップは屈辱に顔を伏せた。

 

「アックックックッ、アックックックッ!」

 

 トリックは上機嫌で獲物であるロムとラムを抱えてその場を去る。頭の中は幼女との逢瀬でいっぱいだった。

 下っ端とドレッズもそれに続く。

 

「ロムちゃん…… ラムちゃん……」

 

 倒れ伏したネプギアが手を伸ばすが、虚しく空を切る。

 

「ちくしょう……」

 

 スキッズが拳を握りしめ声を漏らした。

 

「ちくしょぉぉぉうッッ!!」

 

 その咆哮は、誰にも届く事なく、ルウィーの冷たい空気に溶けていった。

 




そんなわけでルウィー編その一でした。
思ったより長くなったので分割。
なにはともあれ、今年もよろしくお願いいたします。

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