超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION   作:投稿参謀

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色々あって、全面改稿。


ミニシリーズ Unexpected encounter(予期せぬ出会い)
第1話 落下は伝統芸


 

 暗く淀んだ灰色の空と、荒れ果てた大地とが果てしなく続く、何処とも知れぬ場所。

 

 その地面は堅い鋼板で、転がる岩はゴツゴツとした鉄塊。

 

 吹き荒ぶ風に舞う砂埃は、微細な鉄や鉛の粒子だ。

 

 遠くに霞んで見える山々でさえ、よくよく見れば、様々な金属が幾重にも重なって形作られている。

 

 

 

 

 

 

 

 この世界の何もかもが、金属によって構成されているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 金属の荒野のど真ん中に、高い塔が建てられていた。

 無数の機械を複雑かつ精緻に組み上げられた、この塔の頂上からは計り知れないエネルギーが柱のように立ち昇っている。

 そして上空の空間にポッカリと開いた黒い穴へと、パワーを供給していた。

 

 

 突然、塔の周囲で爆発が起こり、怒号が上がった。

 

 

 幾人もの戦士達が銃や剣を手に争い合い、そのいずれもが金属の肉体を有していた。

 戦士達は二派に別れていて、片方は赤い色をした柔和そうな顔を模した紋章を体のどこかに帯び、もう一方は紫色の鋭い顔を象った紋章を刻み付けていた。

 

 四つん這いになって歩くとてつもない大怪物に、黄色い小柄な戦士が飛びつき、右腕のブラスターでゼロ距離射撃を敢行する。

 

 黒い戦士が両腕に装備した銃火器を乱射し、バイザーで眼を覆った戦士が撃ち返す。

 

 飛来した戦闘機がミサイルと機銃を眼下の敵に向けて発射し、多数の敵と多数の味方を、もろともに薙ぎ払う。

 

 突如として途方もなく長大な環形動物、あるいは大蛇を思わせる機械が鋼板の地面を突き破って出現したかと思うと、その大口で敵を飲み込んでいく。

 

 双子と思しきオレンジとグリーンの戦士が砲火の中を逃げ惑う。

 

 実弾と光弾、ミサイルが飛び交い、爆音が辺りを支配する。

 

 阿鼻叫喚。まさしく、その言葉がふさわしい戦場だ。

 

 その地獄絵図の真ん中で、大柄な赤と青の体色の戦士と、さらに大柄な灰銀色の戦士が一騎打ちを繰り広げていた。

 赤と青の戦士が剣を振るえば、灰銀の戦士が砲を撃つ。

 二体の戦いは正に死闘と言って良い激しさで、両者の間に浅からぬ因縁があるのは明らかだった。

 

 しかし突如として上空で起こった轟音と大気を震わす衝撃に、赤青の戦士も、灰銀の戦士も、戦場にいた全ての者達が空を見上げた。

 

 塔の頂上から発せられる光が脈打つように不安定に揺らいでいる。

 

 それと同時に中空に開いた黒い穴から凄まじい引力の渦が発生した。

 

 戦場で戦い合っていた戦士達も、

 

 ブースターを全力で吹かして引力から逃れようともがく戦闘機も、

 

 戦士たちが問題にならないほどの巨体を持つ四足の大怪物や環形動物型の機械さえも、

 

 抗うことさえできずに引力の渦に飲み込まれ、黒い穴へと吸い込まれていく。

 

 それはもちろん、あの赤青の戦士と、灰銀の戦士も例外ではない。

 

 二体の戦士は空中に浮かび上がりながらも、恐るべき執念で相手を倒そうと武器を展開する。

 

 しかしそれは功を奏すことはなかった。

 

 二者は渦巻くエネルギーに翻弄されて、組み付き合いながら空中に開いた穴へと消えていった。

 

 全ての戦士たちが穴に飲み込まれると同時に塔は大爆発をおこし、それと同時に穴も消えていく。

 

 爆発が治まった時、空間に開いた穴は完全に消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後に残されたのは戦いの跡と静寂だけだった。

 

  *  *  *

 

 

「ゲイムギョウ界に遍く生を受けし皆さん」

 

 女神と呼ばれる超常の存在によって統治される神秘の世界、ゲイムギョウ界。

 そこに存在する四つの国の一つ、紫の国プラネテューヌ。

 その中枢であるプラネタワーの前庭にて、大々的な式典が行われていた。

 折しも空は青く澄み渡り、風は優しく吹き抜け、この式典を祝福しているかのようだった。

 

「新しき時代に、その第一歩を記すこの日を、皆さんとともに迎えられることを喜びたいと思います」

 

 濃紫のドレスを着て長い紫の髪を二つに分けて三つ編みにした、妙齢の凛とした美女が言葉を続けながら歩き出す。

 

「ご承知の通り、近年、世界から争いの絶えることはありませんでした」

 

 女神は人々の信仰をシェアエナジーと呼ばれる力として得ることで、絶大な力を振るう。

 

 シェアこそ女神の力、シェアこそ国力。

 

 故にゲイムギョウ界の歴史はシェアの奪い合いの歴史と言っていい。

 

 だが、それも今日までだ。

 

「女神ブラックハートの治める、ラステイション」

 

 黒いドレスに銀色の髪を長く伸ばした、勝気そうな女性が一歩前に進み出る。

 

「女神ホワイトハートの治める、ルウィー」

 

 白いドレスに水色の短い髪の、あどけない面立ちの少女が歩き出す。

 

「女神グリーンハートの治める、リーンボックス」

 

 緑のドレスに薄緑の長髪を頭の後ろで結った、穏やかな雰囲気の美女が微笑む。

 

「そして私、女神パープルハートの治める、プラネテューヌ」

 

 そして最後に紫の美女、パープルハートが歩みを止める。

 四人の女性たちは、いずれも並はずれた……ある意味、人間離れしたと形容してもいい美貌を持っていた。

 

「四つの国が、国力の源であるシェアエナジーを競い、時には女神同士が戦って奪い合うことさえしてきた歴史は、過去のものとなります」

 

 その言葉とともに四人の女性の足元に光る足場が出現し、それに持ち上げられて、四人は宙へと浮かんでいく。

 

「本日結ばれる友好条約で、武力によるシェアの奪い合いは禁じられます。

これからは、国をより良くすることでシェアエナジーを増加させ、世界全体の発展に繋げていくのです」

 

 やがて足場の上昇が止まり、四人の女性……女神たちが空中へと踏み出すと、その足元に新たな足場が出現する。

 そうして、四人は歩み寄っていく。

 やがてそれぞれが触れ合えるほどの距離に近づくと、お互いに手を合わせて輪を作った。

 

 そして、四人同時に宣誓する。

 

『私たちは、過去を乗り越え、希望溢れる世界を創ることをここに誓います』

 

 こうして、四つの国による友好条約は締結され、平和が訪れたのである。

 

 四人の女神はお互いに微笑みあい、周辺には花火が撃ち上がり、盛大な拍手と歓声があたりを包む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――ああああ

 

 

「……?」

 

 上から何か聞こえた気がして紫の女神パープルハートは空を見上げる。

 

「ちょっと、ネプテューヌ?」

「大事な場面だぞ」

「どうしましたの?」

 

 黒、白、緑の女神たちが口々にそれを咎める。

 しかし紫の女神は空を仰いだまま口をポカンと開けて固まっていた。

 その姿に他の女神たちも、同じように上を見る。

 

 ――ほああぁぁぁぁぁッ!!

 

『ええッ!?』

 

 何と、はるか上空から巨大な何かが叫び声を上げながら落ちてくるではないか。

 間一髪、生来の飛行能力によってそれを避ける女神たちだが、その物体はそのまま地上へと落下していく。

 

「ッ! みんな逃げて!」

 

 正気に戻ったパープルハートが声を上げる。

 言われるまでも無く下にいた者たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

 

 そして……。

 

「ほわあああぁぁぁぁぁッ!!」

 

 それは轟音と土煙をたてて、地面に激突した。

 

「みんな! 大丈夫!?」

 

 パープルハートを始めとした女神たちは慌てて自分の国民の下へと飛んでゆく。

 

「……はい大丈夫です。怪我人とかはいないようです」

 

 人混みの中から本に乗った小さな妖精のような少女が飛び出してきて、パープルハートに報告する。

 

 彼女はイストワール。

 

 プラネテューヌにおいて、実質的に国を統治する『教会』の責任者『教祖』であり、パープルハートの補佐だ。

 他の見知った顔も大事はなかったらしく、声をかけ合い、助け起こしあっている。

 ホッと息を吐くパープルハート。

 見回せば、他の女神たちもそれぞれの国の教祖と話している。

 騒ぐ様子がない所を見ると、他の国の人々にも大した被害は出なかったらしい。

 

 ならばやることは一つと、式典会場のちょうど中央に出来た大きなクレーターに近づいていく。

 その手の中には、大振りの太刀が出現していた。

 

 立ち込めていた土煙が晴れていく。

 

 そしてそこにいたのは……

 

「ろ、ロボット?」

 

 クレーターの中央、そこには大きな人型のロボットが仰向けに倒れていた。

 赤と青で鮮烈に色づけされた目算10m近くはある無骨な体躯は落下の衝撃によるものか、あちこち凹み傷だらけだ。

 

「壊れているのかしら?」

 

 パープルハートはその異様な姿にも臆することなく近づき、ロボットの顔に当たる部分を覗き込む。

その顔は精悍な男性を思わせる造形で目は閉じられていた。

 

「…………」

 

 パープルハートは慎重にロボットの顔の、人間で言えば右頬に当たる部分に触れる。

 すると突然、ロボットの目がカッと開きパープルハートの方に向けられた。

 

「#$%&*※!?」

 

 その口から出てきたのはパープルハートのまったく知らない言語だ。

 しかし、落下によるダメージが大きすぎるのか、動くことはできず体のあちこちがギシギシと軋み火花が散っている。

 驚いて手を引っ込めたパープルハートは、しかしその目を覗き込む。

 青い色の機械的な、しかし確かな意思と知性を感じさせる目だった。

 

 その淡青に光る目には、酷く驚いたような色があった。

 

「落ち着いてちょうだい。私はパープルハート……ネプテューヌとも、呼ばれているわ。あなたは誰なの?」

 

 だからだろうか、こんなことをパープルハート……またの名をネプテューヌが言ったのは。

 普通に考えれば、ロボットにこんなことを聞くのはおかしなことだ。

 しかし、なぜだかネプテューヌはそんな自分の行動に微塵も疑問を感じていなかった。

 

「…………」

 

 ロボットはジッとネプテューヌのほうに視線を向けたまま沈黙する。

 ここにきてネプテューヌは自分の言葉が相手に通じているのか不安になるが、しばらくしてロボットは口を開いた。

 

「私は……」

 

 それは、ネプテューヌにも分かる言語だった。

 深みを帯びた、壮年の男性を思わせる声だ。

 

「オプティマス・プライム」

 

 それだけ言うとロボット……オプティマス・プライムは眠るように目を閉じた。

 

  *  *  *

 

 こうして、異なる二つの世界に生まれた存在が巡り合った。

 

 女神達の治めるゲイムギョウ界に、戦うために生まれたと称される金属の戦士達がやって来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……そう、戦士『たち』がやって来たのだ。

 

  *  *  *

 

 プラネテューヌ近郊の山道を一人の女性が歩いていた。

 長い薄青の髪に角縁眼鏡、そして頭の左側にある角のような飾りが特徴的な、そこそこの美人と言っていい容貌の女性だ。

 だが、その表情は底なしに暗い。

 

「ああ、今日もうまくいかなかった……」

 

 彼女は名をキセイジョウ・レイといい、女神を必要としない社会を創るべく市民活動をしている。

 しかしながら、その成果は芳しくない。

 今日もわざわざ山向こうの集落まで出向いて女神が不必要であると説いたのに、半ば追い返されるような目にあった。

 その上、財布をなくしてしまい交通機関を利用することもできず、こうして歩いて帰ることになってしまったのだ。

 

「ついてないなぁ。はあ……幸運とか落ちてないかなぁ……うわあッ!!」

 

 ブツブツと独り言を言いながら歩いていると、突然道が途切れ、地面が陥没して大きなすり鉢状の穴になっていた。

 まるで何かが落ちてきて出来たクレーターのようだ。

 

「な、なにこれ……きゃあッ!」

 

 その穴を覗き込んでいたレイは、足を滑らして穴の底へと転がり落ちていく。

 

「うごッ、がはッ、ぐえッ!」

 

 転がり落ちて、穴の底の何か硬い物にぶつかり止まった。

 金属質の音があたりに響く。

 

「いたたた……。グスッ、どうして私ばっかりこんな目に……」

 

 涙目になりながら、それでも怪我をした様子もなく立ち上がり、衣服についた土をはらう。

 さて、どうやって上に戻ろうかと考えていると……。

 

「ググググ……」

 

 唸り声が聞こえた。

 地獄から響いてくるかのような、本能的な恐怖を感じさせる声だ。

 もちろんレイのものではない。

 恐る恐る、声の聞こえた方へと視線を向ける。

 背筋は凍りつき、心臓が早鐘のように鳴るのを感じながらも、見ずにはいられなかった。

 

 そこには何か、巨大な灰銀色の物体があった。

 

 レイがぶつかったのはこれだろう。

 よくよく見れば、それは人型をした巨大なロボットが蹲っている姿だった。

 傷だらけではあるものの、攻撃的な意趣に包まれた巨躯は見る者を畏怖させるには十分だ。

 

 瞬間、レイはロボットと目が合ってしまった。

 

 悪鬼羅刹を思わせる恐ろしい顔の、見開かれた目は赤く輝き、底知れない怒りと憎しみに満ちていた。

 

 体の芯までも凍りつきそうな恐怖に、レイの意識が遠のいていく。

 

 だと言うのに、レイはロボットの目から視線を外すことができなかった。

 

 その真紅に燃える目には、酷く驚いたような色があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 意識を失う寸前にレイが見たのは、自分に向かって伸ばされる金属の手だった。

 

 




TF的お約束その1 司令官は落ちるもの。

懲りずに始めたこの作品。
拙作ですがお付き合いいただければ幸いです。

2015年12月11日、全面改稿。

前のほうがいいなら、元に戻します。

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