超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION   作:投稿参謀

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第172話 鋼鉄の勇者たち

 プラネテューヌ首都で行われている戦闘は、ついに最終局面を迎えようとしていた。

 

 行く手を阻むは、ザ・フォールンに組みする狂信者たちと、ゾンビと化したディセプティコン。

 立ち向かうは、オートボット、女神、人間、そしてディセプティコンの大連合軍だ。

 

 恐れることなど、あるものか。

 

「レイシーズダンス!! アイアンハイド! しっかりついてきなさい!!」

「無茶はすんなよ、ノワール!!」

 

 アームキャノン、アームブラスター、さらに胸のガトリングキャノン、右足のミサイル。

 コズミックルストによって死にかけるも、新たな姿となって甦ったアイアンハイドの全身から放たれる砲撃の嵐の中を女神化したノワールが飛び回り、自慢の剣技で次々とゾンビディセプティコンの身体を切り裂いていく。

 

 凄まじい密度の砲撃は、しかしノワールの身体には掠りもしない。

 

 最初は、お互いに反目し合っていた。

 しかしノワールはアイアンハイドの優しさを知り、アイアンハイドはノワールの不器用ながらも信念のある所を知り、様々な出来事を経て、お互いに父娘と思うようになっていた。

 

 黒い女神と黒いオートボットの剣戟と砲撃のダンスは、終わらない。

 

 

 

 

 若き戦士サイドスワイプは、タイヤになっている足を最大限回転させて、両腕のブレードで鈍間なゾンビを斬り捨てていく。

 その動きに迷いも、躊躇いもアリはしない。

 それどころか、回避や防御しようという気配すらない。

 

 後ろから迫るゾンビの爪先も、狂信者の武器も、サイドスワイプには届かない。

 後方から飛来した光弾が、正確に敵を撃ち抜きそれを許さない。

 

「スワイプ! 後ろがお留守よ!」

「俺の背中はユニが守ってくれてるからな!!」

 

 姉と師、憧れる相手に認められることを願う二人は、似た者同士だ。

 サイドスワイプは、いつしかそこにユニの信頼を勝ち取ることが目的として加わった。

 ユニは、自分を支えてくれる戦士に惹かれていった。

 

 愛する女神の援護を受ける戦士の走りに、一切の迷いなし。

 愛する戦士を援護する女神の弾道に、一切のブレなし。

 

 

 

 

 咆哮を上げ、デバステーターはゾンビの群れを踏み潰す。

 その身に流れ込んでくるのは、共に働いた仲間たちのシェアエナジーだ。

 足元では、レッカーズが各々の武器を手に戦っていた。

 

「まさか、ディセプティコンと共同戦線張ることになるとはな!」

「ハッ! まったく奇妙なもんだぜ!!」

 

 凶悪な形状のビーム砲を乱射しながらぼやくロードバスターに、ガトリング砲を撃つレッドフットが楽しそうに答える。

 

「だが、悪くない」

「ああ、そうだな。……今の誰だ?」

 

 聞きなれない声に当たりを見回すロードバスターだが、レッドフットは首を横に振る。

 

「俺だ」

「トップスピン?」

「お前……喋れたのか」

 

 声は隣で二丁のブラスターで戦っている青いレッカーズから聞こえた。

 戦闘中にも関わらず、クロスヘアーズとレッドフットは茫然としてしまう。

 そんなレッカーズを放っておいてデバステイターが空を見上げれば、オメガ・スプリームの宿るザンディウム号が、周囲の艦に砲撃している。

 

『コンストラクティコン。色々あったが、共に戦えて、嬉しい』

 

 オメガ・スプリームからの通信に、デバステーターはもう一度、咆哮を上げる。

 それは喜びに満ちたものだった。

 

 

 

 

「ゲッターラヴィーネ!!」

 

 ブランの大斧が、ディセプティコンを両断しようと襲い掛かる。

 緩慢な動きのゾンビはともかく、狂信者はその大振りな攻撃を悠々躱し、白い女神の小柄な身体を引き裂こうとする。

 だが、その瞬間には狂信者の首が身体から離れて宙を舞い、ステルスクロークを解いたミラージュが真紅の体を現す。

 

 すぐさま、他の狂信者がミラージュを狙うが……。

 

「テンツェリントランペ!!」

 

 自分から意識が逸れた隙を突いて、ブランが横薙ぎの一閃でまとめて吹き飛ばす。

 それでもゾンビは次から次へと湧いてくる。

 

「ヘッ! 数だけは多いな!」

「問題ない。お前と、俺ならな」

 

 白い女神と真紅のオートボットが歩調を合わせる限り、恐れる者などあるものか。

 

 

 

 

 一際大きなディセプティコンが、戦場で暴れていた。

 短い腕と細長い足で四足歩行し、胴体に砲を備えたデフコンと呼ばれるそのディセプティコンは、ザ・フォールンへの忠誠のためと言うよりは、闘争本能のままに暴れていた。

 

『アイス、サンクチュアリ!!』

 

 しかし幼い声が二つ重なって聞こえるやデフコンの体が凍結する。

 白い女神候補生、ロムとラムだ。

 

「スキッズ、やっちゃって!」

「マッドフラップ、まかせたよ!」

「応よ!」

「まかせろ、まかせろ!」

 

 双子女神の声に合わせ、物陰に隠れていたスキッズ、ステルスクロークで姿を消していたマッドフラップが飛び出し、互いの右腕と左腕を交差させて合体させる。

 

『くらえ!!』

 

 すかさず合体砲を発射。

 凍結して体が脆くなっていたデフコンは、粉々に粉砕された。

 

 オートボットの双子は、女神の双子を守るために強くなれた。

 女神の双子は、オートボットの双子が共にいてくれたから強くなれた。

 

 二人なら一人で出来ないことも出来る。まして四人なら、怖い物ナシだ!

 

 

 

 

「ふん、本当に強くなったものだ……」

 

 双子二組の奮戦に、ブラックアウトはプラズマキャノンで敵を一掃しながら感慨深げに呟く。

 敵同士だったとはいえ、若者が成長する姿は胸を打つ。

 

「兄者、油断するな」

「フッ、分かっている」

 

 義弟グラインダーに背を任せ、ブラックアウトは主君のために戦い続ける。

 

 

 

 

 ゾンビの群れの中を踊るように進む影二つ。

 一つは緑、もう一つは銀。

 

「ひゅう! ベール、君のダンスは相変わらず最高だ!」

「ええ、ジャズ! 貴方とのペアですもの!」

 

 さあ、ステップを踏もう。リズムに乗ろう。

 ペースを上げて、息を合せよう。

 

 華麗に舞う二人の通り過ぎた後には、狂信者もゾンビも倒れ伏すのみ。

 

 探り合う仲から、呉越同舟の共犯者へ。

 共犯者から、信頼のおける仲間へ。

 仲間から、愛し合う恋人へ。

 

 緑の女神と銀のオートボットの舞は、続いていく。

 

 

 

 

 ゾンビたちの上に、砲弾の雨が降る。

 主砲の弾、迫撃砲の弾、機銃弾、ミサイル。

 有り得ないほどの火力は、遮蔽物ごと敵を消し飛ばす。

 

「はっはっは! やっぱりこうじゃなきゃな!! さあ、前進だ!!」

 

 豪快に、それでいて味方に被害が出ないように全身の銃火器を発射していたブロウルは、戦車の姿に変形して味方の盾となって進む。

 

 その砲塔には、幸運のクマちゃんが微笑んでいた。

 

 

 

 

「さあて、検体になりたいのはどいつかね!?」

 

 ラチェットの回転カッターが唸りを上げ、不死身のゾンビの身体の重要な部分を的確に切り刻んでいく。

 いかなゾンビと言えど、人間で言えば全身の神経や腱に当たる箇所を破壊されては動くことが出来ない。

 他の戦士では易々と真似できない、医者である彼ならではの戦い方だ。

 

「さあ、コンパ君! 早いトコ、ケリを着けるぞ! なにせこの後には仕事が山積みだからね!!」

「はいです! みなさんを治すのが、わたしたちの本当のお仕事ですぅ!」

 

 ラチェットにも、それを援護するコンパにも、もはや敵のことなど眼中にない。

 二人が考えているのは、少しでも多くの者を治療する算段だった。

 

「ジョルト、お前も頼りにしてるぞ」

『了解! へへへ』

「何を笑っているんだね?」

『いや、やっと頼ってくれたなあって思って!』

「いつでも頼りにしてるさ!」

 

 弟子と連絡を取りながら勝気に笑むラチェットに、コンパも笑みを大きくする。

 

 医療従事者の道に、果ては無し。

 

 

 

 ボーンクラッシャーは、自分の同型と殴り合い続けていた。

 

「I hate you!!」

「だから、俺は別に嫌いじゃないって」

 

 同型同士、パワーもスピードもタフネスも全くの互角。

 しかして、戦い方は微妙に異なる。

 同型がテクニックもなく只々我武者羅に殴りかかってくるのに対し、ボーンクラッシャーは的確に防御し、時にフェイントを入れ、時にカウンターを繰り出し、確実に相手の体力を削っていく。

 

「Die! Die! Diiiieee!!」

「……お前と俺、何が違ったんだろうな?」

 

 殴り合いながら、ボーンクラッシャーは一人ごちる。

 同じ姿形のディセプティコンでありながら、同じ方向性なき破壊衝動を抱えた身でありなあがら、何が自分たちを分けたのか?

 

「ああ、そうだな。俺は『出会えた』お前は『出会えなかった』。それだけなんだろうな?」

「What`s!?」

 

 掴み掛かってくる同型の手を受け止め、四つに組み合う。

 同型は背中の腕を伸ばそうとするが、ボーンクラッシャーの方が一瞬早く同じ動作をした。

 腕の先の爪が、同型の頭部をしっかりと掴む。

 

「!? Stop it……GYAaaaaa!!」

 

 そのまま三本目の腕を体ごと思い切り引く。

 同型の首は胴体から引っこ抜かれて、地面に崩れ落ちた。

 

「次生まれてくるときは、お前も出会えるといいな」

 

 あの女神や雛たちと出会えなかった自分のIF(もしも)を前に、ボーンクラッシャーは呟くのだった。

 

 

 

 

 バイクの姿のアーシーは、アイエフを乗せ戦場を駆ける。

 ゾンビや狂信者に果敢にパルスライフルを撃ち続けていたアイエフだが、ついに弾が尽きた。

 

「弾切れね。どうするアイエフ? 引っ込んどく?」

「まさか! ネプ子が頑張って私がサボるなんて、あべこべでしょう!」

 

 しかし、二人とも動じない。

 アイエフはアーシーから飛び降りると両腕に愛用のカタールを召喚、装着し、アーシーも変形してエナジーボウを構える。

 

「それじゃあ、お仕置きの時間といきましょう!」

「ええ、今日は特に厳しくいくわよ!! ……烈火死霊斬!!」

 

 女傑二人の気迫は、狂信者や感情などないはずのゾンビさえ怯ませるのだった。

 

 

 

 

 バリケードはナイフを振り回すマインドワイプを相手にしていた。

 マインドワイプは不気味な声で囁くようにして言う。

 

「キキキ、勝てると思っているのか? ザ・フォールンに」

「さあてな」

「お前は俺と同じだ。トップが誰だろうと、どうでもいいんだ。なのに、何故戦う?」

 

 日和見者であるバリケードが戦う理由が分からず、マインドワイプは首を傾げる。

 ディセプティコンにとって、メガトロンをも超えて絶対的な存在であるザ・フォールンへの反逆。

 それも、ようするにたった一人の有機生命体の女を助けるため、そして餓鬼どものためなのだ。

 狂ってるとしか思えない。

 

「確かにな。マトモじゃない。だが、それでもいい! そう思える程度には、俺も女と餓鬼どもが好きらしい!」

「キキキ、理解できねえな! 喰らえ!」

「ッ!」

 

 超音波を発生させてバリケードに隙を作り、そのままナイフで胸を抉ろうとするマインドワイプ。

 しかし、バリケードは怯むことなくレッキングクローを振り抜く。

 鋭い爪の先端が、マインドワイプの胸板を貫いた。

 

「!? な、何故……!」

「お前の超音波なんぞ、餓鬼どもの泣き声に比べれば子守唄みたいなもんだ」

 

 最後まで理解できないという顔のまま、マインドワイプは地面に倒れて動かなくなった。

 バリケードはすでに倒した敵に興味を失い、次の敵に向かっていくのだった。

 

 

 

 

 襲い掛かる狂信者の腕を捩じり、後ろから襲い掛かろうとするゾンビの頭を振りかえることなくブラスターで撃ち抜いて、ロックダウンは排気する。

 

 まったく奇妙なことになったものだ。

 こいつは明らかに賞金稼ぎの領分を超えている。

 

 ……まあいいさ。

 

 あの女神が何処までやれるか、見届けてやるとしよう。

 

 

 

 

「ビー! 行くよ!! M.P.B.L!!」

「『もちろんさあ!!』」

 

 ネプギアの銃剣からのビームがゾンビを穿ち、バンブルビーが大柄な狂信者の背中に組み付き、ゼロ距離からブラスター射撃をお見舞いする。

 

 ときに姉と弟にも例えられる二人の息は変わらずピッタリだ。

 

「こんなトコでは負けられません!! ……だって、まだトランスフォーマーの分解調査をしてないもん!」

「!? 『まだ諦めてなかったの!?』『身の危険を感じる……!』」

 

 ビカビカと目を危険に光らせるネプギアに、何か封印した記憶の底をほじくり返されたような気がして身を震わせるバンブルビーだった。

 

 

 

 

「もう、ネプギアは相変わらずですね」

 

 スティンガーは粒子変形を繰り返し、敵の攻撃を躱しながら戦い続けていた。

 しかし後ろに回り込んだ狂信者が、ブラスターでスティンガーの頭を狙い撃とうとする。

 トリガーが引かれる一瞬前、真下の地面を突き破って現れた二本のドリルが狂信者の体を粉々に砕く。

 二連ドリルのドリルタンクは、地上に完全に現れるや粒子変形して二つの頭のそれぞれに単眼を備えた紫の人造トランスフォーマーの姿になる。

 振り返ったスティンガーはバトルマスクの下で目を丸くした。

 エディンとの戦い以降、トゥーヘッドは拘束されていたはずなのだ。

 

「トゥーヘッド? 何故ここに?」

「拘束なら、イストワールが解いてくれたぞ。……まあ、なんだ、やはり奴らのことは許せなくてな」

 

 照れくさげなトゥーヘッドに、スティンガーは嬉しくなる。

 友と一緒に戦えるのだ。嬉しくないワケがない。

 

 

 

 

 プルルートとショックウェーブは背中合わせに大量のゾンビを迎え撃っていた。

 粒子波動砲から放たれたエネルギー弾が分裂して敵に降り注ぎ、雷を纏った蛇腹剣が打ち据える。

 

「もう、ゾンビは痛みを感じないみたいだからぁ、物足りないわぁ」

「痛みは肉体のダメージを測る信号だ。それを失っているというのは、論理的ではないな」

 

 軽い調子で声を出す二人。戦場だというのに、まるで日常の一幕とでも言わんばかりの気楽さだ。

 そもそもからして一人でもずば抜けた強さを持つ二人が共に戦っているのだから、その相乗効果たるや押して知るべし。

 

「そうだプルルート。少しいいかね?」

「何かしらぁ、ショッ君?」

「あれから、私の君に対する感情について、論理的かつ多角的に思考し、一つの仮説に行き当たった。私は君に、愛を抱いているらしい」

「………………ほえ?」

 

 ショックウェーブの言葉が理解できず、プルルートは思わず呆ける。

 敵を的確に狙い撃ちながら、科学参謀は常と変わらぬ平静な声で続けた。

 

「ヒトの言う愛には、好意、関心、献身、敬意の要素が必要だが、私は君に対し好意、関心、そして敬意を抱いている。このことから75%の確立で君に対する感情は愛であると言える」

「ふえ、ふええええ!?」

 

 目を丸くしたプルルートは、次いで顔を赤くする。

 

「もちろん、これは仮説に過ぎないので、実践を通しての実証が必要だ。というワケで、交際してほしい」

「ちょ、ちょっと待って! アタシ、男の人にそういうこと言われるの初めてで……」

 

 妖艶な女神態のまま赤面している姿は、小娘のように初々しい。

 なんせ、この女神に告白してくる勇敢な男はいなかったのだ。

 普段はギリギリの発言を繰り返す菖蒲色の女神は、実際のところ免疫がまるでなかった。

 

「ふむ、返答は後で聞きたい。色よい返事を期待している」

「ふ、ふぁい……」

 

 そんな甘酸っぱい(?)空気を醸し出している間にも、敵を痛めつける手を休めないあたりが、この二人のこの二人たる所以であった。

 

 

 

 

 戦闘機の姿で空を行くスタースクリームは次々へと敵戦闘艇を落とし、戦艦のブリッジにミサイルを叩き込み、地上の味方を援護すべく爆撃を敢行する。

 

「ヒュウ! スタースクリームの奴、さらに腕が上がってねえか?」

「ああ、驚くべき技のキレだ」

 

 その後ろに付くスカイワープとサンダークラッカーも、その飛行技術に舌を巻く。

 

「無駄口叩いてんじゃねえ!」

「カッカッカ! 相変わらずいい飛びっぷりだな、相棒!!」

「ッ! ジェットファイアか!」

 

 ピシャリと部下たちを諌めるスタースクリームの横に、黒い高高度偵察機が並ぶ。

 驚くべきことに、その『黒い鳥』と呼ばれる偵察機はスタースクリームの動きにピッタリ付いてくる。

 

「アンタも相変わらずの腕のようだな。錆びてなくて安心したぜ!」

「まだまだ若いもんには負けん!」

 

 まるで無二の親友のように軽口を叩き合いながら、競うように敵を叩き落としていく。

 

「それで、ピーシェんとこにはいかないのか?」

「もう少し後でな」

 

 センサーで下を見れば、ピーシェがゾンビ相手に暴れ回っている。

 よくよく見れば、瓦礫の陰に隠れてホィーリーもいる。

 こちらに気が付いたのか、ピーシェが手を大きく振ってくる。

 それに機体を揺らして答え、スタースクリームはさらに加速する。

 

 ヒーローたる者、応援には応えなければならない。

 

 

 

 

 グリムロックは、依然スモルダーと取っ組み合っていた。

 他のダイノボットたちはゾンビを蹴散らしている。

 

「ぐるるぅ! 我、グリムロック! この世界、護るため、負けはしない!!」

「守るだぁ?」

 

 スモルダーは合体形態のまま顔に嘲笑を浮かべた。

 

火火火(ヒヒヒ)! そんなことしてどうする? 命なんざ、世界なんざ、燃えちまえばそれで終わりよ!!」

 

 破壊を愛する放火魔のスモルダーに、グリムロックの言い分は理解できないようだ。

 しかしスモルダーの言い分こそ、グリムロックには決して受け入れられない。

 

「それでも、護る! 姫様たちと約束した!」

 

 誰よりも敬愛し、誰よりも大切な、二人の姫との約束は、ダイノボットたちにとって何にも優先される。

 大怪力で一瞬スモルダーを弾き飛ばし、グリムロックは瞬時に暴君竜の姿に変形し、スモルダーの首筋に噛みつく。

 

「グッ!?」

「お前が燃えろ!!」

()げえああああ!!」

 

 そのまま口から轟炎を吐いて傷口に流し込んだ。

 体内から焼かれたスモルダーは悲鳴を上げるが、やがてそれも消えていった。

 焼け焦げた金属の塊となったスモルダーをペッと捨て、グリムロックは大きく咆哮するのだった。

 

 姫との思い出は、獣を騎士へと変えた。

 いかなる神も悠久の時間も、騎士を獣に戻すことはできない。

 

 

 

「ほい、軌道計算完了」

「ほい、ありがとさん」

 

 超音波砲の操縦席に座っているホイルジャックは同じく乗り込んでいるブレインズの報告を受けて砲塔を操作する。

 

「それじゃあ、ポチッとな!」

 

 上手く行ってくれよと祈りながらスイッチを押せば、パラボラから集束された超音波が発せられ空中神殿周囲に張り巡らされたフォースバリアを相殺した……。

 

 

 

 

 アリスは空中神殿を見上げ、その周囲の空域で壮絶な戦いを繰り広げるメガトロンを目で追った。

 

「ん、やっぱりそういうことよね」

 

 自分ではなくレイなる女神がメガトロンの傍にいるということは、あのメガトロンがあの女神を救出に動いたということは、つまり『そういうこと』なのだろう。

 失恋のそれに近い苦い痛みを胸に感じつつも、それを吹っ切るためにインカム型通信機に向かって吼える。

 

「サイドウェイズ!! フォースバリアが消えたわ! ぶちかましてやりなさい!! 美味しいトコなんだから、外さないでよ!」

『オーライ! 任せとけ!』

 

 威勢のいい返事と共にレールガンから弾丸が発射され、真っ直ぐ空中神殿の下部、シェアハーヴェスターに命中して爆発を起こす。

 ゲイムギョウ界からシェアエナジーを奪い続け、女神たちを危機に追い込んできた装置は、ついに爆散したのだった……。

 

 

 

 

「シェアハーヴェスターが……馬鹿な!」

 

 崩れ落ちる装置を見上げ、ドリフトと切り結んでいたブラジオンは愕然と声を上げる。

 それでも、むざむざ斬られるような隙は作らない。

 

「これまでだ、ブラジオン! もはや貴様らに勝ち目はない!」

 

 ドリフトは凄まじい速度で両手に持った刀を振るうが、ブラジオンも長刀と小太刀で応戦を続ける。

 やがて勝負は鍔迫り合いになるも、お互いに一歩も引かない。

 

「ブラジオン! 貴様ほどの武人が、仲間を犠牲にし死者を冒涜するような輩にいつまで組みする!」

「それでも! あの方は我らが父祖! 生まれは変えることは出来ぬ!」

「……分からず屋め!」

 

 一旦距離を取り、ブラジオンは小太刀を捨てて長刀を正眼に構える。

 対しドリフトもそれに倣うかのように一刀を手放し、両手で一刀を握って動きを止める。

 戦場のド真ん中だというのに、微動だにしなくなった両者だが、互いに殺気だけが際限なく高まっていく。

 そして……。

 

「!」

「奥義! 疾駆斬(ブレイド・ダッシュ)!!」

 

 一瞬にして、二つの影が交差する。

 両者は少しの間、得物を振り抜いた姿勢のまま静止していた。

 だが、ドリフトがふら付いて地面に膝を突く。

 

「フッ……」

 

 ニヤリと髑髏顔に笑みを浮かべるブラジオンだが、その身体には斜めに大きな傷がついていた。

 

「見事……しかしドリフトよ、お前もいずれ、ディセプティコンの業に行き当たろう……。メタリカトーは、死ぬことと見つけたり……!」

 

 ゆっくりとブラジオンが前のめりに地面に倒れ、二度と起き上がることはなかった。

 ドリフトは深く排気し、刀を杖代わりに立ち上がる。

 

「…………だとしても、我が魂はオプティマス・プライムと共に在り」

 

 静かに呟き、ドリフトは次に敵に向かって歩いていった。

 己の血は変えられぬとしても、魂は変えられると信じて。

 




明けまして、おめでとうございます。2018年もよろしくお願いします。

蛇足でも、間延びしても、それでも入れたかったこの展開(二回目)
最後なだけに次々退場していく敵キャラたち。
デフコンは、散々待たせたあげくにこんな出番でごめんなさい。

……ここまで出番のないドレッズと無念三兄弟は他のトコで仕事してます。

そして次回は、それぞれの最終決戦、メガトロン編。

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