超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION   作:投稿参謀

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今年最後の投稿になります。
ギリギリ年内に間に合いました。



第17話 グータラもほどほどに

 四か国による友好条約が結ばれて一か月が経った。

 同時にそれは、トランスフォーマーたちがゲイムギョウ界に現れてから一か月が経過したと言うことだ。

 突然のファーストコンタクトに始まり、ディセプティコンの出現と宣戦布告、そしてオートボットと女神による同盟の締結、激しい戦闘。

 ゲイムギョウ界は今まさに、革新の時代を迎えようとしていた。

 

 そんな中、オートボットと女神の同盟、その立役者とも言うべきプラネテューヌの女神、我らがネプテューヌはと言うと……

 

  *  *  *

 

「ネプテューヌさーん! 全然女神のお仕事、してないじゃないですか!」

 

 イストワールの声がプラネタワーの女神の私室にコダマする。

 

「高速ジャーンプ! ああ! ムキー!」

 

 一方当のネプテューヌは寝っ転がってゲームのコントローラーを握り、画面の中のキャラの動きに一喜一憂していた。

 

「聞いてるんですか!」

 

 声を荒げるイストワールだが、ネプテューヌは悪びれずに笑う。

 

「ん~…… いわゆる一つの平和ボケ? ほら、最近はディセプティコンも姿を見せないし」

 

 ネプテューヌのその態度にイストワールは厳しい顔になる。

 

「ネプテューヌさん! 平和だからこそ、女神にはいろいろお仕事が……」

 

「お姉ちゃーん! お茶入ったよー」

 

 そこへ呑気な声が聞こえてきた。

 ネプテューヌの妹、プラネテューヌの女神候補生ネプギアである。

 

「ネプギア、サンキュー! 対戦プレイやろっか?」

 

「うん!」

 

 お茶を運んできたネプギアを、ネプテューヌがゲームに誘い、ネプギアもそれに乗る。

 普通なら微笑ましい姉妹の会話である。

 だが、彼女たちは女神と女神候補生、責任と仕事のある身なのである。

 

「ネプギアさんまで……」

 

 イストワールの怒りが頂点を迎える。

 

「いいかげんに、してくださあああいッ!!」

 

 そう叫び、ゲーム機のコードを引っ張り、コンセントから電源アダプターを無理やり引き抜いた。

 

「ねぷう!? それだめって説明書に書いてあるのに!」

 

 ネプテューヌも叫ぶが、イストワールはそれどころではなかった。電源コードを引き抜いた勢いで、逆に電源アダプターの重量と遠心力に振り回されている。

 

『ネプテューヌ、イストワール、今度の仕事についてちょっと話があるんだが……』

 

 そこへ部屋の隅に置いてあった、金属の球体に人工衛星のソーラーパネルのような翼と、下部にカメラを付けた物体が空中に浮かび上がり、それから深く渋いオプティマス・プライムの声が聞こえてきた。

 

「あ、オプっち! 危なーい!」

 

 その瞬間、イストワールの振り回していた電源アダプターが、球体に激突する。

 

『ん? ほわあああッ!』

 

 球体は大きく弾き飛ばされ、壁に激突し、煙を上げて動かなくなった。

 

「あ~あ……」

 

 ネプテューヌが非難がましい声を出し、イストワールはバツが悪そうに視線を逸らすのだた。

 

  *  *  *

 

 場所は変わってここはシェアクリスタルが安置されている部屋。

 

「見てください、これを!」

 

 イストワールが声を上げる。

 すると、ネプテューヌとネプギア、それにさっきの球体がジッとその小さな体を見つめる。

 ちなみにこの球体は、オプティマス考案の通信装置で、速やかに連絡をとるための、いわゆる直通回線の役割を果たす。だが今は、もっぱらネプテューヌたちとオートボットたちの雑談に使われている。

 さっき破壊されたが、損傷軽微だったらしく、ネプギアが直したのだ。

 それはともかく……

 

「シェアクリスタルを見てください!」

 

 イストワールが大声を出した。

 その声にネプテューヌとネプギアは慌てて姿勢を正し、通信装置は二人の頭上で静止する。

 

「シェアクリスタルがどうかしたんですか?」

 

「クリスタルに集まる我が国のシェアエナジーが、最近下降傾向にあるんです!」

 

 ネプギアの疑問に、イストワールは厳しい声で答えた。

 しかし、一番焦るべきネプテューヌは呑気な態度を崩さない。

 

「まだたくさんあるんでしょー、心配することなくなーい?」

 

「なくないです!! シェアの源が何かご存知でしょう!」

 

 その態度に、イストワールは腹を立てる。

 

『確か、国民が女神を信じる心、だったか』

 

 通信装置から、オプティマスの顔の映像が投射される。

 映像のオプティマスの言葉にイストワールは大きく頷いた。

 

「そうです! この下降傾向は、国民の心がネプテューヌさんから少しずつ離れている、と言うことなんです!」

 

『なるほど、確かにそれは一大事だ』

 

 オプティマスは事態を察し、深刻な顔になる。

 

「ええー、嫌われるようなことした覚えないよ~」

 

 ネプテューヌが不満そうに言うと、隣のネプギアがボソッと呟く。

 

「最近、オプティマスさんたちに頼りっきりだから……」

 

 その言葉に、ネプテューヌが「うっ……」と言葉を失い、当のオプティマスは意味が分からないらしく首を傾げている。

 

「そう! そうなんです!」

 

 イストワールが力説を始めた。

 

「いいですか! 女神のお仕事を手伝ってくれると言うオプティマスさんの申し出は非常にありがたいものでした! しかし! しかしです!」

 

 小さな拳をプルプルと震わせ言葉を続ける。

 

「ネプテューヌさんときたら、オプティマスさんにほとんどの仕事を押し付けて、自分は遊んでばっかり! おかげで、国民の信頼はいまやオプティマスさんに寄せられているんです!」

 

 その言葉に、ネプテューヌは「アチャ~」と後頭部を掻き、ネプギアは苦笑し、オプティマスはオプティックを丸くする。

 そうなのである。住む場所とエネルギーの対価として女神の仕事を手伝い始めたオプティマスたちオートボット。彼らは優秀だった。

 特にオプティマスはこの仕事に乗り気であり、生来真面目で正義感が強いこともあって、東にモンスターが現れば退治しに行き、西に困っている人があれば不満一つこぼさず助けに行く。

 これに味を占めたのが、グータラ世界チャンピョンことネプテューヌだ。

 最初は少しずつ自分の仕事をオプティマスにやってもらっていたのだが、気付けば大部分の仕事を、この優秀で人のいい司令官に押し付けていたのである。

 かくして、人々はオートボット総司令官オプティマス・プライムに尊敬と感謝……そして信仰に似た感情を寄せるようになったのだ。

 結果としてネプテューヌのシェアが目減りしているわけである。

 

「しかたないよねー。オプっちがプラネテューヌに受け入れられた結果だもんねー」

 

 悪びれもせずネプテューヌは言ってのける。

 

「しかたないわけないでしょう! もう少し危機感を持ってください!」

 

「うん、少しのんびりしすぎかも……」

 

 イストワールが腕を振り上げ、ネプギアもさすがに厳しい言葉を出す。

 シェアエナジーは女神の力の源、減り続ければいつか女神は力を失ってしまう。

 イストワールの剣幕とネプギアの言葉にたじろぐネプテューヌ。

 

「二人の言うとおりでしょ」

 

 と、後ろから声がかかった。

 

「すいませんイストワール様、話が聞こえたもので」

 

 それはネプテューヌの親友、諜報員のアイエフだ。隣にはコンパもいる。

 

「アイエフさんとコンパさんなら別に……」

 

「あいちゃんまで~、いーすんの味方すんのー?」

 

 イストワールは歓迎するが、ネプテューヌは不満そうな声だ。

 

「こんぱは違うよねー?」

 

 そしてもう一人の親友に助けを求める。

 

「ねぷねぷ、これ見るです」

 

 しかし、コンパはそう言って一枚のチラシを差し出した。

 ネプテューヌはそれに書かれた一番大きな文字を読む。

 

「え? 女神、いらない?」

 

「な!?」

 

 イストワールがショックを受ける。

 そのチラシには反女神思想とでも言うべき言葉が列挙されていた。

 

「こういう人たちにねぷねぷのこと分かってもらうためには…… もっとお仕事がんばらないとです」

 

 コンパの笑顔と言葉は静かだが、妙な迫力があった。

 

『まあ、このビラを配ってた団体は、リーダーが失踪したとかで問題にならないでしょうけどね』

 

『だが、こういう意見が多くなるのは危険な兆候だな』

 

 通信装置がオプティマスの映像の両脇に、別のトランスフォーマーの映像を映す。

 それは偵察員のアーシーと、軍医ラチェットだ。

 馬が合うのか二人はアイエフ、コンパと行動を共にしていることが多い。

 さらにもう一つ別の映像が現れる。バンブルビーだ。

 

『『真面目が』『一番』』

 

 オートボットまでもが自分に敵となった状況で、ネプテューヌは声を上げる。

 

「おお!? これぞ四面楚歌! 私大ピンチ!」

 

「ピンチなのはこの国です!」

 

 イストワールの怒りは収まらない。

 まずい、このままではお説教コースだと察したネプテューヌは、味方はいないかと辺りを見回す。

 そしてさっきから黙っているオプティマスが目に入った。

 

『なんということだ……』

 

 オプティマスの様子がおかしい。

 

「お、オプっち?」

 

『まさか、私のせいでこんなことになっていたとは……』

 

 オプティマスは弱々しい声を出す。

 その様子に何事かと一同の注目が集まる。

 

『私が良かれと思ってやったことが、結果的にネプテューヌを苦しめることになるとは…… すまないネプテューヌ!』

 

 オプティマスは思いつめた様子で言葉を出す。

 その姿にネプテューヌは冷や汗を垂らした。

 

「え、ええと、オプっち? そんなマジにならなくても……」

 

『いや! これでは恩を仇で返したようなものだ! こんなことでは総司令官失格だ……』

 

 落ち込むオプティマスを見て、さすがにネプテューヌにも罪悪感が芽生える。

 

『ああ~、オプティマス? こういう場合、君に責任はないと思うんだが』

 

『そうね、責任はネプテューヌにあるわ』

 

『『酷い女!』『ネプテューヌ』『って最低のクズよ!』』

 

 ラチェットとアーシー、バンブルビーが、自分たちの司令官を慰める。

 

「あ、あの、さすがに最低のクズは言い過ぎなんじゃないかな~って……」

 

 ネプテューヌが、罪悪感に苛まれつつも小さく突っ込むが、

 

「否定できないでしょ」

 

「ねぷねぷ…… ひどいです……」

 

「ごめんお姉ちゃん、フォローしきれない……」

 

 アイエフは半眼でネプテューヌを睨み、コンパは涙目になり、妹までもが首をゆっくりと横に振る。

 気が付けばオプティマスを除く全員が非難の視線を浴びせてくる。

 ネプテューヌは四面楚歌(笑)からガチ四面楚歌に追い込まれていた。

 

「ええっと……」

 

「ネプテューヌさん?」

 

 イストワールがネプテューヌに話しかける。

 その声は異様に優しかった。

 

「お仕事、しましょうね?」

 

「……………はい」

 

 かくして、正義は勝ったのである。

 

  *  *  *

 

「ねえ、よく分からないんだけど」

 

 そしてここがモンダイノ谷……じゃなかった、ラステイションの教会の執務室である。

 

「どうして、お隣の国の女神が私のところの教会にいるのかしら!?」

 

 ラステイションの女神、ノワールは顔を引きつらせる。

 

「いやー、それがさ」

 

 それに対し、ネプテューヌは困ったような顔で答えた。

 つまるところ、マジギレしたイストワールがネプテューヌの根性を叩き直すべく、いっぺん他国の女神に女神としての心得を聞いてこい! と命令したのである。

 お願いではない、命令だ。

 そんなわけでネプギアと、監視役としてアイエフとコンパが同行し、このラステイションを訪れたのである。

 さらには、「他の国を見学するいい機会だから」ということで、オプティマスらオートボットたちも付いて来た。もちろん、オートボット基地ラステイション支部である赤レンガ倉庫で待機している。

 

「ごめんなさい、ノワールさん……」

 

 ノワールに対して悪びれない姉に代わり、ネプギアが謝る。

 

「悪いけど、お断りよ。私、敵に塩を送る気はないから」

 

 バッサリとノワールは言い切る。

 

「ああ~! 敵は違うでしょー、友好条約結んだんだしー、前に『なにかあったら、私を頼りなさいよ』って言ってたじゃん」

 

「あ、あれは、あくまでも緊急事態的なあれで、ふ、普段はシェアを奪いあうことに変わりはないんだから、敵よ!」

 

 かつてのことを掘り返すネプテューヌに、ノワールは顔を赤くして反論する。

 

「んもう、そういう可愛くない……こともないけど、捻くれたこと言うから、『友達いなーい』とか言われちゃうんだよー」

 

「なッ!? と、友達ならいるわよ!」

 

 ネプテューヌの言葉に、ノワールは声を荒げる。

 

「へえー、誰? どこの何さん?」

 

「え!? そ、それは…… えと……」

 

 さらなるネプテューヌの追撃に、ノワールは言葉に詰まる。

 アイアンハイドとは和解したが、友達というよりは仲間だ。

 あの幼稚園の園長とは、あれ以来時々お茶を飲む仲だが、友達とは言いづらい。

 園児たちには懐かれてると思うが、いかんせん幼すぎる。

 

「お姉ちゃん、この書類終わったよ」

 

 そこにノワールの妹、ユニが執務室に入って来た。書類の束を抱えている。

 その横には、プラネタワーにあったのと同じ、羽とカメラを備えた球体状の通信装置が浮遊している。ただし、色は黒だ。

 

「あ、ユニ。お疲れ様、そこに置いといて」

 

 ノワールが言うとユニは頬を染める。

 

「あ、あのね、今回早かったでしょう? アタシ、結構がんばって……」

 

「そうね、いつも助かるわ。ありがとう、ユニ」

 

 ノワールは微笑みを浮かべて妹をねぎらう。

 ユニは照れた様子で「えへへ」と笑うのだった。

 そんな姉妹を見て微妙に空気の読めないネプテューヌが声を上げる。

 

「あー! もしかして友達ってユニちゃんのこと!? 妹は友達って言わないんじゃないかなー?」

 

 その言葉にノワールは顔をしかめる。

 

「違うわよ! ちゃんと、他に……」

 

「ホントかなー? とか言って、ボッチなんじゃないのー?」

 

「そんなことないから!」

 

 言い合う紫と黒の女神。

 

『よく、分かんねえんだけどよ』

 

 と、通信装置からアイアンハイドの画像が投射される。

 

『ノワールとネプテューヌの嬢ちゃんは友達じゃないのか?』

 

 その言葉に、当人たちは顔を見合わせる。

 

「えっと、そう……かな?」

 

「そ、そう言う見方もあるかもね」

 

 ネプテューヌとノワールはお互いに顔を赤くした。ズバリ言われると恥ずかしいものなのだ。

 

『もし、そうじゃないならだ。ネプテューヌの嬢ちゃん、良ければノワールの友達になってやってくんねえか?』

 

「はいぃ!? アイアンハイド! あなた何言って……」

 

 黒いオートボットの突然の言葉に、ノワールは声が裏返る。

 

『いやなに、なんせノワールときたら、息の抜き方ってもんを知らねえ。前よりマシにはなったが、心配でな』

 

 アイアンハイドは少し苦笑しながら言葉を続ける。

 

『そんなわけでだ、良ければこれからも、ちょくちょく遊びに来たりノワールを誘ってやってくれや』

 

「あ、アイアンハイドおおお……!」

 

 ノワールが低く唸るような声を出す。気のせいか涙目である。

 

「あなた、よくもそんなお節介を……」

 

『なんだよ、俺はおまえさんのことを思って言ってんだぞ。おまえさんときたら寝言で、友達ほしい、友達ほしいって……』

 

「それを言うなああッ!」

 

 余計なお節介を焼かれた上、ボッチ確定までされてノワールは真っ赤になり、もはや涙を隠そうともせず通信装置に掴みかかる。

 

『お、おい! 壊れちまうだろ!』

 

「うるさいうるさいうるさい!!」

 

 ノワールは無理やり通信装置の電源を切った。

 

「ハアッ…… ハアッ…… あなたたち!」

 

 そしてなりゆきを唖然と見守っていた一同(実妹含む)を睨む。

 

「このことは忘れなさい! お願い、忘れて!」

 

 その必死な態度に、一同はコクコクと頷くしかないのであった。

 

「あはは……」

 

「ねえ、ネプギア」

 

 苦笑していたネプギアの横に、ユニがやって来た。

 

「少し、付き合ってくれない?」

 

  *  *  *

 

「あ~あ、まったく乱暴な奴だぜ」

 

 アイアンハイドは突然切れた通信に、一つ排気する。

 

「いや、君も悪いと思うよ」

 

 そんな同僚にラチェットが突っ込みを入れる。

 ここはオートボットのラステイション基地。赤レンガ倉庫である。

 

「デリカシーに欠ける言葉だったのは確かね」

 

 アーシーもやれやれと首を横に振る。

 

「しかし、随分打ち解けたようじゃないか」

 

 オプティマスは腕を組みながら言った。

 その言葉にラチェットとアーシーも頷く。

 

「まあ、いろいろとあったからな」

 

「なるほどな」

 

 アイアンハイドは照れたように小さく笑い、オートボットたちは笑いあった。

 バンブルビーも電子音を出し笑っていたが、そんな中で険しい顔をしてその場を離れる男に気が付いた。

 それは、サイドスワイプだった。

 

  *  *  *

 

 取りあえず、姉のことはアイエフとコンパに任せて、ネプギアはユニに付き合うことにした。

 二人は教会を出て、歩きながら会話する。

 

「サイドスワイプさんの様子がおかしい?」

 

 ネプギアの言葉にユニは頷く。

 

「このまえの騒動以来、なんだかよそよそしいって言うか……」

 

「うーん…… どうしたんだろう?」

 

 そのまま話ながら、ユニのお気に入りの場所である自然公園の東屋に近づいてきた。

 だがそこにはすでに先客がいた。

 それは……

 

「サイドスワイプ?」

 

「ビーも?」

 

 それは二人の若きオートボットだった。

 

「ビ……」

 

「ネプギア、シィッ!」

 

 駆け寄ろうとするネプギアを、ユニが制した。

 オートボット二人は東屋の横に立ち、なにやら話している。

 

「『それで』『どうしたのさ?』ユ…ニ『と何かあった?』」

 

「……『アイアンハイドに免じて』なんだと」

 

「『はあ?』」

 

 バンブルビーの問いに、サイドスワイプは曖昧に答え、言葉を続ける。

 

「この前の一件で、ユニに信じてほしいって言ってな。その時あいつが言ったのが、それさ。ユニが信用してるのは、俺じゃなくてアイアンハイドだって話だ」

 

「『あ~……』『でも』『考えすぎでない?』」

 

「もちろん、ユニにそんなつもりはなかったんだろう。だから、これは俺の気持ちの問題だ」

 

 サイドスワイプは真面目な顔でバンブルビーを見た。

 

「俺は、あいつに信頼されるに足る戦士になりたい」

 

 静かだがはっきりと、若き戦士は宣言する。

 二人のオートボットは二人の女神候補生がそっとその場を離れたことには気づかなかった。

 

「『しかし』『君』『あれだね』」

 

 バンブルビーは、何かイタズラを思いついたような顔でサイドスワイプを見た。

 

「ユ…ニ『に惚れてんの?』」

 

「…………なッ!?」

 

 サイドスワイプは一瞬ポカンとした後、慌てて声を出す。

 

「なに馬鹿なこと言ってんだ!? 有り得ねえだろ!」

 

「『え~』『だって』」

 

「あのな、バンブルビー」

 

 年下の黄色い情報員に、銀の戦士は諭すよう口調で言う。

 

「いいか? 俺は金属生命体、ユニは有機生命体だ。惚れるなんておかしいだろ」

 

 一応、第四の壁の向こうの皆さま方に断っておくと、金属生命体が有機生命体に惚れると言うのは、例えば人間がトランスフォーマーに恋愛感情を抱くようなもので、トランスフォーマーの価値観的にかなり異常なことなのである。

 

「『そうかな~』『割といそうだけど』」

 

「とにかく、ないんだよ!」

 

「『フラグ』『ですね、分かります』」

 

 バンブルビーとサイドスワイプはギャーギャーと大人げなく言い合う。

 二人は(トランスフォーマー的には)まだ若者なのであった。

 

  *  *  *

 

「今回のモンスター退治は二ヶ所、ナスーネ高原と近くのトゥルーネ洞窟、どっちも難易度はそう高くはない……」

 

 どこかの森の中、ノワールは国民から寄せられた依頼の内容を説明しながら歩いていく。

 あの後ネプテューヌに女神の心得その一として、書類整理をネプテューヌにやらせてみたのだが、彼女は書類を片づけるどころか散らかす始末だった。

 結局、アイエフの提案により、モンスター退治の依頼をこなしながら女神の心得を教えていく、ということになったのである。

 プラネテューヌとの国境付近なので、そのままお帰りいただく腹なのは明らかだ。

 だが、

 

「お姉ちゃん……」

 

 ユニがオズオズと声を出す。

 

「なに?」

 

「誰も聞いてない……」

 

「えッ!?」

 

 ノワールはその言葉に後ろを振り返る。

 

「疲れたですぅ」

 

「コンパ、大丈夫?」

 

 コンパは倒木に腰かけて休憩し、アイエフはそれを気遣う。

 

「ふむ、水分を補給したほうが良さそうだな」

 

「そうね、私ならビークルモードになれそうだから、乗ってく?」

 

 ラチェットが医者としてコンパを診断し、アーシーは自分に乗るように促す。

 

「大丈夫ですよ! ちょっと疲れただけです」

 

「そう、無理はしないでね」

 

 笑うコンパに、アイエフは少し心配そうだ。

 一方、アーシーは悪戯っぽく笑う。

 

「残念だったわね、アイエフ。せっかく二人乗りで密着するチャンスだったのに」

 

「うえッ!? アーシー、何言ってるの!」

 

「?」

 

 からかわれて、顔を赤くするアイエフに、コンパは首を傾げる。

 そんなコンパを見てラチェットは、自覚がないのも大変だな、などと考えるのだった。

 

「おおー! これは有名な裏から見ると読めない看板!」

 

「ほう、そんなに珍しい物なのか」

 

 そして何の変哲もない野立て看板に大袈裟に驚いてみせるネプテューヌと、それを真面目に受け取るオプティマス。

 

「お姉ちゃん、看板って基本そうだよ……」

 

「『司令官』『も』『真に受けないで……』」

 

 それに突っ込むネプギアとバンブルビー。

 見事に誰もノワールの話を聞いていなかった。

 ちなみにオートボットたちは森の中ということもあって、全員ロボットモードである。

 

 

「ああー…… 俺は聞いてるぜ」

 

「俺も」

 

 アイアンハイドとサイドスワイプが声を出すが、焼け石に水である。

 

「ちょっとおッ!!」

 

 ノワールは怒り心頭で大声を出すのだった。

 

  *  *  *

 

「いいッ!?」

 

「ペース落ちてる!」

 

 そんなこんなで、ネプテューヌはノワールに木の枝で突っつかれながら歩くハメになったのである。

 

「もう、ノワールったら真面目なんだからー」

 

「悪い?」

 

 あくまで茶化すようななネプテューヌに、ノワールは真面目に返す。

 

「いっつもそれだと、疲れちゃわない?」

 

「疲れるくらいなんてことないわ、私はもっともっといい国をつくりたいの。私を信じてくれる人たちのためにもね」

 

 ノワールの言葉は、それこそ真面目なものだった。

 

「そりゃあ、わたしもいい国つくりたいけど…… 楽しいほうがいいかな?」

 

「あなたは楽しみ過ぎなの!」

 

 ネプテューヌの言葉にノワールは呆れたように言った。

 そんな二人を見て、ラチェットが声を出す。

 

「ふむ、不真面目なネプテューヌに、真面目過ぎるノワールと言ったところか」

 

「二人を足して二で割ったら調度いいかもね」

 

 アーシーも苦笑しながら返す。

 

「だからこそ俺としちゃ、ノワールの友達になってほしいんだけどな」

 

 アイアンハイドがヤレヤレと首を横に振る。

 

「まあ、心配はいらないだろう。二人はもう友のようだからな」

 

 オプティマスはあくまでも真面目に言った。

 総司令官のその言葉に、オートボット一同は苦笑する。

 最近気づいたことだが、この総司令官、平時はかなりの天然である。

 果てしない戦いに身を置いていたころは分からなかった、オプティマス・プライムの意外(?)な一面だ。

 

 と、すぐ先で森が途切れ、そちらから歓声のような声が聞こえてくる。

 それを聞いて、ノワールが先頭に進み出た。

 森の外には、集落が広がっていた。

 

「キャー、女神様よ!」

 

「ブラックハート様だわ!」

 

 村人たちは歓喜の声を上げ、手を振っている。

 それに混じって、

 

「すごい! オプティマス総司令官だ!」

 

「バンブルビー、かわいいよバンブルビー!」

 

 と言った声が、主に子供を中心に聞こえてくる。

 ノワールはそれに手を振りかえしていたが、ハッとする。

 

「いけない! アクセス!」

 

 するとノワールの身体が光に包まれ、女神の姿へと変わる。

 

「ええー!? 変身今やっちゃうー!?」

 

 その姿を見てネプテューヌが驚きの声を上げた。

 

「女神の心得その二、国民には威厳を感じさせることよ」

 

「ま、ほどほどにな」

 

 ノワールの言葉に、アイアンハイドが付け加える。

 

「はいはい。……みなさん、モンスターについて聞かせてくれるかしら」

 

 穏やかな声でそう言うと、ノワールは集落に向かって飛んで行った。

 

「目の前で変身しても威厳とかなくね?」

 

 ネプテューヌは少し呆れたように言うのだった。

 

  *  *  *

 

「ここがナスーネ高原ね」

 

「ええ、スライヌが大量発生して困っているのですわ」

 

 ノワールは村人から説明を受けていた。

 その言葉のとおり、のどかな高原地帯といった風情の景色のあちこちに水色の国民的なあのキャラクターと犬をミックスしたようなモンスター、スライヌの姿が見える。

 

「では、さっそく仕事にかかろう」

 

「へッ! キャノン砲を味わわせてやるぜ!」

 

「ぶちのめしてやるのは気分がいいからな!」

 

「『ヒャッハー!』『討伐』『だー!』」

 

「ふふふ、おしおきよ!」

 

「何匹か、サンプルとして持って帰っていいかね?」

 

 やる気というか、殺る気満々で各々の武器を展開するオートボットたち。

 気のせいかスライヌたちがビビッている。村人たちも少しビビってる。子供たちは目を輝かせている。

 

「ちょっと待ちなさい!」

 

 それを止めたのはノワールだ。

 

「今回はあなたたちは見学! 手を出さないでちょうだい!」

 

 その言葉に、オートボットたちと子供たちから「ええー!?」という声が上がる。

 それを諌めたのはアイアンハイドだ。

 

「まあ、ここはノワールに任せてくれや」

 

「チェッ! アイアンハイドはノワールには甘いよなー……ぐはッ!」

 

 サイドスワイプが不平を漏らし、アイアンハイドにぶん殴られる。

 ノワールは咳払いをしてしきりなおす。

 

「コホン! ……分かりました。お隣の国のネプテューヌさんとネプギアさんが対処してくれるそうです」

 

「ねぷう!? この流れでいきなり振る!?」

 

「私たちがやるんですか?」

 

 紫の姉妹が驚きの声を上げる。

 それに対し、黒の女神はニッと笑う。

 

「心得その三、活躍をアピールすべし」

 

「ふむ、そうだな、ここは二人に任せよう」

 

 そんな様子を見てオプティマスは何かを察したらしく、まだ不満げな部下たちを諌める。

 ネプテューヌもようやく観念したらしい。

 

「オプっちが言うんなら分かったよ…… ま、スライヌくらいヒノキの棒でも倒せるもんね!」

 

 そう言って、軽快な動きでスライヌの群れの前に降り立ち、自分の武器である刀を呼び出す。

 

「やっちゃおうか! ネプギア!」

 

「うん! お姉ちゃん!」

 

 姉に呼ばれ、ネプギアもビームソードを呼び出す。

 二人はスライヌに向け駆け出していく。

 先陣を切ったのはネプテューヌだ。

 

「てえええ!」

 

 刀を縦一閃、スライヌを切り裂く。

 続いてネプギアが切り上げる。

 

「はあああ!」

 

 真っ二つになり、スライヌは粒子へと還った。

 

「さすがネプギア、我が妹よ!」

 

 二人の前にスライヌは次々と倒されていく。

 そんな二人を、ユニはネプギアのエヌギアで広報用に写真撮影していた。

 これなら…… と姉のほうを見るが、ノワールは険しい顔だ。

 

「数が多すぎるわね……」

 

「わたしたちも手伝うです、あいちゃん!」

 

「……そうね!」

 

 そこで、アイエフとコンパも武器を呼び出し駆け出す。

 アイエフの武器はカタール。コンパの武器は巨大な注射器だ。

 

「あいちゃん! こんぱ!」

 

 親友の参戦にネプテューヌが喜ぶ横で、アイエフがカタールでスライヌを切り裂き、コンパが注射器を突き刺す。

 

「まさに百人力、勝ったも同然!」

 

 ネプテューヌがそう叫んだ瞬間、どこからか大量のスライヌが現れ四人を取り囲む。

 それを見て、不安げな声を出すユニ。

 

「お姉ちゃん、アタシたちも助けてあげたほうが……」

 

「ダメよ」

 

 ノワールはピシャリと言った。

 

「ここはあの娘たちだけでやることに意味があるの」

 

 そんな会話をしている間にも、スライヌはネプテューヌたちに群がる。

 

「ひゃあ!? 変なとこさわるな!」

 

「気持ち悪いです~!」

 

 アイエフとコンパが思わず声を上げる。

 

「そんなとこ入ってきちゃダメえ!」

 

「あははは! くすぐったい! 笑い死ぬ! 助けて~!」

 

 ネプギアとネプテューヌが悲鳴を上げた。

 何を思ったのかスライヌたちは、服の中に入り込み、その身体をペロペロと舐めている。

 結果、その、何と言うか、非常に教育上よろしくない光景が展開されていた。

 

「見てられないわね!」

 

「『ヒャッハー』『皆殺しだー!』」

 

 アーシーとバンブルビーが、武器を展開して飛び出していく。

 

「お、おい」

 

 サイドスワイプが呼び止めるが二人は聞かない。

 ブラスターとエナジーボウで、スライヌを駆逐していく。

 そんな若い衆を見てラチェットが苦笑する。

 

「ふむ、若いね、オプティマス、ここは彼らを許してやろう」

 

「……まあ、仕方がないか」

 

 オプティマスも小さく排気してそれを認める。

 

「なら…… サイドスワイプ、おまえも行っていいぞ」

 

「まじで!」

 

 アイアンハイドの言葉にサイドスワイプが喜び、答えを聞く前にスライヌの群れ……もう半分以下に減っていた……に突っ込んでいった。

 

「まったく」

 

 アイアンハイドはしみじみと呟いた。

 

「若いね」

 

 それは、苦々しげなノワールにも向けられた言葉だったが、当のノワールは気づかなかった。

 

  *  *  *

 

 そんなわけでオートボットの参戦と、途中でアイエフがキレたこともあって、スライヌの群れはあっさりと壊滅した。

 ネプテューヌ、ネプギア、コンパの三人は疲労困憊といった様子で倒れ込み、アイエフも肩で息をしている。

 

「『大丈夫?』『セクハラ野郎は』『駆逐』『したよ』」

 

 息も絶え絶えなネプギアに、バンブルビーが声をかける。

 

「うん、大丈夫。ありがとう、ビー」

 

 なんとか笑って答えるネプギアだった。

 

「やれやれ、みんな怪我はないようだね」

 

 ラチェットが、一同をスキャンして報告する。

 

「ううう、しばらくゼリーとか肉まんは見たくない……」

 

 ネプテューヌが上半身を起こすと、ノワールが近くにやって来た。明らかに不機嫌そうだ。

 

「どうして女神化しないの! 変身すればスライヌくらい!」

 

「まあ、ほら、なんとかなったし……」

 

 呑気なネプテューヌに、ノワールは眉を吊り上げる。

 

「他の人になんとかしてもらったんでしょう! 自分でできることは自分でする! そんなんだからシェアが……」

 

 ノワールの厳しい言葉に、ネプテューヌは居心地が悪そうに視線を逸らした。

 

「精々休んどきなさい! 後は私たちでやるから!」

 

 そう言うと、ノワールは村人の一人のほうを向いた。

 

「トゥルーネ洞窟に案内して! アイアンハイド、あなたも来て!」

 

「おう、それなんだがよ」

 

 アイアンハイドは気楽そうに言葉を返す。

 

「そのトゥルーネ洞窟ってのは『洞窟』なんだろ。俺の砲撃で崩れたらいけねえ、ここは接近戦が得意な奴を連れてけよ」

 

「それもそうか。それじゃあ……」

 

 ノワールはアイアンハイドの意見をあっさりと受け入れ、オートボットを見回す。

 

「では、私が行こう」

 

 名乗り出たのはオプティマスだ。

 彼の実力は折り紙つき、ノワールとしても不満はない。

 

「まあ、いいわ。ユニはネプギアたちを介抱してあげて」

 

「う、うん」

 

 姉の言葉に、ユニは頷く。

 オートボットの総司令官とラステイションの女神は、並んで歩いていった。

 

  *  *  *

 

 そしてトゥルーネ洞窟。

 鉱石の結晶があちこちに露出した美しい景観の洞窟で、天井は高くオプティマスの巨体でも楽々入ることができた。

 二人はモンスターを退治しながら洞窟を進んでいく。

 

「……君は優しいな」

 

 一息ついたところでオプティマスはフッと微笑んだ。

 

「なんのことよ」

 

 ノワールは視線を合わせず、そっぽを向く。

 

「この辺りでネプテューヌが活躍すれば、噂は国境越しにプラネテューヌに伝わる。そうすれば彼女はシェアを回復できる。違うかな?」

 

「……そう言うあなたは、ネプテューヌのことを甘やかし過ぎよ」

 

 オプティマスの言葉に答えず、ノワールは自分の考えを述べる。

 

「ああいうタイプは、ほっとくと怠け続けるんだから、注意なさい」

 

「善処しよう」

 

 オプティマスは微笑んで、ノワールはツンとして洞窟を進んでいく。

 しかしすぐに行き止まりにぶち当たった。

 

「行き止まりか…… 打ち止めね」

 

「いや、そうでもないようだ」

 

 引き返そうとするノワールを何者かの気配に気が付いたオプティマスが止める。

 そしてそこには低いうなり声を上げる巨大な竜が出現していた。

 

「エンシェントドラゴン……」

 

「ここの主か、……どうやら一体だけではないようだ」

 

 オプティマスの音場のとおり、二人の後方にも同じエンシェントドラゴンが現れる。

 

「挟み撃ちってわけね。そっちは任せたわ!」

 

「無理はするなよ」

 

 オプティマスとノワールはそれぞれ巨竜に向き合い、武器を構える。

 そして、ノワールが相対した竜が太い腕をノワール目掛けて振り下ろしたのを合図に戦いが始まった。

 オプティマスはエンシェントドラゴンが腕を振るうより早く、エナジーブレードを振るい巨竜の腕を斬り落とす。

 さらに激痛に咆哮する竜の首を素早く片腕でホールドし、口腔にエナジーブレードを突っ込む。

 超高温の刃がエンシェントドラゴンの上顎を、頭蓋を、脳髄を貫き破壊する。

 巨竜は一瞬にして絶命し、粒子に分解された。

 一方のノワールは振るわれる巨竜の腕をかわし、その懐へと飛び込み頭に斬りかかる。

 

「もらった!」

 

 だが、その瞬間別の小さなモンスターがノワールの不意を突きタックルした。

 

「ぐはッ!」

 

 小さいながらもパワフルなその一撃はノワールの身体を吹き飛ばし、地面に叩き付ける。

 それでもすぐさま立ち上がろうとするが、その時である!

 ノワールが体から力が抜けるのを感じたのも束の間、女神化が解けてしまった。

 

「え、あ……」

 

 ノワールの頭を疑問が支配し、体が硬直する。

 それを巨竜が見逃すはずもなく、ノワールに止めを刺すべく腕を振るう。

 しかし、だが竜の腕がノワールに届くことはなかった。

 後ろからオプティマスがエナジーブレードで斬りかかり、エンシェントドラゴンの頭蓋を両断する。

 エンシェントドラゴンは断末魔の声を響かせる間もなく粒子に分解された。

 そのとき、やけになったのか仲間の敵討ちなのか、ノワール目掛けてさっきの小モンスターが突っ込んできた。

 虚を突かれたノワールは反応が遅れるが、

 

「どっせええいッ!!」

 

 声とともに小モンスターに飛び蹴りを喰らわせる者がいた。

 ネプテューヌである。

 

「やっほーい!」

 

「あ、あなた……」

 

 綺麗に着地したネプテューヌは、吹き飛ばされて地面に転がるモンスターから目を離さずに、ノワールに声をかける。

 

「あれ? なんで変身戻ってんの?」

 

「分かんないけど、突然……ネプテューヌ!」

 

 小モンスターはネプテューヌに突進してくる。

 

「ノワール、変身ってのはここぞって時に使う物なんだよ……って」

 

 しかしネプテューヌは呑気な態度を崩さない。

 なぜなら、小モンスターの運命はもう、決定しているから。

 小モンスターは横合いから現れたオプティマスの拳に弾き飛ばされ粒子に分解する。

 

「変身する前に終わっちゃってるし」

 

 ネプテューヌはちょっと困ったように笑みを浮かべた。

 

「やっぱ出し惜しみはダメかー。今回いいとこなかったもんねー」

 

 その言葉にオプティマスは頷く。

 

「そうだな、常に全力を出すよう心掛けるのも大事だ」

 

「でもそれだと、エンターテイメント性がなー」

 

 呑気な会話をするオプティマスとネプテューヌに、自然と苦笑が漏れるノワールだった。

 

  *  *  *

 

「ブラックハート様とパープルハート様が!」

 

「ハイパー合体魔法で、モンスターを倒してくださったわ!」

 

「「「「「ばんざーい! ばんざーい!」」」」」

 

 洞窟の外に出た一同を待っていたのは、こんな歓声だった。

 

「なんか、話作られちゃってね?」

 

 ネプテューヌは苦笑混じりに言うが、これに乗ってきたのが、なんとオプティマスだ。

 

「うむ、あれは見事だった。私など何もする暇がなかったほどだ」

 

「ねぷう!?」

 

 当然とばかりに村人たちの歓声に同意するオプティマスにネプテューヌは驚く。

 オプティマスは口に人差し指をあて、悪戯っぽい笑みを浮かべた。

 その姿にネプテューヌは苦笑を大きくする。

 一方ノワールは、どうして変身が解けたのかを考えていたが、答えは出なかった。

 

 ちなみにこの後、プラネテューヌのシェアは回復を見せるのだが、それはネプギアのきわどい写真のおかげだと判明し、オートボット一同何とも言えない顔をすることになるのだった。

 

  *  *  *

 

 そんなネプテューヌたちとオートボットの姿を遠目に盗み見ている影があった。

 

「フッフッフッ、洞窟のモンスターを一掃してくれたか」

 

 一つはローブで顔を隠した黒衣の女性。

 

「これで、例のブツを心置きなく探せるっちゅね、ちゅっちゅっちゅっ」

 

 もう一つは、ネズミの姿をした小型モンスターだった。

 二つの影は不気味に笑い合う。

 

「あ、あの……」

 

 そこへ声をかける者がいた。

 青い髪を長く伸ばし、頭の角のような飾りと眼鏡が特徴的な気弱そうな女性だ。

 なぜかCDラジカセを抱えている。

 そしてその後ろにはいつの間にかパトカーが停車していた。

 

「貴様、警備兵か!」

 

 黒衣の女性が警戒心を露わにする。

 

「あ、あのですね、その、ええと……」

 

 眼鏡の女性はオズオズと口を開いた。

 

「ええい! はっきり言わんか!」

 

 その姿が気に障ったのか、黒衣の女性が語気を荒げる。

 

「ひいッ!? ごめんなさいごめんなさい!」

 

 その声に眼鏡の女性は畏縮してしまい、言葉を続けることが出来ない。

 

「年増がか弱いキャラアピールしたって、鬱陶しいだけっちゅねえ」

 

 さらに、ネズミも心無い言葉を浴びせる。

 黒衣の女性は不機嫌そうに息を吐いた。

 

「警備兵だとすれば、悪いがここで消えて……」

 

「おっと、そう言うわけにはいかねえな」

 

 さらに別の声が聞こえた。

 眼鏡の女性のものとは違う、明らかに男性の声だ。

 その声に黒衣の女性は警戒心を強くする。

 

「誰だ! どこにいる!」

 

「どこって、ここだよここ、アンタの目の前」

 

 そのとき、眼鏡の女性が抱えていたCDラジカセがギゴガゴと音を立てて、歪な人型に変形した。

 四つのオプティックと骨組みのような細長い体をしている。

 

「ぢゅッ!?」

 

「貴様、あのオートボットとか言う奴らの仲間か!?」

 

 その異形にネズミと黒衣の女性は驚くが、四つ目の異形はヤレヤレと首を振る。

 

「違えよ、その逆。ここまで言えば分かるだろ」

 

 黒衣の女性は思い当たったらしく、警戒を解かずに言葉を出した。

 

「そうか、あのディセプティコンとやらか」

 

「そう言うこと」

 

 四つ目の異形……フレンジーは表情など有り得ない顔でケタケタと笑って見せる。

 その異様な姿に、ネズミは体をブルッと震わせた。

 

「……それで? そのディセプティコンが私に何の用だ?」

 

 黒衣の女性はいつのまにか手に杖を呼び出し、フレンジーに突きつける。

 

「ひいッ!?」

 

 フレンジーではなく、眼鏡の女性……キセイジョウ・レイが青ざめた。

 異形の小型ディセプティコンは、さりげなくレイの前に立ち言葉を紡ぐ。

 

「なに、俺らのリーダーがアンタに、正確にはアンタの計画に興味がお有りなのさ。一緒に来てくんない?」

 

 その言葉に黒衣の女性はしばらく考える素振りを見せたが、やがて口を開いた。

 

「いいだろう」

 

 かくて悪は集う。

 




そんなわけで、やっと原作一話分を消化。
……本気で異種間恋愛、もしくはロボ×美少女っていうタグを入れようか悩んでたりします。
なんにせよ、まだまだ先は長いので、来年もよろしくお願いします。

では皆さん、良いお年を!

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